年間アーカイブ 2023

Hippocratic AI – 医療向け大規模言語モデルの構築

医療業界特化の大規模言語モデルの構築を目指すHippocratic AIはこのほど、シードラウンドで5000万ドル(約68.5億円)を調達したことを明らかにした。Hippocratic AIはシリアルアントレプレナーのMunjal Shah氏が今年立ち上げたもの。OpenAIの躍進を受け、大規模言語モデルへの大きな注目が後押しし、シリコンバレーの投資家による稀有な大規模ラウンドに結びついた。 Hippocratic AIは医療特化の大規模言語モデルにより、ベッドサイドコミュニケーションを含めた特定のユースケースでの有効性確保を狙っており、特徴的なのは医療系スタートアップでありながら「診断領域」を目指さないこととなる。同社は「診断以外の作業に焦点を当てることで、複数の分野において効果的に規制をクリアすることができ、広く臨床利用されること」を狙う。 本ラウンドはGeneral CatalystとAndreessen Horowitz(A16z)が共同で主導しており、A16zのJulie Yoo氏は「Hippocratic AIは、彼らが構築するシステムの安全性やコンプライアンス、プライバシーの側面について非常に厳格な態度を持っており、だからこそより多くの資金を必要としている。この事実は、我々に大きな安心感を与えるものだ」としている。 関連記事: Med-PaLM – Googleが提供する医療用大規模言語モデル 大規模言語モデルによる医学論文捏造の可能性 大規模臨床言語モデル「GatorTron」

ChatGPT – 放射線科専門医試験で合格基準に到達

ChatGPTの専門領域への回答性能が検証される中、カナダ・トロント大学の研究チームは、放射線科専門医試験における検証を行い、画像以外の多肢選択問題で合格基準レベルに達するパフォーマンスを確認した。 Radiologyに発表された同研究では、最頻用バージョンのChatGPT(GPT-3.5)に対して、カナダ王立大学と米国放射線学会の試験の形式に合わせた150問の多肢選択問題を出題した。試験に画像問題は含まず、61問の低次思考問題(知識・基本的理解)と89問の高次思考問題(応用・分析)にグループ分けしている。結果、ChatGPTは69%の正答率(104/150問)を示し、これはカナダ王立大学が提供する診断放射線学試験の合格基準70%に迫る結果であった。その内訳は、低次思考問題で良好な正答率84%(51/61問)の一方で、高次思考問題で60%(53/89問)と苦戦していた。 追跡調査で、新バージョンのGPT-4を用いたところ、正答率81%(121/150問)で合格基準を上回り、特に高次思考問題の正答率が81%に向上したという。しかし、GPT-3.5の正解していた12問がGPT-4では不正解になるなど、情報収集の信頼性に一定の疑問が残った。研究チームは大規模言語モデルの現状における最大の課題として、不正確な回答を自信過剰に行う点を指摘し、初学者が誤った回答を見抜けない可能性があると注意喚起している。著者のRajesh Bhayana氏は「現状のChatGPTはアイデアの着想や記述プロセスの起点、データの要約への利用がベストだ。情報の簡易な呼び出しに使用する場合は、常に事実確認が必要である」と語った。 参照論文: Performance of ChatGPT on a Radiology Board-style Examination: Insights into Current Strengths and Limitations 関連記事: AIは放射線科専門医試験に合格できるか? 循環器科におけるChatGPTの回答能力検証 微生物学問題に対するChatGPTの回答能力

AIとメタボロミクスによるパーキンソン病の発症予測

米ボストン大学などの研究チームは、患者のバイオマーカー分析に基づき、症状が発現する数年前からパーキンソン病の発症を予測するAIツールを開発した。研究成果はこのほど、ACS Central Scienceから発表された。 チームの研究論文によると、「Classification and Ranking Analysis using Neural network generates Knowledge from Mass Spectrometry(CRANK-MS)」と呼ばれるこのツールは、ニューラルネットワークを活用してメタボロームデータを解析するもの。メタボロームは生体内に含まれる代謝物質の総体を指し、これを対象としたメタボローム解析は近年、ゲノムやトランスクリプトーム、プロテオームなどとともに、生命現象を詳細に理解する手法として幅広く利用されている。 メタボロームは、特定の疾患や症状に対してバイオマーカーとして利用することができるが、パーキンソン病を診断するための特異的な血液検査や検査項目は現在存在していない。チームは質量分析によるメタボローム解析により、後にパーキンソン病を発症する患者の代謝物プロファイルの違いについて、臨床診断の最大15年前まで明らかにしており、現在の臨床スタンダードよりも非常に早い段階でパーキンソン病を診断できる可能性が示唆されている。チームは、これらの知見をもとに、メタボロームデータ全体を分析する、非定型的なアプローチにより高精度な予測モデルを導出した。 チームは今後、より大規模な患者コホートでのモデル検証を経て、CRANK-MSを他の疾患にも適用し、新たなバイオマーカーの発見に役立てることができると指摘している。 参照論文: Interpretable Machine Learning on Metabolomics Data Reveals Biomarkers for Parkinson’s Disease 関連記事: ...

