年間アーカイブ 2023

「保険金請求の否認」を回避するAIシステム

Experian Healthが提供する新製品「AI Advantage」は、リアルタイムインテリジェンスと予測モデリングにより、「回避可能な否認」の防止と再申請の優先順位付けを行い、医療保険金請求における効率性の向上と収益の早期回収につなげるものだ。 米テネシー州フランクリンに拠点を置くExperian Healthは15日、AI Advantageの発売を発表し、今日のヘルスケア業界において最もシームレスで包括的な請求管理システムを実現するという。新しいソリューションでは、医療機関が保険金請求の払い戻しプロセスを優先し、保険金請求拒否を減少させ、医療バリューチェーン全体で時間とコストを削減することを通して、最終的に患者ケアとサービスを向上させることを狙う。 医療費の不効率における最大の要因は「請求処理」によるもので、その額は米国で年間2500億ドル以上にも及ぶという。病院や医療システムの35%は不服申し立てが却下された結果として、5000万ドル以上の収入が損なわれている。また既存のワークフローの中で、否認された請求のうち65%は再申請されていない現状もある。 関連記事: Gradient AI – 高額請求のリスク評価ソリューション 医療費請求データから自閉スペクトラム症を早期スクリーニング 処方ミスを検出するAIシステム

VinBrain – スタンフォード大学とデータ利用契約を締結

ベトナム発のAIヘルステックとして知られるVinBrainはこのほど、マルチモーダルな「RadGraph」方式によって放射線科医の解釈精度を向上させるためのデータ使用契約を、米スタンフォード大学との間で締結した。 より正確な診断と治療に向けた最先端のAI対応プラットフォームを設計するためには、地理的に分散した膨大な量のデータ、医療画像、患者カルテをシステムトレーニングのために集約する必要がある。スタンフォード大学はVinBrainとデータを共有し、モデルを構築することで、放射線科におけるレポート作成を効率化させることを狙う。 VinBrainは、スタンフォード大学からの強力なサポートにより、製品の品質をさらに向上させることを目指す一方、これまでに同社の「DrAidプラットフォーム」を通じて解析された画像は230万枚を超えるなど、ベトナムで最も大規模な医療データソースを追加・開発し続けている。 関連記事: EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始 臨床検査技師はデータサイエンスに向かう Care Studio – Googleが提供する医療データプラットフォーム

Cognetivity – AIによる認知障害の初期兆候検出

カナダ・バンクーバーに拠点を置くCognetivity Neurosciences社は、脳の健康状態を評価・モニタリングするための独自プラットフォーム「CognICA」を提供する。FDA登録とCEマークを取得しており、現在、北米・東アジア・東南アジア・中東・英国において商業的に展開している。 CognICAはAI技術によって、脳機能の高速・高精度な定量的指標を提供することにより、認知障害の初期兆候検出を支援する。これにより、認知機能の観点から「介入が最も効果的な時期を早期に特定」することで、長期的な治療管理とモニタリングをサポートすることが可能となる。CognICAは、瞬間的に表示される画像(動物や建物など)のカテゴリを分類する作業を通し、そのスピードや正確さを評価する「視覚分類テスト」に基づくアプリケーション。 CognICAはタブレット端末で駆動し、患者自身で操作することができ、言語や教育のバイアスに左右されないため、あらゆる地域で包括的かつ大規模なスクリーニングプログラムを実施する際に効果的となる。14日公開されたCognICAの最新バージョンでは種々の改良が加えられているが、特に「ローカルデータ保存機能が追加された」ことで、より幅広い地域での展開が容易になり、この技術の潜在市場が拡大されたとしている。 関連記事: 認知症早期診断AIツールの実環境試験 軽度認知障害をウェアラブル脳波計で検出 Winterlight Labs社 – 音声から認知機能障害の経時的変化を検出

ニューロイメージングAI「Jazz」がCEマークを取得

スイス最大都市のチューリッヒに本拠を置くAI Medical社はこのほど、同社のニューロイメージングAIソフトウェアである「Jazz」がCEマークを取得したことを明らかにした。CEマーキングは、EU圏内で販売される全ての医療機器に義務付けられており、品質と安全性のシンボルとして地域全体で認知されている。この指定により、JazzはEU全域における商品化および販売が可能となる。 Jazzは頭部MRIなどに対して、病変のアノテーションや解剖学的病変位置の検出、病変体積の測定など、実務上の面倒な作業を自動化することにより、放射線科医が高品質のレポートを作成することを支援するもの。特に、多発性硬化症や脳転移など、MRIに基づく慢性疾患の複雑な経過観察評価に有効としている。 CEOのChristian Federau氏は、「JazzのCEマーク取得は、当社チームの努力と献身、そして品質の証であり、大変嬉しく思っている」と述べており、AIによって「医療業界にポジティブな影響を与え、患者転帰の改善に貢献すること」を目指す。 関連記事: 高速MRIの粗い画像をAIが再構築 BrainScope社 – 頭部外傷での「CT検査の必要性」を低減するAIツール Seer Medical社 – てんかんの在宅モニタリングシステムでFDA認可取得

