医療とAIのニュース 2023
年間アーカイブ 2023
Healint – 片頭痛緩和に向けた大規模精密医療研究
米カリフォルニア州パロアルトに所在し、300万人以上が利用する世界最大の片頭痛トラッキングおよび研究プラットフォーム「Migraine Buddy」を運営するHealintは、ジュネーブ大学とのコラボレーションを9日公表した。新たな研究計画では、4.5万人の研究参加者を対象として100万件の疾患イベントを取り扱うことで、片頭痛緩和に向けた精密医療の確立を目指す。
同社の公表によると、初期の研究では、個人の特性に基づいて「ある分子が症状の軽減に最も役立つ時期」を予測することに焦点を当て、最終的にはユーザーの服薬歴やイベント履歴に基づいて薬剤を個別に推奨することを目指すという。本研究の次段階では、マルコフ連鎖を利用して片頭痛における症状進行をモデル化することを狙う。マルコフ連鎖は、起こりうる事象のシーケンスを記述する無記憶の確率過程で、片頭痛発作のメカニズムにおける未知性に対処するためのアプローチとして期待を寄せる。
Healintの目的は、片頭痛研究を通した理解促進により、疾病管理を改善することにある。同社CEOのFrançois Cadiou氏は「ジュネーブ大学との連携は素晴らしい機会だ。過去10年間、我々Healintは、患者コミュニティのために新しいタイプのデータを収集し、治療効果に関するコミュニケーションを改善し、QOLを向上させるために多面的に取り組んできた」と述べ、さらなる片頭痛治療の実質改善を追う姿勢を明らかにする。
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AIは整形外科診察の文書作成に有効か?
電子カルテは患者情報へのアクセスを良好にするが、医療文書作成に関する事務的負担は一貫して増加傾向にあり、このことは医師の「燃え尽き」の一因にもなっている。米ロスマン研究所の整形外科チームは「整形外科で患者記録にAIを活用した際の質と時間」を評価する研究を行った。
米国整形外科学会(AAOS)によると、同研究は3月7〜11日開催の2023年次総会で発表されている。研究チームは、診察時に文書化補助サービスを利用し、記録の質と時間を評価した。具体的には、1.AIで室内の発言を全て抽出、2.室内または遠隔で同席した記録員による書き起こし、3.診察の録音を外部委託した書き起こし、4.電子カルテ上の音声認識アプリ(VRM)による書き起こし、の4つを比較している。診察シナリオには、親と未成年者が会話したり、患者が話の途中に友人の体験談を挟むことで、AIが混乱しないか判定する要素などを含んでいる。結果として全ての手法が文書の質として良好であった。しかし、AIの書き起こしは特定の質問、例えば「その計画は正しいか?(Is the plan correct?)」のような計画策定に関する内容で著しく低い評価スコアを示し、手動編集を要する水準にあった。また、外部委託サービスやVRMによる書き起こしは、AIベースの記録と比較してより多くの時間を要していた。
研究チームのMichael Rivlin氏によると「医師の仕事量を最適化するため、文章化作業をアウトソーシングする方法を検討し、燃え尽きにつながる負担を取り除きたいと考えた。AIベースの書き起こしは記録の品質を大きく低下させず、負担を軽減する有望なツールである。AIにはいくらかの制約があるが、技術の進歩で改善され続けている」と語った。
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AI in Health and Care Awards
英国政府は2023年、首相による年頭演説の中で5つの優先事項を打ち出しているが、その1つは「英国民保健サービス(NHS) における患者待機リストの削減」であった。ここでは、英国が強みを持つ分野の1つとしてAIを挙げ、研究開発に対する公的資金投入を強化することにも言及している。
英国保健省では、有望なヘルスケア関連AI技術9種に、約1600万ポンド(26億円)に及ぶ政府資金の提供を発表している。NHSに価値あるAI技術導入を進めるため、「AI in Health and Care Awards」と呼ばれるプログラムを設定しており、第3ラウンドまでに資金を獲得したのは下記9つの組織・企業となる。
・University Hospitals Coventry and Warwickshire:
NHSの主要な10の研究室をデジタル化し、細胞画像関連のハブを形成するプロジェクト。
・Royal United Hospitals Bath:
肺動脈塞栓や高血圧の診断改善用AI。
・Mendelian:
電子カルテデータから希少疾患の診断基準に照合するAI技術。
・Oxford Cancer Biomarkers:
大腸がんの個別化治療に向けた、スクリーニング用遺伝子バイオマーカー特定のためのAI技術。
・Icometrix:
脳損傷、てんかん、脳卒中、認知症、アルツハイマー病の治療モニタリング支援AI。
・Cibiltech:
腎移植の転帰を予測するAI。
・Tommy’s National Centre for Maternity Improvement:
早産・死産につながる合併症リスクを早期発見するオンライン医療AIツール。
・Medtronic:
大腸内視鏡画像処理AI「GI Genius」。
・Ibex Medical Analytics:
病理画像解析AI。
NHSで本プログラムを担当するDominic...
