医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例AIが「知らない動作」を「知らない」と判断するために必要な工夫とは?

AIが「知らない動作」を「知らない」と判断するために必要な工夫とは?

筋電パターン認識(MPR)を用いた義手やヒューマンマシンインターフェースの制御において、システムが事前に学習していない「未知の動作(ジェスチャー)」が入力された際、誤動作を引き起こしてしまうことが実用化の大きな壁となっている。従来のシステムの多くは、入力が必ず学習済みのカテゴリに属するという前提(閉世界シナリオ)で動作するため、未知の動作を無理やり既知の動作として誤分類してしまう課題があった。また、未知の動作を弾く手法も存在したものの、既知の動作の正確な分類と未知の動作の確実な除外を両立させることは困難であった。
これに対し、中国の西北工業大学などの研究チームは、高密度表面筋電図(HD-sEMG)の信号を「筋シナジー(筋肉の協調的な働き)」に基づいて分解し、未知の動作を正確に検出して「未知」と判断する新たなオープンセット認識のフレームワークを提案した。同研究はIEEE Transactions on Biomedical Engineeringに掲載されている。

本研究では、HD-sEMG信号の特徴を、筋シナジー分析を用いて特定の動作に固有の成分(パターン特異的成分)と、ノイズなどで変動しやすい成分(パターン変動成分)に分解する手法を採用した。さらに、非類似度メトリック学習を分類タスクと統合することで、入力された動作の「異常スコア」を算出し、既知の動作クラスごとに個別の閾値を設定した。
実験では、17種類の動作を含む独自データセットに加え、ジェスチャーの多様性や日をまたぐ信号の非定常性といった「実用化に直結する厳しい現実環境」をより忠実に反映した、65種類の動作を含む公開ベンチマークデータセット等を用いた検証が行われた。その結果、提案手法は単一セッション内において既知の動作に対して99%以上の高い分類精度を示しつつ、未知の動作を98%以上の精度で検出することに成功した。また、電極のズレなどが生じやすい複数日にわたるテストにおいても、77%以上のオープンセット認識精度を維持し、既存の手法を大幅に上回る堅牢性を示した。

研究チームは、筋シナジー分解と非類似度メトリック学習の統合が、筋電インターフェースの堅牢性向上に有効であることが実証されたと結論付けている。一方で、未知と判断された動作が入力された際にシステムがどのような挙動を示すべきかという点は次の段階の議論として重要となる。実用化にむけてこれら必要な課題を一つ一つ確実かつ迅速に克服していくことが期待される。

参照論文:

HD-sEMG Feature Decomposition via Muscle Synergy and Dissimilarity Metric Learning for Robustness Against Unknown Gestures

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村上 遼
村上 遼
大阪大学大学院機械工学専攻 修士課程修了。ロボット技術とMEMS技術を融合した血液検査システムに関する研究を行う。外資系医療機器メーカーAにて臨床開発として勤務。外資系医療機器メーカーBにてビジネスデベロップメントとして新規事業開発に従事。現在、米ウースター工科大学 ロボティクス専攻 博士課程にて、医療ロボティクスおよび医療画像(光音響、超音波等)の研究に従事。
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