医療とAIのニュース 2021
年間アーカイブ 2021
Acerが見据えるヘルスケアマーケット
Acerは台湾に本拠を置くPCメーカーで、世界シェア上位を維持する有力企業だ。過去には世界的なPCの販売低迷に伴う深刻な経営危機を迎えたこともあったが、2020年以降のコロナ禍においてPCの出荷台数は世界的に増加し、Acerも例外ではなく堅調な伸びを記録した。
Acerは近年、ヘルスケアセクターへの関心を強めている。2018年に子会社として設立したAcer Healthcareでは、医療AIに特化したプロダクト開発を進めており、2020年には台湾食品薬物管理局(TFDA)で初となる眼科用画像診断AIとしてのプログラム医療機器の認証に至った。糖尿病性網膜症を識別するこのAIソリューションは現在、台湾の5つの医療センターと主要な診療所群で導入され、実臨床を強力に支援している。さらに同製品はインドネシアでのライセンスも取得しており、グローバル展開の加速を狙っている。
また、医療者向けに抗菌材料で作られたモニターやキーボード、マウス、ノートPCを展開するなど、ヘルスケアマーケットへの強い関心を隠さない。OECD諸国において、対GDP比で平均10%強を占めるヘルスケアマーケットは、同社の次期成長戦略の要として注視されている。
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「眼の加齢」を予測するAIモデル
加齢は白内障や緑内障、加齢黄斑変性など、種々の眼疾患における主要な危険因子となる。加齢に伴う器質的変化は、眼のほとんど全ての構造で観察されるが、同年代においても明らかな個体差が存在しており、これは「眼の加齢」を評価するための有用なバイオマーカーが必要であることを示唆している。中国・天津医科大学などの研究チームは、前眼部形態から加齢を予測する機械学習モデルの構築に取り組んでいる。
Journal of Biomedical Informaticsにこのほど掲載されたチームの研究論文によると、ペンタカムと呼ばれるスリットスキャン式角膜トポグラフィー装置によって得られた画像から、角膜形態の特徴に基づく年齢予測モデルを開発したという。6.3万人を超える患者データベースを利用し、276の形態的特徴量からニューラルネットワーク・ラッソ回帰・XGBoostと3つの異なる分類器をトレーニングした。結果、最高のパフォーマンスを示す年齢予測モデルでは、検証セットにおける平均絶対誤差(MAE)として3.89年と高い予測精度を実現した。さらに100名からなる外部コホートにおける検証でも、MAEで3.4年と一定の汎化性能が確認されている。
研究チームは「前眼部形態が、眼の加齢を評価するための非侵襲的指標として有効である可能性」を強調しており、眼疾患予防を前提としたリスク評価、スクリーニングと早期介入、病勢モニタリングなどへの活用が期待されている。
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精神疾患へのAI活用 – 機械学習アプローチによる長期予後の予測
精神疾患の長期予後を個別に予測することは、最適な治療方針策定に貢献する。オランダ・ユトレヒト大学などの研究チームは、3年および6年のフォローアップに伴う「長期予後」を予測する機械学習モデルを構築した。
npj Schizophreniaから2日公開されたチームの研究論文によると、523人の精神疾患患者における広範なベースラインデータを利用し、3年および6年経過時点でのアウトカムを予測する機械学習モデルをトレーニングした。アウトカムは、症候については寛解中または寛解なしの2段階、全体評価についてはGAF尺度を利用し、転帰良好(GAF≥65)または不良(GAF<65)の2段階としてそれぞれ評価した。予測精度は症候に対して62.2-64.7%、全体評価に対して63.5-67.6%を示しており、leave-one-out交差検証はモデルの堅牢性を示唆していた。また、モデル構築にあたり重要な予測因子として導かれたものには、精神疾患症状や生活の質、抗精神病薬の使用、心理社会的ニーズなどが含まれていた。
研究成果は、精神疾患の長期予後予測において機械学習モデルが有効となる可能性を明らかにしており、医師の臨床的意思決定を支援する有用なツールの導出が期待できる。我が国における精神疾患患者数も増加の一途をみており、年間400万人以上が医療の助けを必要とするなど、メンタルヘルスを巡る現状は楽観視することができない状況が続いている。
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審美AI – 美容整形手術後の「見た目年齢」を推定
美容整形手術を求める目的の多くは、若く魅力的な外観に「時を戻したい」という欲求に基づく。米国形成外科学会(ASPS)の調査によると、パンデミックの影響を色濃く受けた2020年も、同国内では23.4万人以上の患者が美容整形手術を受けたという。
フェイスリフト手術の結果はその評価が難しく、これまで主観的な基準に照らして判断することが主であった。米ホフストラ/ノースウェル医科大学などの研究チームは、既存の「見た目年齢評価AIアルゴリズム」を活用し、手術前後における患者の主観的評価とAIによる客観的評価の差異を検討した。Plastic and Reconstructive Surgeryからこのほど公開されたチームの研究論文によると、畳み込みニューラルネットワークによって構築された4つのAIは、対象となった50人(平均年齢58.7歳)において、手術前の写真から実年齢をほぼ正確に推定していたという。一方、フェイスリフト後の写真では、AIが平均して4.3歳程度、実年齢より若く評価していたのに対し、患者の主観的評価では6.7歳程度若返ったと認識していた。
研究チームは「フェイスリフトの治療効果を、患者は過大評価する傾向があるのかもしれない」とした上で、これが手術への感情的および経済的投資を反映したものである可能性に言及している。また、これらのAIアルゴリズムは、フェイスリフト手術後の「見た目年齢」を客観的に評価する理想的な臨床ツールになり得る点を強調するとともに、形成外科医の自己研鑽を目的とした技術評価にも適用できる余地があるとして、今後の利用拡大を予期している。
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卵巣がんリスクをAIで予測 – 豪州発の大規模プロジェクト
