マンスリーアーカイブ 1月 2023
「ICUせん妄」の発症予測
ICUせん妄は、集中治療室(ICU)入室中の成人に起こる急性精神障害で、失見当識や知覚障害、思考錯乱、情緒障害など、多彩な症状を呈する。過活動型のせん妄は症状が強いため医療者にも認識されやすいが、低活動型のICUせん妄はその多くが見過ごされている一方で、患者予後を悪化させる点では過活動型と変わらない点が問題視されてきた。
ジョンズホプキンス大学の研究チームは、電子カルテで日常的に収集される臨床データおよび生理学的データに機械学習を適用し、ICUせん妄を予測できるとする研究成果を公表した。Anesthesiologyから公開された研究論文によるとチームは、全米208病院、20万件を超えるICU滞在データを利用し、この機械学習モデルをトレーニングした。「静的モデル」と名付けられたモデルは、ICU入室後24時間のデータを用い、その後ICU滞在時にせん妄を発症するかを予測するもので、「動的モデル」と名付けられたモデルは経時データから12時間後までのせん妄発症を予測した。性能検証においては前者がAUC 0.73、後者が0.85を示し、ツールの臨床的有効性が示唆される結果となった。
著者らは「臨床データおよび生理学的データで学習した機械学習モデルは、ICUせん妄を予測し、時間的な制約のある中でも動的予測をサポートすることができる」としている。
参照論文:
Predicting Intensive Care Delirium with Machine Learning: Model Development and External Validation
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AIプラットフォームによるICU管理
急性腎障害の早期予測AIモデル
「入院ベッド数の需要」を予測するAIツール
EUと米国がAI協力を強化
欧州委員会と米国政府は27日、バーチャルで行われた式典において「Administrative Agreement on Artificial Intelligence for the Public Good(公益のための人工知能に関する行政協定)」に署名した。この協定は、サプライチェーンの安全保障から新興技術まで、いくつかの優先分野にわたる大西洋横断協力のための常設プラットフォームとして2021年に発足した「EU-米国貿易技術会議(TTC)」の文脈で締結されたものとなる。
欧州委員会の公表によると、ここでは信頼性を測る指標やリスク管理手法など、AI技術の重要な側面についての共同ロードマップを承認している。AIロードマップに基づき、米国とEUの行政府は、気候変動や自然災害といった世界的・社会的課題に対処できる可能性を持つAI研究を特定・開発するため、協力関係を強化するが、5つの最優先分野には「ヘルスケア」も含まれている。現時点で、大西洋を越えて個人情報を含む大規模データを共有するための法的枠組みは存在しないが、今回の協定を基にした「EUと米国のデータ資源共有」の可能性が指摘されている。
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レビュー論文 – COVID-19画像解析へのAI利用
SARS-CoV-2ウイルスによるCOVID-19拡大は、2019年12月の初発生からわずか36カ月で6億7000万人以上が感染に至り、すでに680万人が死亡している。疾患の迅速かつ正確な検出と診断は、世界中で最優先事項となった。研究者たちはCOVID-19検出のためのさまざまな手法に取り組んでおり、特に胸部画像に対するAI利用例は膨大な数となっている。カナダ・カルガリー大学などの研究チームは28日、COVID-19画像解析へのAI利用を包括的に調査したレビュー論文を公開した。
Medical & Biological Engineering & Computingから公開された論文は、COVID-19画像解析に関する最近のアプローチを詳細にレビューし、既存の研究努力の貢献度や利用可能な画像データセット、および最近の研究で使用された性能指標についてなどを調査している。胸部X線(CXR)、コンピュータ断層撮影(CT)画像、肺の超音波画像を中心とする医療画像に対して、AIベースのアプローチによる自動画像分析システムが多々提唱された。ここでは、患者画像からのCOVID-19検出と分類、感染領域のセグメンテーション、重症度評価、患者の経過追跡が含まれ、機械学習、深層学習、転移学習、およびハイブリッドモデルが活用されている。
COVID-19に対して「AIがどのように適用されてきたか」、「現在どのような課題があり、将来の研究領域には何があるか」を包括的に学ぶことのできるレビュー論文となっている。全文を無償で閲覧できるので、関心のある読者はぜひ一度読んでみることをお勧めしたい。
参照論文:
A survey of machine learning-based methods for COVID-19 medical image analysis
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AIによる「Long COVIDサブタイプ」の同定
COVID-19対応に活用されたAIツールの特徴
音声データからCOVID-19を検出するスマートフォンアプリ開発
AI技術による「オリジナルタンパク質」の生成
研究者らは、「ゼロから人工酵素を生成」することができるAIシステムを構築した。実験室における検証では、人工的に生成したアミノ酸配列が既知の天然タンパク質と大きく乖離していても、これらの酵素の一部は自然界に存在するものと同等に機能したとしている。
