年間アーカイブ 2021

米Jvion社 – COVID-19ワクチン接種優先順位づけをAIが支援

新型コロナワクチンの接種が世界的に開始されているが、他国と比較し米国でのワクチン接種が想定より進んでいない現状が伝え聞かれる。米国でのワクチン接種は行政単位ごとに、CDCガイドラインに基づいた優先順位がつけられている。効果的な優先順位づけのため、医療AI開発企業のJvionは「AIを適用したCOVID-19ワクチン接種優先順位指数(VPI: Vaccination Prioritization Index)」の提供開始を発表している。 Jvion社の19日付プレスリリースによると、同社の提供するVPIは昨年春から発表してきたCOVID-19に対する地域脆弱性マップに更新を加え、CDCガイドラインと社会経済的脆弱性に基づき、地域のワクチン接種優先度を指標化したものである。ワクチン接種優先順位は、郡と郵便番号ごとに1から6までのスケールで評価するレイヤーがマップ上に示され、公衆衛生当局がワクチンの優先順位の高いエリアを地域社会の構造に基づいて絞り込むのを支援する。VPIツールはMicrosoft Azure上に構築された「Jvion CORE」という機械学習と予測分析を行うJvionの基幹AI技術で実装されている。2020年3月の公開以来Jvionのマップは、ホワイトハウスタスクフォース・連邦緊急事態管理庁(FEMA)・各軍組織・州および地方自治体のメンバーを含め、200万回以上閲覧されてきた実績を持つという。 日本においてもCOVID-19のワクチン接種計画が次第に明らかにされてきたが、初期の接種対象者である医療従事者の間でも計画に対する不安は否めない状況にある。COVID-19の打開策として期待される第一歩のワクチン接種が効果的に進むか、優先順位づけを含む各国の計画の推移に注目していきたい。

精子の細胞内pHから「体外受精の成功」を予測する機械学習アルゴリズム

体外受精(IVF)は不妊治療の1つで、取り出した卵子と精子から体外で受精卵を作り、これを子宮に移植するものだ。米ワシントン大学やノースウェスタン大学などの共同研究チームは、正常精子のpHからIVFの成功を予測する機械学習アルゴリズムを構築した。 Fertility and Sterilityからオンライン公開されているチームの研究論文によると、IVFを受ける男性で、精子に異常のみられない76名のデータからこのアルゴリズムを導いたという。ここではIVF成功予測のための主要な決定因子として、精子の細胞内pHを仮定している。精子pHおよび膜電位、臨床データから構築した勾配ブースティングによる機械学習アルゴリズムは、AUC 0.81、感度0.65、特異度0.80でIVFの成功を予測していたという。 研究チームは、臨床パラメータとともに精子pHなど受精能のマーカーを利用することで、IVFを受けている正常精子男性からの受精成功を予測できると結論づけている。生殖領域における機械学習手法の有用性にも言及しており、対象集団を拡張した研究継続とエビデンスの蓄積が期待されている。

ユーイング肉腫患者の5年生存率を予測するAIツール

ユーイング肉腫は小児期から青年期に好発する悪性骨腫瘍の1つだ。これまで個別化された予後予測手法は限定的であったが、このほど中国・福建医科大学などの研究チームは、米国患者データを利用し、ユーイング肉腫患者の5年生存率を個別化予測できる機械学習ツールを開発した。現在、開発されたウェブベースのアプリケーションは無償公開されている。 17日、Journal of Orthopaedic Researchから公表されたチームの研究論文によると、米国で1975年から2016年の間にユーイング肉腫に罹患した2,332名の患者データから、この機械学習アルゴリズムを導いたという。患者コホート全体としては、5年間の追跡調査による全生存率は60.72%であった。ツールには最も高い予測パフォーマンスを示したランダムフォレストモデルが選択され、診断時の年齢や性別、婚姻状況、原発部位、腫瘍グレード・ステージ、放射線治療の有無など13項目から高精度な予測を実現している。 著者らは「ユーイング肉腫における予後予測のための最初の機械学習ツール」として、研究成果の重要性を強調している。簡便に利用できるツールではあるが、現時点で臨床的有効性・妥当性の程度を外的に評価されたわけではないこと、またベースとなる対象集団が米国人が中心であることなどから、日本人を含む他集団への一般化可能性は未知であり、ツールの利用には注意が必要となる。