卵巣がんは自覚症状が乏しく、発がん要因にも未解明の部分が多いため、致命的な診断の遅れを招きやすい。進行がんとしての検出が半数近くとなる状況だが、進行例の5年生存率は30%前後であり、他のがんに比しても厳しい転帰となる。オーストラリアにおいて、AIで15年間の卵巣がんリスクを予測する、大規模研究プロジェクトが開始される。
研究を主導する南オーストラリア大学のリリースによると、連邦政府から120万ドルが支給された4年間の同プロジェクトでは、データベースに登録された27万3千人の女性患者記録に基づき、卵巣がんの遺伝的リスクおよび物理的リスクを機械学習モデルによりマッピングしていく。特に代謝物質の解析に焦点が当てられ、脂質代謝の変化が卵巣がんのバイオマーカーになると研究チームでは想定している。卵巣がんの発症には、年齢・子宮内膜症・肥満・排卵といったリスク因子が明らかになってきているが、それらの要因に対し、ホルモン剤や経口避妊薬、アスピリン、あるいは食事療法などによってリスクを低減できるか、近年期待が高まっていた。研究チームは、卵巣がんの適切なリスクマッピングによる早期スクリーニングの実現を狙う。
オーストラリアでは毎日3名の女性が卵巣がんで亡くなっているとの試算があり、「サイレントキラー」の異名をもつ卵巣がんへの対抗策には強い関心が寄せられている。栄養疫学領域で世界トップクラスの研究者として知られ、プロジェクトを率いるElina Hyppönen教授は「卵巣がんのリスク要因を包括的に解析する世界初の大規模研究により、発症原因・早期発見・予防について短期間で大きく前進できると信じている」とプロジェクトに対する意気込みを語る。
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Medidata – 合成対照群生成で臨床研究を変革
一般的に新薬の効果および安全性を評価するには、「治験薬の投与を受ける群」と「標準治療を受ける群」を用意し、これを前向きに観察することで検証を行う。ただし、希少疾患などそもそも対象となる患者数が少ない場合や、倫理的問題を有するケースなどにおいて、対照群(コントロール)の確保は容易ではない。
米ニューヨークに本拠を置くMedidataは、ライフサイエンスにおけるITソリューションを提供するグローバル企業として知られるが、この対照群データを「合成」するという革新的技術を持っている。同社プラットフォームでは700万を超える匿名化患者データベースを用い、高度なマッチングアルゴリズムによって、臨床研究の目的に最適となる対照群を合成する。これは従来には非常に困難であった研究計画を実現するのみでなく、試験期間の短縮やコスト削減にも大きく資する。
Medidataが30日明らかにしたところによると、Synthetic Control Arm(SCA)と名付けられた同システムは、本年のAI Breakthrough Awardsにおいて「Best AI-based Solution for Healthcare」を受賞した。AI Breakthrough Awardsは、AIテクノロジーやイノベーターを表彰するために設立されたもので、今年のプログラムには2,200以上のノミネートがあったという。Medidataが提供する革新的プラットフォームとその技術は、これからの医学的エビデンス構築を支え、加速させる鍵となる可能性が高い。
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Beyond...
抗菌薬は魔法の薬ではない – アフリカでの抗菌薬濫用を防ぐAIツール
抗菌薬の濫用は耐性菌の発生を招くとともに、ウイルス性感染症には効果がなく、副作用のリスクだけを被る。スイス発の「DYNAMIC」と呼ばれるプロジェクトは、アフリカ諸国で子ども達への医療を改善する活動の一環として「不必要な抗菌薬使用を減らすためのAIツールePOCT+」を検証している。
DYNAMICプロジェクトを主導するスイスの公衆衛生機関「Unisanté」のプレスリリースによると、ePOCT+はタブレット内のアプリで「臨床医が抗菌薬を処方すべきか意思決定を支援するアルゴリズム」を備える。タンザニアとルワンダで474人の子どもを対象とした検証では、ePOCT+使用によって、抗菌薬の処方割合がルワンダで70%→13%、タンザニアで63%→19%に低下した。「実際の医療現場でも不必要な抗菌薬から子ども達を守る効果を発揮した」とプロジェクトチームでは自信を深めている。
DW.COMのインタビューに対し、DYNAMICプロジェクトリーダーのValérie D'Acremont氏は「COVID以前は世界中ほとんどの人がウイルスと細菌の違いを認識しておらず、多くの感染症がウイルス性で抗生物質治療の恩恵を受けないことを理解していなかった」と述べ、この問題がアフリカ地域に限らず普遍的なものであることも強調する。DYNAMICプロジェクトは、タンザニアとルワンダの約80の医療機関で2年間の臨床研究がまもなく開始される。ツールが将来的に世界中の子どもたちの健康改善につながる可能性もチームでは見据えている。
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死亡リスク評価AIが早産児を救う
新生児死亡の50%以上が早産児で発生しているとされ、世界的にも早産率の上昇傾向が問題視されている。早産児への新生児集中治療室(NICU)でのケアに際し「死亡リスク」を評価することは、専門医による治療選択など臨床的意思決定の助けとなる。従来の複雑な死亡リスク算出システムよりも現場負担の少ない「AIによる死亡リスクスコア算出」に関する研究が、オーストラリア・ジェームズクック大学のグループで行われている。
ジェームズクック大学のニュースリリースでは、同大の研究グループが開発した「NAIMS: Neonatal Artificial Intelligence Mortality Score」と呼ばれる、AIによる新生児死亡リスク評価スコアを紹介している。研究成果はComputers in Biology and Medicine誌に発表された。NAIMSは、出生時体重・妊娠期間・性別・心拍数・呼吸数などというシンプルな情報で直近12時間のデータから3 / 7 / 14日以内の死亡リスクを評価する。スコアの性能は「3日以内の死亡リスク」で最高となったが、ここではAUROC 0.9336を達成し、従来のリスク評価手法よりも優れた性能を示しているという。
研究の筆頭著者であるStephanie Baker氏は「容易に記録できるデータのみを用いることで、医療スタッフに不当な負担をかけずにリスクが評価できる。シンプルかつ高性能で非侵襲的なNAIMSの算出システムが自動的な再計算を続けることで、児の治療に対する反応を経時的に分析できる」と述べている。