Salesforce Researchが開発した「ProGen」と呼ばれるAIプログラムは、自然言語処理を応用した「新たなたんぱく質設計技術」を提唱している。ネクストトークン予測によりアミノ酸配列を人工タンパク質に組み立てる同技術は、元来同社の研究者が英語テキストを生成するために開発した自然言語処理モデルをベースとする。研究者らは、2億8千万種類のあらゆるタンパク質のアミノ酸配列をモデルに送り込み、2週間に渡って情報を消化させた後、5つのリゾチームファミリーにおける56,000の配列と、これらのタンパク質に関する情報を入力し、モデルの微調整を行った。
チームは「この新しい技術は、ノーベル賞を受賞したタンパク質設計技術である指向性進化法よりも強力となる可能性があり、治療薬からプラスチック分解に至るまで、ほとんどあらゆる用途に向けたタンパク質開発を実現し、50年の歴史を持つタンパク質工学の分野にさらなる活気を与えるだろう」と述べている。
参照論文:
Large language models generate functional protein sequences across diverse families
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COVID-19症状をタンパク質伝達経路から予測
大規模臨床言語モデル「GatorTron」
AI導入が年間医療費を3600億ドル削減
マッキンゼーとハーバード大学の研究者らによる新しい報告によると、AIが医療においてさらに広く採用された場合、米国では年間最大3600億ドル(46.8兆円)を節約できる可能性があるという。
レポートの中で研究者らは、AIの広範な採用により医療費の5-10%、すなわち年間およそ2000-3600億ドルの節約につながると推定する。驚くべきことに「この試算は今後5年以内に達成可能」としており、医療の質やアクセスを犠牲にすることなく、現実に存在する技術によって実現可能な試算という。民間支払機関は総コストのおよそ7%から9%を削減でき、今後5年間で800億ドルから1100億ドルの年間コスト削減、病院は4%から11%で、年間600億ドルから1200億ドルの節約になると報告書は推定する。
ヘルスケアにおけるAIの潜在的なメリットや、この分野での資金調達の高まりにも関わらず、医師による臨床利用はまだ限定的となる。一方で、食品医薬品局(FDA)は医療用AIツールの認可を加速させており、2022年11月時点で520以上のデバイスを認可している。実環境におけるAIの有効性に関するより多くのエビデンスが顕在化しており、2023年が医療AI導入の変曲点になる可能性がある。
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AIメンタルヘルスチャットボット「Limbic Access」
複数の精神疾患を93%の精度で識別する心理アセスメントAIチャットボットツール「Limbic Access」が、Class IIa UKCA医療機器認証を取得し、英国において医療機器としての展開が開始される。
Limbic Accessは、NHS Talking Therapies(IAPT)が扱う8つの一般的な精神疾患を93%といった高精度で分類することができるAIツール。治療者を支援し、人間主導の臨床評価を補強するという。このチャットボットを開発した英国のヘルステック企業Limbicの共同創業者兼CEOであるRoss Harper氏は「承認プロセスを通して当社の心理評価ソフトウェアは、メンタルヘルスサービスにおけるセラピープロセスを強化する安全かつ臨床的に有効な方法であるという強い証拠を示した。これはメンタルヘルスケアにとって画期的な瞬間だ」と述べた。
これまでに13万人のNHS患者がLimbicのAIチャットボットを使って心理療法にアクセスしており、回復率53%向上、評価時間23.5%短縮、治療中断18%減少、アセスメント待ち時間13%短縮、などの成果を得ている。
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ChatGPTが「論文著者となること」について
ChatGPTの登場により、あらゆる領域で大規模言語モデルの可能性が熱い議論を呼んでいるが、当然、ヘルスケア・ライフサイエンス領域も例外ではない。
マサチューセッツ総合病院・ハーバードメディカルスクールの研究チームは、米国の医師資格試験であるUSMLEの3つのコンポーネントをChatGPTがパスしたとして、プレプリント論文をmedRxivから公開し、話題となった(「Performance of ChatGPT on USMLE: Potential for AI-Assisted Medical Education Using Large Language Models」)。
また直近では幾つかの学術論文において、ChatGPTが「著者として」クレジットされたことも有識者の議論の的となっている。これについて権威ある学術誌のエディターらが声明を出しているが、Science誌のHolden Thorp氏は「我々はAIを著者として記載することは許さず、適切な引用なしにAIが生成したテキストを使用することは、盗用とみなされる可能性がある」としている。
ChatGPTの著者性についてはユーモアや学術的な陶酔があったにせよ、特に安全性が要となる領域においては、致命的なミスリードがエビデンスの集体に組み込まれぬよう、適切な評価フレームワークを慎重に開発し、備える必要があることは間違いない。
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医用画像AI市場は2030年までに209億ドル規模へ
