「薬物過剰摂取による死亡」の予測モデル

米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国での「薬物過剰摂取による死」は1999年以降4倍と急速な増加を示している。また、近年の薬物過剰摂取による死の70%以上がオピオイドに関連し、違法に製造されたフェンタニル(合成オピオイドの一種。WHO式がん疼痛治療法の最終段階で用いられる強オピオイド)がこれの主要な因子として挙げられる。

米サンディエゴ州立大学やカリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームは、統計モデルを利用し、郡ごとに次年の「薬物過剰摂取による死亡」を予測できるとする研究成果を公表した。論文はLancet Public Healthから、オープンアクセスとして公開されている。研究チームは2013年から2018までのCDCデータを利用し、郡特性と薬物過剰摂取による死亡との関連を記述する統計モデルを設計・トレーニングした。著者らは「過去1年間にのみ依存した単純なベンチマークと比較して、致命的な過剰摂取率が高い郡の予測に大幅な改善をもたらした」とする。

また、研究成果からは「隣接する郡での薬物過剰摂取の増加が、将来の過剰摂取増を強力に予測する事実」を明らかにしており、薬物過剰摂取の流行が地理的に波及する実態を浮き彫りにした。研究チームは現在、OD Predict Explorerと呼ばれるウェブアプリケーションを公開しており、ユーザーがこの予測モデルの有効性を個々に検証できる環境を提供する。今後、同ツールでのリアルタイム予測を実現し、公衆衛生学的政策立案に貢献したいとの意向を明らかにしている。

関連記事:

  1. 「薬物過剰摂取による死亡」の正確な時空間マッピング
  2. 出生前情報からAIで新生児薬物離脱症候群を予測
  3. AIが薬物乱用から若年ホームレスを救う
  4. 実験と機械学習モデルの融合 – 薬物送達システム研究へのAI利用
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事