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AIによる高齢者の疼痛評価
高齢者ケアにおける疼痛評価は容易ではない。疼痛は本質的に主観的であるが故に定量化が困難で、現代においても臨床現場ではその評価を「観察」と「申告」に基づいている。ただし、高齢者は認知症を含む種々の背景疾患を持つため、感情の発露、意思の表明が時として不十分となる。このことは疼痛評価と管理を難しくしており、不適切な疼痛治療は生活の質低下に直結する。
表情分析によって疼痛を客観評価するAIアプリ開発を行うPainChekはこのほど、「高齢者ケアにおける現代の疼痛評価」と題した詳細なレポートを公開した。ここでは、既存のゴールドスタンダードと言える疼痛管理を「テクノロジーを利用することでどうサポートできるか」に焦点を当てた解説がなされており、疼痛評価をいつどのように実施するかのガイダンスも併せて提供する。PainChekアプリは、臨床スタッフが検出できない「微妙な表情変化」を評価することで、鋭敏かつ正確な疼痛評価を実現するとし、精度95%・感度96%・特異度91%を謳う。
5月にはPainChekアプリのアップグレードが発表されており、豪州・英国で実臨床導入の拡大を続ける同アプリは、ユニバーサル疼痛評価ソリューションとしての立ち位置を確かなものにしようとしている。
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WHOの新指針 – 医療AIの倫理およびガバナンス
AIはヘルスケアにおける躍進も顕著であり、医療者・患者を問わず、その可能性には大きな期待が抱かれている。世界保健機関(WHO)は28日、「AIの設計・展開・使用の中心に倫理と人権を据えること」を求める新たな指針を公表した。
「医療AIの倫理およびガバナンス」と題されたこのレポートは、WHOが設定した専門家パネルが2年間の協議によって得た成果をまとめたもの。WHOのディレクターであるTedros Adhanom Ghebreyesus氏は「この新しいレポートは、リスクを最小限に抑え、落とし穴を回避しながら、AIのメリットを最大化する方法を各国に提供するものだ」と述べる。レポート内ではAIの有用性に多面的に触れており、特に医療リソースの乏しい国や地域における活用が、医療格差是正に寄与する可能性などを強調している。一方で、AIの健康メリットを過大評価しないよう求めるとともに、健康データの非倫理的収集や使用、アルゴリズムにエンコードされたバイアス、サイバーセキュリティなどの問題点にも言及している。
レポートは一貫して「倫理と人権への配慮」が欠かせない点を各所で指摘し、政府やヘルスケアプロバイダーおよび開発者は、AIテクノロジーの設計・開発・展開のあらゆる段階でこれを重視しなければならないとする。AIによってもたらされる利益を最大化するとともに、不利益を最小化するための有用なガイダンスとして、急速な参照数の増加が続いている。
Ethics and governance of artificial intelligence for health
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受精胚の染色体情報をタイムラプス画像から評価
不妊治療における体外受精では、受精した胚から細胞を採取して正常な染色体を持つことをチェックする操作過程(PGT-A: Preimplantation genetic testing for aneuploidy)がある。その操作による胚へのダメージリスクを減らす非侵襲的な方法が近年模索されている。
EurekAlert!のニュースリリースでは、欧州人類発生学会(ESHRE)の2021年次総会で発表された「正常染色体を有する胚をタイムラプス画像からAIで識別する研究」が紹介されている。同研究はスペインの生殖医療グループIVIRMAから発表された(Presentation O-084)。タイムラプス(低速度撮影)から得られる画像情報に基づき、AIアプローチによって細胞活動を定量化することで、胚の染色体情報について「侵襲的な細胞生検と同等に評価できる可能性」が示された。現状では正常と染色体異常の識別は73%程度の感度と特異度という。
これまで検討されてきたその他の非侵襲的な手法としては、胚が発育する培養液を分析するものがあった。同研究の責任者であるMarcos Meseguer氏は「私たちのタイムラプスによる手法は識別能力としてはまだ限定的だが、培養液から遺伝子を解析する従来法に比較して、迅速で経済的にも優れている」として、不妊治療に臨む患者にとって治療のタイムラグと金銭的負担を軽減できる可能性を強調している。
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サイバー攻撃によって50万人の患者情報が流出
アイオワ州に展開するWolfe Eye Clinicは、州全体として11のクリニックを運営する有力ヘルスケアプロバイダーとして知られる。このほど同クリニックは「サイバー攻撃によって、約50万人の患者情報が流出した可能性がある」事実を明らかにした。
Wolfe Eye Clinicによると、実際にサイバー攻撃を受けたのは本年2月で、不正アクセスの検出後「速やかに対応」し、一部のシステムや情報へのアクセスを遮断したという。ハッカーからは身代金の要求があったが、支払いは行っていないとする。その後、サイバーセキュリティの専門家からなる第三者委員会による調査を継続した。結果、約50万人の患者情報が流出した可能性があり、これには名前・生年月日・住所・社会保障番号に加え、高度の医療および健康情報が含まれ得るという。Wolfe Eye Clinicは追加的なセキュリティ対策を講じて再発防止に努めるとともに、流出が疑われる個人情報のモニタリングを継続する。
今月初め、「米国司法省は、ランサムウェアの調査をテロ同様の優先レベルに引き上げること」をロイターが報じている。また、バイデン政権は「他国によってもたらされたサイバー攻撃には軍事行動さえ検討し得る」ことを明らかにしており、米国がサイバーセキュリティを巡る脅威の認識を深めている事実が浮き彫りとなっている。
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皮膚パッチで結核を迅速にトリアージできるか?