歯科治療で発生する飛沫・エアロゾルの可視化
歯科治療で発生する飛沫やエアロゾルは、唾液や血液由来の細菌・ウイルスが含まれているため、呼吸器感染症予防の観点からも「飛散動態の解明」は重要となる。これまで技術的な制限によって、歯科治療で発生する飛沫およびエアロゾルを鮮明かつ広範囲に撮影することは困難だった。
東北大学病院歯科医療管理部などの共同研究チームは、レーザー光源と高感度高速度カメラを応用し、歯科用エアータービンで発生する飛沫・エアロゾルの可視化に成功した。また、口腔内バキュームと口腔外バキュームを併用することで、発生する飛沫・エアロゾルが大幅に抑制されることを併せて明らかにしている。研究成果は、Journal of Prosthodontic Researchのオンライン版から公開されている。
本研究成果により、多様な臨床現場で発生する飛沫・エアロゾル解析を可能とし、より清潔で安心な歯科医療環境の開発につながることが期待される。
参照論文:
Visualization of droplets and aerosols in simulated dental treatments to clarify the effectiveness of oral suction devices
参照動画:
歯科用タービンにより発生する飛沫・エアロゾルと吸引装置の飛散抑制効果
https://www.youtube.com/watch?v=GwlzLHwzdOY
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PMcardio – 循環器疾患のAI臨床アシスタント
英ロンドンに拠点を置くPowerful Medicalは7日、AI搭載の臨床アシスタント「PMcardio」を英国でリリースすることを発表した。スマートフォンアプリケーションの形を取るこの医療機器は、あらゆる医療従事者が「熟練した心臓専門医のような正確さ」で、心電図から38の心血管疾患を診断し、適切な治療を実施することを可能とするもの。
Powerful Medicalの公表によるとPMcardioは、あらゆるフォーマットの12誘導心電図データにアクセスして解釈し、比類ない精度とスピードでの心血管患者管理を支援する。PMcardioは独自のAIアルゴリズムを活用し、各患者に固有のパーソナライズされた推奨治療を提供することができる。「EU MDR-certified Class IIb」の医療機器として英国MHRAに登録されている本製品は、不整脈検出率を5倍、虚血性心疾患の診断率を8倍向上させ、特に専門医療への入口にあたるプライマリケアプロバイダーの臨床能力を向上させるとしている。
Powerful MedicalのCEOであるMartin Herman氏は「虚血時間の短縮、一次医療から二次医療への誤った紹介の制限、医師の本質的な負担軽減など、英国の医療従事者、NHS、医療システム全体に大きな利益をもたらす」として、本製品展開の意義を強く主張している。
参照動画:
Powerful Medical: Leading the AI revolution in cardiovascular care
https://youtu.be/t7I8tjQfbQs
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「心臓病の遺伝リスク克服に必要な治療」を明示するAI
冠動脈疾患(CAD: coronary artery disease)には遺伝的リスクが関連するが、治療行動でどれだけ遺伝的リスクを克服できるか、その判断は容易ではない。英ケンブリッジ大学の研究チームは、「CADの遺伝リスク克服に血圧とLDLコレステロールをどれだけ低減させるべきか明示する」AIシステムを開発している。
米国心臓病学会(ACC)によると、同AIシステムは3月4〜6日開催の2023年次総会で発表されている。同研究では、因果関係を推論するAIと、CADの遺伝リスクスコアを組み合わせ、「遺伝リスクが平均より高い患者が、主要な冠動脈イベントを平均的なリスクまで減らすには、血圧とLDLコレステロールをどれだけ下げる必要があるかを推定する」モデルを開発した。その結果、CADの遺伝リスクは多くの人にとって比較的弱いリスク因子であることを明らかにし、血圧とLDLコレステロールのコントロールによって遺伝的素因を克服できる可能性の高いことが示された。AIシステムを利用することで、各年齢における達成目標と、達成に必要なステップの提示が可能になる。
研究チームのBrian A. Ference氏によると「このアプローチは説明可能なAIによるもので、AIを臨床利用に耐え得るものにできる。人々は単に自分のリスクを伝えられるよりも、どうすればリスクを減らせるか、推奨された行動でどれだけ利益が得られるか説明される方が、健康への投資を促進する動機付けになり、説得力を持つ」と同システムの利点を説明している。
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咳によるCOVID-19識別は困難?
英King's College Londonの統計学者らが参加する研究チームは、「咳の音から新型コロナウイルス感染を正確に識別する機械学習ツールを構築するのは容易でない」との研究成果を明らかにした。研究者らはCOVID-19検出のための機械学習アルゴリズムを分析し、咳嗽音に基づいたものが、年齢や性別などの基本属性に自覚症状のみを加えたモデルよりも精度として上回らないことを指摘する。
英国政府によるパンデミック対策の一環として、英国健康安全保障局から委託を受けた研究者らは「AI分類器をラテラルフロー検査の代替となるものとして使用できるかどうか」を調査した。より安価で環境破壊が少なく、より正確な検査が可能かを判断するため、COVID-19スクリーニングツールとしての咳嗽音に基づく機械学習アルゴリズムの性能検証を進めた。国家的なCOVID追跡プログラムを活用し、67,842人のPCR受検者(2.3万人超が陽性)から音声記録を収集して解析に用いている。各参加者は咳や呼吸、会話などを録音するよう求められ、これをベースとして構築した機械学習モデルは高い識別精度を示していた。
この事実は米マサチューセッツ工科大学(MIT)をはじめとする各種先行研究の結果と一致するものであったが、さらなる分析により、例えば「年齢、性別、症状が同じで、片方だけがCOVID-19である参加者を2人組にし、そのマッチングデータでモデルを評価すると、AIモデルは精度として著しく低下した」としている。データセットに含まれる新型コロナウイルス感染者のほぼ全員が何らかの症状を持っているため、モデルは「音声に症状がある場合はCOVID-19」、「呼吸器症状がない場合は非COVID」といった学習をしていた。結果的にCOVID-19症例数を過剰に診断してしまっており、これらのことは、採用バイアスによって引き起こされた交絡によるものと理解することができる。
英政府による追跡プログラムが有症状者だけを対象としたものであったために、サンプルが全体集団を代表するものではなかったことが問題の根幹であったとする。本研究はCOVIDスクリーニングに新しいソリューションを提供する種のものではないが、複雑で高次元のバイアスを特徴付ける新しい手法を導入し、採用バイアスを扱うためのベストプラクティス勧告を行うことに成功している。今後、音声ベースの分類器を構築・評価する場合、代表的な性能指標を得ることだけではなく、事前に交絡因子には強く配慮すべきであることを強調している。実際、バイアスを後になって発見するのは難しく、事後のコントロールも困難であることは多くのAI応用分野で確認されている。
参照論文:
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PoxApp – mpox(サル痘)の無償AI診断ウェブアプリ
人獣共通感染症のサル痘(WHO推奨でmpoxに呼称変更)は、病期によって特徴的な皮膚病変を認める。mpoxは2022年に米国を中心としてアウトブレイクし、ヒトからヒトへのコミュニティ感染が問題となった。米スタンフォード大学の研究チームは、皮膚病変の画像からmpox感染を検出するAI診断アプリ「PoxApp」を無償公開している。
PoxAppの基礎技術は、Nature Medicineに発表されている。同研究では、mpoxによる皮膚病変を識別する画像ベースの深層畳み込みニューラルネットワーク「MPXV-CNN」を、13万枚以上の皮膚疾患画像データセットから開発した。構築された最終モデルでは感度0.91、特異度0.898、AUC 0.966を達成し、肌の色や身体部位の違いでも頑健な識別性能を示した。
MPXV-CNNのアルゴリズムを利用した無償ウェブアプリPoxAppは、ユーザーがスマートフォンで皮膚病変の写真を撮り、症状の有無や、感染者との密接な接触の有無といった質問に答えると、5分以内にmpoxのリスクスコアおよび必要な場合に受診勧奨を受け取ることができる。開発責任者のAlexander Thieme氏は「PoxAppを利用することで、迅速、簡易かつ匿名でmpoxの初期評価が得られる。このアプリは医療アクセスが悪い地域にも届き、受診を促すことができる」と語っている。
参照論文:
A deep-learning algorithm to classify skin lesions from mpox virus infection
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Dermalyser – メラノーマの診断支援AI
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スマートフォンによる貧血スクリーニング
世界人口の4分の1が罹患するともされる貧血は、最も一般的な疾患の1つでありながら、特に小児期の貧血は感染症への感受性を高めること、認知発達への悪影響などが指摘される。英University College Londonなどの研究チームは、スマートフォンを用いた比色分析により、乳幼児集団における非侵襲的な貧血スクリーニング手法を提案している。
PLOS ONEから3日公開された研究論文によるとチームは、下眼瞼、強膜、および下唇に隣接する粘膜、の3つの関心領域を組み合わせた貧血スクリーニングのための比色アルゴリズムを構築している。アルゴリズム開発においては、環境光の変化を考慮しつつ、関心領域ごとに色度指標を選択する方法を比較検討した。特徴的となるのは、本手法においては画像取得に専門的なハードウェア(カラーリファレンスカード)などは不要で、ごく一般的価格のスマートフォンのみを用いる点となる。構築したアルゴリズムは未見データに対して、感度92.9%、特異度89.7%で貧血(ヘモグロビン濃度<11.0g/dL)をスクリーニングすることができた。
これらの結果は、スマートフォンによる貧血スクリーニング実現の可能性を強く支持するものと言える。本研究では4歳以下のガーナ居住の乳幼児を対象としているが、対象集団を広げた適用可能性を調査することをチームでは次の目標としている。
参照論文:
Feasibility of smartphone colorimetry of the face as an anaemia screening tool for infants and young children in Ghana
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Sklip...
潰瘍性大腸炎の活動性を評価するAI研究
潰瘍性大腸炎(UC: ulcerative colitis)は潰瘍やびらんが多発する炎症性腸疾患で、下痢や腹痛といった症状の寛解と再燃を繰り返す。UCの活動性を評価するためには、大腸の組織を生検し病理学的に評価するが、そのスコアリングでは観察者間でバラつきが大きいという課題がある。英バーミンガム大学の研究チームは、大腸内視鏡検査で採取した生検検体を読み取るAI診断ツールを開発している。
Gastroenterologyに発表された同研究では、デジタル化した生検標本535枚(273名)を用い、UCの活動性を評価するニューラルネットワーク分類器をトレーニングした。既存3種の病理学的評価指標(PHRI、RHI、NHI)に従ってシステムの感度・特異度を検証したところ、感度89%・特異度85%(PHRI)、94%・76%(RHI)、89%・79%(NHI)という精度でUCの活動期と寛解期を識別することができた。
著者でバーミンガム大学のMarietta Iacucci氏は「ヘルスケアにおけるAIの力を、この研究は証明している。活動性の予測が難しいUCという疾患に対し、診断作業をより迅速かつ正確に行う機械学習由来のシステムは、ゲームチェンジャーとなり得る」と語っており、日常臨床や臨床試験における組織学的評価の迅速化・標準化の可能性を指摘する。
参照論文:
Artificial Intelligence enabled histological prediction of remission or activity and clinical outcomes in ulcerative colitis
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クローン病の治療反応性を予測する機械学習モデル
