医療とAIのニュース 2023
年間アーカイブ 2023
ChatGPTが「肝硬変・肝細胞がん患者のヘルスリテラシー」を向上させるか?
ChatGPTに代表される大規模言語モデルは、診療レポート作成の省力化や、医学系の試験問題に高い正答率を示すなど、医療とAIとの関係性を変革しつつある。米シダーズ=サイナイの研究チームは「ChatGPTの回答性能が肝硬変・肝細胞がん患者のヘルスリテラシーを高める可能性」について研究している。
Clinical and Molecular Hepatologyに発表された同研究では、ChatGPTに対して肝硬変・肝細胞がんに関する5つのカテゴリー(基礎知識・診断・治療・生活習慣・予防医学)について164の典型的な質問を提示し、その回答内容を2人の肝移植専門医が採点した。その結果、ChatGPTは質問の約77%(肝硬変79.1%・肝細胞がん74.0%)に正解し、91の質問に高精度な回答を示していた。特に基礎知識・治療・生活習慣のカテゴリーについては、回答の75%以上が「Comprehensive(包括的)」「Correct but inadequate(正しいが不十分)」と評価され、ChatGPTが比較的得意とする回答領域が明らかにされている。
一方で、ChatGPTは肝細胞がんのスクリーニング基準や、地域ごとのガイドラインの差異のように、質問者の居住地域に応じたテーラーメイド型のアドバイスでは苦戦する傾向にあると、その限界についても考察されている。研究チームでは、肝硬変・肝細胞がん患者の満たされないニーズに対して、ChatGPTが共感的で実用的なアドバイスを提供するような将来性に期待している。
参照論文:
Assessing the performance of ChatGPT in answering questions regarding cirrhosis and hepatocellular carcinoma
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微生物学問題に対するChatGPTの回答能力
ChatGPTは感染症治療の意思決定を支援できるか?
医療AI研究に欠ける「著者の多様性」
「ヘルスケアにおけるAIツールの公平性」に関する論文群の調査により、この種の研究において「著者の多様性」が欠如している可能性が明らかとなった。研究論文はmedRxivからこのほど公開されている。
研究では、1991年から2022年の間に296誌に掲載された、ヘルスケアにおけるAIの公平性に関する375の研究・総説を分析した。1,984人の著者のうち、64%が白人であったのに対し、27%がアジア人、5%が黒人、4%がヒスパニックと、その人種的背景には大きな偏りがみられた。また、著者の60%が男性、40%が女性であり、研究を主導する上級職であることが多い「ラストオーサー」で特に男女差が大きくなっていることも明らかとなっている。
研究の共著者であり、米マサチューセッツ工科大学の医療情報学者であるLeo Anthony Celi氏は「これらの結果は、研究コミュニティ全般で起こっていることを反映している」と述べ、チームは、研究者や研究機関、資金提供機関がこの重要な側面に注意を払う必要があることを強調している。
参照論文:
Who does the fairness in health AI community represent?
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AI生成ニュースが語る「ジャーナリストが語らないこと」
画像解析AIが内包する過小診断バイアス
食事追跡AIで「高齢者施設の食事性炎症リスク」を解析
高齢者の長期療養型施設(LTC)の栄養失調改善に取り組む、カナダ・ウォータールー大学の研究チームが開発した「食事摂取量の自動追跡AIツール」を以前に紹介した(過去記事参照)。同プロジェクトでは、カナダ保健省が作成した2019年版食品ガイドに基づき、「LTCでの食事における炎症リスク」を分析している。
BMC Public Healthに発表された同研究では、食事追跡AIツールを用い、カナダ4州・32ヶ所のLTCで入居者計634名の食事と水分の摂取を3日間追跡した。炎症誘発性の食事は、「DII: Dietary Inflammatory Index(食事性炎症指数)」で評価されるが、これまで、糖尿病や心血管疾患、関節炎、認知症などの慢性疾患に影響することが先行研究で示されてきた。AIツールによる解析の結果、LTCにおける食事でガイドラインを満たしつつ、食事性炎症リスクを低減するには、「精白穀物から全粒穀物への変更、植物性タンパク質摂取量の増加、果物と野菜のプレーンでの提供」が必要であることが示された。
研究チームでは、1.高齢者の飲食は生活の質に影響するため楽しいものでなければならない、2.LTC入居者は栄養失調のリスクが高く十分なカロリーを確保するだけでも大変である、とLTCの食事変更の課題を挙げている。著者のAlexander Wong氏は「自動化されたAI手法で大規模な分類を行うことで、現在のLTCにおける食事性炎症リスクに、深く包括的な洞察を得られた」と語っている。
参照論文:
Characterizing Canadian long-term care home consumed foods and their inflammatory potential: a secondary analysis
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「医師・患者間の食事カウンセリング」を支援するAI
「匂いや味への反応」から自閉スペクトラム症を識別
NUSの新センター – 「AIによる眼検診」の展開
シンガポール国立大学ヨンローリン医学部はこのほど、地域密着密着型の先端眼科医療を推進する新センターを設立した。「Centre for Innovation and Precision Eye Health」と呼ばれる新しいセンターは、AIと集団データを活用し、シンガポールで急速に進行する高齢化に対応しようとするもの。
シンガポールは2022年時点で、65歳以上高齢者が人口の18%だが、2012年の11%から急速に増加しており、今後10年間で、高齢者が人口の4分の1を占めるようになることが見込まれる。このような現実を踏まえ、眼疾患を含む慢性疾患の罹患率上昇に対して、地域レベルでの有効な予防医療の展開に国策として力を入れている。現在、シンガポール国内で眼疾患の早期発見が可能なのは高機能な専門機関に限られており、この背景には診断用眼科機器が高価で、廉価で有効なスクリーニング機器と手段が普及していないことも一因となる。