Contrive Datum Insightsが25日に発表した最新の市場調査結果によると、「医用画像処理におけるAI市場」は2030年までに209億ドル(2.7兆円)規模に達するとの見方を明らかにした。2023年から2030年にかけての年平均成長率(CAGR)は36.87%となる。
2022年に17億米ドルと評価された同市場は、患者の健康意識の向上と診断・検査への要求の高まりを背景に急速な発展を見込むという。現時点で市場売上の45%を生み出す北米は引き続き主要エリアとなるが、これは「医用画像AI産業への肯定的な規制、診療報酬体系」の存在、ヘルスケアインフラが進んでいること、1人当たり所得が高いこと、などを要因とする。
同期間における最大の成長率を示すのはアジア太平洋地域で、新技術を利用する人口、ネットワークへの接続性、政府主導プログラムの増加、をその理由としている。現に、医療AIを取り扱う企業数は特に中国とインドで急増していることを指摘している。
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「議会区健康ダッシュボード」をオンライン公開
米ニューヨーク大学(NYU)とロバートウッドジョンソン財団(RWJF)の研究者らは、米国全435の下院議員選挙区(およびコロンビア特別区)ごとの健康データを提供するオンラインツール「議会区健康ダッシュボード(CDHD)」を発表した。
このツールには、乳がんや心血管疾患による死亡数、糖尿病罹患率、住宅の価格、栄養価の高い食品へのアクセスなど、「健康およびその要因に関する36の重要な指標」が組み込まれている。これまで、これらのデータの多くは一般市民がアクセスすることが困難であったり、議会区レベルでは利用できないものだった。CDHDでは、健康や貧困、教育、その他の要因に関するデータを選挙区ごとに閲覧できるだけでなく、選挙区内の人口統計グループごとにこれらの指標を比較することもできる。
主要設計者であるNYUのMarc Gourevitch氏は「議会区健康ダッシュボードは、根拠に基づく政策決定に資するタイムリーで厳格な実用的データを共有する」としており、地域における健康課題特定と対策立案に活用できることを強調している。
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インドにおける医療改革の要はAI
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音声に基づくパーキンソン病スクリーニング
世界中で1000万人以上が罹患する神経変性疾患であるパーキンソン病には、今日現在で根本的で明確な治療方法は得られていない。一方で、早期の疾患検出によって十分なコントロールが可能であるため、簡便で低コストな新しいスクリーニング手法が求められている。
リトアニアのカウナス工科大学(KTU)の研究者Rytis Maskeliūnasは、リトアニア保健科学大学(LSMU)の同僚とともに、音声データを用いた「パーキンソン病における初期症状の特定」を試みている。KTUが23日公表したところによると、防音ブースの中で健常者とパーキンソン病患者の音声をマイクで録音し、AIアルゴリズムに「音声信号から患者識別を行うこと」を学習させたという。以前、同チームが提唱したアルゴリズムよりも高い精度を示しており、研究者らは「このアルゴリズムが高度なハードウェアを必要とせず、将来的にはモバイルアプリに移行できる可能性が十分にあること」を強調している。
LSMU医学部耳鼻咽喉科のVirgilijus Ulozas教授によると、パーキンソン病初期段階の患者は、単調で表現力が乏しく、遅く、断片的でもある静かな話し方をするようになるが、初期に人間の耳でこのような疾患特性を捉えるのは非常に困難だという。AIアプローチがパーキンソン病スクリーニングを革新する可能性が少しずつ高まっている。
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Eligo – 治験迅速化を実現するAIプラットフォーム
米テキサス州オースティンに拠点を持つElligo Health Researchは24日、速やかな「データ駆動型臨床研究」を実現する新しいプラットフォームである「DataAI Connect」を発表した。
スケーラブルでエンドツーエンドのデータプラットフォームであるDataAI Connectは、臨床研究のワークフロー全体の効率化を実現し、ヒューマンエラーを減らすとともに、患者データを迅速に消化して臨床試験を加速させることができるというもの。例えば、臨床試験における医療記録の入手プロセスでは、患者記録を追跡するよう医療プロバイダーに依頼した上で、何百ページに及ぶ医療記録を人間が目視で仕分けるなど、高度に手動的かつノンスケールな作業が伴ってきた。自然言語処理や機械学習を含むAIアプローチに基づくインテリジェントなアプリケーションは、スピードや正確性、品質を向上させ、サイトと患者から負担を取り除くことができる。
電子カルテと臨床データストレージのRWDリポジトリを構築することが大きな特徴で、これに適切なアプリケーションを適用することで、有効で迅速な知見の導出を実現しようとしている。
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EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始
EUは23日、AIを使った技術革新と早期がん診断のさらなる加速のため、がん画像データを大規模に収集・集約する新プロジェクトの開始を明らかにした。
