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肌色が濃い人々の皮膚画像データが不足 – Lancet誌

皮膚がん診断におけるAIの役割が進化する一方で、学習用の画像データセットに黒人・アジア系など「肌の色が濃い人々の皮膚画像」が不足しているという指摘が相次ぐ。英オックスフォード大の研究者らによって、皮膚がん画像データセットの不備を指摘する調査結果が学術誌Lancetに報告されている。

本研究は英国がん研究機構(NCRI)の年次フェスティバルで発表され、NCRIのリリース内でも紹介されている。研究チームは、世界中のフリーアクセスで提供される21の皮膚病変画像データセット、延べ10万枚以上の画像を精査した。21のデータセットのうち、「病変部画像」と「皮膚拡大鏡検査(ダーモスコピー)画像」の両方が含まれているのは2セットのみであった。14のデータセットには撮影された国の情報が提供されており、そのうち9のデータセットは欧州諸国の画像が含まれていた。肌色の情報が添付されている画像は2,436枚とごく一部に過ぎず、褐色の肌が10枚のみ、濃い褐色または黒色の肌は1枚のみであった。また、民族性の情報についても1,585枚にしか添付されておらず、アフリカ系・アフロカリビアン系・南アジア系は1人も含まれていなかった。

研究を主導したDavid Wen氏は「我々の調査では、大部分のデータセットに重要な情報が含まれていないことを明らかにした。このような画像から開発されたプログラムは、様々なグループ、特に肌の色が濃い人にどのように機能するか不明である。そのような人たちがAI技術から除外されることや害を与えられる可能性も懸念される。医師養成の要となる医学書にさえ、黒人・アジア系の人々の写真が十分に掲載されていないことを私たちは既に認識していたのではないか」と語る。このような事態を防ぐため、Wen氏らはAI開発に使用するヘルスデータの品質基準を作っていきたいとするとともに、肌色の多様性を認識し、AIが全ての患者に恩恵をもたらすような研究の継続を期待している。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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