年間アーカイブ 2023

Google Cloud – 生成AI利用でメイヨークリニックと提携

Google Cloudは7日、米メイヨークリニックと共同し、生成AIによる医療の変革を行うことを明らかにした。 これはGenerative AI App Builder(Gen App Builder)のEnterprise Searchを皮切りに進めるもので、臨床ワークフローの効率化、臨床医や研究者が必要とする情報を見つけやすくすることでの業務効率改善、最終的な患者の転帰改善に寄与するとしている。また、Google Cloudは、このEnterprise SearchがHIPAAコンプライアンスに対応したことも同日併せて発表している。 Gen App BuilderのEnterprise Searchは、分散した文書、データベース、イントラネットのデータを統合し、検索、分析、最も関連性の高い結果の特定を容易にするもの。Google Cloud CEOのThomas Kurianは「メイヨークリニックは、AIを良い方向に活用する世界的なリーダーであり、この革新的技術を医療にもたらすための責任ある方法を明らかにする上で、彼らは重要なパートナーだ」と述べている。 関連記事: 「歯科用クラウン」製造における生成AI技術 UNC Health – Epicとの協業で生成AIツールを臨床統合 AI技術による「オリジナルタンパク質」の生成

医療AIへの信頼性を探る – GEヘルスケア「Reimagining Better Health」レポート

医療界はAI技術の適用を積極的に進めており、患者体験の向上やアウトカムの改善、業務の自動化、生産性の向上を目指す。しかし、患者・医療者を問わず、AIに対する信頼性に懸念を持つ者も少なくない。その詳細がGEヘルスケアの新たなレポート「Reimagining Better Health」で明らかにされている。 この調査では、5,500名の患者とその支援者、さらに2,000名の医療者に対して調査を行い、代表する24名への定性的インタビューを分析した。その結果、55%の回答者が「AI技術はまだ医療用として準備が整っていない」と答え、また58%が「データへの信頼が不足している」と回答した。経験豊富な医療者の中では、67%もの者が「AIへの信頼を欠く」と表明している。信頼性に関する疑念は、「不完全なトレーニングデータ」、「欠陥のあるアルゴリズム」、「不十分な評価プロセス」等に起因するとし、これらの結果として「アルゴリズムが公平さを欠く可能性」に懸念を示している。特に44%の回答者が「技術にバイアスが含まれている」と感じていた。 一方で、AIの利点も広く認識されており、61%の医療者が「技術が意思決定に役立つ」、54%が「より迅速な医療介入が可能になる」、そして55%が「業務効率の向上に貢献する」と回答している。本レポートでは、AIの導入がうまく機能するために、継続的な教育とトレーニング、そして医療者とAI開発者の間での協力が必要と結論付けている。 関連記事: AI医療に対する患者の信頼度調査 臨床医の信頼を得やすいAIツールとは? ユーザーは「人間味ある健康アプリ」に信頼を寄せる

「AIアルゴリズムの組み合わせ」が乳がんリスクの長期予測に寄与

乳がんスクリーニングへのAI適用について研究が進み、特にマンモグラフィ検査における乳がん検出精度に期待が寄せられている。一方、進行がんや中間期がん(Interval Cancer: 検診間隔の合間に発見されるがん)に対する長期リスク予測の精度については検証の途上にある。米国のメイヨークリニックとカリフォルニア大学サンフランシスコ校の共同研究チームは、Screenpoint社の乳がんリスク評価AI「Transpara」と、Volpara社の乳房密度評価AI「TruDensity」を用いた乳がんの長期リスク予測についての研究を進めている。 Journal of Clinical Oncologyに掲載された同研究では、2,412人の乳がん患者における「診断から2〜5.5年前に実施されたマンモグラフィ画像」を用いて、従来の評価指標(放射線科医の読影およびBI-RADSガイドライン)と、AIツール(TransparaおよびTruDensity)の長期リスク予測能力を比較検証している。その結果、Transparaの独自AIスコアをTruDensityの乳房密度測定値と組み合わせることで、浸潤がん・進行がん・非進行がん・中間期がんなど、各カテゴリーに対する長期リスク予測能力が、従来の評価手法よりも向上することが確認された。 Screenpoint社のCSOであるNico Karssemeijer教授は、「乳房密度と乳がんリスクの関連は以前から知られていたが、近年の研究により、密度と画像ベースのリスク評価を組み合わせた手法がより理解され、個別化医療を推進できるようになった」と述べている。 参照論文: Impact of Artificial Intelligence System and Volumetric Density on Risk Prediction of Interval, Screen-Detected, and Advanced Breast Cancer 関連記事: ...

ChatGPTと世界疾病負荷研究の統合

サウジアラビア・リヤドにあるキングサウード大学の研究チームは、ChatGPTを活用した個別化医療の推進として、世界疾病負荷研究(GBD)の知見と組み合わせることによる個別化治療計画の策定を提案している。 GBDは米ワシントン大学保健指標・保健評価研究所(IHME)を中心に、複数の世界的機関(ハーバード大学やインペリアルカレッジロンドン、東京大学、WHOなどを含む)が共同し、進められてきた最大規模健康追跡調査。現在では、150を超える大学や研究機関、政府機関が参加する共同研究となっている。オープンアクセスジャーナルであるCureusから公開された論文では、GBD研究に基づくデータ駆動型知見とChatGPTの会話能力を統合することで、「患者のライフスタイルや嗜好に沿ってカスタマイズされた治療計画の立案」ができる可能性を指摘する。 研究者らは「この統合は、AIによる個別化疾病負荷(AI-PDB)評価および計画ツールへと発展する可能性がある」とするとともに、GBDの地域データにアクセスすることで、地域で流行している疾患や症状の予防と制御のための「地域ベースの推奨事項」を策定できる点にも言及する。 参照論文: ChatGPT-4 and the Global Burden of Disease Study: Advancing Personalized Healthcare Through Artificial Intelligence in Clinical and Translational Medicine 関連記事: ChatGPTの医学的エビデンス要約能力 ChatGPT – 米国消化器病学会の試験には合格できず ChatGPT...