結核初期における既存の診断方法は、時間がかかる、高価である、専門人材を要する、などの点で蔓延地域における低所得国にとっては敷居が高い。例えば、1回2.6~10.5ドル程度の喀痰吸引検査は1日1ドルで生活する地域にとっては負担が大きく、確定診断まで複数回の医療アクセスを必要とすることにも困難が伴う。
テクニオン=イスラエル工科大学の27日付ニュースリリースでは、同大の研究グループが開発した「皮膚パッチによる迅速かつ非侵襲的な結核診断法」を紹介している。A-patchと呼ばれるシール状の皮膚パッチは腕に貼って利用し、結核患者の皮膚から放出されるトルエンなどの揮発性有機化合物を捉え、機械学習手法で解析する。学術誌 Advanced Scienceに掲載された研究成果では、インドと南アフリカで行った検証において、90%以上の感度と70%以上の特異度を示した。
この結果はWHOの規定するトリアージテストの要件を満たしており、実用化の可能性を秘めている。プロジェクトリーダーのRotem Vishinkin氏は「グループが開発しているプラットフォームは、安価で迅速かつシンプルで専門人材も必要ない」と述べ、世界各地の医療過疎地域で効果的な結核診断法として普及できるよう開発と検証を進めている。
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機械学習フレームワークによる「結核治療の失敗予測」
著名な敗血症予測ツールの「精度が低いこと」を研究者らが指摘
現在米国で半数以上の病院に実装される敗血症予測ツールについて、「開発元が公表した予測精度を全く維持していない」事実が指摘された。米疾病予防管理センター(CDC)の推計によると、院内死亡患者の3人に1人が敗血症という現状があり、臨床医は敗血症リスクの程度とその早期発見、早期治療に強いモチベーションを持つ。臨床的意思決定をサポートする主要なシステムに疑問符が付いたことで、今後AIシステムの臨床的有効性、特に精度評価・管理において大きな議論を呼びそうだ。
ミシガン大学がこのほど明らかにしたところによると、評価対象となったのはEpic Systemsが提供する敗血症予測ツールで、実臨床現場において敗血症リスクを正しく識別したのは63%にとどまるという。これはEpic Systemsが報告する76-83%の予測精度と大きく乖離している。また、同ツールは全患者の5人に1人にアラートを出しており、全入院患者でみた場合、入院期間中の敗血症発症率を考慮すると、真の敗血症1例を見つけるために8人の被アラート患者を精査する必要があるという。これは臨床ワークフローおよび医療コストの観点から大きな負荷を与え得るもので、状況を看過することはできない点に言及する。
JAMA Internal Medicineから21日公開されたチームの研究論文によると、この精度低下はEpicのモデルが「敗血症発症を請求コードのみで定義付け」しているためであるとする。つまり、臨床的な敗血症発症とそのタイミングは多様で、保険請求コードだけでは適切に捉えられないというものだ。研究チームは臨床ソフトウェアツールに対する監視規制、およびガバナンスの強化を強く求めている。
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歯を失う人を歯科検診なしでスクリーニングできるか?
