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ニューヨーク市保健局 – 「臨床アルゴリズムにおける人種差別をなくすための連合」を設立

人種間での生物学的特性の差を考慮して、各種の臨床アルゴリズムでは「race adjustment(人種調整)」が行われている。しかし、その生物学的特性の差を単に人種だけを理由にすることには、ツールの誤った利用につながる危険や、人種差別助長への危惧がある。

米ニューヨーク市保健局はプレスリリースにおいて、「臨床アルゴリズムにおける人種差別をなくすための連合(CERCA: Coalition to End Racism in Clinical Algorithms)」という組織の結成を発表している。CERCAは人種だけで説明がつくとはいえない不当なアルゴリズム調整の撤廃を訴える。その一例として「黒人患者の腎機能に関する人種調整」では、検査で同じ測定値の場合、黒人患者の腎機能が白人患者よりも健康とみなされ、必要な治療の遅れにつながる可能性がある。また別の例として、「妊婦に関する人種調整」では、白人女性と同程度の年齢・健康状態・出産歴であっても、黒人またはラテン系アメリカ人の妊婦では過剰な帝王切開を受ける可能性が有意に高かった。ニューヨーク市とCERCAは、そのような臨床アルゴリズムの不当な適用による人種差別に取り組み、健康格差の是正を主導していくという。

この状況における「臨床アルゴリズム」は、昨今のAI/機械学習で構築される「アルゴリズム」とは文脈が異なることには注意が必要だ。旧来の比較的精度の低い疫学的調査結果に基づいた人種調整が、アップデートされることなく画一的・盲目的に使用し続けられていることなどに課題の本質がある。もちろん、これまで紹介してきた「AIアルゴリズムに人種間のバイアスが入り込む」という別の問題も根強い。人種をめぐる医療の課題に対しては、すべての関係者が注視して挑戦し続けなければならないだろう。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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