オリンパス – 英Odin Visionの買収を完了

オリンパスは5日、内視鏡画像診断に関する革新的なクラウド型AI技術で知られる英「Odin Vision社」の買収を完了したことを明らかにした。本買収は昨年12月に両者が締結した合意契約に基づくもの。 公表によるとオリンパスは、同社の内視鏡システムにデジタルソリューションを組み合わせ、リアルタイムで手技・臨床・医療機器に関するデータを収集・分析することを狙う。「最新のAIアルゴリズムやソフトウェアを活用したデジタルプラットフォームを搭載することで、医療従事者の管理作業上の負担を軽減し、臨床現場での業務効率向上に寄与するのに加え、医療従事者がより良い臨床ケアを患者に提供するためのサポートを目指す」としている。 また、オリンパスは Odin Visionの買収を通じてデジタル戦略実現の基礎を固めたロンドンを皮切りに、世界各地に「デジタル・エクセレンス・センター(DEC)」を設立する計画を立てている。オリンパスのデジタル戦略に、Odin Visionの強力なポートフォリオ、AI技術、ソフトウェアの専門知識や開発能力を組み込むことで、相乗効果を生み出すとし、今後、DECはハンブルクやボストン、東京など同社の主要な技術開発拠点に拡大し、将来的にはシリコンバレーやテルアビブへの進出も視野に入れる。 オリンパスのデジタルヘルス・グローバルビジネスリーダーのShawn LaRocco(ショーン・ラロッコ) 氏は、「内視鏡のリーディングカンパニー、そして、この分野のイノベーターとして、当社は、次世代の商用技術や独創性を医療従事者の方々に提供することに努めてまいります。オリンパス単独では実現出来ないため、今後も、Odin Vision社のように、同じ熱意を持つ第三者の開発パートナーとの連携を推し進めてまいります」と述べた。 関連記事: デンマークが「AI支援大腸内視鏡検査を推奨しない」理由 AIが「大腸内視鏡検査の精度バラつき」を防ぐ シンガポールの主要病院が「大腸内視鏡AI」を臨床導入

関節リウマチの早期診断AI

関節痛に悩む患者から早期の関節リウマチ(RA)を見つけ出し、適切な治療介入を行うことは、疾患予後を改善する重要なポイントとなる。オランダ・ライデン大学病院の研究チームは、手足のMRI画像をAIで自動解析し、早期のRAを予測する研究を推進している。 2023年の欧州リウマチ学会(EULAR)年次総会で発表された同研究によれば、早期発症関節炎の患者1,247人(2年以内にRA発症538人)、および臨床的な関節炎疑い患者727人(2年以内にRA発症113人)からなる、計1,974人から収集した手足のMRI画像を元に、RAを予測するディープラーニングモデルをトレーニングした。この結果、早期発症関節炎グループでは識別性能としてAUCで0.683、臨床的な関節炎疑い患者グループではAUC 0.727を達成している。これは、RAのMRIによるスコアリング(RAMRIS)を用いた専門家評価(AUC 0.69-0.74)に近い精度を持つことから、AIによるRA患者の自動予測の可能性を示している。 著者らは「新たなAI手法により、滑膜の炎症など既知の所見の重要性を再認識するとともに、新しい画像バイオマーカーの特定や、早期RAの疾患プロセス理解を深められる可能性がある」と考察している。 参照論文: EXPLORING THE USE OF ARTIFICIAL INTELLIGENCE IN PREDICTING RHEUMATOID ARTHRITIS, BASED ON EXTREMITY MR SCANS IN EARLY ARTHRITIS AND CLINICALLY SUSPECT ARTHRALGIA...

外来に遅刻する患者を予測するAI

患者が予約時間に遅刻することは混雑の原因だけではなく、限りある医療資源の浪費につながり、サービス効率に悪影響を及ぼす。サウジアラビアのKing Saud bin Abdulaziz大学の研究者は、AI/機械学習を用いた「外来予約に遅れて到着する成人患者の予測モデル」を構築している。 オープンアクセスジャーナルのCureusで公開されている同研究では、リヤドの三次医療機関における外来受診患者34万人、108万件の外来予約に対して4種の機械学習モデルを適用した。遅刻予測モデルの学習データセットには、年齢や性別などの患者情報に加え、天候情報、予約時刻や到着時間などの情報が含まれている。遅刻に分類された受診は全体の11.7%(約13万件)であり、遅刻患者予測モデルのうち最も優れた結果はランダムフォレストに基づくもので、正解率98.88%・再現率99.72%・適合率90.92%という高い予測精度を示していた。 本研究から示された外来遅刻に影響する予測因子として、年齢(65歳以上は65歳未満に比べて遅刻しやすい)、性別(女性患者は男性患者に比べて遅刻しやすい)、天候(気温が最も強い予測因子)が挙げられている。これらの予測モデルは、外来予約スケジューリングにおける効率的で正確な意思決定を支援し、医療サービスの最適化に貢献することが期待される。 参照論文: The Use of Machine Learning to Predict Late Arrivals at the Adult Outpatient Department 関連記事: NHS – 「診察予約のキャンセル」を防ぐAIシステム 機械学習による「救急頻回受診予測」の改善 「入院ベッド数の需要」を予測するAIツール

動画から自閉スペクトラム症を識別

JAMA Network Openに掲載された研究では、共同注意行動に関するビデオを使用して症状を監視することで、自閉スペクトラム症(ASD)と定型発達の子どもを識別するディープラーニングモデルが示されている。 韓国・延世大学などの研究チームは、生後24ヶ月から72ヶ月の子ども95人(うち、ASD児45人)の動画データに基づく調査結果を明らかにしている。モニタリング対象となるのは「共同注意」に関する行動で、一般的に指差しや視線追従、社会的参照などが含まれる。これらは社会的学習の構成要素で、ASD時ではしばしば制限される社会的機能としても知られている。チームが開発したディープラーニングモデルは、動画データからAUCとして99.6%という極めて高いASD識別性能を達成した。 本研究成果は、AIツールによる共同注意のデジタルモニタリングと、これによるASDのスクリーニングを実現する可能性を示しており、さらなる検証によって臨床実装の可能性が探られることになる。 参照論文: Development and Validation of a Joint Attention–Based Deep Learning System for Detection and Symptom Severity Assessment of Autism Spectrum Disorder 関連記事: 機械学習により4種の自閉症サブタイプを特定 医療費請求データから自閉スペクトラム症を早期スクリーニング ...

