年間アーカイブ 2023

腸内細菌叢の多様性が「健常児の認知機能」を予測する

米ウェルズリー大学などの研究チームは、「腸内細菌叢の違いが、健常児の認知機能全般や脳構造と関連していること」を明らかにした。研究は、Science Advancesに発表されたもので、米国立衛生研究所の資金提供によるECHO(Environmental Influences on Child Health Outcome)プログラムの一環となる。 研究は、ロードアイランド州プロビデンスにある「The RESONANCEコホート」の健康な子ども381人を対象としたもの。小児の腸内細菌叢と認知機能との関連を調査したところ、Alistipes obesiやBlautia wexleraeなどの特定の腸内細菌種は、より高い認知機能と関連していた。逆に、Ruminococcus gnavusのような種では、認知スコアの低い子どもにより多くみられていた。同時に、機械学習モデルを用い、腸内微生物プロファイルが脳構造と認知能力の変動を予測できることを示しており、神経発達における早期発見と介入戦略の可能性が強調されている。 本知見は、認知機能と脳発達のバイオマーカー開発に道を開くものとなり得る。また、小児期における腸内環境の重要性を浮き彫りにし、保護者や医療提供者が食事・生活習慣について考慮すべきことを示唆している。チームはさらなる研究の推進を表明しており、異なる環境下における成果の再現性を調査するとしている。 参照論文: Gut-resident microorganisms and their genes are associated with cognition and neuroanatomy in children 関連記事: 腸内細菌叢から「非アルコール性脂肪性肝疾患発症」を予測 ...

カイザーパーマネンテ – AI研究に資金提供

米国最大級の病院グループ企業である「カイザーパーマネンテ」(KP)は、医療保険会社でありながら独自に医療機関を運営する巨大組織だ。KPはこのほど、AIがどのように患者ケアを改善できるかを探求する5つのプロジェクトに助成金を授与した。 KPの公表によるとこれは、AIに焦点を当てた国家的な研究活動を支援するもので、5つのプロジェクトに対し、それぞれ最高75万ドル(約1億円)を助成している。当助成金には予測分析や大規模言語モデル、コンピュータビジョンなど、さまざまな医療AIユースケースに関する120件以上の応募があった。カイザーパーマネンテ・ノーザン・カリフォルニア研究部門(DOR)の研究者であり、パーマネンテ・メディカル・グループの集中治療専門医でもあるVincent Liu医師は「革新的でインパクトある数多くのプロジェクトの中から選ぶのは、本当に難しいことだった。最終的には、多様な技術、医療環境、患者グループにわたる現実世界の課題に取り組む、バランスの取れたポートフォリオを選択した」と述べている。 採択テーマは、小児喘息のためのAIモデル、心アミロイドーシスのハイスループット精密同定、AIによる糖尿病網膜症スクリーニングなどが含まれる。各助成金の助成期間は3年間で、助成期間中、KPのAugmented Intelligence in Medicine and Healthcare Initiative (AIM-HI) Coordinating Centerの積極的な支援を受けることとなる。 関連記事: NIH – 腎移植AIで280万ドルを助成 がん治療向けクローズドループ療法の開発に4500万ドルを助成 GE HealthCare – 「AI支援超音波技術開発」で4400万ドルの助成金獲得

ディープラーニングが新しい抗生物質クラスを解き放つ

20日、Natureに掲載された新しい研究論文では、ディープラーニングアプローチを用いて化学的サブ構造を探索し、抗生物質の新しい構造クラスの発見に役立てている。研究は、MIT・ハーバード大学ブロード研究所のチームが主導した。 フルオロキノロン系とオキサゾリジノン系の登場までに38年の間隔があり、新しい構造クラスの抗生物質を発見するためには膨大な時間が必要である。抗生物質耐性と新しい抗生物質の不足は、細菌感染症による罹患率を増加させている側面がある。現代の抗生物質発見は、構造誘導設計、合理的設計、天然物探索、進化・系統解析、ハイスループットスクリーニング、機械学習を用いたin silicoスクリーニングに基づいて行われる。 化学空間の構造的多様性が大きい新規抗生物質を発見することは極めて困難である。近年、この課題を克服するため、大規模な化学ライブラリから潜在的な抗生物質を同定する目的にディープラーニング手法が用いられてきた。今回の研究では、抗生物質の活性測定とヒト細胞の細胞毒性にリンクした大規模なデータセットを用い、学習したグラフニューラルネットワーク(GNN)モデルを適用した。GNNの各モデルは0から1の予測スコアを生成し、その分子が抗菌活性を持つ確率を示す。 今回の研究は、新しい抗生物質クラスの発見におけるディープラーニングアプローチの有効性を浮き彫りにする。抗生物質の新しい構造クラスは、単一化合物のヒット予測とその化学的部分構造の分析に基づいて同定することができる。化学空間のダウンサンプリングに加え、このアプローチのもう一つの利点は、前例のない構造モチーフの同定を自動化できることにある。グラフに基づく合理的予測の理解が深まれば、新しい抗生物質クラスの発見を促進する可能性が期待されている。 参照論文: Discovery of a structural class of antibiotics with explainable deep learning 関連記事: 肺内を泳ぐマイクロロボットが肺炎を治療 「敗血症治療開始の最適なタイミング」を予測するAI 薬剤耐性菌の広がりを予測する機械学習モデル

経時データによる「大規模災害時の患者トリアージを最適化」

米メリーランド大学医学部(UMSOM)の研究チームは、大規模災害発生時の患者トリアージをより最適化するため、国防高等研究計画局(DARPA)から最大730万ドル(10.4億円)の資金提供を受ける。 この資金は今後3年半に渡り、外傷患者のデータを収集することで、大規模な集団死傷事故に際する医療トリアージの進歩を特定し、実施するために活用される。具体的には、R Adams Cowley Shock Trauma Centerに入院する18歳から65歳までの外傷患者の非識別化データを収集する。収集データには、現場での治療、ヘリコプターによる搬送、外傷センターでの受け入れ、継続的な患者のバイタルサイン、救命医療介入データなどが含まれる。 分単位の患者データがあれば、患者がどこで悪化しているかをより明確に把握することができ、到着時にどの程度の血液が必要なのかといった重要な答えを外傷チームに提供することができる。トリアージプロセスを進める上で極めて重要なデータの活用であるとともに、クリティカルケアにおける新しい精密医療の形として期待が集まっている。 関連記事: 将来的なウイルス感染症対策としての「AIトリアージプラットフォーム」 救急部での臨床判断を支える「新しい機械学習トリアージツール」 MayaMD – AIヘルスアシスタントが「臨床医を超える正確なトリアージ」

バイデン政権 – 医療AIへの新たな自発的コミットメントを公表

バイデン米大統領は就任以来、AIがもたらす大きな可能性を捉え、リスク管理の重要性にフォーカスしてきた。バイデン大統領の「大統領令14110」は、「安全、安心、信頼できる人工知能の開発と使用」を確実にするため、米国保健福祉省(HHS)が責任を負う多くの行動を含む、数十の行動を概説している。14日、バイデン政権は、より広範なコミットメントの最新版として、AIが安全かつ責任を持って医療に導入されることを保証するための新たな取り組みを発表した。 これは、大手ヘルスケア事業体の自発的コミットメントを示すもので、ヘルスケアにおける責任あるAIの確保に向けた重要な一歩となる。署名した事業体群は、医療の公平性を高め、アクセスを拡大し、医療をより安価にすることを目指す。また、より協調的なケアによってアウトカムを改善し、患者の経験を改善、臨床医の燃え尽きを減らすことによって、医療の提供と支払いを最適化するためのAIソリューションを精力的に開発するという。さらに、HHSのHealth Data, Technology, and Interoperabilityで確立され参照されている、「公正、適切、妥当、有効、安全(FAVES)」なAIの原則に沿った成果を確保するため、同業者やパートナーと協力すること、コンテンツの大部分がAIによって生成され、人によるレビューや編集が行われていない場合、利用者に通知するメカニズムを導入すること、フロンティアモデルによるアプリケーションの包括的な追跡、潜在的な危害の説明とそれを軽減するステップを含むリスク管理の枠組みを遵守すること、AIの研究、調査、開発を迅速かつ責任を持って行うこと、などが含まれている。 AIに対するこれまでの米国政府の規制アプローチや、民間企業による自主的なコミットメントの発表といった民間セクターとの交流は、そのほとんどが「供給側」の技術開発者による責任あるAIに焦点を当てたものだった。今回発表されたコミットメントは、"需要側"の事業体、具体的には、医療活動において自ら使用するためにAI対応技術を開発、購入、導入する医療提供者や支払者のものとなる。 関連記事: 英政府 – 2100万ポンドで脳卒中AIを全面導入 医療ITソフトへの支出が加速する米国医療機関 LinkedIn最新レポート – 生成AIは医療者の仕事を代替できるか?

カリフォルニア大学バークレー校 – 「Agile Metabolic Health」プロジェクト

カリフォルニア大学バークレー校はこのほど、オープンソースのデータプラットフォームを利用し、糖尿病などの代謝異常疾患の治療を強化する取り組み、「Agile Metabolic Health」プロジェクトを立ち上げた。 JupyterHealthと呼ばれるこのプラットフォームは、カリフォルニア大学バークレー校のコンピューティング学部を中心に多数・多施設の専門家によって構築される。Agile Metabolic Healthプロジェクトは9月にボランティアからのデータ収集を開始しており、2024年には得られた情報をプラットフォームの初期バージョンに組み込みたいとする。グルコースデータはその後すぐに追加される予定で、2025年にはUCSFの一般内科、糖尿病クリニック、体重管理クリニックでもこのプラットフォームが試験的に導入される。 プロジェクトはまず、糖尿病治療の改善に焦点を当てる。現状の標準的治療では、糖尿病患者は血糖値の3ヶ月平均値に基づいて治療を受けているのに対し、ウェアラブル技術によって臨床医がリアルタイムの血糖値データにアクセスできるようにすることを目指す。将来的に、収集データはデジタルバイオマーカーアルゴリズムの開発と検証に使用されることを見込み、当該疾患領域への医学的な革新をもたらすことを期待している。 関連記事: AIとメタボロミクスによるパーキンソン病の発症予測 ヘパリン治療の安全性を向上させるAIツール カリフォルニア大学アーバイン校 – プレシジョンヘルス研究所を設立

糖尿病患者の肝炎を識別

Scientific Reportsにこのほど掲載された研究では、糖尿病患者の肝炎検出に関して、様々な機械学習モデルの性能が評価されている。 糖尿病は広く蔓延する慢性代謝性疾患の1つである。1型糖尿病(膵β細胞からのインスリン不足)と2型糖尿病(インスリン抵抗性)の別を問わず、この疾患は長期的に多臓器の合併症を引き起こしやすいことが知られている。最近の研究では特に、糖尿病患者におけるB型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の有病率が高いことが報告されている。 韓国・建陽大学校などの研究チームは、身体計測結果、属性情報、脂質プロファイル、アンケートデータを用いて、糖尿病と肝炎における12の危険因子との関係を明らかにした。1,396人の糖尿病患者における解析によって、RF、SVM、XGBoost、LASSOという4つの機械学習モデルの識別性能を評価している。本研究で評価したすべての機械学習モデルは、ハイパーパラメータチューニング後に性能の向上を示したが、糖尿病患者におけるHBVまたはHCV感染の発症に対する予測能力が最も高かったのはLASSOであった。同様に、慢性HBV感染患者における肝細胞癌の予測においても、LASSOが最も優れた性能を示していた。 高パフォーマンスモデルを組み合わせたアンサンブルの結果、スタッキングは予測のパフォーマンス指標を改善しないことが示された。検証結果は、本課題の臨床的意思決定におけるLASSOの応用に光を当てるとともに、研究チームは「肝炎リスクの高い糖尿病患者を同定するスクリーニング戦略を開発するための重要な知見を提供した」としている。 参照論文: Machine learning for predicting hepatitis B or C virus infection in diabetic patients 関連記事: Klick Labs – スマホの10秒音声で糖尿病を識別 胸部X線画像から糖尿病を早期発見するAI Lark Health – 全米糖尿病予防プログラムで減量とコスト削減を実証