低所得者など社会的弱者が歯を失うリスクが高いことは、以前から知られてきた。それら社会経済的な要素を組み込んだ機械学習によって、歯科検診を受けずとも歯を喪失するリスクが高い人を特定するアルゴリズムが、ハーバード大学歯科医学校のグループによって研究されている。
PLOS ONE誌に掲載されたチームの研究論文によると、関節炎・糖尿病などの基礎疾患情報に加えて人種・教育を含む社会経済的因子を考慮したアルゴリズムを構築することで、歯の完全喪失をAUC 88.7%、機能的歯列の欠如をAUC 88.3%、いずれかの歯の欠損をAUC 83.2%で予測できたとする。これは「歯科の臨床指標のみに依存したアルゴリズムよりも優れていること」を示しており、社会経済的因子が歯の喪失に与える影響が強調された形となる。
ハーバード・メディカル・スクールの23日付ニュースリリース内では、この手法により「世界中あらゆる医療現場において、歯科の専門家ではなくてもスクリーニングできるようになるかもしれない」とグループの代表で同大の口腔保健政策・疫学准教授であるHawazin Elani氏は述べている。このスクリーニングツールが機能することで、自力では歯科検診行動につながらない集団に対して、歯科受診へ誘導できることが期待されている。
歯科のAI導入を促進する団体「DAIC: Dental AI Council(歯科AI協議会)」
Denta Mitra – 歯科モバイルアプリを展開するインドのスタートアップ
健康への社会的決定要因を評価するAI手法
健康の社会的決定要因を抽出する自然言語処理アルゴリズム
冠動脈CTAのAI解析「Cleerly」 – 4300万ドルのシリーズB資金調達
心臓の冠動脈が狭窄・閉塞することで、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患が引き起こされる。冠動脈を詳細に画像化する心臓CTA(Computer Tomography Angiogram)は、欧州のガイドラインを中心に冠動脈疾患の検査では第一選択となってきた。心臓CTAの解析AIを開発するスタートアップに米Cleerly社がある。
Cleerly社による21日付ニュースリリースでは、4300万ドルのシリーズB資金調達の開始を発表している。同社のFDA認証済みのAI技術は、冠動脈全体から動脈硬化を含む心血管障害の特性を捉え定量化する。AIの性能は学術誌 Journal of Cardiovascular Computed Tomographyに発表され、70%以上の冠動脈狭窄を99.7%の精度で検出できるとする。
Cleerly社は資金調達によってパートナーシップの拡張を図るとともに、需要に応えるための規模拡大を目指している。TechCrunchのリリースでは研究チームのMin氏が「これまで目立たない存在であった我々だが、需要を満たすための準備を整え、表舞台に出ようとしている」とコメントした。
低線量CTへのAI利用 – 心血管疾患リスクを推定
Ultromics – 心臓超音波画像から冠動脈疾患発症を予測するAIシステム
心臓MRIの解析から重篤な転帰を予測するAI
医療AI市場のCAGRは42.8%の高水準へ
ヘルスケアにおけるAIの急進は言うまでもないが、最新の市場調査はこれを裏付けている。Allied Market Researchによる直近の報告では、医療AI市場は2027年までに99.5億ドル規模(約1.1兆円)に達し、その年平均成長率(CAGR)は42.8%ともなるという。市場規模の推定値は各社大きな隔たりがあるが、その成長速度が急激であることは一貫している。
Allied Market Researchがこのほど明らかにしたところによると、2019年段階では48.3億ドル規模とされた同マーケットは、あらゆる医療シーンにおけるAI導入が進む現状を反映し、急速な拡大傾向を示しているという。医療AI市場におけるアルゴリズム別分析では、自然言語処理セグメントが2019年から引き続き、2027年まで最大シェアを維持するとのこと。
精密医療の加速と同領域への投資急増は、グローバルAIの成長を後押しし、ヘルスケアにおけるビッグデータ収集環境の充実と利用機会増が市場の成長を補完している。
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肺がん免疫療法への治療反応性を予測するAIモデル
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫抑制シグナルの伝達を阻害することで、免疫細胞の働きを活性化し、がん細胞への攻撃を促すもの。米フロリダ州タンパに所在する非営利のがん治療・研究センターであるMoffittの研究チームは、PET/CT画像からPD-L1の発現状態を識別し、免疫療法に対する肺がん患者の治療反応性を予測する深層学習モデルを開発した。
Journal for ImmunoTherapy of Cancerからこのほど公開された研究論文によると、3つの医療機関から計697人の非小細胞肺がん患者データを集め、このアルゴリズムをトレーニングしたという。結果、PD-L1陽性患者と陰性患者をAUC 0.82以上と比較的高精度に識別した上、アルゴリズムによって導かれたスコアは、全生存期間の予測において、生検による免疫組織学的評価によるものと明らかな差を認めなかった。
研究成果は「免疫チェックポイント阻害薬に反応するかを判断するためだけの生検」を回避させ得るもので、肺がん免疫療法における臨床的意思決定を支援する非侵襲的評価法の実現可能性が高いことを示唆している。
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細菌を嗅ぎ分ける人工鼻「C-dot-IDEs」
昔から臨床現場では、細菌に感染した傷口から緑膿菌など特有の匂いを嗅ぎ分ける、といった経験的な知恵があった。近年のナノテクノロジーの発展により、微生物が放出する蒸気(VOC: 揮発性有機化合物)を「人工鼻」で識別する技術が実用化されてきた。
イスラエルのネゲブ・ベン=グリオン大学(BGU)からのニュースリリースによると、BGUのチームがカーボンナノ粒子(carbon dots: カーボンドット)を用いた人工鼻によって細菌の検出と識別を可能とする技術を開発している。成果はNano-Micro Letters誌に発表された。人工鼻はカーボンドットを塗布した高密度電極(IDE)が静電容量の変化を捉えることで蒸気を感知し識別する。そこに機械学習アルゴリズムの解析が加わり、細菌ごとに特徴的な揮発性化合物の「指紋」を識別可能となる。
人工鼻のプラットフォーム「C-dot-IDEs」は、堅牢で安定した性質、再利用可能、安価な構成といった特徴を有すると研究チームは考察している。人工鼻技術は今後、医療施設内での細菌の識別、細菌検査の迅速化、呼気検査への応用、食品の腐敗検出、有毒ガスの識別といった無限の可能性を秘めているとして、開発チームはイノベーションを加速させようとしている。