WIDEX社 – AIによる補聴器の技術革新

米国国立衛生研究所(NIH)によると75歳以上の半数が何らかの聴覚サポートを要する状況にあり、高齢化にともなう補聴器への需要は高まる一方である。しかし、従来の技術による画一的な補聴器の調整では、個々の感性の違いなどから着用者の満足度を高める難しさがあった。AI/機械学習による技術革新は補聴器の分野にも進出し、個別化された自動調整機能をもつ補聴器の市販が進む。 国際的な補聴器メーカーWIDEXがPRNewswireに提供したプレスリリースで、同社はリアルタイムAIによる聴感コントロールが可能な補聴器を初めて提供したメーカーと謳っている。「自動環境適応機能」はユーザーの環境を常に分析して、環境特有のノイズを抑え、会話音声を聞き取りやすくしたり、コンサートなどでは臨場感あるサウンドを提供することもできる。「サウンドセンスアダプト」はユーザーがボリュームを上げるなど設定切り替えを行う度に学習し、同様のシチュエーションでの自動調整機能をもつ。「サウンドセンスラーン」は機械学習アルゴリズムの恩恵で、従来では膨大な回数を必要としていた個人の好みに合うように調整するA-B比較テストが十数回にまで省力化でき、2,000パターン以上の設定が可能となる。 Widex社の聴覚学責任者Lise Henningsen氏は「私たちの研究で、補聴器ユーザーはAI/機械学習によるパーソナライズされた設定をとても好み、80%の人がこの機能を他者に勧める結果でした。AI搭載の補聴器は、バーチャルアシスタントやスマートウォッチと並ぶ、新しいライフスタイル『ヒアラブル(hearables)』に近いものといえるでしょう」と語っている。

新型コロナとAI:医療AIで新型コロナウイルスに立ち向かう最新テクノロジーまとめ

2020年は東京オリンピック開催に伴うメモリアルイヤーとなるはずでもあったが、実際は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「試練の1年」として、多くの人々の記憶に刻まれることになった。数え切れないほどの人命が危機に曝されるとともに、医療提供体制の限界と脆弱性も各所であらわになった。ソーシャルディスタンスという言葉が一般的となって人の動きは大きく様変わりし、経済は混乱し、政治は確信の持てない決断を何度も迫られた。2021年となった今も状況は改善することはなく、日本はまさに第3波の脅威の最中にある。 こういったなか、科学コミュニティは自身の研究フォーカスをこの未知の感染症へと移す動きが加速し、結果として短期間に無数の知見が集積した。抗ウイルス薬を始めとした根本解決手段はいまだ得られていないが、多面的な研究アプローチとその成果は、この未曾有の危機を乗り越えるための示唆を与えてくれるものとなっている。 我々のメディア・The Medical AI Timesでは、特に「新型コロナウイルスに立ち向かう医療AI」を題材とし、海外医学論文や国際学会報告、公式プレスリリースを中心として学術的エビデンスの担保された情報を多数取り扱ってきた。2020年2月18日から2021年1月14日までの間では、実に178本の当該記事をリリースしている。ここでは、これらの記事を参照しつつ「新型コロナウイルスと医療AIのこれまで」をまとめておきたい。   A. AIによる新型コロナウイルス感染症の診断モデル(画像) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の識別は現在、ウイルス遺伝子を増幅させて検出するPCR法がゴールドスタンダードとなっている。一方で、検査結果が出るまでにかかる時間、人的・物的リソースの制約、検査精度の限界、などが問題となってきた。医療AI領域では、主として画像や血液検査結果、その他の生体試料を活用し、このPCR検査をサポートする診断・予測モデルの開発が1つのトレンドとなった。 画像種は、医療リソースの乏しい国・地域を含めても広く利用されている「胸部単純レントゲン」が最多を占め、次に「胸部CT」によるものが続いた。 COVID-19を識別するAI、画像診断モデルの事例: 1. ノースウェスタン大学 https://aitimes.media/2020/11/26/6642/ Radiologyに収載されたチームの研究論文によると、DeepCOVID-XRと呼ばれるこのAIプラットフォームでは、胸部読影を専門とする放射線科医と比較して診断速度で10倍、正確性で1~6%高い値を示すなど、高度のスクリーニング性能を示した。 2. behold.ai https://aitimes.media/2020/04/16/4675/ 同社の「red dot」プラットフォームは、胸部単純レントゲン写真を「正常と判断する能力」を強みとして、欧州CEマークを2020年4月段階で取得しており、COVID-19のトリアージ迅速化に貢献した。 3. アリババ https://aitimes.media/2020/06/08/5207/ 胸部CTからCOVID-19による異常陰影を識別するAIソフトウェアを開発しており、日本のエムスリーと提携したことでも話題を集めた。 4. Zebra Medical Vision https://aitimes.media/2020/06/02/5113/ 医療画像AIスタートアップの雄は、胸部CT画像からCOVID-19を識別するAIシステムをインド全土の病院群へ展開。 特に胸部CT画像による診断モデルは高い識別精度を示すものが登場し、スクリーニングの域を超えた「十分に診断に寄与する」モデルが提唱されつつある。これには政府・民間を問わず、開発を積極的に後押しする多くの枠組みが生まれたことも大きな役割を果たしている。 COVID-19関連AI研究・開発を後押しする枠組みの事例: 1. 米Children’s National Hospital https://aitimes.media/2021/01/14/7019/ 米国立衛生研究所やNVIDIAと協力し、COVID-19を胸部CT画像から診断するAIモデルを競うコンペティションを実施。 2. 米国立衛生研究所 https://aitimes.media/2020/12/24/6880/ COVID-19のスクリーニングや診断、重症度予測のためのAIシステム開発に対して2億ドルの助成金を割り当てるなど、関連研究・開発に対して大規模な助成を進める。 3. Google https://aitimes.media/2020/09/11/6042/ COVID-19を巡るAI開発とデータ解析を支援するため、2020年9月段階までで世界31組織、850万ドル以上を寄付。 4. NCC-PDI https://aitimes.media/2020/06/16/5283/ また、英国における保健福祉の執行機関であるPublic Health Englandは、ケンブリッジ大学の要請に対し、匿名化した「新型コロナウイルスの感染患者データ全て」を科学者たちに提供することを早期に決定するなど、これまでにない迅速かつ大胆な判断が研究の活性化を促したことも見逃せない。米国も同様に、新型コロナウイルス感染症対策へのAI活用の重要性を認識しており、Caption Healthの事例では、AIソフトウェアのアップデートに伴うFDA認証をたった25日間のレビューで実現している。 COVID-19とAIに関する政策的判断の事例: 1. 英国 https://aitimes.media/2020/04/08/4605/ 2. 米国 https://aitimes.media/2020/05/13/4875/   B. AIによる新型コロナウイルス感染症の診断モデル(画像以外) 画像以外をベースにした診断モデルとしては、一般血液検査項目に基づくものが数多く提案された。ルーチン取得される入院時血液検査結果からスクリーニングする手段は、新規の大規模な医療資源投入の必要がなく、現状の臨床ワークフローを乱さない効率的なものとなるため、臨床現場からの期待も大きい。 COVID-19を識別するAI、一般血液検査に基づく診断モデルの事例: 1....

