ER受診直後から敗血症を判別するAIゲノミクス研究

敗血症は、COVID-19の重症化例も含み、近年では「全世界の5人に1人の死因」となっている。患者の敗血症発症を確信するまでに、医療者は24〜48時間のタイムラグを要することもある。一方、治療開始が1時間遅れるごとに死亡リスクは7.6%上昇するため、どれだけ早期に正確な敗血症診断に至るかが重要な課題となっている。

カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)の微生物学・免疫学の研究チームでは、「AI/機械学習により受診直後の患者血液から重症敗血症を予測する手法」を開発した。UBCのリリースでは、研究チームへのインタビューを行い、EBioMedicineに発表された同研究を紹介している。本研究では、救急救命室(ER)患者を対象とした大規模臨床ゲノミクス研究として、敗血症患者の血液に発現しているタンパク質から感染症に関連する特定の遺伝子発現バイオマーカーを明らかにした。これにより、重症敗血症は医療機関を受診した直後から判別可能となる。AIアルゴリズムは重症化を予測する遺伝子セットを特定できており、5つの異なる敗血症エンドタイプに97%の精度で分類できた。エンドタイプのうち2種は重症化・死亡のリスクが非常に高く、さらにその一方は特に致命的なタイプとして、死亡率が46%にも上ることが明らかになっている。

遺伝子発現の特定は、院内に存在する既存技術を用いて可能であり、ER入室後2時間以内の実施ができると研究チームは説明している。メンバーのひとりでUBC微生物・免疫学部門のBob Hancock教授は「ちょっとした”様子見”になってしまいがちな最初の24〜48時間に対して、本技術によって敗血症の確信を早期に得て、即時の治療開始を実現できる」と語っている。

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