欧州委員会は声明で、この「European Cancer Imaging Initiative」により、臨床医や研究者、その他のイノベーターが「大量のがん画像データに容易にアクセスできる」ようになるとしている。EUのデータ戦略に沿ったこのプロジェクトは、GDPR(EU一般データ保護規則)と呼ばれるEUのデータ保護法に準拠し、プリバシーを保護した上で、国境を越えた相互運用を可能とする安全なインフラ確立を目指す。医学研究のイノベーション、特にAIを利用した新技術開発における「大規模データセットによるトレーニング」を実現しようとする。
EU保健委員会のStella Kyriakides委員は、立ち上げのためのスピーチで「デジタル技術ががんの発症メカニズムに関する理解を変えつつある」と述べた。この新しいデータプロジェクトは、乳がん・子宮頸がん・大腸がんの定期検診を、対象となる欧州住民の90%に拡大するというEUの既存戦略と連携する。
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リンチ症候群患者における大腸がんAIサーベイランス
合成X線画像を生成するAI
生理信号とハイブリッド学習に基づく睡眠障害検出
睡眠障害を早期に診断し、心血管疾患や認知障害などの関連する長期健康リスクを低減するためには、睡眠時覚醒を正確に検出する必要がある。このため睡眠を専門とする医師らは、睡眠ポリグラフ(PSG)記録を分析し、睡眠中の覚醒レベルを判定するために多大な時間と労力を費やしてきた。
イラン・メイボッド大学の研究チームは、PSGに基づく自動睡眠時覚醒検出システムのベースとなる「新しい検出法」を開発し、その成果をComputational Intelligence and Neuroscienceから公開した。動径基底関数(RBF)カーネルを持つサポートベクターマシン(SVM)を最適化するため、修正ドローン隊最適化(mDSO)アルゴリズムが使用されることが特徴。DSOは、大域的数値最適化のための新しい自己適応型メタヒューリスティクスとなる。チームの提唱手法は平均エラー率で2-7%未満であり、5つの睡眠段階への分類については92.3%の精度を示していた。
著者らは「睡眠障害の臨床試験において、PSG信号に基づくハイブリッド学習モデル技術は覚醒検出に有効である」とし、高精度・高効率な新手法の有用性を強調している。
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韓国HoneyNaps社 – 睡眠ポリソムノグラフィ解析AI「SOMNUM」を発売
睡眠時の歯ぎしりを解析するAI研究
マイクロロボットが人類を歯磨きから解放する
Nature論文 – モーションキャプチャとAIによる運動障害モニタリング
英Imperial College Londonの研究チームは、モーションキャプチャ技術とAIを用いた「運動障害の進行をモニタリングする新手法」を開発した。研究論文は2報として19日、Nature Medicineから公開されている(「Wearable full-body motion tracking of activities of daily living predicts disease trajectory in Duchenne muscular dystrophy」「A wearable motion capture suit and...
アイリス「nodoca」- 山梨県で社会実証プロジェクト
AI医療機器開発を手掛けるアイリス株式会社は20日、山梨県の「第3期TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」に採択され、2022年12月より実証実験を開始したことを明らかにした。
今回の実証実験では、2022年12月より販売開始(保険適用あり)したAI搭載の咽頭内視鏡システム「nodoca」を、山梨県立中央病院にて運用し、大規模病院、特に救急外来での有用性を検証しようとする。nodocaは、咽頭画像と問診情報等をAI解析し、インフルエンザに特徴的な所見を検出することでインフルエンザの診断補助を行うAI搭載医療機器。日本で初めて「新医療機器」として承認を取得したAI搭載医療機器でもある。
「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」は、最先端技術やサービスを有するスタートアップ企業等に対し、全国トップレベルとなる補助率3/4、最大750万円の経費を支援するとともに、山梨県全域を実証実験のフィールドとして、産学官金連携のオール山梨体制で伴走支援する山梨県主体の社会実証プロジェクト。
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アイリス・nodoca – 日本初のAI搭載「新医療機器」
症状からインフルエンザとCOVID-19を見分けるAI研究
メンタルヘルスケアにおける「コンテンツレコメンド」
メンタル領域におけるデジタルヘルスを推進するHeadspace Health社は、ウェブベースのメンタルヘルスケアにおいて、「患者個々に最適なコンテンツを提供するためのレコメンドシステム」を実環境で検証した。研究成果は19日、JMIR Formative Researchから公表されている。
チームはスマートフォンアプリとして提供されるメンタルヘルスプラットフォーム「Ginger」において、2種のコンテンツレコメンドシステムを実装し、その効果の違いを検討した。1つ目は、アプリの開始時質問に対するユーザーの回答からコンテンツを推薦するもの、2つ目は実際のコーチングの会話記録、およびコンテンツ上への記述の意味類似性から、セッションごとにレコメンドを行うもの、となる。14,000人を超えるユーザーでの検証の結果、アプリの他セクションにおける平均完了率が37.3%であったのに対し、レコメンドセクションでは42.6%と有意に高率にコンテンツが消費されていた。また、会話ベースのコンテンツレコメンドは、開始時質問ベースのレコメンドよりも完了率が11.4%高く、ランダムレコメンドよりも26.1%高かった。また、年齢と性別がレコメンド方法の違いに敏感であることが観察され、ユーザーが35歳以上か男性である場合、パーソナライズされたレコメンデーションへの反応が高くなることが明らかとなっている。