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Insilico Medicine – シリーズCラウンドで2億5500万ドルを調達
香港拠点のAI創薬スタートアップであるInsilico Medicineは、同社のシリーズCラウンドとして2億5500万ドルを調達した。本ラウンドは、米ニューヨークを本拠とするプライベートエクエイティファームのWarburg Pincusが主導している。
22日、Insilico Medicineが明らかにしたところによると、今回の調達資金により複数の臨床試験を推進することを通し、AI・創薬機能の開発強化に充てるとしている。Insilico Medicineは2014年の設立以来、3億1000万ドル以上を調達、130を超える査読論文を発表し、30を超える特許を申請してきた。
また、Warburg Pincusは1994年以降、中国において140社に約140億ドルを投資した実績を持つ。なかでも、ヘルスケアセクターには18.5億ドル以上を投資し、近年医療AIへの関心を高めていた。
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COVID-19時代 – 空港利用者の安全性確保とタッチレス技術の台頭
新型コロナウイルス感染症とともに生きる時代にあって、空港・航空会社・規制当局は、安全性確保を前提にした空港運営のためのグローバルなフレームワーク確立が求められている。米カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置くコンサルティング企業「Frost & Sullivan」は、フランス大手の電機企業「Thales Group」と共同し、空港における安全性管理についてのレポートを公開した。
21日、Frost & Sullivanが明らかにしたところによると、「ポストCOVID-19時代、空港における不確実性・リスク・安全性をどのように管理できるか」と題した分析報告を公開した。これはThales Groupおよび航空専門家の洞察を仔細に分析したもので、COVID-19パンデミックに伴う航空業界の傾向を探った上で、現時点での空港ターミナルにおける課題に焦点を当て、そのソリューションを示すもの。同レポート内では、
AIベースのセキュリティシステムにアップグレードし、より迅速かつスマートに自動化されたデータ処理プラットフォームの提供
乗客およびスタッフの安全性確保のため、体温測定や生体認証に関するタッチレステクノロジーの導入
意思決定プロセスのグローバル化
WHO、ICAO、IATA、ACIなどとの連携による標準化されたプロトコルの開発推進
情報共有によるフィールド操作の最適化
などを求めている。
タッチレスは日常のあらゆる場面で急速に普及しているが、国・地域単位での感染拡大予防の観点から、空港における同技術の導入と徹底利用は欠かせない。技術導入によるオペレーションの変化に加え、セキュリティおよび特有のトラブルシューティングにまで対応する管理プラットフォームの確立は喫緊の課題となっている。
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骨粗鬆症と骨折を評価するAI研究の懸念と将来性
骨粗鬆症と骨折をAI手法によって検出・予測する研究が盛んになってきている。カナダ・マニトバ大学のグループは、これまでに示された89報の論文をレビューし、同領域の研究手法に技術的および臨床的な懸念が残っていることを示した。
著者のひとりで同大学の放射線医学教授であるWilliam D. Leslie氏は、メディアHealioのインタビューに対し「我々のレビューでは、各研究の質には大きな幅があることが観察され、用意した12点満点のチェックリストでの平均スコアは6点であった」と語る。レビュー論文はJournal of Bone and Mineral Research誌に報告された。特に各研究の大きな限界として、機械学習モデルの選択に関して報告が不完全であったり、データが不適切な分割をされていること、外部検証を行われた研究が少ないことなどが挙げられている。
研究グループは「課題は残るものの、骨粗鬆症と骨折の診断・検出に機械学習アプローチを用いることは有望である」として、共通する落とし穴を避けるために機械学習モデルの開発とその成果を報告する際には、標準化されたチェックリストの使用を奨励している。Leslie教授は「機械学習手法の進歩につれて、臨床医とAIモデルのどちらを信用すべきかというジレンマが生じていく。学習し変化していく技術をどのようにライセンスするのか悩ましい問題であり、アルゴリズムの安全性を担保する規制と承認プロセスで、信頼を確保する方法を見つけなければならない」と述べる。
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ヘルスケアを革新する5つのヘルステックスタートアップ
2021年、テクノロジーの力によって医療の質とアクセシビリティは、これまでにないほど高水準に高められようとしている。The Medical AI Timesでは数多くの医療AIスタートアップを紹介してきたが、これまでに詳細を取り上げていないものの中にも巨大なインパクトをもたらす企業が多く含まれている。今回はこれらのうち、5つを紹介しておこう。いずれも、業界内に多大な爪痕を残しており、今後もその動向を追う価値のあるスタートアップと言える。
1. Wellframe
ボストンを拠点とするスタートアップ。ユーザーフレンドリーなスマートフォンアプリによって、種々のリマインダーを提供するデジタル健康管理プラットフォームを構築する。
2. Prognos
ニューヨークを拠点に、大規模レジストリを展開する。1億8500万人の臨床データを保有し、これには最大で160億件のレコードを含む。分析AIアルゴリズムによって、実臨床および臨床研究の質的向上を推進する。
3. Hinge Health
サンフランシスコ拠点で、関節痛および腰痛に特化したデジタルプラットフォームを提供する。ウェアラブルデバイスを利用することで体動の管理、神経刺激による疼痛緩和を狙うほか、1対1の健康指導、教育動画の提供などもカバーする。予防から術後までの筋骨格ケア管理システムとして期待が大きい。
4. Meditopia
ベルリンとイスタンブールを拠点に、睡眠改善・ストレス軽減・メンタルレジリエンス構築を目指した瞑想アプリを提供する。非英語圏マーケットを中心として、1400万人を超えるメンバーにコーチングを行った実績を持つ。
5. Doximity