同大の医学部長であるChong Yap Seng教授は、「このセンターは、シンガポールにおける現行のヘルスケアエコシステムを、予防医療を優先するエコシステムに変革するのに役立つ『トランスレーショナルリサーチワーク』の一例だ。特に、シンガポールの人口が急速に高齢化し、より多くの人々が慢性疾患リスクを抱えている中で、眼疾患の早期発見と特定によってこれを実現したい」と語る。エビデンスに基づくイノベーション、AIを駆使したデジタルインフラ、拡張性のあるコミュニティベースのケアモデル活用を通じ、このセンターは、高齢社会における眼科医療の需要拡大に対応しようとしている。
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レプトスピラ症による死亡を予測
「レプトスピラ症」は汚水や尿中に生息する細菌であるレプトスピラが、経皮・経口的に感染して引き起こす人獣共通感染症である。世界で年間約100万人以上の新規発症と約6万人の死亡があるが、他の熱帯熱性疾患との誤診も多く、WHOはレプトスピラ症の発生率と死亡率が過小評価されていることに警戒を強めている。救命治療を早期に開始すべき高リスク患者を特定するため、ブラジルのウニヴェルシターリオ・ヴァウテル・カンチージオ病院の研究者らは「レプトスピラ症による死亡を予測する機械学習ベースの簡易スコア」を開発した。
Scientific Reportsに発表された同研究では、295名のレプトスピラ症患者の入院データから死亡を予測する機械学習モデル(XGBoostおよびLasso回帰)を構築した。さらに、解析プロセスから導かれた予測力が高く、かつ臨床的に用いやすい変数をもとに、簡易スコアリングシステム「QuickLepto」を開発している。QuickLeptoは5つの項目(年齢・嗜眠症状・呼吸器症状・血圧・ヘマトクリット)から算出される簡易スコアで、死亡の予測においてAUC 0.788という良好な精度を達成している。
多数の変数と機械学習モデルから直接導かれるリスクスコアは予測精度が高いものの、その利用過程は複雑で特定の計算機を必要とするケースもある。そのため、研究者らは変数を絞り込むことで、臨床現場の医師にとって使用しやすい簡易スコアリングシステムへと変換した。研究チームは次のステップとして、医療資源が限られた疾病負荷の大きい環境において、簡易スコアの有用性を実証することを目指している。
参照論文:
Development and validation of a simple machine learning tool to predict mortality in leptospirosis
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Kore.ai – 会話型AIアシスタントで提携拡大
米フロリダ州オーランドに本拠を置くKore.aiは、同社の会話型AI技術をMediktorのバーチャルヘルスケアプラットフォームに追加したことを明らかにした。両社は会話型AIを備えた医療アシスタント技術に基づくデジタルトリアージを加速させる。
Mediktorの医療アシスタントは、デジタルトリアージを「事前診断レベル」で実施できることを特徴とするが、今回の提携によって医療機関は「会話型・多言語・オムニチャネルのヘルスケアアセスメント」を利用することができるようになるという。Kore.aiが提供する技術は、HIPAA準拠の会話型AIソリューションである「HealthAssist」で、自然言語処理と機械学習技術によって、患者は自身の症状を自分の言葉で説明することで正確に情報を伝えることができる。
Mediktorのニューヨーク本社でマネージングディレクターを務めるVicenç Ferrer氏は、「Kore.aiの最先端会話型AIとMediktorの医療NLPおよびケアナビゲーション機能の組み合わせにより、医療業界の主要なプレーヤーは、患者の非構造化医療テキストから貴重な情報と意味のある洞察を抽出することが可能になる」と述べた。
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BioBeat – ウェアラブルデバイスによる健康状態悪化の早期警告
イスラエル発の医療AIスタートアップ「Biobeat」(過去記事参照)は、ウェアラブルデバイスによる非侵襲的患者モニタリングシステムを提供している。患者の状態悪化を早期に警告するツールとして、同社はスコアリングシステム「MPRT-WS(マルチパラメーターリアルタイム警告スコア)」を開発した。
Frontiers in Physiologyに掲載された同システムの研究成果によると、MPRT-WSは、胸部に装着する使い捨てパッチ(光電式センサー)から、血圧・心拍数・呼吸数・酸素飽和度・体温・心拍出量・血管抵抗など9つのバイタルサインを最大72時間に渡って収集し、健康状態の悪化リスクを「Low」「Medium」「High」「Urgent」の4段階に分けてフラグを立てる。リスク予測の性能は、従来の標準的な早期警告スコア「NEWS: National Early Warning Score」と比較された。521名の参加者で検証した結果、実際に状態が悪化した39名のうち30名に対して、MPRT-WSは「High」または「Urgent」のフラグを平均42.7時間前に通知できた。一方、NEWSで「High」スコアに分類されていたのは39名中6名とごく一部に留まっていた。
共同研究者のDean Nachman医師によると「NEWSのような従来の早期警告スコアは、通常1日に1〜2回しか収集されない頻度の低い測定データに依存しており、スタッフはバイタルサインを得るため複数の測定を行う必要がある。ウェアラブルデバイスをベースにした新しい早期警告アルゴリズムには大きな臨床的有用性がある」と語った。
参照論文:
Developing a real-time detection tool and an early warning score using a continuous wearable multi-parameter monitor
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Biobeat...
