膀胱がんは、再発・転移リスクが高い症例において膀胱の「全摘出術」が選択される。全摘出術前の化学療法は生存率向上に貢献するため、標準治療プロトコルに組み込まれている。膀胱全摘出は相応にQOL(生活の質)を損うため、もし術前化学療法の後に腫瘍病変を認めない「完全奏功」の状況にあれば、全摘出を回避する選択肢が生まれる。しかし、治療後のがん病変は、内視鏡の局所切除など前治療の影響を含み、壊死組織や瘢痕組織となっているため、がん病変が残っているかを正確に判断するのは難しい。
米ミシガン大学を中心とした研究チームは、「膀胱がん患者が根治的膀胱全摘出の術前化学療法で完全奏功にあるか」について、医療者の判断を支援するAIベースのシステムを開発・検証している。本プロジェクトでは、膀胱がん患者123名、157ヶ所の病変を対象に、化学療法前後の尿路造影CT検査からシステムが算出する評価スコアを参考として、医療者がどのような最終判断を下すか検証した。システムによる独自評価スコアは低値ほど完全奏功の可能性が低く、高値ほど完全奏功の可能性が高く設定され、医療者はスコアを参照して自身の判断を修正することも、変更しないこともできる。最終判断の正確性は、膀胱摘出手術の際に採取された腫瘍サンプル分析によって行われた。放射線科・泌尿器科・腫瘍科・医学生といった専門と経験が異なるメンバーで本試験を行ったところ、AIシステム支援によってあらゆるレベルの医療者で治療効果判定が有意に改善されることが示された。特に経験の浅い医師でも、経験者と同等水準の評価が可能になったとしている。本研究の成果は、Tomography誌に掲載された。
ミシガン大学のインタビューに対し、著者のLubomir Hadjiyski博士は「このようなAIデバイスが傍らにあるとき、医師の助けになるのか、混乱させるのか、無視されるのか、という大きな疑問が私たちにはある。機械学習ツールは、意思決定支援のセカンドオピニオンとして有用である。しかしコンピュータは、専門医と異なるケースで誤りを犯すという興味深い発見もあり、現状では専門医に取って代わるものではないことも補足したい」と語った。
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