AI駆動による「高血圧の個別化治療戦略」
米ボストン大学などの研究チームは、4万人を超える患者の臨床記録から学習した「降圧薬の推奨モデル」を構築した。高血圧症は長期的な健康影響の大きい心血管疾患でありながら、患者特性を考慮した個別化治療戦略の策定が従来困難であったため、新しいアプローチによる患者予後の改善には大きな期待が集まっている。
BMC Medical Informatics and Decision Makingから1日公開された研究論文によると、高血圧症の診断基準を満たす42,752人の臨床記録を用い、患者特性に基づき、各患者に降圧薬クラスを推奨するモデルを開発した。具体的には、各患者に他患者との親和性の高いグループを関連付け、このグループを使用して各処方タイプにおける将来の収縮期血圧(SBP)を予測した上で、各患者について予測SBPを最小化する降圧薬クラスを選択するというもの。分布的にロバストな学習方法で構築されたこの提案モデルは、平均で14.28mmHgのSBP減少につながっており、この降圧幅は標準治療によって達成されるものよりも70.30%大きいとしている。
著者らは「高血圧治療におけるデータ駆動型アプローチは、標準治療と比較して大きな改善をもたらした」と述べ、計算機による高血圧治療戦略の策定が潜在的に強力な利点を有している可能性を指摘する。
参照論文:
Personalized hypertension treatment recommendations by a data-driven model
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OrCA – 移植臓器の質を評価するAIプロジェクト
英国では臓器移植の待機患者が約7,000名とされ、特にパンデミック以降、肝移植の待機患者が大幅に増加している。取り出された臓器は一度きりの片道輸送しかできない場合も多く、臓器の質が移植に耐え得るか適切に評価し、迅速に決断する必要がある。移植の恩恵を受ける患者を増やすため、英国民保健サービス(NHS)では「OrQA(Organ Quality Assessment)」と呼ばれる移植臓器の質を評価するAIプロジェクトが始まっている。
プロジェクトに参加しているニューカッスル大学が報じたところによると、OrQAは臓器のダメージ、既往症、血液の洗い流し(臓器灌流)などについて、AI手法でスコア化し、移植医の評価および意思決定をサポートする。技術の概念実証は現在、肝臓・腎臓・膵臓移植で実施されており、2年以内にNHS内でライセンス試験の準備が整うと期待されている。OrQAの本格的運用で、英国内の腎移植患者は年間最大200名、肝移植患者は100名増えるとの試算がある。
プロジェクトリーダーでニューカッスル大学の移植外科医のColin Wilson氏は「これまで臓器摘出時に外科医を助けてくれるツールは何もなかった。OrQAは、移植に関わる全ての人にとってストレスの最も強いタイミングで、最善の決断を下すのを助けてくれるだろう」と語っている。
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看護バーチャルシミュレータの開発を加速させたもの
Laerdal Medicalは、救命率向上に向けた医療教育ソリューションを提供する多国籍企業で、本部をノルウェーに置く。同社が開発を進める「看護学生向け3Dバーチャルトレーニングシミュレータ」は、Microsoftの「Azure AI to Speech」を活用することで、患者と看護師のやり取りをシミュレートする没入体験を提供する。
新型コロナウイルス感染症が急速に拡大するなか、Laerdalは同シミュレータの開発を開始した。リアルなシミュレーションを実現するためにポイントとなるのが「音声」で、当初は声優による録音を行っていた。一方、この作業は膨大な時間と手間がかかり、トレーニングプログラムのユースケースを拡大する明確な妨げとなっていたため、ボトルネック解消のために採用したのが、合成音声の作成支援システムだった。
Microsoft Azure AI Text to Speechをトレーニングプログラムに組み込むことで、小児科、母性、看護基礎などの看護教育モジュールのコスト削減と開発期間の大幅な短縮を実現したという。具体的には、テキスト入力からリアルな音声体験を実現するNeural Text-to-Speech (Neural TTS) を導入しており、Azure AIが提供するニューラル音声を使用することで、Laerdalは仮想患者や看護師の音声作成にかかる時間を2ヶ月から24時間未満に短縮することができた。
現在、Azure AIのNeural Text-to-Speechは、140の言語とバリエーションで400のニューラル音声が利用可能となっている。Laerdalでプロダクトマネージャーを務めるJesper Pærregaard氏は「もしAIボイスがなかったら、我々は仮想患者にこれほど多様な声のラインナップを提供することはできなかった」と話し、Azure AI to Speechのインパクトの大きさを明らかにしている。
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Kai.ai – 青少年の幸福度を向上させるAI会話エージェント
思春期は精神衛生上のリスクを伴いやすく、その予防が重要となる。米スタンフォード大学の研究チームは、「Kai.ai」というAI会話エージェントによって、自己啓発プログラムを青少年に提供し、幸福度を高める介入効果の検証を行っている。
JMIR AIに発表された同研究では、14〜18歳の青少年10,387人を対象とし、iMessageやWhatsAppなどの主要メッセージングアプリ上で、会話エージェントKaiを利用し、サービス利用期間中のユーザーの幸福度を、WHO-5 Well-being Indexという質問票によって評価した。Kaiは、心理療法の手法の1つである「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT: acceptance and commitment therapy)」に基づいた対話プログラムで、ユーザーとテキストベースの交流を行うことができる。ACTは、認知の柔軟性を向上させるなどの臨床効果が示されてきた。検証の結果、ユーザーの平均幸福度スコアは、平均45.39日間の交流期間において、介入開始から時間とともに有意に増加することが示されている。
