年間アーカイブ 2023

「Medtec Japan」アワードでアイリスが最高賞を受賞

インフルエンザの診断支援のためのAI医療機器「nodoca」の開発で知られるアイリス社は21日、国内最大級の医療機器展示会である「Medtech Japan」において、イノベーション大賞の最高賞にあたる「Medtec大賞」を受賞したことを明らかにした。 Medtec イノベーション大賞は、医療機器の製造・設計において優れた成果をあげた企業を表彰する目的で開催されており、今年で11回目となる。過去のMedtec大賞受賞企業には、朝日インテック株式会社や第一医科株式会社、株式会社QDレーザなど、日本を代表する医療機器企業が名を連ねる。アイリスの主力製品であるnodocaは、5年の開発・検証期間を経て薬事承認を取得、保険適用を経て2022年12月に発売を開始しており、現在、国内医療機関における急速な普及が進んでいる。 関連記事: アイリス – nodocaを用いた感染症診断が保険適用に アイリス・nodoca – 日本初のAI搭載「新医療機器」 アイリス「nodoca」- 山梨県で社会実証プロジェクト

「All of Us」プログラムの利用可能データが拡大

米国立衛生研究所(NIH)は20日、精密医療研究の推進に向けて、約25万件に及ぶ全ゲノム配列を研究利用できるようになったことを明らかにした。 「All of Us」と呼ばれる国家主導プログラムは、集団の健康と精密医療の推進を目的に、米国における健康データの収集と解析を大規模に行うもの。10年以内に100万人の米国市民からデータ収集を行うことを目標として、2018年から全国登録が開始している。データセットにはゲノムだけでなく、臨床データや健康の社会的決定要因など、患者の背景情報を含む多様な健康情報を含んでいる。 All of Usを率いるJosh Denny医師は「5年前に国内登録を開始した時、我々は医学研究を加速度的に促進できる可能性に興奮した。現在は参加者や研究者、その他全米の多様なコミュニティとのパートナーシップを通じて、我々全員にとってより良い健康的な未来につながる科学的発見を後押ししている」と述べる。 関連記事: Nightingale Open Science – 無償利用可能な「AI開発向け大規模医学データベース」 EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始 EUと米国がAI協力を強化

SARAspeech – 「運動失調症の言語障害評価」を自動化

運動失調症における言語障害では、不明瞭な発音や不規則な発話リズムなどがみられ、臨床的に診断される一方でその重症度を客観的に評価する方法は限られている。独ボン大学病院の研究者らは、コンピュータ支援による正確かつ迅速な評価手法の開発に取り組む。 npj Digital Medicineに掲載された本研究では、運動失調症の既存評価尺度「SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)」に関連して、言語障害に特化した重症度分類を自動化・客観化する音声解析AIソフトウェア「SARAspeech」の評価を行っている。患者67人において、標準化された質問(趣味についての話、1から10まで声に出して数えるなど)への回答音声から、発話リズムや声の大きさの変化など100以上の特徴を抽出した。結果、アルゴリズムによる言語障害重症度の分類は、80%の症例で専門家による評価とほぼ一致していることを示した。 著者でボン大学のThomas Klockgether教授は「運動失調症関連研究は、治療効果が期待される新しい薬剤の試験が進むなど、現在勢いのある分野だ。疾患の評価を自動化・客観化する本研究の手法は、人を対象とした臨床試験でも効率的に使用することができ、価値が高い」と語っている。 参照論文: SARAspeech—Feasibility of automated assessment of ataxic speech disturbance 関連記事: 歩行で神経変性疾患を識別 NeuraLight社 -「目の動き」から神経変性疾患を識別 Nature論文 – モーションキャプチャとAIによる運動障害モニタリング

PhilipsとMIT – AI開発促進に向けたクリティカルケアデータセット開発

生命の危機に瀕する重症患者を対象とする「クリティカルケア」について、200を超える医療機関から20万人の患者を集めた最新の臨床データセットが、ヘルスケアにおけるAIの発展を見据えて提供される。 米マサチューセッツ工科大学(MIT)とPhilipsの取り組みとなるこのデータセット開発は、20万人に及ぶクリティカルケア患者の広範な非識別化臨床データが含まれ、患者ケアと臨床転帰を改善するソリューション開発をサポートする。eICU Collaborative Research Database(eICU-CRD)と呼ばれるこのデータセットは、MITだけでなく、ハーバードやスタンフォードなどの高等学術機関における多くのコースに取り入れられ、教育やトレーニングのためのリソースとしても活用される。 PhilipsでEMR&ケアマネジメント担当ゼネラルマネージャーを務めるShiv Gopalkrishnan氏は「eICUのデータをグローバルな研究イニシアチブに利用できるようにすることで、機械学習とAIの取り組みを推進するという当社のコミットメントを示す」とした上で、取り組みが患者ケアを強化し、臨床成果を向上させることにつながる可能性を強調している。 関連記事: Nightingale Open Science – 無償利用可能な「AI開発向け大規模医学データベース」 EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始 EUと米国がAI協力を強化