ChatGPTの医学的エビデンス要約能力

大規模言語モデルのChatGPTは、自然言語処理研究においてパラダイムシフトを起こし、テキストの要約に関しても有望な能力を示している。米テキサス大学オースティン校の研究チームは、「ChatGPTの医学的エビデンスに関する要約能力と限界」についての評価に取り組んでいる。 medRxivに掲載された当該研究では、6つの疾患領域(アルツハイマー病・腎臓病・食道がん・神経疾患・皮膚疾患・心不全)に関する最新のレビュー論文を10件ずつ収集し、ChatGPT(GPT-3.5)の要約能力を検証した。要約の品質評価には、品質のいくつかの次元をカバーし得る自動評価指標(ROUGE-L、METEOR、BLEU)と、人間による評価が行われたが、自動評価指標は全体的な要約の品質との間に強い相関はみられなかった。人間による評価の結果からは、大規模言語モデルの特性として、事実と矛盾する要約や、過度に説得力のある要約、不確実性を含む記述など誤った情報が生成される可能性が示唆され、これらの情報は潜在的に有害であることが示された。さらに、文章が長いほど重要な情報の特定が難しくなり、要約においてさらなるエラーが生じることも明らかになっている。 研究チームは、現時点では「人間による評価が、大規模言語モデルによる医学的エビデンス要約の品質評価において不可欠」と結論付け、この分野において、より効率的な自動評価手法の必要性についても言及している。 参照論文: Evaluating Large Language Models on Medical Evidence Summarization 関連記事: 臨床医の信頼を得やすいAIツールとは? ChatGPTが「乳がん関連の健康アドバイス」で有効性を示す ChatGPTの回答が患者により好まれる可能性

韓国と米国が「AI支援医療製品開発」に世界基準の設定を呼びかけ

韓国の食品医薬品安全省(MFDS)と米国食品医薬品局(FDA)は、医療製品開発における人工知能(AI)の利用を促進するために提携し、規制のグローバルスタンダードを設定することを目標に掲げた。このほど明らかにされた韓国政府発表によると「両機関は経験を共有し、医療製品開発へのAI利用を促進する」とする協力覚書に調印した。 今後、韓国と米国は、世界の規制当局と共同でワークショップを実施し、安全で効果的な医療製品の製造における技術利用を促進するために、規制当局が果たすべき役割について議論を進める予定。声明によると「AIを活用した医療製品の開発・輸出を活性化させるため、より合理的な制度の精緻化やガイドラインの策定など、規制面での支援を強化する」という。 韓国MFDSと米国FDAは相互協力関係をさらに広げ、臨床試験や食品安全管理など、両組織の共通プログラムをカバーする可能性も計画していると述べている。 関連記事: 「FDA承認済みAI医療機器」を複数有する企業10社 AI導入が年間医療費を3600億ドル削減 既存RCT群が報告ガイドラインを遵守していない可能性

米カリフォルニア州 – 人種的に偏ったAIへの対処を求める勧告案

米カリフォルニア州では、過去の人種的不公平に対処するため、対象となる黒人住民らに賠償を行うとともに不平等是正に努める「タスクフォース」が、2020年に州法で創設されている。同タスクフォースは、州議会へ提出する勧告の最終案に「人種的に偏った医療用AIへの対処」を盛り込んだ。 5月6日にタスクフォースで正式承認されたドラフト案の項目Kでは、「ヘルスケアにおける人種差別的なアルゴリズムと医療用AIを是正する」ように提言している。同項目では、現状の医療AIが黒人などマイノリティに対して有害なバイアスを含む可能性があると指摘し、具体的アクションとして州立大学や政府機関に対して研究資金を提供するなどの対処を議会に求めている。 勧告内では別項目においても「反偏見トレーニング(anti-bias training)」の重要性を訴え、メディカルスクールの卒業要件として評価を義務付けるなど、人種バイアスに取り組む政策を推進している。 関連記事: パルスオキシメーターの人種間測定誤差が「治療の格差」を生む可能性 医療AI研究に欠ける「著者の多様性」 人種間の「ゲノムデータ格差」

Apple Watchによるメンタル評価

米マウントサイナイ医科大学の新しい研究では、Apple Watchから取得した生体データに基づき、患者の幸福度とレジリエンスを評価する、メンタル向け機械学習モデルの成果を示している。 JAMIA Openから公開されたチームの研究論文では、ニューヨーク市に所在する7つの病院で登録された医療従事者の前向きコホートである「Warrior Watch Study」のデータセットを二次的に分析している。分析対象となった329人の研究参加者は、Apple Watchによる心拍変動と安静時心拍数が収集されており、これにアンケート調査によるレジリエンスおよびウェルビーイングの評価を組み合わせることで、機械学習モデルのトレーニングが行われた。著者らは「ウェアラブルデバイスから収集した生理的指標に適用した機械学習モデルは、レジリエンスおよびポジティブな心理的構成要素を特定する上で一定の予測能力を有していた」と結論付けている。 米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国成人の20%以上が精神疾患を抱えており、その対策は公衆衛生上の喫緊の課題となっている。著者らは「このアプローチによって、現時点ではアクセスすることのできない、より多くの人々に心理的評価とケアを提供できるようにすること」を目指している。 参照論文: A machine learning approach to determine resilience utilizing wearable device data: analysis of an observational cohort 関連記事: WHO研究 – メンタルヘルスにおけるAI応用と課題 ...

音楽がVRのサイバー酔いを軽減する可能性

臨床現場への活用も模索されるバーチャルリアリティ(VR)には、いわゆる「サイバー酔い(Cybersickness)」という、めまい・吐き気・頭痛などの諸症状が伴うことがある。英エディンバラ大学の研究チームは、VR環境における音楽の効果を評価し、「音楽がサイバー酔いを軽減する可能性」を示した。 IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphicsに発表された同研究では、22〜36歳の39名を対象として、サイバー酔いを誘発する3種のVRジェットコースター試験を実施した。その際、1つのジェットコースターには「落ち着く音楽」、1つには「楽しい音楽」、もう1つは「無音」を設定している。被験者はVR体験後に、記憶と反応時間のテスト、および読書速度と瞳孔径を測定するアイトラッキングテストを実施した。その結果、楽しい音楽はサイバー酔いの強さを全般的に減少させること、また、楽しい音楽と落ち着く音楽は吐き気に関連する症状の強さを大幅に減少させたという。さらに、本試験におけるサイバー酔いは、言語性の記憶試験スコアにおける一過性の低下、および瞳孔径減少と関連しており、反応速度と読書速度も有意に遅延していた。 本研究からは「被験者のゲーム経験が多いほどサイバー酔いの程度が低いこと」も見出されている。研究チームでは「より広範な領域へのVR活用を目指す上で、没入型VRにおけるサイバー酔いへの解決策として、音楽が効果を示す可能性」に期待を示している。 参照論文: Cybersickness, Cognition, & Motor Skills: The Effects of Music, Gender, and Gaming Experience 関連記事: VR診察を普及させるためのユーザーフレンドリーな3D再構成手法 看護バーチャルシミュレータの開発を加速させたもの 医療トレーニングにおけるAIシミュレーター

