細菌感染症の薬剤耐性が世界的に増加するなか、的確な抗菌薬を選択するため、細菌培養とこれに基づく薬剤耐性検査は必須である。しかし、既存の培養法では結果が出るまでに72時間程度を要することもあり、より迅速な判定方法の導出に対する期待が大きい。スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)を中心とした研究グループは「質量分析データにAIアルゴリズムを適用し、既存手法より最大24時間早く耐性菌の兆候を特定する手法」を発表した。
Nature Medicine誌に発表された同研究では、質量分析装置の用途を拡大し、抗菌薬耐性の識別に利用できるとする新しい手法を提案している。元来、質量分析装置は検体中のタンパク質断片を解析し、細菌の種類を特定するために広く用いられていた。本研究では、スイス国内4ヶ所の研究所から集められた30万件以上の細菌質量スペクトルと、対応する臨床検査結果をリンクした。結果、約800種の細菌と40種以上の抗菌薬を網羅したデータセットを構築しており、ここから抗菌薬耐性を予測するアルゴリズムを導いている。黄色ブドウ球菌・大腸菌・肺炎桿菌といった臨床的に重要な細菌とその薬剤耐性について、AIアルゴリズムはROC 0.74〜0.80程度の識別精度を示していた。
本手法でも事前の細菌培養は必要となるが、既存手法の数日間から、数時間にこのプロセスを短縮することができるため、検査結果を治療に反映させる上で大幅な効率化が期待できる。このモデルを63名の患者におけるケーススタディとして検証したところ、9例で治療内容が変更され、8例でその変更が有益となることが確認された。ETH Zurichのインタビューに対し、同大のバイオシステム科学・工学部門教授のKarsten Borgwardt氏は「本研究は質量分析データと抗菌薬耐性に関する情報を組み合わせた大規模なものであり、既存の臨床データ活用で新たな知見を得られる好例を示すことができた」と語っている。
関連記事: