年間アーカイブ 2023

Iodine SoftwareがOpenAIとのパートナーシップを拡大

臨床ドキュメンテーション改善ツールの開発者であるIodine Softwareはこのほど、協力関係の拡大を通じて、大規模言語モデル(LLM)であるGPT-4を含むOpenAIの人工知能技術へのアクセスを獲得することを明らかにした。 発表によると、同社製品である「AwareCDI」にOpenAIのLLMを統合し、予測精度を向上させるとともに、クエリプロセスを合理化し、ドキュメンテーションの正確性を確保することで、収益サイクルの漏れを食い止める臨床自動化ツールを開発する予定としている。コーディング効率と予測分析、および精度を向上させることで、医師は患者により集中できるようになり、病院や医療システムは提供するケアからより多くの収益を確保できるようになるという。 Iodineのデータセットには現在、米国の全入院患者データの27%以上が含まれており、OpenAIの技術統合によって、AwareCDIが「病院の機能をサポートする方法を変革する前例のない機会」を提供すると同社は考えている。 関連記事: TachyHealth – 会話型AIによる医療コーディングシステム 「保険金請求の否認」を回避するAIシステム Gradient AI – 高額請求のリスク評価ソリューション

生成AIがCOVID-19治療薬の創出を加速させる

英オックスフォード大学とIBMなどの研究チームは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のウイルスタンパク質を標的とする新規分子を設計できる生成AIモデルを開発した。研究成果はこのほど、Science Advancesから公開されている。 チームのモデルである「Controlled Generation of Molecules(CogMol)」は、変分オートエンコーダ(VAE)と呼ばれるアーキテクチャーに基づいて構築された。生成AIに分類される同モデルは、タンパク質とその結合方法に関する一般的な情報に加え、文字列として表現された分子の大規模なデータセットでトレーニングされている。興味深いのは、モデルが「これまでに遭遇したことのない分子設計タスク」に展開できるようにするため、研究者らは意図的にSARS-CoV-2に関する情報をデータセットから除外している点だ。 CogMolは3日間で87万5000個の分子候補を生成した。次にこれらの候補を複数の予測モデルにかけて分子の数を絞り込み、それらを合成するのに必要な成分を決定した。さらにそこからターゲット毎に100の分子を選び、化学者たちは各ターゲットから最も製造しやすい4つの分子を選んでいる。そしてこれらの分子を化合物に合成し、標的阻害試験と生きたウイルスでの中和試験で検証を行った。このうち2つは主要なプロテアーゼを標的とし、もう2つはスパイクタンパク質を標的とした。後者の化合物は6つの主要なCOVID-19変異体全てを中和できることが証明されている。 このアプローチはCOVID-19に限定されないため、将来的に発生し得る新しいウイルスの脅威などに対して、抗ウイルス薬や緊急に必要とされる化合物を、迅速かつ安価に生成できる可能性があり、現在大きな注目を集めている。 参照論文: Accelerating drug target inhibitor discovery with a deep generative foundation model 関連記事: GoShare Voice – AI音声アシスタントによるLong COVID患者支援 自己監視と自動更新により「性能を維持する予後予測AI」 化合物とタンパク質間の相互作用を「自然言語でモデル化」

心電図AIで心臓発作のスクリーニング能力を向上

胸痛を訴える患者への対応において、虚血性心疾患に伴う心臓発作のスクリーニングが最優先となる。冠動脈が閉塞し心筋梗塞が発生した患者では、心電図の異常所見として「ST上昇」や、心臓バイオマーカーである「トロポニン血中濃度」の上昇を迅速診断の根拠とする。しかし、心電図異常が確認できない症例や、バイオマーカーが陽性範囲に達してない初期の発作など、スクリーニング手法の限界は大きな課題となっていた。米ピッツバーグ大学の研究チームは、心電図を解析するAIモデルを開発し、従来のスクリーニング手法を上回るリスク評価性能を達成している。 Nature Medicineに発表された本研究では、胸痛を訴えた患者4,026名の心電図を用い、心筋梗塞のリスク診断を行うAIモデルを開発し、その有効性を3,287名の患者で外部検証した。このモデルは胸痛患者を低・中・高リスクへと分類するもので、その性能は既存のリスク分類スコア「HEARTスコア(病歴・心電図・年齢・危険因子・トロポニン値から算出)」や「経験豊富な臨床医の心電図読影」、また「市販の心電図解析システム」のパフォーマンスを精度で大きく上回る結果となった。 研究チームは次の段階として、ピッツバーグの救急医療サービス局(PEMS)と協力し、救急サービスから心電図データを受け取った指令センターが患者のリスク評価を送り返すクラウドシステムを開発中という。著者のChristian Martin-Gill氏は、「このAIツールは、救急体制の中で治療を開始したり、高リスク患者の到着を警告するなど、医学的判断の指針として役立つ。また、心臓専門の医療施設へ行く必要のない低リスク患者の特定にも寄与し、病院前トリアージを改善する可能性が魅力的だ」と述べた。 参照論文: Machine learning for ECG diagnosis and risk stratification of occlusion myocardial infarction 関連記事: 心電図から死亡リスクを高精度予測 「筋炎に合併の心不全」を心電図からリスク予測 心電図の動的モニタリングで血行動態不安定を検出する新システム

