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腹腔内圧を非接触モニタリングするレーダーシステム

腹部コンパートメント症候群(ACS: abdominal compartment syndrome)は、外傷などの重症患者において腹腔内圧が上昇し、循環障害を含めた多臓器障害を引き起こす深刻な疾患である。ACSの兆候を検知するため、患者の腹腔内圧を定期的かつ効果的にモニタリングする必要があるが、これには技術的な困難がある。例えば腹腔鏡下に行うカテーテルを用いた直接測定は正確であるが、技術の専門性とコストが高いうえに侵襲が大きい。また間接的に腹腔内圧を測定する手法として一般的な膀胱内圧測定でも、尿道カテーテル挿入による侵襲は避けられない。

ACSを非侵襲的に検知する手法として、中国の重慶大学と陸軍軍医大学で共同研究されているのが「レーダーシステムによる腹腔内圧モニタリング」である。その成果がAdvanced Intelligent Systems誌に発表された。このシステムは、周波数変調連続波(FMCW: Frequency-Modulated Continuous Wave)と呼ばれるミリ波のレーダーを用い、衣服などに妨げられずに腹壁の微細な振動を検知することができる。読み取った結果から、PCG-DANN: pearson-coefficient-guided domain adversarial neural networkというディープラーニングモデルをトレーニングし、腹腔内圧値を予測させている。

FMCWレーダーのような非接触モニタリングは、COVID-19パンデミック以降、医療領域での導入が急速に進んだ。システムによって重症患者の腹腔内圧モニタリングが簡便となり標準化されれば、「腹部コンパートメント症候群をタイムリーな治療によって回避できるため、生存率向上に寄与する可能性がある」と研究チームは考察している。

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