脱水状態を評価するAIデバイス開発

脱水状態の評価はバイタルサイン・尿量・身体所見・血液検査などを用いて行うが、医療現場における迅速で正確な評価は容易ではない。米アーカンソー大学の研究チームは「末梢血管の静脈圧波から脱水状態を評価するAIアルゴリズム」の開発を進め、デバイス化に取り組んでいる。 プロジェクトメンバーでアーカンソー大学電気工学部のRobert Saunders氏によると「脱水レベルの情報は静脈圧の波形内に埋め込まれていると考えられ、従来、ノイズや干渉に埋もれた非常に弱い静脈圧波形からそのような情報を抽出することは難しかった。しかし、AIアルゴリズムの利用によってその抽出が可能になった」と話す。Journal of Surgical Researchには基礎研究の1つとして、小児患者における脱水状態を予測するアルゴリズムの成果が発表されている。 プロジェクトで信号処理技術を担当するJingxian Wu氏によると、脱水評価AIデバイスには3つの応用の方向性があり、「1つ目は、救急隊員が患者の脱水レベルを即座に評価し、投与すべき水分量を決定すること。2つ目は、脱水症状を起こしやすい救急患者、特に小児患者において、時間のかかる検査を待たずに迅速な評価と水分投与の判断をすること。3つ目は戦場における負傷兵への利用で、脱水症状と関連する出血を評価すること」と説明しており、機械学習モデルを訓練するためにより多くのデータを集め、デバイスの精度を高めることをチームは目標としている。 参照論文: Venous Physiology Predicts Dehydration in the Pediatric Population 関連記事: CTから冠動脈の血流低下を予測するAI 「外傷性出血におけるAI研究」の現在地 「小児救急外来でのAI活用」を保護者は受け入れるか?

医療AIの特許状況をマッピング

英ケンブリッジ大学などの研究チームは、「医療用AI開発における特許取得状況、および特許取得の効果」を仔細に調査し、その結果をNature Biotechnologyから17日公開した。 学術医療システムなどの主要医療機関の多くは、現在AIツールを開発または導入しており、一部のAIツールは、既に数百万人の患者をカバーする電子カルテに組み込まれるなどしている。しかし、このような「医療向け機械学習(MML)」による革新の波にも関わらず、「そのプロセスにおける特許の影響は、詳細に調査されるよりもむしろ概略を説明されるに留まっている」という課題に端を発するものとなる。 論文では医療特許に特化したクラスにおける、過去20年間のコアAI/ML特許の総数は上昇し続けており、また出願数に対する特許付与率も2012年以降上昇していることを指摘する。特にCPC(欧州特許庁と米国特許商標庁との間で合意された特許分類) のA61B(診断・手術・識別・医療機器・方法)内では、MMLに関する特許権者としての上位にシーメンス、フィリップス、サムスン、メドトロニック、GE、IBMなど、医療機器・技術分野の大企業が名を連ねている。同様に大学もMML特許権者の上位に加わっており、カリフォルニア大学やケースウェスタンリザーブ大学、スタンフォード大学などが上位20に入っていた。 著者らは「MML特許クレームの保護範囲、現在の主題適格性要件とAI/MLの先行技術に照らした妥当性、特許明細書開示の十分性などを調査するためにはさらなる研究が必要」としながらも、黎明期からの様子では、当該分野における特許取得は、医療におけるAI/MLイノベーションのインセンティブにおいて重要な役割を果たし続けているとする。 参照論文: Mapping the patent landscape of medical machine learning 関連記事: 医療AIに求める「狂気と慎重さ」のバランス 既存RCT群が報告ガイドラインを遵守していない可能性 NIHR – 臨床研究へのAI活用を促すeラーニングコース

「睡眠障害の危険因子特定」へのAI利用

睡眠障害は、各種慢性疾患の罹患率や死亡率を高める要因として認識されているものの、睡眠障害自体の危険因子候補は多岐に渡り、互いに影響を及ぼすとともに、多くの交絡因子が入り乱れるために検証が容易ではない。米ノースウェスタン大学医学部の研究チームは、「睡眠障害のリスク要因を正確に特定する機械学習手法」の開発と評価に取り組む。 PLOS ONEに発表された同研究では、米国国民健康・栄養調査(NHANES)から、18歳以上の米国成人7,000人以上の患者データを用い、4種の機械学習モデルを用いて680以上の変数から睡眠障害の強い予測因子を特定した。その結果、予測力の高い因子として、1.うつ病調査票(PHQ-9)、2.体重、3.年齢、4.ウエスト周囲径が示されている。 うつ病が睡眠障害の最も強い予測因子であったことや、その他の上位因子も先行研究と一致しており、研究チームは「睡眠障害リスク評価における機械学習モデル活用の有効性」を示したとする。「本研究が採用した手法の最大の強みは、バイアスによって混乱する可能性がある研究者の個人的判断に頼ることなく、何百もの共変量を系統的に調査できることだ」としている。 参照論文: Use of machine learning to identify risk factors for insomnia 関連記事: 日常データから「子どものADHDや睡眠障害」を予測 生理信号とハイブリッド学習に基づく睡眠障害検出 Big Health社 -「不眠症デジタル認知行動療法」で英国初のNICE guidance取得

機械学習により4種の自閉症サブタイプを特定

米Weill Cornell Medicineの研究者らは、機械学習を用いて自閉スペクトラム症(ASD)の4つのサブタイプを特定した。研究成果は、Nature Neuroscienceに掲載されている。 研究チームは、ASDが数百に及ぶ多様な遺伝子と関連する「遺伝性の高い疾患」という見地に立ち、遺伝子発現データと神経画像データ、およびプロテオミクスを統合することで、ASDのサブグループにおけるリスクバリアントの相互作用を深く理解することに成功している。チームはASD行動の個人差を予測する「3つの潜在的な次元」を特定しており、これらに沿ったクラスタリングによって4つのASDサブグループを明らかにするに至った。 研究結果から、ASDの様々な病態の根底にある「非定型的な接続パターン」の存在が示されており、異なる分子シグナル伝達メカニズムが関与していることが判明したとする。今後研究チームは、これらの知見に基づき、各サブグループを標的とした治療法の可能性をマウスで検証していくという。 参照論文: Molecular and network-level mechanisms explaining individual differences in autism spectrum disorder 関連記事: 医療費請求データから自閉スペクトラム症を早期スクリーニング 「匂いや味への反応」から自閉スペクトラム症を識別 異なる言語間で共通する「自閉スペクトラム症の発話パターン」を検出