Fitterfly – 糖尿病デジタル治療プログラムの効果

糖尿病に対する持続血糖測定(CGM: continuous glucose monitoring)が、モバイル機器とアプリの技術進歩によって拡大している。インド拠点のヘルステック企業「Fitterfly」は革新的なCGMデジタルプラットフォームを開発し、糖尿病管理の改善に注力する。 JMIR Diabetesに発表された最新の研究では、同社プラットフォームを用いたCGMデジタル治療プログラムの有効性を調査している。本プログラムはCGMによる血糖反応データを取得後、Fitterflyアプリとコーチ(栄養士・理学療法士・心理士)を介して、パーソナライズされた食事および運動介入を受けるというもの。本研究では、2型糖尿患者109名に対する90日間に渡るプログラムによって、Fitterfly利用がHbA1c値(血糖コントロール指標)の有意な減少効果(85%に平均1.2%減少)と、体重減少効果(平均2.05kg減少)を示すことが確認された。 FitterflyのCEOであるArbinder Singal氏は、「2型糖尿病はインドにおける健康管理の大きな懸念であり、デジタル治療薬のような新しいツールが処方されることで、行動変容のためのギャップが埋められるようになった。臨床検証を通し、デジタル治療プログラムが多くの人々を救うことができるという我々の信念を確認した」と語っている。 参照論文: Fitterfly Diabetes CGM Digital Therapeutics Program for Glycemic Control and Weight Management in People With Type 2 Diabetes Mellitus:...

シダーズ・サイナイ – AI教育研究センターを立ち上げ

米シダーズ・サイナイはこのほど、AIのヘルスケア向けアプリケーションによるイノベーション推進を目指し、「Center for Artificial Intelligence Research and Education (CAIRE) 」の設立を公表した。 CAIREは研究活動とともに、強力な教育・トレーニングイニシアチブを掲げており、AIの基本概念やAI倫理に関するワークショップ、高度な機械学習手法や分析に関する教材の開発と展開にも重点を置く。また、高校生・大学生・大学院生が研修機会やコンテストを通じてAI教育に参加することを目的とした「National AI Campus」とも連携することを明らかにしている。当該センターで開発された新しいアプリケーションやアルゴリズムは、他のヘルスケア研究成果とともに、ゲノム研究や個別化医療の進歩を加速させる研究利用を念頭に置く。 新センターのディレクターであるJason Moore氏は「人工知能、機械学習、ヘルスケアの専門家からなる当センターのチームは、研究者や病院のスタッフと協力し、特定のヘルスケア課題に合わせたカスタマイズソリューションを開発する。我々の目的は、これらの技術を利用して研究の質を向上させ、研究者の意思決定を強化することだ」としている。 関連記事: ノースウェスタン大学 – 医療AIセンターを設立 USC – ヘルスケア特化のAIセンターを設立 米CDC – アウトブレイク分析のための新センターを設立

AIの脅威に対して医療者が果たすべき役割

ヘルスケアにおけるAIの有益な利用が期待される一方で、その潜在的な有害性に関する議論は焦点が当てられにくい。BMJ Global Healthに発表された国際研究グループからの声明では「自己改良型の汎用AI(AGI: artificial general intelligence)の脅威に対して開発と利用にモラトリアムを設け、医療者は警鐘を鳴らす役割を果たすべき」と論じられている。 同論文では、AGIの脅威論として3つのポイントを挙げ、AGIの誤用と、それらへの規制の不備が「人類の存在を脅かす」と強調する。1点目は、個人データを含む膨大なデータセットを迅速にクリーニング・整理・分析するAIの能力である。一例に、過去の選挙で悪用されたディープフェイクのような現実を歪めて誤認させる能力が、信頼の崩壊や社会の分裂、紛争を引き起こし、公衆衛生上の脅威を与えることで民主主義を弱体化させる可能性があるというもの。2点目は、致死的自律兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapon Systems)の開発に関するもので、リスクと脅威はいかなる利益よりも上回ると強調している。3点目は、AI普及による雇用喪失の影響で、「繰り返しの多い危険で不快な仕事」を減らすメリットの一方で、失業が健康と行動への悪影響に強く関連すると指摘する。 本論文の結言には、医療と公衆衛生のコミュニティはAIがもたらすリスクと脅威に対する認識を高め、警鐘を鳴らす役割を担い、セーフガードと規制にスピードと真剣さを求めるべきとしている。これは核戦争防止国際医師会議(International Physicians for the Prevention of Nuclear War)がノーベル平和賞を受賞した経緯と同様(核戦争がもたらす破滅的な結末に関し、信頼できる情報とその理解を広めた貢献により受賞)、AIの利点を支持する一方で、その脅威についてもエビデンスに基づく主張をまとめていかなければならないと、先例を挙げて説明している。 参照論文: Threats by artificial intelligence to human health and...

