医療とAIのニュース 2021
年間アーカイブ 2021
「薬物過剰摂取による死亡」の予測モデル
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国での「薬物過剰摂取による死」は1999年以降4倍と急速な増加を示している。また、近年の薬物過剰摂取による死の70%以上がオピオイドに関連し、違法に製造されたフェンタニル(合成オピオイドの一種。WHO式がん疼痛治療法の最終段階で用いられる強オピオイド)がこれの主要な因子として挙げられる。
米サンディエゴ州立大学やカリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームは、統計モデルを利用し、郡ごとに次年の「薬物過剰摂取による死亡」を予測できるとする研究成果を公表した。論文はLancet Public Healthから、オープンアクセスとして公開されている。研究チームは2013年から2018までのCDCデータを利用し、郡特性と薬物過剰摂取による死亡との関連を記述する統計モデルを設計・トレーニングした。著者らは「過去1年間にのみ依存した単純なベンチマークと比較して、致命的な過剰摂取率が高い郡の予測に大幅な改善をもたらした」とする。
また、研究成果からは「隣接する郡での薬物過剰摂取の増加が、将来の過剰摂取増を強力に予測する事実」を明らかにしており、薬物過剰摂取の流行が地理的に波及する実態を浮き彫りにした。研究チームは現在、OD Predict Explorerと呼ばれるウェブアプリケーションを公開しており、ユーザーがこの予測モデルの有効性を個々に検証できる環境を提供する。今後、同ツールでのリアルタイム予測を実現し、公衆衛生学的政策立案に貢献したいとの意向を明らかにしている。
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実験と機械学習モデルの融合 – 薬物送達システム研究へのAI利用
眼に触れずに光音響画像を得る新研究
レーザー光による画像検査技術「光音響イメージング」の発展について以前に紹介した(過去記事)。従来ではセンサーを組織表面に押し当てて光音響の画像情報を得ていたものを、非接触のリモートセンサーで画像構成できる「PARS: photoacoustic remote sensing(光音響リモートセンシング)」と呼ばれる新システムの実用化が近年進んでいる。
カナダ・ウォータールー大学のニュースリリースによると、同大学のグループは、PARSの非接触という利点を活かし、機器を接触させることなく眼球組織を画像化することで、酸素飽和度や酸素代謝といった機能的情報が得られるという研究成果をScientific Reports誌に発表した。同システムによって、加齢黄斑変性症・糖尿病性網膜症・緑内障といった失明原因となる疾患についての早期診断、特に症状が出現するよりも早い段階での検出実現が期待されている。
非接触検査は患者の不快感軽減のみならず、感染リスクの低減にも貢献できるため、近年普及が進む注目の領域となっている。研究グループでは「PARS技術は眼科画像検査における現在のゴールドスタンダードを超える可能性を秘めている」と考え、2年以内の臨床試験開始を検討している。同システムは、乳がん・消化器がん・皮膚がんなどの組織への適用や、脳腫瘍の切除時に外科医をガイドするリアルタイムイメージングへの応用も既に始められており、そちらの続報も待たれる。
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米国眼科学会2019より – 糖尿病性網膜症のリアルタイムスクリーニングAI
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香港における糖尿病患者の全死因死亡予測モデル開発
糖尿病患者は非糖尿病患者に比して、有意に高い年齢調整死亡率を有する。これは年齢に関わらず、糖尿病に罹患していること自体が死亡リスクを高めることを意味するが、どのような患者背景であることがどの程度の死亡リスクとなるか、仔細に検証した研究成果は限られていた。香港心臓血管生理学研究所の研究チームは、マルチパラメトリックアプローチによる「香港における糖尿病患者の全死因死亡予測モデル」の開発に取り組んでいる。
BMJ Open Diabetes Research & Careからこのほど公開された研究論文によると、2009年の1年間において、香港特定地域に所在する複数の公立病院に通院した2型糖尿病患者を対象にしたという。主要なアウトカムは「全死因による死亡」とした上で、まずCox比例ハザードモデルによって死亡率に対する予測因子を探索し、次にこれらを用いて機械学習モデルによる死亡予測モデルを構築した。評価は5分割交差検証法を用いている。
