野生動物の罹患率や死亡率の異常を早期に検出して、ヒトの新興感染症リスクの検知に活かそうとする公衆衛生学的な取り組みがある。米カリフォルニア大学デービス校の研究者らは、AIを用いて動物リハビリセンターへ入所する個体を分類する早期異常検出システムを試験している。
英国王立学会の学術誌 Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciencesに、同研究の成果が発表されている。早期検出システムには、カリフォルニア州内30の野生動物リハビリテーション団体で保護した動物に関する報告書(種類・年齢・入院理由・診断など)がリストアップされる。その報告書に自然言語処理を用いて分類し、特定の疾患や怪我に関する入院数のパターンを解析する。過去5年間で20万件以上の記録から「通常どれくらいの頻度」となるかについて基準が設定されており、これを超えた異常が検知されたときに専門家への警告が自動生成される。入所データが1~2日で処理されることで、個々の診断の確定よりも迅速に全体へのアラートが可能となるという。
1年間の試験で発せられた警告例として、痙攣症状の海鳥が貝由来のドウモイ酸中毒であったことや、ハトの神経症状が寄生虫Sarcocystis calchasiによるものと判明している。この早期警告システムがヒトの健康にも役立つ可能性として、ウエストナイル熱が一例として挙げられる。同疾患はアメリカ大陸では1999年以降に出現し、年間数千件の症例で致死率5~10%前後の人獣共通ウイルス感染症である。ウエストナイル熱は家畜や人間に感染する前に、鳥での流行が多いと考えられており、同種システムの活用でアウトブレイクが適切に事前検知されることが期待される。
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