チームは「有効なレコメンドシステムは、パーソナライズされたコンテンツとセルフケアの推奨を通して、デジタルメンタルヘルスケアのスケールアップと補完に役立つ可能性がある」としており、特に会話ベースのレコメンドアルゴリズムでは、コーチングセッション中に収集した情報に基づいた「ダイナミックなレコメンド」を行うことができ、治療過程でメンタルヘルスのニーズが変化することを考えると重要な機能であることを指摘している。
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メンタルヘルスへのチャットボット – 自殺リスク発言を遺書から学習
病理AIがアジアを救う
世界の病理医の70%がわずか10カ国に集中し、世界人口の47%が病理診断への基本的なアクセスを持たないという状況の中で、「AI支援によるデジタル病理学の発展」には課題解決への期待が大きい。
シンガポール、インド、米国でプレゼンスを確立しているQritiveは、AI病理ソリューションにより、数秒以内に病理全スライド画像の正確な解釈を提供し、治療までの時間を短縮するとともに、がん治療の精度を向上させる。同社プラットフォームは、症例管理やレポート、スライド閲覧と分析、テレパソロジー、シノプティックレポート、LIS統合のためのツール、などをまとめた他に類を見ないものとなる。Qritiveの直近の資金調達は先日、当メディアでも報じている(過去記事)。
がんの有病率は世界的に上昇しているが、2030年には世界のがん患者数の約半分をアジアが占めるとされる。特に深刻な病理医不足を背景にとして、スピードと正確さが求められる病理診断においては、今後さらにAIの果たす役割が拡大することは間違いない。急増する病理AIのプレイヤーたちもまた、アジアへの熱い視線を隠していない。
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QuantCRC – 大腸がんの再発を予測する病理AI
がん位置情報なしで構築可能な病理画像解析AI
PreciseDx -「パーキンソン病の確定診断」への病理AI技術
高速MRIの粗い画像をAIが再構築
ニューヨーク大学とMeta AI Research(旧Facebook)による新しい研究により、高速MRIで撮影した比較的粗い画像を、AIを用いた再構成によって「従来のMRIで生成されたものと同等の診断価値」を持つ高品質な画像に置き換えられることを示した。
17日にRadiologyから公開された研究論文によると、2020年1月から2021年2月の間に、合計170人の研究参加者が、従来のMRIプロトコルに続き、高速AIプロトコルを用いた膝の診断用MRIを受検した。各検査は6人の筋骨格系を専門とする放射線科医によって検討され、半月板や靭帯の断裂兆候、骨髄や軟骨の異常がないかを確認した。画像を評価する放射線科医は、どの画像がAIで再構成されたかを知らされず、また想起バイアスの可能性を抑えるため、標準画像と高速撮影画像の評価は少なくとも4週間間隔を空けて行われた。結果、放射線科医らは「AIで再構成された画像は従来の画像と診断上同等であり、断裂や異常を検出することができる」と判断しており、高速スキャンの全体的な画像品質は従来画像よりも有意に優れているとしていた。
ニューヨーク大学で放射線医学助教授を務めるPatricia M. Johnson氏は、「本研究は、AIによる高速化画像の臨床応用に向けたエキサイティングな一歩だ」と述べ、まさに将来のさらなる革新と進歩への道を開くものとして、技術の発展と臨床導入への期待感を明らかにしている。
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AIRS Medical – MRIの高速化・高品質化技術
DeepMReye – MRIで目の動きを読み取る新たなAI診断ツール
GE Healthcare – MRIから合成CT画像を生成するAIソリューション
低線量CTに基づく「6年以内の肺がん発症リスク予測」
米マサチューセッツ工科大学(MIT)やマサチューセッツ総合病院(MGH)の研究者らは、喫煙歴の有無に関わらず、6年以内に肺がんを発症するリスクを予測するディープラーニングツールを開発した。研究成果はJournal of Clinical Oncologyからこのほど公開された。
研究チームは、米国における低線量CT(LDCT)を用いた肺がんスクリーニングが、「喫煙者や喫煙歴のある人々のみ」を対象として推奨していることを問題視し、一部に高リスク者を内包する非喫煙者群を含めた広範なスクリーニング手段が必要であることを指摘している。ここでは、LDCTスキャンを解析し、喫煙歴の有無に関わらず肺がんリスクを予測するAIツール「Sybil」を開発した。ツールは、National Lung Screening Trial(NLST)の参加者において、1年以内発症についてAUC 0.92、MGHデータセットでは0.86、台湾のデータセットで0.94を示した。また、6年以内発症という比較的長期の予測においても、それぞれAUC 0.75、0.81、0.80と、潜在的な臨床的有効性を示している。