「絵画品評の音声」から認知機能障害を早期検出

アルツハイマー病の早期診断は、患者とその家族に将来設計の猶予を与えるとともに、適切な介入によって予後の改善を見込むことができる。早期診断AIツール開発に向け、米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのチームは、「絵画品評の音声パターンから早期の認知機能障害を検出する研究」を行っている。 Diagnosis、Assessment & Disease Monitoringに発表された同研究では、機械学習と自然言語処理ツールを用いて、軽度認知機能低下患者114名の発話パターンを評価し、従来の診断バイオマーカーであるMRIスキャンおよび脳脊髄液中アミロイドβと対応させ、認知機能障害の早期検出における有効性を検証した。被験者は標準的な認知機能評価に加え、絵画作品「The Circus Procession(サーカスの行列)」について1〜2分間の自発的な音声による説明を記録した。この音声からは、会話能力・音声運動制御・アイデア密度・文法的複雑さ、といった特徴を抽出している。結果、軽度認知機能低下の検出において、語意意味論的スコアでAUC 0.80、音響スコアでAUC 0.77を達成し、従来の神経心理学的検査であるボストン呼称検査のAUC 0.66と比較して、有意に高い診断能力を示すことを明らかにした。 本研究において患者の音声記録を取り込むプロセスは10分未満であり、従来の神経心理学的検査より簡単に実行できるスクリーニングツールとして期待されている。筆頭著者のIhab Hajjar氏は「機械学習や自然言語処理が開発される前は、音声パターンの調査は非常に手間がかかり、初期段階の変化は人間の聴覚では検出が難しく、研究手法として成功しないことが多かった。本研究で採用した新しい手法は、標準的な機能評価では容易に検出できない症例であっても、認知機能低下患者の特定に優れた性能を発揮した」と語っている。 参照論文: Development of digital voice biomarkers and associations with cognition, cerebrospinal biomarkers, and neural representation in...

TachyHealth – 会話型AIによる医療コーディングシステム

米デラウェア州に本拠を置くヘルスケアテクノロジースタートアップの「TachyHealth」は、サウジアラビアの医療費請求システムで訓練した新しいAI言語モデルを発表した。患者の臨床記録に記載された病名や処置などの医療情報を、「構造化されたコード」に変換する作業が医療コーディングで、医療費請求や解析のベースとなる。高水準の一貫性を達成するため、従来、標準的なプロセスに従って事務部門の専門家が医療コーディングの実務にあたってきた。 機械学習に基づく「AiCodeモデル」は、ユーザーが自然言語のプロンプトを作成することで、対象となるテキストの分析により、適切な国際疾病分類(ICD10-AM)コードや処置コード(Nphies)を数秒で割り当てることが可能となる。この会話型アプローチにより、医療コーダーが必要とする時間と労力を削減し、より重要なタスクに集中することができるため、患者ケアの質に直接影響を与えるものと主張している。 TachyHealthは、米国、UAE、KSA、ヨルダンの4カ国に拠点を持つ。2018年に設立された同社は、AIとデータサイエンスの活用により、医療提供者と支払者の相互作用を再構築するソリューションを開発してきた。代表的なインテリジェントソリューションには、医師向けのAiGuide、医療コーダー向けのAiCode、請求書管理向けのAiClaim、支払者による請求書のレビューと監査向けのAiReviewがある。 関連記事: 医療コーディングの価値とその自動化 Maverick Medical AI – 医療コーディングのAIプラットフォーム Nym Health – 医療コーディングの自動化プラットフォーム

Quit Sense – AIアプリで禁煙を支援

禁煙の失敗は、パブや職場など喫煙習慣のあった場所で過ごして起きる「喫煙衝動」が原因の1つと考えられている。英国発の禁煙AIアプリ「Quit Sense」は、過去に喫煙した時間・場所・引き金を学習し、喫煙衝動が起き得るタイミングでユーザーにメッセージを表示することで、禁煙活動を支援する。 Nicotine and Tobacco Researchに発表された同アプリの基礎研究は、英イーストアングリア大学(UEA)のチームが主導し、英国立健康研究所(NIHR)や英国医学研究審議会(MRC)から資金の助成を受けている。本研究の無作為化比較試験は209名の喫煙者を対象とし、被験者全員が英国民保健サービス(NHS)のオンライン禁煙サポートを受け、その半数にQuit Senseアプリが提供された。アプリをインストールして禁煙日の設定まで到達したのはアプリ提供を受けた被験者の75%で、試用期間は平均で約1ヶ月であった。6ヶ月後の追跡調査では、オンラインサポートのみの被験者の継続禁煙率(2.9%)と比べ、アプリ提供を受けた人々の禁煙率は約4倍(11.5%)となっていた。 英国は2030年までに喫煙率を5%未満にするという目標を掲げており、テクノロジーの活用を禁煙推進施策に盛り込む。本研究の主著者でUEAのFelix Naughton教授は「禁煙を試みる人々に対して喫煙に絡む環境要因を学ばせ、その管理を技術支援することは、禁煙の成功可能性を高める新しい手法だ」と語った。 参照論文: An Automated, Online Feasibility Randomized Controlled Trial of a Just-In-Time Adaptive Intervention for Smoking Cessation (Quit Sense) 関連記事: 機械学習により「禁煙に有効な既存薬」を特定 ...

