年間アーカイブ 2023

機械学習により創薬スクリーニングを10倍高速化

仮想スクリーニングを機械学習で強化することにより、15.6億個の薬物候補分子の解析時間を10倍短縮することに成功した。これは、東フィンランド大学の研究者たちが産業界と協働し、スーパーコンピュータを利用して「世界最大級のバーチャル・ドラッグ・スクリーニング」を実施したもの。 新規の薬物分子を見つけるために研究者は、大規模な化合物ライブラリの高速コンピュータ支援スクリーニングに頼っている。このような有機低分子化合物のコレクションは、ここ数年で特に急激な増加をみている。ライブラリは、これを処理するために必要となるコンピュータの改良スピードよりも速く成長しているため、最新のスーパーコンピュータを使用した場合でも、たった1つの創薬標的に対して10億個規模の化合物ライブラリをスクリーニングすることになり、これは実に数ヶ月から数年かかることもある。 高速な解析アプローチは切実に求められているが。このほどJournal of Chemical Information and Modelingから公開された研究によると、チームはまず、スーパーコンピュータを利用し、約半年かけて15.6億個の候補分子のドッキングを評価している。これは、低分子をターゲットの結合領域に当てはめ、その適合度を表す「ドッキングスコア」を計算するもの。ここから、高速な解析を実現する「HASTEN」と呼ばれる機械学習ツールを構築した。 HASTENは機械学習を使って分子の特性を学び、その特性が化合物のスコアにどのように影響するかを学習する。従来のドッキングから引き出された十分な例が提示されると、機械学習モデルは、従来アプローチよりもはるかに速く、ライブラリ内の他の化合物のドッキング・スコアを予測することができる。実際、ライブラリ全体のわずか1%がドッキングされ、トレーニングデータとして使用されただけで、このツールは10日以内に90%のベストスコア化合物を正しく同定していた。 著者らは「機械学習をブーストしたツールは、従来のドッキングで同定されたトップスコア化合物の大部分を、大幅に短縮された時間枠の中で、確実かつ繰り返し再現する」と指摘しており、大幅な時間短縮を介した計算創薬分野の急激な発展を期待している。 参照論文: Machine Learning-Boosted Docking Enables the Efficient Structure-Based Virtual Screening of Giga-Scale Enumerated Chemical Libraries 関連記事: BIOVIA GTD – AIで創薬を加速させる ヴァンダービルト大学...

OSCE-GPT – 医学生向け患者コミュニケーション教育アプリ

医学生の教育において、患者とのコミュニケーション能力の育成は、座学よりも取り組みにくい分野となっている。臨床実習を開始する前の段階で、専門の役者を活用した診察練習は一定の価値を持っているが、それに伴うコストや機会の制約は否めない。この課題を解決するため、カナダ・カルガリー大学の医学生らは、「OSCE-GPT」という、AIによる患者コミュニケーション教育アプリを立ち上げた。 生成AIに基づくOSCE-GPTアプリでは、いくつかの事例からバーチャル患者を選択し、音声認識やテキストを介した対話練習が可能。対話が終了すると、他に有効な質問例と共に学生へのフィードバックが即時に提供される。レジデント医師の専門的意見を取り入れながら開発が行われたこのアプリは、公開から1か月でカナダ国内だけでなく、米国や欧州、インド、サウジアラビアを含む世界中から550名以上の研修生が登録を行っている。 開発者であるカルガリー大学医学部2年生、Eddie Guo氏は、「患者役を務める役者は確かに素晴らしいが、その利用は高額でもある。初期の医学生にとって、患者との対話の練習機会は恵まれていない。このアプリはそのような背景から誕生したものだ」と語った。 関連記事: 医学生は医療AIに何を期待し、何を学びたいか? 医学部教育におけるAI利用の可能性と課題 Treatment社 – 医学生の診断能力をAIで改善

「AIと甲状腺」論文における筆頭著者の性別傾向

学術論文の出版における男女差は、研究助成金や奨学金、研究室設立、そして臨床面の男女不平等に関わっている可能性がある。インドの共同研究チームは、先端医療分野における男女格差を検証するため、「AIと甲状腺疾患」の学術論文を分析し、筆頭著者の性別傾向を調査した。 オープンアクセスジャーナルのCureusに発表された同研究では、PubMedから収集された2003年から2022年までに発表された「AIと甲状腺」に関する論文254報を対象とし、筆頭著者の性別と出身国を分析した。その結果、筆頭著者の43.5%が女性で、最新の2022年では筆頭著者が女性である論文数が最多の43件にのぼっていた。女性の筆頭著者比率が最も高かったのは European Journal of Radiologyの1.33倍で、最も低かったのはFrontiers of Oncologyの0.8倍であった。また出身国別では、女性比率が最も高いのは中国の1.57倍、最も低いのがエジプトの0.5倍、米国はそれに次ぐ0.77倍という低さであった。 近年、医学研究全般における女性の筆頭著者比率が上昇しており、精神医学分野では2008年の40%から2018年には44.8%への上昇が確認されている。研究チームによれば、2027年までに同分野では男性の筆頭著者が約370件、女性の筆頭著者が約330件(約47%)にまで上昇すると予測し、医学分野における男女平等の方向性を示唆している。 参照論文: Gender Equality Trends of First Authors in Publications of Artificial Intelligence and Thyroid 関連記事: 医療AI研究に欠ける「著者の多様性」 「HIVの感染リスクが高い女性」を特定する予測モデル 新研究 – 女性医師の方が遠隔医療をより早期に取り入れる