医師向けのオンラインネットワーキングサービス。高いセキュリティレベルとクローズドなコミュニケーションツールによって、診療内容までを共有し協議する場を提供する。現在医師会員は100万人を超え、米国医師の70%以上が利用する。遠隔医療にも機能拡張を進め、本年6月の新規株式公開では5億ドル超の調達を目指している。
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南アフリカ農村部でのREASSURED診断 – HIV迅速検査読み取りAIアプリ
「REASSURED診断」と呼ばれる低・中所得国における深層学習利用の新たなパラダイムが提唱されている。REASSUREDは、以下の頭文字を目標とする。
「Real-time connectivity(リアルタイム接続)」
「Ease of specimen collection(検体採取の容易さ)」
「Affordable(手頃な価格)」
「Sensitive(高感度)」
「Specific(高特異度)」
「User-friendly(ユーザーフレンドリー)」
「Rapid(迅速)」
「Equipment-free(機器不要)」
「Deliverable(配送可)」
英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のニュースリリースによると、同大学のグループは南アフリカ農村部において「HIV迅速検査の画像をタブレット端末を用い、ディープラーニング手法で分類する」フィールドワークを行っている。学術誌 Nature Medicineに掲載された研究成果は、モバイル機器のカメラとセンサー、エッヂでの処理能力、データ共有の可能性を、HIVの検査結果読み取りAIアプリで検証している。種々の条件下で行われたHIV迅速検査11,000枚以上の画像から機械学習アルゴリズムが構築され、陰性・陽性に分類する精度を訓練を受けた医療スタッフが目視で解釈した場合と比較した。その結果、目視の精度92.1%に対して、モバイルアプリでは精度98.9%と優れたパフォーマンスを発揮した。さらにアプリは高いレベルの感度(97.8%)と特異度(100%)も両立する。
「現実世界」のHIV迅速検査で、深層学習による高精度な画像分類に成功した研究成果は、低・中所得国においてモバイルヘルスツールがもたらすポジティブな可能性を示している。著者のValérian Turbé氏は「現地で一緒に過ごした経験から、人々が基本的な医療サービスを受けることがいかに難しいかを目の当たりにした」と語り、ツールが役立つ将来を期待する。デジタルヘルス研究が主流になるにつれ、その恩恵に影響する所得格差への懸念も生じてきた。REASSURED診断というパラダイムで、世界で最も助けを必要とする地域に新技術の有用性と利益をもたらす取り組みが続く。
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認知症支援チャットボットの可能性と改善点
過去10年間において、認知症患者およびその介護者を支援するためのIT活用事例が急増した。なかでもチャットボットはその手軽さと親しみやすさなどから、ユーザーからの人気が高い。ただし一方で、認知症支援を巡るチャットボットテクノロジーが実際にどのように役立つのかについて、詳細に検討した研究は限られている。
カリフォルニア大学リバーサイド校などの研究チームは、認知症支援チャットボットの種類を特定し、機能とコンテンツの観点からその品質を評価する研究を行った。成果はJournal of Medical Internet Researchからこのほど、オープンアクセス論文として公開されている。研究チームは、Google Playストア、Apple App Store、Alexa Skills、およびインターネットでの体系的な検索によって、505の認知症支援チャットボットを特定した。そのうちの6つが基準に適合し、仔細なレビューに進んでいる。特定されたチャットボット群は認知症教育と記憶力トレーニングに偏っており、介護のスキルや活動に寄り添うものはみられなかった。また、全てのアプリが利用開始に一定のITスキルが必要となり、PCやインターネットへの習熟が無い人、または認証患者において見過ごせないハードルとなっている点も指摘している。
著者らは「全体として非常にうまく機能している」点を強調した上で、上記に加えて倫理・プライバシーの懸念にも言及する。現に、十分な倫理的配慮とプライバシー保護基準を満たしたのは2つのアプリのみで、他には種々の限界が内包され、速やかな改善を行う必要があるとする。現在不足し、今後重点的に開発を進めるべき認知症支援チャットボットとして、1. 確たるエビデンスに基づき情報・アドバイスを提供するもの、2. 心理的サポートを効果的に提供するもの を挙げており、介護者の負担軽減および認知症患者の自律的ケアに資する研究開発を推奨している。
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反科学的イデオロギーをTwitterから追跡する研究
ソーシャルメディアにおいて、COVID-19に対する反科学的な見解は政治的イデオロギーと密接に関係していることが指摘されている(過去記事)。南カリフォルニア大学(USC)のグループによって、Twitterからの機械学習による解析で「反科学的な意見と保守的政治イデオロギーの密接な関係を明らかにし、特定地域での反科学的感情の高まりを特定する」研究成果が発表されている。
USCのニュースリリースでは、オープンアクセスの学術誌 Journal of Medical Internet Researchに掲載された同研究を紹介している。研究チームは、リベラル派と保守派、親科学派と反科学派、強硬派と穏健派という、3組の対立するグループ分類で、2020年1月〜4月の米国内のtweetをもとにCOVID-19と公衆衛生に関する意見を解析した。その結果、反科学+保守では「陰謀論など政治的トピックス」に注目しており、親科学+保守では「世界的アウトブレイクと発症者のカーブを平らにする予防策」に重点を置いていた。また、後にCOVID-19の致命的な急増に見舞われることになる山西部と南部の州では、アウトブレイク前から既に反科学的意見の高まりがみられていた。
研究チームによると、研究成果から最も勇気づけられた結果として「親科学+穏健というユーザーの数が、反科学のユーザー数を圧倒的に凌駕している」点を挙げている。また、「調査結果は政策立案者や公衆衛生担当者にとっても有益であり、国内の特定地域で反科学的感情の高まりを検知できれば、不信感を和らげるためのメッセージを送り、その地域での病気の発生に備えることができる」と著者らは主張している。集団免疫の達成という目標の実現には、ソーシャルメディアの動向を追跡する手法がこれからも有効性を示していくだろう。
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AIに臨床的な共感を代替させてはいけないのか?
