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乳がん検出AI普及に「過去の失敗」から注意を促す

乳がんのマンモグラフィ検査におけるAI開発が進み、技術的な飛躍を遂げようとしている。一方で、この風潮に注意を促す論説が、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究グループから発表されている。

JAMA Health Forumに発表された論説では、「AIの評価と導入に対する強固なアプローチがなければ、マンモグラフィ検査での”過去の失敗”から学んでいないことになる」と述べられている。著者らは「過去の失敗」として、20年ほど前から普及した「コンピュータ支援検出ツール(CAD: computer-aided detection)」の例を挙げている。1998年に米食品医薬品局(FDA)で承認を受けたマンモグラフィ用CADは、2016年までに米国の画像診断施設の92%以上が使用するようになった。しかし、約20年の使用を経て「CADが放射線科医の読影精度を向上させない」という数々の研究成果が確認されながらも、その利用は継続されてしまった。CADツールの利用は、特に偽陽性率の上昇と関連し、過剰診断につながった一面がある。2018年に、米国の医療保険メディケアがマンモグラフィ用CADへの報酬支払いを停止するも、既に年間4億ドル規模での過剰な医療費を積み上げた試算となる。

論説の中では、医療画像読影における法的リスクと責任から、「より正確と信じたコンピュータアルゴリズムに従ってしまう傾向が、人間の判断に悪影響を及ぼした」と説明されている。CADでマンモグラフィ1件につき2-4個のチェックマークが提示されたとして、検診において実際に検出すべき乳がんは1000件中に5件程度であり、CADの示したチェックマークはほぼすべてが偽陽性となる。しかし、読影医はがん見逃しと訴訟リスクを恐れ、これらチェックマークから過剰に所見を拾い上げてしまう傾向となっていた。筆頭著者のJoann G. Elmore氏はUCLAのインタビューに対し「CADの早すぎた導入は、患者の転帰への影響を十分に理解する前に新興技術を受け入れてしまう、ひとつの前駆症状であった」と述べている。

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