年間アーカイブ 2023

CareCloud – 小規模診療所への生成AIツール導入

CareCloudは先週、Google Cloudと協力し、外来診療所やその他の中小医療提供者に生成AIツールを導入することで、臨床的意思決定と業務効率の改善を支援することを発表した。 CareCloudは、Vertex AIやGenerative AI App BuilderといったGoogleのサービスを利用することで、大規模病院や大手医療システムで利用されつつあるのと同等のAI対応ツールを、小規模診療所の医師らにも提供しようとする。CareCloudによれば、同社の生成AIツールは、臨床医が治療計画を立案するために、過去の臨床履歴や現在の症状に基づき、投薬や検査、診断、処置などの関連情報を提示する。また、推定される診断と患者の保険情報に基づいて、保険から支払われる費用と患者の負担額を診療所と患者に示すことで、運用と収益サイクルのニーズを支援することができるとしている。 Googleのセキュアなデータストレージ、プライバシー管理に対するHIPAA適合サポートにより、「生成AIによる責任あるアプローチ」が可能となるという。「医療提供者は、偏った内容や検証されていない内容がないかモデルの応答をレビューし、不適切な出力を避けるようモデルをチューニングすることができるようになる」と述べている。 関連記事: 生成AIがCOVID-19治療薬の創出を加速させる 消費者は「生成AIによるコンテンツ」を信頼する Google Cloud – 生成AI利用でメイヨークリニックと提携

コロラド小児病院が小児精密医療研究所を立ち上げ

米コロラド小児病院は26日、AIを含む革新的技術を用い、ゲノムデータをはじめとしたビッグデータの活用成果を患者ケアプランに統合することを目指した「精密医療研究所(Precision Medicine Institute)」の開設を明らかにした。 個別化医療やゲノム医療と密接に関連する精密医療は、疾患の根本的原因に対処するために最新の技術と情報を利用するもので、専門家がより的確な診断を下すことで、的を絞った治療計画、より良い転帰および治癒可能性をもたらすもの。コロラド小児病院の専門家らは、小児がん、希少神経変性疾患、嚢胞性線維症、心筋症、神経筋疾患、遺伝性疾患、代謝性疾患など、数多くの小児疾患に対する新しい精密医療アプローチのパイオニアでとして知られる。 同院で最高医学責任者(CMO)を務めるDavid Brumbaugh医師は、「我々の精密医療への投資は、将来の医療と患者ケアの原動力となるという点で、非常に重要だ。我々は医療のあり方を進化させ、患者とその家族にとって最適なケアアクセスを提供するために尽力する」としている。 関連記事: 小児呼吸器感染症の「入院時病原体予測」 小児結核の診断プロセスを変革するAI技術 小児がんサバイバーのQOL予測モデル

医学生は医療AIに何を期待し、何を学びたいか?

医療分野でのAI利用が急速に進むなか、医師を目指す医学生たちはAIについてどの程度理解し、その適用をどう評価しているか。また、研修に何を期待し、カリキュラムに何を取り入れるべきと考えているのか。これらの疑問に対して、ドイツのテュービンゲン大学の研究チームは、「医学生のAIに対する認識と教育に対する期待」についての調査を行った。 medRxivで公開されている同研究では、ドイツ国内の58名の医学生を対象にアンケート調査を行っている。医療AIに関する信頼性を5段階の尺度で評価すると、「AIは頼りになる」「技術的に有能である」と感じる一方で、「特別に信用できるとは感じていない」との結果が得られた。医学生たちは「医療AIの可能性に興味を持ち」「もっと学びたい」と考えており、特にAIの「操作方法」「倫理」「適用分野」「信頼性」「リスク」に関する教育を支持していた。 研究者らは、「AIの急速な進歩と、医療分野での可能性を考えると、医学生が医療AIに対して強い関心を持つのは驚くべきことではない」と述べている。さらに、「医学生が将来の臨床でAIを効果的かつ倫理的に利用するための知識とスキルを身につけ、アルゴリズムの限界と潜在的な偏りを理解することが重要だ」と説明している。 参照論文: Medical Students’ Attitudes toward AI in Medicine and their Expectations for Medical Education 関連記事: 医学部教育におけるAI利用の可能性と課題 シダーズ・サイナイ – AI教育研究センターを立ち上げ ネパールの医学生における「AIへの意識

Statara社の世論調査 – AIの利用可能性に戸惑う米国民

医療AIの可能性に期待が寄せられつつも、不確実性などへの懸念からAIの社会への影響に戸惑いを感じている人々もいる。米国でデータコンサルティング事業を展開するStatara社は、新たな世論調査によって「AIの応用可能性に対する米国民の混乱状況」を明らかにしている。 Stataraが26日に公表した無作為オンライン調査によると、日常生活におけるAIの利用は、私たちの生活を「良くする(30%)」、「分からない(31%)」、「悪くなる(38%)」という回答結果を得ており、米国民の間で意見が大きく分かれていることが明らかになった。さらに、AIの将来的な利用については、回答者の混乱はさらに大きく、60%以上の回答者が「AIは医療の結果を改善する」「日常業務を自動化できる」と考えている一方で、「AIが将来的な雇用喪失の原因となることを心配している(75%)」、「ディープフェイクを懸念している(68%)」など、AIの活用に対する懸念も依然として根強いことが示された。 Statara社のBryan Whitaker氏は、「AIに対する規制と政策が検討される中で、国民の懸念に対処すべき課題が増えつつある。今回の調査結果は、AIの利用に警戒する国民との信頼関係をどのように築いていくべきかを示唆している」と語った。 関連記事: 消費者は「生成AIによるコンテンツ」を信頼する 医療AIへの信頼性を探る – GEヘルスケア「Reimagining Better Health」レポート AI医療に対する患者の信頼度調査

