医療AI開発の成功の鍵は、良質な臨床データへのアクセスの可否にある。しかし、匿名化情報から個人を「再識別」されてしまうリスクは常に議論となり、データアクセスへの一定の障壁となってきた。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、「データ漏えいのリスクと比較し、患者匿名情報の再識別リスクが現状では極めて低い」とする研究成果を明らかにした。
PLOS Digital Healthに掲載された同研究では、2016年から2021年までの間に発表された論文やメディア報道を広範かつ仔細に調査したところ、患者個人が再特定された報告は1件も見つからなかったという。一方、同研究の調査範囲において、データ漏えいによって盗まれた健康記録は1億人近くにのぼる。この結果を受け、「患者プライバシーに対する潜在的リスクよりも、より良い診断と治療を受ける患者利益の方が大きく上回ることが示唆される」とチームは主張している。
著者でMITの主任研究員であるLeo Anthony Celi氏は「患者のプライバシーや再識別のリスクについて懸念するのは当然のことだ。しかし、そのリスクはゼロではないものの、サイバーセキュリティの問題に比べれば微々たるものと分かる。医学研究に参加する機会が少なかった少数派グループの代表性を高めるには、健康データの共有が広く行われることが必要だ。プライバシーを巡るこの手の議論をする際、少数派の声は聞かれていない。少数派のデータは保護される必要があり共有されるべきではない、と多数派の人々に判断されてしまっている。しかし、少数派は今まさに健康の危機に瀕し、データ共有で最も恩恵を受ける可能性が高い集団でもある」と語った。
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