糖尿病患者における「メトホルミン治療失敗リスク」のAI予測

米メイヨークリニックの研究チームは、電子カルテデータに機械学習手法を適用し、メトホルミン治療の失敗リスクが高い2型糖尿病患者をピンポイントで特定できることを明らかにした。研究成果は、The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolismに掲載されている。 メトホルミンはビグアナイド系薬剤に分類される経口糖尿病薬で、薬価の低さと費用対効果の面から、欧米の糖尿病治療ガイドラインにおける第一選択薬に推奨されているもの。一方で、血糖コントロールに絶対的に有効とは必ずしも言えず、実際、その治療失敗率は35%にも上るとの推計もある。研究では、ミシシッピ大学医療センター、アリゾナ州のマウンテンパーク・ヘルスセンター、ロチェスター疫学プロジェクト(REP)の患者集団を対象としている。REPはミネソタ州の医療記録連携システムで、過去50年間に渡る地域カルテデータを研究向けに連携させている。 研究者らはメトホルミン治療失敗を予測する高精度な機械学習モデルを導いたが、その過程で長期的な血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1c値を含む特定の健康指標が、そのリスクと関連することを発見している。また、高齢やカリウム値の高さ、トリグリセリド、心拍数の高さも治療失敗の予測因子となっていた。一方、良好な結果を示す要因には、利用した医療の「量とタイミング」が挙げられた。 著者らは「メトホルミンは2型糖尿病の治療薬として最も広く処方されている薬の1つであり、この研究は、医療従事者がより集中的な治療やより緊密なモニタリングを必要とする患者を特定するための手段を提供するものだ」と述べ、知見に基づく個別化医療の実践を促している。 参照論文: Predictors of Metformin Failure: Repurposing Electronic Health Record Data to Identify High-Risk Patients 関連記事: 「12時間の血糖モニタリング」で糖尿病リスクを識別 台湾発の「糖尿病眼症スクリーニングAI」 糖尿病合併症リスクの高精度管理へ

「ChatGPT支援診断」の可能性

市民によるセルフトリアージは、主にGoogle検索に依存している。一方、その多くが成功しないのは、健康情報の高度専門性と複雑さ、オンラインリソースの質の低さによるところが大きい。2022年11月に公開されたAIチャットボットのChatGPTは、医療利用にも潜在的な有効性を内包している。 ChatGPTは「Generative Pre-Trained Transformer 3(GPT-3)」をベースに、インターネット上の非構造化テキストを用いて訓練された汎用AIモデルである。特徴はそのサイズで、モデル構築時、数百ギガバイトのテキストデータを基に導かれた最大級のAIモデルでもあった。ChatGPTは公開5日間で100万以上のアカウントが作成され、実に多様な領域の質問に対して、詳細で精度の高い回答を生成できることから大きな注目を集めることになった。 ハーバード大学のAteev Mehrotra教授らは、既存のオンライン症状チェッカーとChatGPTの診断精度比較を行っているが、前者51%に対し、後者87%と有意に優れていた。また、ChatGPTの診断精度はアップデートにより経時的な改善をみていることも指摘している。Mehrotra教授らは「ChatGPTを含む対話型ツールによる診断支援の可能性」を高く見積もる一方、過信やバイアス、エラーなど、未知の課題抽出とその対応が必ず必要となることを強調している。 関連記事: AIメンタルヘルスチャットボット「Limbic Access」 うつ病自己管理にAIチャットボットは有効か? 行動変容に対するAIチャットボットの影響

ウェアラブルセンサーを用いた感情予測

ウェアラブルセンサーは、加速度計やジャイロスコープ、磁力計などの慣性センサーに基づいて人の動きをモニタリング・評価することに用いられている。また、生体信号を計測するためのセンサー搭載も進んでおり、現在、手首に装着するウェアラブル端末には、血流脈波や心拍数、心拍変動を計測する光電式脈波計、皮膚温度を計測する温度計、ガルバニック皮膚反応を計測する電気皮膚活動計など、種々のバイオセンサーが一般的に用いられている。このようなウェアラブルセンサーを用いて、物理的変化のみならず、感情変化を予測しようとする試みがある。 Sensorsに掲載された研究論文によると、手首装着型のウェアラブルセンサーによる生体信号から感情を予測する複数の機械学習モデルについて、その性能を比較・検証している。ここでは感情の2つの次元である、感情価(Valence)と覚醒度(Arousal)を考慮したモデルを構築した。アンケート調査に基づく感情の予測のため、Long Short-Term Memory(LSTM)を含む多様な分類モデルおよび回帰モデルを比較している。結果、分類モデルよりも回帰モデルが概ね良好な結果を示しており、中でもLSTM回帰モデルが最良の予測性能を示していた。 研究者らは「モデルのトレーニング段階であらゆる生体信号を利用することはせずとも、信頼性の高いモデルを構築できることが分かった」としており、「特定のセンサーのみでも十分に感情予測を行える可能性があること」を強調している。 参照論文: Predicting Emotion with Biosignals: A Comparison of Classification and Regression Models for Estimating Valence and Arousal Level Using Wearable Sensors 関連記事: Zero Wired...

