医療とAIのニュース 2023
年間アーカイブ 2023
薬物関連死を減らすイノベーション・チャレンジ
英国政府のOffice for Life Sciencesは、「薬物関連死を減らすイノベーション・チャレンジ」の一環として、潜在的な薬物関連死の検出、対応、介入を改善することを目的とした技術開発を手掛ける12の有望なプロジェクトに対し、総額500万ポンド(約9.2億円)を投資したことを明らかにした。
公表によるとプロジェクトでは、AIやその他の革新的なテクノロジーによって薬物の過剰摂取を検知し、医療従事者や家族、地域コミュニティに警告を発し、薬物使用者に緊急の救命支援を提供する方法を検討する。具体的には、過剰摂取を検知するAI技術から、緊急警告システム、ドローン技術を利用した緊急時の解毒剤配送システム、介入の必要性を警告するスマートウォッチや呼吸モニターなどのウェアラブル技術まで、多岐に渡る。
薬物の不適切使用による影響は非常に大きく、英国では社会問題化しており、実際同国では毎年4,000人以上が回避可能な薬物の過剰摂取で死亡している。
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AR技術が医療機器販売を刷新
医療機器の販売プロセスにおいて、従来型のパンフレット配布は静的な情報しか提供できず、医療機器の可能性を十分に伝えることが容易ではなかった。オーストラリアのimmertia社は、この問題に取り組むため、AR(拡張現実)とAI技術を組み合わせ、医療機器の展示および販売方法を変革するプラットフォーム「EnhanceAI」を開発している。
immertiaの発表によれば、EnhanceAIは、医療従事者がスマートフォンでQRコードをスキャンすることにより、医療機器の3DモデルをARを用いて自身の環境に投影することが可能となる。この視覚化技術と、営業担当者を模したAIコンシェルジュを組み合わせることで、リアルタイムで顧客の問い合わせに対応することができるという。
この技術により、顧客はより多くの情報に基づいた医療機器の選定ができ、従来の製品パンフレットやビデオデモンストレーションへの依存度が減少する可能性があるとしている。immertiaは現在、EnhanceAIのパイロット版テストに参加する医療機器メーカーを募集している。
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臨床ノートからSDOH情報を抽出
近年、健康の社会的決定要因(SDOH)を扱う研究が注目を集めている。疾患発症や予後に影響を与える上流の因子として、個人や集団の経済的・社会的要因に着目する学問領域で、主に社会疫学者が中心となって研究が深められてきた。米フロリダ大学などの研究チームは、自然言語処理を用いた「臨床ノートからSDOH情報を抽出するツール」について、その一般化可能性に関する検証を行った。
International Journal of Medical Informaticsに掲載された研究論文によるとチームは、このモデルが「異なる臨床環境でどの程度SDOH関連要素を抽出できるか」を評価するため、フロリダ大学関連病院で6ヶ月間に作成された600万件の臨床ノートにこのモデルを適用した。モデルは、13,000のノートに経済的不安、19,000のノートに住居不安のフラグを立てた。NLPの性能は、正解率、陽性的中率、感度、特異度で測定したが、この2つのSDOH情報について全てのパフォーマンス指標で0.87以上を達成していた。
著者らは、SDOH情報の効率的抽出により、個々人の健康アウトカム改善を狙えることに加え、集団ベースの介入策立案にもつながる事実を指摘している。
参照論文:
Generalizability and portability of natural language processing system to extract individual social risk factors
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健康の社会的決定要因を用いた高額医療費の予測
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臨床ワークフロー全体を通じた「ChatGPTの有用性」
大規模言語モデル(LLM)の臨床応用が議論される中、その活用例は「特定のワークフローの一部」に制限され、患者と臨床医への長期的なサポートには至っていない。米国マス・ジェネラル・ブリガム病院グループのチームによる最新の研究では、「ChatGPTが診断、検査、そして疾病管理に至るまでの臨床シナリオ全体に渡る意思決定を支援する能力」を検証している。
Journal of Medical Internet Researchに発表されたこの研究では、36の臨床シナリオを元に、ChatGPTを用いて実際の患者診察をシミュレートし、得られた最終診断や疾患管理戦略を評価した。全体を通じた評価結果では71.7%、最終診断においては76.9%の精度を示した。一方、初期鑑別診断における精度はワークフロー全体の中で最も低く、60.3%であった。
著者のMarc Succi氏は「現状で比較可能なベンチマークは存在しないが、本研究でのChatGPTによる臨床意思決定の精度は、新たに医学部を卒業したインターンやレジデントと同等のレベルと推定している。特にChatGPTは初期鑑別診断で苦戦しており、これは人間の医師が真に価値を発揮する領域であることを再認識させられた」と語っている。
参照論文:
Assessing the Utility of ChatGPT Throughout the Entire Clinical Workflow: Development and Usability Study
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ChatGPTの医学的回答は人間とほぼ識別不可能
MRIにおける画像の乱れを補正
単純レントゲン写真やCTスキャンなど、他の画像モダリティと比較して、MRIは高品質の軟部組織コントラストを提供する価値ある画像種だ。一方で、MRIは動きに非常に敏感であり、わずかな動きも画像アーチファクトとなり、医師の診断を妨げてしまう。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、脳MRIにおける動きを補正することのできるディープラーニングモデルを開発した。最近、テネシー州ナッシュビルで開催されたMedical Imaging with Deep Learning会議(MIDL)で最優秀口頭発表賞を受賞した本研究は、スキャン手順に変更を加えることなく、動きを伴う画像データから「動きのない画像データ」を導くというものだ。物理ベースのモデリングとディープラーニングを組み合わせることで、正確な画像出力を担保しており、不正確な画像生成による診断結果の悪化を防ぐアプローチを実現した。