ChatGPTを契機としたAI規制強化

オーストラリア医師会(AMA)は、パースにある病院勤務の医師らに対し、ChatGPTを使って医療メモを書かないよう警告を発するとともに、医療業界におけるAIの使用に関する強力なルールと透明性を求めた。 AMAは、連邦政府が発表した「安全で責任あるAIに関するディスカッションペーパー」に関する資料の中で、「オーストラリアはAI規制において他国に遅れをとっている」と述べた上で、患者と医療従事者を守り、信頼を得るためにはより強力なルールが必要であることを指摘する。これは本年5月、パースのSouth Metropolitan Health Serviceにある5つの病院が、ChatGPTによる患者のカルテ作成を中止するよう勧告されたことに基づくもの。 AIの保護には、臨床医が最終的な決定を下すこと、AIを使った治療や診断について患者によるインフォームドコンセントを確保することが含まれるべきであるとしている。AMAはまた、患者データは保護されなければならず、システムが健康格差の拡大につながらないよう、適切な倫理的モニタリングが必要であることにも言及している。 関連記事: 医療AI規制の「分散型アプローチ」 AIの脅威に対して医療者が果たすべき役割 医療AI導入を促進するためのコミュニケーション戦略

ロボット説教師は信仰心と寄付を失うか?

AIとロボットの進化は、宗教の領域にも波及している。例えば、京都の高台寺ではアンドロイド観音「マインダー」が祀られ、サラウンドサウンドやプロジェクションマッピングを活用して般若心経の説法が行われている。米国などの国際研究チームは「ロボットやAIによる説法が信仰心や寄付にどのような影響を及ぼすのか」を調査した。 この研究はJournal of Experimental Psychologyに掲載されており、3つの実験を扱っている。1つ目の実験では、高台寺で「マインダー」または「人間の僧侶」から説法を聞く被験者に対して1,000円を与え、100円単位で任意のお布施を求めた。結果として、マインダーからの説法を受けた群は、人間の僧侶からの説法を受けた群よりもお布施の額が少なく、また、マインダーに対する信頼度も人間の僧侶より低かった。 2つ目の実験では、シンガポールの道教寺院で「人間の道士」から説教を受けた群と、人型ロボット「ペッパー」から説教を受けた群との比較を行った。ここでも1つ目の実験と同様、ロボットによる説教を受けた群は信頼度が低く、寄付額も少なかった。 3つ目の実験では、米国のキリスト教徒がオンラインで説教を読む際、その説教が「人間の宣教師が記した」と伝えられた群と、「高度に発達したAIが記した」と伝えられた群とで比較した。その結果、AIによる説教と伝えられた群の信頼度はやはり低かったことが示されている。 本論文の著者であるシカゴ大学のJoshua Jackson博士は「ロボットやAIプログラムは、真の意味での宗教的信念を持つことはできない。そのため、宗教において、人間の指導者よりもテクノロジーに頼るようになると、信徒からの信仰度が低下する可能性がある」と述べた。 参照論文: Exposure to Robot Preachers Undermines Religious Commitment 関連記事: 消費者は「生成AIによるコンテンツ」を信頼する AI医療に対する患者の信頼度調査 米国成人の60%がヘルスケアAIに不快感を抱く

Hippocratic AI – 1500万ドルを追加調達

医療特化の大規模言語モデルを開発する生成AIスタートアップのHippocratic AIは、新たに1500万ドル(約21億円)の資金調達を行った。これにより同社は、本年5月の立ち上げ以降、シードラウンドの総額として6500万ドルを調達したこととなる。 米カリフォルニアを拠点とする同社は今後、医療システムやデジタルヘルス企業と提携し、技術開発の先導、ユースケースの確立、安全性の検証、専門家フィードバックからの強化学習、データガバナンス、モデル安全性委員会への参加などを進める予定。同社のパートナーには、Cincinnati Children's Hospital、Universal Health Services、HonorHealth、Vital Software、ELNA、Sondermind、Capsuleが含まれる。 ChatGPT成功の影響により、領域特化で差別化した大規模言語モデルを取り扱うスタートアップが急増した。医療領域においてもHippocratic AIのほか、米ボストンを拠点とするGenHealth AIなどが話題を集めている。 関連記事: Hippocratic AI – 医療向け大規模言語モデルの構築 Googleの医療AIチャットボット – 臨床環境で試験運用 大規模言語モデルの利用に対するWHOの懸念

低線量CTを用いた死亡リスク予測AI

米国予防医療専門委員会は、長年に渡る喫煙者など肺がんリスクの特に高い50-80歳に対して、胸部低線量CT(LDCT)を用いた年1回の肺がん検診を推奨している。この画像データを利用し、肺がんや心血管疾患による死亡リスク予測を改善できることが報告されている。 北米放射線学会(RSNA)の学術誌Radiologyから25日発表された研究論文によると、National Lung Screening Trialから抽出した2万人以上のCTスキャンを使用し、測定された体組成値を含めることで、肺がんや心血管疾患、全死因死亡のリスク予測が改善されることが示された。特に「筋肉内の脂肪」に関連する測定値は、死亡率の強い予測因子となっていた。骨格筋に脂肪が浸潤している状態は、筋肉量の絶対的減少よりも健康転帰の不良を予測することが先行研究から知られているが、これはこの種の知見にも沿うものとなる。 肺がん検診に用いられるLDCTによる体組成測定は、ある目的のための撮影画像が他疾患に関する情報を提供する「日和見的スクリーニング」の一例である。今後、単一画像の多面的評価は進むものとみられ、これを支える画像解析技術としてのAI利用には期待が大きい。 参照論文: AI Body Composition in Lung Cancer Screening: Added Value Beyond Lung Cancer Detection 関連記事: GEヘルスケア – AI搭載CTシステムを3000万ドルで受注 低線量CTに基づく「6年以内の肺がん発症リスク予測」 CTから冠動脈の血流低下を予測するAI