乳がん識別AI – 人の学習過程を模倣したAIが放射線科医のパフォーマンスを凌駕

乳がんは依然として世界的な課題であり、2018年には世界で60万人以上が乳がんのために命を落としている(参照論文)。死亡率を低減させる有効な取り組みとしてマンモグラフィによるスクリーニングが推奨されているが、増加する撮影済み画像数に対して読影専門医の増加が十分でないこと、偽陽性率および偽陰性率が見逃せない程度に高いことが問題となってきた。 11日、Nature Medicineに発表された研究論文では、上記の課題に対応するため新しい深層学習モデルの構築方法を明らかにした。より有効性の高いモデルを得るために重要となる点として、ラベル付きトレーニングデータを大量に取得すること、および母集団・機器・モダリティの全体で一般化を確実にすること、にフォーカスしている。チームは人間の学習過程を模倣するアプローチを採用しており、AIモデルを段階的にトレーニングし、各フェーズで学習した事前情報を活用していくことで高度にラベリングされたデータへの依存を減らし、正確に乳がんを検出するモデルの導出に成功したとのこと。 研究チームが構築したマンモグラフィのスクリーニングAIを5人の読影専門医と比較したところ、ツールは5人全てのパフォーマンスを上回り、感度は平均14%向上したことが示された。また興味深いことに、欧米人のデータからトレーニングされたこの深層学習モデルが、中国人集団においてもAUC 0.971を示すなど、モデルの高い一般化可能性も併せて明らかにしている。チームの着想が乳がんスクリーニングのあり方を変革させるものとなるか、期待は大きい。

FDAがアップデートした5つの方針「AI/MLベースSaMDへのアクションプラン」

FDA: Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局)はデジタルヘルス機器の安全性と有効性に対して規制当局の立場から承認を与えている。特に昨今の「AI/機械学習をベースとしたSaMD: Software as a Medical Device(医療機器としてのソフトウェア)」開発においては、革新的な技術をFDAがどう監視していくか、一挙手一投足が注目され医療機器市場の動向を左右している。AI/機械学習が前例のないブレイクスルーを起こす可能性から、承認対象となる機器の利害関係者らと継続的な対話およびフィードバックを歓迎する方針をFDAは表明してきた。 FDAの12日付リリースでは「AI/機械学習ベースSaMDへのアクションプラン」が発表され、今後FDAが同分野に対して実施していく方針が概要として5つ示された。1.ソフトウェアの経時的な学習に関して事前策定する変更管理計画のガイダンス案発行、2.機械学習アルゴリズムの評価と改善に適したプラクティスの開発支援、3.デバイスの技術的透明性など患者中心のアプローチ促進、4.機械学習アルゴリズムを評価し改善する手法の開発、5.実世界でのパフォーマンスを監視するパイロット手法の発展、という5項目が挙がっている。 今回のアクションプランは、FDAから2019年4月に示された「AI/機械学習ベースSaMDの修正に関する規制枠組案」に対して各利害関係者からのフィードバックを受けて出されたものである。FDAではアクションプランが最新の状態を維持し、患者の安全性に対処し、有望な技術へのアクセス向上のために進化し続けることを期待している。

