アルツハイマー病患者の記憶障害は、疾患が進行しても長期記憶へのアクセス自体が必ずしも損なわれるわけではない。記憶障害に対するリハビリテーションは繰り返し思い出させるテクニックに焦点が当てられるが、よりユーザー中心的なアプローチとして、AI主導の「ストーリーテリング(物語を引用し伝達する手法)」によって患者の記憶を表層に戻す手助けをするプロジェクトが進行している。
英ヘリオット・ワット大学の主催するNational Robotariumの研究者らは、患者の記憶にアクセスする「親近感のあるストーリー」を作成するAIプロジェクト「Agent-based Memory Prosthesis to Encourage Reminiscing(AMPER)」に取り組む。AMPERのAIコンパニオンが作成するストーリーは、個人特有の人生経験・年齢・社会的背景・ニーズ変化に合わせて、記憶の回想を促す。AIは「世代に関連するマルチメディア資料」と「個人に関連するマルチメディア資料」を整理・再編することで「自伝的記憶」を提供する。自伝的記憶によって個人特有の出来事を追体験させることが、アルツハイマー病患者の価値観・社会帰属意識の回復につながることまでを見込んでいる。
研究を主導するNational RobotariumのRuth Aylett教授は、「記憶の想起を助ける従来のプラットフォームは画一的なアプローチになりがちで、個人特有のニーズに適しているとは言いにくい。我々は患者と介護者に柔軟なソリューションを提供し、自己肯定・社会的受容・自立を感じさせるAIコンパニオンの開発を志している」と語る。
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