結果、273,678人の患者が研究対象となり、その後の追跡調査によって91,155人が死亡していた。死亡率への予測因子として高い説明力を示したのは、年齢、性別(男性であること)、ベースラインの併存疾患などの基本属性の他、貧血、好中球対リンパ球比の平均値、高密度リポタンパク質、総コレステロール、トリグリセリド、HbA1cおよび空腹時血糖値などであった。これらのパラメータを組み込むことで、0.73程度のc統計量を持つ従来のスコアベースリスク予測モデルに比して、0.86程度とより高い予測精度を示す機械学習モデルの構築に成功している。
研究成果は、異なるドメインからの変数を組み込んだマルチパラメトリックアプローチ、および機械学習モデルによって2型糖尿病患者の全死因死亡を正確に予測し得ることを示している。これは患者個別評価と高リスク者トリアージの観点から重要な研究成果であり、実臨床利用を想定したスケール化や、他国における追試の進むことが期待されている。
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脳年齢を睡眠時の脳波で予測するAI研究
実年齢とは異なる、個人差のある老化や基礎疾患を反映した「生理的年齢」を測るAI解析手法が近年のトレンドとなっている(過去記事1)。以前にも紹介した米国の睡眠AIスタートアップ EnsoData社(過去記事2)を中心に行われた「睡眠時の脳波から脳の年齢を予測するAI研究」を紹介する。
同研究は6月10日から13日まで開催された学会「SLEEP 2021」で発表された(抄録参照)。研究では、ポリソムノグラフィ検査で取得された睡眠時の脳波をディープニューラルネットワーク(DNN)で解析し、「健康な患者では実年齢との誤差を4.6歳で予測」、また「てんかん・脳卒中・睡眠時無呼吸・睡眠障害といった各種の基礎疾患によって、脳年齢の指数(BAI: Brain Age Index)が有意に実年齢と乖離する」ことが示された。
これまでにも脳波から患者の年齢をおおまかに推定して定量化する臨床研究例がみられたが、AIにより患者の脳年齢を推定する今回の研究成果は目新しい。研究グループは、脳年齢指数BAIが脳の健康状態を示すバイタルサインとなり、様々な疾患の診断バイオマーカーとなりうるとして、睡眠時の脳波から得られる指標の価値を強調している。
心電図AI解析が生理的年齢と長生きを予測する
あらゆる波のデータから睡眠をAI分析 – EnsoData
睡眠段階を自動解析するAIプロジェクト「U-Sleep 」
Amazon Care – 忍び寄る遠隔医療業界の「Xデー」
Amazon独自の遠隔医療サービス「Amazon Care」について、当メディアでも既に報じている(過去記事:Amazon Careの激震)。Amazonは今夏までに全米50州でのサービス展開を行う計画だが、既に多数の企業から関心が寄せられているという。
Amazonが3月に公表したアプリベースのケアサービスは、遠隔医療業界に多大なる波紋を広げた。ITの巨人による正面突破の領域参入は、既存の小中規模プレイヤーを駆逐する可能性が高く、業界の構図を大々的に書き換えると見られている。Amazonでヴァイスプレジデントを務めるBabak Parviz氏(Google時代にはGoogle Glassプロジェクトを率いた人物)は、The Wall Street Journalが主催したテックヘルスイベント内で「既に多数の企業から問い合わせを受けており、間もなく各社従業員がサインアップして利用できるようになる」と話している。
Amazonはアプリをエントリポイントと捉えた上で、現実の医療サービスとのハイブリッドを実現しようとする。在宅検査サービスの立ち上げに向けた交渉も始めている、とInsiderが報じており、医療相談・受診・検査・治療・経過フォローを含む全ての医療フェーズに関与する包括システムを狙う姿勢も垣間見える。忍び寄る遠隔医療業界のXデーは、今まさに目と鼻の先にある。
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遠隔医療を助ける新しい自律型ドローン
Canonの画像再構成AI技術がPET/CTでFDA認証取得
Canonが各種検査で画像再構成技術(DLR: Deep Learning Reconstruction)の実用化を進め、規制当局の認証をクリアしてきたことをこれまで紹介してきた(過去記事)。