COVID-19胸部CT診断のAIモデルを競うグランドチャレンジ

成人から小児まで、COVID-19感染者の病状を迅速かつ効果的に理解するため、胸部CTのAI解析モデルが世界各地で開発されている。米国トップクラスの小児科病院でワシントンD.C.拠点のChildren’s National Hospitalは、米国国立衛生研究所(NIH)およびAI・ビジュアルコンピューティング技術をリードする企業NVIDIAと協力し、COVID-19を肺のCTから診断するAIモデルを競うコンペティション「Grand Challenge」を実施した。 Children’s National Hospitalの12日付ニュースリリースではコンペのトップ10が公表されている。コンペでは公開データセットから提供された、様々な年齢や性別、異なる重症度、多施設・多国籍の患者からなる画像データが利用された。2020年11月から12月のコンペ実施期間、世界中から1,000以上の参加チームが集まっている。ちなみに日本からは名古屋大学のTong Zheng氏らによる「Fully-automated COVID-19-20 Segmentation」がトップ10のなかでNo.6に名を連ねている。 共同開催したNIHのBradford Wood氏は「世界的な学術コミュニティが、パンデミックで引き起こされた無数のニーズをよく研究し、対処するツール開発のため専門知識を組み合わせたチームを迅速に組んだことに拍手を送りたい。この困難な時代に科学界をひとつにする共通の目的に向けて手を組んだ各チームに感謝します」と述べた。

経カテーテル大動脈弁置換術後のペースメーカー植込みを予測する機械学習アルゴリズム

重症の大動脈弁狭窄症は症状発現後から急速に増悪する進行性疾患であるが、従来は外科的人工弁置換術が唯一の延命治療とされてきた。近年、外科的手術と同等の効果を示す治療方法として「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)」が提唱され、2013年からは日本でも保険収載されている。低侵襲治療としても施行件数は増加をみているが、人工弁移植後に起こし得る伝導障害のため、一定割合に恒久的ペースメーカー植込み(PPI)が必要となることが問題となってきた。 Pacing and Clinical Electrophysiologyから12日公表された研究論文によると、TAVR後のPPIを予測する機械学習アルゴリズムは、557名の大動脈弁狭窄症患者データセットから構築されたという。平均年齢80歳の同群においてTAVR後のPPIは95名、17.1%に確認された。ベースラインの患者属性や術前術後の心電図記録、心エコーデータなどからランダムフォレストモデルをトレーニングしたところ、AUC 0.81と、ロジスティック回帰モデルの0.69を大きく上回る良好なパフォーマンスを示していた。 著者らは、機械学習モデルが従前の統計モデルより優れたPPI予測精度を示すことを強調するとともに、TAVRに伴う重要な合併症リスクを事前予測することによって、より個別化された治療・管理戦略の策定につながることに言及している。

Clairity – 音声から自殺リスクを推定するAIアプリ

米オハイオ州メーソンに本拠を置くメンタルヘルススタートアップのClarigent Healthは、会話音声から「潜在的な自殺リスク」を推定するAIアプリを医療者向けに提供している。 同社のアプリ「Clairity」は、メンタルヘルスの非侵襲的なバイオマーカーとして音声に着目しており、患者の臨床症状の推移と併せ、音声データを経時的にキャプチャし解析を加えるもの。Clairityは蓄積データに基づき、個人ごとの自殺リスクの程度や治療の進捗状況、担当患者グループ全体の状況などについてレポートを返すことができ、医療者の臨床的意思決定をサポートできるように設計されている。 Clarigent Healthは2018年に設立され、多施設で10年以上に渡って実施された研究計画とそのデータに基づいた「HIPAA準拠のソリューション」を提供してきた。COVID-19の拡大に伴って、市民は過度のストレス・不安・孤立に曝されており、日常臨床における何気ない会話からも自動スクリーニングを行うセーフティネットとしての役割が、当該アプリには期待されている。

医師のAI使用の責任はいつどこで増大するのか?

これまでの研究において、一般の人々の間で「AIが医療の意思決定に関わることへの懸念」がまだまだ根強いことが示されてきた。しかし、新しい研究では「AIの勧告に従った医療者は医療過誤の際に責任が少ない」と陪審員が認識する可能性が示唆されている。 学術誌 Journal of Nuclear Medicineに発表された「医師のAI使用の責任」に関する新しい研究では、米国の成人2,000名を対象にAIアルゴリズムが医師に卵巣がん治療薬の投与量を推奨したシナリオを読ませ、そこでおきた医療過誤の責任を評価させた。AIが「標準」か「非標準」の薬剤投与量を推奨した場合と、医師がAIの推奨を「受け入れた」か「拒否した」場合でシナリオは4パターンに変化するが、そのすべてで医療過誤が起きてしまう。結果、「標準的AI勧告を受け入れた医師」の方が「標準的AI勧告を拒否した医師」よりも好意的に判断された。さらに「非標準的AI勧告を受け入れた医師」はそれを拒否した方が安全であったとは判断されない傾向が示された。 研究チームは結果を受け、AIの勧告を受け入れた医師に対する法的責任の脅威は、従来考えられていたよりも小さくなってきた可能性があるとする。そして、それら障壁が低くなることでAIの医療利用が増え得ることに言及している。