プロンプト設計でChatGPTの病歴要約能力が向上

大規模言語モデル(LLM)のパフォーマンスは、「プロンプト」と呼ばれる指示文に大きく左右される。この課題に取り組むため、米スタンフォード大学とデューク大学の研究チームは、「プロンプト設計の改善を通じて、ChatGPTによる患者病歴要約の質を向上させる」という研究を行っている。 JAMA Internal Medicineにリサーチレターとして掲載された同研究では、タイプの異なる胸痛患者3例についてChatGPTによる病歴要約を試みた。初めに、各症例について10個の病歴要約を作成し、エラーの有無を確認し、プロンプトを修正する、というプロセスを2回実行した。最終ラウンドで生成された各病歴要約に対して、内科レジデントが作成した4つの病歴要約を比較の対象として、30名の内科医が盲験評価を行った。病歴の詳細度、簡潔さ、構成に関する合計15点の評価を行った結果、レジデントによる作成(平均12.18点)に対して、ChatGPTによる作成(平均11.23点)は、わずか1点未満の差しかなかった。なお、要約者がレジデントかChatGPTかの識別精度は61%であった。 初期の質の低いプロンプトでは、患者の年齢や性別など、ソースに存在しない情報を作り出す「幻覚(hallucination)」現象が観察された。研究チームは、LLMが臨床環境で安全に使用されるためには、臨床医とAI開発者が密接に協力し、堅牢で最適化されたプロンプトの設計が必要であると指摘している。 参照論文: Comparison of History of Present Illness Summaries Generated by a Chatbot and Senior Internal Medicine Residents 関連記事: ChatGPTの医学的エビデンス要約能力 大規模言語モデルがEBMを推進する TachyHealth – 会話型AIによる医療コーディングシステム

ChatGPTの医学的回答は人間とほぼ識別不可能

チャットボット技術の進歩は、患者・医療者間のコミュニケーションを支援する可能性を示しているが、より踏み込んだ「臨床的役割」を果たすには慎重な検証が必要となる。米ニューヨーク大学の研究チームは、「医療に関連する質問におけるChatGPTの回答が、人間の回答とほとんど区別がつかない」とする研究結果を報告した。 JMIR Medical Educationに掲載された同研究では、電子カルテから抽出された代表的な患者の質問10項目に対し、回答の半分は人間の医療者が、残り半分はChatGPTが人間の回答と同等の語数で作成した。18歳以上の392名に及ぶ被験者にこれらの質問と回答を提示し、回答がAIによるものか人間によるものか判断させる「チューリングテスト」を行った。その結果、被験者はChatGPTの回答を65.5%(1284/1960件)、人間の医療者の回答を65.1%(1276/1960件)の割合で正しく識別した。これは、ChatGPTの回答と人間の回答をほぼ区別できないことを示唆している。 さらに、ChatGPTの回答への信頼度を「1.全く信頼できない」から「5.完全に信頼できる」の5段階で評価させたところ、平均スコア3.4であった。特に、予約スケジューリングや保険に関する事務的な回答への信頼度が高く(平均3.94)、一方で、より複雑なタスクである診断に関する回答(平均2.90)や治療に関する回答(平均2.89)への信頼度は低下していた。研究チームは、チャットボットの役割が管理業務からより臨床的なものへと移行するにつれて、患者とチャットボットとの相互作用を評価することの重要性を強調している。 参照論文: Putting ChatGPT’s Medical Advice to the (Turing) Test: Survey Study 関連記事: 「市民が抱く健康課題」へのChatGPTの回答能力 ChatGPTの回答が患者により好まれる可能性 ChatGPTが「乳がん関連の健康アドバイス」で有効性を示す

AIカルテスタートアップ – エラー対応に人間を使う

AIを活用した医療書記ツールを提供するDeepScribe社は、200人の人員を投入し、診察記録を聞き取り、AIのエラーを修正するプロセスを踏んでいるという。 DeepScribeの医療書記プラットフォームは、現在1,000人を超える医師や医療提供者によって利用されており、診察中における患者との会話を記録し、書き起こし、医師のメモとして記録することができる。2017年の創業以来、ベンチャーキャピタルから3730万ドルの資金を調達しており、本年の売上は650万ドルに達する。一方、用いられるアルゴリズムはしばしばエラーを起こすことが知られ、薬剤の記載ミスや支離滅裂で無意味な文章の追加など、患者に関する誤った情報を提供しているという。 The Wall Street Journalの報道によると各ノートは、不正確な投薬情報や誤ったICD-10コード生成などのエラーに対処するため、人間の請負業者によってレビューされているという。レビュアーはICD-10のトレーニングは最低限しか受けておらず、報告書のコードを確認するのは医師や医療スタッフに頼っている事実を指摘する。人間の作業員がノートを確認することで、AI単独に比べて精度は15ポイント上昇して95%となったが、医療記録には患者の機微情報が含まれるため、これには一定の倫理的問題も含まれている。 関連記事: DeepScribe – AIで医療文書作成ワークフローを変革 Ambience Healthcare – AI医療書記ツールを発売 医療者は勤務時間の3分の1を文書作成に費やす

遠隔医療がミシガン州のケアアクセスを変革

米ミシガン大学の研究チームが公開したレポート「Telehealth in Michigan」によると、わずか3年の間にミシガン州に住む何百万人の人々が、遠隔医療の恩恵を受け「PCや電話を通じて医療者と効果的につながることができるようになった」という。 レポートによると現在、ミシガン州においては総受診の11-17%がバーチャルで行われているが、COVID-19パンデミック前には1%にも満たなかったという。特に、メンタルケアに遠隔医療が果たす役割が大きいこと、また医療機関の数が乏しい38の郡で特に有効となっている事実も分析によって明らかにしている。一方、ブロードバンドインターネットの普及が進まないエリアでは、遠隔医療利用も進んでいないなど、医療アクセスの格差が広がっている可能性も指摘する。 研究チームを率いたChad Elllimoottil医師は、「あらゆる地域で、ミシガン州民がコロナウイルスへの曝露を減らすという当初の目的だけでなく、利便性のために遠隔医療を受け入れていることは明らかだ」とした上で、「遠隔医療の将来は保険適用だけでなく、インターネットアクセスの拡大やメンタルヘルスプロバイダーの供給に関しても、政策立案者らが下す決断にかかっている」と述べている。 関連記事: 「遠隔患者モニタリングツール」はさらなる普及へ 英政府 – 2100万ポンドで脳卒中AIを全面導入 Vital – 患者のケア参加を促すAIプラットフォーム