切手サイズの「ウェアラブル超音波装置」

米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、心臓の構造と機能を経時的に評価可能な、ウェアラブル超音波装置を開発した。切手サイズのこのデバイスは、最大24時間駆動し、激しい運動中でも機能することを特徴とする。 同大学の公表によると、高い空間分解能と時間分解能、コントラストを備えたこの技術により、高品質でリアルタイムの心臓イメージングを実現するとともに、運動時にも測定可能というユニークな設計によって潜在的な活用シーンの幅を広げているという。 ナノエンジニアリングを専門とするSheng Xu教授は「目標は、超音波検査をより多くの人が利用できるようにすることだ」と述べており、場所や時間に制限を受けることなく、持続的な心評価を広く提供することを目指す。独自のAIシステムは心臓のポンプ機能を正確に評価できることを示しており、今後の発展に大きな期待が集まっている。 参照論文: A wearable cardiac ultrasound imager 関連記事: ATUSA – AI駆動による「ポータブル自動乳房3D超音波スキャナー」 専門家不在による乳房超音波検査 MIT – ウェアラブル超音波装置を開発

AIは「胸部X線上の肺結節特定」に貢献する

実臨床環境における「AIベースソフトウェアの効果検証」を狙ったランダム化比較試験により、AIが胸部X線写真上の肺結節検出を大幅に改善することを明らかにした。研究成果は7日、北米放射線学会(RSNA)の機関誌「Radiology」に掲載された。 肺がんの主要な所見である「肺結節」の検出は、胸部X線検査における重要なタスクの1つである。多くの研究で、AIを用いたコンピュータ支援検出ソフトウェアが放射線科医のパフォーマンスを向上させることが示唆されているが、実際の臨床環境で広く使用されてるわけではない。研究者らは、2020年6月から2021年12月までの間に、韓国の健診センターで胸部X線検査を受けた10,476人を対象とする試験を実施した。受診者はランダムに2群に割り付けられており、片方はAI支援の放射線科医による読影、もう片方はAI支援無しでの読影となる。結果、AI支援あり群では、無し群に比べて2倍以上の肺結節検出率を示していた一方、それぞれの誤判定率に有意な差は見られなかった。 著者らは「我々の研究は、AIが胸部X線写真の解釈に真に役立つことを高いエビデンスレベルで示した。これは胸部疾患、特に肺がんをより早い段階で効果的に発見することに貢献する」としている。 参照論文: AI Improves Nodule Detection on Chest Radiographs in a Health Screening Population: A Randomized Controlled Trial 関連記事: 単純X線写真に基づく鼻骨骨折の高精度識別AI 胸部X線写真から心疾患リスクを予測 合成X線画像を生成するAI

デンマークが「AI支援大腸内視鏡検査を推奨しない」理由

デンマークの治療審議会はこのほど、腫瘍性疾患の診断に用いる意思決定支援ツールとしての「コンピュータ支援大腸内視鏡検査」の導入を現時点で推奨しないことを明らかにした。これはデンマークでの既存ガイドラインに照らし、過剰治療を誘発する恐れがあるためという。 デンマークではガイドライン上、「確認されたポリープは全て切除すること」が基本となっているため、わずかな変化も見逃さないよう設計されたAI支援システムの導入によって、本来的に有害性の低い病変を含めた過剰な切除が進むことにより、「合併症リスクが潜在的利益を上回る可能性」を指摘している。 新技術の台頭に基づき、国単位での既存ガイドラインを安全かつ効果的に更新するためには、単にAIの網羅的な検出性能を示すのみではなく、最終的な患者利益が最大化する「有効な検出」を狙った設計と評価が肝要となる。 関連記事: AIが「大腸内視鏡検査の精度バラつき」を防ぐ 大腸内視鏡AI導入は年間370億円を削減する AIが大腸内視鏡検査での見落としを防ぐ

機械学習モデルで「医師の離職」を予測

米イェール大学の研究チームは、米国の大規模医療システムが保有するデータ(電子カルテおよび医師属性情報)を利用し、「医師の離職可能性」を高精度に予測する機械学習モデルを構築した。研究成果はこのほど、PLOS ONEから公開されている。 チームの研究論文によると、319人の医師について3ヶ月分の電子カルテ情報(利用時間や患者数、臨床生産性の指標など)、および医師の年齢や勤続年数など、個人の特性を示す属性情報から、その後6ヶ月以内での「医師の離職」を予測する機械学習モデルを構築した。検証の結果、このモデルは97%という高精度で離職を予測しており、特に離職に寄与する変数としては雇用期間、医師の年齢、取り扱う症例の困難さ、サービス需要、となっていた。 著者らは、「なぜこのような予測となるか」を掘り下げていくことで、医師の離職要因と背景を理解することができる可能性を指摘しており、「臨床医にとって持続可能性な、活気ある職場づくりに資する基礎的研究成果」としている。 参照論文: Predicting physician departure with machine learning on EHR use patterns: A longitudinal cohort from a large multi-specialty ambulatory practice 関連記事: Regard社 – AIによるワークフロー改善で医療者の燃え尽きを防ぐ スケジュール作成AIが医師の燃え尽きを防ぐ ...

「FDA承認済みAI医療機器」を複数有する企業10社

1995年以降、米食品医薬品局(FDA)は521のAI対応医療機器を承認してきた。Insilico MedicineがFDAの公開情報を元にまとめたリストによると、このような承認済みAI医療機器を「複数有する企業」のトップ10社は下記となる。 1. GE: 42個  2. Siemens: 29個  3. Canon: 17個  4. Aidoc: 13個  5. Philips: 10個  6. Zebra Medical Vision(Nanox Visionによって買収): 9個  7. Quantib: 7個  8. Shanghai United Imaging Healthcare: 6個  9....