機械学習ツールによる脳卒中診断の高度化

Journal of Medical Internet Researchに掲載されたフロリダ国際大学ビジネスカレッジ(FIU Business)の研究成果は、患者データと社会的健康決定要因(SDoH)データを活用した機械学習ツールにより、脳卒中診断のスピードと正確性を向上させ、臨床医らのケア品質向上に資する可能性を示した。 2012年から2014年におけるフロリダの急性期病院での受診・入院記録、および政府主導の地域調査に基づくSDoH情報を用いて機械学習モデルをトレーニングしており、病着時の患者情報から脳卒中リスクを予測するというもの。バックグラウンドで機能する同ツールは高リスク患者を検知すると、診療チームにアラートを送る仕組みとなる。14万人を超える患者データでの有効性検証により、83%の精度で脳卒中を識別することができたとする。 米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国では年間80万人が脳卒中に罹患し、そのうち60万人が初発であるという。初発患者の病因検索は時に複雑である一方、脳卒中の転帰には診断と治療開始のタイミングが重要で、症状発現から1時間以内の治療開始によって大きな予後改善を見込むことができる。本ツールは迅速な判断の欠かせない脳卒中対応について、医療者を支えるセーフティネットとして機能する可能性が期待されている。 参照論文:A Machine Learning Approach to Support Urgent Stroke Triage Using Administrative Data and Social Determinants of Health at Hospital...

米臓器移植ネットワーク – 肺移植の割り当てを公平化する新システム

米国では、臓器移植待機リストに10万人以上の患者が登録され、年間約65,000人が新規登録し、2022年では42,000人以上が移植を受け、そのうち肺移植は2,600人であった。米国の臓器移植ネットワーク(UNOS)は、2023年3月9日以降、肺移植患者への臓器割り当てをAI/機械学習に基づいた新システムでの運用を開始した。 新システムは、MITスローン経営大学院の協力で開発されており、これは移植マッチングに考慮される全ての項目を単一の加重スコアに包含し、同時に評価することができるというもの。従来のシステムによる移植候補者の優先順位付けは、臓器適合性、候補者の緊急性、移植病院までの距離、といった個別の項目を順番に適用して候補を決定するが、手法的な限界によって多数の格差が生じていることが問題視されていた。新システムはAI駆動により、移植患者の転帰について項目間でトレードオフ関係を考慮した調整が可能になり、より効率的で公平な臓器割り当てを設計したとしている。この新システムの採用により、移植待機中および移植後の死亡率を減らすことが期待される。 MITスローン経営大学院のNikolaos Trichakis氏は「新システムは血液型や体格、性別、人種、年齢層、地域の各項目に渡って、より公平であることが予想される」と語る。本システムの基礎研究はINFORMS Journal on Advanced Analyticsの2023年9-10月号で発表予定となっている。 関連記事: OrCA – 移植臓器の質を評価するAIプロジェクト 心臓生検の病理画像から移植拒絶反応を評価するAI 造血幹細胞移植のレシピエントにおける「敗血症発生」を予測する機械学習モデル

Truveta Language Model – 臨床メモの構造化モデル

Truvetaは2021年、米国の主要ヘルスケアプロバイダーが連携し設立したもので、データ分析を介したケア強化を狙うスタートアップだ。Truvetaは大規模な匿名化臨床データセットと分析プラットフォームを有し、ヘルスケアにおける次世代デジタルインフラストラクチャの担い手として期待が大きい。 Truvetaが構築した「Truveta Language Model(TLM)」は、英語を理解する一般的な大規模言語モデルと豊富な医療専門知識を組み合わせたAIモデルで、臨床医のメモから臨床概念を識別し構造化することができる。TLMは日常的に生成される乱雑な記録を、医学研究のための整理された分析用データセットに自動変換する。事前にトレーニングされたオープンな大規模言語モデルと、米国最大の臨床データコレクションでトレーニングされたAIモデルを組み合わせ、診断・投薬・検査・理学所見など、あらゆる項目において90%を超える高精度での構造化に成功している。 同社は、臨床データによるトレーニングと専門家による介入プロセスを経て、カルテ理解における圧倒的な正確性を獲得したとしており、これは、実際の医療記録によるトレーニング機会を持たないGPT-4に対する明確な優位性と主張する。 関連記事: 電子カルテのパーソナライゼーション 「半分以上のテキストが重複」- 電子カルテの構造的問題 NuanceとMicrosoft – 臨床文書自動作成AIツールを公表

循環器科におけるChatGPTの回答能力検証

ChatGPTが、米国の医師免許試験(USMLE)で非凡な回答能力を発揮して以来、研究者らはより専門分野に特化した回答能力を評価する傾向が強まっている。オランダ・アムステルダム大学病院の研究チームは、「循環器科の質問に対するChatGPTの回答能力」を検証した。 medRxivで公開中の同研究では、ChatGPTの回答能力を2種の実験で検証した。まず医療従事者向けの循環器系生涯教育コースの小問50題をChatGPTに回答させたところ、正解率は74%で、分野ごとの正答率は心房細動で70%、心不全で80%、心血管リスク管理で60%と、領域によって精度に差がみられた。次に20の臨床シナリオに対する回答を、専門家の臨床意見と比較した。20例のうち、患者が主治医に質問する小シナリオ10例では、9例で専門家のアドバイスと一致していた。一方、プライマリケア医が専門医に相談するケースを想定したより複雑なシナリオ10例では、5例までは専門医の意見と一致したが、2例は部分一致、1例は結論に至らず、2例は不正解であった。 研究チームでは、「循環器領域においても、簡潔で複雑性の低い医学的質問に対してChatGPTが意思決定支援ツールとなる可能性が示されたものの、より高度な質問には困難が伴う。医療という重大で繊細な状況において使用する際には、説明責任の強化に努めることが重要である」と結論付けている。 参照論文: Performance of ChatGPT as an AI-assisted decision support tool in medicine: a proof-of-concept study for interpreting symptoms and management of common cardiac conditions (AMSTELHEART-2) 関連記事: ...