米Eko Health – AI搭載の次世代デジタル聴診器「CORE 500」を発売

デジタル聴診器の分野で業界をリードする米Eko Healthは、米食品医薬品局(FDA)認可済みAI診断機能を搭載したデジタル聴診器を開発している。同社の製品は、心房細動・徐脈・頻脈といった心機能異常の自動検出を可能にする。 Ekoは27日、次世代デジタル聴診器「CORE 500」の発売を発表した。CORE 500は、AIソフトウェアの他に、3点誘導心電図、最大40倍の聴診音増幅機能、アクティブノイズキャンセリング、オーディオフィルターモードなどを備えている。最適な音響フィルタリングはバックグラウンドノイズを低減し、より正確な聴診音を得ることを支援する。 米メイヨークリニックの循環器内科医長であるPaul Friedman氏は、「高齢化に伴い心血管疾患が増加する中、CORE 500のような非侵襲的検査ツールは、日常診療を潜在的な疾患のスクリーニング機会に変えることができる。搭載されているツールは臨床医にとってどれも有用で、聴診器上のディスプレイに表示される心電図は、未知の不整脈患者を特定するのにも役立つ」と同製品を支持している。 関連記事: 心不全スクリーニングの「AIスマート聴診器」 – 英NHSでの検証が進む Sanolla社「VoqX」- AI対応の超低周波聴診器 Tyto Lung Sounds Analyzer – 遠隔医療用の肺音解析AIシステム

EU – 仮想環境でのAI検証に2.2億ユーロを投資

欧州委員会(EC)は27日、EU加盟国および研究・産業・公的機関の128のパートナーとともに、コペンハーゲンで開催されたイベントにおいて、4つの分野別AI試験・実験施設(TEFs)への2億2000万ユーロ(約346億円)相当の投資を開始したことを明らかにした。 ECの公表によると、TEFsはAI開発者を支援し、信頼できるAIをより効率的に市場に投入し、欧州での普及を促進するとともに「AI技術の開発と展開のためのサンドボックス」として機能することを目的とする。TEFsは、AIやロボティクスなどの新興技術をテストするため、欧州中のあらゆる技術プロバイダーに開かれている。このうち「TEF-Health」は、医療画像における機械学習から、複雑な脳シミュレーション、介入やリハビリテーションのためのロボットまで、ヘルスケア分野に関わる様々な技術を取り扱う。 この4つの試験施設は、2024年1月時点で完全にオープンすることを予定しており、これに先駆けて一部のサービスは2023年7月から開始される。 関連記事: EUと米国がAI協力を強化 EU – 大規模な「がん画像データ収集プロジェクト」を開始 韓国と米国が「AI支援医療製品開発」に世界基準の設定を呼びかけ

がんナビゲーターを支援するAIモデル

近年、米国を中心に普及を見せる「がんナビゲーション」と、特別なトレーニングを受けてこの実務を担当する「がんナビゲーター」の存在をご存知だろうか。がんナビゲーターは、がん患者とその家族に寄り添い、専門性の高い情報を分かりやすく適切に伝え、様々な相談に乗る身近な存在となる。 日本でも一部に認定制度が始まるなど、がんナビゲーターの活躍に期待が集まる。一方で、がんは一般的に病状やそれに伴う問題が深刻であることが多く、がんナビゲーターはケアプロセスを通じて多大な心的ストレスを伴うことが明らかになっている。米OSF HealthCareの研究者らは、AIを用いた予測モデルにより、がんナビゲーターのワークフローを緩和することで燃え尽き症候群を予防する可能性を示した。 このAIベースのソリューションは、患者の電子カルテ記録に基づき、「がんナビゲーターが既存患者と新規患者について稼動する必要のある時期を予測する」もので、ナビゲーター間での仕事量の差を抑えるため、二次的なモデルによって特定の専門分野のナビゲーターに新患を割り当てることを支援する。研究チームは、このソリューションの有効性を確認するため、ランダムな割り当てプロセスと比較したところ、AIモデルによる割り当ての方が、作業負荷の公平性が高いことが確認されている。 OSFのイノベーション担当シニアフェローであるJonathan Handler医師は、「がんナビゲーターは非常に献身的であり、その仕事量は時に圧倒されるほどのものだ。彼らは決して患者を軽んじず、患者を助けるために余分な時間を働き、自分自身の幸福を犠牲にしている。我々のシステムによって、そのような仕事量を均等化し、彼らのワークライフバランスを改善できることを願っている」と述べた。 関連記事: Regard社 – AIによるワークフロー改善で医療者の燃え尽きを防ぐ スケジュール作成AIが医師の燃え尽きを防ぐ 機械学習モデルで「医師の離職」を予測

DermSmart AI – カナダ発「会話型皮膚科診断AIツール」

大規模言語モデル(LLM)を各科の専門知識で補強することで、会話型AI診断ツールを開発する動きが進む。カナダのAI開発企業「Oro Health」は、同国内でバーチャル皮膚科クリニックを展開する「Dermago」と共同し、会話型皮膚科診断AIツール「DermSmart AI」を開発している。 Oro Healthの発表によると、DermSmart AIでは、患者自身が皮膚の状態を撮影した写真をアップロードし、AIの質問に答える形で対話を進める。独自の皮膚疾患検出モデルを通じ、38種類の頻出する皮膚トラブルを評価することが可能。この技術により、皮膚科専門医への紹介の必要性が減ることで、プライマリケアでの患者待ち時間の大幅な削減や、医療リソースの最適利用を進めることが期待されている。 Oro HealthのCTOであるBruno Morel氏は「現在、DermSmart AIはカナダ国内での医療機器class Iの認証待ちだ。近く、他国でも利用可能になることを期待している」と述べている。 関連記事: Derm.AI – ポルトガルの皮膚がん遠隔診療プロセスを変革 Miiskin – 皮膚画像診断プラットフォームを欧州研究者に無償アクセス化 Sklip – 皮膚がんをスマートフォンカメラで在宅トリアージ