COVID-19の流行は、メンタルヘルスに対する様々な支援のアクセスを低下させ、経済的コストも増加させている。研究チームでは本研究の成果から、青少年の幸福度を向上させるために、費用対効果が高くアクセスしやすいツールとして、テキストベースの会話エージェントが持つ潜在的有効性を強調している。
参照論文:
Adolescents’ Well-being While Using a Mobile Artificial Intelligence–Powered Acceptance Commitment Therapy Tool: Evidence From a Longitudinal Study
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「AIによって設計したCOVID-19治療薬」が臨床試験へ
香港発の医療AIスタートアップであるInsilico Medicineはこのほど、同社の生成化学AIプラットフォームであるChemistry42で設計した化合物「ISM3312」について、中国規制当局にあたるNMPAによる臨床試験実施届け(IND)の承認を得たことを明らかにした。AIによって設計された新薬が治験に進むのは初めてとみられる。
ISM3312は高選択的3CLpro阻害剤で、幅広い抗コロナウイルス活性、優れた単剤経口バイオアベイラビリティ、薬剤耐性変異への対応可能性をもたらす新規分子構造を持つことを特徴とする。ISM3312の臨床試験では、ヒトでの忍容性、安全性、PKプロファイル、およびCOVID-19患者の異なるサブグループにおける有効性と安全性を検討する予定となっている。
Insilico MedicineでCEOを務めるFeng Ren氏は「ISM3312は、既存の3CLpro阻害剤とは大きく異なり、明確な優位性を持っている。我々は、COVID-19治療薬の迅速な開発方針を通じて臨床試験を加速させ、世界中の患者に利益をもたらすことを約束する」と述べた。
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電子カルテから発症5年前にアルツハイマー病を予測
認知機能低下につながる脳の変化は、従来考えられていたよりも早く、中年期には始まっていることが先行研究で示唆されている。米フロリダ大学の研究チームは「電子カルテデータに機械学習手法を用い、アルツハイマー病を臨床診断より早期に予測する」研究を行っている。
Alzheimer’s and Dementiaに発表された同研究では、OneFlorida+ Research Consortiumから、フロリダ州1680万人の電子カルテデータを対象としている。ここから、「アルツハイマー病および関連認知症(ADRD)」と診断された23,835人、および100万人を超える対照患者を特定し、2つの機械学習手法による予測モデル(理論知識型モデルおよびデータ駆動型モデル)を構築・検証した。理論知識型モデルは、既知のリスク因子などに基づき予測を行う。一方、データ駆動型モデルは、電子カルテ内でアルツハイマー病に関係する可能性のある他のデータも柔軟に参照するもの。診断時、診断1年前、3年前、5年前の4つのタイミングで正確性を評価したところ、データ駆動型モデルは、診断時および診断前のいずれにおいても知識駆動型モデルの予測性能を上回り、評価指標であるAUCは診断時点で0.939、1年前で0.906であり、さらに遡るほど性能は低下するものの、3年前で0.884、5年前で0.854という良好な予測性能を達成した。
本研究のデータ駆動型モデルでは、理論知識型モデルでは用いられていないリスク因子を複数特定しており、筋力低下・気分障害・倦怠感・疲労などを挙げている。また、定期健康診断・婦人科検診・乳がん検診など予防医療を受けている女性は、受けていない女性と比べて、アルツハイマー病の発症リスクが低いことも明らかにした。著者のJiang Bian博士は「我々はデータ駆動型モデルで、専門家も認識していないリスク要因を特定できるか試みた。アルツハイマー病の予防には、潜伏期間中の介入開始がより効果的な可能性が高い」と述べている。
参照論文:
Early prediction of Alzheimer's disease and related dementias using real-world electronic health records
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RetiSpec社 – 網膜検査をアルツハイマー病診断に用いるAI技術
認知症AIコンペ「Longitude Prize on Dementia」
Longitude Prize on Dementiaは、アルツハイマー病協会や英国政府機関であるInnovate UKが主導するグローバルな認知症ソリューションコンペで、2022年9月の募集開始後175のエントリーが確認されている。総額434万ポンド(約7.13億円)の賞金が設定される同賞は、認知症を患う人々がより長く、質の高い生活を自立して送るための「パーソナライズされたソリューション」を求めており、機械学習ベースの技術を対象とする。
現在、英国から89件、米国から27件、その他欧州諸国やアフリカ、アジアなどから多数のイノベーターらからの応募があるという。ウェアラブルカテゴリには、ストーリーテリングAIと顔認識により記憶の回復を支援するスマートグラス、人がいる環境を学習することでルーチンを促すスマートグローブ、スマートフォンと連携し日常活動の管理を支援するアクティビティトラッカーなどが含まれる。認知的介入カテゴリには、認知スキルを訓練して記憶障害の進行を防ぐソフトウェア、認知症患者に有用な合図やプロンプトを提供するための回想機会を備えたバーチャルリアリティゲーム、生活スキルや脳機能の維持と低下速度の低減を支援するゲームなどがある。家庭用テクノロジーと身体的補助カテゴリには、家庭用アバターとAIチャットコンパニオン、うつ病や睡眠不足を緩和しウェルビーイングを向上させるためのパーソナライズされた室内照明、環境を安全に移動するためのナビゲーションと歩行補助器具などとなる。応募の半数以上(57%)は企業が主導し、18%は大学や研究機関の学術チームリーダーが率いるものという。
175の応募技術は審査を経て、本年末には23のチームが8万ポンドのディスカバリー賞を得てソリューション開発に進む。また、その中から5チームは2024年に30万ポンドの助成金を獲得、さらに1チームは2026年に100万ポンドの最優秀賞を受賞する予定となっている。
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NuraLogix社の非接触型モニタリング – モバイル技術見本市「MWC 2023」より