Canon Medical Systems USAの10日付プレスリリースによると、同社のDLR技術「AiCE」はデジタルPET/CTシステム「Cartesion Prime」における米FDAの510(k) 認証を取得しており、6月12日~15日開催のSNMMI (米国核医学会・分子イメージング学会)2021年次総会でシステムが展示される。AiCEの深層ニューラルネットワークに基づくDLRが分子イメージングの領域にも進出したことで、画質の向上のみならず、患者にとってさらなるスキャン時間および被曝の低減につながる。
がんの全身検索に有効なPET/CTであるが、近年のシステムでも撮像に20分程度の安静が必要なため、姿勢保持が難しい状況の患者にとって負担が大きい。また、検査前1~2時間に検査用の放射性核種(18F-FDG)を静脈注射で体内に取り込ませるプロセスもある。AiCEは検査プロトコルに組み込んでスキャン連動で再構成することにより、AiCEの被爆低減効果を見込んだ最適条件を設定することが可能となり、高速化・低線量被曝の点から患者の負担軽減が期待できる。Canonの技術搭載が各種検査に出揃ってきたことで、DLRにおけるAI技術の実用化はいよいよ身近なものになってきた。
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世界スマート病院ランキング2021
米Newsweek誌はこのほど、医療専門家からの詳細な評価に基づく「世界スマート病院ランキング2021」を公開した。これはAIやロボット、高度データ処理技術などを含む「スマートテクノロジー」の領域で世界をリードする250の病院を表彰するもの。ヘルスケア領域におけるスマートテクノロジーはこの2年間に急速な発展をみたが、その背景には新型コロナウイルス感染症の拡大と、それに伴う積極的な規制緩和、新技術への投資拡大がある。
Newsweekの公表したランキングによると、トップ10のうち8つが米国の主要病院となっている。1位から順にメイヨークリニック、ジョンズホプキンス病院、クリーブランドクリニック、マウントサイナイ病院、マサチューセッツ総合病院が挙げられている。欧米諸国に所在する病院を除けば、イスラエル最大のシェバ医療センターが13位、インドのフォルティス記念研究所が23位、シンガポールのジョンズホプキンス・シンガポール国際医療センターが30位となった。日本からは東京大学病院が39位で最高位、京都大学病院が53位、名古屋大学病院が72位と続いている。
医療機関が必要とするスマートテクノロジーの上位には遠隔医療がある。医療提供体制の変革を求められたパンデミック下にあって、ケアの提供・患者モニタリングのいずれについても技術の恩恵は計り知れない。上位スマート病院群は、遠隔医療プラットフォームの実臨床導入を率先して進めたことが1つの特徴となる他、AI・ロボット手術・デジタルイメージング・ITインフラ・EHRなどによって、ヘルスケアの未来を先導している。
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睡眠段階を自動解析するAIプロジェクト「U-Sleep 」
不眠症・睡眠時無呼吸症候群(SAS)・ナルコレプシーなど、睡眠障害は多岐にわたる。特に診断に至っていないSASは、健康の質を潜在的に脅かしており、社会的な問題ともなっている。睡眠障害に関する膨大な検査データをAIで解析する潮流については以前にも紹介した(過去記事)。
デンマークのコペンハーゲン大学からのニュースリリースによると、同大学は国内の睡眠医学研究センターと共同で、睡眠障害の診断と治療、そしてその理解を深めるAI開発プロジェクト「U-Sleep」を実施している。研究成果は学術誌 npj Digital Medicineに発表された。同研究では、SASの検査として核となるポリソムノグラフィ(PSG)から、覚醒・ノンレム睡眠(N1/N2/N3)・レム睡眠という「睡眠段階」に分類する作業について、AIアルゴリズムによって数秒での解析を実現した。従来、PSGで得られる一晩7〜8時間分の睡眠解析に、専門家による手作業で1件当たり1.5〜3時間を要していた。デンマーク首都圏だけでもPSGは年間4,000件以上実施されているため、開発されたアルゴリズムを導入すると、単純計算で6,000〜12,000時間を節約できることになる。
U-Sleepプロジェクトの解析ソフトウェアは、sleep.ai.ku.dkから自由に利用することができ、研究グループはアルゴリズムが世界中で役立つことを期待している。プロジェクトをリードしたMathias Perslev氏は「最新の機器や専門家を活用できない途上国での利用にも適する」と述べている。