白血病治療薬の合併症予測AI
急性リンパ芽球性白血病(ALL)は、「最も頻度の高い小児がん」として知られている。米フロリダ大学の研究チームは、ALLの主要な治療薬について遺伝学的アプローチによる調査を行い、重大な合併症の発現を予測するAIモデルを構築した。
JCO Precision Oncologyから23日公開された研究論文によると、フロリダ大学の学術医療センターであるUF Healthで治療を受けた75人のALL患者について、化学療法の毒性データとDNAサンプルから評価を行った。研究チームは、がんの寛解にとって特に重要な期間となる「治療開始後100日以内」にみられた副作用について検討したところ、毒性に強く影響を与える3つの遺伝子変異を特定し、これらとその他の遺伝子変異を組み合わせた機械学習モデルがALL治療における強力な毒性予測を達成したとしている。
研究チームは成果に基づくスコアリングツールを導出しており、特定の化学療法実施前にそのリスクを臨床医が把握するための貴重な情報となる可能性を強調している。これにより、ハイリスク患者への重点的なフォローや薬剤投与量の調節、合併症発現を防ぐための支持療法強化などを行うことができるようになる。
参照論文:
Polygenic Pharmacogenomic Markers as Predictors of Toxicity Phenotypes in the Treatment of Acute Lymphoblastic Leukemia: A Single-Center Study
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抗コリン薬の副作用リスクを評価するAIツール
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ヘパリン治療の安全性を向上させるAIツール
血液の凝固を防ぐ薬剤「ヘパリン」は、冠動脈疾患や血栓症の治療に広く用いられる。一方で治療有効性が低く、塞栓イベントの再発につながる過小投与や、出血リスクを高める過剰投与とならないよう、活性化トロンボプラスチン時間(aPTT)を血液検査でモニタリングする。しかし、薬剤代謝の個人差と検査そのものの不正確さにより、最適なヘパリン投与量の予測は容易ではなく、先行研究ではaPTTの有効域到達に中央値で約36時間もの時間を要していた。豪プリンセスアレクサンドラ病院の研究チームは、「ヘパリンの治療効果を予測するAIツール」を開発し、ヘパリン治療の安全性向上に取り組んでいる。
Interactive Journal of Medical Researchに発表された同研究では、クイーンズランド州の5病院から電子カルテデータを収集し、体重・生化学検査値・血球数・病歴・年齢・性別など多数の因子から「ヘパリン静脈注射開始後12時間以内のaPTT値を予測する」機械学習アルゴリズムを開発した。このモデルは特に、治療域を下回る場合の予測が正確であるという強みを持ち、過小投与を防止する上で重要な役割を果たすと考察されている。
著者のStephen Canaris氏は「本研究では機械学習アプローチによって、個々の患者がヘパリン投与にどのように反応するか、影響力を持つ約93の変数と、その中から特に予測力の高い上位10項目、それに続く20-30項目を特定することができた。機械学習は、臨床医が直感的には知り得なかった多くの予測因子を開発プロセスの中で明らかにすることができる」と語った。
参照論文:
Predicting Therapeutic Response to Unfractionated Heparin Therapy: Machine Learning Approach
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Curate.AI -「抗がん剤投与量の減量と治療効果の最適化」を目指すAIツール
Free O2 – COPD患者への自動化酸素療法
Vital – 患者のケア参加を促すAIプラットフォーム
米デラウェア州クレイモントに拠点を置くVital社は、患者体験を改善するAIプラットフォームを提供する。同社は先週、同システムの成長を支援するため、シリーズBとして2470万ドル(約32.2億円)の資金調達を行ったことを明らかにした。
Vitalは、患者のケア参加を容易にする医療機関向けソフトウェアで、AIと自然言語処理を用いて、救急部や一般病棟に入院中の患者を支援・教育することができる。患者は、退院に向けた進捗状況の把握、サービスや物品のリクエスト、目標の設定、検査項目の表示、家族との健康状態の共有などをスムーズに行うことができる。同ソリューションはユーザーの「使いやすさ」に焦点を当てた設計となっており、スマートフォンからアクセスでき、アプリダウンロードやパスワードは不要であることも特徴となる。Vitalは患者満足度を向上させ、患者をネットワーク内にとどめ、医療システムに追加的な収益をもたらすことも検証から明らかにしている。
Vitalは昨年、Allina Health、CommonSpirit Health、Emory Healthcareの施設を含む40以上の新しい病院クライアントと提携し、ソフトウェアソリューションの対象患者を拡大してきた。検査結果ツールなどの新機能を加えるとともに、テクノロジーと医療における業界のベテランをチームに加え、大きな成長を遂げた。同社は2023年、100万人以上の患者を取り扱い、10万件の臨床業務をサポートすることを見込んでいる。
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ウガンダの抗結核薬内服監視に取り組むAI
世界保健機関(WHO)は「2030年までの結核撲滅」を目標として、結核治療薬を正しく内服する様子を医療者が直接確認する「DOTS: Directly Observed Treatment Short-course」を推奨しており、動画による観察「VDOT」も代替手段と位置づける。低資源国のウガンダは、新規結核患者が年間45,000人程度発生する蔓延国だが、DOTSに関する人材不足も課題となる。米ジョージア大学の研究チームは「結核患者の服薬動画を解析するAI」をウガンダに導入し、結核治療の質の向上に取り組む。
Journal of Medical Internet Research AIに発表された同研究では、ウガンダで収集された約500本の服薬動画から、患者の内服を認識する深層学習モデルを開発した。テストした4種のモデルのうちパフォーマンスの最も高いモデルでは、内服の識別においてAUC 0.85を達成し、人が同じタスクを行うのと同等の精度でありながら、動画の特徴量生成に要する時間はビデオ1本当たり0.54秒と遥かに高速であった。
著者のJuliet Sekandi氏は、自撮りの世界的流行を活用し、2018年に「DOT Selfie」という抗結核薬の内服動画を投稿するプロジェクトを立ち上げ成功を収めた。同氏は「人の内服を見続けるのは退屈で単調だ。結核対策にモニタリングがどれだけ重要でも、人手不足のクリニックでは、動画を見ることはto-doリストの最下位に落ちる。全ての不足がAIで解決されるとは言わないが、AIに引き渡せる雑務を特定するのが目下の課題だ」と語った。
参照論文:
Application of Artificial Intelligence to the Monitoring of Medication Adherence for Tuberculosis...