カナダ・NuraLogix社(過去記事参照)は、ビデオカメラから血圧などのバイタルサインを測定する「非接触型ヘルスモニタリング技術」のパイオニアとして知られる。同社のプラットフォーム「Anura」では、検出したバイタルサインを独自のAIモデルと組み合わせ、高血圧・心疾患・2型糖尿病など慢性疾患のリスク評価を提供している。
NuraLogix社は、2月27日〜3月2日にスペイン・バルセロナで開催されるモバイル技術見本市「MWC 2023」でAnuraの最新機能を展示発表する。同社は2023年1月に、非接触の血圧測定技術における大きな挑戦とされてきた、測定誤差「8mmHg以下」に相当する精度をAnuraアプリで達成したことを発表するなど、同領域で最も注目されている企業の1つである。
NuraLogixの最高医学責任者Keith Thompson氏は「Anuraのようなプラットフォームにより、携帯電話メーカーや通信事業者は、社会に有意義な変化をもたらすデジタルヘルスソリューションを構築し、サードパーティとの連携を可能とする。スマートフォン・鏡・TVスクリーンなどを見つめるだけで健康状態を継続的にモニタリングできる世界への道を拓くものだ」と語った。
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NHS – 「診察予約のキャンセル」を防ぐAIシステム
英国民保健サービス(NHS)では、年間800万件の診察予約がキャンセルとなり、毎年12億ポンド(約2000億円)の無駄なコストが生じているという。予約の取りこぼしを減らし、医療リソースを最大限に活用するため、NHSではDeep Medical社のAIソフトウェアを試験導入している。同システムは、天候・交通状況・勤務先などの情報を用い、診察予約キャンセルの可能性を分析し、夜間や週末を含め最も都合の良い予約枠を提示することができる。
NHS Englandによると、同AIシステムは人口120万人を擁する中南部エセックスのNHS管轄地域で試験運用が始まっている。同地域での診察予約に対するキャンセル率は8%で、システムの本格運用によって年間8-10万件の診察が追加できると試算する。パイロット版のソフトウェアはDeep Medical社とNHSの現場職員による共同デザインで開発され、2023年にはさらに5つのエリアで試験運用される予定とのこと。
Deep Medicalの共同創業者であるBenyamin Deldar氏はNHSの臨床起業家プログラム(CEP: Clinical Entrepreneur Programme)の出身である。NHS CEPは、NHSスタッフが医療サービス変革のため商業スキル・知識・経験を取得するプログラムで、2016年の開始から7年で、1,000名以上の参加者、420社以上のライフサイエンス企業立ち上げ、8億6000万ポンド(約1400億円)以上の資金調達を達成してきた。Deldar氏は「NHSの受診待機者リストに取り組み、患者をより良く理解し支援するシステムを構築した。NHS CEPに参加したことで、目的意識をもってイノベーションを拡大するフレームワークとスキルが身に付いた」と語っている。
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Ambience Healthcare – AI医療書記ツールを発売
新型コロナウイルス感染症の拡大を背景とした燃え尽き症候群の深刻化を受け、医療者支援のAI活用事例が急増している。米カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くAmbience Healthcare社は、完全自動化のAI医療書記ツール「AutoScribe」の提供開始を23日明らかにした。
AutoScribeは北米の医療機関で臨床検証が進められ、医療従事者による診療録作成について大幅な時間短縮効果が示されてきた。平均で実に76%もの時間削減を実現する本ツールは、電子カルテシステムに組み込まれ、リアルタイムで動作することにより医療者のワークフローを乱さないことが特徴となる。患者との会話を「ニュアンスレベル」で把握し、高品質な文書を生成することで、医師は患者ケアに集中することが可能になるとしている。
AutoScribeは、行動医学や精神医学、老年プライマリケアといった、メモが長く、会話が複雑で、適格な医療従事者が制度的に不足しているために患者へのアクセスが困難な医療専門分野でも機能する。これまでに総額3000万ドルを調達したAmbienceは、同製品の市場展開によってさらなる成長を見込んでいる。
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米国成人の60%がヘルスケアAIに不快感を抱く
Pew Research Centerが22日明らかにした最新の調査結果では、米国市民の60%が「医療にAIを用いること」に違和感を抱いているという。Amazonでの買い物やNetflixの番組推薦、Teslaの自動運転、銀行のカスタマーサービスなど、米国の日常にAIは広く深く根付いているが、自身の健康へのAIによる直接介入にはまだ納得感が醸成されていない可能性がある。
同調査は、米国成人1.1万人以上を無作為に抽出したオンライン調査で、人種や民族、性別、学歴、支持政党など、米国の人口統計を正確に代表させるため、統計学的な重み付けを加えた解析を行っている。調査対象者の60%は「疾患の診断や治療法の推奨といったことをAIに頼って行う医療機関には違和感を覚える」と回答し、57%が「AIの利用によって医療提供者との関係が悪化する」と回答していた。また、「AIを使った疾患の診断や治療法の推奨が健康状態の改善につながる」と感じているのはわずか38%で、33%は「悪い結果につながる」、27%が「あまり変わらない」と回答していた。さらに、60%が「AI駆動のロボットが手術の一部を担うことを望まない」とし、79%が「AIが自身のメンタルヘルスケアに関与することを望まない」としていた。
研究者らはこれらの結果を受け、「AIに対する意識はまだ発展途上にある」点を強調した上で、特に専門性が高く理解が容易でないヘルスケアAIにおいては、「深く精通していない事実」もこのような結果を生んだ要因と評価している。態度の変化には、これらの新技術を身近に感じられる必要があるとともに、技術主導による急速な臨床環境の置き換えは「患者を置き去りにする可能性」を含む点も指摘している。
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ChatGPTは感染症治療の意思決定を支援できるか?