Apollo Hospitals – 臨床判断支援AIツールをインド全土に展開

アジア最大規模の医療機関として知られるApollo Hospitalsは、独自に開発した臨床判断支援AIツールである「Apollo Clinical Intelligence Engine(ACIE)」について、インド全土の医師に向けて公開することを明らかにした。 ACIEは、大規模な臨床データを自動分析し、リスク推定から医療者が見逃す可能性のあるパターン特定までを行うことで、医師の迅速で適時的な臨床意思決定を支援する。現時点で1,300以上の病態と800以上の症状が対象となっており、日常的な症例の95%をカバーするという。Apolloが保有する40年分の臨床データと数千人の医師の集合知、膨大な論文データなど、「世界最大級のコネクテッドヘルスデータレイク」を整え、100人以上のエンジニアによってプラットフォームを構築した。 Apollo Hospitals Groupで代表を務めるPrathap C. Reddy医師は「我々のチームがACIEをコンセプト化した時、これはヘルスケアに革命をもたらす画期的なものだと確信した。ACIEはインド中の全ての医師に共有される必要がある」と述べている。 関連記事: インド工科大学 – アジア最大の医療機関と研究提携 インドにおける医療改革の要はAI インドの主要病院グループがメタバースに進出

Dermalyser – メラノーマの診断支援AI

スウェーデンのヘルスケアスタートアップであるAI Medical Technologyは7日、AI搭載の皮膚がん診断支援システム「Dermalyser」について、スウェーデン国内のプライマリケア施設37ヶ所で実施した臨床試験の結果を公表した。 同社の公表によると、臨床試験にはメラノーマ(皮膚の悪性腫瘍)が疑われる患者240名を組み入れ、前向きの観察研究を行っている。モバイルアプリケーションとして提供されるDermalyserは、感度95%および特異度86%と、プライマリケア医や皮膚科医を凌ぐ診断性能を示していた。 AI Medical TechnologyでCEOを務めるChristoffer Ekström氏は「非常に高い感度と特異度は、Dermalyser の臨床性能と有用性を示すものだ」とし、今後は欧州CEマークの取得を経て、2023年後期での欧州市場での商業展開を目指している。 関連記事: 皮膚パッチによるヘモグロビンモニタリング AIを用いた皮膚がんの再発予測 サル痘の皮膚病変を識別するモバイルAIアプリ

WHO研究 – メンタルヘルスにおけるAI応用と課題

2021年段階で、欧州地域では1.5億人以上がメンタルの問題を抱えながら生活していたが、その後のCOVID-19流行や紛争などを経て状況は劣悪化し、メンタルヘルスがいかに脆弱であるかを示した。2022年9月の「Regional digital health action plan for the WHO European Region 2023–2030(WHO欧州地域デジタルヘルス行動計画2023-2030)」でも、ビッグデータとAIによる「健康増進のための予測分析の革新」が必要であると認識されており、特にメンタルヘルスは主要ターゲットの1つとして捉えられている。 WHOは6日、スペインのバレンシア工科大学との共同研究により、メンタルヘルスへのAI活用の方法論と品質に関する系統的レビューをまとめ、JMIR Mental Healthから公開したことを明らかにした。主要な知見として、メンタルヘルス領域のAIアプリケーション活用がアンバランスであり、うつ病など特定の疾患を対象としているものがほとんどであること、メンタルヘルス研究に対しては、AIは治療の質評価のほか、患者集団のサブグループ・クラスター化など、層別化に主に利用されていたこと、などを示している。また、品質評価においては、AIの適用過程とデータの前処理パイプラインに重要な欠陥があることを明らかにしており、調査対象研究の3分の1は前処理やデータ準備に関する報告が無かった。5分の1は、事前に適合性を評価することなく、いくつかの方法を比較してモデルを開発しており、外部検証を報告している割合もわずかであった。さらに、データや開発されたモデルの多くは非公開であり、透明性や国際協力などは「逸話的である」と評している。 著者の1人であるバレンシア工科大学のAntonio Martinez-Millana氏は「AIは、来るべきデジタル革命の基礎となるものだ」とした上で、本研究が明らかにした課題への取り組みが、次世代の良質なメンタルヘルスサービスを形作る可能性を強調している。 参照論文: Methodological and Quality Flaws in the Use of Artificial Intelligence in...

Digital Diagnostics – サウジアラビアでの戦略的パートナーシップを発表

糖尿病網膜症診断のための完全自律型AIシステム(FDA認可済み)である「IDx-DR」を提供するDigital Diagnosticsはこのほど、サウジアラビアで100年以上続くヘルスケア企業のTamer Healthcareとの戦略的パートナーシップを締結した。 このパートナーシップは「サウジ・ビジョン2030」の一環として、王国のヘルスケアとイノベーションをさらに強化することを目的としたもの。ここではまず、Digital Diagnosticsの主力製品であるIDx-DRの販売に焦点を当て、徐々に将来的なAI技術開発とその拡大へと進めていく。サウジアラビアでは800万人以上の人々が糖尿病に伴う視力低下リスクにさらされており、同領域における技術革新へのニーズが世界で最も高い国の一つとなる。 Tamer Healthcare CEOのYasser Khattab氏は「我々はこのパートナーシップを活用し、国家の利益のためにヘルスケアイノベーションを促進することを楽しみにしている」と述べた。 関連記事: 台湾発の「糖尿病眼症スクリーニングAI」 糖尿病合併症リスクの高精度管理へ クラスター分析に基づく「糖尿病の精密医療」