性的マイノリティの自殺念慮を予測するAI

中国・清華大学の研究チームは、「性的マイノリティの短期~長期の自殺念慮」を効果的に予測する機械学習モデルを構築した。研究成果はこのほど、JAMA Network Openから公開されている。 自殺念慮は、特に性的マイノリティにおいて重大な課題となっている。これまでの研究では慢性的なストレス因子の影響は評価されてきた一方、日常的な体験の影響については評価されてこなかったとチームは指摘する。研究では、瞬間的評価情報、特にストレスフルな出来事や気分の変動が、性的マイノリティ集団における短期的・長期的な自殺念慮をどの程度予測するかを評価することに焦点を当てている。18歳から29歳の性的マイノリティの自認がある者に対して、調査期間中に1日2回、ストレスとなる出来事や気分についてデータを収集した。ここから1ヶ月後、3ヶ月後、8ヶ月後の自殺念慮を予測する機械学習モデルを構築したところ、十分な予測性能を得たとしている。 研究チームは「数日程度の特定タイプの気分変動や出来事が、長期に渡る自殺念慮に影響を与えている」と指摘し、機械学習モデルの利用がこの検出に有望である点を強調している。 参照論文: Ecological Momentary Assessment and Machine Learning for Predicting Suicidal Ideation Among Sexual and Gender Minority Individuals 関連記事: 自殺リスク推定分析の実臨床導入 AIモデルは真に有効な自殺リスク予測ができるか? AIによる「自殺リスクスクリーニングの予測精度向上」

Ochsner Health – 生成AIで患者へのメッセージを起案

臨床医は勤務時間の大半を文書作業に費やしており、遠隔医療やデジタルツールの導入は、臨床医の文書作成への圧力をさらに強めている。米国で医療機関を展開するOchsner Healthは、生成AIを患者へのメッセージ起案に利用するパイロットプログラムの開始を発表した。 Ochsner Healthでは、Epic社の電子カルテと、Microsoftの言語モデル Azure OpenAI Serviceを統合し、プログラムの初期段階として、「診断や臨床判断とは関係のない患者への回答メッセージの下書き」に生成AIを使用する。HIPAA法に準拠したセキュリティ要件に基づく暗号化技術により、患者プライバシーは保護されるという。メッセージの最終的な送信前に必ず医師による確認と修正が行われ、医師の署名が付される。 アプリケーション開発を統括するAmy Trainor氏は、「臨床医が確認するための初稿をAIが作成することで、患者は迅速に回答を受け取ることができる。また、医師がコンピュータ上の作業に費やす時間を削減することで、彼らの最も得意とする本業の患者診療に専念することが可能になる」と語った。 関連記事: 医療者は勤務時間の3分の1を文書作成に費やす COVID-19は「臨床医が電子カルテに費やす時間」をさらに長くさせた 「AIによる臨床記録再構築」が医師の時間を節約する

JAMA特集 – Google Health最高臨床責任者との対談

権威ある医学誌のJAMAでは、編集長のKirsten Bibbins-Domingo氏(PhD, MD, MAS)と専門家ゲストが、AIと医療の接点を議論するインタビューシリーズを掲載している。20日にオンライン公開された記事では、Google Healthの最高臨床責任者であるMichael Howell氏(MD, MPH)との対談が紹介されている。 Michael Howell氏はGoogle Healthに勤務する以前、シカゴ大学医学部の最高品質責任者を務めており、100以上の研究論文を示した研究者でもある。対談では、Google Healthでのチーム体制や論文執筆、Med-PaLM(医療向け生成AI)の取り組み、AI時代のジャーナル出版社の役割、患者プライバシーなど、多面的な議論がなされている。関心ある読者は、動画と合わせてぜひご覧頂きたい。 参照記事: Google Health’s Chief Clinical Officer Talks About Incorporating AI in Health Care 関連記事: Googleの医療AIチャットボット – 臨床環境で試験運用 ...

GE HealthCare – 「AI支援超音波技術開発」で4400万ドルの助成金獲得

GE HealthCareはこのほど、AI支援の超音波検査技術開発について、ビル&メリンダ・ゲイツ財団から4400万ドル(65億円)の助成金を受けたことを明らかにした。ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、Microsoftの元会長であるビル・ゲイツと妻のメリンダによって、2000年に創設された世界最大規模の慈善基金団体として知られる。 同社の公表によると開発するツールは、専門的なトレーニングを受けていない、または超音波検査の経験がない医療従事者が、臨床的な意思決定に必要な情報を得ることを支援するもの。母体・胎児ケアや小児肺の評価など、より効果的な産科・呼吸器スクリーニング超音波検査を実現し、中低所得国(LMIC)や多様な医療現場でのアクセス拡大を目指している。本年2月にCaption Healthを買収した同社は、Captionが持つ巨大なノウハウを利用し、低価格のハンドヘルド機器を含む様々な超音波機器やプローブで動作するようにこの技術を設計する。 GE HealthCareで超音波部門を率いるRoland Rott氏は「手頃な価格のポイントオブケア超音波を、あまり熟練していないユーザが自分のケア環境で効果的に使用するための指導・教育が、臨床現場における課題となっている。この助成金は、Caption Healthが保有する最先端AI技術をより多くのユーザーにカスタマイズして提供し、質の高い医療へのアクセスを向上することに貢献するものだ」と述べている。 関連記事: Caption Care – AIガイド心臓超音波検査を一般家庭に Caption Health – AIガイド超音波診断の「FDA承認エビデンス論文」をJAMA Cardiologyに発表 超音波ガイド下局所麻酔を支援するAIデバイス

ChatGPT – 救急外来の鑑別診断で医師と同等のパフォーマンス

ChatGPTが日常の診断ケースにどの程度有効に機能するか、多くの臨床医による検証が続けられている。オランダのイェルーン・ボッシュ病院の研究チームは、救急外来の症例を集め、ChatGPTが導いた鑑別診断の候補を医師と比較する研究を行った。 9月16日から20日まで開催のEuropean Emergency Medicine Congressで発表された研究では、同病院の救急外来患者30名の臨床情報をChatGPT(バージョン3.5および4.0)に入力し、生成された鑑別診断の候補リストを、救急医が作成したリスト、そして正しい診断結果1つと比較検討した。その結果、ChatGPTと救急医による診断リスト間で約60%の一致が確認された。また、診断可能性の高い上位5つまでに正しい診断が含まれていた割合は、ChatGPTのバージョン3.5で97%、バージョン4.0で87%、救急医で87%であった。 研究を主導したHidde ten Berg氏は、「この結果は、ChatGPTが医師と同様の鑑別診断を提案できたことを示している。プライバシーに関する懸念はあるものの、救急外来の待ち時間短縮や、経験の少ない医師のサポート、さらには稀な疾患の検出において、技術の活用が期待できる」と語っている。 関連記事: 臨床ワークフロー全体を通じた「ChatGPTの有用性」 患者質問に対する眼科医とChatGPTの回答品質を比較 ChatGPTの医学的回答は人間とほぼ識別不可能

