AIの役割と有用性について、循環器病学領域では専門家間における大きな意見の隔たりがある。本年オンライン開催となった欧州心臓病学会(ESC)2021では、第一線で活躍する2名の専門家が「循環器病学領域におけるAI使用の是非」を論じた。
ESC 2021の「Great Debate」セッションでは、英University College Londonで健康情報学部門と心血管科学部門で、それぞれ精密医療学の教授を務めるFolkert Asselbergs氏が「AI推進派」、ウェールズ大学病院名誉教授で、欧州心臓血管イメージング学会の前会長であるAlan Fraser氏が「AI反対派」として活発な討論を行った。
Asselbergs氏によると「AIは、肥大型心筋症患者の中隔の厚さを、臨床医よりもはるかに少ないばらつきで測定するのに役立つなど、特に画像診断におけるメリットが大きい。また、12誘導心電図から心房細動や駆出率を予測することが可能であるなど、循環器科医による専門治療の場だけでなく、専門検査の実施・評価経験が少ないプライマリーケアの現場でもスクリーニングツール活用をサポートできる。さらに先を見据えると、患者が心電図付き携帯端末を使って自宅で診断・予測を行うことや、機械学習を利用した表現型解析が心不全の定義に役立つこと、網膜スクリーニングから冠動脈疾患を予測することなど、個別化医療の進展が期待される」とする。
Fraser氏は「AIはプログラムされたことしかしないため、根本的に愚かである。問題はこれらのプログラムに対し、人間のような思考や意思決定の特性を示唆するような表現を使っていることで、実際にこれらはAIにはない。ニューラルネットワークに関する第二の懸念は、簡単に騙されてしまうこと。膨大な量のデータがあれば、存在しないパターンであっても見つけ出すことができ、これは相関関係は示しても因果関係を証明するものではない。また、現状のAI開発や導入の多くが臨床上の問題ではなく、技術的な理由で行われている」などと反論した。
一方で、両者は「機械は安定し、偏りがなく、利益相反がなく、ヘルスリテラシーを向上させるために明確な情報を提供する可能性がある」点、および「有効利用のためには、より多くの研究が必要であり、誇大広告に流されないこと、セキュリティ、倫理、品質基準、適切な人材育成、ガイドラインやルールなどが必要である」点で意見の一致をみている。種々の医学系学会で主要なテーマとして取り扱われることの増えた「医療AI」は、領域ごとの白熱した議論が続いており、その将来性と有用性の程度を誰もが注視している。
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