少数派コミュニティのための責任あるAI実装

ChatGPTをはじめとする最新のAIツールは、健康管理の民主化をさらに推進する可能性を秘めている。しかし、これらのAIツールを少数民族の健康管理に利用する際、既存の格差を広げる可能性があるとの懸念を、英レスター大学およびケンブリッジ大学の研究者たちは示唆している。 Journal of the Royal Society of Medicineから公開された研究では、AIモデルのトレーニングにおける少数民族データの欠如や研究参加者の不足を指摘している。さらに、AIモデル開発が主に行われている高所得国と、低中所得国(LMICs)との間で健康格差が広がることに関する懸念も示されている。公表されている研究の大部分では、LMICs特有の健康問題への配慮は後回しになっており、全く異なる集団のデータに基づいた助言がLMICsの人々に提供されるリスクがあるとする。 研究チームは、健康格差を克服するための解決策として、AIモデル開発に使用するデータの明確な説明、被験者募集の改善、民族情報の記録、といった手法を提案している。論文の著者であるレスター大学のMohammad Ali氏は、「公表済みの研究に既に偏りが存在するならば、将来のAIモデルはそれらの偏りを保持し、さらに拡大させるリスクがある。進歩を止めることは出来ず、止めるべきでもないと認識した上で、我々は慎重に行動しなければならない」と語った。 参照論文: Addressing ethnic and global health inequalities in the era of artificial intelligence healthcare models: a call for...

いつ誰が減量プログラムから脱落するか?

オーストラリアでは成人の67%が体重過多または肥満の状態にあり、国内における疾病負担の約8%が肥満、約5%が食事リスクに起因しているという。これらの健康リスクを軽減するため、「デジタル行動介入プログラム」の導入が進められている。しかし、プログラム参加者が「いつ」「なぜ」中断してしまうかという問題は未だ解決していない。 オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の研究チームは、オンライン減量プログラムの脱落者を予測するAIを開発し、その研究成果をJournal of Medical Internet Researchで発表した。この研究では、商業的なオンライン減量プログラムに参加した59,000人以上のデータが解析され、機械学習によりプログラム参加者の脱落時期を、開始から3週目以降に正確に予測できることが示された。脱落の予測に重要であった特徴量は「ユーザーの総活動量」、および「前週の体重入力の状況」であった。 論文の著者であるGilly Hendrie氏は、「過去の習慣は将来の行動を予測する。その行動がいつ始まるか予測し、プログラムへの愛着を再び高めて適応させることができれば、長期的な変化をもたらす手助けができる」と述べた。 参照論文: Predicting Disengagement to Better Support Outcomes in a Web-Based Weight Loss Program Using Machine Learning Models: Cross-Sectional Study 関連記事: Lark...

AI研究に対して個人が1000万ドルを拠出

米ニューヨーク州最大の医療グループであるNorthwellと、その傘下研究施設であるファインスタイン医学研究所はこのほど、医療格差の特定・対処に関するAI技術開発の支援を目的に、1000万ドル(約13.9億円)の資金提供を受けたことを明らかにした。 公表によると、Rechler夫妻からの提供資金により、ファインスタイン医学研究所の健康システム科学研究所内に「Scott and Debby Rechler Center for Health Outcomes」を設立する。ここでは大規模データモデルの開発を推進し、先端のAIツールを活用することで、医療格差や患者危険因子を特定・対処することを目指すという。 NorthwellでCEOを務めるMichael J. Dowling氏は「スコットとデビーの支援によって、我々は現存する健康格差に、今日行われていない方法で取り組むことができる。これは、毎年何百万人もの命を救うことにつながる。医療改革を担うこのセンターの設立を通して、何が可能であるかを彼らが信じてくれたことに心から感謝している」と述べた。 1100万人に及ぶ住民に対して、年間数百万件の診療機会を提供する巨大医療グループは膨大な患者データベースを保有しており、これを活用したAIモデル研究の推進が期待されている。 関連記事: 自己監視と自動更新により「性能を維持する予後予測AI」 AIへの投資を拡大する米医療システム ニューヨーク最大のヘルスシステムが狙う医療DX

先天性障害リスクのある薬剤を予測するAIモデル

米国では、出生児の約33人に1人が何らかの先天性障害を持つとされるが、その多くは未だ原因が明らかではない。特定の化学物質が妊娠中に体内に取り込まれた場合、先天性障害のリスクが高まる可能性も指摘され、これらには医薬品、化粧品、食品、環境汚染物質などがある。米マウントサイナイ医科大学アイカーン校の研究チームは、「先天性障害リスクを抱えながらもその危険性が分類されていない医薬品を予測するAIモデル」の開発を進めている。 Communications Medicineに発表された研究では、先天性障害に関連する様々な医薬品情報を一元化するAIモデル「ReproTox-KG(生殖毒性ナレッジグラフ)」を構築した。このモデルは半教師あり学習を用い、胎盤を通過して先天異常を引き起こす可能性のある30,000種類以上の低分子化合物を評価し、薬剤誘発性の異常を説明し得る500種以上の要素を特定できたという。 著者のAvi Ma’ayan博士は「我々は、新薬が広く販売され流通する前に、先天性障害のリスクについて警告することを目指して研究を進めた。将来的に、米国食品医薬品局(FDA)や米国環境保護庁(EPA)のような規制当局が、新薬や新規化学物質のリスク評価にこの手法を活用することを期待している」と語った。 参照論文: Toxicology knowledge graph for structural birth defects 関連記事: 抗結核薬の副作用をAIで予測 血液検査で出生前に先天性心疾患を識別 抗コリン薬の副作用リスクを評価するAIツール