care.ai – 「スマートケア施設」の実現に向けて

病院や介護施設向けにAIプラットフォームを提供し、「スマートケア施設」の実現を先導する米care.aiはこのほど、Google Cloudとの継続的な連携を開始したことを明らかにした。これに基づき、care.aiの一連のソリューションはGoogle Cloud Marketplaceで利用できるようになる。 同社のAIプラットフォームは、インテリジェントモニタリングとバーチャルケアワークフローを組み合わせるもので、具体的には日常ケアにバーチャル看護やバーチャル回診を取り込むことを可能にし、対面ケアのみに終始しない次世代型ケアモデルを提唱している。care.aiは既に1,500以上の施設に導入され、現場からの高い評価を獲得している。 care.aiのプラットフォームは特に、厚い労働投資が必要となる看護ケアプロセスの自動化・効率化に着目する。2030年までに100万人以上の新しい正看護師が必要とされる米国の医療現場において、AIを用いたケアモデルの抜本的な見直しによってこの深刻な課題をクリアしようとしている。 関連記事: 「遠隔患者モニタリングツール」はさらなる普及へ PDMonitor – パーキンソン病の遠隔モニタリングシステム ミリ波レーダーと深層学習による「非接触での活動モニタリング」

ChatGPTが「乳がん関連の健康アドバイス」で有効性を示す

ChatGPTに対して、一般市民が健康上のアドバイスを求めるケースが急増している。この先進技術をどう適切に利用すべきか、各専門家はその回答能力の検証を進めているが、米メリーランド大学医学部の研究チームは、「乳がんの予防とスクリーニングに関してChatGPTが適切に回答できるか」の調査結果を明らかにした。 Radiologyに発表された同研究では、「乳がん予防とスクリーニング」に関する基本事項を扱った25の質問を作成し、各質問をChatGPTに3回投稿して、その回答を乳腺放射線科医が、1.適切、2.不適切、3.信頼できない(矛盾した回答)、の3分類で評価した。その結果、25の質問のうち22(88%)の回答が「適切」と評価された。不適切とされた1問は古い情報に基づいた「COVID-19ワクチン接種でマンモグラフィー検査を4-6週間待機する」という回答で、同項目は2022年2月に既に「待機を推奨しない」とガイドラインで改定済みの内容であった。また、信頼できないとされた2問は、乳がんの個人リスクに関する質問と、マンモグラフィーをどこで受けられるかという質問で、質問の度に回答が大きく変化し一貫性がみられなかったという。 著者のPaul Yi氏は「ChatGPTが88%の質問に正しく回答できたことは大変驚くべきことで、一般ユーザーが簡単に理解できるよう情報を消化しやすい形にまとめるという利点もある。一方で、ChatGPTが主張を裏付けるために偽の学術論文や健康コンソーシアムを創作することも、経験上分かっている。ユーザーはこの技術が新しいもので検証が十分ではないことを認識し、現時点ではまだ医療者にアドバイスを頼るべきだ」と語った。 参照論文: Appropriateness of Breast Cancer Prevention and Screening Recommendations Provided by ChatGPT 関連記事: ChatGPTが「肝硬変・肝細胞がん患者のヘルスリテラシー」を向上させるか? 微生物学問題に対するChatGPTの回答能力 大規模言語モデルによる医学論文捏造の可能性

「敗血症治療開始の最適なタイミング」を予測するAI

敗血症は重篤化リスクが高く、院内死亡率の高い疾患として知られている。敗血症に対する抗生物質の投与タイミングは、疾患管理にとって重要な問題となる。 Nature Machine Intelligenceに発表された研究では、敗血症における抗生物質の投与タイミングに沿った治療効果を推定する新しい手法「T4」を提案している。T4は潜在的な交絡因子として時間的・静的変数を再帰的に符号化し、異なる治療順序の下での結果を復号化することで個々の治療効果を推定するもの。2つのリアルワールドデータセットを用い、T4が治療効果を推定した上で、効果的な治療タイミングを特定できることを実証している。 著者のPing Zhang氏は「あるタイミングに抗菌薬を投与することが有益かどうか、すなわちイエスかノーかを予測するモデルが求められている。しかし、抗菌薬を投与しなかった場合にどうなるかを実証することはできない。そこでモデルでは、臨床的に類似していて抗菌薬投与されていない患者をマッチングし、反実仮想の治療モデルを訓練した。こうして本モデルは敗血症治療が有効かどうかを予測できるようになった」と語る。 参照論文: Estimating treatment effects for time-to-treatment antibiotic stewardship in sepsis 関連記事: 敗血症検出AIに求められること 「敗血症死亡の予測」をAIが改善する ChatGPTは感染症治療の意思決定を支援できるか?

「会話へのAI利用」がもたらす影響

ChatGPTやGPT-4など、大規模言語モデルの先進性を示すニュースが連日報じられている。しかし、この種の技術を日常生活に取り入れる社会的影響はまだ十分に理解されていない。米コーネル大学の研究グループは「会話にAIを用いることで生じる社会的コスト」について調査している。 Scientific Reportsに掲載された同研究では、2種の実験から、対話にAIを利用することのポジティブ/ネガティブな二面性を明らかにした。1つ目の実験では、大規模言語モデルが自動返信するプラットフォーム「スマートリプライ」を用い、219組の参加者には「全員がスマートリプライを使用」「2名のうち1名だけがスマートリプライを使用」「スマートリプライを使用しない」という3条件に割り振って政策課題について討論させた。結果、スマートリプライ使用で「コミュニケーション効率」「ポジティブな感情表現」「コミュニケーション相手からのポジティブな評価」が高まっていた。一方、「スマートリプライ利用をパートナーから疑われた参加者は、自力で返信していると思われた参加者より否定的な評価(協力的ではない・親和性が低い)を受ける傾向」にあった。2つ目の実験では、「スマートリプライなし」「デフォルトのスマートリプライ」「ポジティブな感情トーンを持つスマートリプライ」「ネガティブな感情トーンのスマートリプライ」の4条件で政策課題の討論を行ったところ、ポジティブな感情トーンを持つスマートリプライの存在で、他条件よりポジティブな会話が増加することが明らかとなった。 著者のMalte Jung氏は「テクノロジー企業は、より速くより良くタスクを達成するAIツールの有用性を強調するが、社会的側面が無視されている。我々は孤立して生活しているのではないため、使うシステムは他者との相互作用に影響する。実際にAIを使っているかどうかに関わらず、AIでの文章作成を相手から疑われるだけで、より否定的に評価される傾向には驚いた。これは人々がAIに対して抱く根強い疑念を示している」と語っている。 参照論文: Artificial intelligence in communication impacts language and social relationships 関連記事: Med-PaLM – Googleが提供する医療用大規模言語モデル 大規模言語モデルによる医学論文捏造の可能性 臨床医の信頼を得やすいAIツールとは?