Annalise.ai – 閉塞性水頭症の診断支援AIツールでFDA認証追加

閉塞性水頭症は、腫瘍や出血により「脳内における髄液の流れ」が妨げられることで、脳圧の上昇を介して、意識障害や生命を脅かす状態を引き起こす。AI画像診断で先進的技術を持つ米国のAnnalise.ai社は、「非造影CTスキャンで閉塞性水頭症を迅速に特定し通知する」画像診断AIツールを開発している。 Annalise.aiは13日付のリリースで、同社の閉塞性水頭症向けの診断支援AIツールが、米食品医薬品局(FDA)からの510(k)認証とブレークスルーデバイス指定を受けたことを発表した。今回の新しいFDA認証により、Annalise.aiが米国内で提供する画像診断AIツールのラインナップは、胸部X線向け5種類、頭部CT向け5種類として、計10種類にポートフォリオを拡充した。 Annalise.aiのCEOであるLakshmi Gudapakkam氏は、「当社のアルゴリズムは、画像検査で重大な所見が疑われるケースの優先順位付けを効率化することで、放射線科医の業務をサポートし、ワークフローを最適化する。また、症例の早期特定と注意喚起を通じて、画像診断レポートの納期短縮が期待できる」と語った。 関連記事: Annalise CXR – 124もの所見を捉える包括的画像解析AIシステム AIによる気胸検出 BrainScope社 – 頭部外傷での「CT検査の必要性」を低減するAIツール

「ループス腎炎をより正確に診断するAI」開発に300万ドルを助成

全身性エリテマトーデス(SLE)に起因する糸球体腎炎として知られるループス腎炎は、成人SLE患者の60%、小児SLE患者の80%が発症し、その半数が末期腎不全に移行する。米ヒューストン大学の研究チームは、ループス腎炎の正確で迅速なAI診断を導入するため、Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseasesから300万ドル(4.42億円)の研究助成を受けたことを明らかにした。 ループス腎炎は血液検査や尿検査で発見できるが、腎生検が最も正確な診断法となる。一方、腎生検の解釈自体も困難であり、複数の病理医間で解釈が異なり得ることも既存アプローチの問題点としてチームは指摘する。研究者らは、生検スライドを解釈し分類するためのニューラルネットワーク構築を目指す。 生体医工学分野で教授を務めるChandra Mohan氏は「コンピュータービジョンとディープラーニングの力を活用することで、腎病理医に匹敵する分類器を構築する。これにより、患者管理とともに、長期的な腎臓および患者の転帰が劇的に改善される可能性がある」としている。 関連記事: Twitterから良質な病理画像データセットを構築 病理AIがアジアを救う Qritive – 新たなデジタル病理プラットフォーム

AIによる未破裂脳動脈瘤の検出と紹介率向上

米国において年間約3万人が脳動脈瘤の破裂を経験し、未破裂脳動脈瘤の有病率は約3%との推計がある。多くの脳動脈瘤は他の目的で撮影された脳スキャンで偶然発見されるため、正確な実態把握には課題がある。米国テキサス大学ヒューストン校の研究チームは、Viz.ai社のAIツール「Viz Aneurysm」を使用して、未破裂動脈瘤の検出率向上を目指した研究を進めている。 Stroke: Vascular and Interventional Neurologyに発表された同研究では、1,191件の脳血管造影CTを対象にViz Aneurysmを適用した。その結果、50件のケースで「4mm以上の未破裂脳動脈瘤」が疑われフラグが立てられた。そのうち31件のケースでは実際に36箇所の動脈瘤が確認されている。診断された動脈瘤径の中央値は4.4mmで、5年以内の破裂リスクは平均2.4%であったという。 この36箇所の動脈瘤のうち、24箇所は日常診療で要経過観察とされ、破裂リスクに注意を要する症例の多くが、専門医への紹介が行われていない現状が浮き彫りになった。この研究の主著者のHyun Woo Kim医師は、「Viz Aneurysmが導入される前には、未破裂脳動脈瘤の専門医への紹介率は予想よりかなり低かった。AI技術によるスクリーニングと臨床医へのアラート機能を組み合わせることで、動脈瘤の検出とフォローアップを大きく改善させることが期待できる」と語った。 参照論文: Machine Learning–Enabled Detection of Unruptured Cerebral Aneurysms Improves Detection Rates and Clinical Care 関連記事: Viz.ai –...

米国初 – 医学とAIの二重学位

テキサス大学サンアントニオ校(UTSA)や同健康科学センターは、医学とAIを組み合わせた米国発の学位プログラムを正式に開始することを明らかにした。二重学位は1つの学位課程で2つの組織からそれぞれ学位を得る制度。一定期間に異なる専門性を獲得できることから、欧米においては人気が高い。 UTSAの公表によると、このプログラムでは、医学士号(MD)と人工知能科学修士号(MSAI)を5年間の課程で得るというもの。修了後は医師として活躍するだけでなく、診断・治療に資するAIの実用化を独自にリードできるようになるとしている。 James B. Milliken総長は「AIは今後何年にも渡って医療分野を革新する。これらを最大限に活用して課題に対処できる医療従事者を育成することは、非常に先駆的であり、また我々のこの取り組みを誇りに思っている」と述べた。 関連記事: リーズ大学が提供する「医療AIのPhDコース」 NIHR – 臨床研究へのAI活用を促すeラーニングコース ノースウェスタン大学 – 医療AIセンターを設立