大規模言語モデルによる産後出血の識別

米ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究者らは、大規模言語モデル「Flan-T5」(Google AI が提供するオープンソース言語モデル)が、産後出血患者の同定において95%の精度を示し、産後出血を発症する可能性の高い患者の予測に役立つ可能性があることを示した。 およそ1〜5%が経験する産後出血は通常、出産直後に起こるが、それ以降に起こることもある。複数の潜在的因子があり、患者の個別性も結果を修飾するため、この疾患の特定と追跡は従来容易ではなかった。npj Digital Medicineに掲載された研究によると、研究者らは、Flan-T5に電子カルテデータから産後出血に関連する概念を認識するよう訓練し、その後、この病態の患者にフラグを立てるモデルとして構築した。モデル構築には、1998年から2015年の間にマス・ジェネラル・ブリガム病院群で出産した131,284人の退院時サマリーが用いられている。このモデルは、研究者による手作業のデータラベリングを必要とすることなく、産後出血の患者を正確に同定しており、従来の請求コードを使用した追跡の精度を有意に上回っていた。 研究チームは「このアプローチは将来の研究に応用でき、臨床的な臨床的意思決定支援となる可能性」を強調している。AIとアナリティクスを活用し、「妊産婦と乳幼児の健康」を改善しようとする潮流が生まれている。 参照論文: Zero-shot interpretable phenotyping of postpartum hemorrhage using large language models 関連記事: Baymatob社「Oli」 – 産後出血を予測するAIデバイス 産後出血を正確に定義する「デジタル表現型」 「貧困地域で正確な妊娠週数」を算出するAI超音波システム

AIによる「COPDの予後予測」

The Lancet Digital Healthに掲載された最近のメタアナリシスにおいて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期予後を予測するAIモデルの質と性能を評価した。 COPDは喫煙などの長期的な有害物質曝露によって引き起こされる炎症性疾患。世界的に主要な死亡原因の1つとなっており、あらゆる国・地域においてその治療費は増加傾向にある。ディープラーニングや機械学習モデルは、COPD患者の長期的な進行を予測し、医療コスト削減や医療提供の効率化を図るために利用されるようになってきた。オーストラリア・アデレード大学などのチームによる本研究では、「COPDの初回診断から6ヵ月以上経過した患者の転帰」を推定するためのAIモデル研究(前向きコホート研究、横断研究、症例対照研究、ランダム化比較試験)を分析した。 研究チームは3,620件の研究を同定し、そのうち18件が適格基準を満たしていた。各モデルは死亡リスク推定や肺機能低下予測に有望な成果を示していた一方、メタアナリシスでは、AIモデルと従来の回帰モデルのpooled AUCに明らかな有意差はないことが明らかになっている。したがって、今回の研究結果からは、ディープラーニングや機械学習モデルがCOPDの長期予後において、既存のCOPD重症度スコアを上回るというエビデンスは確立されていない。一方、従来モデルの臨床応用には限界があるため、AIによる多変量の同時利用やCTデータの評価については、さらなる臨床的有効性が期待されている。 参照論文: Machine learning and deep learning predictive models for long-term prognosis in patients with chronic obstructive pulmonary disease: a systematic review...

医療画像処理におけるAI市場は2032年までに142億ドルに増加

医療用画像処理におけるAIの世界市場規模は、2022年の7.6億ドルから増加し、2032年には142億ドル(約2兆円)を超えると推定される。 Precedence Research社の最新レポートによると、世界の医療用画像処理におけるAI市場は、2023年から2032年の予測期間中、33.1%という二桁CAGRで拡大する見込みとなっている。北米の医療画像AI市場規模は、2022年に3億7911万ドルを占め、2023年から2032年にかけて33.60%の健全なCAGRで拡大し、2032年には56億8048万ドルに達する。欧州では、2022年に2億8414万ドル、2023年から2032年にかけて32.60%のCAGRで拡大し、2032年には39億8900万ドルに達する。同様に、アジア太平洋地域は、2022年に2億1964万ドル、2023年から2032年にかけて34.20%と特に大きなCAGRで拡大し、2032年には34億7761万ドルに達すると予測されている。 全体として、医療用画像診断におけるAIは、迅速な診断、個別化された治療、的確な介入を通じて、患者の転帰を大幅に改善するとともに、医療従事者の負担を軽減し、分析を自動化することで、世界的な医療従事者不足に対処できる可能性を強調している。 関連記事: 医用画像AI市場は2030年までに209億ドル規模へ 2029年までに医療AI市場は1641億ドル相当へ EU – 仮想環境でのAI検証に2.2億ユーロを投資

GE HealthCare – 乳がん診断のための新しいAIプラットフォームを展開

現在開催中の北米放射線学会(RSNA)年次総会において、GE HealthCareは「MyBreastAI Suite」(乳がん検出とワークフローを支援するAIプラットフォーム)を発表した。 GE HealthCareは、今年度のRSNAにおいて40を超える新しいイノベーションを発表しており、「MyBreastAI Suite」はその1つとなる。このプラットフォームはiCADが開発したソフトウェアから、3つのAIアプリケーションを統合したもの。iCADのProFound Breast Health Suiteの一部であるアプリケーションには、乳房画像のワークフローを支援するツールなどが含まれている。これは、病変スコアの評価、マンモグラフィ上の関心領域のマーキング、放射線科医間のばらつきを減らすための乳房密度評価の標準化を通して、症例の優先順位付けを支援することができる。 GE HealthCareでマンモグラフィ担当ヴァイスプレジデントのPooja Pathak氏は、「乳がんの早期発見をサポートするため、マンモグラフィでAIの力をどのように活用できるかを探求し続ける」と述べている。 関連記事: 乳がん手術における腫瘍摘出精度を向上させるAI AI支援による乳がん検診の臨床的安全性評価 「AIアルゴリズムの組み合わせ」が乳がんリスクの長期予測に寄与

