医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例医療AIがもたらす影響・問題点「臨床試験への参加が乏しい集団が存在すること」について

「臨床試験への参加が乏しい集団が存在すること」について

AIを含むデータサイエンス関連技術の向上は、多面的な医学の発展に大きく寄与していることは疑いの余地が無い。一方で、あらゆる新知見の根幹となる学習データに、「特定集団が系統的に含まれていない事実」は、度々研究コミュニティからの指摘と警告がなされてきた。

このほどCancer誌から公開された、カリフォルニア大学サンディエゴ校からの研究報告では、米国国立がん研究所(NCI)が主導する臨床試験データベースであるNCI Clinical Data Update Systemを用い、臨床試験の参加者属性を仔細に分析している。NCIは臨床試験における多様性向上のため、種々の取り組みを行っていることを明らかにしているが、2015-2019年における実際の参加状況では、黒人およびヒスパニック系の患者は乳がんの臨床試験に参加する割合が高い一方、大腸がん・肺がん・前立腺がんの臨床試験では「著しく」参加者が少なかったとする。また、65歳以上の患者は乳がん・大腸がん・肺がんの臨床試験に参加していない傾向を認め、女性は大腸がんと肺がんの臨床試験に取り込まれにくい事実も併せて明らかにしている。

研究チームは、過去との比較において「臨床試験参加におけるマジョリティとマイノリティの格差は縮小した」ことに言及する一方、「依然として十分な登録のみられない属性が領域ごとに存在しており、さらなる努力が必要」である点を強調する。学習データにおける特定集団データの取りこぼしは一般化可能性を制限するとともに、当該属性における結果の不安定性を惹起することが危惧され、常に学習データの妥当性は適切なモニタリングを受け続ける必要がある。

関連記事:

  1. AI意思決定の誤りを説明する研究 – 米テキサス大学アーリントン校
  2. バイアスを含むAIが人類の希望となる可能性
  3. 人種バイアスは除去できるか? – 網膜血管から人種を識別するAI
  4. 医療画像から人種を読み取るAI
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事