カプセル内視鏡検査のディープラーニング解析

クローン病は原因不明の炎症性腸疾患で、我が国では指定難病に相当する。口から肛門に至るまで、全消化管に潰瘍などの病変が起こり、症状の寛解と再燃を繰り返すことが特徴となる。Therapeutic Advances in Gastroenterologyにこのほど掲載された研究では、新たにこのクローン病と診断された患者に対して施行したカプセル内視鏡(CE)動画に基づき、ディープラーニングモデルによって生物学的製剤の必要性を予測できる可能性が示されている。 CEはカプセル型の内視鏡で、内服薬のように水と一緒に飲み込むことで行う検査。CEは消化管の動きに沿って移動しながら、消化管内を撮影・記録することができる非侵襲的検査となる。研究論文によると、Intelやテルアビブ大学などの研究チームは、診断から6ヶ月以内にCEを受けたクローン病患者101人の動画データを利用し、生物学的製剤の必要性を予測するディープラーニングモデルを構築した。このモデルはAUC 0.86を示し、治療法の決定において有効な意思決定支援を行える可能性を示唆している。 研究チームは「新たにクローン病と診断された患者のCE画像をDLベースで解析することは、どの患者に生物学的治療が必要かを判断する正確な予測法として役立つ」と結論付け、今後の追加検証を進める旨を明らかにしている。 参照論文: Spatiotemporal analysis of small bowel capsule endoscopy videos for outcomes prediction in Crohn’s disease 関連記事: デンマークが「AI支援大腸内視鏡検査を推奨しない」理由 AIが「大腸内視鏡検査の精度バラつき」を防ぐ 大腸内視鏡AI導入は年間370億円を削減する

「NLPモデルによるメッセージ分類」がCOVID-19治療を強化

米エモリー大学とジョージア工科大学の研究チームは、自然言語処理(NLP)を用いた患者メッセージの分類により、COVID-19治療の強化と迅速化につなげられる可能性を明らかにした。 COVID-19の流行とそれに伴う遠隔医療の普及が進み、米国では「患者によるEHRメッセージの送信」が200%以上増加したという。この種の電子メッセージは医師・患者間のコミュニケーションを改善する可能性があるが、大量のメッセージは効率を低下させること、医師の燃え尽きにつながるリスクなどが指摘されてきた。JAMA Network Openに掲載された研究論文によると、医師に対して「自宅検査の結果、COVID-19が陽性であったこと」を伝える患者メッセージを抽出し、治療プロセスを改善するNLPモデルをチームは開発した。このモデルは、94%の精度で患者メッセージを正しく分類でき、結果的にモデル利用無しと比べて医療者からより迅速な返答が得られること、5日以内に抗ウイルス薬の処方を受けられる可能性が有意に高まったこと、などを明らかにした。 エモリー大学医学部の学生で、本研究の筆頭著者であるNell Mermin-Bunnell氏は「我々は、自然言語処理が、COVID-19検査陽性を報告する患者のメッセージを正確かつ瞬時にトリアージし、患者の治療アクセスを改善するのに役立ったことに興奮した」とした上で、モデルがCOVID-19以外にも適用できる可能性があることを強調している。 参照論文: Use of Natural Language Processing of Patient-Initiated Electronic Health Record Messages to Identify Patients With COVID-19 Infection 関連記事: テキストメッセージから「認知の歪み」を自動検出 テキストメッセージのNLP解析 – 増悪する若年者メンタルヘルス ...

OSAIRIS – 「がん放射線治療の待機時間」を短縮するAI技術

がん放射線治療計画における「セグメンテーション」は、がん周囲の健常組織を放射線の影響範囲から避けるため、臓器の輪郭を描く重要なステップとなる。しかしこの工程は患者1人あたり20分から3時間を要することもあり、「がん患者における治療待機期間の延長」という問題を引き起こしている。英国民保健サービス(NHS)は、この課題に対応すべく、AI技術の導入を進めている。 ケンブリッジ大学が主導する研究によると、新たに開発されたAIツール「OSAIRIS」は、専門医を支援して治療計画を作成することで、医師単独の作業時間よりも約2.5倍早く放射線治療計画を立てることを可能にするという。医師とAIの作業の違いが見分けられるかチェックする「チューリングテスト」を用いて成果を比較した結果、その違いは判別不能であり、OSAIRISの医学的安全性は十分な水準にあるとする。 現在、前立腺がんと頭頸部がんに用いられているOSAIRISだが、その提供範囲は今後、他のがん種へと拡大が予定されている。ケンブリッジ大学病院のRaj Jena氏は、「クラウドベースのAIツールであるOSAIRISは、多くの作業をバックグラウンドで実行し、がん専門医の作業負担の大部分をこなすことができる。現在、胸部で機能するモデルに取り組んでおり、肺がんや乳がんの治療にも有効となるだろう」と語っている。 関連記事: ディープラーニングツールによる放射線治療計画の改善 AIによる放射線治療計画は臨床に受け入れられるか? 前立腺がん局所療法の治療成績向上を目指すAI研究