医療ITソフトへの支出が加速する米国医療機関

このほど公開された「Bain and KLAS 2023 Healthcare Provider IT Report」によると、米国の医療機関はITとソフトウェア技術への投資を加速させており、医療機関幹部の80%が「過去1年間でこれらの支出が大幅に増加した」と報告している。 同レポートでは、こうした投資の主な要因は、財政的な圧力と労働力不足、新興テクノロジーにあるとする。この調査は、米国の医療機関幹部201人を対象にアンケートを実施したもので、そのうちの75%が、今後12ヶ月間、AIを含むソフトウェアとテクノロジーへの支出が引き続き増加すると回答している。また、回答者の56%が、ソフトウェアとテクノロジーはトップ3の優先事項だとしており、2022年段階での34%から有意な増加がみられる。投資額は医療機関の種別によって異なるが、大規模な医療機関や大学医療センターは、小規模な医療機関よりもソフトウェアやテクノロジーへの投資額が増加すると予測する。 投資分野のトップは、引き続き「臨床ワークフローの最適化と収益サイクル管理」であった。これらは、短期的な投資対効果が明確であると認識されているためで、医療機関全体の利幅が縮小し、財政的な課題が続くなか、医療システムはこの種のソリューションに対する優先順位を上げ続けている。 関連記事: 英政府 – 2100万ポンドで脳卒中AIを全面導入 米大規模医療システムがAI導入に踏み切る時 医療AI導入を促進するためのコミュニケーション戦略

ChatGPT – サウジアラビア医師国家試験を攻略

ChatGPTを各国の医師国家試験に挑戦させる研究が注目されている。サウジアラビアの研究グループは、同国の医師国家試験(SMLE: Saudi Medical Licensing Exam)に対するChatGPT(GPT-4)の解答能力を評価した。 オープンアクセスジャーナルCureusに発表された同研究では、SMLEの4つの主要領域、すなわち内科、小児科、産婦人科、外科から抽出された4肢選択問題220問を対象として、ChatGPTに解答させた。その結果、総合的な正答率は88.6%に達し、各セクションにおいても好成績を記録した(内科57/66、小児科49/55、産婦人科53/55、外科39/44)。 先行研究でも指摘されているように、基礎的な医学知識に関する問題ではChatGPTは正答率が高いのに対し、複雑な臨床シナリオや希少疾患に関する問題においては正答率が低下する傾向が見られた。現段階での解答能力の限界からは、従来の学習方法との併用が医学生にとって適切と研究チームは主張する。しかし、今後の技術進歩と応用範囲の拡大が進めば、国家試験の準備や医師の生涯学習の方法に大きなイノベーションがもたらされる可能性がある。 参照論文: ChatGPT Conquers the Saudi Medical Licensing Exam: Exploring the Accuracy of Artificial Intelligence in Medical Knowledge Assessment and Implications for...

特許出願でみる「AI開発の勢い」

知的財産事務所のMarks & Clerkが公表した新しい調査レポート「AI report 2023」によると、AI技術の発展について、医療分野は他分野を凌駕しているという。 同レポートによると、医療分野において出願された「AIベースの特許件数」は2022年は2,771件であり、これは2018年から4倍の増加であるという。単独のセクターとしてみると2014年以降、AIベースの特許出願件数における前年比成長率は、全体の成長率を上回り続けている。サブセクターで分類すると、AIを活用した診断(医療画像診断を含む)が最大多数で、これまでの合計は3,018件となっている。一方、創薬分野におけるAI活用では出願件数が減少傾向を続け、2022年にはわずか12件であったことも特徴的となる。ただしこれは、新規の発明が得られていない、または研究開発のトレンドが移っている、という解釈よりは、「創薬のプロセスを秘密にすることを選択する」という長期的な戦略を取るようになった可能性が高い。 欧州特許庁へのAI特許出願は、欧州と米国が引き続き優勢である一方、アジア、特に中国からの出願が増えている。医療業界がAIの取り込みを積極的に始めた時から、医療技術の研究開発への投資は増加し、「AI超大国」になろうとする各国の動きが医療分野においても加速している。 関連記事: 医療AIの特許状況をマッピング Owkin – 乳がん・大腸がん向けAIソリューションが欧州で承認 Miiskin – 皮膚画像診断プラットフォームを欧州研究者に無償アクセス化

重篤な脳損傷患者の回復を予測するAI

重篤な脳損傷患者の回復予測は、その家族や医療従事者にとって重大な関心事だが、現在でも明確な指針や予測ツールは不足している。カナダのウェスタンオンタリオ大学の研究グループは、fMRI画像技術と機械学習の組み合わせにより、重篤な脳損傷からの回復を予測するAIモデル開発に取り組んでいる。 Journal of Neurologyに発表された同研究では、ICUに収容された重篤な脳損傷患者を対象に、fMRIを利用して脳ネットワーク活動を分析し、受傷後6か月以内の神経学的回復を予測するAIモデルを構築した。25名の患者に対する性能評価において、10名の転帰良好な患者のうち8名、15名の転帰不良患者のうち12名を正確に分類していた。 研究を主導したLoretta Norton教授は、「我々は、脳内の異なる領域間のコミュニケーションが、脳損傷患者の回復可能性の情報を捉えていることを確認していた。この既存の画像検査技術を、最新のAI手法と組み合わせることで、脳損傷からの回復をこれまで以上に正確に予測することが可能になった」と語っている。 参照論文: Predicting neurologic recovery after severe acute brain injury using resting-state networks 関連記事: 外傷性脳損傷の予後予測AI アスリートの「微細な脳損傷」を捉えるAIツール 外傷性脳損傷後のPTSD発症を予測する脳バイオマーカー

