英国民保健サービス(NHS)は高価値な患者データを大量保有し、AI時代のヘルスケア革命を主導する可能性が指摘されてきた(過去記事)。そのような情勢の中、NHSは2億5千万ポンド(約320億円)を費やして、国立のAI研究所を設立すると発表した。
BBCのインタビューに対して、保健大臣のMatt Hancock氏は「医療に対するAIの力は大きい。英国はこの技術で世界をリードするチャンスがある。AI研究所を通じてNHSは生命を救う識見を探究してゆく」と語った。NHSでの活用例に、ユニバーシティ・カレッジ病院(UCLH)が開発したAI「診療予約を逃す可能性の高い患者を予測して電話で通知するツール」がある。しかし、その一例もNHS全体で日常的に使用される段階には至っておらず、実用化の余地は多く残されている。
AIの利用拡大はNHSにとって挑戦すべき課題を増やすだろう。2017年、ロイヤル・フリー病院がGoogleのAI会社DeepMindと患者データ160万件を共有しているとして批判を受け、情報保護が不十分と裁定された。同じく2017年にNHSは受診予約を混乱させる大規模なサイバー攻撃に晒された。また、英国内の研究対象が白人中心に偏れば、訓練を受けたAIには多様性が不足する。保健大臣のHancock氏は「AIが適切に社会を反映することは極めて重要である」と特別に強調している。