研究チームは、子どもや高齢者など、静止を維持しにくい症例を中心に、本技術の活用が進むことを予測し、「将来的には、この研究から派生したアプローチにより画像を処理することが標準的な手法になる可能性が高い」と述べている。
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患者質問に対する眼科医とChatGPTの回答品質を比較
ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の日常臨床への導入では、医療アドバイスが患者に誤解を与えないよう、モデルの適切な検証が必須となる。米スタンフォード大学の眼科チームは、「眼科医とChatGPTのアドバイス」を比較した。
JAMA Network Openに発表された同研究では、米国眼科学会に所属する眼科医が患者の質問に回答するオンラインプラットフォーム「Eye Care Forum」から得られたデータを利用した。分析のために選定された200の質問と回答をもとに、ChatGPT(バージョン3.5)が生成した回答を比較分析したところ、ChatGPTの回答と医師の回答を見分ける精度は61.3%であった。また、専門家による評価では、情報の正確さ、医学的コンセンサスとの一致性、患者に危害を与える可能性、の観点でChatGPTと眼科医の間に有意差を認めなかった。
この研究は、LLMによる回答品質が認定眼科医に匹敵するという希望をもたらす一方で、LLMの潜在的な欠点も指摘している。特に、これらのモデルで「幻覚(hallucinations)」としてよく知られる誤った情報の生成は、本研究でも「白内障の手術後に眼球が縮小する可能性がある」といった誤った回答例として確認された。研究チームは、「現状でのLLMの利用は、医師の判断を代行する患者向けAIではなく、医師を支援する目的での利用が理想的である」と示唆している。
参照論文:
Comparison of Ophthalmologist and Large Language Model Chatbot Responses to Online Patient Eye Care Questions
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胃がん・食道がんの特定タイプを検出するAI
米国をはじめとする欧米諸国では、食道がんと胃がんの一部が、過去50年間に劇的に増加しているという事実がある。なかでも致死率の高いEAC(esophageal adenocarcinoma)とGCA(gastric cardia adenocarcinoma)について、米ミシガン大学などの研究チームは、電子カルテデータから発がんリスクを予測する機械学習ツールを構築した。
Gastroenterologyに掲載されたチームの研究論文によると、K-ECAN(Kettles Esophageal and Cardia Adenocarcinoma predictioN)と呼ばれるこのツールは、診断の少なくとも3年前に発がんを正確に予測するという。逆流性食道炎は食道腺がんの重要な危険因子だが、EACやGCAの約半数は発症前にこの種の胸焼け症状を自覚しておらず、「症状の有無に関わらず高リスク者を特定できること」が有用であると主張する。
ミシガン大学の内科学領域で教授を務めるJoel Rubenstein氏は「電子カルテに存在する大量のデータを活用し、スクリーニングの時期や処方のタイミングなど、本ツールによってリスクに応じた最適なプランを提示できる」と述べている。
参照論文:
Predicting Incident Adenocarcinoma of the Esophagus or Gastric Cardia Using Machine Learning of Electronic Health...
LinkedIn最新レポート – 生成AIは医療者の仕事を代替できるか?
ChatGPTのような生成AIの進化が、労働の在り方に大きな変革をもたらす可能性が注目されている。その中で、LinkedInが最近公表した「Future of Work Report AI at Work」では、AI技術の労働市場への影響や労働者の対応状況が示されている。
レポートでは、LinkedIn登録メンバーが自身のプロフィールにAI関連スキルを追加するスピードに関する分析から、10の産業分野におけるAIの採用動向を検討している。その結果、「医療業界のAI採用スピード」は、小売、金融サービス、卸売、政府行政、に次ぐものであった。さらに、生成AIが各職種のスキルをどの程度サポートできるのかについての分析では、看護師のスキルにおける支援可能な部分は全体の6%、医師においては7%と示された。これは米国内の主要な職種の中では最も低い水準であり、一方で、人間特有のスキルの割合は看護師で90%とトップランクで、医師は63%と比較的高い水準に位置している。
これらから、「ヘルスケア業界はAI技術の採用速度が速い一方、AIによる労働の代替可能性は他産業と比較して低い」という結論が導き出されている。
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MIT – 線虫の脳が「行動をコード化する仕組み」を解明
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、非寄生性線虫の一種であるC. elegansを用い、脳神経細胞の厳密な計算によって「運動や摂食といった基本行動のほぼ全てを、どのように符号化しているか」を明らかにした。研究成果はこのほど、Cellから公開されている。
チームの研究論文では、新しい脳全体の記録と、ニューロンが線虫の行動を表現する多様な方法を正確に予測する数学的モデルを発表している。研究チームは、このモデルを各細胞に適用することで、ほとんどの細胞やその回路が、どのように生体の行動を符号化しているかを示すアトラスを作成した。これは脳がどのようにして高度で柔軟な行動のレパートリーを生み出しているのか、その根底にある「論理」を明らかにするものとなる。チームは独自の顕微鏡、機械学習に基づくソフトウェアシステムを考案し、行動観察とともにニューロンの活動を観測(細胞はカルシウムイオンが蓄積すると点滅するように設計されている)することでこの成果を得ている。