Vianova – リモートケア強化に向けたゲーミフィケーションプラットフォーム

米バージニア州タイソンズに拠点を置くVianovaは、患者のエンゲージメントと健康アウトカムを改善するため、独自に設計したゲーミフィケーションプラットフォームを提供する。これはゲームやアンケート、チャットボットなどの様々なツールを活用し、患者データの収集と行動モニタリング、パーソナライズされた介入の提供を支援するもの。 Vianovaプラットフォームは、AIを活用して患者データを分析し、トレンドとパターンを特定する機能を備える。これにより、医療従事者はよりパーソナライズされ、ターゲットを絞った介入を行い、患者の経過をより効果的に追跡することができるという。ユニークな特徴の1つに、ゲーミフィケーションアプローチがあり、患者はタスクの完了や健康目標の達成によってポイントや報酬を獲得し、プラットフォームへのさらなる参加が促される。このアプローチはモチベーションを高め、治療計画へのコンプライアンスを向上させることが検証によって確認されている。 COVID-19パンデミックを契機として遠隔医療の普及が進むなか、Vianovaプラットフォームはリモートケア能力の強化を目指す医療従事者に、包括的なソリューションを提供する可能性があり、注目を集めている。 関連記事: 位置情報利用モバイルゲーム「Pokémon GO」は抑うつを改善するか? Eye in the Sky: Defender – ビデオゲームで網膜OCT画像をデータ処理 日常データから「子どものADHDや睡眠障害」を予測

メイヨークリニック – ゲノムシーケンスを日常診療に

米メイヨークリニックの「Center for Individualized Medicine(個別化医療センター)」は2020年、研究の発展と患者ケア向上を目指して、2024年までに10万人のゲノムシーケンスデータに関する巨大ライブラリーを作成することを掲げた。現在、7.1万人以上の参加者を誇り、その計画は前倒しで進んでいる。 メイヨークリニックはHelix社との共同研究を行っており、同社が有する次世代シーケンス技術を使用して、疾患リスクを大幅に増加させる可能性のある遺伝子変異をエクソームでスクリーニングしようとする。初期のターゲットは、家族性高コレステロール血症、遺伝性乳がん・卵巣がん、リンチ症候群となる。参加者のゲノム解析結果は電子カルテに返され、日常診療への活用を進める。 同センターのKonstantinos Lazaridis氏は「DNAライブラリーを作成することで、医師が健康問題の素因を明らかにし、患者個々の生涯を通じた予防策を早期に実施できるようになる」と指摘している。 関連記事: 10万人対象のゲノムデータプロジェクト 人種間の「ゲノムデータ格差」 ゲノムとAIによる胃がんの治療効果予測

デジタルツールにより手術室の運用効率を向上

米カンザス州に複数の拠点を持つ学術医療センターであるカンザス大学ヘルスシステム(The University of Kansas Health System)は、手術室運用にデジタルツールを導入することによって、ブロック全体の利用率を20%、全体の手術ボリュームを8%向上させることに成功したという。 カンザス大学ヘルスシステムはカンザスシティに52の手術室を保有し、年間で35,000件以上の外科的処置を実施する。手術室運営に非効率があったことから、医療システムとしてのワークフローとテクノロジーを見直した結果、手術室の利用可能時間の可視化、ブロック管理に関するポリシーの構築、および信頼できるデータが必要との結論に至った。そこで同システムは、ヘルスITベンダーであるLeanTaaSとそのソフトウェアである「iQueue for Operating Rooms」に着目し、プロセスのデジタル化と分析によって、手術室の大幅な利用率向上を達成している。 この手術室運用向けプラットフォームは、豊富なドリルダウン、明確な視覚化、高度な分析によって、リアルタイムに各種パフォーマンス指標を含むデータに容易にアクセス、管理できるようにするもの。 関連記事: 医療機関の人材採用をAIで効率化 Olive – 医療機関における収益サイクルマネジメントの効率化 VinBrain – スタンフォード大学とデータ利用契約を締結

AIによる心エコー初期評価

左室駆出率(LVEF)はエコー検査から心機能を評価する際の重要な指標で、AIによる自動測定技術の開発が進んでいる。米シダーズサイナイの研究チームは、AIと超音波検査士の心エコー評価能力を比較する盲験ランダム化臨床試験を実施した。 Natureに発表された同研究では、3,495件の心エコー検査を対象に、AIまたは超音波検査士によるLVEFの初期評価を行った上で、循環器専門医による最終評価を加えて比較検討した。結果、専門医は、検査士よりもAIの初期評価に同意する傾向が強く、AI群で16.8%、検査士群で27.2%に対して初期評価の修正が加えられていた。また、専門医はこれらの初期評価が「AIと検査士のどちらによって行われたか」を有意に識別することはできなかった。著者らは「AIによるLVEFの初期評価が超音波検査士に劣らないことを示した」と結論付けている。 参照論文: Blinded, randomized trial of sonographer versus AI cardiac function assessment 関連記事: Ultromics – 心エコーAIソリューションでFDA認可を取得 心エコーに基づく新たなAIバイオマーカーを導出 心エコーAIがソノグラファーを上回る