Siemens Healthineers – 生成AIを画像レポートに適用

Siemens Healthineersは、現在開催中の北米放射線学会(RSNA)において、生成AIの利用に関するアイデアとプロトタイプ品の発表を行った。 生成AIの躍進が続いており、AIが既存のデータセットを分析できるだけでなく、それらを用いて新しいコンテンツを作成できることを日々強力に示している。実際、多くの企業が、テキストや画像生成の分野で生成AIを利用している。Siemens Healthineersは、画像やテキストのアプリケーションに焦点を当てるだけでなく、それらを組み合わせることで、医療画像の解析、レポートの自動作成、重要度に応じた優先順位づけ、などを一貫して行おうとする。また同社は、カスタマーサービスやサポート、医療スタッフのトレーニングに使用する生成AIにも取り組む。 生成AIを、いわゆる「スマート・イメージング・バリューチェーン」の重要な一部と捉えている。これには、患者の病歴からレポートまで、画像処理プロセス全体に沿ったインテリジェントなデータ統合が含まれる。画像診断部門の責任者を務めるAndré Hartung氏は「当社の製品と、それらが生成する膨大な画像およびテキストデータのおかげで、当社はユニークな立場にある。臨床医は、医療上の問題や患者により集中することができるようになる」と述べ、生成AIの医療適用を積極推進する方針を強調している。 関連記事: MicrosoftとPaige – 世界最大の画像ベースAIモデルの構築へ Axial3D「INSIGHT」 – 医療画像3D化プラットフォームがFDA認可 Subtle Medical – 画像検査を高速化するAI技術

機械学習による脳腫瘍の悪精度判定

米フロリダ大学などの研究チームは、液体クロマトグラフィー高分解能質量分析(LC-HRMS)に機械学習を組み合わせることで、脳腫瘍の評価をより効率的に行える可能性を実証した。研究成果は、Journal of the American Society for Mass Spectrometryにこのほど掲載された。 髄膜腫は一般的な脳腫瘍の一種であるが、有害な転帰を防ぐためには、髄膜腫を正確に評価することが欠かせない。髄膜腫はその悪精度に応じて、grade Ⅰ〜Ⅲに分類される。grade Ⅰは進行が遅く脅威が少ないため、治療は腫瘍の摘出と経過観察に重点が置かれる。一方で、grade Ⅲは強い腫瘍侵攻性のために、切除と放射線治療の両者が必要となる。grade Ⅱはグレーゾーンであり、臨床医にとって「腫瘍を摘出し、再発の有無を経過観察するのか、予防目的に放射線照射を行うのか」について悩ましいという事実があった。 研究チームは、85の髄膜腫サンプルを分析し、各腫瘍の低分子化合物等の化学プロファイルを得た。これにより研究チームは、腫瘍の悪性度による違いをより正確に特徴付け、診断に役立つバイオマーカーの可能性を特定したとしている。機械学習の利用により、腫瘍評価プロセスは大幅に効率化されており、人の手によっては10分で20程度のデータポイントを評価できる一方で、機械学種モデルは17,000のデータポイントを1秒以内に分析したという。 機械学習モデルは腫瘍の悪性度を87%の初期精度で分類したが、研究チームは「より多くのサンプルを追加して分析すれば、さらに改善される可能性がある」と指摘する。研究チームは髄膜腫の診断と治療を革新する可能性を強調し、さらなる研究を継続している。 参照論文: Metabolomic and Lipidomic Characterization of Meningioma Grades Using LC–HRMS and Machine Learning 関連記事: 人工脳が手書き数字を高精度に認識 ...

うつ病自動診断ツールのレビュー論文

npj Mental Health Researchに掲載された研究論文では、大うつ病性障害を予測することを目的とした、表情や声、意味的特徴を利用した最新のアプローチについてのシステマティックレビューを行っている。 現在、世界中で約2.8億人がうつ病に罹患していると推定される。従来、うつ病の評価には半構造化面接が用いられてきたが、この方法は主観的であり、バイアスや社会的スティグマの影響を受けやすい点が指摘される。適切なトレーニングを受けた専門家の不足が、特に低・中所得国において、妥当な医療へのアクセスを困難にしている。自動化されたうつ病評価ツールは、うつ病の客観的診断をあらゆる地域に効果的に提供することが期待されている。 計264報がレビューの解析対象に含まれた。モデルが十分に訓練されていれば、面接を受ける環境や年齢、アクセントや言語の違いに関係なく、無作為に選んだ個人のメンタルヘルス問題を正確に検出することができる傾向を明らかにしている。一方で、ほとんどのモデルは、サンプルサイズの限界と特徴の偏りを含む様々な要因に依存し、性能は一般化できない可能性に言及していた。自動化されたモデルを開発する際の現在の課題としては、「併存疾患を考慮していないこと」を特定しており、将来的には、併存疾患を含むモデルと含まないモデルを訓練し、モデル精度と特性をより良く理解するために比較する必要があるとしている。 著者らは、データやコードの共有を通して、頑健性と一般化可能性向上を見据えた研究発展に期待を示している。自動化されたメンタルヘルスの評価と治療は、マルチモーダルに多様な特徴を取り込むことで、さらなる有効性向上を見込むことができる。 参照論文: A systematic review on automated clinical depression diagnosis 関連記事: うつ病治療を変革する脳内バイオマーカー研究 うつ病自己管理にAIチャットボットは有効か? 位置情報利用モバイルゲーム「Pokémon GO」は抑うつを改善するか?

生成AIがヘルスケアをより安価にする?