著者らは「行動情報は、脳全体に渡って様々な形態で豊かに表現されている」と述べた上で、「そのチューニング、タイムスケール、柔軟性のレベルは、線虫コネクトームの定義されたニューロンクラスに対応している」とし、研究成果の革新性を強調している。
参照論文:
Brain-wide representations of behavior spanning multiple timescales and states in C. elegans
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AIによる脳波解釈
眼球スキャンでパーキンソン病の兆候を7年前に検出
眼は身体の「窓」であり、眼の観察によって「身体状況に関する多くの要素」を評価できる。関連して、眼球スキャンデータを中心とした「oculomics」という新しい研究領域が注目を集めている。oculomicsでは、アルツハイマー病や多発性硬化症、統合失調症といった疾患群の早期検出を目指した取り組みが続く。英国ムーアフィールズ眼科病院とユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、「眼球の3Dスキャン技術を用い、パーキンソン病(PD)の臨床的な症状が現れる平均7年前の段階で、疾患の存在を示唆するマーカーを捉えた」とする成果を、Neurologyに発表している。
本研究では、光干渉断層計(OCT)という眼球スキャン装置を用い、網膜の断面画像データを取得している。これに機械学習手法を適用し、PD患者の網膜に特有のバイオマーカーを探索した。英国の大規模健常者データベース「UKバイオバンク」を用いた解析により、網膜の内核層(INL)や神経節細胞内叢層(GCIPL)が、PD症状が現れる数年前から侵され始め、層の厚み減少を疾患マーカーとして利用可能であることを明らかにした。マーカーに基づいてリスクが指摘された患者は、平均で2,653日後(約7年後)にPDの臨床症状が発現していた。
研究チームでは、OCTスキャンの利点として、非侵襲的で低コストかつ迅速である点を挙げている。著者でムーアフィールズ眼科病院のSiegfried Wagner氏は「特定の個人がパーキンソン病になるか予測する準備はまだ整っていないが、本研究の手法が近い将来、リスク患者のスクリーニングツールとなることを願っている。症状発現前に兆候をみつけることが、発症の予防に役立つ時間の猶予を与えてくれる」と語った。
参照論文:
Retinal Optical Coherence Tomography Features Associated With Incident and Prevalent Parkinson Disease
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LLM構築と利用は医療者が推進すべきか?
医療における大規模言語モデル(LLM)利用への関心が高まっており、その恩恵が期待される。これに関連して、今月JAMA誌に掲載された短報によると、米スタンフォード大学の研究者らは「医療における大規模言語モデルの構築と利用」について、「そのプロセスは医療業界が積極的に形成していく必要がある」と主張している。
報告によると、一部の医療関係者は、テクノロジー企業が開発した既存のLLMを活用し、これらのツールが医療をどのように再構築できるかを検討しようとしているという。一方、著者らは「LLMやチャットボットの意図する医療用途が、その開発やトレーニングをどのように形成し得るかを検討する」という逆のアプローチを提案した。LLMやこれを搭載したアプリケーションが、医療をどのように再構築するのか、単に疑問に思うだけでは、これらのツールが医療でどのように使用されるのかを形成する主体性が失われてしまうことを指摘する。
具体策として、医療システムが自らのデータを用いて、共有のオープンソースモデルをトレーニングすること、LLMが提供し得る望ましい利点を専門家観点から特定すること、実世界での展開における評価に積極的に関与すること、などを挙げている。
参照論文:
Creation and Adoption of Large Language Models in Medicine
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機械学習モデル「ELDER-ICU」 – 高齢ICU患者の死亡リスクを予測
高齢者に特有の併存疾患や虚弱(フレイル)は、急性期医療における死亡リスク上昇と密接に関連している。国際的な多施設研究により、ICUに入院した65歳以上高齢者の重症度を評価する機械学習モデル「ELDER-ICU」が開発されている。本モデルは米国内14病院のデータに基づいて設計、米国とオランダの171病院で検証され、その成果がThe Lancetに発表された。
「ELDER-ICU」モデルは、XGBoostアルゴリズムを用い、ICUに入院した高齢者の院内死亡率を予測する。予測因子として、ICU入室後24時間の患者データから、6つの主要カテゴリー(患者属性と併存疾患、虚弱、臨床検査、バイタルサイン、治療の内容、尿量)が採用されている。検証結果によると、死亡リスクの最も重要な予測因子上位10項目は、GCS(意識障害分類スケール)、総尿量、平均呼吸数、機会換気の使用、活動状態、CCI(チャールソン併存疾患指数)、GNRI(老年栄養リスク指数)、コードステータス(急変時処置の事前希望)、年齢、BUN(血中尿素窒素)であった。さらに予測因子総数の中から上位20項目に絞り込んだシンプル版の「ELDER-ICU-20」も、オリジナルの完全版と比較して同等の予測精度を持っていることが明らかにされた。
「ELDER-ICU」モデルは、高い院内死亡リスクを持つ患者を特定し、臨床医に速やかに通知する能力を持っている。既存の臨床スコアや死亡率予測モデルにはほとんど含まれていない、高齢者特有の特徴、例えば身体的虚弱、コードステータスなどを取り入れている点で、本モデルは大変ユニークとなる。表現が難しく複雑で多面的な概念を含むELDER-ICUモデルは、さらなる検討の余地を秘めており、その発展が期待されている。
参照論文:
Illness severity assessment of older adults in critical illness using machine learning (ELDER-ICU): an international multicentre study with subgroup bias evaluation
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高齢者のER受診と入院を79%減少させるAIツール
「ICUせん妄」の発症予測
...