MicrosoftとPaige – 世界最大の画像ベースAIモデルの構築へ

Paigeは、「デジタル病理診断における臨床AIアプリケーション」として初めてFDA承認を取得したことで知られる。同社はこのほど、Microsoftと共同して「従来モデルより桁違いに大きい病理AIモデル」を開発することを明らかにした。 がんの複雑性を捉え、腫瘍学と病理学の限界を押し広げることが期待される次世代臨床アプリケーションは、大規模データセットを背景として、数十億のパラメータで構成される大規模モデルがベースとなる。Paigeはペタバイト規模の臨床データアーカイブから、複数のがん種にわたる最大400万枚のデジタル顕微鏡スライドを取り込もうとしている。Paigeは、Microsoftの先進的なスーパーコンピューティング・インフラストラクチャを利用して、このモデルを大規模にトレーニングし、最終的にはAzureを利用することで世界中の病院・研究所に展開することを予定する。 Paigeのテクノロジー担当SVPであるRazik Yousfi氏は「Paigeは創業以来、イノベーションの最前線に立ってきた。マイクロソフトの専門知識と膨大な計算能力を、我々が保有するAI、テクノロジー、デジタル病理学の深い専門知識と組み合わせることで、がん画像診断の最前線を大きく前進させることができると確信している」と述べた。 関連記事: 乳がんリンパ節転移検出病理AI「Paige Breast Lymph Node」 凍結切片の画像変換AIで診断精度向上 QuantCRC – 大腸がんの再発を予測する病理AI

膝関節炎をX線画像から自動診断

膝関節炎の発症は軟骨の摩耗による影響が大きい。この変化は、骨同士の間隙の変化としてX線画像上で観察可能であり、変化の度合いは疾患の重症度と密接に関係している。米国テキサス大学オースティン校の研究チームは、関節の間隙を高精度で自動測定するAI手法を開発し、変形性膝関節症の診断精度の向上や、発症リスク予測を可能とすることを目指している。 npj Digital Medicineに発表された同研究では、膝関節のX線画像データを基に、変形性膝関節症を臨床レベルの精度で自動診断するAIモデルを構築した。このモデルを大規模医療データベース「UKバイオバンク」に適用した結果、記録されている症例数に比べて2倍近く(178%)の膝関節炎を診断することができた。この背景として、従来の医療記録には「臨床医が軽症例を診断しないケース」、「患者ごとの痛みに対する耐性の違いから症状を無視あるいは軽視したケース」、「費用と回復期間を心配し手術療法を回避しようとしたケース」といった未報告の膝関節炎の存在が考えられている。 研究チームは、AIによる自動診断の導入が画像スクリーニングにおいて大きな助けとなることを期待している。研究を主導したVagheesh Narasimhan氏は、「クリニックでX線撮影を受けた患者に対し、全ての画像にバックグラウンドでこのようなAIシステムを稼働させ、関節炎の有無を自動診断させる状況を想像して欲しい。その結果、必要に応じて整形外科専門医の意見を仰ぐよう患者に提案することが可能になる」と語った。 参照論文: Deep learning based phenotyping of medical images improves power for gene discovery of complex disease 関連記事: X線から変形性膝関節症の初期兆候を検出 AI支援が変形性膝関節症の治療意思決定をより良いものにする 「若年における変形性関節症」のリスク探索

医療者は生成AIを受け入れる準備が整っている

Elsevier Healthの最新レポート「Clinician of the Future 2023」では、医師や看護師といった医療者が、生成AI製品や関連プラットフォームの急速な台頭を含むヘルスケアの変化および課題について、どのように考えているかを仔細に調査した結果を示した。 この新レポートは、世界2,607人の医師と看護師の見解を取り上げたもの。医療従事者の課題に着目するとともに、生成AI技術の将来的な役割にも焦点を当てている。同レポートによると、医師と看護師のほぼ半数が「臨床上の意思決定をサポートするため、将来的にこの革新的な技術を活用することを熱望」しているとし、医療における技術シフトを推進する必要性を強調している。具体的には、現在の臨床判断のうち、生成AIツールによって支援されているのは11%に過ぎないが、回答者の48%は「2-3年後には医師が生成AIツールを使って臨床判断を行うことが望ましい」と回答していた。また、生成AIツール導入については中国が最も寛容で(53%)、米国(42%)と英国(34%)を上回っていた。 レポートでは、臨床の準備態勢を強化し、必要とされる臨床医のサポートを提供するため、効率化とトレーニングの機会を特定することが必要であるとし、Elsevierは「臨床医のニーズに耳を傾けることに深くコミットする」と表明している。 関連記事: LinkedIn最新レポート – 生成AIは医療者の仕事を代替できるか? Duke HealthとMicrosoftが生成AIパートナーシップを締結 CareCloud – 小規模診療所への生成AIツール導入

心臓年齢を予測するAIツール研究

心臓疾患と老化の関係は長らく注目されてきたが、この関連には個人差がみられることが知られている。英Imperial College Londonなどの研究グループは、MRIと心電図データにAIツールを組み合わせることで、「心臓年齢」をより精密に予測する手法を構築し、心臓の老化プロセスに関与する遺伝子を特定する試みを進めている。 Nature Communicationsに発表された同研究では、大規模データベースのUK Biobankから収集した約4万人のデータに基づき、「心臓の形態学的特性」「心臓の動き」「電気伝導特性」などといった要素を老化のバイオマーカーとして計量分析した。機械学習手法を用いることで、心臓の老化に最も影響を与える因子が「高血圧」であることが確認され、加えて「喫煙」「糖尿病」「肥満」が老化を加速させる要因として明らかになった。さらに、心臓組織の修復能力や、その若さを維持する「速度」に影響を与える遺伝子変異も特定した。 研究グループは、この新しいアプローチを用い、喫煙や肥満といった既知のリスク因子を再評価するだけでなく、心臓年齢に影響を及ぼす未知の環境リスク特定にも期待している。研究を主導したDeclan O’Regan教授は、「我々のグループは、心臓スキャンデータから心臓年齢の予測を可能とするAI技術を開発した。この研究の成果は、心臓の老化を遅らせる治療法の優先順位付けにも貢献する可能性がある」と語っている。 参照論文: Environmental and genetic predictors of human cardiovascular ageing 関連記事: 心電図AI解析が生理的年齢と長生きを予測する 「網膜年齢」による疾患予測 脳年齢を睡眠時の脳波で予測するAI研究