「AIによるノイズ除去」の役割

医療画像のノイズ除去にAI技術が導入されている。しかし、実際の臨床現場における利用は単に画像を「美化」することではなく、「臨床的な有用性」が重視されるべきとの意見がある。米ワシントン大学の研究チームはこれらの評価基準を「臨床的なタスクのパフォーマンス」に基づいて設定し、そのためのAI技術評価に取り組んでいる。 Medical Physicsに発表された同研究では、心臓の血流分布を断層画像として捉える核医学検査である「心筋SPECT」の画像に対し、一般利用されているAIノイズ除去技術を適用し評価した。その評価は、「ノイズ除去後の画像が正常画像とどれほど視覚的に類似しているか」、そして「ノイズ除去後の画像が、心臓の異常を検出する臨床的なタスクにどれほど有用であったか」という2つの観点から行われている。その結果、視覚的な類似性はAIのノイズ除去によって向上したものの、異常検出のパフォーマンスは改善せず、場合によっては逆に臨床的なタスクの性能を低下させることを確認した。 著者のZitong Yu氏は、「AIノイズ除去技術は、心筋SPECT画像においてノイズを意図した通りに減少させたが、医師が正確な診断を行う上で必要な、異常部位のコントラストも低下させてしまうことが分かった。これは臨床現場で望まれない結果である」と述べている。研究チームは、AI画像処理の有用性評価をタスクベースで行うべきであると提言し、その考え方に基づいた新たなノイズ除去技術の開発を進めている。 参照論文: Need for objective task-based evaluation of deep learning-based denoising methods: A study in the context of myocardial perfusion SPECT 関連記事: 臨床医の信頼を得やすいAIツールとは? 「高精度なだけ」では実臨床に持ち込めない 実臨床環境への適用...

「痛みへの言及」を注釈したコーパスの開発

疼痛は人類に広く蔓延する健康問題の1つであり、実に成人の5人に1人が何らかの慢性的な痛みを感じている。特に疼痛と精神科疾患の間には強い関連が指摘され、予防や疾患コントロールのためにも疼痛評価は重要となる。 英King's College Londonの研究チームは、電子カルテ記録にフリーテキストとして散在する「痛みへの言及」を抽出するため、疼痛に関連する表現を手作業でラベル付けしたコーパスを構築した。研究成果は26日、JMIR Formative Researchから公開されている。723名の患者から1,985件の臨床文書を収集し、これにラベル付けを行った。最も一般的な疼痛特性は慢性疼痛であり、部位として最も頻度が多かったのは胸部であった。 チームが構築したコーパスは、メンタルヘルス領域の電子カルテ記録において、痛みがどのように言及されているかをよりよく理解するのに役立つとともに、疼痛評価を目的とした「機械学習ベースのNLPアプリケーション」を開発するための基礎となることが期待される。 参照論文: Development of a Corpus Annotated With Mentions of Pain in Mental Health Records: Natural Language Processing Approach 関連記事: 慢性疼痛に対するAI駆動型認知行動療法の有効性 音による疼痛緩和 Theranica社「Nerivio」...

英政府 – 2100万ポンドで脳卒中AIを全面導入

英政府は2023年末までに、すべての脳卒中ネットワークにAI意思決定支援ツールを配備し、診断と治療へのアクセスを改善して脳卒中の治療に役立てることを明らかにした。 NHS関連病院群は、がんや脳卒中、心臓病などの患者をより迅速に診断することを目的に、最も有望なAI画像診断と意思決定支援ツールの導入を加速させるため、AI診断基金に申請し、資金の配分を受けることができるようになる。政府は特に、2023年末までに脳卒中診断AI技術を脳卒中ネットワークの100%に導入することを表明しており(現在は86%)、脳卒中におけるAI技術の臨床的有用性に強い期待を抱いている。 Steve Barclay保健社会保障長官は「AIは医療提供の在り方を変えつつあり、AIツールは現にNHS全体に大きな影響を与えている」と、脳卒中AIツールの既存導入先における効果として、より早い診断による転帰の改善や、脳卒中患者が必要な治療を受けるまでの時間が半減する、などがみられている事実を強調する。 関連記事: 機械学習ツールによる脳卒中診断の高度化 NHSの脳卒中ケアに革新をもたらすAI 脳卒中の遠隔治療プログラムが有用性を示す

Subtle Medical – 画像検査を高速化するAI技術

画像検査の高速化は、患者体験の改善も主要な目的に含まれる。例えば、PET画像検査では患者が長時間静止することが必要であり、不快感や不安の原因となってきた。米Subtle Medical社は、医療画像処理の革新的技術で業界をリードし、AI技術を活用してPET画像検査を最大75%高速化するソフトウェア「SubtlePET」を開発している。 同社は、2023年の核医学・分子イメージング学会(SNMMI)年次総会でSubtlePETのデモンストレーションを発表している。SubtlePETは独自のノイズ除去AIをPETスキャンに適用し、画像品質や診断精度を損なうことなく、撮像時間を短縮できる。 Subtle Medical社は、AI分野で最も革新的なスタートアップ100社を選出するCB Insightsの「AI 100」に2020年(過去記事参照)に引き続き2023年も選ばれた。同社の上級副社長であるBrian Lee氏は、「我々のディープラーニングソフトウェアは、より早く安全で、スマートな医療画像処理を可能にし、患者と医療機関のために放射線科業界を変革するものだ。AI企業における素晴らしいリスト入りに興奮している」と語った。 関連記事: 高速MRIの粗い画像をAIが再構築 Unilabs – Subtle Medicalとの提携 Subtle Medical – 医療画像AIについてバイエルとの提携を公表