機械学習による「心房細動後の早期死亡予測」
英仏の国際共同研究チームは、「心房細動診断後、1年以内の死亡発生」を予測する機械学習モデルを構築した。研究成果はAmerican Heart Journalからこのほど公開されている。
チームの研究論文によると、心房細動は死亡リスクを伴う重要疾患である一方、通常の臨床的危険因子に基づくスコアではリスク予測が十分ではないことを指摘する。研究では、2011年から2019年にフランスの病院で新たに心房細動と診断された、240万を超える症例コホートを利用している。コホートの70%をトレーニングセットとし、診断後1年以内の死亡率を予測するための3つの機械学習モデルをトレーニングした。検証セット(30%)において最良の性能を示したディープニューラルネットワークは、c-indexとして0.785(95%信頼区間0.781-0.789)を示し、Charlson Comorbidity IndexやHospital Frailty Risk Scoreなどの既存指標を上回っていた。
研究チームは「構築した機械学習モデルは心房細動診断後の早期死亡を予測し、臨床医が死亡リスクの高い心房細動患者をより適切にリスク層別化するのに役立つ可能性がある」と述べている。
参照論文:
Prediction of early death after atrial fibrillation diagnosis using a machine learning approach: A French nationwide cohort...
最新医療テクノロジーに対する世代別の受容性調査
医療分野において最先端の技術である、AI、ロボット、ナノテクノロジーについて、一般の人々はどう受け止めているか。Innerbody Research社が行った世代別の調査によれば、ベビーブーマー、X世代、ミレニアル世代、Z世代までに渡る1,000名を超える調査参加者の中で、64%が「AIの診断を人間の医師の診断よりも信頼する」と回答していた。
特にZ世代(1997-2012年生まれ)では82%という高い割合で、医師よりもAIを信頼すると答えていた。また、医療画像の解析におけるAIの使用は、全世代合わせて60%が「快く受け入れる」と回答した。一方、ロボット技術の医療分野での応用に関しては、X線やCTスキャンなどの画像検査ではリスクを感じにくいが、人工股関節置換術、心臓バイパス手術、帝王切開分娩、などの手術に関しては全ての世代でロボット支援に懐疑的であることが明らかになった。
ナノテクノロジーの応用に対しては、67%が「医療者からの勧めに基づい施術を受ける可能性がある」と答えていたが、その人体への長期的影響を懸念する声が69%と多数派を占めており、新しい革新的な技術の受け入れとともに、安全性への懸念が全ての世代に残っていることが読み取れた。最先端の技術に対する意識は世代によって異なることが調査から示され、受け入れと懸念の背後には、さまざまな文化的、社会的背景が存在するとしている。
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医療AIへの信頼性を探る – GEヘルスケア「Reimagining Better Health」レポート
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「Abridgeの自動臨床メモ生成ツール」がEpicに統合
電子カルテなどの医療機関向けシステムを開発する米Epicはこのほど、医療会話を適切に要約し、構造化メモとして記録することのできるAbridgeの文書化ソリューションを、同社カルテシステムに統合することを明らかにした。
Abridgeは、Epicの「Partners and Pals」プログラムの最初の「Pal」となる。この提携により、AbridgeのAIベースの文書化ソリューションがEpicの臨床ワークフローに統合され、医療者は患者との会話をリアルタイムに、構造化メモとして記録できるようになる。AbridgeのCEOであり、自身も循環器内科医として診療経験の豊富なShivdev Rao氏は「私が最もよく使い、よく知っている電子カルテであるEpicと提携できることは光栄だ」と話す。
Abridgeを使用する医療従事者は現在、1日平均2時間を節約しているとし、Epicのワークフローに深く統合することで、さらなる時間節約の機会が生まれることを強調する。実際、EpicのEHRツールとして機能することで、外部のアプリやウェブサイトと比較し、医師が投資する時間を最大75%短縮することを見込む。
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医師の「パジャマタイム」を減らすAIアプリ
AIカルテスタートアップ – エラー対応に人間を使う
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医学生向け医療AI準備尺度「MAIRS-MS」のペルシア語版研究
トルコ・エーゲ大学の研究チームが発表した「医学生向け医療AI準備尺度(MAIRS-MS:Medical Artificial Intelligence Readiness Scale for Medical Students)」は、この新たな時代に医学生がどれだけ適応できているかを評価する重要なツールとして、利用が進み始めている。MAIRS-MSは、医学生のAI技術やAIアプリケーションへの準備状況を、認知・技能・視覚・倫理の4点を通して、効果的に評価できるスケールとして設計されている。
オリジナルのMAIRS-MSは英語版として開発されたが、イランのマシュハド医科大学における最近の研究では、その「ペルシア語版」の効果が検証された。BMC Medical Educationに発表された本研究では、オリジナルの質問票における全22項目が専門の翻訳者によりペルシア語に翻訳され、バイリンガルの教員の協力により、意味・正確さ・言い回し・スペリング・文法の各面で精査と修正が施された。さらにAIの専門家である教員による最終チェックを経て、ペルシア語版MAIRS-MSの質問票が完成した。マシュハド医科大学の医学生502名を対象に実施された調査では、ペルシア語版の質問票への回答を基に、その妥当性と信頼性が、オリジナルの英語版と同等であることが確認されている。
AIに関する医学教育カリキュラムには、先進国と開発途上国との間での格差が指摘されている。これに対処するため、各地域で適切な評価尺度が求められている。ペルシア語版MAIRS-MSは、イラン国内の医学生の医療AIへの準備状況を効果的に評価し、それに基づく具体的な教育の改善策を立案・実施するための重要な基盤を提供することが期待されている。
参照論文:
Psychometric properties of the persian version of the Medical Artificial Intelligence Readiness Scale for Medical...