Sybilは、標準的な放射線科読影ステーションのバックグラウンドでリアルタイムに実行できるよう設計され、ポイントオブケア臨床意思決定支援を可能とする。また本ツールはLDCT単独で機能し、他の臨床データや放射線科医によるアノテーションに依存しない点も大きな特徴となる。
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バイエル – Blackford Analysisを買収
製薬大手バイエルは18日、同社の放射線治療におけるイノベーション戦略の一環として、Blackford Analysisを買収したことを明らかにした。Blackford Analysisは英国と米国に拠点を持ち、画像処理および分析に特化した豊富な臨床アプリケーション(ClinApp)エコシステムのインフラとアクセスを提供する医療AI企業だ。
声明の中で、バイエル医薬品部門を率いるStefan Oelrich氏は「BlackfordとそのAI技術を当社の放射線科ポートフォリオに加えることにより、バイエルは世界の放射線科業界全体の中で最も急速に成長しているセグメントにおいて、非常に優れた地位を確保することができる」と述べた。
高齢化とライフスタイルの変化により、心血管疾患やがんを含む慢性疾患が世界的に増加している。結果として、疾患の早期診断や治療方針の決定、治療計画のサポートのため、医療画像に対する需要がこれまでになく高まった。AIには、診断を助け、放射線検査のスループットを向上させるという価値提供が強く期待されている。
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Exscientiaの躍進
BIOVIA GTD – AIで創薬を加速させる
カナリアスピーチ – 患者の声を使ったメンタル評価
米ニューヨークに拠点を置き、AI駆動のメンタルヘルスツールで知られるOPTT Healthはこのほど、ユタ州に拠点を置き、患者音声からメンタル症状を捉えるソリューションを提供するCanary Speech(カナリアスピーチ)とのパートナーシップを発表した。
公表によると、今回のパートナーシップにより、OPTTのAIメンタルヘルスケアツールボックスは、患者が声だけでサービスと対話ができるようになることで、患者体験が向上するとしている。つまり、精神科疾患への対応においても最も大切な「長期的モニタリング」を、よりシームレスかつユーザーフレンドリーに行うことができるようになるという。OPTT HealthのCEOであるMohsen Omrani氏は「効率的なテクノロジーを駆使した医療は、これまでニュアンスや質感に欠ける多肢選択式の問診に頼ることが多かったため、対面での問診のような親密さと正確さを再現することはできていない」とする。
今後は、OPTT独自の自然言語処理アルゴリズムを用いて、メンタルヘルスの課題に関する語りの中から症状発現を示唆する言語を検出するだけでなく、カナリアスピーチの技術により、声の高さやトーンの微妙な変化を検出できるようになる。これらの技術を用いたメンタル評価の合理化・自動化は、人為的なミスを低減する可能性もあり、精神科疾患のリスク検出や診断、治療、フォローアップへの活用が期待されている。
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昆虫の神経回路に学ぶ衝突回避システム
米国では日没後の自動車走行は全体の25%に及ばないにも関わらず、死亡事故のほぼ半数が夜間に発生している。今後、自律走行がより一般的になることを見据えても、暗闇で有効に機能する「低コスト・省電力な新しい衝突回避システム」が求められていた。
ペンシルベニア州立大学の研究チームは、「イナゴやハエなどの昆虫は、派手なソフトウェアやLiDARに頼らなくても、非常にシンプルな障害物回避神経回路を働かせ、夜間でも簡単にお互いの衝突を回避することができる」点に着目し、効果的で安全、かつ消費電力の少ないアルゴリズムの設計を行った。ACS Nanoに掲載されたチームの研究論文によると、ここでは従来アプローチのように画像全体を処理するのではなく、「車のヘッドライトの明るさ」という単一変数のみに焦点を当てている。また、カメラやイメージセンサーを搭載せず、検出部と処理部を一体化することで、検出器全体の小型化とエネルギー効率の向上を実現した。さらもセンサーは、二硫化モリブデン層からなる8つの受光素子「メムトランジスタ」を回路上に配置したもので、その面積はわずか40マイクロメートル、消費電力は数百ピコジュールと、従来の数万分の一に抑えられている。
実際の夜間走行では、車両が衝突する事故を2~3秒前に検知することができており、ドライバーに十分な猶予を与えることができたという。研究者らは「この新しい検出器は既存の衝突回避システムをより良く、より安全にするのに役立つ」と述べている。
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2次元画像から3次元空間を認識するためのAI技術
運転データから高齢ドライバーの認知症を予測するAI研究
医学論文探索AI「Amanogawa」
FRONTEOが開発した論文探索AIシステム「Amanogawa」は、独自AIエンジン「Concept Encoder」により、PubMedに掲載された膨大な論文情報から検索したい情報を一瞬にして抽出・分類し、位置情報として表示することができるもの。調べたい単語や文章、仮説を入力すると、それらに関連する論文が位置情報としてマップ状にプロットされ、論文情報を視覚的かつ網羅的に把握することができる。