Binah.ai社「Binah Team」- カメラのバイタルサイン測定による健康管理AIアプリ

COVID-19流行後、在宅のリモート勤務やソーシャルディスタンスによる人間関係の変化は、新たなストレスと課題を生んでいる。企業などにおける健康モニタリングツールの需要の高まりに対し、カメラからバイタルサインを読み取りAIで解析する技術を提供するのが、イスラエル拠点のAIスタートアップ Binah.aiである。同社については以前にも紹介した(過去記事)。 Binah.aiの5日付プレスリリースによると、同社の技術を組み込んだ、組織・企業向けの健康モニタリングプラットフォーム「Binah Team」の発売が発表された。プラットフォーム上のカメラからはユーザーの心拍数・心拍変動率・酸素飽和度・呼吸数、そしてストレスレベルの定量化など幅広いバイタルサインが取得される。同アプリはiOSとAndroid、Windows 10に対応し、組織ごとのプライバシーポリシーに従って情報を非公開としながら、従業員らの健康を管理できる。Binah.aiは1月11日から14日までバーチャル開催の電子機器見本市 CES 2021にも出展しており、Binah Teamのライブデモが行われている。 Binah.aiは日本においても生命保険会社のSOMPOひまわり生命と提携し、契約者のストレスレベルを測定する実証実験の開始とアプリのリリースが発表され話題となった。Binah.aiの技術には、カメラに映る顔の頬上部から反射する赤・緑・青の光の変化を解析するremote photoplethysmography (rPPG)が応用されている。これら技術はセンサーやウェアラブル機器に依存しないため、これからの遠隔健康監視の市場に破壊的な影響を与えることが期待されている。

マウントサイナイ医科大学 – アルツハイマー病の3つの分子サブタイプを特定

米ニューヨーク市マンハッタンに所在するマウントサイナイ医科大学の研究チームは、アルツハイマー病における3つの分子サブタイプを特定した。これは個別化された治療法開発に向けた新しい道を切り開く可能性があることから、研究成果は現在大きな注目を集めている。チームの論文は先週、Science Advancesから公開された。 マウントサイナイ医科大学によるプレスリリースによると、アルツハイマー病患者および非アルツハイマー病患者であった数百名の死亡献体から、5つの脳領域1,500を超えるサンプルを取得し、RNAシーケンスデータを解析することでこの成果を導いたという。特定された3つのサブタイプは年齢や病期とは完全に無関係で、脳の変性につながる生物学的機序に連動する。興味深いことに、アルツハイマー病の神経病理的学的特徴とされるタウ蛋白による神経原繊維変化やアミロイドβプラークは、特定のサブタイプのみで有意に増加するものであった。 近年多くの研究で、アルツハイマー病の原因として免疫反応の存在が示唆されている。一方で、アルツハイマー病の半数以上において正常脳と比較して「免疫反応の上昇を認めない」事実もあり、これはアルツハイマー病進行における特定サブタイプ固有の分子ドライバーの存在によって説明されようとしている。研究者らは「アルツハイマー病の分子サブタイプの特性評価によって、調節不全となっている多くの新しいシグナル伝達経路が明らかになるため、新しい治療ターゲットが見出されていく」ことを強調する。

Cognitive Apps「毎日の音声とテキストで従業員のメンタルヘルスを管理するAIアプリ」 – Ehave社が独占契約

従業員のメンタルヘルスに配慮する企業の取り組みはますます盛んとなってきた。そのような企業が従業員と医療者をつなぐ連続性のあるケアを行うため、従業員の精神的な健康履歴にアクセスできるデジタルツールへの需要が高まっている。米Cognitive Apps社は「メンタルヘルスを音声とテキストから毎日モニタリングするAIアプリ」をApple HealthKitおよびGoogleFitで提供してきた。 GlobeNewswire掲載の7日付プレスリリースによると、Coginitive Appsの同AIアプリについて、デジタル治療を手がける米Ehave社がG20諸国内で独占的にプラットフォームを提供するパートナーシップ契約が発表されている。アプリはMDとPhDをもつ精神科医による設計で、従業員(患者)から毎日5秒間の音声とテキストメッセージを取得し、声のトーンや感情を分析するAI制御のツールである。また、ウェアラブルデバイスなどから収集される身体活動・周囲の騒音・ワークライフバランス・睡眠といったデータがバックグラウンドで処理されている。 Ehave社はプラットフォームをG20諸国で主に企業を対象として配布し展開していく予定という。同社CEOのBen Kaplan氏は「Cognitive Appsのプラットフォームによって、雇用者は従業員のレッドゾーン(ストレス・疲労・抑鬱状態の増加)を判断できるようになります。そして、生命を脅かすような個人の行動を未然に防ぐことが私たちの目標です」と語っている。

Volta Medical – 心房細動治療を革新するAIシステム

フランス・マルセイユを拠点とするVolta Medicalは、2016年に3人の医師と1人のデータサイエンティストによって設立された医療AIスタートアップだ。不整脈、特に心房細動治療への技術導入にフォーカスしており、同社のVX1アプリケーションはCEマークおよびFDAの認証を取得している。 15億ドル以上を運用してヘルスケア投資を行うGlide Healthcareが6日明らかにしたところによると、同社がVolta Medicalの資金調達ラウンドを主導し、その額は2800万ドルとなったという。得られた資金はさらなる研究開発と、米国および欧州における商業展開の加速につなげるとみられる。心房細動はその根本治療としてカテーテルアブレーションがあるが、VX1は術者を助けるAIアプリケーションで、心房細動持続の原因となる電位異常をリアルタイムで捉えてマッピングし、視覚的に示すことができるもの。 心房細動は米国において600万人に影響を与え、2060年までにはその患者数は2倍になることが推定されている。心房細動は心房内の血流停滞に伴う血栓形成が問題となり、脳梗塞の主要な原因のひとつでもある。カテーテルアブレーションは心房細動の根治が見込める一方、高い治療失敗率は見過ごせず、Volta Medicalが同領域に革新を導くことができるか期待は大きい。

