大規模バイオデータバンクに入り込むバイアス

医療データをAIツールなどの個別化医療技術に適用する際、データの偏りによる意図しない影響については繰り返し報じてきた(過去記事)。ツールの精度と適切な一般化可能性を確保するため、いかにして多様な患者集団からデータを収集していくか、各機関での取り組みが続く。

米ミシガン大学のリリースでは、「大規模バイオデータバンク構築の適正化」を調査した研究を紹介している。本研究成果はHealth Affairs誌の12月号に発表された。ミシガン大学の学術医療センターにおいて、手術を待機する患者に対して、「ミシガン・ゲノミクス・イニシアチブ」という研究用バイオバンクへ少量の血液を提供する研究参加が募集された。その登録患者の多様性に、募集と登録のアプローチがどう影響しているかが調査された。その結果、同センターにおける全患者集団と比較して、データバンク登録に同意した患者層は、年齢・性別・人種・民族・社会経済的因子の面で多様性が著しく欠如していることが明らかにされた。具体的には、手術待機患者の平均的な年齢よりも若く、黒人・アフリカ系アメリカ人・アジア系・ヒスパニック系の参加割合が乏しかったという。

データバンクの多様性は「どの患者が登録に同意するか」よりも「どの患者が募集に適するか」という面に大きな影響を受けてしまう、と研究チームは考察する。論文著者で、ミシガン大学医学部の研究倫理学者Kayte Spector-Bagdady氏は「大規模な研究データセットが米国内の患者多様性を反映しないことが多いのは分かっていたことだが、このような格差がどう根付いていくか今回の研究では詳細に分析した」と語っている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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