AIによる脳波解釈

JAMA Neurologyから20日公開された論文で、研究者らは、人工知能(AI)モデルであるSCORE-AIが、日常的な臨床脳波(EEG)を人間の専門家と同等の精度で解釈できるかどうかを検証している。 世界の多くの地域では、脳波の波形特性から臨床的意味を解釈する人間の専門家が不足しており、AIベースの自動化ツールの必要性が高まっている。脳波を読む専門家は、医療制度が最も発達している国であっても、脳波解釈のフェローシップ・トレーニングを受けていない医師であることが多く、そのためにてんかんの誤診を増やしている事実があるという。研究では、2014年から2020年の間に記録されたアノテーション済み大規模脳波データセット(3万件を超える)を用い、畳み込みニューラルネットワークモデルである「SCORE-AI」を構築し、その性能を検証した。SCORE-AIは人間が関与することなく、日常的な臨床脳波の解釈において専門家レベルの性能を達成しており、実際、4種類の脳波異常について、AUCとして0.89~0.96という高い識別精度を示していた。 SCORE-AIは、これまでに発表されたAIモデルと比較して、より複雑な脳波異常の分類を可能とし、包括的に日常的な脳波評価を行う最初のAIベースモデルの1つとなる。特に脳波中のてんかん様活動の同定は、てんかんの正確かつタイムリーな診断に役立つことが期待されている。 参照論文: Automated Interpretation of Clinical Electroencephalograms Using Artificial Intelligence 関連記事: 発作日記から学習した「てんかん発作予測AI」 Zero Wired – ウェアラブルデバイスによるてんかん発作検出 てんかん発作からの解放を予測

ジョンズ・ホプキンス大学 – AIエイジング研究

米ジョンズ・ホプキンス大学は2021年、国立加齢研究所から2000万ドル(約28億円)規模の資金提供を受け、「Johns Hopkins Artificial Intelligence and Technology Collaboratory for Aging Research(JH AITC)」を発足させている。以来同所は、エイジング向けイノベーションとジョンズ・ホプキンス・コミュニティ間のコラボレーション拠点としての地位を確立している。 2023年初め、JH AITCは14のパイロット・プロジェクトに300万ドルを提供するなど、AIを用いたエイジング研究でトップリーダーを目指そうとする姿勢を崩さない。さらに、JH AITCが先週明らかにしたところによると、今回新たに「高齢者の健康増進向けAI開発や利用の取り組み」に関して、複数のプロジェクトに対して総額100満ドルの資金提供を明らかにしている。 同大学准教授で、JH AITCの主任研究者を務めるPeter Abadir医師は「テクノロジーと老年医学の交差点で、我々は人工知能が高齢者の生活に回復力と自律性を取り戻す未来を開拓している。我々が支援するプロジェクトは、単なるヘルスケアの進歩ではない。加齢が衰退ではなく、成長の機会と結びつくような社会を育むという我々のコミットメントだ」と述べ、「高齢者に力を与える未来」に投資することを強調している。 関連記事: カイザー・パーマネンテ – 医療AI領域における新たな助成プログラムを開始 加齢によりAI合成音声の識別は困難に CT画像の体組成データから疾病リスクを予測

脳脊髄液の流れを解明するAI技術

脳脊髄液の循環は、老廃物の排泄を担うクリアランスシステムとして機能するが、アルツハイマー病などの脳神経学的疾患との関連性が近年示唆されている。米ロチェスター大学の研究チームは、脳脊髄液の流れを精密に計測するためのAI技術を開発した。この新技術は、疾患治療への応用可能性を開くものとして期待されている。 米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された同研究では、動物モデルを利用して脳血管周囲腔に人工的な微粒子を注入し、その粒子の位置と速度を時間経過とともに追跡した。そこから得られた二次元映像データを、物理学的情報に基づくニューラルネットワークと組み合わせることにより、脳脊髄液の流体システムを高解像度の三次元映像データとして表現することを可能にしている。 研究を主導したロチェスター大学のDouglas Kelley准教授は、「この研究は脳脊髄液の圧力・応力・三次元流量を高精度で明らかにするものだ。特に、脳周囲の液体の流れを生み出すポンプ作用については、まだ明らかにされていない未開拓の分野である」と述べた。 参照論文: Artificial intelligence velocimetry reveals in vivo flow rates, pressure gradients, and shear stresses in murine perivascular flows 関連記事: 脳磁図からハンドジェスチャーを識別 脳免疫細胞が初期アルツハイマーと戦う可能性 Viz.aiが脳灌流評価機能を強化へ

消費者は「生成AIによるコンテンツ」を信頼する

フランス・パリに本拠を置き、世界50ヶ国を超える国々で事業を展開する欧州最大のコンサルティング企業であるCapgeminiは19日、生成AIツールへの人々の関心や信頼の程度を調査した新しいレポートを公開した。 レポートによると、回答者の半数以上(53%)がファイナンシャルプランニングのために生成AIを信頼しているとし、66%が「個人的な人間関係や、人生およびキャリアプランに生成AIからアドバイスを受けたい」と考えていた。消費者の67%は「生成AIから医学的診断やアドバイスを受けることで恩恵がある」と回答しており、63%が「生成AIによってより正確で効率的な創薬を支援できる見込みに興奮を覚えている」という。 一方、生成AIがフェイクニュースの作成に利用されるという見通しに対しては、ほぼ半数(49%)が無関心であり、フィッシング攻撃に懸念を示す回答者は34%にとどまるなど、リスクに対する意識は十分に高まっていないことが示唆された。さらに著作権問題に懸念を示している人々も一部であり、倫理面に対する意識も低かった。 同社のNiraj Parihar氏は「世界の消費者の生成AIに対する認知度や普及率は非常に高いが、この技術の仕組みや関連するリスクに対する理解はまだ非常に低い」とした上で、「生成AIの成功の鍵は、他のAIと同様、そのアウトプット品質を保証するために人間が周囲に構築するセーフガードにある」と述べている。 関連記事: ChatGPTの回答が患者により好まれる可能性 Google Cloud – 生成AI利用でメイヨークリニックと提携 AI技術による「オリジナルタンパク質」の生成