デロイトによる最新の消費者調査によると、生成AIを利用している消費者の70%以上は「この技術がヘルスケアに革命をもたらす可能性がある」と考えている。 これは、デロイトのヘルスソリューションセンター(Center for Health Solutions)が、米国成人2,014人を対象に実施した全国調査で得られた知見に基づく。回答者全体の半数以上が「生成AIによって医療アクセスが改善する」と考えており、46%が「医療費をより安価にできる可能性がある」とした。興味深いことに、消費者は「生成AIがヘルスケアにおいて特に信頼できる」と感じており、これらのユーザーの大部分(69%)は「情報が十分に信頼できる」、または「非常に信頼できる」と評価していた。研究者らは、健康とウェルネスのために生成AIにアクセスした消費者の5人に1人が、病状を知るために生成 AIを利用したことも明らかにしている。 デロイトで米国ライフサイエンス・ヘルスケア・インダストリ・リーダーを務めるAsif Dhar氏は、「医療費が多くの消費者の関心を集めている今、我々の調査は、消費者は生成AIがコスト削減、アクセス改善、そして健康増進に活用する鍵になると考えていることを示している」と述べた。デロイトは、エンタープライズAI戦略の策定から、クラウド、サイバー、ストラテジー&アナリティクスを含む複数の事業に渡るビジネス主導の生成AIソリューションの実装まで、あらゆるフェーズでクライアントをサポートするフルスペクトラムのテーラーメイドAIサービスを提供している。 関連記事: 生成AIによる偽医療情報の作成検証 AI生成コンテンツに対する消費者の受容性研究 医療者は生成AIを受け入れる準備が整っている

AIバーチャル患者が香港の医学教育を革新する

生成AI技術が急速に発展し、種々の分野で幅広く応用される中、香港大学医学部(HKUMed)の研究チームは、医学生のトレーニングを目的とした、香港初の「AIバーチャル患者」アプリケーションを開発した。 研究チームは、生成AI技術と実際の手術症例データを活用し、明確な個性と病歴を持つAIバーチャル患者を設計し、ベッドサイドにおける患者とのやり取りをバーチャルにシミュレートできるようにした。この取り組みにより、学生の専門的スキルと患者の病歴収集を正確に行う能力が大幅に向上するとしている。継続的な研究と改善を通じ、生成AI技術と統合されたチャットボットの最新モデルは、標準化された単調な返答を超え、非常にダイナミックで生き生きとした返答を提供することができる。同じ臨床ケースであっても、AIバーチャル患者は明確な応答を提供することができ、驚くほど人間に近く、人格主導で学生と対話することを可能とした。 Michael Co Tiong-hong博士は、「従来の臨床教育は、実際の患者との直接対話に大きく依存していた。しかし、スケジュール調整の難しさなど様々な理由から、全ての医学生に良質な機会が均等に与えられたわけではない。AIバーチャル患者アプリは、時間的・地理的な障壁を克服し、希少な症例の診療を学生に提供し、かけがえのない臨床経験を積ませることができる」と述べ、臨床教育の質と効率を高める有効な手段であることを強調している。 参照論文: Using clinical history taking chatbot mobile app for clinical bedside teachings – A prospective case control study 関連記事: 看護バーチャルシミュレータの開発を加速させたもの OSCE-GPT – 医学生向け患者コミュニケーション教育アプリ DermSmart...

MDアンダーソンがんセンター – 腫瘍学データサイエンス研究所を設立

米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターは、がん医療の変革を目指し、先進的な計算アプローチと臨床専門知識を組み合わせた「MD Anderson Institute for Data Science in Oncology(IDSO)」を新設する。 IDSOの研究者たちは、AIを含む様々なデータ解析、計算アプローチを用いて、医療システムの膨大なデータの活用方法を強化する。これによる新たな医学的発見の促進、ケアの個別化、ひいては患者体験の向上と最適化を志す。同研究所は、まず5つの優先研究分野に取り組むとしている。これは、1. 病理学および医用画像からの定量的分析と洞察、2. 単一細胞解析とデータサイエンスを通じた多細胞相互作用、3. 精密医療の発見と開発、最適化のための計算モデリング、4. 人と社会の健康に関する公平な意思決定分析、5. アクセス、安全性、質を高める自動化アプローチの開発、となる。これらの重点分野をサポートするため、IDSOはゲノム医学、放射線腫瘍学、画像物理学、トランスレーショナル分子病理学の専門家と緊密に提携しており、今後も他分野の研究者を積極的に採用し、また育成していく方針を明らかにしている。 学長のPeter WT Pisters氏は「IDSOは、MDアンダーソンをがん治療、研究、臨床業務におけるデータサイエンスのリーダーと位置づけるものになる。その革新的なプログラムは多くの場合、がん撲滅という課題に適用されるデータサイエンスの第一世代となるだろう」と述べた。 関連記事: ニューヨーク市 – データサイエンスセンターを設立 GMU – AI・メタバース特化の新研究部門設立 ノースウェスタン大学 – 医療AIセンターを設立

人工脳が手書き数字を高精度に認識

米カリフォルニア・ナノシステム研究所のチームは、生物学的な脳を物理的にモデル化した実験的コンピューティングシステムが、93.4%という高精度で「手書きの数字」を識別することを明らかにした。カリフォルニア・ナノシステム研究所は、15年に渡り、計算のための新しいプラットフォーム技術を開発してきており、本研究成果はこの一端となる。 Nature Communicationsに掲載された研究論文によると、構成された人工脳は、銀を含むワイヤーの絡み合ったネットワークで構成され、電気パルスによって入力を受け取り、出力を生成する。個々のワイヤーは非常に小さく、その直径はナノスケール(10億分の1メートル)で測定される。現在のコンピューターは、電子が流れても位置が変化しない原子から作られた個別のメモリと処理モジュールを含み、研究チームの構成するシステムとは全く異なる。対照的に、ナノワイヤーネットワークは、刺激に応じて物理的に再構成され、原子構造に基づいたメモリがシステム全体に広がっている。ワイヤーが重なり合う部分では、接続が形成されたり切断されたりする。これは、ニューロンが互いに通信する生物学的な脳シナプスの挙動に類似している。 シドニー大学の共同研究者らは、入力を提供し、出力を解釈するための合理的なアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムはダイナミックに変化し、同時に複数のデータストリームを処理できる。機械学習システムのベンチマークによく使われるデータセットとして、手書き数字の画像を用い、ナノワイヤーネットワークのトレーニングとテストを行った。画像は、1000分の1秒の電気パルスを使い、ピクセルごとにシステムに伝えられ、結果として高精度な識別を実現している。 継続的な適応と学習が可能となる、物理システムに組み込まれた「脳のようなメモリと処理」は、遠く離れたサーバーとの通信を必要とせずに複雑なデータをその場で処理する、いわゆる「エッジ・コンピューティング」に特に適する可能性がある。 参照論文: Online dynamical learning and sequence memory with neuromorphic nanowire networks 関連記事: MIT – 線虫の脳が「行動をコード化する仕組み」を解明 AIによる脳波解釈 脳磁図からハンドジェスチャーを識別