外科領域におけるAI活用とリスク対策

外科領域におけるAI活用は、術前診断の強化から術中手技の洗練、合併症の特定と軽減による長期的な予後改善、術後モニタリングなど、手術効率と成果を向上させる多彩な潜在的メリットを持つ。一方で、患者データの利用をめぐる安全性や倫理的リスクに加え、非専門家による利用が不適切な治療介入を引き起こす可能性など、患者にとっての有害性リスクも排除し切れていないとともに、過度に医療提供者の役割を損う可能性も指摘されている。 The American Surgeonに掲載された米ニューヨーク大学などの研究チームによる論文では、外科領域におけるAI活用が進むことは自明とした上で、リスクを軽減するための注意喚起を行っている。具体的には、医療専門家による二次的評価の実施、非識別化プロトコルやセキュリティ手段、免責事項の見直し、患者教育、新しいインフォームドコンセント戦略、などが必要とする。最終的にAIが外科領域において有効に活用されるためには「その倫理的帰結を考慮することが重要」であることを強調している。 参照論文: Harvesting the Power of Artificial Intelligence for Surgery: Uses, Implications, and Ethical Considerations 関連記事: 大腸がん肝転移における外科的治療の結果を予測 デジタルツールにより手術室の運用効率を向上 手術動作を捉えるAI

Mayo – 分散型データネットワークのパートナーシップを拡大

Mayo Clinic Platformは5日、ブラジルのHospital Israelita Albert Einstein、イスラエルのSheba Medical Center、カナダのUniversity Health Network(UHN)との新しいグローバルパートナーシップを通じて、医療AIを支援する分散型データネットワークである「Mayo Clinic Platform_Connect」の拡大を発表した。 Mayo Clinic Platform_Connectは、MayoのData Behind Glassアプローチにより、安全なクラウドベースのデータアクセスを提供できるよう設計されている。このモデルでは、Connectのメンバーによる「研究利用を目的とした非識別化臨床データへのアクセス」を保つ一方、データ自体を移動する必要はなく、各医療システムは自身のデータを施設内で安全に保有・管理し続けることができる。本提携は、まず情報連携とアルゴリズムの開発・検証・展開に重点を置いており、疾患治療や予防パターンの分析をサポートすることで、プロアクティブな予防的医療を推進する予定という。 Mayo Clinic Platformで代表を務めるJohn Halamka医師は「医療をグローバルに変革するためには、分散型データネットワークを全ての大陸に拡大する必要がある」とした上で、「プライバシーを保護し、国際的な法律や規制を遵守し、あらゆる言語の知識を取り入れる必要がある。今日、南米、カナダ、中東の3つの一流医療センターが、我々のネットワークに加わった。彼らは、他の地域やシステムにも、我々の世界的な取り組みに参加を促すような刺激を与え、導いてくれるだろう」と話す。 関連記事: メイヨークリニック – ゲノムシーケンスを日常診療に Numares Health...

The Adelaide Score – 南オーストラリア発の退院予測AIツール

入院患者の退院計画を合理化・簡略化するため、関連ツールへのAI利用が進む。豪・アデレード大学の研究者らは、機械学習アルゴリズムによって、患者の退院をリアルタイムで正確に予測する「アデレード・スコア(The Adelaide Score)」を開発した。 アデレード大学が報じたところによると、同研究では南オーストラリアの外科患者9,000名の入院生活を分析し、アデレード・スコアのベースとなるアルゴリズム構築を行った。データには何万回もの病棟ラウンドノートが含まれ、バイタルサインや血液検査データが入力されている。結果、構築されたスコアの性能は、一般外科患者における12時間以内および24時間以内の退院を80%以上の精度で正しく予測できるという。 アデレード大学医学部外科部長のGuy Maddern教授は「アデレード・スコアが今後10年以内にオーストラリアの全ての病院で主流となるのを期待している。このプロジェクトは、南オーストラリアのみならず、世界中の病床キャパシティを把握する画期的な手段となる可能性がある。どの国の医療システムも入院加療の需要から大きな圧力を受けており、アデレード・スコアのような取り組みが重要となる」と語った。 関連記事: AI退院プログラムが空床調整を最適化 「入院ベッド数の需要」を予測するAIツール Extubation Advisor – 人工呼吸器からの離脱タイミングを予測するAIツール

Diffusionモデルを用いた「新規タンパク質の創製」

カナダ・トロント大学の研究者らは、「DALL-E」や「Midjourney」などの著名な画像生成プラットフォームの根幹にある深層学習技術「Diffusionモデル」を用いて、自然界に存在しないタンパク質を作成できるAIシステムを開発した。 生成モデルとしては敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network: GAN)が広く知られているが、与えられたシグナルから徐々にノイズを取り除くDiffusionモデルは、その登場以降、次世代生成モデルとして大きな注目を集めている。複雑なデータ分布でも学習でき、またその分布を解析的に評価できることが特徴となる。高精度な画像生成は、GANによるSOTAモデルを上回る高い精度を達成している。 Nature Computational Scienceに掲載された研究論文によると、チームが開発したシステムは、画像表現から学習を進め、非常に高い確率で完全に新しいタンパク質を生成することができる。タンパク質はアミノ酸の鎖からできており、これが3次元に折り畳まれることで、タンパク質の機能を決定している。この形は何十億年もの時をかけて進化し、多様性と複雑性を獲得している反面、数自体は限られている。既存タンパク質がどのように折り畳まれるかを理解することで、研究者らは自然界に存在しない折り畳みパターンを設計できるようになったとする。 ProteinSGMと呼ばれるこの新しいシステムは、既存タンパク質の構造を正確にコード化した画像表現の大規模データセットに基づく。これらの画像をdiffusionモデルに入力すると、各画像が全てノイズになるまで徐々にノイズが追加されていく。このモデルは、画像がどのようにノイズになったかを追跡し、そのプロセスを逆に実行することで、ランダムなピクセルを「完全な新規タンパク質」に対応する明確な画像に変換する方法を学ぶことができる。 ProteinSGMは新規治療薬開発に大きな役割を果たす可能性があり、チームと研究開発の動向に関心が集まっている。 参照論文: Score-based generative modeling for de novo protein design 関連記事: 「AIによって設計したCOVID-19治療薬」が臨床試験へ 機械学習により「禁煙に有効な既存薬」を特定 AI創薬の支援プラットフォーム