Forbesが選ぶ「次のヘルスケア・ユニコーン企業」
Forbesが15日公開した「Next Billion-Dollar Startups 2023」では、米国でベンチャーキャピタルからの支援を受ける5万社のスタートアップのうち、ヘルスケアに特化した下記4社が「評価額10億ドル以上」に至ると予測している。
未来のユニコーン企業に選出されたのは以下の4社。
- Chapter:6100万ドルを調達し、昨年の推定売上が1500万ドルであるChapterは、利用可能なすべての医療保険オプションを検索し、各顧客に最適なプランを提示するシステムを提供。
- Medallion:8500万ドルを調達し、昨年の推定売上は1300万ドル。医師免許の確認や医師の保険ネットワークへの登録など、医療事務の煩雑な作業を自動化する。
- Pendulum Therapeutics:1.16億ドルを調達し、昨年の推定売上が1100万ドルである同社は、2型糖尿病治療用のプロバイオティクスやその他の腸内健康製品を開発。
- Verifiable:4700万ドルの資金を調達し、昨年の推定売上は600万ドル。従来手作業で行われていた医療従事者の資格確認作業を、デジタル検証に置き換えるサービスを提供。リード投資家の1人に、OpenAIのサム・アルトマンを持つ。
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2022年版「AI 100」- 世界の有望AIスタートアップ100選
「FDA承認済みAI医療機器」を複数有する企業10社
AIによる「医療外支援ニーズ」の特定
AI技術の進化は医療現場における効果的・効率的なケア実現の道を拓いている。近年、患者の交通手段や住居、食料供給、支援者や家族および友人の有無など、「健康に影響を及ぼす社会的決定要因(SDoH:social determinants of health)」に注目が集まっている。米ミシガン大学の研究チームは、これら「医療外の支援ニーズ」を持つ患者を特定可能な新しいAIツールの開発に取り組む。
Health Services Researchに発表された同研究では、医療外で特に複雑なニーズを持つ認知症患者に焦点を当てている。認知症患者は、日々の生活で多くの支援を必要とし、そのニーズは多岐にわたる。本研究では、ミシガン大学病院で診断済みの231名の認知症患者に対し、ソーシャルワーカーが作成した7,401件の記録から1,000件を抽出した。研究チームはこれらのデータから7つのSDoH(住居、交通、食事や服薬、社会的孤立、虐待、ネグレクトや搾取、経済的困難)を特定するルールベースの自然言語処理(NLP)ツールを開発し、その要因を正確に抽出することに成功した。さらにこのNLPツールはSDoHの特定において、ディープラーニングモデルやロジスティック回帰モデルよりも優れたパフォーマンスを示した。
著者のElham Mahmoudi氏は「このアルゴリズムが、認知症患者など社会的に脆弱な患者集団の医療外ニーズに対処するためのツールとなり、臨床医、ケースマネジャー、ソーシャルワーカーらにとって有用な可能性がある」と語った。研究チームは今後、ミシガン大学病院の全プライマリケア患者に提供されるSDoH質問票に対して、このツールを前向きに検証することを予定している。
参照論文:
Natural language processing to identify social determinants of health in Alzheimer's disease and related dementia from electronic health...
AI支援による乳がん検診の臨床的安全性評価
スウェーデンでは毎年約100万人の女性が乳房X線検査、いわゆるマンモグラフィを乳がんスクリーニングとして受けている。マンモグラフィの感度を担保するため、通常は2名の医師が画像を読影しているが、スウェーデンにおいても「読影医不足によって検診サービス維持が困難である」という課題が存在する。これに対し、AIによる読影支援が期待されており、スウェーデン・ルンド大学の研究チームが「マンモグラフィに対するAI使用の臨床的安全性を評価する前向き試験」を行っている。
Lancet Oncologyに発表された同試験は「AIによるマンモグラフィ検診(MASAI: Mammography Screening with Artificial Intelligence)」というもの。約8万人の女性がAI介入群と、二重読影による対照群に分けられた。中間解析結果によると、AIの支援により、偽陽性率を変動させることなく、従来の読影と同等のがん発見率を維持しつつ、読影作業量を44%減少させることが明らかになっている。この結果をもとに、AI支援の安全性を確認するとともに、主要評価項目である「インターバルがん(検診と検診の間に発見される予後不良ながん)」の発生率評価のための追跡調査を継続し、参加者は最低2年間追跡される予定となっている。
研究チームによれば、AIの活用による時間短縮は、約4万件の検診を読影する場合において、放射線科医の読影作業を約5ヶ月間短縮することに相当するという。著者のKristina Lång博士は、「スクリーニングはその有益性と有害性のバランスが複雑で、あるスクリーニング法がより多くのがんを発見したとしても、それが必ずしも優れた方法であるとは限らない。臨床的に重要ながんを早期に発見する手法が必要であり、偽陽性や進行していないがんの過剰診断という問題も考慮しなければならない。作業量の大幅な削減にも関わらず、がん発見率が低下しなかったという今回の解析結果は、AIを活用した乳がん検診が安全である可能性を示している」と語った。
参照論文:
Artificial intelligence-supported screen reading versus standard double reading in the Mammography Screening with Artificial Intelligence trial (MASAI):...