ATUSA – AI駆動による「ポータブル自動乳房3D超音波スキャナー」

ATUSAは、訓練を受けた技師を必要とせず、乳房全体を自動的にキャプチャする超音波デバイスで、ポイントオブケアで繰り返し乳房超音波画像を得ることを可能とする。ATUSAの詳細は過去記事でも取り扱っており、参照のこと(過去記事)。 ATUSAを提供するiSono Healthはこのほど、Arab Healthにおける「Innov8 Talks コンペティション」で優勝したことを明らかにしている。同イベントでは1週間の集中審査後、計24のスタートアップがピッチを行っており、iSono Healthはここで賞金1万米ドルを獲得した。 参照動画:World’s first AI-driven portable 3D breast ultrasound scanner wins at Arab Health's Innov8 https://youtu.be/-egaxWRaqJs Innov8のファイナリストには、3Dプリントと高度な画像解析を用い、患者臓器のレプリカを作成するLazarus 3D、心血管疾患の早期発見のためのAIソフトウェア開発を手掛けるRobot Dreams、血液循環を高める膝装着型デバイス「Geko」を開発したSky Medical Technology、医療システム向けに燃え尽きの予防、監視、管理、治療のためのワンストップソリューションを提供するFitmedikが含まれている。 関連記事: iSono Health社「ATUSA」 ...

機械学習による「救急頻回受診予測」の改善

「救急外来の頻回利用」は、入院や死亡のリスク増加が指摘されてきた。頻回利用の背景には複雑な患者ニーズがあり、先行研究ではこれらの要因はロジスティック回帰モデルを用いて評価されることが主であった。カナダ・ラヴァル大学などの研究チームは、機械学習モデルを用いることで、古典的アプローチに比して「頻回受診予測」を改善できる可能性があることを明らかにしている。 Scientific Reportsから3日公開された研究論文では、カナダ・ケベック州の慢性疾患患者を対象として、救急外来の頻回利用を予測するためのロジスティック回帰モデルについて、新たに構築した複数の機械学習モデルとその性能を比較している。45万人を超える救急受診者のうち、43,151人が年間3回以上、13,676人が年間5回以上の受診を認めた。これらの予測において、ランダムフォレストは最も低い性能を示したが、他のモデル(勾配ブースティング、ナイーブベイズ、ニューラルネットワーク、およびロジスティック回帰)はほぼ同程度の性能を示し、機械学習モデル群がわずかに上回っていた。なお、最も高い説明力を持つ変数は「前年の救急外来受診回数」だった。 チームは「どのモデルも他を凌駕するものではなかった」としつつも、アルゴリズムの革新により予測は改善に向かう可能性が示唆されたとし、同領域における機械学習の潜在的有効性を指摘する。 参照論文: Machine learning to improve frequent emergency department use prediction: a retrospective cohort study 関連記事: 救急部における画像解析AI利用の価値 「小児救急外来でのAI活用」を保護者は受け入れるか? 救急部での臨床判断を支える「新しい機械学習トリアージツール」

AIが「大腸内視鏡検査の精度バラつき」を防ぐ

JAMA Network Openに掲載された研究では、AIベースの大腸内視鏡検査支援システムは術者のパフォーマンスを向上させ、腺腫検出率(ADR)を改善するとの成果を明らかにした。先行研究から、大腸内視鏡検査は「検査施行時間帯によって検査精度にバラつきのある可能性」が指摘されてきたが、これを改善する支援システムとしての有効性が期待されている。 研究チームは1,780人を対象としたランダム化比較試験において、大腸内視鏡検査時にAI支援群とAI非支援群に割り付けた。1日のうち早い時間帯に行われたセッションは1,041件で、遅い時間帯に行われたのは739件であった。AI非支援群において、早い時間帯のADRが13.73%であったのに対し、遅い時間帯においては5.7%と有意に検出率は低下していた。一方、AI支援群においては時間帯によってADRの有意な差は見られなかった。 研究チームは「AIがより高度な支援性能を発揮するのは、検査精度が低下しやすい遅い時間である」ことを指摘するとともに、「大腸内視鏡検査の品質維持に向けてAIが潜在的有効性を持つことを実証した」としている。遅い時間帯に医師の集中力が低下し、検出率が保たれない可能性のあることは「人間としての限界」とも言えるが、AIによる介入によってこれを防ぐことができるのであれば、望ましいAI活用効果の一例となる。 参照論文: Assessment of the Role of Artificial Intelligence in the Association Between Time of Day and Colonoscopy Quality 関連記事: リンチ症候群患者における大腸がんAIサーベイランス シンガポールの主要病院が「大腸内視鏡AI」を臨床導入 大腸内視鏡AI導入は年間370億円を削減する