「麻痺患者の表情豊かなコミュニケーション」を再現するBCI技術

脳卒中やその他の原因で発声・会話能力を失った患者に対し、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)技術を用いて「自然な発話の復元」を目指す研究が注目されている。米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校およびバークレー校の共同研究チームは、脳に埋め込まれたデバイスからの信号を利用し、AIによって音声や顔の表情を合成し、デジタルアバターを介しての豊かなコミュニケーション再現に挑戦している。 Natureに発表された同研究では、重度の麻痺患者の脳表面に設置された電極から、発話を意図した際の信号を収集し、このデータを基として各個人特有の信号パターンを識別するディープラーニングモデルを構築した。信号からテキストへの変換速度は、1分間で約78単語に到達した。変換されたテキストは、被験者の顔の筋肉の動きをシミュレートした3Dアバターがアニメーション形式で表現し、コミュニケーションの再現性を大幅に向上させている。 注目すべきは、本研究におけるシステムの設計思想となる。単語全体を識別するのではなく、「音素」という音の基本要素を認識させ、これを基に単語を構築するアプローチを採用した。例として「HELLO」は「HH」「AH」「L」「OW」の4つの音素から成る。この方法により、システムは39種の音素の学習で済み、認識精度が向上するとともに、処理速度として3倍の高速化を実現した。研究責任者であるEdward Chang氏は、「我々の究極の目標は、他者とのコミュニケーションを最も自然な形で回復させることにある」と話している。 参照論文: A high-performance neuroprosthesis for speech decoding and avatar control 参考動画: How Artificial Intelligence Gave a Paralyzed Woman Her Voice Back 関連記事: BCI技術加速の鍵となる「遠隔臨床試験」 Nature論文 – 脳内手書きを高速にテキスト変換するBCI技術 脳磁図からハンドジェスチャーを識別

ChatGPTはワクチンの安全性を啓発できるか?

世界保健機関(WHO)が位置づける健康への脅威トップ10の1つである「ワクチン忌避(Vaccine Hesitancy)」は、現代の公衆衛生において重大な課題となっている。スペイン・サンティアゴの臨床医学研究所「IDIS」の研究チームは、「ChatGPTによるワクチン忌避に関する回答生成能力」を評価し、ワクチンの安全性を啓発する情報提供ツールとしての有効性を調査した。 Human Vaccines and Immunotherapeuticsに発表された同研究では、COVID-19ワクチンに関する頻出上位50件の質問をChatGPTに投げかけ、その回答の正確性を専門家によって評価した。質問には、「COVID-19ワクチンは後遺症(Long Covid)を引き起こすか?」といった誤情報を含むものも混ざっていた。専門家による評価の結果、回答の大部分が正確さの面で「exellent」「good」として高く評価され、10段階評価での平均スコアは9点であった。85.5%の回答が「正確」、残る14.5%が「正確だが情報にギャップがある」と評価された。 研究を主導したAntonio Salas氏は「ChatGPTはワクチンや予防接種に関する不正確な質問を検出することが可能だ。このAIが使用する表現は、一般市民にも理解しやすいものでありながら、科学的な厳密さも保たれている。現状のChatGPTは、専門家や科学的エビデンスの代わりになるものではない。しかし、本研究の結果は、ChatGPTが一般市民にとって信頼性の高い情報源となる可能性を示唆している」と語った。 参照論文: Chatting with ChatGPT to learn about safety of COVID-19 vaccines – A perspective 関連記事: ワクチン接種事業におけるAIチャットボットの有効性 Twitter投稿から「COVID-19ワクチン接種率」の推移を予測できる 「ワクチン接種ためらいの地域性」をTwitterから予測

AI音声アシスタントによる「心肺蘇生支援の質」

AIによる音声アシスタントは一般的になっており、現在、米国成人の半数が利用しているという。特に医療ニーズへの対応と利用も進んでいることから、「緊急時に心肺蘇生(CPR)の指示を与える新しい方法」としての検討が進もうとしている。 米アルバート・アインシュタイン医科大学やボストン小児病院の研究者らは、JAMA Network Openに掲載された研究で、現在のAI音声アシスタントは「質の低いCPR指示を非専門家に提供する可能性」を示している。チームはAI音声アシスタントとして、Alexa、Siri、Nest Mini、Cortanaとともに、大規模言語モデルであるChatGPTのCPR指示における品質を評価した。具体的には、各ツールに口頭、または文章でCPRに関する8つの回答を求め、救急医学専門医2名による評価を加えるというもの。回答のうち71パーセントが手の位置について、47パーセントが圧迫の深さについて、35パーセントが圧迫率について詳しく説明していた。一方、回答全体の半数近くはCPRとは無関係であり、「著しく不適切であった」と研究者らは述べている。また、音声アシスタントを使ったCPRの指示は、一般市民が適切な情報を見つけられなかったり、ケアの遅れにつながる可能性があることも浮き彫りにした。 バイスタンダーは例えば電話を介し、救急隊員からCPRの指示を受けることもできるが、必ずしも普遍的に利用可能なサービスではないこと、言語の壁があること、音質や通話品質の問題、心理的障壁、コスト、などが利用の制限要素となる。AI音声アシスタントは緊急時の有望な選択肢となるが、まだこれからのさらなる質的向上が必要な状況にあるとチームは結論付けている。 参照論文: Quality of Layperson CPR Instructions From Artificial Intelligence Voice Assistants 関連記事: GoShare Voice – AI音声アシスタントによるLong COVID患者支援 加齢によりAI合成音声の識別は困難に 「絵画品評の音声」から認知機能障害を早期検出