生成AIによる偽医療情報の作成検証

JAMA Internal Medicineから13日にオンライン公開された研究論文によると、南オーストラリア・アデレードに所在するフリンダース大学の研究者らは、生成AIを用いた「健康に関する偽情報」の作成を検証している。 研究論文によると、OpenAIのGPT Playgroundが、大量の健康関連偽情報の生成を促進する能力があるかどうかを調査した。また、大規模言語モデルに加え、DALL-E 2やHeyGenのような、画像および動画コンテンツの生成を容易にする、一般に利用可能な生成AIプラットフォームについても調査を加えている。研究者らはワクチンと電子タバコに関する「17,000語以上の偽情報を含む102の明確なブログ記事」を、わずか65分で生成した。さらに、AIアバター技術と自然言語処理技術を用い、研究チームは5分以内に「ワクチンに関する偽情報を語る医療専門家が登場するディープフェイク動画」を生成した。このビデオは、40以上の異なる言語に簡単に置き換えることができた。 著者らは「AIツールのガードレールが不十分な場合、多様で大量な説得力のある偽情報を迅速に生成する能力が甚大であることが証明された。今、AIツールの問題をモニタリング・報告し、パッチを当てる透明なプロセスが緊急に必要となっている」と警告している。 参照論文: Health Disinformation Use Case Highlighting the Urgent Need for Artificial Intelligence Vigilance Weapons of Mass Disinformation 関連記事: 大規模言語モデルの利用に対するWHOの懸念 大規模言語モデルがEBMを推進する 大規模言語モデルとインフォデミックリスク

米国で不足する老年医学専門医と新技術への期待

米マサチューセッツ大学で老年医学講座を率いるGurwitz氏は、老年医学が衰退の一途をたどっている事実を危惧している。JAMA誌に掲載された論文では、老年医学専門医の数が2000年の10,270人から7,400人と、この20年間で3割も減少している事実を指摘する。 一方で、この20年間において米国の65歳以上人口は60%以上増加している。本来、老年医学専門医が担当する患者数は700人以下であることが望ましいとされるが、現在は専門医1人あたり10,000人を超える高齢患者の対応が必要となる。Gurwitz氏は「早急に対策を講じない限り、医療従事者は将来、高齢患者のニーズに応えるだけの能力(規模と能力の両面において)を欠くことになるだろう」としており、米国老年医学会も、虚弱で医学的に複雑な高齢者ケアには、2030年までに3万人の老年医が必要になると指摘する。 メディケアの診療報酬が低いこと、他専門医と比較して収入が低いこと、名声が乏しいこと、治療難易度の高さ、対象患者・疾患の魅力の程度、などが医師確保の壁として挙げられる。早急な制度改革によって確保することが困難とされる専門リソースにおいて、AIを始めとする新技術が果たす役割に大きな期待があることも事実だ。急速に拡大する老年医療市場は、革新的なソリューションの登場を待ち望んでいる。 参照論文: The Paradoxical Decline of Geriatric Medicine as a Profession 関連記事: AIによる皮膚がん診断が専門医と同等の信頼性 ChatGPT – 放射線科専門医試験で合格基準に到達 専門医による「肺がんのセグメンテーション」を助けるAI

生成AIによる「胸部X線解釈」

米ノースウェスタン大学の研究チームは、胸部X線写真の解釈において放射線科医と同等かそれ以上の精度を発揮する生成AIツールを構築した。研究成果はこのほど、JAMA Network Openから公開されている。多忙な救急部を支援し、オンコールの放射線科医がいない環境で働く臨床医に、有効なガイダンスを提供するように設計されているもの。 研究者らは90万枚の胸部X線画像とその放射線科レポートを活用し、このツールを構築した。画像上の臨床所見を正確に識別し、高品質のレポートを出力するこのツールは、実際にノースウェスタン大学の救急部で撮影された胸部X線画像500枚を用いた試験においても、専門医と遜色ない精度を示した。また一部のケースでは、放射線科医が見落とした所見を特定するケースも確認されている。 著者らは「この種の生成AIモデルが胸部X線レポートの作成に使用されたのは今回が初めてである」と主張するとともに、救急部におけるAI支援という「極めて現実的な臨床ユースケース」において有効性を示したことの価値を強調する。チームは、本ツールをリアルタイム利用した際の有効性についても評価を開始するとともに、MRIや超音波など、他画像種に技術を拡張する可能性についても検討を進めている。 参照論文: Generative Artificial Intelligence for Chest Radiograph Interpretation in the Emergency Department 関連記事: 胸部X線画像から糖尿病を早期発見するAI DNP – 「AI支援胸部がん検診読影システム」の運用を開始 AIは「胸部X線上の肺結節特定」に貢献する

STANDING Together – 新たな医療AI基準の公表

英バーミンガム大学の研究者らが主導するSTANDING Togetherから導かれた勧告は、患者や研究者、医療専門家、業界専門家、規制当局など、58カ国から350人以上が参加した2年間の調査研究の成果となる。 STANDING Togetherの提言は、AIシステムが使用されるであろう人々の多様性が、健康データセットに表現されることを保証するもの。AIシステムは「データセットに適切に表現されていない人々」にとってうまく機能する可能性が低く、有害でさえあり得る。現状、マイノリティグループに属する人々は、特にデータセットに十分に反映されていないケースが多い。 勧告は、年齢や性別、人種、民族、その他の重要な特徴などの詳細を収集し、これについてのガイダンスを提供している。また、AIシステムの開発者がその目的に最適なデータを選択できるよう、データセットの限界を透明性をもって報告すべきであると勧告している。さらに、医療AIシステムが使用される際に被害を受ける可能性のある人々を特定し、このリスクを低減できるようにする方法についても示されている。 主任研究者のXiaoxuan Liu氏は、「AIモデルはデータによって支えられており、データには豊富な情報が含まれる。健康データを扱う場合、この情報には残念ながら既存の健康格差が含まれることがある。このような不平等は、特定の集団の代表性欠如や、社会における構造的バイアスの反映など、さまざまな形で生じ得る。新しいイノベーションを見据えたデータ利用には、あらゆる偏りを認識し、それらを説明することが欠かせない」と述べている。 関連記事: 胸部X線AIモデルが示す人種間と性別間のバイアス 増悪指標DTIが内包するバイアスリスク 英政府 – 「医療AIのバイアス解消」に向けた新しい取り組みを公表