GoShare Voice – AI音声アシスタントによるLong COVID患者支援

新型コロナウイルス感染症における罹患後症状の遷延を意味する「Long COVID」では、実に多様な症状が後遺症として持続・再燃する。その全貌を把握するためのリソースには一定の限界を認めているが、オースラリアのシドニー西部では、会話型音声AIを活用したLong COVID患者のサポートが始まっている。 同国に拠点を持つHealthily社は、AI音声アシスタント「GoShare Voice」を開発し、シドニー西部のCOVID-19感染後患者に対して、Long COVIDに関する質問票を迅速かつ簡便に直接送信するサービスの提供を発表している。AIによる自動音声通話と、患者の健康リテラシーに応じた健康管理情報のやり取りによって、英語力が低い人々や識字の困難な人々にも効率的なアプローチが可能になるという。 Healthily社のTina Campbell氏は「我々の目的は、患者が自身の好きな言語でデジタルアシスタントと対話できるようにし、健康の公平性と情報へのアクセスを改善することだ。デジタルリテラシーの壁を克服し、オーストラリアの多様な人々が健康情報にアクセスできるようにすることを目指している」と語った。 関連記事: AIによる「Long COVIDサブタイプ」の同定 血液検査で「Long COVID」の発症を予測 「Long COVID患者」を特定するAI研究

GPT-4が「複雑な症例の診断」を支援

米マサチューセッツ州ボストンに所在するベスイスラエル・ディーコネス医療センター(BIDMC)の研究者らは、ChatGPTなどの生成AI技術が「複雑な診断事例を解決しようとする臨床医の支援ツールとなり得ること」を実証した。研究成果は15日、JAMAからレター論文として公開されている。 チームの論文によると研究者らは、教育目的にNew England Journal of Medicineに掲載された患者症例セットとしての「clinicopathological case conference(CPC)」を用いて、GPT-4の診断支援能力を調査した。CPCには、関連する臨床データや血液検査データ、画像検査、病理組織所見を含む、診断が複雑で難しい一連の症例が収められている。70例のCPCを評価したところ、27例(39%)でGPT-4はCPCの最終診断と完全に一致していた。また、64%の症例で、最終的なCPC診断がGPT-4の鑑別リストに含まれていたという。 論文のファーストオーサーでBIDMCの医師であるZahir Kanjee氏は「チャットボットは、訓練された医療専門家の専門知識と経験を置き換えることはできないが、生成AIは、診断における人間の補助として有望な可能性を秘めている」と述べた。 参照論文: Accuracy of a Generative Artificial Intelligence Model in a Complex Diagnostic Challenge 関連記事: 「市民が抱く健康課題」へのChatGPTの回答能力 ChatGPTと世界疾病負荷研究の統合 ChatGPT – 放射線科専門医試験で合格基準に到達

腹部大動脈瘤検出AI「Viz Aortic」 – 米国病院で初採用

腹部大動脈瘤(AAA: abdominal aortic aneurysm)は、腹部を走行する大動脈の部分的な膨らみを指し、そのサイズ増大は破裂リスクを高め、致命的な結果を招く可能性がある。1999-2016年までを調査した米国における疫学研究によると、破裂による死亡例の43%はスクリーニング基準に含まれていない患者で発生していたという。 このような状況を改善すべく、米国のクーパー大学病院は12日、未診断のAAA患者の早期発見を支援するAIソフトウェア「Viz Aortic」を米国内の病院として初めて導入することを発表した。このソフトウェアは、病院ネットワーク内のどのCTスキャナーによる画像でもAAAの存在を自動的に探索し、独自のAIアルゴリズムによって大動脈の径と微細な形状変化を識別する。これにより医師はAAAの早期診断・早期介入の機会を得ることができる。 クーパー大学病院は、本技術の導入が患者の転帰にどのような影響を与えるのかを継続的に評価し、AAA治療の革新を推進する。技術導入を主導した同病院の血管外科医であるPhilip M. Batista医師は「米国内病院の日常診療において、初めてViz Aorticを導入することを誇りに思う。この技術はAAAの早期検出から疾患モニタリング体制の改善、有効な介入計画、そして究極的には患者の救命につながるだろう」と述べた。 関連記事: Viz.ai – 脳卒中診断AIをオハイオ州に導入 遺伝子情報から胸部大動脈瘤リスクを評価 「FDA承認済みAI医療機器」を複数有する企業10社

Lark Health – 全米糖尿病予防プログラムで減量とコスト削減を実証

米国では疾病予防管理センター(CDC)が、官民の協力で2型糖尿病の発症予防を目的とした「糖尿病予防プログラム(DPP)」を展開している。認定を受けた事業者の1つであるLark Healthが提供する完全デジタル型のDPPは、AIコーチングとコネクテッドデバイスを用い、会員の2型糖尿病リスク低減を支援している。同社のDPPは検証の結果、対面およびハイブリッド形式の他のDPPと比較した大幅な医療コスト削減効果が示された。 Obesity Science and Practiceに掲載された同研究では、調査対象となった13,593人の会員のうち、11,976人(約88%)の会員が2ヶ月後までのDPPへの継続参加を達成している。そのうち、5%以上の減量を達成した会員は32.0%、2%以上5%未満が32.4%、±2%の維持が32.0%、体重増が3.6%と、96%を超える参加メンバーが体重維持あるいは減少という成果を示した。このモデルを対面型またはハイブリッド型のDPPと比較した際、医療コスト削減効果は年間で12,957,073ドル(約18億円)に相当するという。 検証結果で示されたように、LarkのDPPは最も低コストに属するDPPとして急速に成長し、注目を受ける。同社のDPPコーディネータであるSarah Graham博士は「LarkのDPP参加者を増やすことが、健康改善とコスト削減につながることを実証でき、非常にエキサイティングに思う。チームの仕事と、会員にもたらす価値を誇りに感じる」と語った。 参照論文: Weight loss and modeled cost savings in a digital diabetes prevention program 関連記事: Fitterfly – 糖尿病デジタル治療プログラムの効果 Cedar Gate – 糖尿病発症予測プラットフォーム ...