神経変性疾患研究における機械学習
medRxivにプレプリントとして投稿されたスコーピングレビューにおいて、カナダ・マギル大学などの研究チームは、神経変性疾患の診断・予後・治療効果予測の分野における機械学習手法の有用性を探った。
神経変性疾患は、中枢神経の障害を引き起こす進行性の疾患群で、その多くは原因不明であるとともに特定疾患として難病に指定されている。最も一般的な神経変性疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病などがある。米国では、アルツハイマー病とパーキンソン病が最も一般的な神経変性疾患であり、推計によると最大620万人がアルツハイマー病を患い、パーキンソン病は100万人が罹患している。世界の多くの国々で平均寿命が延びるにつれ、これら神経変性疾患の有病率も上昇すると予測される。
難病の管理を改善するためには、病因を理解し、正確な診断・予後予測ツールを開発するとともに、標的療法を発見することが重要となる。神経変性疾患研究の分野では、疾患関連データを迅速かつ正確に解析するための機械学習手法の利用が近年急速に増加しており、これは診断や治療法の革新を支援するために不可欠なアプローチと見られている。スコーピングレビューによると、機械学習を用いた研究の数は、2016年の172件から2020年には490件にまで増加しており、技術導入は単純計算で185%増加したことになる。アルツハイマー病とパーキンソン病は、機械学習を用いた神経変性疾患の中で最も研究が進んでいる疾患である。
また、最も多く解析されたデータタイプは画像であり、次いで機能解析、臨床解析、生物試料解析、遺伝子解析、電気生理学的解析、分子生物学的解析であった。アルツハイマー病では画像データが、パーキンソン病では機能データが、それぞれ最もよく使用されるデータタイプであった。特に、画像データの約68%がアルツハイマー病関連であり、機能データの76%がパーキンソン病関連であった。著者らは、神経変性疾患の臨床経過を改善するため、AIアプローチの積極採用が進んでいるとし、今後もこの傾向が続くことを予測している。
参照論文(プレプリント):
The Use of Machine Learning Methods in Neurodegenerative Disease Research: A Scoping Review
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昆虫の神経回路に学ぶ衝突回避システム
歩行で神経変性疾患を識別
切断肢の末梢神経信号に基づく「直感的なAIロボットアーム」
胸部X線画像から糖尿病を早期発見するAI
糖尿病は世界的に増加傾向にあり、その早期発見は極めて重要になっている。簡易的な糖尿病スクリーニングは、体格指標であるBMI(Body Mass Index)などを参照するが、さらなる効率化・有効化に向けた新たな試みとして、米イリノイ大学シカゴ校(UIC)の研究チームが、胸部X線画像から糖尿病リスクを予測する研究を行っている。
Nature Communicationsに発表された同研究では、16万人以上の患者から収集した27万枚以上の胸部X線画像データを用いて、ディープラーニングモデルを構築し、糖尿病と診断される患者の画像的特徴を抽出した。この結果、開発されたAIモデルは、画像データを利用しない電子カルテデータベースのモデルと比較して、糖尿病リスクの予測に優れていることが示された。さらに研究の中で同AIモデルは、糖尿病や高血糖の診断を受けていない高リスク患者1,300名を特定し、そのうち約150名は既存の糖尿病スクリーニングガイドラインの年齢やBMIの基準を満たしておらず、疾病リスクが見逃される可能性の高い患者であった。本研究で得られたAIモデルは、特定部位の脂肪率とリスク予測精度の相関関係を明らかにしており、説明可能なAIとしての理論背景も有している。
著者でUICのBrian Layden氏は、「我々の取り組みは、他の目的で収集されたからデータから新たな情報を引き出すAI手法である。例えば、肺炎の有無を確認する胸部X線検査を通じ、他の健康問題を見つけ出すことができる。これは非常に革新的でエキサイティングなアイディアだ」と語った。
参照論文:
Opportunistic detection of type 2 diabetes using deep learning from frontal chest radiographs
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術後の高リスク患者を予測するAIモデル
外科的手術は時に欠かせない医療行為だが、術後の合併症リスクは無視できな現実として存在する。COVID-19流行前には、全世界で年間約420万人が手術後30日以内に死亡していたとの推計もある。これは心疾患と脳卒中に次ぐ驚異的な高値である。米ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の研究チームは、電子カルテデータを活用し、術後の高リスク患者を事前に特定するAIモデルを開発した。
JAMA Network Openに公開されている同研究は、UPMC医療ネットワーク内の20に及ぶ医療機関で手術を受けた患者145万人以上を対象として実施された。うち125万人以上の手術患者データをもとにアルゴリズムのトレーニングを行い、その性能を20万人の手術患者で前向きに検証している。結果、開発されたAIモデルは、アメリカ外科学会(ACS)の既存モデルNSQUIPを上回る高い性能を持って、死亡リスクを高精度に予測することが明らかとなった。
本研究を主導したAman Mahajan氏は、「多忙な医療者にとって、術後高リスク患者の特定は簡単な作業ではなかった。従来、臨床医は多くのデータを統合し、追加の検査や臨床評価を頻繁に行う必要があった。我々は既存の電子カルテデータを利用できる使いやすいモデルの構築を目指した」と述べている。