医療トレーニングにおけるAIシミュレーター

英マンチェスターに拠点を置くRe:course AIは、アバターを用いたAIシミュレーションによる医療トレーニングを提唱している。同社はこのほど、430万ドル(5.5億円)のシード調達を行い、医学部に対するバーチャル授業の全国展開を狙う。 Re:course AIは会話型アバターを利用することで、実際の患者シナリオを模した臨場感あるロールプレイを実現する。同社は英国民保健サービスとの提携により、サウスヨークシャーのプライマリケア医を対象とした初期の試験運用が行われている。また、英国防省の医療訓練では、軍人や退役軍人のメンタルヘルス治療を提供する準備段階の臨床医をサポートしている。 米国のメディカルスクールであるUSC Keck School of Medicineとの協力関係もあるほか、NHS EnglandのSBRI Healthcare部門から120万ドルの賞も授与されるなど、現在英国発医療AIスタートアップの新鋭として大きな注目を集めている。 関連記事: AIモデルトレーニング用の「医療面接データセット」 脳外科手術トレーニングでAIチューターが人間の指導パフォーマンスを上回る モデルナ – 社員教育を目的としたAIアカデミーを開設

大腸がん肝転移における外科的治療の結果を予測

大腸がん肝転移(CLM)の治療において、外科的介入は依然として集学的アプローチの要となっている。一方、患者転帰には大きな差があり、臨床で普遍的に利用可能な予測ツールが求められてきた。米ルイジアナ州立大学やイェール大学、メイヨークリニックなどの研究チームは、CLM術後の再発・死亡を予測する機械学習モデルを構築した。 Journal of the American College of Surgeonsからこのほど公開された研究論文では、2000年から2018年にCLMに対する外科手術を受けた1,004件の臨床データを利用し、128の臨床変数から再発と死亡を予測する機械学習モデルを構築した。データ全体として、切除後の生存期間中央値は47.2ヶ月、無病生存期間は19.0ヶ月で、コホートでの追跡期間中央値は32.0ヶ月であった。いずれのモデルも良好な予測力を示し、既存指標を上回る臨床的有効性が示唆されていた。 著者らは「CLM術後の生存や再発の予測モデルを作成するためのツールとして、機械学習は非常に強力だ」としており、さらなる改良により実臨床で利用可能な予測システム構築が可能であることを強調している。 参照論文: Machine Learning Models for Predicting the Outcomes of Surgical Treatment of Colorectal Liver Metastases 関連記事: 乳がんリンパ節転移検出病理AI「Paige Breast Lymph Node」 ...

動画によるパーキンソン病評価

2018に中国で設立され、脳神経系疾患におけるデジタル療法の研究開発に努めるNERVTEXは1日、同社のMoDAS(Movement Dysfunction Assessment Software)システムが、パーキンソン病などに対する運動障害評価システムとして中国規制当局の認可を取得したことを明らかにした。 公表によると、動画ベースのAI搭載医療機器が中国で承認されるのは初めてとのこと。MoDASは、スマートデバイスを用いて患者の運動状態を動画で撮影、コンピュータビジョンおよびディープラーニング技術によって客観的かつ定量的な情報を医師に提供することができる。MoDASは、既存のウェアラブルモーションセンサーと比較し、物理デバイスが人の動きに干渉することを効果的に回避できること、センサーの装着や消毒にかかる時間が必要ないこと、医療者にとって使いやすいインターフェースを備えること、などを特徴とする。 上海長海病院が主導したパーキンソン病患者対象の多施設共同臨床試験では、MoDASの出力結果は、既存の基準に基づく臨床医の診断と高い整合性を示した。NERVTEXのCMOであるZhou Dong氏は「運動症状を客観的に数値化する便利なツールを神経内科医に提供できる。より正確で効率的な治療の意思決定に役立ててもらいたい」としている。 関連記事: スマートフォン動画による自閉スペクトラム症の識別 「自撮り動画によるバイタルサイン測定」をナイジェリア全土に 結核治療薬の服薬動画を監視するAI

「遠隔患者モニタリングツール」はさらなる普及へ

デジタルトランスフォーメーションに焦点を当てた調査会社であるInsider Intelligenceはこのほど、ヘルスケアにおける遠隔患者モニタリング(RPM)技術に関する調査結果を明らかにした。ここでは、「2025年までに米国人口の26.2%にあたる7060万人がRPMツールを使用すること」など、興味深い予測と見解が示されている。 Insider Intelligenceによると、「デジタル化の影響を依然として受けていない最後の産業」として持ちこたえてきたヘルスケアは、COVID-19によってその状況が大きく変化し、大規模なデジタル化が進むことを指摘している。米国の医療システムや病院が転帰改善とコスト削減のために利用するツールの1つがPRM技術で、医師の手の届く範囲を広げ、患者と医療者の間に一定の関係を築くとともに、医療提供者にリアルタイムのヘルスデータを継続的に提供することができるようになる。具体的な変革事例としては、米ピッツバーグ大学医療センターは、患者にタブレットとRPM機器を提供することで、病院への再入院リスクを76%削減し、患者満足度を90%以上に維持したという。また、25の医療機関を調査したKLAS Researchのレポートによると、慢性疾患管理に重点を置いたRPMプログラムを実施している医療機関の38%が、入院患者の減少を報告したとする。 Insider Intelligenceは「RPM技術の次期トレンドを小型化」としており、機器メーカーは自社のソリューションを小型化し、侵襲性を低くする一方で、新規参入企業と提携しつつ市場シェアの拡大を図るという。Dexcomの例を挙げ、Alphabetのライフサイエンス部門であるVerilyと提携し、Bluetooth経由でヘルスデータをスマートフォンなどに送信できる新しい糖尿病センサーを開発している件に言及している。 関連記事: PDMonitor – パーキンソン病の遠隔モニタリングシステム サウスカロライナ医科大学 – AIによる遠隔診療の強化 Nature論文 – モーションキャプチャとAIによる運動障害モニタリング

