「学習障害(LD: learning disability)」は、知的発達に遅れはないが、読み・書き・計算など日々の学習に困難を生じる発達障害である。英国における推計では、LDは100人に1人程度みられ、LDを有する人々の65%以上が「MLTCs: multiple long-term conditions」と呼ばれる「2つ以上の慢性的な健康問題」を抱えているという。LDを有する人々の平均寿命が英国平均より約20年短いとの試算もあり、このことはLDの生物学的な疾患影響ではなく、LDの無い人と同じ水準のケアを社会的に受けられていないことを意味するとの指摘もある。
英ラフバラー大学などが参加する共同プロジェクト「DECODE: Data-driven machinE-learning aided stratification and management of multiple long-term COnditions in adults with intellectual disabilitiEs」は、機械学習技術を用いて学習障害者のMLTCsをより良く理解することを目指している。研究チームは、イングランドおよびウェールズにおける学習障害者の医療データを解析し、「どのような種類のMLTCsが合併しやすいか」、「MLTCsが経時的にどうなるか」、「ライフスタイル・経済状況・社会環境などがMLTCsにどう影響するか」を明らかにしようと試みる。解析結果から導かれるケアプランでは、LDの専門家と協働し、学習障害者が理解しやすいインフォグラフィックを用いた提案が行われる。プロジェクトの最終目標は、LDのための新しいケアモデルを構築し、MLTCsに関する臨床ガイドラインを誰もがアクセスできる形にまとめ上げることとする。英国立健康研究所(NIHR)からの助成を受け、DECODEプロジェクトは本年4月に始動した。
プロジェクトリーダーを務めるラフバラー大学のThomas Jun氏は「AIがいかに安全で倫理的かつ費用対効果の高い手法として、学習障害者にQOL(生活の質)の改善をもたらすか、私たちは実証していく」とプロジェクトへの意気込みを語った。