日常データから「子どものADHDや睡眠障害」を予測

JAMA Network Openにこのほど掲載された研究では、ウェアラブルデバイスからの日常的な生体データから、子どもの注意欠陥・多動性障害(ADHD)と睡眠障害の予測を行う機械学習モデルを構築している。米疾病予防管理センター(CDC)によると、ADHDは小児期の最も一般的な神経発達障害の1つで、米国では3歳から17歳までに600万人が罹患しているという。 研究チームは、性別や身体計測値などの基本情報の他、ウェアラブルデバイスから得られる心拍数や歩数、睡眠レベル、カロリー、代謝当量などのデータを利用し、6,000人を超える参加者からサーカディアンリズムに基づく特徴を生成した。構築した機械学習モデルはADHDおよび睡眠障害に対して妥当な予測性能を示し、「ウェアラブルデバイスからのデジタル表現型を用い、ADHDと睡眠問題の早期発見のための、機械学習ベース予測モデルの可能性が示された」と結論付けている。 ADHDは性格傾向として見逃され、適切な診断と介入に至らないケースも多い。日常的データからそのリスクを抽出する新しいスクリーニングアプローチは、早期の医療アクセスを実現し、児の長期予後を改善する可能性がある。 参照論文: Machine Learning–Based Prediction of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and Sleep Problems With Wearable Data in Children 関連記事: 教育・健康データに基づくADHD児予測モデル MRIからADHDを診断するAI研究 位置情報利用モバイルゲーム「Pokémon GO」は抑うつを改善するか?

臨床医の信頼を得やすいAIツールとは?

臨床現場でAI搭載の「意思決定支援ツール」の利用が進むが、どのようなアルゴリズムも常に正しいとは限らない。医師はどのようなプロセスを経てAIの推奨事項を信頼していくか。米コーネル大学の研究チームは「AI意思決定支援システムに対する臨床医の信頼を構築する手法」を提案している。 本年4月開催のCHI 2023で発表予定の同研究では、各専門領域の医師9名と臨床医学図書館員3名にインタビューを行い、「異なる臨床方針が選択された際に、互いの提案を検証するプロセス」を抽出した。この検証プロセスでは、1.科学文献を参照し、2.関連する研究結果を追跡し、3.研究の質および目前のケースにどれだけ近似しているかを考慮していた。研究グループは、このプロセスを模倣した臨床判断ツールを構築し、AIの推奨事項と併せて生物医学的なエビデンスを提示することにした。そのエビデンス提示には大規模言語モデルのGPT-3が用いられ、関連研究の探索と要約が行われる。神経科・精神科・緩和ケア科の3科の医師がツールを試用したところ、「臨床的エビデンスが直感的でわかりやすい」と評価され、「AIの内部構造を説明する」よりも好まれる傾向にあった。 著者のQian Yang氏は「AIの仕組みを学ぶのは、医師の最優先の仕事ではない。医師が信頼を寄せる臨床試験結果や学術論文に基づいてAIの提案を検証するシステムを構築できれば、ケース毎にAIが正しいか間違っているか吟味することができる。本研究は汎用性の高い手法であり、開発中の様々なAIシステムに組み込んで臨床に役立てたい」と語った。 関連記事: AIアシスタントを医療者はいつから信用できるのか? ユーザーは「人間味ある健康アプリ」に信頼を寄せる 英NHS – 医療者のAI利用をサポートする新報告書

LCAST – 乳幼児虐待を識別するアプリ

米イリノイ州シカゴに所在するAnn & Robert H. Lurie Children's Hospitalはこのほど、4歳未満の乳幼児にみられる「あざ」から、虐待の可能性を識別するアプリの提供を開始した。虐待の早期発見は子どもの深刻な受傷や死亡の発生を減少させることが明らかになっており、全米児童虐待防止月間に合わせる形で、今月本アプリの提供開始に至っている。 同院によると、LCASTと呼ばれるこのアプリは、根拠に基づいた意思決定を支援するため、打撲の特徴を分析する。BioDigital社が提供するHuman Platformを利用し、インタラクティブな3Dモデルに対して、ユーザーは子どものあざがある部位をクリックするとともに、他の兆候や症状の有無、傷害事象に関するいくつかの質問に答えることで、「虐待と事故のどちらの可能性が高いか」をアルゴリズムが予測するというもの。LCASTは無償で提供され、AppleおよびAndroidデバイスで利用可能となっている。 LCASTは、米国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受け、同院のMary Clyde Pierce医師が主導した、乳幼児における虐待による打撲の可能性が高い身体部位を特定する「TEN-4-FACESp」と呼ばれる打撲臨床判断ルールを改良した研究成果に基づく。BioDigitalの最高イノベーション責任者であるAaron Oliker氏は「LCASTは、児童虐待防止の分野で重要なマイルストーンとなるもので、医療従事者がリスクの高いケースを特定し予防するための、実用的でユーザーフレンドリーなツールだ」としている。 関連記事: スマートフォン動画による自閉スペクトラム症の識別 AIにより脳性麻痺を早期発見 小児がんサバイバーのQOL予測モデル