PDMonitor – 専門家評価に匹敵するパーキンソン病管理用ウェアラブルデバイス

パーキンソン病(PD: Parkinson’s Disease)は、振戦や動作緩慢、姿勢保持障害などの運動障害が主な症状となる神経変性疾患である。より効果的な治療管理を目指し、これらの運動障害を日常生活の中でモニタリングするウェアラブルデバイスが臨床で利用され始めている。英国のPD Neurotechnology社(過去記事参照)はPD患者向けの腕時計型デバイスシステム「PDMonitor」を開発しており、この製品がPD患者モニタリングにおいて「専門家と同等の評価能力を示した」とする新たな研究成果を報告した。 Frontiers in Neurologyに掲載された同研究では、PDMonitorの性能および装着性を評価する2相の臨床試験が行われ、65名のPD患者が参加した。第一相の試験はクリニックで2〜6時間デバイスを使用し、神経内科医による30分毎の専門指標評価(UPDRSおよびAIMS)と比較された。第二相試験ではPD患者と対照健常者について、監視なしの自由な日常生活内でのデバイス性能が評価された。解析の結果、PDの症状における検出精度と重症度評価で、専門家による評価との高い相関が確認できたという。 PDは世界で2番目に患者数の多い神経変性疾患であり、莫大な社会的・医療的コストを生じさせている。PD運動障害の高精度なモニタリングは、より効果的な治療介入に貢献できるとともに、社会に対する疾病負荷の軽減に資する可能性がある。患者と介護者が容易に利用できるPDMonitorのようなモニタリングデバイスは、患者管理の新たな可能性を開くと、研究チームは結論付けている。 参照論文: Toward objective monitoring of Parkinson's disease motor symptoms using a wearable device: wearability and performance evaluation of PDMonitor 関連記事: AIとメタボロミクスによるパーキンソン病の発症予測 ...

アスリートの「微細な脳損傷」を捉えるAIツール

ラグビーやホッケー、サッカーなどのコンタクトスポーツのアスリートでは、若年期の脳震盪が後の認知機能低下につながる可能性などが指摘されている。米ニューヨーク大学グロスマン医学校放射線科の研究チームは、頭部MRIを解析するAIツールを用い、繰り返される頭部損傷に起因する「脳構造の微細な変化」を正確に捉えられることを明らかにした。 The Neuroradiology Journalからこのほど公開された研究では、36人のコンタクトスポーツをする大学選手(主にサッカー選手)と45人のノンコンパクトスポーツの大学選手(主にランナーや野球選手)の数百枚の脳画像を用いている。これらの画像データから、脳組織の異常な特徴を特定した上で、これらの要素に基づき、頭部外傷を繰り返し受けた選手とそうでない選手を識別する機械学習モデルの構築に成功した。 本研究の主執筆者であるJunbo Chen氏は「このアプローチが、従来のMRI検査では捉えられなかった『見えない創傷』を検出のに役立つ」と述べた上で、「脳震盪だけでなく、より繊細でより頻繁な頭部への衝撃から生じる損傷を検出するための重要な診断ツールになるかもしれない」としている。 参照論文: Identifying relevant diffusion MRI microstructure biomarkers relating to exposure to repeated head impacts in contact sport athletes 関連記事: BrainScope社 – 頭部外傷での「CT検査の必要性」を低減するAIツール 「外傷性出血におけるAI研究」の現在地 ...

BrightHeart – 胎児の超音波診断AI

フランス・パリに拠点を置くBrightHeartはこのほど、胎児の心臓疾患を検出する人工知能(AI)システムの開発のため、シードファイナンスとして200万ユーロ(約2.97億円)を調達したことを明らかにした。 同社のAI駆動型ソフトウェアは、2万件に及ぶ胎児検査データを用いて構築されている。胎児が持つ心臓疾患の初期兆候を検出し、医師の臨床的意思決定を支援するもの。BrightHeartは欧州を含む主要な地域において規制当局への申請準備を開始しており、欧州と米国では特許を申請している。世界保健機関(WHO)の推計によると、世界中で毎年24万人の新生児が心臓障害を含む先天性疾患で死亡し、さらに生後1カ月から5歳までの乳幼児でも17万人が死亡している。 BrightHeartはこの技術を「先天性心疾患のスクリーニングに革命をもたらし、子どもの生存確率を高めるための早期介入を可能にする」としている。実際、胎児心疾患の出生前診断は、新生児の予後を大幅に改善するエビデンスがあり、広く安価に利用可能で有効なスクリーニング手段の確立が求められてきた。 関連記事: 胎児の超音波スクリーニングを支援するAIモデル研究 血液検査で出生前に先天性心疾患を識別 川崎病かMIS-Cか? – 小児発熱疾患を識別するAI

医学部教育におけるAI利用の可能性と課題

AI技術を利用した学習体験は、教育プロセスのさらなる個別化を可能とし、医学教育においても革新が期待されている。英国民保健サービス(NHS)の医師らによる新たな研究では、世界中の医学部カリキュラムにおけるAIの役割を評価し、現状の教育手法と比較するためのシステマティックレビューが行っている。 オープンアクセスジャーナルのCureusで公開されている同研究では、「医学部教育におけるAI」に特化してスクリーニングした11報の研究論文を対象に、内容の詳細な分析を行っている。ここから得られた知見として、「AIの性能は人間の関与と相乗効果をもたらすため、医学部カリキュラムを補完する手段としてAIを採用することは理想的である可能性」が示唆されている。 従来の教育手法と直接比較した研究では、AIの導入による良好な成果が示されているものの、研究数は限られており、研究の質にも改善の余地があると著者らは指摘している。また、AIベースの教育ツール導入は新たな経済的負担を伴うため、特に開発途上国の医学部教育にとっては障壁となり得るという課題も、実装に向けた検討事項として論じられた。 参照論文: The Global Use of Artificial Intelligence in the Undergraduate Medical Curriculum: A Systematic Review 関連記事: シダーズ・サイナイ – AI教育研究センターを立ち上げ ネパールの医学生における「AIへの意識」 放射線科医と医学生は自らAIを開発することを望む

脳刺激が記憶力や集中力を高めるのか?