多様な質問に対して詳細な文章回答を生成することのできるAIチャットサービス「ChatGPT」が注目される中、臨床診断支援への応用も期待されている。英リバプール大学の研究者らは、ChatGPTを「抗菌薬を処方する際の意思決定に利用できるか」について検証を始めている。
Lancet Infectious Dseasesに寄せられたレター論文では、患者が医師に相談する8つの感染症シナリオを、ChatGPTに対して仮想的に提示するシミュレーションを行い、得られるアドバイスの適切性、一貫性、患者の安全性についてを評価している。その結果、ChatGPTはシナリオを理解し、免責事項も含め一貫した回答を提供していた。抗菌薬の選択と治療期間は適切で、細菌感染の証拠がある場合のみ抗菌薬を使用する原則を理解しているようにみられた。しかし、治療期間延長の根拠となるソースが誤って引用されたり、無視されるなど一定のばらつきがみられることや、抗菌薬の禁忌を認識せず危険なアドバイスが繰り返されることがあった。また、シナリオが複雑になると問題を見落とすことがあり、患者の安全を脅かす可能性があった。
実験結果を受け、研究チームではChatGPTを臨床に導入する最大の障壁は、状況認識、推論、一貫性にあると結論付け、AIが満たすべき基準のチェックリスト作成を進めている。著者のAlex Howard氏は「耐性菌の増加が大きな脅威になる中、AIによって正確で安全なアドバイスが提供されるようになれば、患者ケアへのアプローチに革命をもたらす可能性がある」と語った。
参照論文:
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Regard – 日常臨床の見逃しを防ぐAIシステム
米カリフォルニア州パサデナに拠点を置くヘルスケアスタートアップの「Regard」はこのほど、シリーズAラウンドで新たに1530万ドル(20.6億円)の資金を調達したことを明らかにした。RegardのAIソフトウェアは、医療機関のシステムに直接統合することで患者の医療記録を自動分析し、未診断の疾患を抽出・警告することができるもの。心不全や糖尿病、うつ病、不安症状など、日常臨床における一般的な疾患および症状を90%以上の精度で識別することができる。
同社製品は2020年のリリース以降、3万人以上の患者に利用されてきた実績を持つ。システム利用料は月額500~700ドルで、シダーズサイナイ医療センターやトーランス記念医療センターなど、米国における12の名だたる医療機関を顧客に持つ。CEOのBen-Joseph氏は「我々は、医師が見逃してしまうような病状を発見するのに役立つプロダクトを提供しており、市場における価値を維持し続けている」とする。
Ben-Joseph氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)で学士号を、スタンフォード大学でコンピュータサイエンス修士号を取得後、メディカルスクールへの進学を決めた2017年に2名の共同創業者とともに同社を設立した。シーダーズサイナイのTechstarsが支援するアクセラレータープログラムでスタートを切っており、新型コロナウイルスのパンデミックを背景に医療従事者の燃え尽き症候群が深刻化するなか、医療者の負担軽減を支援する同システムは大きな期待を集めるに至っている。
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「心肺蘇生の意思決定」を支援するAIツール
心肺蘇生に関する欧州の国際研究「EuReCaTWO」によると、院外心停止(OHCA: Out-of-hospital cardiac arrest)で蘇生処置を受けた者の64%が病院到着前に処置を中止され、残り36%の入院患者は4人に1人程度が生存し、生存率は8%に過ぎないという。蘇生の望みがより高い患者へ限りある医療資源を配分するには、意思決定支援の在り方が課題となる。スウェーデンのヨーテボリ大学の研究チームは、OHCA患者の「30日生存率」および退院時の脳機能指標「CPC」を予測する機械学習モデル「SCARS-1」を開発している。
eBioMedicineに発表されたSCARSモデルの研究では、2010〜2020年のスウェーデンにおけるOHCA症例55,615例を対象とし、心停止時の状況、時間経過、投薬など393の予測因子の候補を得て、機械学習フレームワークを用いた評価で予測力の高い10の因子に絞り込んだ。その結果、30日生存率の予測において感度95%、特異度89%、AUCが0.97といった高精度予測を実現しており、モデル利用による「蘇生処置中の迅速で信頼性の高い予後予測」が期待されている。
SCARS-1はオンラインアプリとして現在無償公開されており、初期の心拍、アドレナリン投与、院着時の意識、年齢、時間経過などシンプルな8項目を入力すると、ほぼ瞬時に30日生存率などの結果を表示する。ヨーテボリ大学医学研究所の主任研究員Araz Rawshani氏は「何万という患者の情報に基づき計算されるツールからの回答は、医療者の意思決定を強化できる。それにより、医療資源を節約しながら、恩恵がない苦痛の伴う蘇生処置を回避できる可能性がある」と語った。
参照論文:
Predicting survival and neurological outcome in out-of-hospital cardiac arrest using machine learning: the SCARS model
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AIがコカイン依存の治療薬を特定
コカインは南米原産である「コカ」の葉から作られる精神刺激薬物で、日本においても「麻薬及び向精神薬取締法」によって麻薬として規制されている。使用に伴う覚醒作用や多幸感を求めて乱用に至るが、コカインは多くの依存性薬品の中でもとりわけ強い「精神依存性」を有することが知られ、米国では200万人以上がコカインを常用している事実がある。
Addictionから公開された新研究では「AIベースの創薬アルゴリズム」を開発し、米食品医薬品局(FDA)が既承認の医薬品の中からコカイン使用障害に有用となる薬品候補を探索した。数千万件に及ぶ電子カルテを分析し、コカイン使用障害患者の寛解率向上に関する潜在的な臨床効果を評価したところ、麻酔薬として知られる「ケタミン」が筆頭候補として同定された。実際、コカイン使用障害患者が疼痛やうつ病のためにケタミンを投与された場合、寛解率が2~4倍高くなっていた。
現在、コカイン使用障害に対してFDAが承認する治療薬は存在しない。治療的介入自体は肯定的な結果をもたらしているが、コストやスタッフ、スティグマなどの障壁が、介入治療が広く行き渡ることを大きく制限している。著者らは「本研究は、コカイン使用障害の治療にケタミンを使用する根拠を大幅に強化するもの」とした一方、ケタミンの潜在的影響をより詳細に評価するためには、追加の臨床試験が欠かせないことも強調している。
参照論文:
Repurposing ketamine to treat cocaine use disorder: Integration of artificial intelligence-based prediction, expert evaluation, clinical corroboration, and mechanism of action analyses
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「外傷性出血におけるAI研究」の現在地