脳腫瘍DNAを迅速に解析するAIツール

米ペンシルベニア大学やハーバードメディカルスクールの研究者らは、脳外科手術中に脳腫瘍のDNAを迅速に解析し、詳細な分子情報を得るためのAIツールを開発した。研究成果はこのほど、Medから公開された。 現在使われている標準的な術中診断法は、脳組織を採取して凍結し、顕微鏡で検査するというもの。大きな欠点は、組織を凍結すると顕微鏡下の細胞外観が変化する傾向があり、臨床評価の精度を妨げる可能性があることだ。さらに先端の顕微鏡を用いても、人間の目ではスライド上の微妙なゲノム変化を確実に検出することはできない。チームの研究論文によると、この技術は凍結病理スライドから「これまで利用されていなかった生物医学的シグナル」を抽出することで、これらの課題を克服するというもの。本ツールは、1,524人の神経膠腫患者から得られた2,334の脳腫瘍サンプルを用いて開発された。93%の精度で特定の分子変異を持つ腫瘍を識別するとともに、異なる予後を持ち、異なる治療に反応する明確な分子的特徴を持つ3つの主要なタイプの神経膠腫を分類することに成功している。 CHARM(Cryosection Histopathology Assessment and Review Machine)と呼ばれるこのツールは、研究者の自由な利用を目的に公開されているが、臨床導入にあたっては、実環境でのテストを通じた臨床検証が必要であること、また米食品医薬品局(FDA)の認可を得る必要があることに言及している。 参照論文: Machine learning for cryosection pathology predicts the 2021 WHO classification of glioma 関連記事: 病理AIがアジアを救う がん位置情報なしで構築可能な病理画像解析AI PreciseDx -「パーキンソン病の確定診断」への病理AI技術

うつ病治療を変革する脳内バイオマーカー研究

世界保健機構(WHO)によれば、全世界で約2.8億人がうつ病に罹患しているという。抗うつ薬の治療効果が全ての患者には及ばないという課題が残る一方で、米リーハイ大学の研究チームは、機械学習技術を利用して脳内バイオマーカーを確立し、より個別化されたうつ病治療の道を拓こうとしている。 この研究は、米国立精神衛生研究所(NIMH)から大規模な助成金を獲得して行われている。チームは、患者のfMRI画像データと脳波を抗うつ薬治療前後で収集し、二重盲験無作為化比較試験を通じて得たデータから、薬物治療の効果を客観的に評価するためのバイオマーカーを特定しようとしている。この手法により、それぞれの患者がどの程度抗うつ薬に反応するか、あるいは反応しないかを予測できる可能性がある。特に同研究では、認知ワーキングメモリと感情制御に関連する脳内ネットワークの相互作用に焦点を当て、ここから新たなバイオマーカーを検出しようとしている。 AIが提示するこれらのバイオマーカーは、現在の試行錯誤的なうつ病の治療戦略を置き換える可能性を秘めており、それぞれの患者に対して個別化された治療アプローチを提供することが期待されている。研究を率いるリーハイ大学のYu Zhang氏は「従来のうつ病診断と治療は、主観的な症状を組み合わせてきたが、患者ごとにバラつきは大きい。我々が目指すのは、脳の機能障害をより適確に捉える客観的なバイオマーカーを構築することだ。本研究により、メンタルヘルスの状態は再定義され、大きなブレークスルーがもたらされるだろう」と語っている。 関連記事: うつ病自己管理にAIチャットボットは有効か? 位置情報利用モバイルゲーム「Pokémon GO」は抑うつを改善するか? 青少年の抗うつ薬治療効果を予測するAI研究

肺がん死を高精度に予測する個別化リスクモデル

米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、現行の米国予防医療専門委員会(USPSTF)の基準よりも高精度に「肺がんで死亡するリスクが高い個人」にフラグを立てるため、血液検査などに基づくリスクモデルを組み合わせた予測ツールを開発した。 Journal of Clinical Oncologyに発表されたこの組み合わせモデルは、MDアンダーソンの研究者が最近開発した血液ベースの4蛋白パネル(4MP)を活用したもの。この血液検査と「PLCOm2012」として知られるリスクモデルを組み合わせることで、研究チームは肺がん検診を改善し、死亡率を低下させることを目指している。 「この簡便な血液検査は、肺がん検診の必要性を個人毎に判断することにより、命を救う可能性がある」と、著者でありMDアンダーソンがんセンター臨床がん予防学の教授であるSamir Hanash医師は述べる。「肺がんの先端スクリーニング法としてのCTに存在する課題と、肺がんと診断されたほとんどの人が現在のUSPSTFガイドラインに合致していないという事実を考慮すると、代替のアプローチが緊急に求められている」としている。 参照論文: Mortality Benefit of a Blood-Based Biomarker Panel for Lung Cancer on the Basis of the Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian...

スマートウォッチでパーキンソン病リスクを最大7年前に特定

パーキンソン病の多くは、震戦や動作の緩慢といった運動症状に基づき診断される。一方、これらの主症状が出現する前の前駆期に早期診断することで、疾病管理と予後の改善が期待されている。英カーディフ大学の研究チームは、スマートウォッチの加速度計を用いたウェアラブル技術により、臨床診断の最大7年前にパーキンソン病の発症を予測できる可能性を明らかにした。 Nature Medicineに掲載された同研究では、加速度計データを学習に用いた機械学習モデルについて、前駆期パーキンソン病の予測性能を、UK Biobankに登録された一般集団で検証している。結果として、この加速度計に基づく予測モデルは、データバンクに登録された他の予測因子(遺伝・ライフスタイル・血液生化学検査・前駆症状)を上回る前駆期パーキンソン病の発症予測能力を示し、最大で臨床診断の7年前に識別可能であるとしている。 著者でカーディフ大学認知症研究所のCynthia Sandor氏は、「臨床診断前における加速度の低下はパーキンソン病特有の現象であり、我々が調査した他の疾患では観察されなかった。何百万人もの人々が毎日使用しているスマートデバイスを通じて加速度データを収集することで、前例のない規模でパーキンソン病リスクを持つ人々を特定することが可能になる」と述べた。 参照論文: Wearable movement-tracking data identify Parkinson’s disease years before clinical diagnosis PDMonitor – 専門家評価に匹敵するパーキンソン病管理用ウェアラブルデバイス AIとメタボロミクスによるパーキンソン病の発症予測 音声に基づくパーキンソン病スクリーニング