非侵襲的に脳に電流を流すことで、記憶力や集中力といった「人の精神機能」を向上させることができるかどうかについて、長年に渡り議論が繰り返されてきた。米マサチューセッツ州に所在するボストン大学認知・臨床神経科学研究所のチームは、経頭蓋交流電流刺激(tACS)の効果を評価する100以上の研究を対象に、この技術が有望かを定量化するためのメタアナリシスを実施した。 Science Translational Medicineから公開された研究論文によると、メタアナリシスの結果、tACS治療は注意力や長期記憶、ワーキングメモリー、新しい情報を処理し問題を解決する能力、およびその他の高度な認知プロセスに中程度の改善をもたらすと結論付けている。認知神経科学者で、この論文の著者であるShrey Grover氏は「少なくとも短期的には、精神機能に大きな変化をもたらす」として、技術の高い臨床効果に言及している。 論文中では、電流が脳内をどのように流れるかをシミュレーション予測することにより、電極をより効果的なパターンで配置できるようになっていることも報告しており、刺激パターンや電極配置について最適化を図る機械学習アプローチも今後検討の進むことが予想される。 参照論文: A meta-analysis suggests that tACS improves cognition in healthy, aging, and psychiatric populations 関連記事: マインドフルネスと脳電流刺激が片頭痛を緩和する可能性 脳波データのAI分析で認知症診断を迅速化 「一度の脳スキャン」でアルツハイマー病を高精度に診断

「歯科用クラウン」製造における生成AI技術

歯科補綴物における現在のコンピュータ支援設計/生産(CAD/CAM)技術は、歯科医療の改善に寄与しているが、「そのプロセスの多くで人間の手による調整を必要とする」という課題も残っている。香港大学歯学部の研究チームは「生成AIを活用したクラウン(被せ歯)のスマート製造手法」を開発している。 Dental Materialsに発表された同研究では、3D-DCGAN(3D-Deep Convolutional Generative Adversarial Network)と呼ばれる生成AI手法を用い、アルゴリズムに対して600例以上の自然で健康な歯列データを与えることで良質なデザインを教えこむとともに、生成器と識別器に基づく内部の競争的処理によってデザインの質を大幅に向上させている。結果的にアルゴリズムは、形態的かつ機能的に天然歯に匹敵するクラウンを設計できるようになったという。また、ケイ酸リチウムを使用することで、AI設計のクラウンは天然歯の期待寿命とほぼ一致するという計算結果も示している。 本研究の舞台である香港を含む「粤港澳大湾区(Greater Bay Area)」は、世界の歯科補綴物の25〜30%を生産する一大生産地で、スマート製造技術は高齢化社会および香港における歯科人材不足への対応に不可欠となっている。著者のJames Tsoi氏は「3D-DCGANを用いた手法は天然歯を模倣するだけでなく、人間が微調整を加えなくてもよいため、補綴物の製造プロセスにおける追加コストを削減できる」と語った。 参照論文: Morphology and mechanical performance of dental crown designed by 3D-DCGAN 関連記事: 「下顎管の位置を特定するAI」で歯科診療をアシスト 矯正歯科の意思決定支援AIツール 歯科治療で発生する飛沫・エアロゾルの可視化

開発最優先の抗菌薬「abaucin」を特定

世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性菌の脅威に対して、新しい抗菌薬の必要性を緊急度別にリスト化している。「Acinetobacter baumannii」は、新規抗菌薬の開発で優先度1「CRITICAL」に位置付けられる3種の細菌の1つである。英マクマスター大学の研究チームは、「A. baumanniiに対するAI手法を用いた新規抗菌薬の発見」を研究成果として発表した。 Nature Chemical Biologyに発表された同研究では、約7,500種の薬剤化合物ライブラリに対し、A.baumanniiの成長を阻害できるか評価する機械学習モデルを用い、「abaucin」と命名された新規の抗菌性化合物を予測している。従来型アプローチでは、A.baumanniiに対する新規抗菌薬発見は困難であったが、最新のアルゴリズムは化合物の迅速な探索を可能にし、新しい抗菌性化合物の発見確率を大きく高めた。また、本研究で同定されたabaucinは、マウスにおける創傷モデルでA.baumanniiの増殖を抑制することも示されている。 abaucinはA.baumanniiへの殺菌能力を持ちながら、緑膿菌・黄色ブドウ球菌・カルバペネム耐性腸内細菌など他の菌種には効果を示さず、「狭いスペクトル」の殺菌能力を持つことから、新しい耐性菌の発生リスクを最小限に抑えることができる。著者でマクマスター大学のJonathan Stokes氏は「病原体の進化は、我々が投げかけるあらゆる手段に適応できるため、我々は広域スペクトルの抗菌薬が最適ではないと知っている。AIを用いることで、新規抗菌薬の発見速度を大幅に向上させ、しかも低コストで実現できる。これは新規抗菌薬探索のための重要な手段だ」と語った。 参照論文: Deep learning-guided discovery of an antibiotic targeting Acinetobacter baumannii 関連記事: 「抗菌薬への耐性獲得パターン」を抽出するAI研究 抗菌薬耐性の検出を高速化するAI研究 ChatGPTは感染症治療の意思決定を支援できるか?

小児呼吸器感染症の「入院時病原体予測」

急性呼吸器感染症(ARI)は、小児期に最も多い感染症であり、世界中で小児の入院や死亡の主要な原因となっている。国立台湾大学の研究チームは、入院時の臨床所見から小児ARIの病原体を予測する機械学習モデルを構築した。 Journal of Microbiology, Immunology and Infectionから公開されたチームの研究論文によると、2010年から2018年の間にARIで入院した小児患者1.26万人の臨床データからこの機械学習モデルを導いている。アウトカムには、6つの一般的なARI病原体(アデノウイルス、インフルエンザウイルスA型およびB型、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、肺炎マイコプラズマ)を選択し、9つの臨床的特徴(年齢、イベントパターン、発熱、CRP、白血球数、血小板数、リンパ球比、ピーク体温、ピーク心拍数)から病原体の予測を行っている。いずれも高い予測精度を示しており、特に肺炎マイコプラズマについてはAUCとして0.87と、特に高い性能を示していた。 著者らは「入院時に小児ARIに関連する潜在的な病原体を特定するための、新しい手法を実証した」としており、モデルを臨床ワークフローに組み込むことで、患者の転帰を改善し、不必要な医療費を削減できる可能性を強調している。 参照論文: Clinical characteristics of hospitalized children with community-acquired pneumonia and respiratory infections: Using machine learning approaches to support pathogen prediction...