参照論文:
Development and Validation of a Machine Learning Model to Identify Patients Before Surgery at High Risk for Postoperative Adverse Events
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増悪指標DTIが内包するバイアスリスク
JAMA Network Openに掲載された、米ミネソタ大学の新たな研究によると、院内での病状増悪を予測する機械学習モデル「Deterioration Index(DTI)」が、緩やかに患者転帰を予測する一方で、患者属性によってその性能が変動する事実を指摘し、さらなる検証が必要であるとしている。
院内での増悪は人工呼吸器への接続やICUへの移動、院内死亡などを指すが、病院における回避可能な死亡の約15%が臨床的兆候を見逃したことに起因するという。この問題に対処するため、増悪を予測するツールとして2017年に開発されたのがDTIで、現在、全米数百の医療機関がこのモデルを利用する一方、系統的な外部検証の不足が指摘されていた。本研究では、中西部8つの医療機関で500万件を超えるDTI予測を行っている。特にサブグループ解析において、アメリカンインディアンまたはアラスカネイティブであると自認する患者では、バイアス指標は14%悪化したこと、民族を明らかにしなかった患者では19%悪化したことなど、患者背景によって性能が不安定になる事実を明らかにしている。
著者らは「DTIが患者の悪化を予見することはそれなりに可能である」と結論付けた一方、バイアスに対応するため、さらなる対策を求めるとともに、モデルのトレーニングデータの透明性を担保し、追加検証を行うことを主張している。
参照論文:
Validation of a Proprietary Deterioration Index Model and Performance in Hospitalized Adults
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Insilico Medicine – 臨床試験結果を予測するAIツール
AI創薬に取り組むInsilico Medicine はこのほど、独自のTransformerモデルを用いた臨床試験予測ツール「inClinico」を用いて、フェーズⅡからフェーズⅢの臨床試験の成功結果を高い精度で予測できることを実証した。この研究はClinical Pharmacology and Therapeuticsに掲載されている。
研究論文には、フェーズⅡ臨床試験の成功確率を予測するために訓練されたAIエンジンの検証として、レトロスペクティブ検証、準プロスペクティブ検証、プロスペクティブ検証の3種が含まれている。inClinicoは、生成AIとマルチモーダルデータ(テキスト、オミックス、臨床試験デザイン、低分子の特性を含む)を活用する様々なエンジンを組み合わせ、過去7年間に行われた55,600以上のユニークなフェーズⅡ臨床試験でトレーニングされた。モデルは、プロスペクティブ検証セットにおいて、実臨床試験の結果について79%の精度で予測できることを実証している。
医薬品開発の約90%は臨床試験段階で失敗するとされる。その理由は、有効性を示せないこと、安全性への懸念、疾患やデータの複雑さなどであり、その結果として多額の資金と長期に及び投じた労力が失われる。研究者らは、ツールによって成功可能性に基づいた意思決定支援が可能であることを強調している。
参照論文:
Prediction of clinical trials outcomes based on target choice and clinical trial design with multi-modal artificial intelligence
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AIによる脳血管疾患の新たなバイオマーカー
脳組織の萎縮など加齢による変化は、脳血管周囲腔の拡大(ePVSs: enlarged Perivascular Spaces)を引き起こし、MRIなどの画像検査ではこれらが散在している様子を捉えられる。ePVSsの増加は脳卒中や認知症との関連が示唆されてきた。一方で、放射線科医が手作業によって、1つ1つを日常的に評価することは現実的ではない。米テキサス大学の研究チームは「MRI上のePVSsを特定し、定量化するAIツールの有用性」を調査している。
JAMA Network Openに掲載された同研究では、ディープラーニングアルゴリズムを用いて自動化されたePVSsの定量を行い、その臨床的な価値を評価した。その結果、大脳基底核と視床におけるePVSsの増加が、脳小血管障害の代替バイオマーカーとなり得ることを明らかにした。
研究を主導したMohamad Habes博士は、「脳の病変をAIなしで定量することは極めて困難だった。しかし、革新的なディープラーニングツールの開発により、ePVSsを正確にカウントし、小血管の障害分布を示すことが可能となった。これは脳血管疾患と認知症の研究における大きなブレークスルーで、全米のアルツハイマー病研究センターでの大規模研究に役立つと考えている」と述べた。
参照論文:
Assessment of Risk Factors and Clinical Importance of Enlarged Perivascular Spaces by Whole-Brain Investigation in the Multi-Ethnic Study...
