脊髄損傷患者で、瘢痕化した神経組織の分解と再生を促進する酵素「コンドロイチナーゼABC(ChABC)」の治療効果が期待されている。しかしChABCは人間の体温37℃前後では非常に不安定となり、数時間で活性が失われてしまうため、治療効果を維持するためには高用量で繰り返し高価な点滴を行う必要があった。米ラトガーズ大学の研究チームは「AIとロボット工学を駆使した治療用ChABCの安定化」に成功したことを発表している。
Advanced Healthcare Materialsに掲載された同研究では、ChABCを安定化させるため、ChABCを包み込み微小環境下で安定化させる共重合体の合成を行っている。この共重合体合成を行う際に、液体分注ロボットシステムに、ガウス過程およびベイズ最適化を用いたAIアプローチを適用することで、高性能な共重合体の設計を可能にした。本研究の手法で合成されたChABCについて、人間の体温を想定した37℃における活性維持能力をテストしたところ、1週間後においても30%近くまで活性を維持し、従来の安定化手法よりも優れた結果を示すことができた。
ラトガーズ大学のインタビューに対し、研究プロジェクトの主宰者(PI)で生体医工学部助教のAdam Gormley氏は「マウンテンバイクの事故で下半身麻痺となった親友のことを忘れられない。私たちが開発している治療法は、いつか友人のような脊髄損傷を減らし、機能を回復させるのに役立つかもしれない。このことが治療法、ひいては科学をさらに発展させるため、毎朝起きて奮闘する大きな理由となっている」と研究の動機を語っている。
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