ミリ波レーダーと深層学習による「非接触での活動モニタリング」
カナダ・オンタリオ州に所在するウォータールー大学の研究チームは、家庭内環境における歩行やその他の身体活動を非接触によってモニタリングするため、ミリ波レーダーと深層学習を活用したクラウドベースシステムを開発した。研究成果はIEEE Internet of Things Journalから公開されている。
ミリ波レーダーは、1mmから10mmの波長と30GHzから300GHzの周波数を持つ電磁波で、光に近い性質と強力な直進性を特徴とする。レーダーやイメージング、通信、電波天文などでの活用が進んでいる。研究チームはこのミリ波レーダーに基づき、実際の家庭内活動のデータセットから生成したレンジドップラーマップを用いて、複数の深層学習モデルの学習を行った。被験者の家庭内身体活動を分類するゲート付きリカレントニューラルネットワーク(GRU)は、総合精度86%を達成し、本システムが様々な活動や歩行時間を認識・区別するだけでなく、被験者の経時的な活動レベル、洗面所の使用頻度、睡眠/安静/活動/外出の時間、現在のステータス、歩行パラメータなどもそれぞれ有効に記録できることを明らかにしている。
このシステムは、極めて低消費電力のレーダー技術を採用しているため、天井や壁に簡単に取り付けることができ、ウェアラブルモニタリングデバイスのような不快感や頻繁なバッテリー充電が不要となる。また、カメラデバイスなど強いプライバシーの懸念を生むものではないため、転倒リスクの高い高齢者などに対して、24時間365日のモニタリングと医療者への緊急アラートを実現できる可能性が期待されている。
参照論文:
AI-Powered Non-Contact In-Home Gait Monitoring and Activity Recognition System Based on mm-Wave FMCW Radar and Cloud Computing
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Nature論文 –...
矯正歯科の意思決定支援AIツール
矯正歯科治療において抜歯は不可逆的な治療であり、最も重大で論争の的となる決定の1つである。一方、矯正歯科治療におけるこの種の判断は、「歯科医の経験に依存するところが大きい」という現実もある。米コネチカット大学の研究チームは、歯科医の意思決定を支援するAIモデルを開発している。
コネチカット大学の矯正歯科准教授であるMadhur Upadhyay氏らによって申請された特許によると、医学文献と専門家判断のネットワークを利用し、機械学習手法によって構築されたアルゴリズムは、矯正歯科医の評価に賛成か反対かを示し、もし否定的な結果であれば診断の不一致に至った原因を特定するため、歯科医に再考を促すというもの。
Upadhyay氏は「2人の矯正歯科医がいた場合、程度の差こそあれ、診断する患者の50%の部分は意見が一致しないだろう。皆が同じ文献を読んでいても、異なる解釈をしている。AIは文献の解釈を同化し、より正確な手法で解釈する作業を非常にうまくこなすことができる」と語った。
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今月のGoogle – ヘルスケアにおける3つの新しい取り組み
デジタルヘルスアプリ開発者向けのオープンソースツールの立ち上げから、低コストでのケアオプションを特定する新しい検索機能の構築まで、Googleはヘルスケア領域での活動を活性化させている。Googleが今月公開したヘルスケア関連の取り組みを3つ紹介する。
1. Googleは、健康に関する質問により正確に答えるため、医療用大規模言語モデルの更新版を発表した(過去記事)。「Med-PaLM 2」と名付けられた新しいモデルは、医学的な質問に答える際の精度が85%で、初期バージョンであるMed-PaLMが2022年にリリースされて以来、18%の精度向上があったことを明らかにしている。
2. Google Healthは、開発者がデジタルヘルスアプリを構築することを支援するオープンソースツールのソフトウェアスイートを立ち上げる。「Open Health Stack」と名付けられたこのスイートは、デジタルヘルスアプリケーションを作成するための「ビルディングブロック」を開発者に提供する。
3. Google Healthは、検索機能で米国の地域医療センターを特定し、「どの施設に無料または低料金の医療オプションがあるか」という情報を消費者に提供することを発表した。Googleによると、この施設は検索ページで「offers free or low-cost care based on individual circumstances(個々の状況に応じて無料または低料金のケアを提供しています)」というラベルで示されるようになるという。
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Care...