口腔がんの治療選択を個別最適化するAIシステム

米オハイオ州クリーブランドに所在するケースウェスタンリザーブ大学などの研究チームは、口腔がんの治療法選択を患者ごとに個別最適化するためのAIシステム開発に取り組んでいる。中心となる研究センター・CCIPDは、特にがん治療分野を中心として60を超える特許を保有するなど、精密医療におけるAI活用の先導的地位を確立している。 研究チームは6日、同大学公式ウェブサイトを通じ、米国立がん研究所(NCI)から5年間で330万ドルの研究助成を受けて、今回のシステム開発を加速させることを明らかにした。チームのテクノロジーは高度なコンピュータビジョンおよび機械学習技術に基づくもので、デジタル化された口腔がんの組織スライドから「がんと免疫細胞、および細胞間の空間パターン」を認識する。ここから、がんの悪性度や手術適応、化学療法および放射線治療の必要性などを識別するAIの開発に結びつけている。 これまでの治療法選択は限られたパラメータに基づく、比較的大枠での分類であったため、手術単独療治療が適応となる群にも、本来は放射線治療を加えるべきサブセットが一定数混じることなどが問題となってきた。口腔がんは米国におけるがん罹患の3%を占め、世界では年間40万人の新規症例が報告されている。チームの新しいAIシステムが潜在的に果たす役割は大きく、治療戦略策定を根本から書き換えるものとなる可能性もある。

SOFAスコアのAI自動抽出が臨床医の決断を助ける – AMI社「EMscribe」

「SOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment)」は臓器の障害を6項目にわたり0-4点の5段階で評価するもので、集中治療室などにおける患者の重症度の指標となっている。重症感染症・敗血症で用いられることが多く、スコアの上昇が死亡率とも相関し、集中治療を担う医療者にとっては馴染み深い。現場で頻用されるため、各項目を手動入力してSOFAスコアを算出する簡易なアプリはよく目にする。最近ではCOVID-19の重症例でスコアの有効性が注目されていた。 米ニュージャージー州拠点のAIソフトウェア企業Artificial Medical Intelligence(AMI)の6日付プレスリリースでは、同社のアプリケーション「EMscribe」において、電子カルテの文章記録からリアルタイムでSOFAスコアを自動生成する機能が発表された。EMscribeは自然言語処理とAI技術によって、カルテからのパラメータとコード抽出を行ってきたソフトウェアである。 AMI社のCEOであるAndrew B. Covit氏によると「COVID-19パンデミックのなか、すべての重症患者のSOFAスコアをバックグラウンドかつリアルタイムに集計することで、患者の治療優先度を決定する臨床医の倫理的負担を軽減し、臨床パフォーマンスを向上できます。EMscribeの新機能は、難しい決断を下す臨床医を助ける自動化ツールです」と語っている。

呼気でCOVID-19感染検出とワクチン効果のモニタリング

COVID-19を呼気で検出する試みは以前にも紹介した(過去記事)。日本国内でも東北大学と島津製作所の共同研究で同様の検査法が開発されている。イスラエルのNextGen Biomed社とScentech Medical社は、呼気からのCOVID-19検出システムによってワクチン接種者の抗体の種類と抗体価をモニタリングする臨床研究の開始を発表した。 PR Newswire掲載の1月4日付プレスリリースによると、Scentech Medicalの技術は呼気中の揮発性有機化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)からCOVID-19の感染者・活動性の患者・無症候性キャリアといったグループの違いを検出できる。そこからさらにワクチン接種者に発現した抗体の種類(IgMおよびIgG)や抗体価が検出可能であり、「ワクチンの有効性および持続期間のモニタリング」という今後必須の課題に取り組むため、臨床試験の承認を受け開始している。Pfizer-BioNTechのワクチンをはじめとし、市販されるすべてのワクチンを対象とした免疫モニタリング手法の確立を目指すという。 呼気からの疾患モニタリングは、非侵襲的でリアルタイムの検出を可能とし、かつ低コストも追求できるとして注目されている。Scentech Medical社では、同社の機器で収集したデータから感染拡大の監視や変異種ウイルスを検出するAI解析システムにも取り組んでおり、ローカルからグローバルまで技術の展開を狙っている。