Googleの医療AIチャットボット – 臨床環境で試験運用

医療情報に関する質問に回答するために設計された、GoogleのAIツール「Med-PaLM 2」が、本年4月から米メイヨークリニックなどにおける臨床環境での試験運用が行われているという。 これはThe Wall Street Journalが8日報じたもの。PaLM 2は、GoolgeのBardを支える言語モデルであり、Med-PaLM 2は、本年5月のGoogle I/Oで発表されたPaLM 2の亜種として知られる。5月にGoogleが公表した調査結果では、Med-PaLM 2は、市場における他の大規模言語モデルと同様に「精度問題」に未だ悩まされていることが示されていた。実際、GoogleのMed-PaLMとMed-PalM 2が提供した回答は、人間の医師が提供した回答よりも不正確で無関係な情報が多かったとしている。 一方で、推論の証拠を示すこと、コンセンサスに裏付けられた回答を示すこと、誤った理解の兆候を示さないことなど、他のほとんどすべての指標において、Med-PaLM 2は医師と同等水準のパフォーマンスを示しており、その大きな可能性を明らかにしていた。現在進む臨床検証において、Googleは大規模言語モデルによる医療市場への展開も確かなものにしようとしている。 関連記事: Med-PaLM – Googleが提供する医療用大規模言語モデル Hippocratic AI – 医療向け大規模言語モデルの構築 「会話へのAI利用」がもたらす影響

米Epic社レポート – 保険制度改革の一方で肥大化する医療記録

2021年米国では、医療従事者の文章作成負担を軽減するため、医療費請求コードに関する制度変更が実施された。米Epic社の調査によれば、制度変更から2年が経過した現在も医療記録における文書量は増加傾向にあるという。 同レポート内では、2020年5月から2023年までの3年間で、米国内の約166万人に及ぶ外来患者における約17億件の臨床記述を評価し、その平均文字数を算出している。その結果、平均文字数は2020年5月の4,628文字から、2023年4月時点では5,002文字へと8.1%増加していることが明らかになった。その一方で、記録1件あたりに費やす平均時間は同期間において5.4分から4.8分へと11.1%減少している。 また、全体の約40%の医療機関では3年間で平均文字数が減少し、記述を削減した上位10%の医療者は、プライマリケア・内科・外科・皮膚科・循環器科・精神科など幅広い専門領域に渡っている。このことは、どの専門分野であっても記述量の短縮が可能であることを示唆している。同レポートによると、「スマートツール」や「コピー&ペースト」を頻繁に使用し、カルテ内の別の箇所から簡単にメモ内容を転記・追加できる医療機関ほど、記述量が増加しているという傾向が確認された。 これらのデータから、「評価および管理(E/M: evaluation and management)」の制度変更は、医療者の認知的負担の軽減や文書作成効率の向上など、医療者の満足度に対して一定の利益をもたらしている、と同レポートでは考察している。 関連記事: 大規模言語モデルが臨床記録の解読に貢献する 「半分以上のテキストが重複」- 電子カルテの構造的問題 COVID-19は「臨床医が電子カルテに費やす時間」をさらに長くさせた

「HIVの感染リスクが高い女性」を特定する予測モデル

米シカゴ大学とラッシュ大学医療センターの研究者らは、電子カルテデータに基づき「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」に感染しやすい女性を特定するための予測モデルを開発した。研究成果はこのほど、BMC Women's Healthに発表された。 HIVリスクが高い集団を予測するモデルについては、欧米を中心として先行研究が多くある。一方でこれら研究のほとんどが、男性と性交渉のある男性(MSM)を調査対象としたものだった。したがって、研究結果の一般化可能性は「男性あるいはMSM」にのみに限られていることが主要な限界の1つだった。チームの研究論文によると、大規模なHIVスクリーニングプログラムを展開するシカゴ大学病院とラッシュ大学医療センターの両院において、HIV感染女性と非感染女性を対象とした電子カルテ解析により、リスク予測モデルの導出を行っている。 解析の結果、最終的なモデルには、年齢層や人種、民族、妊娠歴、C型肝炎の有無、薬物使用歴、性感染症診断歴がリスク因子として含まれ、モデルの予測性能を示すAUCは0.74であった。研究者らは「このモデルによって、新たにHIVと診断されるリスクの高い人を識別できる可能性」を指摘しており、HIVリスクが最も高く、曝露前予防薬(PrEP)といった予防的介入から恩恵を受ける可能性のある女性を検出する臨床ワークフロー構築の有用性を強調している。 参照論文: Development of a predictive model for identifying women vulnerable to HIV in Chicago 関連記事: 機械学習によるHIV検査のパーソナライズ HIV患者の転帰を改善する機械学習技術 思春期患者のプライバシー保護に向けたAI利用