FRONTEOは17日、日本ケミファにおいてこのAmanogawaおよび創薬支援AI「Cascade Eye」が導入されたことを明らかにした。 國上敏浩氏(日本ケミファ・創薬研究所所長)は、「近年、新薬開発の成功確率の低下、開発コストの高騰、疾病の原因ターゲット蛋白の複雑化などにより医薬品開発の生産性が著しく低下しており、当社でも様々な切り口での課題解決方法を模索しています。Amanogawa、Cascade Eyeの両システムの導入もそれらの解決策の1つであり、数多存在する論文の網羅的かつノンバイアスな解析による研究員の作業効率化や創薬ターゲット探索、当社所有の医薬品・医薬品候補化合物のドラッグリポジショニングの確度向上に期待しています」と述べている。
FRONTEOは自然言語処理に強みを持つデータ解析企業で、2003年の創業以来、グローバルな事業展開を行ってきたが、2014年からはライフサイエンス分野にも拡大し、業界の注目を集めてきた。
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UCI – 自然言語処理によるEHR分析環境を構築
ARTへのAI利用 – 最適な胚数の予測モデル
2022年の「ドブス対ジャクソン女性健康機構事件」の判決(人工妊娠中絶を認めた1973年の判断を覆し、米合衆国憲法は中絶の権利を保障していないとした)を受け、体外受精(IVF)クリニックと患者家族に大きな課題が生まれている。つまり、今後は「余剰胚の廃棄を違法」とみなす州が出てくる可能性があり、生殖補助医療(ART)への影響が懸念されている。
体外受精のプロセスは一般に、排卵誘発、採卵、卵子受精、胚移植の4つの主要なステップから構成される。このプロセスにおいて胚培養士は、どの胚を移植するか、凍結保存するか、廃棄するかを選択する必要がある。つまり、治療に適していると判断された胚は、最初の胚移植が成功しなかった場合に備えて凍結保存されるが、不適当と判断された胚やその他の理由で使用されなかった胚は廃棄されることになる。
米アマースト大学やハーバード大学などの共同研究チームは、生殖補助技術学会(SART)臨床成果報告システムが保有する会員クリニックのデータを活用し、最適な胚数の予測モデルを構築し、余剰胚の発生を抑制しようとする研究成果を公表した。JAMA Network Openに掲載されたチームの研究論文によると、460,577件の胚移植サイクル情報に基づき、患者の年齢や抗ミュラー管ホルモン値、卵巣予備能、採取卵子数、州などからモデルを構築し、検証を行っている。
結果、全ての卵母細胞を精子にさらすことを推奨する可能性は年齢とともに増加しており、32歳未満の患者における採卵では20.0%未満であるのに対し、42歳以上の患者における採卵では99.0%以上が推奨された。また、全卵母細胞よりも少ない数の卵母細胞をさらすよう推奨されたサイクルのうち、1回の出産に推奨された卵母細胞数の中央値は、32歳未満の患者では7、32~34歳の患者では8、35~37歳の患者では9であった。
著者らは「これらの知見は、予測モデルによって未使用胚の作成数を減らせることを示唆しており、余剰胚の廃棄に関する現在の懸念に対処するのに役立つ可能性がある」とし、さらなる研究の継続を明らかにしている。
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富士通 – 札幌医大と「個人健康データの活用推進」で合意
富士通はこのほど、札幌医科大学附属病院において電子カルテシステムに蓄積された患者の診療データ(EHR)を含む個人健康データ(PHR)を活用する取り組みについて、札幌医科大学と合意に至ったことを公表した。
富士通が明らかにしたところによると、この取り組みでは、医療機関が保有するEHRを患者自身がスマートフォンアプリから閲覧できるヘルスケアデータ基盤を構築し、2023年4月から実際の運用を開始する。これに基づき両者は、PHRデータの利活用を促進させ、患者個々の健康状態に合わせた最適な医療・サービスの提供、および地域医療の発展を目指すとしている。
なお、本取り組みでは、Apple社が提供する「HealthKit」を利用したアプリ開発について、同社の技術的サポートを受けるとともに、患者本人のiPhoneやApple Watchで測定されるバイタルデータをヘルスケアデータ基盤へ集約することも計画する。Appleの支援を受け、電子カルテシステムとAppleのヘルスケアアプリが相互連携する取り組みは、日本初となる。
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Free O2 – COPD患者への自動化酸素療法
Vygon社が開発する「Free O2」は、医療従事者が設定した酸素飽和度を保持するため、酸素の流量を自動調整することのできるモニタリングデバイスだ。同社は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者におけるこの自動化酸素療法がもたらす影響を検証し、結果を公開している。
Vygonによると、500人以上のCOPD患者を対象とした検証により、手動モニタリングと比較して「最適な酸素飽和度へのコントロール」が56%改善していたほか、21%のコスト削減を実現したとしている。また、低酸素や高酸素に伴う合併症の発症を抑制し、COPD患者の入院期間を30%短縮することができた。これまでマニュアルで調整していたプロセスから医療従事者を解放するとともに、臨床アウトカム・医療経済の両面を改善するシステムには大きな期待が集まる。
Vygonでビジネス開発マネージャーを務めるBeverley Jones氏は「直感的なタッチスクリーンにより、医療スタッフはFreeO2をすぐに使いこなすことができる。この技術により、患者の離床をより迅速に行うことができ、集中治療室への搬送を減らすことができる」とした上で、スタッフの直接的な負担軽減と、血中酸素飽和度に関する臨床プロトコルを遵守していることの安心感を得られる点を強調している。