AIの活用が臨床医学において有望な結果を示す一方で、臨床的な「共感」の問題は現在のAIアプローチでは解決できないと、米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の生命倫理学教授で臨床的共感の専門家であるJodi Halpern博士が意見を提起している。
UCバークレーのニュースリリースでは、Halpern教授が学術誌AI & SOCIETYで発表した「共感型AIの原理的障害:ヘルスケアでなぜ人間の共感を代替できないのか」という論文を紹介している。Halpern教授は、臨床的共感が患者の治療成績を向上させる3つの要素、①正しい診断のための良好な病歴聴取において医師が共感を示した場合、患者は多くの情報を開示する、②治療結果は患者が治療を守るかにかかっており、治療継続を予測する最大の要因は医師への信頼である、③共感的な文脈で伝えられた悪い知らせには患者はうまく対処できる、と例示している。これらを踏まえると、臨床的な対話の場にAIを使用することは、苦痛を感じている患者にとって真の人間的な共感に対する期待を損なうため、非倫理的であると結論づけている。
Halpern教授は「AIが医療のあらゆる側面に貢献することがあっても、治療上の共感を得るために主治医と患者の関係に取って代わるような使い方はしないでほしい」と語っている。AI研究では、その用途や範囲に「原理的な(in principle)」制限はないという考えが主流となっている。しかしHalpern教授らは論文の中で、共感型AIは不可能、または非道徳的、あるいはその両方であるとして、そこに原理的な障害があると主張している。同論文の問題提起は、我々が医療サービスにおけるAIの可能性を考える際に念頭におくべき重要な視点かもしれない。
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精神疾患治療のアドヒアランス不良を検出するAIシステム
精神疾患治療において通院継続の失敗、服薬の自己中断などは増悪と再発の主要なリスクとして知られる。このようなアドヒアランス不良を早期に自動検出し、積極的なフォローアップを実現するAIシステムの有効性が検証された。
オーストラリア・アデレードに所在するフリンダース大学などの研究チームは、メディケアデータを利用し、精神疾患患者のアドヒアランスリスクをモニタリングするAIツールを開発している。Australian & New Zealand Journal of Psychiatryから公表された研究論文によると、同チームはAI2 (Actionable Intime Insights)と呼ばれるこのツールの臨床的有効性を、304名の精神疾患患者において検証した。結果、AIは142名(46.7%)にアドヒアランス不良のリスクがあるとしてフラグを立て、臨床医によるレビューを経て実際に31名に対して介入が行われた。また、フラグが立てられた患者は年齢が高く、過去の精神疾患治療エピソードが多いという傾向を持ち、高機能病院から一般開業医に移された患者においてより多くのアラートと実際の介入を受けていた。
著者らは「アドヒアランス不良のデジタルモニタリングは可能であり、地域のメンタルヘルスケアおよびプライマリケアの臨床ワークフローに統合できる」とした上で、このテクノロジーがケアプランへの非遵守行動を早期に検出し、疾患増悪や再発の予防に貢献する可能性が高い点を強調する。
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韓国Lunit – KRX上場への足取り
ソフトバンクも出資する韓国の医療AIスタートアップであるLunitは、胸部レントゲンやマンモグラフィの診断支援AI開発などに強力な実績を持つ。近年はGE HealthcareやPhilipsをはじめ、大手ベンダーとの提携を積極的に進めることで国際展開を加速させている(過去記事)。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会がこのほど開催され、Lunitは4つの臨床試験結果を公表した。その直後、14日に規制当局の技術評価に合格したことが報じられ、韓国取引所(KRX)を介した新規株式公開(IPO)に大きく近付いた現状が明らかにされている。KRXは技術例外ポリシーにより、特に優れた技術を持つ企業はIPOまでのプロセスを簡略化できる。これには、KRXが指定する2つの機関から少なくとも「A」および「BBB」の評価を取得する必要があるが、Lunitは2つの技術評価機関からいずれも「AA」を取得したという。
Lunitはこれを受け、下半期に上場に向けた事前審査を申請する予定。Korea Biomedical Reviewの取材に対し、Lunit CEOのSuh Beom-seok氏は「我々のAI技術が認められたことを嬉しく思う。がんの効果的な診断と治療の新しいスタンダードを確立するため、研究開発と事業を拡大し続けたい」と話している。
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健康への社会的決定要因を評価するAI手法
健康への社会的リスク因子(SRFs: social risk factors)が注目されている。そのリスク評価へのAI手法適用についても多方面から模索が続いているが、米ノースカロライナ州拠点の非営利研究機関 RTI Internationalのグループによる研究成果の一例を紹介する。
医療情報管理システムの非営利団体「HIMSS」が運営するメディア Healthcare IT Newsでは、今年8月9〜13日に開催される国際会議 HIMSS21で、RTI Internationalの研究グループが発表予定のセッションを紹介している(抄録参照)。同グループは「機械学習を用いて、国勢調査レベルでの平均寿命の差異をSRFsから理解できる」とする研究成果を示す。同成果では、平均余命や乳児死亡率といった集団の健康指標に対し、SRFsによってその73~99%を説明可能であることを明らかにしている。
失業・教育・住宅・食糧・交通手段といった要因によって、人々が適切な治療を受けたり治療計画に従うことをどれだけ困難とするか、近年の医療システムの中でようやくその事実が受け入れられ始めている。個人の努力ではコントロールの難しい社会的リスクに対して、SRFsを医療保険などの支払いシステムに組み込むことも検討されつつあり、リスク因子の探索とその影響を評価する研究成果には大きな価値がある。AIの活用によって、健康における社会的不平等をもたらす要因の解明が進み、その対策法を明らかにできるか、注目の領域と言える。
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