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カンザス大学 – オステオパシー医学教育にAIカリキュラムを導入
「osteopathy(オステオパシー)」という単語は日本でも耳にする機会が増え、整骨・整体に近い意味と文脈で捉えられているであろう。オステオパシーでは、骨格など運動器、血管・リンパなど循環器、あるいは脳神経系などの医学知識を基礎として、手技による身体の治療を行う。日本では国の認定する医療資格ではないことから理解されにくい医療哲学ではあるが、発祥の地である米国では、医学の一分野としてオステオパシー医科大学による教育が行われ、D.O.(Doctor of Osteopathic Medicine)という専門博士号が普及している。
Kansas Health Science Centerのニュースリリースによると、現在カンザス州ウィチタに建設中のカンザス大学オステオパシー医科大学では、AIなど先端技術を取り入れた教育カリキュラムを展開することを目指し、2022年度の開校に向けた準備がすすめられている。キャンパス内にはオステオパシー技術のトレーニングセンター、バーチャル解剖学ラボなどが設置される予定となっている。AIやデータサイエンスを活用した、現代的なD.O.を育成するミッションを、同大学では掲げている。
D.O.にとって先端的で世界的なトレーニング拠点となるメディカルスクールが設立されることで、オステオパシー医学の国際的な位置付けは今後も変化していくかもしれない。日本で「法的な資格制度のない医業類似行為」として位置付けられるオステオパシーがどのように展開されていくか、米国からの影響を興味深く観察したい。
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オハイオ州立大学 – 大腸内視鏡AIシステムを実臨床導入
コンピュータ支援の大腸ポリープ検出(CADe:computer-aided colon polyp detection)システムについて、米オハイオ州立大学における大腸内視鏡検査での臨床利用が始まった。これにより、オハイオ州立ウェクスナー医療センターとオハイオ州立総合がんセンターは、米食品医薬品局(FDA)によって承認済みの当該ツールを利用する米国初の学術医療センターとなる。
オハイオ州立大学によるプレスリリースでは、Medtronic社のGI Geniusの導入を明らかにしている。GI Geniusは本年4月にFDAの承認を受けた大腸内視鏡AIシステムで、大腸内視鏡から得られるリアルタイムデータにディープラーニングを適用することにより、動画上に「病変を疑う領域」を強調表示し、見逃しを防ぐことができるというもの。臨床的有効性を支持する根拠論文によると、このツールの利用は前がん性ポリープ(腺腫)の検出率を14%向上させることで、結腸直腸がんを42%減少させ得るとしている。
同大で消化器内科を率いるDarwin L. Conwell医師は「このツールは、高度専門知を有する医師とAIの力を抱き合わせることで、人の目だけでは検出が難しかった病変の特定を実現する。結腸直腸がんの早期発見にとって、まさにゲームチェンジャーと言える」と述べる。今回の臨床導入により、AI支援内視鏡に関する臨床データが多量に集積されることが見込まれ、多面的なエビデンス構築と加速度的な普及の足がかりとなることも予想されている。
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メイヨークリニックとNASAの協調 – 臨床データから因果関係を明らかにするAIプラットフォーム
炎症性腸疾患の分類を糞便のみで行うAI研究
Realyze Intelligence – 電子カルテからハイリスク群を抽出するAIプラットフォーム
ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)はこのほど、新規スタートアップ「Realyze Intelligence」を立ち上げたことを明らかにした。同社では高度なAIおよび自然言語処理技術を用いて、電子カルテデータから「転帰不良が見込まれるハイリスクグループ」を特定し、適切なケアを早期に提供することを目指す。
