あなたのX線読影をAIに任せるにはまだ早い?

放射線医学や病理学のように画像から診断する分野では、AIによる革命に期待が高まる。しかし一方で、専門家たちはその潜在的な欠点に対して試行錯誤を続けている。

米科学雑誌Scienceでは、そんな医療AIの専門家たちの懸念を紹介している。心臓の画像診断アルゴリズムに取り組むカリフォルニア大学サンディエゴ校の放射線科医Albert Hsiao氏は「ほとんどのAIソフトウェアが単独の病院で設計・検証されているため、別の病院に場所を移しただけで役に立たない危険性がある」と最大の懸念点を語った。

米マウントサイナイ病院の医師Eric Oermann氏は、AIアルゴリズムの欠点を探る研究をしている。彼のチームは肺炎を検出するAIを開発し、マウントサイナイ病院で訓練した。病院の特性は、肺炎の高齢者が多く入院する集中治療室があり、病院のX線画像の34%は肺炎患者のものであった。できあがったAIアルゴリズムを同病院で検証すると93%の肺炎を検出できた。ところが、そのAIを肺炎患者の発生が1%程度であるNIH Clinical CenterとIndiana Network for Patient Careで検証すると、肺炎の検出率は73-80%程度に低下してしまった。

どうしてそのようなことが起きたのか?マウントサイナイ病院では患者の多くがベッドを離れられない健康状態により、ポータブルX線を多用していた。立って撮影するX線とは大きく異なる条件であり、AIアルゴリズムは肺炎をポータブルX線画像と結びつけてしまったのである。Oermannらによる研究成果は2018年にPLOS Medicineに発表され話題となった。

韓国放射線医学会誌で発表された、『516の医療AIアルゴリズムのうち外部データで検証したのがわずか6%』と示した研究は、医療AIを取り巻く現状を実によく表したものである(過去記事)。2019年5月の米国放射線学会では、AIアルゴリズムの開発と検証に、分野・施設をまたいだコラボレーションの強化を求める主張が相次いだ。あなたのX線画像を、どこかで開発されたAIの診断に任せてしまうのは、まだ時期尚早なのだろうか?

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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