オランダのテクノロジー企業フィリップスはFuture Health Index(未来の医療環境指数)という調査を毎年発表している。これは、将来の医療課題に対する患者・医療従事者の意識を数値化したものである。2019年レポートでは『AIの医療利用』が15カ国で調査され、興味深い結果が多く含まれている。しかし、この調査対象に日本は名を連ねていない。
シンガポール最大の新聞社The Straits Timesの報道では、15カ国のなかで、1位の中国、2位のサウジアラビアに次ぐ3番手でAIの医療利用が高いシンガポールの現状と課題を分析している。対象の15カ国は、シンガポール以下、オーストラリア、ブラジル、イギリス、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、オランダ、ポーランド、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、およびアメリカであった。
病気の診断にAIのサポートを受ける割合として、中国45%、サウジアラビア34%、シンガポールは28%、全体の平均は21%であった。割合の低い国は、アメリカ10%、オーストラリアとオランダ8%という結果。シンガポールの特徴として、AIが医療の管理業務(人員の配置・患者予約スケジュール)に回されている率が高い。フィリップス社のアジア太平洋地域最高責任者のCaroline Clarke氏は「シンガポール全体の傾向として、放射線科の診断などで効率や正確性を改善する機会を逸している」と指摘する。あわせて、集中治療室など入院患者のバイタルサインから異常を検出するAI利用率26%は低い傾向。一方で、AIにより長期雇用の安定性が脅かされると意識する医療従事者が20%で、平均14%を上回ったのも特徴である。
日本が、この項目で調査対象外であった理由は明示されてはいない。しかし、Future Health Index全体の調査にはもちろん含まれている。もしかすると対象の15カ国と比べて、調査として論じることができる水準に至っていないのが正直なところかもしれない。確かにアメリカやオランダ(フィリップス本社所在地)の利用率の低さも目立つ。そこには医療における経済発展の歴史、いわゆる医療先進国と、中国やサウジアラビアのような新興市場とのギャップが強く見える。アメリカの建築系スマートシステム企業Johnson Controlsの責任者Raymond Kang氏は「既存の建物・病院で、既存の医療行為を変える難しさ」を強調する。日本のAI医療導入の難しさはここに大きな課題があるのかもしれない。