英King’s College London – UKRIから500万ポンドの研究資金を獲得

英King's College Londonは14日、英国研究・イノベーション機構(UK Research and Innovation, UKRI)から、信頼できる安全なAI開発について500万ポンド(約8.96億円)の研究資金を獲得したことを明らかにした。 これは、サウサンプトン大学を中心とした大規模コンソーシアムに授与された3100万ポンドに及ぶ助成金の一部に相当するもの。同コンソーシアムは、社会のニーズに応える「責任あるAI」のための国際的な研究・イノベーションエコシステムの構築を目指す。 King'sのプロジェクトをリードする Kate Devlin博士は、「これはまさに時宜を得た投資となるものであり、英国から世界をリードする多様で学際的なチームを集め、最先端の課題に取り組む」とした上で、人間中心アプローチを核とした横断的研究の重要性を強調する。 関連記事: 医療AI研究に欠ける「著者の多様性」 Vital – 患者のケア参加を促すAIプラットフォーム AI医療に対する患者の信頼度調査

AMA 2023年次総会 – AI生成の医療情報から患者を守る新指針

米国医師会(AMA)は、「AI利用が患者と医師の意思決定を強化し、健康を増進する」という大きな可能性を認識し、2018年にAIに関する公式指針を採択した。以後5年間、AIのポジティブな側面とネガティブな側面に対する認識が高まるよう、指針には微修正が加えられてきた。 2023年のAMA年次総会では、代議員会で審議された3つのAI関連決議案をまとめた新たな指針が公表された。具体的な内容は以下の通りである。 1. 大規模言語モデルなど、AIの生成する医療アドバイスやコンテンツが医療にもたらすメリットや予期せぬ結果について研究し、勧告を作成すること。 2. 州・連邦政府におけるAI関連の適切な規制案を、2024年のAMA年次総会で提案・報告すること。 3. 連邦政府や関係機関との協力で、生成AIによる誤った医療アドバイスから患者を保護すること。 4. 出版物・科学雑誌におけるAI利用の規制ガイドライン制定を支援すること。なお、このガイドラインには、研究手法内でAI利用を詳記することや、AIシステムを著者として除外すること、著者がAI生成の文章の真偽を検証する責任を負うこと、などが含まれている。 AMA評議員のAlexander Ding氏は「AIは医療を変革する可能性を秘めている。我々は、技術を追い求めることを望んでいるのではなく、科学者として医療を変革することを目指したい。専門知識を駆使して、偏見や格差の拡大、誤った医療情報の拡散など、意図しない結果を防ぐためのガイドラインを構築したい」と述べている。 関連記事: AIの脅威に対して医療者が果たすべき役割 不整脈検出デジタル機器使用に関する臨床指針 – EHRA 2022より 大規模言語モデルの利用に対するWHOの懸念

スタンフォード大学 – RAISE-Healthの発足を発表

米スタンフォード大学とHAI(Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence)は14日、RAISE-Health(Responsible AI for Safe and Equitable Health)の発足を発表した。AIイノベーションを取り巻く重要な倫理的・安全的課題に取り組み、この複雑で進化する分野をナビゲートできるようにすることを目的とする。 最近のPewの調査によると、米国人の過半数が「自分の医療機関でAIが使われることに抵抗がある」と答えており、社会が置かれている岐路が浮き彫りになっている。スタンフォード大学の公表によると、医学部長のLloyd Minor氏、HAI共同ディレクターでコンピューターサイエンス教授のFei-Fei Li氏が共同して率いるこの新しいイニシアチブは、健康や医療における責任あるAIのためのプラットフォームを確立し、倫理基準とセーフガードの構造的枠組みを定義した上で、このテーマに関する学際的なイノベーター、エキスパート、意思決定者の多様なグループを定期的に招集するとしている。また、AIの責任ある統合による臨床アウトカムの強化、健康と医療における重要課題を解決するための研究の加速、AIの進歩をナビゲートするための患者やケアプロバイダー、研究者の教育なども担うという。 Li氏は「AIは驚異的なスピードで進化しており、その進路を管理、ナビゲート、指示する我々の能力もまた必要となる。このイニシアチブを通じて、我々は学生、教授陣、そしてより広いコミュニティが、AIの未来を形成し、患者や家族、社会全体といった全ての利害関係者の利益を確実に反映させるため、積極的に参加することを求めている」と話す。 関連記事: VinBrain – スタンフォード大学とデータ利用契約を締結 NFTとブロックチェーン技術による「医療データ交換プラットフォーム」 デジタルツールにより手術室の運用効率を向上

GMU – AI・メタバース特化の新研究部門設立

アラブ首長国連邦・アジュマーンに所在するGulf Medical University(GMU)は、中東最大級の私立医科大学として知られる。同大学はこのほど、AIおよびメタバースに特化した研究部門を新設し、先端ソリューションによる医療革新を起こそうとしている。 GMUの公表によると、新設されるThumbay Institute/College of AI in Healthcareは、医学領域におけるAIの可能性に加え、メタバースなどの新興テクノロジーの重要性を認識しているとする。学際的コラボレーションのハブとして、医学やコンピュータサイエンス、データ分析、メタバース技術の専門家を結集する。新部門が設計するプログラムやコースは、理論的知識と実践的トレーニングを融合させ、メタバース内のアプリケーションを含めた、ヘルスケア領域に特化した最先端AIソリューションを開発できるよう学生を支援するもの。 GMUの理事長であるHossam Hamdy教授は、「この先駆的な取り組みの背後にある先見的なアイデアは、創設者であるThumbay Moideen氏の発案によるもの。画期的な研究所の設立は、医療におけるAIの統合に特化したGMUの重要なマイルストーンを意味する」と述べている。 関連記事: 医学部教育におけるAI利用の可能性と課題 医療AIの特許状況をマッピング NUSの新センター – 「AIによる眼検診」の展開

