米国の連邦規則「21st Century Cures Act」では、患者が自身の臨床情報への自由なアクセスができるように義務付けている。また一方、カリフォルニア州では「思春期患者のプライバシーを守るよう小児科医に対して守秘義務を求める」青少年保護法があり、子どもの精神状態・性活動・薬物使用といった個人的な機密情報を安易に親に漏らしてはならないとする。法解釈の難しさ以外にも、親に機密を知られたくない子どもと、病歴に関心と責任をもつ親との利益相反にどう対処するか。米スタンフォード大学のチームは、カルテ記録上の機密情報にフラグを立てるAIツールを開発し、医師が情報開示と守秘義務の両者を適切に履行できるよう支援するシステムの構築を目指す。
スタンフォード大学のAI研究所である「Human-Centered AI Institute(HAI)」のチームによるプロジェクトでは、12〜17歳の思春期患者における1,200件の臨床記録を用いて同ツールを開発した。データセット構築にあたっては、青少年保護法に関する専門教育を受けた医師5名がラベル付けしており、ここでは「記録の20%強に機密情報が含まれる」と推定されている。何をもって機密情報とするかは、5名の医師全員が同意するとは限らないため、研究チームではここから「法解釈上のグレーゾーン」を特定している。このデータセットから構築されたAIツールは、機密保持の関連法規に違反する恐れがあるフレーズ・文章・段落(記録例として、喫煙やマリファナ濫用、不安・抑うつ、ホルモン治療、妊娠歴など)にフラグを立て、リスクスコアを算出することができる。システムは現在、スタンフォード小児医療センターの小児科医らによって検証が進められている。
現時点では、モデルトレーニング用のデータセットが特定機関の臨床記録に基づくため、記録方法が病院ごとに異なることや、守秘義務に関する規則が州によって異なることには対応しない。一方、本プロジェクトの成果が、思春期の患者以外にも、中絶やHIV感染、薬物使用歴などにも転用できる可能性があるという。研究チームの1人であるNaveed Rabbani医師は「この研究を通して一番驚いたのは、機密保持の判断がいかに難しいかということだ。最高のケアと情報開示は、時に相反する目標となるが、そこでAIが役に立つこともある」と語っている。
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