フィンランド発の「くも膜下出血検出AI」

脳卒中疑いに対するCTスキャンは、フィンランド国内では年間18万件実施され、その実施数が年々増加する一方、読影を担当する放射線科医の減少が課題となっている。ITサービス企業のCGIは、ヘルシンキ大学病院と、画像機器大手のプランメカとの協力により、「頭部CTスキャンに基づくくも膜下出血識別AI」を開発している。 Neurologyに発表された同AIに関する研究成果によると、ヘルシンキ大学病院の入院患者における頭部CTを、畳み込みニューラルネットワークの一種である「U-net」の学習に用いている。さらに、海外2カ国で収集された外部データセットと、国内5ヶ所の医療機関における実臨床環境で撮影された頭部CTデータセットにおいてアルゴリズムの性能検証を行った。その結果、外部データセットでは137例中136例のくも膜下出血を正しく識別し(感度99.3%・特異度63.2%)、実臨床環境のデータセットでは8例のくも膜下出血を全て正しく識別していた(感度100%・特異度75.3%)。 本プロジェクトの基盤プラットフォームはMicrosoft Azure上に構築されている。CGIのフィンランド事業部代表であるLeena-Mari Lähteenmaa氏は「このソリューションは特定の病院が管理する患者データやシステムからは独立しており、世界中の病院に提供できる可能性がある」と語っている。 参照論文: Development and External Validation of a Deep Learning Algorithm to Identify and Localize Subarachnoid Hemorrhage on CT Scans 関連記事: 機械学習ツールによる脳卒中診断の高度化 NHSの脳卒中ケアに革新をもたらすAI Viz.ai –...

GEヘルスケア – AI搭載CTシステムを3000万ドルで受注

GEヘルスケアはこのほど、米セントルークス大学ヘルスネットワークから、AI搭載のコンピューター断層撮影(CT)システム21台の導入について、3000万ドル(約42億円)で受注したことを明らかにした。 GEヘルスケア社のスキャナーは、幅広い臨床アプリケーションを提供しており、「スマート・サブスクリプション」を活用することで、既存システムとのシームレスな統合を可能にし、AIおよびソフトウェアの定期的なアップデートによりスキャナーの能力を向上させることができる。GE HealthCare US and Canadaの社長兼CEOであるCatherine Estrampes氏は、「GEヘルスケアは、彼らのネットワーク全体に最先端のCT技術を提供できることを光栄に思っている」と述べている。 GEヘルスケアの先端CT技術にはSnapShot Freezeが含まれ、これは心臓CT向けの自動動き補正技術で、スキャナーの高速回転と広い撮影範囲により、心拍数に関係なく1回の心拍で心臓の全体像を撮影することができる。時間分解能を向上させ、モーションアーチファクトを抑制する同技術は、心臓の構造観察をさらに明瞭にすることができる新技術として期待される。 関連記事: GE Healthcare – Omni Legendを発表 Medtronic – 大腸ポリープ検出AI装置「GI Genius」 MySurgeryRisk – 手術合併症を正確に予測するAIシステム

「AI技術とベッドサイドの間」にある障壁

近年急速に発展するデジタル技術、特にAIは医療分野で大きな革新をもたらす可能性を示している。しかし、これらの技術を実際の臨床に導入することは、様々な困難と長大な時間を要するプロセスでもある。米マイアミ大学の研究者らは、デジタルヘルスケア/AI企業のアーリーステージにおける創業者および経営層を対象とした調査を通じて、臨床現場への新技術導入の障壁を分析し、その解決策を提案している。 Journal of Medical Internet Researchに掲載された同研究では、臨床現場や医療システムに初期段階の革新的技術を統合する障壁として、以下の4つのカテゴリを特定した。 1. 医療システム側の知識不足や、スタートアップとの文化の違い 2. 厳しい規制と技術検証要件から求められるコスト 3. 医療システム側における技術調達プロセスの課題 4. 大規模テクノロジー企業と比較した、スタートアップ側の多面的な不利 これらの障壁を緩和するための解決策として、スタートアップ・ヘルスケアプロバイダー間のコミュニケーションに基づく関係構築、そして技術評価と調達プロセスの最適化が提案されている。 著者のAzizi Seixas博士は「新しいテクノロジーは、"物事をどう行うべきか"変革するつもりでヘルスケア領域に参入してくる。しかしその多くが失敗するのは、彼らが"患者を思いやる"ことができていなかったからだ。前進するためには、解決策をヘルスケアに組み込み、それを実装するための土台が必要だ」と述べている。 参照論文: The Gap Between AI and Bedside: Participatory Workshop on the Barriers to the Integration, Translation,...

UNC Health – Epicとの協業で生成AIツールを臨床統合

米ノースカロライナ大学医学部の教育医療機関にあたるUNC Healthはこのほど、Epicとのパートナーシップを通じて「生成AIを実臨床導入する」ことを明らかにした。 UNC Healthの公表によると、初期展開としては同システムの医師5-10名を対象として技術利用を開始する。具体的には、対患者メッセージについて生成AIが回答を自動作成、医師がこれを承認または書き換えるというもの。多数の患者を抱える医師らにとって、重要度の高くないメッセージ作成を一部自動化することは、日常診療の効率性向上に直接的に貢献するものとなり得る。 UNC Healthの最高情報責任者であるBrent Lamm氏は、「UNC Healthの強固な基盤ITシステムの構築とAIツールの活用により、ヘルスケアにおけるAIの未来を推進するナショナルリーダーとしての地位を確立できたことを大変嬉しく思う」と述べ、医師が患者とその治療に集中できるよう、注意深く安全にAIを使用できる方法を模索することを強調している。 関連記事: Navina – 患者ポートレートの自動作成AI ChatGPTの医学的エビデンス要約能力 大規模言語モデルがEBMを推進する