ChatGPT – 米国泌尿器科学会の試験で低調な成績

各種専門医試験にChatGPTを挑戦させるといった「領域特化の回答能力検証」が続く中、米国泌尿器科学会(AUA)の自己評価プログラムに対してChatGPTの回答能力を試す研究が行われ、低調な正答率を記録したとする成果が報告された。 Urology Practiceで発表された同研究では、泌尿器科医の間で国際的に広く活用されているAUAの2022年セルフアセスメント型学習プログラム(SASP)において、ChatGPTが正答率30%に満たない試験結果を示した。その内訳は、画像関連の問題を除き、自由記述形式問題で36/135問(26.7%)、および多肢選択式問題で38/135問(28.2%)という正答率であった。特に自由記述形式問題へのChatGPTの回答は、SASPの模範解答より長い記述であったものの、冗長で内容が循環する傾向がみられた。 研究チームは、「米国医師国家試験(USMLE)のように事実を一対一で想起するような試験ではうまくいくが、複数の重複する事実・状況・結果を同時に考慮する臨床医学の問題においては、ChatGPTの回答能力は不十分」と指摘している。著者でネブラスカ大学医療センターのChristopher M. Deibert医師は「現状、泌尿器科領域におけるChatGPTの利用は、専門的なトレーニングを受けていないユーザーにとって、医学上の誤情報を助長する可能性が高い」と語った。 参照論文: New Artificial Intelligence ChatGPT Performs Poorly on the 2022 Self-assessment Study Program for Urology 関連記事: ChatGPT – 米国消化器病学会の試験には合格できず ChatGPT – 放射線科専門医試験で合格基準に到達 循環器科におけるChatGPTの回答能力検証

「AIとのやりとりが多い労働者」は孤独感を感じやすい

AIシステムとの職務上の連携が多い従業員は、不眠症や仕事後の飲酒の増加につながる孤独感を経験しやすいことを、米ジョージア大学やシンガポール国立大学を含む国際研究チームが明らかにした。研究成果は、Journal of Applied Psychologyから公開されている。 研究者らは、米国、台湾、インドネシア、マレーシアで4つの実験を行った。結果は、文化圏を超えて一貫した傾向を示しており、AIシステムによって再構築された職場環境は時に仕事を孤立させ、従業員の私生活に有害な波及効果を示す可能性を明らかにしている。台湾で行われた実験では、バイオメディカル企業に所属する166人のエンジニアを対象に、3週間に渡る調査を実施したところ、AIシステムとの対話頻度が高い従業員は、孤独感や不眠、終業後のアルコール摂取の増加を経験しやすかった。 著者らは、雇用主はAIシステムを使った作業の頻度を制限すること、従業員同士が交流する機会を提供すること、などを提案している。また、AI技術開発者には、AIシステムに人間の声など社会的機能を搭載することで、人間らしいやり取りを取り入れることの検討を促している。 参照論文: No Person Is an Island: Unpacking the Work and After-Work Consequences of Interacting With Artificial Intelligence 関連記事: 大規模言語モデルとインフォデミックリスク AIの脅威に対して医療者が果たすべき役割 高齢者介護施設へのAI導入が差別を悪化させる可能性

Eye2Gene – 網膜スキャンによる遺伝的原因の特定

遺伝性網膜疾患(IRD: Inherited retinal diseases)は遺伝子の異常が引き金となり網膜の変性や機能低下を起こす疾患群を指す。その原因となる遺伝子は多岐にわたり、これらの疾患の診断は容易ではない。英国のユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームが開発した、AIを活用した網膜スキャンシステム「Eye2Gene」は、IRDの診断を一般化し、効率的に進める方向性を示している。 2023年のESHG(欧州人類遺伝学会)年次総会で発表された研究成果によると、Eye2Geneは過去30年以上に渡って蓄積された4,000人以上のIRD患者から得られた遺伝情報と網膜画像データを利用してAIシステムを構築しており、網膜スキャンからIRDの遺伝的原因を直接特定することを可能にした。その検証結果から、同システムは75%以上の症例において、従来の遺伝子表現型に基づく専門スコアと同等かそれ以上の特定能力を有することが示されている。 研究チームでは将来的に「Eye2Gene」を標準的な網膜検査へ組み込み、専門病院でセカンドオピニオンを求める際の補助として、または専門家不在の場合にも利用できるようにすることを目指している。研究を主導するNikolas Pontikos氏は「AIが専門医レベルの診療をさらにアクセスしやすく、公平に提供することで、患者やその家族の役に立つことを期待する」と語った。 関連記事: RetiSpec社 – 網膜検査をアルツハイマー病診断に用いるAI技術 「網膜年齢」による疾患予測 網膜血管から心筋梗塞リスクを推定するAI研究

レビュー論文 – 医療従事者がAIを受け入れるために

ドイツ・アーヘン工科大学などの研究チームは、「医療従事者がAIを受け入れるために不可欠な前提条件」を調査し、その障壁と促進因子を明らかにした。研究論文は10日、npj Digital Medicineから公開されている。 本研究論文では、参入基準を満たした42報の同種先行研究論文を調査し、結果をシステマティックレビューとしてまとめている。評価対象となったAI形態の多く(n = 21)は、臨床判断支援システム(CDSS)であった。阻害因子として一貫していたものは、「臨床ワークフローにAIを組み込むことの難しさ(これは、既存ワークフロー変更の困難さと言い換えることもできる)」と、「専門家の自律性が失われることへの恐れ」であった。一方、AI受け入れを有意に促進する因子としては「AIを使用するための専門家トレーニング」であった。 著者らは「医療従事者がAIを受け入れやすくするためには、AI開発の初期段階でこれらエンドユーザーを統合し、医療におけるAI使用のためのニーズに合わせたトレーニング、および適切なインフラを提供することが望ましい」と結論付けている。 参照論文: An integrative review on the acceptance of artificial intelligence among healthcare professionals in hospitals 関連記事: 「AIツールの受け入れやすさ」で診断率に差 「小児救急外来でのAI活用」を保護者は受け入れるか? 米国成人の60%がヘルスケアAIに不快感を抱く