DNP – 「AI支援胸部がん検診読影システム」の運用を開始
大日本印刷株式会社(DNP)と、放射線科専門医による読影サービスを提供する株式会社イリモトメディカルは、肺がんの可能性がある結節影候補域を検出する「AI支援胸部がん検診読影システム」の運用を2023年3月に開始することを22日明らかにした。
DNPの公表によるとAIを活用したこのシステムには、エルピクセル株式会社が開発した「EIRL Chest Nodule」を搭載しており、AIとのダブルチェック体制によって読影医の負担を軽減し、画像診断の質的向上と効率化を実現することができるとする。近年、健康診断で活用される胸部X線画像等のデータを健診機関から放射線科専門医がいる施設へ送信し、読影を行う「遠隔読影」のニーズが拡大している。これに対して、AIを活用した読影業務支援の実現に期待が高まっていたことが背景にある。
DNPは「印刷と情報」に関する独自の強みを活かし、ヘルスケア領域における新規事業開発に注力している。脳や眼球のMR画像等を利用した疾患の原因究明、および早期発見に結び付く画像解析技術などを開発するほか、各種診断支援サービスを提供している。
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エルピクセル – EIRL Chest Screeningの新モデルを発売
抗結核薬の副作用をAIで予測
抗結核薬には肝障害の副作用がよく知られており、治療中の結核患者には肝機能検査によるモニタリングが必要となる。台湾・奇美医療センターの研究者らは「結核治療による副作用と予後を予測するAI研究」を発表している。
Diagnosticsに掲載された同研究では、台湾の3病院における結核患者2,248名の一般臨床検査データなどから36種の変数を用い、急性肝炎・急性呼吸不全・死亡率を予測するAIモデルを構築した。6種のアルゴリズムを検証した結果、急性肝炎の予測ではXGBoostが最も高いAUC値(0.92)を達成しており、感度は0.77、特異度0.92であった。また、急性呼吸不全の予測ではランダムフォレストがAUC 0.834、死亡率の予測では多層パーセプトロン(MLP)がAUC 0.834を示している。
早期の肝障害は無症状の場合も多く、できるだけ早期に薬剤性の肝障害を発見することは、患者の予後改善に重要な役割を果たす。研究グループでは「AI支援によって医師が肝炎のリスクを認識し、重大な副作用が発生する前に、より頻繁かつ集中的に肝機能をモニタリングできるようになる」と本研究の意義を論じている。
参照論文:
Using an Artificial Intelligence Approach to Predict the Adverse Effects and Prognosis of Tuberculosis
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小児結核の診断プロセスを変革するAI技術
結核治療薬の服薬動画を監視するAI
NuanceとMicrosoft – 臨床文書自動作成AIツールを公表
Microsoftの子会社であるNuance Communicationsは20日、完全自動の臨床文書作成アプリケーション「Dragon Ambient eXperience(DAX™) Express」を発表し、同社の高度な会話型AIにOpenAIのGPT-4を初めて組み合わせ、次世代型臨床フローを提案している。
Nuanceの公表によるとDAX Expressは、現在数百の医療システムに導入されているDAXの資産を活かした同社のAI技術提供における次のステップとなる。会話型、アンビエント型、生成型のAIを独自に組み合わせたDAX Expressは、診察室やテレヘルスにおける患者との会話を通じて、各患者の診察後すぐに確認できる臨床ノートを自動的かつ安全に作成することができる。臨床医は、Dragon Medical One、DAX、DAX Expressのシームレスな機能により、診察前から診察後まで電子カルテに緊密に統合され、実務負担を軽減し、医療の実践に集中することができるという。
CEOのMark Benjamin氏は「我々はGPT-4の高度な推論能力を、実績あるAI技術に統合した」と述べ、「先端技術のブレンドがケアデリバリーエコシステムの進歩を加速させ、ケアの質を改善することができる」としている。
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医師の「パジャマタイム」を減らすAIアプリ
AMIA 25×5 – 2025年までに「医師の文書作成負担」を75%軽減へ
ワクチン接種事業におけるAIチャットボットの有効性
COVID-19のワクチン接種事業では、日常診療業務と並行して、市民からの多数の問い合わせに対応が求められた。医療機関の人的資源には限界があり、費用対効果の高い窓口としてAIチャットボットの有効性が期待されている。米コロラド公衆衛生大学院の研究チームは、感染症とワクチンの正確な情報を伝えるAIチャットボットシステムの概念実証を行った。
Digital Healthに掲載された同研究では、2021年4月〜2022年3月の調査期間に、コロラド州5つの医療機関との提携で2,479名のユーザーが参加し、SMSメッセージまたはウェブサイト上でチャットボットを通じたCOVID-19関連のメッセージ交換が行われた。システムに対して最も多かった問い合わせは、ブースター接種とワクチン接種会場に関するものであった。ユーザーの意図とチャットボットの回答との適合精度はシステム立ち上げ直後で54.0%であったが、システムの定期的な見直しにより、調査期間終了時点では91.1%という高いものとなっていた。また、回答までの平均応答時間は0.199秒と非常に迅速な結果を示している。
検証が行われた2022年4月時点で、米国では98.4万人の累計死者数を記録していたが、市民の間でワクチンには強い躊躇と抵抗感が認められ、接種率は対象者の69.9%に留まっていた。本研究から、チャットボットシステムがワクチン情報へのアクセス改善に役立つ実現可能性の高いツールであるとチームでは結論付け、ワクチン接種率向上に対する有効性のさらなる検証実施を予定している。
参照論文:
An artificially intelligent, natural language processing chatbot designed to promote COVID-19 vaccination: A proof-of-concept pilot study
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Aaron.ai – 電話対応を自動化するデジタル診療アシスタント
WhatsAppのAIチャットボットによるドバイのコロナワクチン予約
行動変容に対するAIチャットボットの影響
米大規模医療システムがAI導入に踏み切る時
The Health Management Academyが明らかにした最新の調査結果によると、米大規模医療システムの全数が「既にAIソリューションを使用している」(47.5%)または「AIソリューションを評価あるいは検討している」(52.5%)とし、全数が医療AIの取り込みに向かっていることを指摘する。
このほど公開された調査報告では、複数の地域にまたがる学術医療センターなど、米国における40の主要医療システムの戦略的意思決定者に対する聞き取り調査の結果を明らかにしている。AI導入に関する興味深い知見として、AI投資の典型的な順序として1. バックオフィス、2. 臨床関連雑務、3. 臨床ケア、となっており、医療機関におけるAI導入は「コスト削減」に直結するものから選ばれる事実を示している。バックオフィスでは、収益サイクルや人事、サプライチェーン管理へのAI導入が目立っていた。
意思決定者らは、実際のケーススタディや投資利益率(ROI)を重視して技術を評価しているほか、電子カルテシステムとの相互運用性、プライバシーとセキュリティ、中長期での効果予測、に関心を持っているという。実際の導入を見据えた製品設計のためには、これらの各要素に適切に対応することも重要となる。
関連記事:
医療AI導入を促進するためのコミュニケーション戦略
AI導入が年間医療費を3600億ドル削減
米国におけるAIツール導入の現状
終末期患者と医療者の話し合いを推進する技術
「SICs(serious illness conversations)」は、がんを含む「深刻な疾患」に関する患者と医療者の話し合いを指し、患者の生活の質向上と、終末期における過剰な医療を減らすことが期待される。米ペンシルベニア大学の研究チームは、機械学習アルゴリズムを用いて6ヶ月以内の死亡リスクが高い患者を特定し、医療者にリマインダーを配信することで、SICsのより良い実践につながるかを検証している。
JAMA Oncologyに発表された同研究は、がん治療を受けた20,506名の患者を対象に、電子カルテへの機械学習アルゴリズム適用により、6ヶ月死亡リスクの高い患者を特定した。臨床医に対しては、行動変容のために助言や刺激を与える行動経済学の理論「ナッジ(Nudge)」に基づき、テキストによるメッセージを配信している。その内容は、1.SICs実施率および同業者実施率との比較を週刊配信、2.高リスク患者リストの週刊配信、3.高リスク患者との面会前にSICsを促すテキストメッセージ、となる。本研究により、これら介入によって死亡リスクの高い患者との対面時にSICsの実施率が3.4%から13.5%へと約4倍に増加したとしている。また、調査期間中に死亡した患者においては、最後の2週間における化学療法および分子標的治療の使用率が10.4%から7.5%に減少することが示された。
本研究は、機械学習ベースの介入と医療者へのナッジが、がん医療提供の長期的改善につながることを示唆している。筆頭著者のRavi B. Parikh医師は、「がん患者の目標や希望についてコミュニケーションを取ることはケアの重要な部分であり、終末期の不要で望まない治療も減らすことができる」と語っている。
参照論文:
Long-term Effect of Machine Learning–Triggered Behavioral Nudges on Serious Illness Conversations and End-of-Life Outcomes Among Patients With Cancer: A...