AI手法が示す「COVID-19の死因を占める二次性細菌性肺炎」

COVID-19の重症患者が死に至る機序として、多臓器不全を引き起こす全身性の強い炎症、いわゆる「サイトカインストーム説(cytokine storm theory)」が仮説の1つにある。しかし、米ノースウェスタン大学の研究チームは、電子カルテデータに機械学習を適用することで、「COVID-19患者の主要な死因には二次性の細菌性肺炎が多いことを示し、サイトカインストーム仮説を否定できる可能性がある」とする研究成果を発表している。 Journal of Clinical Investigationに掲載された同研究では、ノースウェスタン記念病院の集中治療室で重度の肺炎と呼吸不全を起こした585名(うちCOVID-19患者190名)の電子カルテデータから、延べ入院日数の類似した患者をグループ化して解析する「CarpeDiem」という機械学習アプローチを開発した。この結果、「COVID-19患者の約半数が人工呼吸器関連の二次性細菌性肺炎(VAP)を発症し、VAPから回復した患者は生存率が高く、VAPから回復できなかった患者は死亡率が高いため、ウイルスそのものに関連する死亡率は比較的低い」ことが示されたという。研究グループでは、これらの結果がサイトカインストーム仮説の否定を示唆すると考察している。 著者のBenjamin Singer氏は「もしサイトカインストームがCOVID-19患者の長期入院の根底にあるのであれば、多臓器不全への移行が頻繁にみられるはずだが、我々が本研究から見い出した結果は異なるものだった」と説明する。また、共著者のRichard Wunderink氏は「COVID-19患者の死因における細菌性肺炎の重要性は過小評価されており、多くの施設では十分に調べていなかったり、治療の成否ではなく、肺炎の有無に伴う結果のみを見ている」と語った。 参照論文: Machine learning links unresolving secondary pneumonia to mortality in patients with severe pneumonia, including COVID-19 関連記事: COVID-19による死亡リスクに関連する免疫細胞 COVID-19患者の病状悪化を予測する「シンプルな機械学習モデル」 ...

BacterAI – 年間100万回の微生物実験を可能にするAI

細菌は生命維持に必要な20種のアミノ酸を組み合わせて摂取する。しかし、細菌の種ごとに好みが異なるアミノ酸の組み合わせは膨大であり、ごく一部しか解明されていない。応用が進む細菌叢(マイクロバイオーム)研究を支援するため、ミシガン大学とイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームは「AIに自律的な実験をゲーム形式で割り当て、細菌の栄養となるアミノ酸の組み合わせを特定する手法」を開発している。 Nature Microbiologyに発表された同研究では、「BacterAI」と呼ばれるプラットフォームを用い、Streptococcus gordoniiとStreptococcus sanguinisという2つの口腔内連鎖球菌のアミノ酸要求量を特定した。BacterAIは、科学的な質問をゲーム形式に変換し、そのゲームを膨大な施行回数で繰り返し遊び学習することで、その結果をヒトが解釈できる論理的ルールに落とし込むができる。このアプローチは、ラベル付きの大規模なデータセットを機械学習モデルに送り込む従来手法と異なり、実験を通じて独自のデータセットを作成し、過去の実験結果から「どのような実験で最も情報が得られるか」を予測するというもの。これにより、十分な規模のデータセットを必要とせず、自律的な研究を可能にする。 BacterAIは、従来研究者が何年もかけて行う実験を、2020年1月以降に931,038件完了したという。本研究の主著者であるAdam Dama氏は「我々のプロジェクトのようなAIの集中的応用が、日々の研究を加速させることは明白だ」と語っている。 参照論文: BacterAI maps microbial metabolism without prior knowledge 関連記事: AI技術による「オリジナルタンパク質」の生成 化合物とタンパク質間の相互作用を「自然言語でモデル化」 Viz RECRUIT – 臨床試験への参加促進ソフトウェア

AIがICU内での意思決定を支援

米カーネギーメロン大学「Human-Computer Interaction Institute(HCII)」の研究者らは、ピッツバーグ大学などと共同し、集中治療室(ICU)における敗血症治療をサポートするAIシステムを構築し、その有効性を明らかにしている。 米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国成人では年間約170万人が敗血症を発症し、そのうち少なくとも35万人が病院で死亡するか終末期医療に送られているという。ICU滞在中に敗血症の診断基準を満たした18,000人以上の患者を対象に学習したこのツールは、臨床医がデータセット内の患者をリスクに応じて適切にフィルタリングすることを支援する。また、個々の患者の病状がどのように進行するかを予測した上で、最終的に決定した治療法の結果とモデルの予測値を比較できるように設計されている。「AI Clinician Explorer」と呼ばれるこの対話型臨床意思決定支援(CDS)インターフェースは、敗血症治療を支援するため、研究チームによって2018年に開発され改良が続けられてきた(参照論文)。 研究チームのメンバーであるVenkatesh Sivaraman氏は「1人の人間が、あらゆる状況での最善の方法を知るため、全ての知識を網羅することは不可能だ。だから、AIは臨床医らが考えもしなかった方向に誘導したり、彼らが最良の行動と考えるものを検証する手助けをすることができるかもしれない」と述べている。 関連記事: 「ICUせん妄」の発症予測 AIプラットフォームによるICU管理 PhilipsとMIT – AI開発促進に向けたクリティカルケアデータセット開発