Hyro – バーチャルアシスタントによる「COVID-19ワクチンに関する問い合わせ対応」

米国におけるCOVID-19のワクチン承認以降、医療機関への電話問い合わせは500%を超えるなど、患者サポート業務にも多大な負荷を生じている。ヘルスケアAIスタートアップであるHyroは、COVID-19ワクチンに関わる問い合わせ対応のバーチャルアシスタントを開発し、米国内医療機関への配置を進めている。 Hyroのプレスリリースによると、同社の会話型AIソリューションは、COVID-19ワクチン接種の適格性や副作用リスク、種々の懸念事項に応答できるほか、予約の自動化も実現しているという。医療機関への問い合わせ急増は絶対的な人的リソース不足を生み、電話窓口においては長い保留時間が市民のフラストレーションを高めている。結果として、必要なワクチン接種が回避される事象も確認されており、事態の改善は急務であったとのこと。 Hyroのバーチャルアシスタントはタイムリーな問い合わせ対応を可能とすることで、必要な情報が得られない患者数をこれまでの65%削減できることを謳っている。感染症拡大防止の観点からは速やかな集団免疫の獲得が望まれており、ワクチン接種の推進を助ける鍵となるか、大きな注目を集めている。

骨折特性と患者背景から術後の感染症リスクを推定する機械学習アルゴリズム

整形外科的手術後の創部感染は、抗生剤治療や再手術に伴う入院期間延長をきたし、時に患者予後にも大きな影響を与える。The Journal of Bone & Joint Surgeryに収載された新しい研究論文では、入院時の骨折特性や患者背景から「脛骨骨折患者の感染リスクを推定する機械学習アルゴリズム」を報告している。 先週オンライン公開された本研究論文によると、1,822名の脛骨骨折患者データからアルゴリズムを導いたという。解析対象群のうち9%にあたる170名は治療を必要とする感染症を発症し、62名は抗生剤治療単独、残りの108名は再手術を伴う抗生剤治療を受けた。ランダムフォレストの変数重要度に基づく変数選択では、感染症発症への予測変数としてGustilo-Anderson分類やTscherne分類、骨量減少、損傷メカニズム、多発外傷、骨折部位、年齢などが特定された。正則化ロジスティック回帰モデルのトレーニングによって、AUC 0.75程度の発症予測精度を得ている。 入院時評価項目から術後の感染症リスクを推定できる本手法では、治療選択の個別最適化のほか、必要となる医療リソースの事前予測と配分の適正化にも貢献し得るため、医療の質的向上と効率化の両面に資することが期待される。

オハイオ州立大学 – 既存薬に新しい利用用途を見出す深層学習フレームワーク

米国においてボトックス注射は斜視治療の目的に開発されたが、現在は偏頭痛治療のほか、しわ取りなどの美容目的にも活用されている。既存薬の他目的利用は「ドラッグ・リポジショニング」と呼ばれ、特にCOVID-19の拡大下において大きな注目を集めた。ただし、通常は多大な時間と費用を要するランダム化比較試験に加えて、一定の偶然性を要し、ドラッグ・リポジショニングへの道筋は必ずしも平坦ではなかった。 米オハイオ州立大学の研究チームが4日、Nature Machine Intelligence誌から公表した研究論文によると、電子診療録や保険請求記録など無数の実世界データを遡及的に分析することにより、転用可能な候補薬剤を示すことができる深層学習フレームワークを開発したという。また、同時に保険請求データベースを主軸としてランダム化比較試験をエミュレートすることにより、因果推論に基づく薬剤効果のテストまでを行うこともできる。当初、循環器領域の1薬剤を対象としたドラッグ・リポジショニングのための手法として構築したが、フレームワークの柔軟さのために、他領域他薬剤への利用拡大にも制限がないとする。 これらの実世界データは種々の診断名や処方記録、改善・増悪、追加検査やその結果など多岐に渡る医療記録を縦断的な観察データとして取り扱うことができるため、仮想的な検証モデルでありながら頑健な成果を導くことが期待される。研究チームは、個別検証に基づく手作業では処理不能な規模の交絡因子群を適切に処理できる点にも言及し、AIアプローチの有効性を強調している。

中国の医療ポータルサイト「DXY」- Tencentらから5億ドルの資金調達

「DXY」は中国における医療従事者向けSNSプラットフォームを2000年に開始し、近年では一般消費者向けの医療ポータルサイトとしても成長している。中国人の健康に対する意識の高まりとともにオンラインの医療産業は発展を加速し、プレイヤーの乱立で群雄割拠の状態にあるが、DXYは度重なる豊富な資金調達で頭角を現してきた。 PR Newswireで報じられたDXYのプレスリリースによると、同社は12月28日付で上海拠点のPEファンドTrustbridge Partners主導のもと、Tencent社らから5億ドルの追加資金調達を完了したことを発表している。資金は主に医師を対象としたサービスブランド「DXY.cn」と一般向けサービス「DXY Doctor」の二本柱の事業強化に充てられるという。 COVID-19パンデミック下でDXYのようなオンライン医療プラットフォームが強い成長をみせているのは、日本と同じ様相である。同社をみても中国企業で論点となりがちな個人情報保護に関する取り組みの不透明さは意識せざるを得ない。しかしそのようななかでもDXYのプラットフォームは、COVID-19の世界的データを一般向けにリアルタイムでレポートする機能を率先して導入し、科学知識の普及・風評に対する反論記事・オンライン無料相談会・公開講座など、公共福祉性の高いサービスを提供してきた。そのような新型コロナウイルスとの戦いへの貢献を同社はリリース内であらためて強調している。