脳磁図からハンドジェスチャーを識別

米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者らは、脳磁図(MEG)に深層学習手法を適用し、麻痺や四肢切断患者における「ハンドジェスチャーの高精度な識別」に成功したことを明らかにしている。 Cerebral Cortexに掲載されたチームの研究論文では、じゃんけん時のジェスチャーを解読するためのMEGセンサーベースのBCIニューラルネットワーク(MEG-RPSnet)を開発している。独自の前処理パイプラインと畳み込みニューラルネットワークを併用することで、ジェスチャーを正確に分類しており、12人の被験者において平均85.56%の分類精度を確認した。あわせて、中枢-頭頂-後頭葉領域センサーや後頭側頭領域センサーのみを用いた場合でも、深層学習モデルが全脳センサーモデルと同等の分類性能を達成することも明らかにしている。 チームは研究結果を受け、「非侵襲的なMEGベースのBCIアプリケーションは、ハンドジェスチャーデコーディングにおける将来的なBCI開発で有望である」と結論付けている。 参照論文: Magnetoencephalogram-based brain–computer interface for hand-gesture decoding using deep learning 関連記事: 単一ニューロンが思考する – 機械学習アーキテクチャへの巨大な示唆 Nature論文 – 脳内手書きを高速にテキスト変換するBCI技術 切断肢の末梢神経信号に基づく「直感的なAIロボットアーム」

ChatGPT – 米国消化器病学会の試験には合格できず

ChatGPTが各種専門医試験に合格したとする論文が相次いで発表される一方、米ファインスタイン医学研究所の研究チームは、「米国消化器病学会(ACG)の試験でChatGPTが合格点に到達できなかった」とする研究結果を発表している。 American Journal of Gastroenterologyに短報として発表された同研究では、米国消化器病学会の2021年および2022年の自己評価型テスト(画像問題を除く各455問の多肢選択式問題)に対して、GPT-3.5とGPT-4の各バージョンで試験を受けさせた。合格基準70%に対し、GPT-3.5で65.1%、GPT-4で62.4%という正答率で、それぞれ不合格と判定されている。 研究チームでは、不合格になった理由として、ChatGPTが有料購読の医学雑誌にアクセスできていないこと、そして時代遅れであったり非科学的な情報源に基づくことを挙げ、同ツールがトピックや問題に対する本質的理解を持ち合わせていないことを説明する。著者のArvind Trindade医師は「医学教育に関してはこれらAIツールが画期的なものとなるか、研究が不足している。我々の調査結果では、ChatGPTは消化器内科の医学教育に現時点では使うべきではなく、医療現場への導入は道半ばであることを示している」と語った。 参照論文: ChatGPT Fails the Multiple-Choice American College of Gastroenterology Self-Assessment Test 関連記事: ChatGPT – 放射線科専門医試験で合格基準に到達 大規模言語モデルとインフォデミックリスク AIは放射線科専門医試験に合格できるか?

大規模言語モデルがEBMを推進する

エビデンスに基づく医療(EBM)においては、現場における患者治療だけではなく、各種ガイドラインや政策的意思決定を適切に支援するため、エビデンスレベルに応じた研究評価が行われる。ここではランダム化比較試験や系統的レビュー、メタアナリシスによる強固なエビデンスが優先されることになる。一方で、科学文献の爆発的な増加に加え、ソーシャルメディア、症例報告、大規模観察研究などによる新しいエビデンスソースの出現、さらにこの膨大なエビデンスのフリーテキスト性により、利用可能な最良のエビデンスを評価し選択することが非常に困難となっている。 米コロンビア大学やコーネル大学の研究チームは、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)が、事実誤認や不正確な情報提供といったピットフォールを回避する限り、EBMへの利用機会があることを指摘している。チームがNature Medicineに寄せたレター論文の中では特に、的確性基準の構成における利用可能性に言及する。EBMが他の医学・臨床研究論文と大きく異なるのは、「研究を含めるか否かの正確な基準」が必要なことにある。PICO(患者、介入、比較、結果を指す)フレームワークは、この適格性基準を構成しており、臨床エビデンスクエリを形成するためのプロセスとして広く採用されている。つまり、臨床的エビデンスの検索には、臨床研究課題に関連するPICO基準を満たすRCTを見つけ、これらをシステマティックレビューやメタアナリシスに集約する作業がある。 チームは、LLMがプロンプトを介してタスクを解決できる機能から、アノテーションコストを削減し、PICO抽出を高速化できることを強調する。「従来の言語モデルや、エビデンスレビューアが手動で抽出したPICO評価と比較し、出力の正しさと完全性をチェックする必要がある。また、LLMの使用については異なる生物医学ドメインで検証し、異なるトピックに使用することの適合性を評価する必要がある」として、一方で安易な利用拡大は行うべきではない点も強調している。 参照記事: AI-generated text may have a role in evidence-based medicine 関連記事: ChatGPTの医学的エビデンス要約能力 大規模言語モデルの利用に対するWHOの懸念 臨床医の信頼を得やすいAIツールとは?

AI医療に対する患者の信頼度調査

AI医療の選択肢が増加する一方で「AIに対する患者の信頼には個々に大きく差異があること」が、米アリゾナ大学の研究チームによる調査から明らかにされた。この調査では、AIに対する患者の信頼度が大きく二分されるという傾向が示されている。 PLOS Digital Healthに掲載された同研究では、模擬患者が、診断・治療の選択肢としてAIシステムと人間の医師によるもののどちらを望むか、そしてどのような状況下でその選択を行うかを詳細に調査している。調査の結果、参加者の52.9%が人間の医師を選択し、47.1%がAIシステムを選択するという、ほぼ均等に分かれる結果となった。また、主治医がAIの有用性を説明したり、AIの利点について誘導すると、参加者のAIに対する受け入れ度が増加していた。白人と比較して黒人ではAIを選択する頻度が低く、ネイティブアメリカンはAIを選択する頻度が高かった。高齢者、政治的保守層、宗教意識の強い層ほど、AIを選択する割合が低かった。また、教育水準が上昇するほどAIを選択する割合は上昇していた。 本研究では、人種や民族、社会的な背景によってAIの受け入れ度に差が存在することを明らかにした。この点は、AIの価値と有用性を伝える際、患者の属するグループに応じた特別な配慮が必要であることを示唆する。論文の著者であるMarvin J. Slepian氏は「多くの患者が依然としてAIの利用に抵抗を感じている。しかし、情報の正確さ、後押し、傾聴体験を提供することで、受け入れ拡大に役立つだろう。AIの利点を臨床現場で活かすためには、医師の役割の組み込み方や、患者の意思決定に関してさらなる研究が必要だ」と語った。 参照論文: Diverse patients’ attitudes towards Artificial Intelligence (AI) in diagnosis 関連記事: ユーザーは「人間味ある健康アプリ」に信頼を寄せる Intelerad社 – 医療画像用AIに対する患者の信頼度調査 臨床医の信頼を得やすいAIツールとは?