ディープラーニングツールによる放射線治療計画の改善

米メイヨークリニックとGoogle Healthの研究チームは、頭頸部がん患者の放射線治療計画の改善にディープラーニングツールが有効であることを、このほど公開した研究論文で明らかにしている。研究成果はFrontiers in Oncologyに掲載された。 放射線照射部位を正確に定めることは、治療効果を最大化するとともに、周辺臓器・組織の被曝に伴う障害を最小化するために重要となる。研究チームはディープラーニングベースのオートセグメンテーションモデルを使用し、精度を損うことなく短時間で輪郭情報を描出可能であることを示している。445のCT画像からトレーニングされた3D U-Net DLモデルでは、放射線腫瘍医によるレビューによって、既存のゴールドスタンダードと比較しても、モデルによるセグメンテーションが同等の精度を示しながら、プロセス全体を76%短縮するなど大幅な必要時間の削減が可能であることを明らかにした。 チームでは現在、モデルが実環境で有効に機能するかを評価するための前向き試験を計画しており、臨床実装を見据えた研究開発を進める意向だ。 参照論文: Validation of clinical acceptability of deep-learning-based automated segmentation of organs-at-risk for head-and-neck radiotherapy treatment planning 関連記事: Google – 放射線科医と同等性能の結核検出システム 放射線科医と医学生は自らAIを開発することを望む ...

医療画像処理AI開発における「29の潜在的バイアス」

AI/機械学習モデルの医療への活用が進むが、現実的には全ての集団に適切に機能する一般化されたモデルの開発は難しい。米国で医用画像へのAI活用に取り組む公的機関「MIDRC(Medical Imaging and Data Resource Center)」の研究チームは、医療画像処理AIの開発で発生し得るバイアスを軽減する戦略を報告している。 Journal of Medical Imagingに報告された同研究では、医療画像処理AI開発を、5つの主要ステップ(データ収集、データ準備とアノテーション、モデル開発、モデル評価、モデル展開)に分類し、そのプロセスの中で発生し得る29の潜在的なバイアス発生源を特定した。例えば、データ収集のプロセスでは、単一の病院や単一のスキャナー機器から画像を調達することがバイアスにつながると説明している。 モデルに含まれる偏り(バイアス)を無視・過小評価することには、患者への不平等や医療格差を悪化させる懸念がある。MIDRCでは本研究のようなバイアスを特定・軽減する戦略について議論を続けており、同機関のウェブサイト上でも情報を公開している。 参照論文: Toward fairness in artificial intelligence for medical image analysis: identification and mitigation of potential biases in...

NFTとブロックチェーン技術による「医療データ交換プラットフォーム」

研究者らによると、NFT(非代替性トークン)とブロックチェーン技術を使用した「安全な医療データ交換プラットフォーム」を構築することにより、患者が自身の健康情報に適切なオーナーシップを持ち、医学研究や臨床ケアを目的としたデータの利活用を強化することができるとしている。 COVID-19の流行を契機として、医療にも急速なDX化の波が押し寄せた。遠隔医療や遠隔モニタリング、医療IoT(IoMT)、ロボティクス、AIなどを活用したデジタルヘルスソリューションの導入が加速している。Nature Medicineに掲載された論文によると、これらは健康データの生成を加速度的に進めているとし、患者が自身の健康データに適切なオーナーシップを保つための「プライバシー保護ソリューション」の必要性が高まることを指摘する。チームはデータ管理のためのソリューションとして、NFTの利用を検討している。 NFTは、ブロックチェーン上に保存されたユニークなデジタルデータユニットで、単一の所有権の下にあり、取引可能なものとなる。現在、商用NFTとして取引されているデジタル資産と同様に、健康データもブロックチェーン技術を用いて生成、交換、保存することができ、一意性、透明性、相互運用性といった同じ特徴を備えることになる。つまり、患者は自分自身の個人的な健康データを所有し、同じブロックチェーン技術を使って医療提供者など複数のステークホルダーと「デジタル資産として」交換できるようになる。 患者が医療従事者と健康データを共有する必要がある場合、医療従事者に必要な情報へのアクセス権を与え、閲覧を許可することができる。これにより、患者のプライバシーが守られ、データの所有者である患者自身だけが、自分の個人的な健康データへのアクセスや共有を許可することがようになる。研究チームは、完全な所有権を患者に与えることで、患者のヘルスリテラシーを高め、積極的に健康情報を活用した研究や試験に参加できるようになるなど、長期的にはより良い医療結果をもたらす可能性が高いことを強調している。 参照論文: Non-fungible tokens for the management of health data 関連記事: 「All of Us」プログラムの利用可能データが拡大 VinBrain – スタンフォード大学とデータ利用契約を締結 EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始

ChatGPTの回答が患者により好まれる可能性

米カリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームは、ソーシャルメディア上のフォーラムに寄せられた質問に対する回答調査で、医師による回答よりもChatGPTが生成した回答が好まれる可能性を明らかにした。 JAMA Internal Medicineに掲載された研究論文によると、ソーシャルメディアのフォーラムから無作為に抽出した195の患者質問を対象に、医師とChatGPTの回答に対する反応を比較している。ライセンスを持つ医療専門家チームが評価を行ったところ、ChatGPTの回答は医師の回答よりも好まれ、「品質」と「共感」の両方で有意に高く評価されたとしている。 著者らは「バーチャルヘルスケアの急速な拡大により、患者からのメッセージ対応が急増している事実」を指摘する。医療従事者の燃え尽き症候群防止の観点からも、患者からのメッセージ対応にAIアシスタントを利用できる可能性があるとしている。 参照論文: Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum 関連記事: Navina – 患者ポートレートの自動作成AI 循環器科におけるChatGPTの回答能力検証 ChatGPTが「肝硬変・肝細胞がん患者のヘルスリテラシー」を向上させるか?