「AIの精度差」が放射線科医のパフォーマンスに影響

医療AIの性能が放射線科医の診断にどのような影響をもたらすか。この問いに対する1つの答えとして、韓国の医療AIスタートアップ「Lunit」はソウル大学病院との共同研究により、「より高精度のAIモデルが放射線科医の胸部X線読影パフォーマンスを向上させること」を実証している。 Radiologyに掲載された研究では、5-18年の経験を有する放射線科専門医20名と、2-3年の研修を経た放射線科レジデント10名を対象に、Lunitが市販する胸部X線画像解析AIソフトウェア「Lunit INSIGHT CXR」の支援を受け診断を行うよう求めている。その際、同じAIモデルを2種類の異なる精度設定で試験しており、1つはフルバージョンのLunit INSIGHT CXRを「高精度AIモデル」として、もう1つはトレーニングデータを全体の10%に制限したモデルを「低精度AIモデル」として用いた。これら2つのモデルの支援を受けた放射線科医の読影精度を比較することで、AIの精度が診断精度にどの程度影響を及ぼすかを評価した。その結果、高精度モデルではAUC 0.88である一方、低精度モデルではAUC 0.77と有意に医師の診断精度に差が生まれることを示している。 さらに、診断パフォーマンスに影響を及ぼす要因を解析した結果、放射線科医個人の専門知識やAIの使用経験、AIの提案に対する受け入れ度など、個人特性の影響は極めて小さく、「AIモデルの精度差」が診断パフォーマンスの差に独立して関連することが示されている。LunitのCEOであるBrandon Suh氏は、「この研究は医師個人の特性に関わらず、高精度AIの活用が診断精度を大幅に向上させることを裏付けている」と語った。 参照論文: Effect of Human-AI Interaction on Detection of Malignant Lung Nodules on Chest Radiographs 関連記事: Lunit – 韓国全土の軍隊病院に胸部X線解析AIを提供開始 AIは「胸部X線上の肺結節特定」に貢献する ...

PETAL – 創傷を監視する紙状センサーパッチ

慢性化する創傷は、糖尿病や循環器疾患の患者、熱傷患者、高齢者らにとって重大な問題となっている。慢性創傷は二次的な合併症を引き起こすため、患者自身だけではなく医療システム全体にも大きな負担を与える。高齢化が進むシンガポールでも慢性創傷は社会的課題と認識されており、シンガポール国立大学(NUS)の研究チームでは課題の解決策として、創傷をモニタリングする紙状センサーパッチの開発に取り組んでいる。 Science Advancesに掲載された研究論文によると、開発中のパッチは「PETAL(Paper-like Battery-free In situ AI-enabled Multiplexed)」と名付けられている。薄く柔軟性があり、安価な紙状のパッチは、エネルギー供給なしで作動し、創傷の温度・pH・トリルメチルアミン・尿酸・水分を測定することで、創傷部位の炎症や感染を評価できる。このパッチには5枚の花びら状にセンサーが配置されており、それぞれが傷口から滲出液を採取し、15分以内にバイオマーカーを検出する。比色センサーが物質の濃度を色の変化として検出し、その画像をスマートフォンで撮影することで独自のAIアルゴリズムが患者の創傷治癒の状態を評価する。ラットの創傷・熱傷モデルでの試験では、PETALセンサーは創傷の治癒/非治癒を97%の高い精度で分類することが確認された。 研究チームによれば、PETALセンサーパッチが直接接触した皮膚表面には、4日間に渡って明らかな副作用の兆候はみられなかったとしており、動き回る患者への生体適合性が実証されている。著者であるSu Xiao Di氏は、「我々はPETALセンサーを薄く、柔軟で、生体に適合するよう設計した。家庭や専門外の医療現場でも、迅速で低コストの創傷管理が可能となることを期待している」と述べた。 参照論文: Battery-free and AI-enabled multiplexed sensor patches for wound monitoring 関連記事: Net Health社「Tissue Analytics」 – パンデミック後に求められるモバイル創傷管理プラットフォーム 日常診療データを用いた褥瘡予測AI 慢性創傷の治癒を予測するAIモデル

脳画像AIのicometrix – CPT IIIコードを取得

ベルギーに本拠を置く脳画像AI企業であるicometrixはこのほど、FDA認可の脳MRI定量化ソフトウェアの保険償還を可能にする「CPT IIIコード」を米国医師会から受け取ったことを明らかにした。 医師診療行為用語 (CPT) は、医師が行う処置や手術に関するコードを記述するための包括的な用語で、米国医師会によって年1回更新される。各コードは数字で表現され、実際の処置に対応しており、診断や請求の目的に使用されている。このCPTコードにより資格のある医療従事者は、icometrix脳画像AIソフトウェアの使用を診療費として報告できるようになる。 icometrixのAIがサポートする定量的脳解析ソフトウェアは、アルツハイマー病や認知症、多発性硬化症、てんかん、脳卒中、パーキンソン病などの神経疾患の患者の診断、モニタリング、治療反応の評価に資する脳MRIスキャンに基づく客観指標を提供するもの。 関連記事: 高速MRIの粗い画像をAIが再構築 アスリートの「微細な脳損傷」を捉えるAIツール 「絵画品評の音声」から認知機能障害を早期検出

前立腺がん局所療法の治療成績向上を目指すAI研究

前立腺がんにおいて、治療部位の焦点を絞る局所療法(FT: focal therapy)が、従来の「前立腺全体を対象とする治療法」の代替手段として受け入れられられるようになってきた。しかし、MRIによる画像検査では治療範囲を過小評価する可能性がある一方で、範囲を過度に拡大するとFTの目的を逸脱してしまうことから、FTで重要な課題となるのが「適切な治療マージンの設定」である。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、AIアプローチによる「FTの治療マージンを正確に定義する研究」に取り組む。 European Urology Open Scienceに発表された同研究では、前立腺がんの生検組織標本データを基に、FTの治療マージンを定義するAIモデルを開発している。実際に前立腺全摘除術を受けた50名の患者でこのAIモデルを検証した結果、従来のMRI単独による評価よりも腫瘍の断端をより正確に評価することが可能であるという結果を導いた。 研究チームは、この研究成果をベースに、前立腺がんの被膜浸潤の予測や、放射線治療における照射の焦点をより効果的とすること、ひいてはFTの治療結果改善に役立つことを期待している。 参照論文: Prediction and Mapping of Intraprostatic Tumor Extent with Artificial Intelligence 関連記事: 前立腺がん病理診断AIプロジェクトから提唱された「国際協力の必要性」 RSIP Vision – 前立腺がんMRIのPI-RADSスコアリング支援AI 前立腺がん病理診断AIの国際コンペ「PANDA」 – Nature Medicine誌より

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