口腔がんリスク予測のためのAI利用

口腔がんの予後改善には早期診断と早期治療が欠かせない。サウジアラビア有数の国立大学であるJazan Universityの研究チームは、危険因子や症状、臨床病理所見などから口腔がん発症のリスク予測を行う人工ニューラルネットワーク(ANN)モデルの開発に取り組んでいる。 チームが4日、Journal of Oral Pathology & Medicineに公表した研究論文によると、平均年齢63歳、73名からなるデータセットに基づいてANNの構築を行った成果を明らかにしている。ANNの感度と特異度はそれぞれ85.71%、60.00%を示し、全体の予測精度は78.95%となった。 あくまで予備的研究の域を出ないスモールスタディだが、本研究成果は「口腔がんスクリーニングと診断への機械学習手法の有用性」を示唆するものとして、研究チームは歯科口腔領域における一定の貢献を強調する。歯科診療所など、日常診療でのリスク予測と、同定されたハイリスク者への早期介入を可能とするシステム実現が期待されている。

AI研究がマラリア対策の時計の針を進めるか – インド工科大学ボンベイ校

マラリア原虫が蚊によって媒介される感染症「マラリア」は、近年、世界で年間の症例数2億人以上、年間の死亡者は40万人以上を記録し続けていた。その原因・予防・治療が確立されてきた現代でも、いまだ致死的な感染症として広大な影響力を維持し、世界的な対策の進展は止まっていた。なかでもインドは総人口の85%がマラリア危険地帯(いわゆるマラリア・ベルト)に居住しており、世界最大のマラリア好発国として疾患が人々に与える負荷は極めて強い。 インド工科大学(IIT)ボンベイ校のリリースによると、同校の研究グループによる新研究が「マラリア患者の血中タンパク質を機械学習モデルで解析し、マラリア原虫の種の識別・デング熱との鑑別・バイオマーカーによる重症度分類の可能性」を示したという。同研究はNatureの姉妹学術誌Communications Biologyに収載された。マラリアの原因として筆頭に挙がる2種の原虫(Plasmodium vivaxおよびPlasmodium falciparum)の鑑別や、未確立である予後予測のバイオマーカー探究で、マラリア好発地域における医療の質の向上が期待される。 研究成果で得られたタンパク質の同定結果から、マラリア重症症例を検出し、デング熱と鑑別する迅速診断キットの開発が着手されている。血液標本の顕微鏡観察からマラリア原虫を確認する古典的な診断法は流行期における医療の負担が大きく、従来の迅速診断キットでは感度や特異度が課題とされていた。AIによる手法が、近年足踏みし続けていたマラリア対策進展の鍵となるだろうか。

外傷性脳損傷後のPTSD発症を予測する脳バイオマーカー

Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimagingに掲載された研究論文によると、外傷性脳損傷後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)発症リスクを高める「脳バイオマーカー」を特定した。 カリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームは、400名以上の外傷性脳損傷患者を追跡し、受傷後3ヶ月と6ヶ月でフォローアップの評価を加えたという。3ヶ月時点では77名、6ヶ月時点ではさらに70名の患者にPTSDを認めており、初期のMRI画像からPTSD発症リスクと関連する因子を探索した。結果、帯状皮質や上前頭皮質、島の各領域に体積の縮小を認めることが、その後のPTSD発症を有意に予想していることを明らかにした。 脳容積を外傷性脳損傷後のPTSD発症におけるバイオマーカーとして取り扱うのは新しい視点であるが、現時点では臨床ガイドラインを変更するほどにロバストな研究成果ではない。一方、昨年10月にはボストン大学の研究チームが機械学習アプローチを用い、PTSD診断に利用される20個の質問項目のうち6項目を削除することに成功しており(参照論文)、本研究成果もPTSD診断強化を目指したこの取り組みに統合されることが予定されている。

浮遊粒子状物質と腎機能の関連 – 中国250万人の分析結果より

浮遊粒子状物質(SPM)は粒径10μm以下の粒子の総称であり、代表的な大気汚染物質のひとつとして取り扱われている。SPMによる健康被害が特に強く危惧される中国において、「SPMと腎機能の関連」を250万人の若年成人を対象に調査した研究成果がこのほど明らかにされた。 Environment International誌から先週オンライン公開された研究論文によると、北京大学の研究チームは中国の全国出生コホートを利用し、慢性疾患を持たない18-45歳までの約250万人のデータを用いて調査を行ったという。腎機能の指標にはeGFRを設定し、SPMへの年間曝露量については衛星リモートセンシング情報からの機械学習モデルによる推定を行った。eGFRとSPMの関連を一般化加法混合モデルによって評価したところ、種々の交絡因子を調整した後においても、SPMへの曝露増加が若年成人における腎機能低下と関連することを明らかにした。 本研究成果ではまた、男性と比して女性の方がこの関連性が強固であることも示唆しており、交互作用項は統計学的にも有意であった。研究結果は早急な政策的介入の必要性を支持するものであるとともに、本研究手法は他人種における評価へと容易に拡張できるものであることから、あらゆる国・地域での追試も進められることを期待したい。

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