喉元の超薄型ウェアラブルバイオセンサー開発

新時代の皮膚パッチは、人とAIの相互作用を橋渡しするように機能する可能性を秘めている。豪・モナシュ大学の研究チームは、ナノテクノロジーとAIの組み合わせにより、11種の生体信号をモニターできる超薄型の皮膚パッチを開発した。 Nature Nanotechnologyに発表された同研究では、白金フィルムと金ナノワイヤーを積層した超薄型センサーを首の皮膚に貼ることで、引っ張りやひずみを感知し、発話・心拍・呼吸・触覚・首の動きなど11種の生体活動を92.73%の精度で分類している。従来型の皮膚パッチでは、1種の抵抗信号が1種の生体データに対応した「one-mode sensor」が主流であった。しかし、本システムでは周波数/振幅に焦点を当てたニューラルネットワークによって、単一の抵抗信号から複数の生体信号を分離し、同時に多種の生体データを解釈可能な「multimodal sensor」として機能する。 著者のZongyuan Ge氏は「人それぞれ声や動きは異なるため、本研究の次のステップにおいてさらにアルゴリズムを洗練し、センサーのプログラムを個人に合わせて調整できるようにしたい」と語っている。 参照論文: Hierarchically resistive skins as specific and multimetric on-throat wearable biosensors 関連記事: BioBeat – ウェアラブルデバイスによる健康状態悪化の早期警告 皮膚パッチによるヘモグロビンモニタリング MIT – ウェアラブル超音波装置を開発

カイザー・パーマネンテ – 医療AI領域における新たな助成プログラムを開始

米医療保険最大手のカイザー・パーマネンテはこのほど、「Augmented Intelligence in Medicine and Healthcare Initiative (AIM-HI) Coordinating Center」の立ち上げを発表した。この新しいプログラムは、診断に関する意思決定を強化するための人工知能(AI)および機械学習(ML)アルゴリズムの導入評価に焦点を当てた、大規模な研究活動を主導するものとなる。 公表によるとAIM-HIは、ゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団の支援を受け、3~5つの米国医療システムに最大75万ドルの助成金を提供し、診断および患者転帰の改善を狙ったAI/MLの活用を支援するという。現在申請は募集中であり、提出期限は6月30日となる。カイザー・パーマネンテの全国諮問委員会と専門家審査員が提案を評価し、2年間の助成期間中、選ばれたプロジェクトチームと密接に協力し、研究活動を推進する。 AIM-HIの研究責任者であるVincent Liu氏は「アルゴリズム研究の支援に加え、AIM-HIプログラムではベストプラクティスを開発し、多様な医療現場におけるAI/ML導入能力を向上させる予定だ。この強力なツールを思慮深く、患者や医師、ケアチームの利益を拡大する方法で使用することが欠かせない」としている。 関連記事: 自殺リスク推定分析の実臨床導入 Cancer Moonshot – CDCによる2億1500万ドルの研究助成 ジョンズホプキンスの大規模「AIヘルシーエイジング研究」

認知症支援 – 失くしものを探すロボット「Fetch」

カナダ・ウォータールー大学のエンジニアらは、認知症患者に頻発する「失くしもの」の探索を支援するロボットを開発している。薬や眼鏡、携帯電話など、日常生活に欠かせない重要なものを迅速に見つけることを通して、認知症患者の生活の質を向上させるという。 認知症患者では、脳機能の制限、混乱、記憶障害などにより、日常生活で使う物の場所を何度も忘れるため、生活の質が低下し、介護者にさらなる負担を強いていることをチームは指摘する。チームは、周辺環境を認識するためのカメラを搭載した移動式マニピュレーターロボット「Fetch」を開発した。搭載された物体検出アルゴリズムにより、カメラに映った特定の物体を検出・追跡し、動画保存の形で記憶することができる。これにより、Fetchは物体を識別し、物体がFetchの「視界に入った」または「視界から出た」日時を記録することが可能となる。スマートフォンアプリやPCアプリを介して、追跡したい物体を選択し、その名前を入力すると実際に探索することのできるグラフィカルなインターフェイスも開発した。 チームは検証により、このシステムが実環境において非常に高精度に機能することを確認している。電気・コンピューター工学のポスドク研究員であるAli Ayub博士は、「この技術の長期的なインパクトは、本当にエキサイティングだ」とした上で、「ユーザーは、パーソナライズされたコンパニオンロボットと関わることで、より自立した生活を送ることができる」と話す。 参照論文: Where is My Phone?: Towards Developing an Episodic Memory Model for Companion Robots to Track Users' Salient Objects 関連記事: 肺内を泳ぐマイクロロボットが肺炎を治療 四脚ロボット「Morti」は歩行を高速に学習する マイクロロボットが人類を歯磨きから解放する

「筋肉内の脂肪蓄積」は健康リスクを示すか?

