有害な治療選択を回避させるAIシステム

医師向けの倫理的な格言として、「Do No Harm(まずは患者に害を与えないこと)」という言葉が繰り返し伝えられてきた。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)では、「患者に害をもたらす可能性のある医療処置に機械学習システムでフラグを立てる」研究が行われている。

12月6〜14日まで開催の学術会議 Conference on Neural Information Processing Systemsで発表された同研究では、「敗血症患者の集中治療において、患者の死につながる可能性のあるリスクの高い治療法を特定する機械学習モデル」が開発された(全文はarXiv参照)。敗血症では迅速な介入が救命につながるが、最適な治療法選択は難しいことでもあり、一例として重症敗血症の初期段階で大量の輸液が行われると患者の死亡リスクが高まることが指摘されている。CSAILの研究者らが開発したモデルを、敗血症患者のデータセットに適用したところ、死亡した患者に行われた治療の約12%が有害であったことが示された。また、死亡した患者の約3%はその48時間前までに医療的な死の淵(dead-end)に立たされていたことも明らかになった。DeD(Dead-end Discovery)と呼ばれる同システムでは、選択された治療法が入力されると医学的に行き詰まる可能性が評価され、死が懸念される領域に入っている際は「yellow flag(黄色い旗)」、回復しない可能性が非常に高い状況には「red flag(赤い旗)」が立てられる。システムには2つのニューラルネットワークが実装されており、1つ目は患者死亡というネガティブな結果のみに着目、2つ目は患者生存というポジティブな結果のみに着目している。これらにより、リスクを伴う治療法を効果的に検出し確認することが可能になったという。

MITのニュースリリース内で、研究グループのTaylor Killian氏は「どんな決断をしても患者が死に向かってしまうような道を進んでしまうことを”医学的なデッドエンド”と定義し、選択した治療法が患者をデッドエンドに追いやる可能性を減少させるというアイデアが本研究の核心である。本研究で確認した最適ではない治療が選ばれる約12%という数字は、世界中で敗血症を罹患する患者の数を考えると、かなり大きな数字だ。このモデルは医師を支援するもので、代替するものではない。私たちはシステムによって適切なガードレールを追加することができる」と語っている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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