AIが「心臓突然死の予知・予防」に役立つ可能性

電子カルテ情報に基づくAI解析により、心臓突然死を予測できる可能性のあることが、フランス・パリ大学の研究者らによる予備研究で示された。 本研究は、11月11日から12日にかけてフィラデルフィアで開催される「蘇生科学シンポジウム2023(米国心臓協会主催)」で公表される。研究チームはパリ・シアトルの臨床データベースを利用しており、突然の心停止で死亡した25,000人と一般集団の70,000人についてを解析している。このデータには、100万件以上の診断と1000万件以上の薬剤処方を含み、各死亡の10年前までの医療記録が収集されている。研究者らは、心臓突然死のリスクが非常に高い人々を特定するため、パーソナライズされた因子を持つ多数のモデルを構築した。さらに、研究対象者一人ひとりにカスタマイズされたリスクプロファイルを作成したという。検証では、心臓突然死症例の4分の1以上を占めるハイリスク者を、特に高精度に特定していた。 予測モデルを他国・他地域で利用する際にはその汎化性能が未知であること、電子カルテで収集された医療データには、生データではなくプロキシが含まれること、などが研究の限界として挙げられるが、チームは「パーソナライズされた危険因子リストによって、患者が臨床医と協力してそれらの危険因子を低減し、最終的に心臓突然死の可能性を減らすことができるようにすること」を目指す。 関連記事: 心臓年齢を予測するAIツール研究 「心臓病の遺伝リスク克服に必要な治療」を明示するAI 心臓弁膜症の検出を自動化

公正な臨床AIに必要となる「多職種連携」

このほどnpj Digital Healthから公開されたパースペクティブ論文によると、医療における公平で偏りの無いAIを開発するためには、臨床医だけでなく、業界の多様な専門家の参画が欠かせないことを指摘している。 デューク大学とシンガポール国立大学の研究チームは、AIは幅広い医療応用の可能性が示されている一方、原理上にバイアスの懸念が常にあるため、その応用には限界があることを強調する。年齢や性別、人種などに代表されるサブグループ間で同等の性能を発揮することが期待される「公正なAIモデル」を構築・運用するためには、倫理学者やAIの専門家、各種臨床家など、多様な職種の協力が必要であるとしている。著者らが意図するのは完全な平等ではなく、公平性、つまり人種や性別などの要素を認識し、より脆弱なグループが必要なケアを受けられるようにAIアルゴリズムやその適用を調整することに焦点を当てることが、臨床AIにとってより合理的なアプローチである可能性に言及する。 チームは、AIソフトウェア市場をナビゲートし、責任あるAI導入のためのベストプラクティスを確立する組織として「Health AI Partnership」を設立している。医療AIのユースケースを徹底的に理解し、関連するリスクを考慮しようとする。ここでも、業界標準と分野横断的な協力の必要性を強調している。 参照論文: A translational perspective towards clinical AI fairness 関連記事: AIケアボットに倫理的判断を組み込む 米国心臓協会が「患者データ共有」のガイダンスを発表 消費者は「生成AIによるコンテンツ」を信頼する

後腹膜肉腫の悪性度をCT画像から予測

後腹膜肉腫は、後腹膜に存在する神経・筋・脂肪から発生する肉腫(サルコーマ)の総称で、早期発見が困難なこと、また再発を繰り返すことから一般的に予後不良の悪性腫瘍として知られる。英国の研究チームはこのほど、後腹膜肉腫の悪性度を予測するためのラジオミクス分類モデルを開発し、その性能を独自に検証した。 The Lancet Oncologyから公表された研究論文によると、本研究では、後腹膜肉腫のネオアジュバント放射線療法に関する第3相STRASS試験でリクルートされた患者コホート、および英ロンドンのRoyal Marsden Hospitalのレトロスペクティブコホートを利用している。外科的切除に移行した18歳以上の原発性平滑筋肉腫または脂肪肉腫を持つ患者で、造影CTスキャンが利用可能な者を対象者として、CTベースのラジオミクス分類モデルを開発した。独立した検証によって、AUROCは0.928を示し、組織学的悪性度をCT画像から高精度に予測できることを明らかにしている。 チームは、「本手法により、後腹膜肉腫の組織型および悪性度を優れた性能で予測できる。このことは、後腹膜肉腫の診断とリスク層別化を改善する上で重要な意味を持つ可能性がある」として、研究の価値を強調している。 参照論文: A CT-based radiomics classification model for the prediction of histological type and tumour grade in retroperitoneal sarcoma (RADSARC-R): a retrospective...

AIによる皮膚がん診断が専門医と同等の信頼性

スマートフォンを使用したAIによる皮膚がん診断技術が、近年有望視されている。しかし、実際の臨床シナリオの中でどう機能するかについての実用性検証は不足する。オーストリア・ウィーン医科大学の研究チームは、色素沈着性皮膚病変の診断AIについて、実臨床環境で多施設前向き試験を行った。 The Lancet Digital Healthに発表された同研究では、2つのシナリオ(シナリオA: 皮膚がんが疑われる患者群、シナリオB: 多数のほくろがある患者群)の条件下でAIと臨床医の診断精度を比較した。使用デバイスはiPhone8 Plusにアタッチメントレンズを取り付け、MetaOptima Technology社のDermEngineと呼ばれるAIソフトウェアを使用している。本臨床試験のための最新のアルゴリズム(7-class)と既存のアルゴリズム(ICIS)の2種のアルゴリズムが用意された。その結果、7-classアルゴリズムは専門医と同等の診断精度を持ち、経験の浅い医師よりも優れていることが確認された。またISICアルゴリズムは専門医には劣るものの、経験の浅い医師よりも優れていた。 著者のHarald Kittler氏は、「AIアプリケーションは、専門医よりも多くの良性病変を検出・除去しようとする傾向があった。この傾向を頭に入れておけば、AIアプリケーションは使用に耐え得る。しかし無批判に使用してしまうと、あまりにも多くの偽陽性を拾い上げてしまうことに注意が必要だ」と語っている。 参照論文: Comparison of humans versus mobile phone-powered artificial intelligence for the diagnosis and management of pigmented skin...