外科医のパフォーマンスを向上させるAI

米カルフォルニア工科大学(Caltech)などの研究チームは、外科手術手技に関するスキルや質について、何に改善が必要かをフィードバックするAIシステムを開発した。研究成果は、Nature Biomedical Engineering、npj Digital Medicine、Communications Medicineから公表された一連の論文で紹介されている。 このシステムは「Surgical AI System(SAIS)」と呼ばれ、外科医による手術動画と関連データからトレーニングされている。SAISは手術針の保持や組織への刺入、抜去などといった個別の動作を評価することで外科医のパフォーマンスを定量的に評価することができる。SAISは現在、複数の医療機関における手術動画の分析に用いられているという。 研究を主導したDani Kiyasseh氏は「SAISは正確で一貫性があり、拡張性のある外科医へのフィードバックを提供する可能性がある」と述べており、実際SAISは、外科医の技量レベルを知らせるとともに、特定のビデオクリップを指し示すことで「その評価の根拠」についても詳細なフィードバックを提供できるようになっている。 参照論文: A vision transformer for decoding surgeon activity from surgical videos Human visual explanations mitigate bias...

Navina – 患者ポートレートの自動作成AI

米国バージニア州に拠点を置くCVFP Medical Groupはこのほど、医療AI企業のNavinaとのパートナーシップ拡大を明らかにした。「AI活用によるプライマリケア体験の向上」を掲げ、AIによる患者データ抽出を通じたデータの利活用を積極化させる。 NavinaのAIは、構造化または非構造化の臨床メモ、検査結果、画像データなど、臨床現場における複数のソースから患者データを抽出・統合し、「患者ポートレート」を作成するという技術を展開する。この独自の患者ポートレートにより、臨床医は患者の健康状態についてより包括的に理解できるように設計されているとする。CFVPは2022年にこのツールの使用を開始し、AIがケアの質を向上させ、臨床医の管理負担を軽減することに成功したという。実際にこのツールの導入期間中、同グループは受診患者の80パーセントにこのツールを適用した実績を持つ。 CVFPでメディカルディレクターを務めるJarrett Dodd医師は「我々がNavinaを日々のルーチンに導入したとき、このAIが私たちのプロセスを変革し、患者体験を向上させることを痛感した」とした上で、「Navinaは、より効率的な方法でデータを抽出する術を提供し、より質の高いケアと臨床医の簡素化された作業体験を保証し、我々のチームが患者に集中するためのより多くの時間を作り出してくれる」と述べている。 関連記事: 患者サマリー生成AIのNavinaが2200万ドルを調達 退院サマリーから肝硬変患者を識別 電子カルテから発症5年前にアルツハイマー病を予測

「下顎管の位置を特定するAI」で歯科診療をアシスト

下顎には、神経と血管が走行する重要な解剖学的構造である「下顎管」がある。例えばインプラント治療では、神経損傷を避けるため、下顎管から2mm以上の安全マージンが推奨されるなど、その位置把握は歯科治療で重要な意味を持つ。歯科用コーンビームCT(CBCT)から下顎管の位置を把握する際には、個人差や人種的差異のために手動では難しい場合もあるなど、より正確で自動化された手法の開発が求められている。 フィンランドのアールト大学などによる多施設共同研究では、下顎管の位置を特定するAIモデルの評価を行っており、その研究成果はScientific Reportsに発表されている。「モデルの生成した下顎管の位置」に関する臨床評価として専門家によるレビューを受けたところ、96%で臨床的に十分使用可能、という高い評価がなされたとする。 著者でアールト大学のJaakko Sahlsten氏は「AIモデルの学習で課題となったのは、3D画像に写る下顎管の大きさが画像全体のデータに比べ非常に小さいという、トレーニング素材のアンバランスさだった。臨床評価を受け、我々はこのモデルがうまく機能していると強く確信している」と語った。 参照論文: Comparison of deep learning segmentation and multigrader-annotated mandibular canals of multicenter CBCT scans 関連記事: 矯正歯科の意思決定支援AIツール 歯科治療で発生する飛沫・エアロゾルの可視化 Pearl社「Second Opinion」 – 歯科X線画像診断支援AIが米FDA認可取得

NuraLogix社「Anura」の新機能 – 顔の動画撮影から脂肪肝を予測

2022年時点で、米国人口の約24%が脂肪肝(FLD: fatty liver disease)に罹患しているとされ、自覚症状のないまま肝不全などの重篤な合併症へ至る例が後を絶たない。カナダ・NuraLogix社(過去記事参照)は、顔の血流パターンからバイタルサインと疾患リスクを評価する非接触型プラットフォーム「Anura(動画参照)」の新機能として、「脂肪肝リスク患者を予測するAIモデル」を発表した。 新モデルは、脂肪肝と診断された7,000人以上に及ぶ患者の「顔面血流パターン」からトレーニングされ、その結果、AUCとして0.85を上回る高精度での脂肪肝識別を達成したという。Anuraのプラットフォームには、リモートフォトプレスチモグラフィー(rPPG)技術の1つとして、NuraLogixの特許技術「Transdermal Optical Imaging(TOI)」が搭載されている。 Anuraで発表済みの機能には、心拍数・呼吸数・血圧・HbA1c・空腹時血糖など30以上の健康パラメータ測定、および2型糖尿病・脂質異常・心血管疾患・メンタルヘルスなどのリスク評価が含まれ、機能拡張が進められてきた。NuraLogix社CMOのKeith Thompsonは「この研究は脂肪肝をスクリーニングし、肝不全のような重要イベントを防ぐため、ライフスタイルの変更でユーザーに介入するプラットフォーム事業の可能性を示している」と語った。 参照動画: Anura: Your Personal Health AI https://www.youtube.com/watch?v=Vb_FZRxvdO8 関連記事: NuraLogix社の非接触型モニタリング – モバイル技術見本市「MWC 2023」より 顔の血流から糖尿病予備軍をスクリーニングするAI 「自撮り動画によるバイタルサイン測定」をナイジェリア全土に