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インド工科大学 – アジア最大の医療機関と研究提携
インド工科大学(IIT)カンプール校はこのほど、アジア最大の医療機関であるApollo Hospitals Groupとの研究提携について合意したことを明らかにした。これは、AIの臨床応用を中心として、相互に関心を持つ「医療とテクノロジーの融合」をさらに加速させるものとなる。
Apollo Hospitals GroupはApollo Research and Innovations(ARI)を保有しており、20年以上に渡って医学研究を先導してきた歴史がある。特に近年は医療AIに強い関心を示しており、種々の生活習慣病リスクを推定するAIアプリケーションをインドにおいて最初に臨床導入したほか、複数のAIシステムの臨床研究を推進している。IITが明らかにしたところによると、「Apollo Hospitals Groupは次世代の医療従事者育成にも積極的に取り組んできた」としており、IITカンプール校との提携によって、同グループが持つエコシステムにさらなる教育・研究の機会を提供できる可能性も指摘する。
IITカーンプル校のAbhay Karandikar教授は、「国家的に重要な教育研究機関であるIITカーンプル校は、Apollo Hospitals Groupとの提携により、インドのヘルスケアシステムを強固で自立したものにするための、医療AIを中心とした多様なイノベーションを実現することを想定している」と語る。
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心血管系医療へのAI活用
心血管疾患(CVD)は、1990年から2010年にかけて年齢調整死亡率が21%減少したにも関わらず、世界の死亡者数は31%増加している(参照論文)。効果的な管理を難しくしている要因として、CVD患者の4人に1人が5つ以上の合併症を持つことが挙げられる。多病態患者群の理解を進め、個別化治療戦略を実現するものとして、AIを含むデータ駆動型アプローチに大きな期待が集まっている。
European Heart Journalから11日公開された論文では、特に心血管医療に着目し、AI技術をヘルスデータに適用することの意義と理由をまとめ、当該アプローチを臨床データセットに対して適用し、日常診療に関連する新しい知見につなげるための明確な事例を紹介している。技術を医療関係者に広く開放しようとする本報は、機械学習手法の選択に関する技術的基礎にまで触れており、循環器系疾患へのAI活用を考える読者にとって有益な論文となっている。
Artificial intelligence to enhance clinical value across the spectrum of cardiovascular healthcare
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皮膚パッチによるヘモグロビンモニタリング
米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、ヘモグロビンを含む深部組織の生体分子をモニターできる光音響パッチを開発した。研究成果はこのほど、Nature Communicationsから公開された。
チームが開発した光音響パッチは、表皮下数センチに及ぶ深部組織において、ミリメートル以下の空間分解能で「ヘモグロビンの3Dマッピング」を行うことができるというもの。非侵襲的な継続モニタリングを実現するこの技術によって医療者は、悪性腫瘍や各臓器の機能不全、脳や腸管における出血など、患者の生命を脅かす重篤な変化を一早く捉えることができるようになる。
光学的選択性があるため、異なる波長のレーザーダイオードを統合し、検出可能な分子の範囲を拡大することもでき、さらに広範な臨床応用の可能性が期待されている。
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オーダリングシステムの再設計が検査リソースを節約
米イェール大学などの研究チームは、希少な検査リソースの最適な利用を実現するため、検査オーダーシステムにおけるリデザインの実臨床影響を評価した。研究成果は、The Journal of Applied Laboratory Medicineからこのほど公開された。
チームの研究論文によると、ガイドラインを遵守させるようなオーダーシステムを設計し、導入前後で医師のオーダー傾向にどのような変化が起こるかを観察している。期間中、5万件を超える救急部受診があったが、有症状者に対する複合感染症検査(COVID-19・季節性インフルエンザ・RSウイルス)は100人当たり11.4件から5.8件と有意に減少し、非複合検査の実施割合が増加していた。研究者らは、この取り組みによって毎週約437個の検査用カートリッジが節約できたことを明らかにしている。
サプライチェーンの制約により、希少な検査リソースの最適な割り当てが必要とされる中、EHRオーダーにおけるシンプルな再設計は、感染症検査に関するガイドライン遵守率の向上と関連することを本研究成果は示している。リソースの利用可能性が常に変化する状況においては、臨床医への教育だけでは十分ではなく、むしろ、既存のワークフローにシステムベースの介入を組み込むことで、リソースをより適切に調整し、地域社会の検査ニーズに対応することができる点を強調している。
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