加齢によりAI合成音声の識別は困難に

AI合成音声は自動電話サービスやセルフレジ、会話型エージェントシステムなど、生活のあらゆる場面に現れるようになった。多大な恩恵の一方で詐欺に悪用される懸念などから、合成音声であることを人が識別できるかは重要となる。カナダで医療サービスを展開するBaycrestの研究チームは、「AI合成音声に対する年齢層別の知覚特性」を調査している。 International Journal of Speech Technologyに発表された同研究では、Googleの音声合成ソフトWaveNetを用い、若年層(〜30歳)と中高年層(〜60歳)の知覚特性を検証した。被験者にはAI合成音声がどの程度自然に感じられるかを尋ね、人間が話したものかAIが話したものかを識別させた。その結果、若年層と比較して中高年層は合成音声を自然と感じ、正確に区別できない傾向にあることが分かった。 本研究では、AI合成音声に対する識別能低下の要因について、難聴やAI技術への慣れを除外し、「音声に含まれる感情を認識する能力の低下」を仮説に置く。著者のBjörn Herrmann氏は「感情に関する情報を得る際、加齢に伴って、スピーチのリズムやイントネーションより、言葉そのものに注意を払うようになる。一般的にはAI合成音声を識別する際には、言葉の内容よりも、リズムやイントネーションの処理に依存している可能性が高く、このことが高齢層のAI合成音声識別能低下を説明するのではないか」と語る。 参照論文: The perception of artificial-intelligence (AI) based synthesized speech in younger and older adults 関連記事: 次世代の聴覚ケアにおける鍵はAIとスマフォ EarHealth – 耳の異常を検出するイヤホン型システム LUCID社 -「音楽を薬に変える」AIツール開発

手術動作を捉えるAI

Nature Biomedical Engineeringに掲載された最近の研究で、米カリフォルニア工科大学などの研究チームは、手術映像から「外科医の術中動作を解析するための画像認識モデル」を構築し、外科医のパフォーマンス向上に向けた活用を提案している。 研究論文によると、本研究ではロボット手術中に撮影された映像を利用し、術中の手技動作の要素を解読するため、Vision Transformerモデルを採用している。Vision Transformerは2020年にGoogleから発表された画像認識モデルで、自然言語処理におけるブレイクスルーとなったTransformerをコンピュータビジョンに応用したもの。手術針の取り扱いや動きを詳細に識別する同モデルは、非常に高い識別精度で外科処置の複雑な動作を捉えていた。 著者らは「手術映像のサンプルから、術中動作の高精度な画像分析モデルを構築できた」とし、外科手技のばらつきを客観的なモニタリングで捉えることで、全体的なパフォーマンス向上に向けた活用が期待されることを明らかにしている。また、術中動作と患者の長期的な転帰の関連を調べることで、予後改善に向けた取り組みも可能となることが期待される。 参照論文: A vision transformer for decoding surgeon activity from surgical videos 関連記事: MySurgeryRisk – 手術合併症を正確に予測するAIシステム 腹部ヘルニア手術後の有害転帰を高精度に予測 脳外科手術トレーニングでAIチューターが人間の指導パフォーマンスを上回る

「心臓の丸み」から心疾患リスクを予測

心臓において左心房から受けた動脈血を大動脈に送る役割を果たす左心室は、通常円錐形を呈しているが、背景疾患によってこの形状に変化をきたす。特に丸みを帯びて「球形度(sphericity)が高まる」変化について、米スタンフォード大学のチームは、機械学習手法を用い「左心室の球形度から心疾患リスクを予測する」研究を行っている。 Med誌に発表された同研究では、英バイオバンクに含まれる38,897人の心臓MRIデータをディープラーニングモデルで解析し、「左心室の球形度の上昇が心筋症・心房細動・心不全といった心疾患罹患の危険因子である」ことを示した。その影響は、球形度の指数が標準偏差でわずか1ポイント増加すると、10年間での心筋症の罹患リスクが47%増加し、心房細動の罹患リスクが20%増加するという。さらにバイオバンクの記録と照合したところ、球形度は心疾患の遺伝子マーカーと有意な相関関係にあることも明らかになった。 著者のShoa Clarke博士は「心疾患を発症した患者では心臓がより球形に見えることは、循環器学を実践するほとんどの人が知っている。本研究のポイントは、現在の医用画像には使われていない情報が含まれていることだ。これらの画像を見る新しい手法を学び、多くの情報を引き出そうとすることで、医学的な恩恵が受けられる」と語った。 参照論文: Deep learning-enabled analysis of medical images identifies cardiac sphericity as an early marker of cardiomyopathy and related outcomes 関連記事: 胸部X線写真から心疾患リスクを予測 心エコーに基づく新たなAIバイオマーカーを導出 「筋炎に合併の心不全」を心電図からリスク予測

心電図から死亡リスクを高精度予測

カナダ・アルバータ大学の研究チームは、心電図からその後の死亡率を予測するAIモデルを構築し、その性能を検証した。医療における一般的検査として普及する12誘導心電図から死亡リスクを推定するこの技術は、ポイントオブケアでの実用的な予後予測手段となる可能性から大きな注目を集める。 npj Digital Medicineから公開された研究論文によるとチームは、2007年から2020年にかけてアルバータ州で測定された160万件超の心電図データに基づき、測定後30日、1年、5年の死亡率を予測する複数のAIモデル(ResNet、XGBoost)を構築した。結果、より高い性能を示したResNetモデルは、AUCとしてそれぞれ0.843、0.812、0.798を示し、心電図単独から高精度な死亡リスク予測ができる可能性を示している。 チームは、患者を最低リスクから最高リスクまでの5つのカテゴリーに分類し、患者属性情報(年齢と性別)と6つの標準的な血液検査結果(クレアチニン、腎機能、ナトリウム、トロポニン、ヘモグロビン、カリウム)を含めるとさらに高い精度で分類されることも明らかにした。医療における古典的検査が持つ潜在的情報量の大きさが、先端のAI技術によって解明された事例の1つと言える。 参照論文: Towards artificial intelligence-based learning health system for population-level mortality prediction using electrocardiograms 関連記事: 「筋炎に合併の心不全」を心電図からリスク予測 心電図の動的モニタリングで血行動態不安定を検出する新システム 心電図から構造的心疾患をスクリーニングするAI

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