Axial3D「INSIGHT」 – 医療画像3D化プラットフォームがFDA認可
CTやMRIによって得られる医療画像は通常、積層型の平面画像(2D)データとして提供されるが、これを立体(3D)に再構成して視覚化することにより、医師の診断能力や治療計画の精度を向上させる可能性がある。Axial3D社は、2D画像を3Dに変換するAIを活用したクラウドベースのプラットフォーム「INSIGHT」を開発し、同製品が米食品医薬品局(FDA)から認可を取得したことを発表した。
Axial3DのINSIGHTは、CTやMRIによる2D画像から、3D視覚化や3Dプリント対応ファイルへ変換するプロセスを自動化する。これにより、従来のシステムで必要であった手動または半手動のセグメンテーションという煩雑な作業を省力化できる。さらに、このクラウド上のプラットフォームは、同一のリソースで多数の患者データを処理することで、「個別化医療の高速化」に貢献する。
Axial3DのCSOであるDan Crawford氏は「Axial3D INSIGHTがFDA認可を得たことは、我々の進歩を示している。高度な自動化やAI/機械学習を駆使し、卓越した患者ケアを提供するためのチームの取り組みを誇りに思う」と語った。
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Duke HealthとMicrosoftが生成AIパートナーシップを締結
米Duke HealthとMicrosoftは、生成AIとクラウド技術を活用した「倫理的かつ責任あるAI開発」を目指し、5年間に渡るパートナーシップを発表した。
これは、Duke Healthが持つ医学研究および患者ケアに関する専門知識と、Microsoftが持つテクノロジー開発および導入に関する経験を融合させることを目的とする。発表によると、このパートナーシップはDuke Health AI Innovation LabとCenter of Excellenceの設立をサポートする。
Duke大学医療システムのCEOであるCraig Albanese医師は「次世代の医療を提供するというDuke Healthのコミットメントは揺るがない」とした上で、「このコラボレーションを通じて、我々は医療の未来を現在にもたらし、革新的な新しい常識を作り上げることを目指す」と述べた。
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スマホを聴診器に – FDA認可のAIソフトウェア「Stethophone」
カナダ・ニューファンドランド州に本拠を置く「Sparrow BioAcoustics」が開発したAIソフトウェアは、市販のスマートフォンを医療用聴診器として利用することを可能にする。
同社は6月、当該ソフトウェア「Stethophone」が米食品医薬品局(FDA)の認可(クラスII医療機器)を受けたことを明らかにしている。スマートフォンにダウンロードして利用可能なStethophoneは、高度な音響処理技術により、スマートフォンに高感度な心臓・肺の聴診機能を提供するもの。スマートフォン単体で利用でき、他のデバイスを接続するなどの必要性が無いことが最大の特徴で、スマートフォンのマイク部分を患者の胸に押し当てて使用する。
同社CEOのMark Attila Opauszky氏は「我々の目標は、心臓や肺の症状がいつ・どこで発生しても、迅速に検出できるようにすることだ。心音・肺音には診断に必要な情報が多く含まれており、医療機関はこのデータを日常的に取得し、患者のために活用する実用的な方法を必要としている」と述べており、Stethophoneが新しい病変検出・モニタリング手法を提供する可能性を強調している。
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AIによる感染症研究の革新
感染症は世界的な難題で、研究者たちは何十年にも渡り、疾病の蔓延を有効に制御するための学際的アプローチを探究してきた。AIは感染症研究のツールとしては比較的新しいものだが、その存在感は短期間で急速に強まり、喫緊の課題解決を加速させている。米ペンシルベニア大学とマサチューセッツ工科大学の研究者らは、「AIが感染症研究にどのような変化をもたらしたか」についてまとめたレビュー論文を公開した。
Scienceに掲載された総説では、AIによる感染症研究の進歩・限界・将来性について、創薬、感染生物学、診断、という3つの主要分野を論じている。
1.創薬
先進的な機械学習技術によって、AIは大規模なデータセットを解析し、人間が見落とすようなパターンを特定することが可能になっている。このアプローチにより、有望な化合物と薬剤のスクリーニングと選択が高速化し、効果的な治療薬の開発が大いに促進されている。
2.感染生物学
AIは感染生物と宿主免疫システムとの間の複雑な関係を解析し、疾患メカニズム、感染の動向、宿主と病原体の相互作用に関する重要な洞察を提供する。これにより、ターゲットを絞った介入策や予防戦略の開発に貴重な情報を提供している。
3.診断
AIは医療用画像、ゲノムデータ、臨床記録を分析することで、より早期に正確な診断を行うことを可能にし、感染症の蔓延を抑えるためのタイムリーな治療介入を促進している。
研究者らは、解釈可能で説明可能、生成的な機械学習アプローチがさらに進化することを期待しており、これが次世代の治療薬・ワクチン・診断法の設計に寄与すると信じている。
参照論文:
Leveraging artificial intelligence in the fight against infectious diseases
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サウジアラビアにおけるVR/AR医療技術への医師の反応
仮想現実(VR)および拡張現実(AR)は、機器の小型化と可搬性向上、感覚的な体験の質的向上により、医療での応用も急速に広がっている。サウジアラビア・タイフ大学の研究グループは、同国内の医師を対象としたAR/VR技術への認識状況を明らかにした。
オープンアクセスジャーナルCureusに公開された同研究では、サウジアラビア西部地域で活動する医師220名(女性45.9%、男性54.1%)を対象に、VR/AR技術に関するアンケート調査を実施している。53.2%の回答者が25-30歳で、キャリア5年未満の医師が多数であったが、32.3%が「AR/VR技術に慣れ親しんでいる」と回答していた。「医療におけるこれらの技術活用は有用だ」との回答は64.5%で、特に優れていると認識する分野は、視覚化(42.7%)、診断(37.3%)、治療(35.0%)が挙げられた。また、41.4%が将来的に医学的判断の際にVR/AR技術を常用する意向を示していた。
この研究成果は、スイス、英国、ドイツなど他の国々の先行研究と一貫しており、医療者の中で技術への認知度が低い場合でも、多くがVR/AR技術の医療応用を肯定し、潜在的にポジティブな影響を与える点に同意している。一方で、技術の費用対効果については意見が分かれており、研究チームは、この技術の認知度と使用率を向上させるためには、いくつかの障壁を解決する必要がある、と指摘している。
参照論文:
Perceptions of Doctors in Saudi Arabia Toward Virtual Reality and Augmented Reality Applications in Healthcare
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