外傷は18-39歳における世界的な死因の第1位で、その多くは出血に起因する。特に戦場では、外傷時の凝固障害による制御不能な出血が主な死因となる。AI/機械学習が外傷研究に採用されるようになり、外傷性出血に対するAIの現時点での役割を明確にするべく、カナダ国防省の国防研究開発所(DRDC)の研究チームはシステマティックレビューを行い、その成果を公開した。
Military Medical Researchに掲載された同研究では、外傷性出血の診断および治療戦略における機械学習の利用に焦点を当てたレビューを行っている。スクリーニングを経て本レビューに採用された研究は89件で、研究は大きく5つの分野、①転帰の予測、②トリアージ目的のリスク評価と重症度判定、③輸血の予測、④出血の検索、⑤凝固障害の予測、に分類された。多くの研究で、現在の標準的な外傷治療フローと比較した機械学習モデルの利点を実証しているが、そのほとんどがレトロスペクティブな研究であった。また、複数ソースから取得したテストデータセットを用いてモデルを評価した研究はごくわずかであった。
戦傷病治療において、包括的なダメージコントロール戦略の進歩があっても、外傷と出血による死亡は依然として大きな問題となっている。研究チームでは「機械学習ベースの技術が外傷治療の全過程で不可欠な要素になりつつある。今後は、モデル間の性能を厳密に評価する標準化された指標が必要となっていく」と結論付けている。
参照論文:
Artificial intelligence and machine learning for hemorrhagic trauma care
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ジョンズホプキンスの大規模「AIヘルシーエイジング研究」
米ジョンズホプキンス大学はこのほど、AIを用いたヘルシーエイジング研究について、米国立老化研究所(NIA)から2000万ドル(約26.8億円)に及ぶ研究助成金を獲得したことを明らかにした。この資金は今後5年間に渡り、14のプロジェクト推進に充てられる。
身体的・精神的・社会的に十分な機能を保持しながら自立的な生活を送ることを目指す「ヘルシーエイジング」は、世界的な高齢化の進展によって広く重要な観点となった。同大学の公表によると、この大規模研究計画には、社会的孤立を減らすためのバーチャルリアリティプラットフォームの開発、高齢者の身体バランス改善を支援するAI搭載ハンドル型デバイス、白内障やその他の加齢に伴う眼疾患をスクリーニングするAIアルゴリズムなど、ヘルシーエイジングを根幹に多方面アプローチによるテーマ設定がなされている。
ジョンズホプキンス大学ケアリー・ビジネススクールのPhillip Phan教授は、「我々のプロジェクトはそれぞれのテーマが、『市場でどう使われるか』を事前に考慮してあることが特徴だ」とし、研究成果を実効性のあるソリューションとして逐次展開できることを強調する。また、研究成果に期待される重要な影響として「長期慢性療養施設への入所者を減らし、自宅で健康に暮らす人々を増やす」ことを挙げている。
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AIツールで理解する「ALS患者の診断が遅れる背景」
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋力低下が進み呼吸器系トラブルなどから生命を脅かす状態に至る神経変性疾患である。ALSの生存率向上には早期発見が重要だが、初期の診断の遅れが課題となっている。スペインのアルバセテ大学病院の研究チームは、「ALS患者の診断に遅れが生じる背景」をAIツールで解析している。
Scientific Reportsに掲載された同研究では、スペイン国内の医療ネットワークSESCAMの電子カルテ記録に自然言語処理(NLP)を用い、ALS患者250名の情報を解析した。本研究では、スペイン拠点のSavana社「EHRead」(過去記事参照)のNLP技術を用いている。解析の結果、ALSの特徴的な症状(呼吸困難・構音障害・嚥下障害・筋線維束性収縮)に関して、患者全体では症状発現から診断までの中央値は11ヶ月であり、正診断前に専門となる神経内科医を受診した者は38.8%にとどまった。特に初期症状が呼吸困難であった患者では、診断までの中央値が12ヶ月と顕著に遅くなる傾向がみられた。
研究チームでは「呼吸困難といった他の疾患でもよく観察される初期症状により、神経科医の前に別の診療科に紹介されることが、ALS患者において診断が遅れる一因となっている」と指摘する。ALSのように有病率の低い(10万人あたり4.1〜8.4人)稀な疾患では、データベース解析から患者像の理解がさらに進むことが期待されており、実際にNLPをはじめとしたAIツールによる情報の抽出・解析は多くの新しい知見をもたらしている。
参照論文:
Symptoms timeline and outcomes in amyotrophic lateral sclerosis using artificial intelligence
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GSA – 医療アウトカム改善に向けたAIチャレンジを開始
米国一般調達局(GSA)はこのほど、連邦政府機関が最高レベルの医療を提供できるよう、多様で実用的なソリューションを求める懸賞コンペ「Applied AI Healthcare Challenge」を開始した。
今回のチャレンジでは、特定領域における医療アウトカム向上に焦点を当てており、これにはメンタルヘルス分野、中毒とオピオイド、健康格差、サプライチェーンと安全性、悪性腫瘍、などが含まれている。参加者はそれぞれ2.5万ドルの賞金を目指して競うこととなる。申請書類の提出期限は2023年3月20日で、ここから最大で16名のファイナリストが選択され、5月2日に開催されるApplied AI Health Challenge Industry Dayで発表する予定。
GSAのTechnology Transformation Services(TTS)を率いるAnn Lewis氏は「このチャレンジは、ヘルスケアサービスやイニシアチブをサポートする有望な新しいAI技術製品を特定するのに役立つ」とした上で、「我々はオープンガバメントとオープンサイエンスの原則に基づき、連邦政府のAI能力拡大を支援している」と述べた。
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Viz RECRUIT – 臨床試験への参加促進ソフトウェア
「Viz RECRUIT」はViz.aiが提供するAIソフトウェアで、より多くの適格な参加者を特定、24時間リアルタイムでのリクルートを行うことで、臨床試験への登録を迅速化し、臨床試験における多様性を促進するように設計されている。
同社はこのほど、米ジョンズ・ホプキンス大学との提携を公表し、脳損傷の臨床試験における患者登録の迅速化について、Viz RECRUITを活用することを明らかにした。対象となるのは国立衛生研究所(NIH)が出資する「Biomarker and Edema Attenuation in IntraCerebral Hemorrhage (BEACH) 研究」で、ケンタッキー大学のLinda Van Eldik博士が中心となって開発した低分子化合物であるMW189の安全性と忍容性を調査する研究となる。
Viz RECRUITは臨床試験登録を実に3倍速とする実証実験結果を持つ。患者画像をリアルタイムでスキャンして臨床試験適格患者を特定し、24時間体制で治験の参加者候補を自動抽出、研究チームに通知することができる。
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