機械学習によるHIV検査のパーソナライズ
米疾病管理予防センター(CDC)は2006年以降、13歳から64歳までの全ての米国人を対象に、定期的なHIVスクリーニングを行うことを推奨している。しかし、対象年齢にある者のうち、検査を実際に受けたことのある者は半数以下(43%)にとどまる。HIVが最も強い感染力を持つ初期段階での検査強化は、新規感染者を減少させる重要なステップとして認識され、HIVスクリーニングの強化が求められている。
米国で常用されている最も分析感度の高いHIVスクリーニング検査は、第4世代(HIV4G)検査と第5世代(HIV5G)検査と呼ばれている。HIV4Gでは、HIV p24抗原の検出が、初めてHIV-1抗体およびHIV-2抗体の検出に含まれた。これにより、感染からHIV陽性判定までの期間が約4週間から約2週間に短縮され、最も感染力の強い時期のHIVを検出するのに重要な役割を果たした。しかし、HIV4Gでは、陽性/陰性という単一の結果しか得られないため、HIV-1抗体とHIV-2抗体やHIV-1 p24を区別するためのフォローアップ検査が必要となる。CDCは、HIV4Gが陽性であった場合、HIV-1抗体またはHIV-2抗体が存在するかどうかを判定するため、鑑別検査を行うことを推奨している。これに対して新世代のHIV5Gでは、各成分(HIV-1抗体、HIV-2抗体、HIV-1 p24抗原)に対して結果を提供することができ、必要なフォローアップが少なくなる可能性がある。ただし、いずれの検査方法であっても一定の偽陽性を生むことが問題となっており、この二次的影響を緩和するためには複数の追加検査と専門家の判断が欠かせない現状がある。
ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の研究チームは、HIVスクリーニングの結果について「真陽性または偽陽性の可能性」を評価する機械学習モデルを構築し、スクリーニングフローの改善を目指している。臨床検査医学をリードするAACCの公表によると、このモデルは検証時、142件の偽陽性のうち119件を正しく分類し、83.8%の偽陽性予測精度を示した。モデルの改良によってこの精度は94%まで上昇したが、研究者らは「83.8%の精度を持つよりシンプルなモデルの方がラボのワークフローに導入しやすく、検査のパーソナライズに貢献する」としている。構築されたモデルを既存のスクリーニングに取り込むことにより、さらなる検査の高精度化と追加対応の負荷軽減を実現できることが見込まれ、市民から信頼を得て「積極的に選ばれるスクリーニング検査」となる可能性がある。
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退院サマリーから肝硬変患者を識別
肝硬変は慢性肝疾患の最終進行段階として、米国で死因の第9位を占める。肝硬変患者への早期介入は、肝組織の線維化・瘢痕化までの猶予を得て、合併症の予防にも貢献できる。しかし、従来の国際疾病分類による患者状態の把握には一定の限界があった。米サウスカロライナ医科大学(MUSC)の研究チームは「電子カルテ内のテキストデータから肝硬変患者を高精度に識別するAI手法」を開発している。
Journal of Clinical Gastroenterologyに掲載された同研究では、肝硬患者446人と他疾患のコントロール患者689人の退院サマリーを用い、肝硬変患者を識別する畳み込みニューラルネットワークを構築した。その結果、同モデルはAUCとして0.993という高い識別性能を達成した。電子カルテ内テキストから肝硬変患者を抽出する本アプローチにより、既存手法を超える正確な初期評価につながることが期待されている。
著者でMUSCの医療情報学教授のJihad Obeid氏は「AIモデルが退院サマリーのテキストだけで肝硬変患者を識別できたのは驚くべきことだ。疾患のさらなる早期検出を目指したい」と語った。
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Med-PaLM – Googleが提供する医療用大規模言語モデル
Google Healthは14日に開催された年次イベント「The Check Up」の中で、医療用大規模言語モデル「Med-PaLM」の最新版を公開したことを明らかにした。Med-PaLMは、昨年末にGoogleが発表したもので、医学的な質問に対して正確かつ高品質な回答を生成することを目的とする。Med-PaLMは、米国の医師免許試験と同等の多肢選択式問題において、60%以上の合格点を達成した初めてのAIシステムとしても知られている。
Med-PaLMのアップデートバージョンでは、同種の試験問題において「常にエキスパートレベルの成績を収めた」としており、以前バージョンと比較して有意に18%以上の精度向上を実現し、正答率は85%以上を達成したという。Med-PaLMの回答には、事実の正確さや偏り、有害性の程度を判断するための徹底的な精査が行われており、現時点でも特定の医学的質問においては、臨床医と同等の回答精度、あるいはそれ以上に詳細な情報提供が可能となっている。一方、Google Healthのリサーチャーらは「あらゆる質問において完璧な状態とは言えない」ことも認めており、「消費者がこの技術にアクセスできるようになるにはまだ時間を要する」としている。
責任ある倫理的な方法でのアプリケーション提供が実現したとき、医師・患者関係には少なからず変化がもたらされることが想定され、特にスクリーニングや初期診断、治療方針策定、セカンドオピニオンのあり方などは激変する可能性があり、事態の推移には大きな注目が集まっている。
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大規模言語モデルによる医学論文捏造の可能性