UPMCが3日明らかにしたところによると、Realyze Intelligenceが提供するAIプラットフォームでは、電子カルテに含まれる構造化データおよび非構造化データの双方を網羅的に解析し、健康リスクの高い集団を抽出することで医師の臨床的意思決定をサポートするという。同社を率いるGilan El Saadawi氏は「患者は一面的にのみ評価することはできない。多数の要因によって複雑化・個別化された病状を効果的にケアするには、電子カルテ記録の関連情報を活用する必要がある」とする。
UPMCによると、米国のヘルスケア業界において「臨床記録やメモからデータを抽出することを目的とした雇用」は年間87億ドルに及ぶという。Saadawi氏は「手作業で時間のかかるこのプロセスをRealyzeは合理化し、患者のストーリーを素早く解読することができる」としてプラットフォームの有用性を強調する。
Realyze Intelligenceは、UPMCにおいてイノベーションと商業化を担当するUPMC Enterprisesの支援によって設立された。詳細は同社ホームページを参照のこと。
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病理AIで非小細胞肺がんのネオアジュバント療法を評価
がんの手術前に行う化学療法「ネオアジュバント療法」がどれくらい奏功したか、切除検体の病理標本から精査される。AI病理診断技術を開発する米ボストン拠点のPathAI社は、ネオアジュバント療法の効果を測るために、病理学的評価項目「PathR」を自動算出するアルゴリズムを展開している。
PathAIのニュースリリースによると、アルゴリズムについての研究成果が6月4日~8日に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された(抄録参照)。同研究は非小細胞肺がん患者に分子標的薬アテゾリズマブ(販売名テセントリク)のネオアジュバント療法を行う臨床試験LCMC3において、PathAIのアルゴリズムで病理標本から「腫瘍領域および残存した生存腫瘍」の定量化を行った。従来は病理医が標本から手作業で算出していた評価項目を機械学習ツールによって自動化し、特に生存腫瘍が10%以下である「MPR: major PathR」の評価において、手作業の評価と強い一致(AUROC = 0.975)を示した。また、手作業で算出したMPRは手術後の患者の無病生存期間(DFS)や全生存期間(OS)の改善と有意な相関を認めなかったが、AIで算出したMPRでは有意な相関を示すことができた。
この研究成果では、機械学習によって自動化・定量化された病理診断が、手作業の評価と同等の精度を有することを示唆した。さらに評価項目MPRのAIによる評価が、DFSやOSを予測する代替評価指標となる可能性も示している。いままさに勃興しようとするAI病理診断の1つとしてPathAIの動向に注目したい。
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パーキンソン病患者への脳深部刺激療法の長期有効性
米国では約100万人がパーキンソン病の治療を行っており、毎年新たに6万件の新規症例が報告されている(参照統計)。脳深部刺激療法(DBS)は脳内に深部電極を留置し、標的領域の電気刺激によって異常な神経活動をコントロールする治療法である。我が国においても2000年に保険適用となり、主にパーキンソン病に伴う不随意運動(ジスキネジア)に対する外科的治療として普及している。
仏グルノーブル・アルプ大学の研究チームは、DBSがデバイス留置後15年という長期の経過によっても、有効な効果を示し続けていることを明らかにした。研究成果は2日、Neurologyから公開されている。研究者らはDBSの導入されたパーキンソン病患者51名を調査し、15年以上前のデバイス埋め込み前と比較し、ジスキネジアの経験時間が75%減少し、ドーパミン調節を目的とした投薬は51%減少していることを確認した。
Neurologyのプレスリリースによると著者らは「パーキンソン病自体は進行を認め、一部の症状は治療抵抗性にさえなっているにも関わらず、研究参加者らは生活の質を維持することができている」とし、治療法の長期有効性を強調する。また研究チームは、より多くの人々で長期間の検証を行うことも明らかにしている。最近では、米ラッシュ大学医療センターが自宅での脳深部刺激療法(DBS)を可能とするプラットフォームを立ち上げて話題となるなど、技術革新に伴う古典的治療への効果検証と再評価、機能拡張が進んでいる。
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AIによる放射線治療計画は臨床に受け入れられるか?