日記とウェアラブルデータから片頭痛を予測

ノルウェー・トロンハイムのノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究チームは、スマートフォンに記録した日々の頭痛日誌とウェアラブルデバイスから取得した生体データに基づき、片頭痛の発生を予測する機械学習モデルを構築している。 Cephalalgiaから25日公開されたチームの研究論文によると、片頭痛患者18人において388件の頭痛日記と、心拍数や末梢皮膚温、筋緊張をアプリベースで記録した。ここから「翌日の片頭痛発生」を予測するため、複数の標準的な機械学習アーキテクチャが構築されている。AUCに基づく性能評価は極めて優れたものではなかった一方、モバイルヘルスアプリやウェアラブルデバイスを機械学習と組み合わせることで、片頭痛を予測できる可能性を示したとしている。 研究チームは「高次元のモデリングが予測を大きく改善する可能性がある」とし、さらなる研究の継続と科学コミュニティへの研究参加を求めている。 参照論文: Forecasting migraine with machine learning based on mobile phone diary and wearable data 関連記事: 発作日記から学習した「てんかん発作予測AI」 Zero Wired – ウェアラブルデバイスによるてんかん発作検出 Healint – 片頭痛緩和に向けた大規模精密医療研究

AIによる「咳の検出」

IEEE Journal of Biomedical and Health Informaticsにこのほど掲載された論文では、「現実環境から咳嗽を識別するAI」が紹介されている。COVID-19の拡大を契機に、咳嗽の検出システムは研究が進んだが、多くはクリーンなデータから構築されており、環境ノイズを多く含むデータセットから構築された例は珍しい。 研究論文では、Out-of-Distribution(OOD)データと呼ばれる「モデルによって学習されない音」を検出するモジュールを組み合わせることで、頑健な咳嗽検出方法を提案している。システムの検証で興味深い示唆としては「低いサンプリングレートでパフォーマンス向上を実現するには、OODデータの割合が高いことが必要」な点で、実世界で有効に機能する咳嗽検出システムを構築するには、純粋な咳嗽音以外のノイズに価値があるとしている。 チームはこのシステムを、ウェアラブルなヘルスモニタリングデバイスに組み込むことを目指している。喘息患者の咳嗽を捉え、重積発作に至るリスクを検出するなどの活用方法が期待される。 参照論文: Robust Cough Detection with Out-of-Distribution Detection 関連記事: 咳によるCOVID-19識別は困難? 咳トラッキングAIプラットフォーム – HyfeとMSDの事業提携 音声データからCOVID-19を検出するスマートフォンアプリ開発

Cedar Gate – 糖尿病発症予測プラットフォーム

米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国内の糖尿病患者数は約3730万人で、1人当たり年間9,601ドルの医療費を要する。米コネチカット州拠点のCedar Gate Technologiesは、糖尿病による疾病負荷軽減を目的としたAIプラットフォームを構築する。 Cedar Gateは、医療費支払い関連のプラットフォーム企業として1200万人の会員をデータベース化している。同社の発表によると、糖尿病リスクのある個人を特定する独自のAIモデル(医療費請求データから構築)を、全会員の10%にあたる120万人に12ヶ月間適用した。その結果、糖尿病の既往がない患者のうち、AIモデルによって糖尿病リスクを指摘された者の80%が、翌年までに糖尿病を発症したことが確認されたとする。 糖尿病発症予測に関するAIモデルは大学の研究ベースでは数多くあるものの、商用ユースでリアルワールドの問題に適用した例としては本件が最初期のものであると、Cedar Gate社は評している。同社のCEOであるDavid B. Snow Jr.氏は「糖尿病は管理せず放置すると最もコストのかかる疾患の1つだ。集団内の糖尿病を自動的かつ確実に予測することで、的を絞った予防による医療費抑制が実現できる」と語った。 関連記事: 「12時間の血糖モニタリング」で糖尿病リスクを識別 顔の血流から糖尿病予備軍をスクリーニングするAI 糖尿病合併症リスクの高精度管理へ

Baymatob社「Oli」 – 産後出血を予測するAIデバイス

産後出血は妊産婦死亡の4分の1近くを占め、世界では7分に1人が産後出血で死亡している計算となる。陣痛や心拍数をモニタリングする従来の技術では、産後出血とその合併症を早期に予測することは難しく、技術革新が求められていた。オーストラリアのBaymatob社は、AIとセンサー技術を組み合わせ、産後出血のリスクを早期検出するウェアラブルモニタリングデバイス「Oli」を開発している。 Baymatobは19日、Oliのパイロット試験に500名の妊婦を登録したことを発表した。Oliは陣痛開始前及び陣痛中に母体の上腹部に装着し、電位・動き・温度・形状変化などの母子の生理信号をモニターし産後出血リスクを予測する。パイロット試験の完全な結果は2023年中の発表を予定しているが、現在までに得られた臨床的エビデンスでは、産後出血を来たした症例の80%以上がOliによって出血前に警告を受けることができており、母子の著明な転帰改善が期待されている。 Oliは2021年8月、米食品医薬品局(FDA)から「ブレークスルーデバイス」の指定を受けた。Baymatob CEOのTara Croft氏は「パイロット試験の完了により、本年中にさらに大規模なピボタル試験への道が開かれる。このことはFDA承認を成功させる上で非常に重要なことだ」と語った。 関連記事: 分娩中にリアルタイムでリスク予測 産後出血を正確に定義する「デジタル表現型」 分娩誘発の成否を予測するAIモデル

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