匿名化医療データの再識別リスク

医療AI開発の成功の鍵は、良質な臨床データへのアクセスの可否にある。しかし、匿名化情報から個人を「再識別」されてしまうリスクは常に議論となり、データアクセスへの一定の障壁となってきた。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、「データ漏えいのリスクと比較し、患者匿名情報の再識別リスクが現状では極めて低い」とする研究成果を明らかにした。

PLOS Digital Healthに掲載された同研究では、2016年から2021年までの間に発表された論文やメディア報道を広範かつ仔細に調査したところ、患者個人が再特定された報告は1件も見つからなかったという。一方、同研究の調査範囲において、データ漏えいによって盗まれた健康記録は1億人近くにのぼる。この結果を受け、「患者プライバシーに対する潜在的リスクよりも、より良い診断と治療を受ける患者利益の方が大きく上回ることが示唆される」とチームは主張している。

著者でMITの主任研究員であるLeo Anthony Celi氏は「患者のプライバシーや再識別のリスクについて懸念するのは当然のことだ。しかし、そのリスクはゼロではないものの、サイバーセキュリティの問題に比べれば微々たるものと分かる。医学研究に参加する機会が少なかった少数派グループの代表性を高めるには、健康データの共有が広く行われることが必要だ。プライバシーを巡るこの手の議論をする際、少数派の声は聞かれていない。少数派のデータは保護される必要があり共有されるべきではない、と多数派の人々に判断されてしまっている。しかし、少数派は今まさに健康の危機に瀕し、データ共有で最も恩恵を受ける可能性が高い集団でもある」と語った

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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