自殺リスク推定分析の実臨床導入

自殺リスク推定分析は、臨床情報に社会人口統計学的特徴を組み合わせ、特定集団のリスクを定量化するものだ。AI技術の向上に伴って、近年高精度な推定モデルが多数提唱されているが、一方で「この種のモデルを実臨床において日常的に使用すること」に関するエビデンスは著しく不足している。

ワシントン大学、および米国3大健康保険システムの1つであるカイザーパーマネンテなどの研究チームは、2種のモデルを臨床環境に組み込み、どのような影響がみられるかを定量・定性の両面から評価している。JAMA Network Openに掲載されたチームのレター論文によると、モデルによるリスクフラグは、既存ワークフローに加えた「追加的な自殺リスク評価」を臨床医に対して効果的に促せておらず、大きな変化を与えていなかった。また、これらのリスク推定モデルに対する臨床医の懸念として、フォローアップの欠如やEHR関連の非効率性、フラグの信頼性と正確性など導入に関するものが挙がったほか、自殺リスクを知ることで医師としての潜在的な責任が生じることにも懸念が生じていた。患者側では、モデル評価に基づく「強制的な治療介入」や自殺リスクによる「医療アクセスの悪化」などを懸念していた。

著者らは、これらのモデルを有効に実臨床導入することの困難さに触れるとともに、「自殺リスク推定分析は、臨床的判断やスクリーニング、評価方法に取って代わるものではなく、むしろ補強するために設計されていることを強調することで、信頼性と正確性に関する懸念を軽減することができる」としている。

関連記事:

  1. AIモデルは真に有効な自殺リスク予測ができるか?
  2. 銃器売買データから自殺リスクを予測
  3. AIによる「自殺リスクスクリーニングの予測精度向上」
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事