「症状発生順序」からCOVID-19を診断

米ジョージ・メイソン大学の研究チームは、Journal of Quality Management in Healthcareにこのほど掲載された5報の論文を通じ、AIがCOVID-19の診断にいかに役立つかを強調している。ここではその内の1報、機械学習によってCOVID-19における各症状の発現タイミングや順序から、診断精度を向上させることができるとする研究成果を紹介する。 COVID-19の発症が疑われる患者は、医療機関における適切な対応窓口(あるいは待機所)に誘導する必要があり、一般受診患者との混合によってさらなる感染拡大が危惧されている。一方、米国では症状に基づいてCOVID-19を識別するための明確なガイドラインは存在しておらず、簡易に利用可能で有効な「症状スクリーニング」が求められてきた。研究チームは、COVID-19検査を受けた者を対象としたオンラインアンケートの結果を利用し、「症状の発生順序」からCOVID-19の診断を支援しようとする機械学習モデルを構築している。 研究結果では「発生順序はわずかに診断精度を向上させる」にとどまっているが、先行研究においても発症からの時間経過に伴って発現しやすい症状は異なることが知られており、患者ごとの背景情報を組み込むことでさらに高精度なモデル構築に至る可能性が指摘されている。 参照論文: Order of Occurrence of COVID-19 Symptoms 関連記事: レビュー論文 – COVID-19画像解析へのAI利用 AIによる「Long COVIDサブタイプ」の同定 深層学習による脂肪肝評価でCOVID-19重症化を予測

機械学習により「禁煙に有効な既存薬」を特定

鎮咳去痰薬として知られるデキストロメトルファン(商品名:メジコン)など複数の既存薬が、禁煙治療に再利用できる可能性があることを機械学習アプローチが明らかにした。 米ペンシルベニア州立大学やミネソタ大学の研究者らがまとめた研究論文によると、130万人以上の遺伝子データを対象とした機械学習を用いた分析により、喫煙行動に関連する400以上の遺伝子を特定した。それぞれの遺伝子が生物学的経路においてどのような役割を果たしているかを調べ、機序から喫煙行動に至らせない効能を示す可能性のある既存薬を明らかにした。研究成果は26日、Nature Geneticsから公開されている。 特定した薬剤の中には、喫煙者の禁煙を助ける効果があるとして、すでに臨床試験が開始されているものもあるが、候補薬剤は複数示されており、禁煙支援の新しい薬物療法の可能性に期待が集まっている。 参照論文: Multi-ancestry transcriptome-wide association analyses yield insights into tobacco use biology and drug repurposing 関連記事: 喫煙・飲酒行動の関連遺伝子を発見 世界禁煙デー2021 – WHOの禁煙支援デジタルツール提供 DeepMosaic – DNAモザイク変異の検出AI

医療者は勤務時間の3分の1を文書作成に費やす

音声認識AIによる臨床文書作成システムを提供するNuanceは、医療従事者による文書作成業務の実態を調査したレポートを公開している。ここでは、燃え尽き症候群の主要な因子として知られる「文書作成業務」の過大な負荷が明らかとなった。 2022年4月から7月にかけて英国を舞台に行われたこの調査では、医師や看護師、その他の医療専門職など1,000名を超える参加者を対象としている。主な調査結果では、医療従事者は臨床文書の作成に週平均で13.5時間(医師15.1時間、看護師16.5時間)を費やしており、過去7年間で25%増加していた。また全ての医療従事者は、週平均で3.2時間のプライベート時間を臨床文書の作成に費やしており、医師の平均は4.7時間となっていた。 文書作成を巡るネガティブな側面の一方、ドキュメンテーションの様式が過去7年間で大きく変化し、紙とペンを使用した文書作成は半減したこと(可読性向上)、電子カルテに一本化されることによって記載がより構造化されていること(標準化促進)、などが挙げられている。ただし、内容の正確性に大幅な向上が得られていない点は課題の1つとして残っている。Nuanceのソリューションを含め、AIを活用した文書作成支援と燃え尽き症候群の予防には、引き続き臨床現場における大きな需要が伴っている。 関連記事: AMIA 25×5 – 2025年までに「医師の文書作成負担」を75%軽減へ DeepScribe – AIで医療文書作成ワークフローを変革 Suki社のAIアシスタント – 家庭医の文書作成負担軽減を米国家庭医学会と共同検証

「ICUせん妄」の発症予測

ICUせん妄は、集中治療室(ICU)入室中の成人に起こる急性精神障害で、失見当識や知覚障害、思考錯乱、情緒障害など、多彩な症状を呈する。過活動型のせん妄は症状が強いため医療者にも認識されやすいが、低活動型のICUせん妄はその多くが見過ごされている一方で、患者予後を悪化させる点では過活動型と変わらない点が問題視されてきた。 ジョンズホプキンス大学の研究チームは、電子カルテで日常的に収集される臨床データおよび生理学的データに機械学習を適用し、ICUせん妄を予測できるとする研究成果を公表した。Anesthesiologyから公開された研究論文によるとチームは、全米208病院、20万件を超えるICU滞在データを利用し、この機械学習モデルをトレーニングした。「静的モデル」と名付けられたモデルは、ICU入室後24時間のデータを用い、その後ICU滞在時にせん妄を発症するかを予測するもので、「動的モデル」と名付けられたモデルは経時データから12時間後までのせん妄発症を予測した。性能検証においては前者がAUC 0.73、後者が0.85を示し、ツールの臨床的有効性が示唆される結果となった。 著者らは「臨床データおよび生理学的データで学習した機械学習モデルは、ICUせん妄を予測し、時間的な制約のある中でも動的予測をサポートすることができる」としている。 参照論文: Predicting Intensive Care Delirium with Machine Learning: Model Development and External Validation 関連記事: AIプラットフォームによるICU管理 急性腎障害の早期予測AIモデル 「入院ベッド数の需要」を予測するAIツール