バイデン大統領 – AI開発リスク軽減に向けた大統領令

バイデン米大統領は30日、AI開発に関連するリスクから消費者を守るため、安全性確保やリスク管理に主眼を置いた大統領令に署名した。 国家の安全保障や経済、公衆衛生にリスクを与え得るAI開発者に対し、公開前に安全性試験の結果提出を義務付ける。ホワイトハウスは大統領令について「AIの安全性に関する新しい基準を構築し、米国が世界をリードする」とした。今回の大統領令で規定されるルールは、「AIの安全性確保」に関連して米国が取り組んできたあらゆる措置の中でも、最も強力なもののうちの1つとなる見込み。 また、規制強化だけではなく、National AI Research Resourceの試験運用とともに、ヘルスケアや気候変動など、重要分野におけるAI研究への助成金拡大を通じて、米国全体のAI研究を活性化させることを狙っている。 関連記事: 米国心臓協会が「患者データ共有」のガイダンスを発表 EUと米国がAI協力を強化 米国におけるAIツール導入の現状

ニューヨーク市 – データサイエンスセンターを設立

米ニューヨーク市はこのほど、医療・公衆衛生・社会サービスのデータを連携させることで、ニューヨーク市の集団健康サーベイランスを強化し、転帰を改善することを目的とした新センターの設立を明らかにした。 ニューヨーク市保健精神衛生局(DOHMH)が設立する同センターは、「Center for Population Health Data Science」で、集団の健康を改善するための大規模事業の一環となる。データの民主化・近代化、健康の公平性、政策立案への取り組みを促進することが期待される。ニューヨーク市の広範な緊急事態への備えと対応準備として、特に感染症と集団発生への対応に重点を置くという。さらに、慢性疾患やメンタルヘルスが、ニューヨーク市の多様な住民の健康、幸福、寿命にどのような影響を与えるかも調査する。 データの可視化とコミュニケーション、モデリングと予測、異種データのマッチングと分析、データガバナンスとプライバシー、AIの活用など、複数の戦略的能力の構築と強化にフォーカスし、事業を展開していく。 関連記事: 臨床ノートからSDOH情報を抽出 少数派コミュニティのための責任あるAI実装 ニューヨーク最大のヘルスシステムが狙う医療DX

「医療従事者の精神的苦痛」を検出するAI

医療現場では、過重労働と人手不足の影響により、医療従事者の燃え尽き症候群が拡大傾向にある。米ニューヨーク大学グロスマン医学部の研究チームは、「医療従事者の精神的苦痛を検出する自然言語処理AIツール」を開発し、その効果を検証している。 Journal of Medical Internet Research AIに発表された同研究では、医師や看護師、その他の医療スタッフを含む800名以上の医療従事者を対象に、遠隔心理療法セッションの言語記録を解析した。解析には、機械学習ベースの自然言語処理技術が利用されている。その結果、セラピストに対して「病棟の勤務」「睡眠の不足」「気分の問題」について語った医療従事者は、これらトピックを語らなかった者に比べ、不安やうつ病の診断を受ける可能性が高いことが明らかになった。一方、「パンデミック」や、自身の仕事の「チーム」「管理者」「上司」といったキーワードに関して語った医療従事者には、同様のリスクは確認されなかった。 全米での調査によると、COVIDパンデミック期間中に10万人の看護師が職を退き、2027年までには国内450万人の正看護師の5分の1にあたる約90万人が退職すると予測されており、医療システムの持続性が危ぶまれている。筆頭著者のMatteo Malgaroli氏は、「本研究の手法は医療従事者のメンタルヘルス・スクリーニングにおける重要な進歩だ。パンデミックの最も激しい時期に病院で働いた人々は、通常業務のストレスに加えて特殊な課題に直面し、深刻な精神衛生上のリスクにさらされていたことが分かった」と述べた。 参照論文: Association of Health Care Work With Anxiety and Depression During the COVID-19 Pandemic: Structural Topic Modeling Study 関連記事: Regard社...

大規模言語モデルが「人種差の誤った医学知識」を拡散する恐れ

大規模言語モデル(LLM)が医療システムに組み込まれつつあるが、これらAIモデルには人種間格差を助長する恐れが指摘されている。米スタンフォード大学の研究チームは、各種AIチャットボットが黒人患者に関する様々な誤解やデマに基づく内容を回答し、情報を拡散する可能性を指摘した。 npj Digital Medicineに発表された同研究では、4つのAIチャットボット(ChatGPTと上位グレードのGPT-4、GoogleのBard、AnthropicのClaude)を検証している。各チャットボットに対して、現在では科学的に否定されている「人種に基づいた誤った医学知識」から9つの質問について、5回ずつ回答を生成させ、医師が回答内容を評価した。結果として、いずれのモデルも一貫した正確な回答の生成に失敗しており、腎機能や皮膚の厚み、肺活量といった内容に関して、過去の医学的な誤解を再生産していることが確認された。 研究チームは本研究の結果から、「LLMが人種差の誤解を完全に根絶するには、さらに多くの調整が必要で、まだ臨床に使用して技術を統合していく準備が整っていない」とした上で、「全ての質問に完全な回答を行うことは不可能ではあるが、最低限の患者の安全性を確保するには、普及に先立ったより大規模な定量的研究を必要としている」と指摘した。 参照論文: Large language models propagate race-based medicine 関連記事: 胸部X線AIモデルが示す人種間と性別間のバイアス 米カリフォルニア州 – 人種的に偏ったAIへの対処を求める勧告案 パルスオキシメーターの人種間格差是正へ

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