言語モデルChatGPTを論文執筆に利用できる可能性(過去記事参照)について、多くの議論がなされている。米ニューヨーク州立大学などの研究者らは、ChatGPTを用いた論文捏造の実現可能性を検証し、この不正を特定する方法を調査している。
Patternsに掲載されたopinion論文では、ChatGPTで捏造した「2種類の関節リウマチ治療薬の有効性」に関する研究の抄録を、確立された3つのオンラインAI検出ツールでテストした。その結果、検出ツールは捏造された抄録をAIが生成したものと十分に認識でき、不正論文の提出を検知できる可能性が示された。一方、同じテキストを無料のオンラインツールにかけたところ「人間の可能性が高い」と示され、査読者・採択者側ではより優れたAI検出ツールの利用が必須と考察している。
従来の人為的な手法では、偽の研究結果でも信憑性を持たせるには膨大な労力を必要とし、単なる悪意で論文を捏造するのは負担に見合わなかった面もある。しかし、高機能な大規模言語モデルが作業を短時間で完了させることができる場合、恐ろしい結果をもたらす可能性が否定できない。著者らは医学研究が捏造される背景に、「悪意以外にも名声や資金獲得、キャリア形成に要する論文数といった多くのプレッシャー」を指摘している。また、米国医師免許試験(USMLE)のステップ1が合否判定型に制度変更されたことを受け、「野心的な学生が他者との差別化のため研究を捏造する動機となっていく可能性」についても言及している。
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医療AI導入を促進するためのコミュニケーション戦略
医療におけるAI活用事例は急速に増え、各国の規制当局による承認数も一貫して増加傾向にある。一方、実臨床における採用は鈍い伸びで、この背景にはAIに対する信頼の欠如やプライバシーへの懸念、新規性の価値が認識されていなこと、などが主因として挙げられている。米ジョージア工科大学の研究チームは、レトリック(弁論術の一型で、情報発信者が受信者を説得するための手法)に基づく「AI製品採用における阻害要因の克服」を検証している。
Journal of Medical Internet Researchから13日公開された研究論文によるとチームは、コミュニケーション戦略(エトス、パトス、ロゴス)の活用により、医療におけるAI製品導入が促進するかを実験的に検証した。具体的にはAmazon Mechanical Turkを用いて150人の研究参加者を確保し、研究中、参加者を特定のレトリックに基づく広告にランダムで曝露させた。結果、パトス(情熱的な説得)を含んだプロモーションは、ユーザーの信頼(n=52; β=.532; P<.001)と製品の新規的価値の認識(n=52; β=.517; P=.001)を促し、AI製品の採用を強く改善していた。同様に、エトス(信頼感を得る説得)を含んだプロモーション、およびロゴス(論理的な説得)を含むプロモーションも、統計学的有意にAI製品採用を改善していた。
著者らは「レトリックに基づく広告利用によるAI製品のプロモーションは、ケアプロセスにおいてAIを使用すること対するユーザーの懸念を和らげることで、その阻害要因を克服し得る」と結論付けており、広範な医療AI導入促進についても、理論的に確立された広告およびコミュニケーション戦略が機能する事実を明らかにしている。
参照論文:
Persuading Patients Using Rhetoric to Improve Artificial Intelligence Adoption: Experimental Study
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「スタチン治療拒否」の背景を自然言語処理で探る
心血管疾患リスクの高い患者に対する、脂質異常の治療薬「スタチン系薬」の利点が確立されている。一方、スタチンによる治療を患者が拒否するケースは臨床現場でもしばしば見られる。米ブリガムアンドウィメンズ病院の研究チームは、自然言語処理で電子カルテ記録を解析し、スタチン治療を受け入れない患者の実数とその背景を調査した。
JAMA Network Openに掲載された同研究では、2000年〜2018年にMass General Brighamの関連病院を受診した心血管疾患高リスク患者24,000名以上を対象に、電子カルテ文書を自然言語処理で解析した。患者がスタチン治療の拒否に至る背景は旧来の構造化データには反映されておらず、近年の強力なAIツールによって膨大なテキストの解析が可能となった背景がある。本研究の結果として、高リスク患者の21.9%が初回のスタチン治療勧奨を受け入れていなかった。特に、女性は男性に比べて初回の治療勧奨を拒否する割合が有意に高かった(女性24.1% vs 男性19.7%)。また、初回にスタチンを拒否した患者はLDLコレステロール値を100mg/dL未満まで低下させるのに4.4年かかり、治療受け入れ患者の1.5年と比べ約3倍の期間を要していた。
著者のAlex Turchin氏によると「この研究はスタチンを拒否する患者の驚くべき数を明らかにし、その理由を患者と議論する必要を示した。拒否する女性の割合が高かったのは、"心血管疾患は女性より男性に影響が大きいという誤解"を理由の1つに考えている。現代医学が生命と生活の質にどれほどの違いをもたらしたか人々は過小評価していると私は思う。薬物治療が果たしてきた役割は大きい」と語った。
参照論文:
Assessment of Sex Disparities in Nonacceptance of Statin Therapy and Low-Density Lipoprotein Cholesterol Levels Among Patients at...