「市民が抱く健康課題」へのChatGPTの回答能力

AIアシスタントを医療現場のサポートツールとして活用が進められる一方、市民の健康に関する疑問にどの程度対応できるのかについて、依然として多くの課題が残されている。米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、公衆衛生に関する一般市民からの質問に対するChatGPTの回答能力を評価する研究を行った。 JAMA Network Openに発表された同研究では、ChatGPTに対し、依存症・対人暴力・メンタルヘルス・身体的健康という4つの公衆衛生カテゴリに分けられる23の質問を投げかけ、回答を評価した。その結果、ChatGPTは提出された23の質問全てに対し適切に認識して回答することができ、そのうち21の回答(約91%)は科学的根拠に基づいていると評価された。ただし、問題解決に必要なリソース(支援団体やホットラインなど)を紹介できたのは23問中わずか5問(約22%)であり、提供される情報は主にアドバイスの形であった。また、既存のAIアシスタント(Amazon Alexa、Apple Siri、Google Assistant、Microsoft Cortana、Samsung Bixby)と比較して、ChatGPTのパフォーマンスが有意に優れていることも示された。 本論文では「AIアシスタントが市民に対してより実用的な情報、例えばリソース紹介などを提供するには、公衆衛生機関とAI企業が連携し、リソース提供を促進するべき」との提案がなされている。著者であるJohn W. Ayers博士は、「健康情報を求めてAIに目を向ける人々を、訓練を受けた専門家に繋げることは、AIシステムの重要な要件であるべきだ。それが実現すれば公衆衛生の成果は大幅に改善するだろう」と語っている。 参照論文: Evaluating Artificial Intelligence Responses to Public Health Questions 関連記事: ChatGPTが「乳がん関連の健康アドバイス」で有効性を示す ワクチン接種事業におけるAIチャットボットの有効性 デリケートな健康問題はAIチャットボットへの相談が最適か?

Nature論文 – 医師の臨床メモから再入院を予測するAI

ニューヨーク大学グロスマン校の研究者が率いる研究チームは、医師の臨床メモを分析し、患者の死亡リスクや入院期間、その他治療に必要となる重要な要素を正確に推定することができるAIツールを開発した。このツールは現在、ニューヨーク大学ランゴーンヘルスの病院で、退院した患者が1ヶ月以内に再入院する確率を予測するために実臨床利用されている。 Natureから7日公開された研究論文によると、研究チームは「NYUTron」と呼ばれる大規模言語モデル(LLM)を設計し、患者の健康状態について有用な評価を行うことができるよう、336,000人の患者に関する電子カルテ内テキストを使って訓練を行った。その結果、このモデルは再入院患者の80%を予測することができ、医療データの再フォーマットを必要とする標準的な非LLMコンピュータモデルと比較して、およそ5%の精度改善が得られたという。 NYU Center for Data Scienceの博士課程学生で、研究をリードしたLavender Jiang氏は「NYUTronのようなプログラムは、再入院やその他の医学的懸念につながる要因について、医療提供者にリアルタイムで警告することができる。これはより迅速な対処や、望ましくない結果の回避を可能とするものだ」とした上で、ワークフローをスピードアップし、医師が患者と対話する時間を増やすことができる点にも言及している。 参照論文: Health system-scale language models are all-purpose prediction engines 関連記事: 電子カルテから発症5年前にアルツハイマー病を予測 電子カルテのパーソナライゼーション XAIアプローチ – 電子カルテデータに基づく心臓アウトカム予測

救急医のTwitter投稿に見る「COVID-19パンデミック下の孤独」

COVID-19のパンデミックが進行する中、特に最前線である救急部門の医師たちは日々の経験をSNSで発信していた。その投稿は「パンデミック中の医療者における心情変化を理解するための重要なデータ」を提供している。米ペンシルベニア大学の研究チームは、COVID-19パンデミックの中で、「救急医のTwitter上での孤独や抑うつの表現が増加していたこと」をAI手法で明らかにした。 JAMA Network Openに掲載された同研究では、2018〜2022年までの間にTwitter上に公開された471名の救急医の投稿を対象に、機械学習と自然言語処理を用いた感情分析を行った。2020年3月、つまり米国で感染が広範囲に拡大した時期を境に、投稿の感情表現がどう変化したかを調査している。その結果、パンデミック以降の投稿ではネガティブな表現が有意に増え、特に孤独、不安、怒り、抑うつに関する表現が顕著に増加したことが明らかになった。 著者のAnish Agarwal氏は「救急医療従事者の間で孤独が増加していたが、おそらくこれは医療界全体での真実ではないかと推察している。これらの発見は、全ての医療従事者の"社会との結びつき"に投資する必要性を示している。メンターシップ・つながり・キャリアアップを全面的に強化することが必要だろう」と語った。 参照論文: Investigating Social Media to Evaluate Emergency Medicine Physicians’ Emotional Well-being During COVID-19 関連記事: Twitter投稿から「COVID-19ワクチン接種率」の推移を予測できる 大規模言語モデルとインフォデミックリスク 「痛風とメンタルヘルスの関係」をソーシャルメディアから解析

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