将来的なウイルス感染症対策としての「AIトリアージプラットフォーム」

COVID-19のパンデミックは、医療リソースの適性配分と患者トリアージの重要性を浮き彫りにした。これを受けて、米イェール大学の研究チームは「次世代ウイルス感染症への対応を強化するための、AIトリアージプラットフォーム」の開発に取り組んでいる。 Human Genomicsに発表された同研究は、COVID-19の重症度や入院必要期間に関連する情報を予測する機械学習モデルの構築を中心に行っている。このモデルは、COVID-19患者の臨床データや併存疾患などの情報を活用し、以下の3点、1.疾患の進行と入院期間のリアルタイム予測、2.入院期間を誤差5日間以内で推定、3.重症度と集中治療室への入院可能性予測、を組み込む。本モデルの検証結果から、特に注目すべきバイオマーカーとして、血中好酸球濃度が上昇している患者は予後が悪いこと、陽圧換気や挿管管理が必要な患者では血漿セロトニン濃度が低下していること、などが挙げられている。 研究チームはさらに、機械学習と臨床データを統合し、患者が病院に到着する前の段階で、その状態管理や必要な医療リソースを予測し、効率的な対応を図るためのトリアージソフトウェアの開発も行っている。著者のGeorgia Charkoftaki氏は、「我々のAIトリアージプラットフォームは、典型的なCOVID-19の予測モデルとは一線を画しており、今後発生するウイルス感染症に対処するアプローチの基礎となるものだ」と語った。 参照論文: An AI-powered patient triage platform for future viral outbreaks using COVID-19 as a disease model 関連記事: 救急部での臨床判断を支える「新しい機械学習トリアージツール」 MayaMD – AIヘルスアシスタントが「臨床医を超える正確なトリアージ」 Infermedica – 注目を集めるAIトリアージシステムとそのビジネスモデル

カルディオインテリジェンス – 発作性心房細動の兆候を検出するAI技術

カルディオインテリジェンスは、循環器領域におけるAI開発を手掛けるヘルステックベンチャーだ。2019年の創業以来、“世界中の人に医療DXと不整脈診断を届ける”を目指し、心電図のAI自動解析支援システムの開発を進めてきた。2022年12月にはソフトウェア医療機器『長時間心電図解析ソフトウェア SmartRobin AI シリーズ』を上市し、長時間心電図における医療機関の業務負担軽減とともに、不整脈患者の診断を支援してきた。 同社は、2023年8月25~28日に開催された欧州心臓学会議(ESC2023)で発表を行ったことを明らかにしている。これは、同社で開発した治験機器『非発作時の心電図から発作性心房細動の兆候を検出する人工知能による心電図自動解析システム』の臨床現場における性能評価のため、多施設共同(国際医療福祉大学三田病院、藤田医科大学ばんたね病院、小川聡クリニック)で行った医師主導治験の結果を示すもの。主要評価項目である心房細動の兆候検出に関して、事前に設定した目標性能を上回る感度・特異度の推定値を確認し、また、本治験機器に起因する有害事象や不具合は認められなかったとしている。 世界的にも、未発見の心房細動による脳梗塞発症は増加傾向にあり、本治験機器が製品として社会実装されることで、脳梗塞の発症を大きく減らすことが期待されている。同社は現在、本ソフトウェア医療機器の実用化を進めており、本年度中に薬事承認申請を実施する予定。なお、本治験はAIを用いた革新的なSaMDの実用化に向け、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療機器開発推進研究事業の支援に基づき実施されている。 関連記事: BRAVEで見つけた「起業を腹決めするために本当に必要だったこと」 心電図AIで心臓発作のスクリーニング能力を向上 心電図から死亡リスクを高精度予測

骨密度検査から腹部大動脈石灰化を評価するAI

心血管疾患のリスク指標として知られる「腹部大動脈の壁内に蓄積する石灰化(AAC: Abdominal Aortic Calcification)」のスコア化は、専門家にとっても手間のかかる作業であった。豪・エディスコーワン大学の研究チームは、「骨密度測定で撮影される脊椎側面のX線画像から、AACの程度を分析するAI技術」を開発し、健康リスク予測を身近なものにしようとしている。 eBioMedicineに発表された同研究では、5,012枚に及ぶ骨密度測定用の低線量X線画像を使用して、AACの自動スコア化を行う機械学習アルゴリズムを構築し、その精度を検証した。結果、専門家評価を正解としたAACの程度(低・中・高)分類について、AIソフトウェアは80%の精度を示した。専門家によって高レベルAACと分類された症例のうち、ソフトウェアが低レベルと誤分類した症例は3%にとどまり、実環境でのテスト結果としては今後の発展が十分期待できるものとなった。 研究チームによれば「画像からのAACのスコア化は、専門家で1件あたり5〜15分要していたものが、AIソフトウェアを使用することで、1日に約6万件の分析が可能となり、大幅な効率向上が見込める」という。著者のJoshua Lewis准教授は、「専門家と同等の精度でAACを自動評価できれば、大規模なスクリーニングが可能になる。この手法でリスクが認められた人々は、必要なライフスタイルの変更を、今までよりずっと早い段階で行うことができる」と述べている。 参照論文: Machine learning for abdominal aortic calcification assessment from bone density machine-derived lateral spine images 関連記事: CT画像の体組成データから疾病リスクを予測 声から冠動脈疾患リスクを評価するAI研究 冠動脈疾患の遺伝リスクを算出するスマートフォンアプリ