これまでにも「身体の特定部位における脂肪蓄積」を、疾患リスクと紐づけた上での体組成指標として測定する試みが行われてきた。「筋肉内脂肪蓄積(myosteatosis)」も健康リスクの新たな指標として注目を集めているが、無症候患者の健康リスク評価にどう役立つかは十分に解明されていない。ベルギーのルーヴァン・カトリック大学の研究チームは、CT画像からAIツールによって体組成指標を抽出し、筋肉内脂肪蓄積と死亡リスクの関係を明らかにした。 Radiologyに発表された同研究では、畳み込みニューラルネットワークの一種である「U-net」を用いて、無症候の成人が受けた大腸がん検診におけるCT画像から体組成指標を抽出し、8.8年(中央値)の追跡期間内における死亡率および心血管イベント発生率との関係を解析した。その結果、筋肉内脂肪蓄積は主要な有害事象リスクの上昇と有意な相関があり、死亡した研究対象症例の55%に同所見が認められていた。さらに、筋肉内脂肪蓄積の死亡リスクは、喫煙や2型糖尿病に関連する死亡リスクと同等であることも示されている。 研究チームでは今後、筋肉内脂肪蓄積が単に健康状態悪化を示すバイオマーカーなのか、それとも死亡リスクの上昇と直接の因果関係があるのかを明らかにしたいという。著者のMaxime Nachit博士は「興味深いことに、筋肉内脂肪蓄積と死亡リスクの関連性は、加齢や肥満の指標とは無関係であった。つまり、筋肉内脂肪蓄積は、単なる高齢や、他部位への脂肪の過剰付加では説明できないことを意味する」と指摘している。 参照論文: AI-based CT Body Composition Identifies Myosteatosis as Key Mortality Predictor in Asymptomatic Adults 関連記事: NuraLogix社「Anura」の新機能 – 顔の動画撮影から脂肪肝を予測 深層学習による脂肪肝評価でCOVID-19重症化を予測 腸内細菌叢から「非アルコール性脂肪性肝疾患発症」を予測

大規模言語モデルの利用に対するWHOの懸念

大規模言語モデル(LLM: large language model)の急速な普及にあわせて、ヘルスケア領域における活用可能性も多方面で明らかになりつつある。世界保健機関(WHO)はLLMの利用動向を厳しく監視しており、ユーザーの熱狂的な期待の中で、新しい技術に対して払われるべき注意が、LLMのリスク評価について未だ十分でないことに懸念を表明している。 WHOは16日付の声明において、安全かつ倫理に基づいたLLMの利用を強く促しており、以下の5つの点を指摘する。1. AIの訓練データに潜む偏りの可能性が、健康、公平性、包摂性へのリスクとなり、誤解を生む不正確な情報を生成する場合がある。2. LLMは一般ユーザーに権威性があるもっともらしい回答を生成するものの、健康情報については完全に誤っている場合や深刻なエラーを含む可能性がある。3. ユーザーがLLMのアプリケーションに提供する機密情報が、適切に保護されない可能性がある。4. LLMに説得力のある偽情報を生成させて拡散する手段として悪用されると、一般ユーザーは情報の信頼性を判断することが困難となる。5. テクノロジー企業がLLMを商用化する過程で、患者の安全が保護されるよう、WHOは政策立案者らに提言を続けていく。 この声明は、WHOが新しい技術の潜在的利点を認識しつつ、その社会実装においては患者の安全と保護が最も重要であるという姿勢を強く示している。そして、個人、ヘルスケアプロバイダー、システム管理者、政策立案者、どの立場にある者でも、ヘルスケアに新たな技術を広く採用する前には以上の懸念に対処し、有益性の明確なエビデンスを評価することを強く推奨している。 関連記事: WHO研究 – メンタルヘルスにおけるAI応用と課題 WHO – 高齢者を置き去りにしないAI開発戦略 WHOの新指針 – 医療AIの倫理およびガバナンス

大規模言語モデルとインフォデミックリスク

過去5年間、LLMの指数関数的な成長が観察され、多様なタスクの実行が可能となっている。しかし、2017年以前は、ほとんどの自然言語モデルが1つの特定タスクのために訓練されていた。この限界は、Transformerとして知られる「自己注意ネットワークアーキテクチャ」の開発によって克服された。2018年、このコンセプトは2つの革命的なモデル、すなわち「Generative Pretrained Transformer(GPT)」と「Bidirectional Encoder Representations from Transformers(BERT)」の開発につながる。 GPTとBERTの汎化能力を実現するため、教師ありの微調整と教師なしの事前学習の組み合わせが用いられた。このアプローチにより、事前に訓練された言語表現を下流タスクの実行に適用することが可能となった。GPTモデルは急速に進化し、多くのバージョンが発表された。改良バージョンは、大規模なテキストデータとパラメータを含んでおり、例えばGPTの第3バージョン(GPT-3)は、GPT-2の100倍の大きさであり、1750億のパラメータを含んでいる。GPT-3は、幅広い領域をカバーするテキストを生成することができるが、真実ではないものを含め、偏ったテキストを提供することが頻繁に観察される。これは、GPT-3を含む多くのLLMが、インターネット上で入手可能なデータに基づいて次のテキスト要素を予測するように設計されているため、偏りや誤りを再現してしまうことに起因する。人間の価値観や倫理観に沿ったLLMを設計することが大きな課題となっていた。 この問題に対処するため、OpenAIは、人間のフィードバックに基づく強化学習(RLHF)を用いて学習させた13億のパラメータを組み込んだChatGPTを開発した。2021年段階のChatGPTでは、事実確認ができないために誤った文章が高頻度に生成されていたが、GPT-4(総パラメータ数は非公開)をChatGPTに統合することで有意な改善が確認されている。最新のChatGPTは比較的信頼性の高いデータを生成しているが、特に医学研究への応用においては、このツールのあらゆる限界を考慮する必要があることには変わりない。 ChatGPTは、研究者が科学論文を作成するための現実的な実務に活用することができる。研究論文のタイトル提案、原稿執筆、複雑な科学的概念をシンプルで文法的に正しい英語で表現する、などだ。科学界におけるChatGPTへの関心の高さは、このツールに関する研究論文の数が急速に増加している事実からもうかがい知ることができる。一方、2023年の機械学習国際会議(ICML)では、投稿原稿にLLMを使用することを禁止した。しかし、このルールへの遵守を検証するツールは存在しない。Springer Natureでは、LLMを著者として記載することは許さず、その使用は方法または謝辞のセクションで言及しなければならないとする。これらの新しいガイドラインは、Elsevierでも同様に実施されている。 潜在的なバイアスを含むAIによるインフォデミックの発生は、将来的に公衆衛生上の重大な脅威となることが予測されており(参照論文)、予防や治療戦略における医療上の重要な意思決定に大きな影響を与える可能性があるため、冷静で注意深い技術利用姿勢と適切な規制構築、研究開発コミュニティの強い倫理観、が求められている。 関連記事: ChatGPT – 放射線科専門医試験で合格基準に到達 ChatGPTの医学的エビデンス要約能力 ChatGPTの回答が患者により好まれる可能性

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