診断文書から「がん患者の生存」を予測
カナダ・バンクーバーに所在するブリティッシュコロンビア大学の研究チームは、自然言語処理(NLP)アプローチにより、腫瘍内科医による初期の診断文書のみを用いて「がん患者の生存」を予測できるとする研究成果を公表した。追加データを一切用いることなく、多様ながん種に対して高精度な予測を実現しており、NLPの有効な医療応用事例として関心を集めている。
JAMA Network Openから公開された研究論文によると、2011年4月から2016年12月までに、カナダのブリティッシュコロンビア州の6つの病院でがん治療を開始し、診断から180日以内に腫瘍医による診察文書が作成された47,625人の患者を対象として、レトロスペクティブに臨床データを収集している。患者予後については6ヶ月、36ヶ月、60ヶ月で生存しているか、生存していないかを示すバイナリラベルを作成し、初期診断文書からこれを予測するモデルを構築した。検証の結果、モデルの平均AUCは6ヶ月予測で0.928、36ヶ月予測で0.918、60ヶ月予測で0.918と、高い予測精度を示していた。
本ツールは特定のがん種に依存せず、がん診断において必ず生成される1つの文書のみを複雑なデータ処理を加えることなく用いるため、臨床的に有用で現実的な生存予測システムの開発に結び付けられる可能性がある。研究チームはさらなる外部検証とモデル改善を継続する旨を明らかにしている。
参照論文:
Predicting the Survival of Patients With Cancer From Their Initial Oncology Consultation Document Using Natural Language Processing
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高齢者介護施設へのAI導入が差別を悪化させる可能性
「エイジズム(ageism)」は、年齢に基づいた様々な差別の総称で、高齢者に対する年齢を理由にした無意識の決めつけ、レッテルの貼りつけなどが該当する。豪モナシュ大学の研究チームは「高齢者介護施設へのAI導入がエイジズムや社会的不平等を悪化させる可能性」について調査している。
Journal of Applied Gerontologyに発表された同研究では、豪州の高齢者介護施設を舞台として、AI開発者やケアスタッフ、支援技術者へのインタビューから質的研究を行った。その結果、開発者・スタッフの双方は、高齢者に対して「依存的、無能力、技術に無関心」などといった潜在的な想定から技術およびサービスをデザインしていることが示された。このような偏った先入観やモノの見方を論文内では「社会技術エイジズム(sociotechnical ageism)」と定義している。すなわち、「高齢者のための技術を選択する側の人々が差別を発生させ、既存の社会的不平等を悪化させる可能性がある」と研究チームでは論じている。
著者のBarbara Barbosa Neves氏は「高齢者ケアにAIを導入する場合、単独のソリューションとしてではなく、ケアサービスの一部として考慮する必要がある。技術の利用には、高齢者の幸福・自律性・尊厳に与える潜在的な影響を考えなければならない」と語った。
参照論文:
Artificial Intelligence in Long-Term Care: Technological Promise, Aging Anxieties, and Sociotechnical Ageism
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微生物学問題に対するChatGPTの回答能力
ChatGPTは幅広いトピックに関する質問を処理し、回答するように訓練されたAI言語モデルで、医学教育テーマの問題解決にも活用が進みつつある。全インド医科大学(All India Institute of Medical Sciences)の研究チームは、基礎医学教育の1つであり、感染症診断学に直結する「微生物学」の知識を問うことで、ChatGPTの適用可能性を調査している。研究成果は12日、オープンアクセスジャーナルのCureusから公開されている。
チームの研究論文によると、能力別医学教育(CBME)カリキュラムに準じ、微生物学の全領域から96問を作成した。問題の妥当性は微生物学専門家3名により、外的に評価されている。ChatGPTの回答は専門家によって0-5の評価スケール(5が最高)で採点された。結果、回答の平均スコアは4.04であり、微生物学全般について十分に優れた理解がある水準を示していた。一方、微生物学のトピックごとに精度のバラつきが認められ、特定のトピックでは成績が安定しない事実も確認されている。
著者らは「このモデルは約80%の精度で微生物学問題に回答しており、ChatGPTが生物学領域における自動質問応答ツールとして有効である可能性を示唆している」とする。医学教育を含めた学術的な使用に適したものとするためには、さらなる言語モデルの性能向上は必要である点も併せて言及している。
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高齢者のER受診と入院を79%減少させるAIツール
米ニュージャージー州全域で在宅医療を展開する「Clare Medical」(過去記事参照)は、AIベースの診断プラットフォーム「CAID(Clare AI-based diagnostic)」で高齢者の救急外来(ER)受診と入院の予防に取り組んでいる。
Clare Medicalが明らかにしたところによると、同社はCAIDに関する臨床試験を、以前発表の300名規模から1,000名の高齢者に拡大し、プラットフォームの有用性を評価している。同試験で、CAIDは317名の患者を「30日以内にER受診または入院に至る可能性が高い」と特定した。リスクの高い患者に対して、システムは必要なケア事項を推奨し、ER受診/入院を回避するための介入を行う。その結果、ER受診/入院に至ったのは高リスク317名のうち66名で、79.2%の患者がリスク回避できたとしている。また、低〜中リスク判定の残り683名には平常通りのケアを継続し、ER受診/入院に至った患者は23名で、リスク分類の適確さも示した。
Clare MedicalのCEOであるRon Lipstein氏は「CAIDの機能は、医療費削減を目指す保険支払者にとって大きな価値を持つものだ。米国内では、回避可能なER受診/入院が年間300〜400万件、年間300〜500億ドルのコストが見積もられている。我々の効果的な予測モデルと診断ツールが、実臨床に価値をもたらすことを心待ちにしている」と語った。
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