EUと米国がAI協力を強化

欧州委員会と米国政府は27日、バーチャルで行われた式典において「Administrative Agreement on Artificial Intelligence for the Public Good(公益のための人工知能に関する行政協定)」に署名した。この協定は、サプライチェーンの安全保障から新興技術まで、いくつかの優先分野にわたる大西洋横断協力のための常設プラットフォームとして2021年に発足した「EU-米国貿易技術会議(TTC)」の文脈で締結されたものとなる。 欧州委員会の公表によると、ここでは信頼性を測る指標やリスク管理手法など、AI技術の重要な側面についての共同ロードマップを承認している。AIロードマップに基づき、米国とEUの行政府は、気候変動や自然災害といった世界的・社会的課題に対処できる可能性を持つAI研究を特定・開発するため、協力関係を強化するが、5つの最優先分野には「ヘルスケア」も含まれている。現時点で、大西洋を越えて個人情報を含む大規模データを共有するための法的枠組みは存在しないが、今回の協定を基にした「EUと米国のデータ資源共有」の可能性が指摘されている。 関連記事: EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始 前立腺がん病理診断AIプロジェクトから提唱された「国際協力の必要性」 EU – 欧州最大の病理画像データベース構築へ

レビュー論文 – COVID-19画像解析へのAI利用

SARS-CoV-2ウイルスによるCOVID-19拡大は、2019年12月の初発生からわずか36カ月で6億7000万人以上が感染に至り、すでに680万人が死亡している。疾患の迅速かつ正確な検出と診断は、世界中で最優先事項となった。研究者たちはCOVID-19検出のためのさまざまな手法に取り組んでおり、特に胸部画像に対するAI利用例は膨大な数となっている。カナダ・カルガリー大学などの研究チームは28日、COVID-19画像解析へのAI利用を包括的に調査したレビュー論文を公開した。 Medical & Biological Engineering & Computingから公開された論文は、COVID-19画像解析に関する最近のアプローチを詳細にレビューし、既存の研究努力の貢献度や利用可能な画像データセット、および最近の研究で使用された性能指標についてなどを調査している。胸部X線(CXR)、コンピュータ断層撮影(CT)画像、肺の超音波画像を中心とする医療画像に対して、AIベースのアプローチによる自動画像分析システムが多々提唱された。ここでは、患者画像からのCOVID-19検出と分類、感染領域のセグメンテーション、重症度評価、患者の経過追跡が含まれ、機械学習、深層学習、転移学習、およびハイブリッドモデルが活用されている。 COVID-19に対して「AIがどのように適用されてきたか」、「現在どのような課題があり、将来の研究領域には何があるか」を包括的に学ぶことのできるレビュー論文となっている。全文を無償で閲覧できるので、関心のある読者はぜひ一度読んでみることをお勧めしたい。 参照論文: A survey of machine learning-based methods for COVID-19 medical image analysis 関連記事: AIによる「Long COVIDサブタイプ」の同定 COVID-19対応に活用されたAIツールの特徴 音声データからCOVID-19を検出するスマートフォンアプリ開発

AI技術による「オリジナルタンパク質」の生成

研究者らは、「ゼロから人工酵素を生成」することができるAIシステムを構築した。実験室における検証では、人工的に生成したアミノ酸配列が既知の天然タンパク質と大きく乖離していても、これらの酵素の一部は自然界に存在するものと同等に機能したとしている。 Salesforce Researchが開発した「ProGen」と呼ばれるAIプログラムは、自然言語処理を応用した「新たなたんぱく質設計技術」を提唱している。ネクストトークン予測によりアミノ酸配列を人工タンパク質に組み立てる同技術は、元来同社の研究者が英語テキストを生成するために開発した自然言語処理モデルをベースとする。研究者らは、2億8千万種類のあらゆるタンパク質のアミノ酸配列をモデルに送り込み、2週間に渡って情報を消化させた後、5つのリゾチームファミリーにおける56,000の配列と、これらのタンパク質に関する情報を入力し、モデルの微調整を行った。 チームは「この新しい技術は、ノーベル賞を受賞したタンパク質設計技術である指向性進化法よりも強力となる可能性があり、治療薬からプラスチック分解に至るまで、ほとんどあらゆる用途に向けたタンパク質開発を実現し、50年の歴史を持つタンパク質工学の分野にさらなる活気を与えるだろう」と述べている。 参照論文: Large language models generate functional protein sequences across diverse families 関連記事: 化合物とタンパク質間の相互作用を「自然言語でモデル化」 COVID-19症状をタンパク質伝達経路から予測 大規模臨床言語モデル「GatorTron」

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