米国心臓協会が「患者データ共有」のガイダンスを発表

米国心臓協会(AHA)はこのほど、「医学研究における患者データ共有のための6原則」を概説するガイダンス文書をCirculation誌に発表した。 同声明は、主にEHRがデータ収集および分析機能を進歩させるとともに、医学研究者のデータ共有と調和の機会を増大させることを強調している。これらの結果として、医療現場における多様なブレークスルーが加速され、患者ケアの改善につながった。ガイダンスでは、この種の進歩に伴うプライバシー、公平性、規制上の懸念に対処する必要があることを指摘している。各ステークホルダーにリスクの認識と適切な対策を求める一方で、特に、研究者や研究機関、出版社は、検証や再現を見据えた研究をよりスムーズに実行することを可能とするため、裏付けデータやデータ文書を含め、研究成果から得られた健康情報に広くアクセスできるようにすることを奨励している。また、「連邦法は、健康情報が収集され使用される人々のための保護と執行の基準を確立すべき」であると主張する。 ミシガン大学医学部生命倫理・医学社会科学センターの共同ディレクターであるKayte Spector-Bagdady氏は、ポリシーガイダンスと同時に発表されたプレスリリースの中で、「健康情報の収集、共有、使用に関するこれらの新しい原則は、AHAの公共政策活動や救命研究へのコミットメントに反映され、透明性、プライバシー、教育、そしてデータ共有における健康の公平性へのコミットメントの必要性を強調するものだ」と述べている。 参照論文: Principles for Health Information Collection, Sharing, and Use: A Policy Statement From the American Heart Association 関連記事: 米司法省/雇用機会均等委員会 -「AIツールによる障害者雇用差別リスク」へのガイダンス AMA 2023年次総会 – AI生成の医療情報から患者を守る新指針 不整脈検出デジタル機器使用に関する臨床指針...

ウェブカメラとAIによる「パーキンソン病の家庭評価」

パーキンソン病(PD)は運動障害を主徴とする神経変性疾患で、指タップ運動(母指-示指をできるだけ速く接触させて離す反復運動)は、PDの運動障害を評価する検査として知られる。米ロチェスター大学の研究チームは、「家庭のウェブカメラを使って指タップ運動などの課題を行い、遠隔環境とAIツールを使ってPDの重症度を評価する研究」に取り組んでいる。 npj Digital Medicineに発表された同研究では、250名の被験者が指タップ運動を実施し、その様子を家庭用ウェブカメラで録画した。医師によるラベル付けを行った後に、動画から診断と評価を行うため、決定木ベースの勾配ブースティングフレームワークであるLightGBMを用いたAIツールを構築した。結果、ウェブカメラの遠隔環境で行った指タップ運動の評価は、院内で行われる試験と同等の性能を示した。また、AIツールによるPD患者の評価誤差(MAE 0.58)は、非専門医の誤差(MAE 0.83)よりも優れており、神経科専門医の誤差(MAE 0.53)に匹敵するレベルであった。 米国では、65歳以上のPD患者のうち約40%が神経科医の治療を受けていないと推定されている。途上国では神経科医の不足がさらに深刻だ。研究チームでは、専門リソースが不足した医療環境で、このようなAIツールの自動評価を利用し、必要時に専門医へPD患者を紹介することで、ツールが社会的に重要な役割を果たすことを期待している。 参照論文: Using AI to measure Parkinson’s disease severity at home 関連記事: 眼球スキャンでパーキンソン病の兆候を7年前に検出 スマートウォッチでパーキンソン病リスクを最大7年前に特定 PDMonitor – 専門家評価に匹敵するパーキンソン病管理用ウェアラブルデバイス

心臓弁膜症の検出を自動化

米イェール大学の研究チームは、心臓の超音波画像の解析により、大動脈弁狭窄症を正確に検出するディープラーニングモデルを構築した。研究成果はこのほど、European Heart Journalから公開されている。 大動脈弁狭窄症は早期発見が重要である一方、ドップラー心エコーとして知られる超音波画像診断が必要となり、特殊な画像診断の性質上、早期発見に向けたスクリーニング手法としては非効率的であり、利用しにくいという現実があった。研究チームは、2016年から2020年の間に行われた17,570件の動画を含む経胸壁心エコー(TTE)検査から、5,257件を用いてディープラーニングモデルを開発した。モデルはテストセットでAUC 0.978、地理的に異なる2病院のデータで、それぞれ0.952、0.942と、外部検証でも高い識別性能を示していた。 チームは、携帯型超音波装置に本モデルを搭載し、疾患の早期発見を促進するための「ポイントオブケア超音波スクリーニング」を実現することを目指している。 参照論文: Severe aortic stenosis detection by deep learning applied to echocardiography 関連記事: Google – AIによるヘルスケアイノベーション Caption Care – AIガイド心臓超音波検査を一般家庭に 心電図AIで心臓発作のスクリーニング能力を向上

Twitterから良質な病理画像データセットを構築

医療画像AIの構築という、先進的かつ専門的な技術タスクに取り組む際、良質なデータセットを見つけることに巨大な困難がある。米スタンフォード大学の研究チームは、SNS「X(旧Twitter)」から、注釈付きの病理画像を収集し、質の高いデータセットとする研究を進めている。 Nature Medicineに発表された同研究によるとチームは、まず32種類のハッシュタグを用いて、2006年から2022年までの病理画像に関するツイートを収集した。返信の文言や量、反応、などからフィルタリング処理を行うなどして、結果的には20万枚以上のテキスト注釈付き病理画像のコレクションを形成している。これを著者らは「OpenPath」と呼んでいるが、人間による注釈が施された公開病理画像データセットとしては世界最大級のものになるという。OpenPathのデータセットを用いて訓練されたAIモデル「PLIP(Pathology Language-Image Pre-training)」は、画像やテキストを入力することで、データベース内の類似した注釈付き病理画像を検索できる。 著者であるJames Zou博士は、「Twitterで質の高い医学知識が共有されていることは意外に思われるかもしれないが、このプラットフォームでは病理医が興味深い画像を共有する非常に活発なコミュニティが構築されている。そのため、Twitterから数十万に及ぶ質の高い病理学関連ディスカッションを収集することが可能だった。AIモデルのPLIPを用いて似たような画像を検索し、その症例を参考にすることで、診断のサポートが行える」と語っている。 参照論文: A visual–language foundation model for pathology image analysis using medical Twitter 関連記事: 病理AIがアジアを救う Qritive – 新たなデジタル病理プラットフォーム 救急医のTwitter投稿に見る「COVID-19パンデミック下の孤独」

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