がんの放射線治療で、適切な治療計画を作成するためにAI/機械学習(ML)を用いることが実用化されつつある。人によるマニュアル操作での放射線治療計画に比べ、AIの利用によって精度と作業効率の向上が期待される。しかし、実際にAIが現場の臨床医に受け入れられ、選択されるか、議論の余地がある。
カナダ・トロントを中心に病院ネットワークを展開するUniversity Health Networkのプレスリリースによると、同ネットワークのプリンセス・マーガレットがん研究所で、MLが生成した放射線治療計画が臨床現場に受け入れられるか、人間の作成した治療計画と直接比較する研究が行われた。研究成果は学術誌 Nature Medicineに6月3日付で発表された。その結果、調査対象となった100名の前立腺がん患者について、MLによって生成された治療計画は89%が「臨床的に許容できる」と判断された。また、72%の腫瘍科医が人間の作成した計画よりもAIによる計画を好んで選択した。MLによって、放射線治療全体のプロセスは、人間が行う場合の118時間から47時間に短縮し、効率が約60%向上したとする。
一方、シミュレーションでは選択されやすいMLによる治療計画も、実際に現場の人間がそれを信頼できず、危ういと感じれば実臨床では選択されにくくなるという結果も示されている。既に治療を受けた患者群ではMLによる治療計画が選択された割合(シミュレーションとして選択された割合)は83%であったが、治療前の患者群ではMLによる計画が選択される割合(実際の治療計画として選択される割合)は61%に低下した。研究グループでは「AIによる治療プログラムが、臨床現場の腫瘍科医から継続的にフィードバックを受け、臨床の正確さをどれだけ反映しているか、常に改良され続けることが必要である」と強調している。
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スタンフォード大学「Trove」- ラベル付きデータを要さない自然言語処理フレームワーク
2020年初頭、米国でも新型コロナウイルスが感染拡大の予兆をみせた時、スタンフォード大学の研究チームは同大学病院の救急部を訪れた。「開発中の自然言語処理(NLP)フレームワークがCOVID-19患者のトリアージに役立つのではないか」と進言するためだった。医師のメモを含め、非構造化テキストとして集積されている医療記録には有用な情報が多くあるが、そこから何らかの示唆や知見を高速に得るための手段が非常に限られていたからだ。
ほとんどのNLPフレームワークとは異なり、Troveと呼ばれる研究チームのオープンソースフレームワークでは、機械学習モデルをトレーニングするためにラベル付きデータを必要としない。これは、非常に高価で時間のかかる「専門家によるラベル付けプロセス」を回避できることを意味する。Troveでは代わりに、いわゆる「weak supervision」と呼ばれるアプローチを採用し、公的に利用可能な生物医学情報データベースと専門家が作成した規則を利用することで、臨床テキスト内のエンティティを自動分類する。
スタンフォード大学の公式ニュースサイトでは、Troveの開発を率いたJason Fries氏のコメントとして「これらのオントロジーとルールが、トレーニングセットのラベル付けにおいて完璧であることは期待できないが、現実的には非常にうまく機能する」と報じる。また、Troveはweak supervisionゆえ、従来のNLPと比較した際に強力な利点を複数持つ。これは「依存する規則を新しい科学情報が入るごとに修正できる」というもので、当然トレーニングデータセットを手動で再ラベリングする必要がないため、システムのアップデートに時間を要さない。さらに、患者プライバシーを侵害することなく、他医療機関と共有可能なラベリング機能も生成できる。
チームによる最新の研究論文は1日、Nature Communicationsから公開された。その中で著者らは「医師など専門家グループに有償で依頼してラベル付きデータを作成することで、そこから時間をかけて構築されたNLPと比較しても、十分に同程度のパフォーマンスが得られている」点を指摘する。Fries氏らが6年間に渡って取り組んだこのNLPフレームワークは今、COVID-19による人類未曾有の危機に大きな役割を果たそうとしている。
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心臓病ケアAIを推進 – GEと米国心臓病学会(ACC)の提携
医療機器大手 GE Healthcareが展開するAIプラットフォーム「Edison」を以前にも紹介した(過去記事)。同社のような大手プロバイダのもとに多数の医療AIスタートアップが合流し、統合された診断プログラムを提供するのがトレンドとなっている。
GE Healthcareの3日付プレスリリースによると、同社は心臓病治療におけるAIの推進に向けて、米国心臓病学会(ACC: the American College of Cardiology)との提携を発表した。ACCは「Applied Health Innovation Consortium」という、AIとデジタル技術を臨床応用するためのリーダーシップとエビデンス構築を推進する多分野合同グループを展開しており、そこにGEが参加し支援を行う。この共同事業には、学術界・臨床・テクノロジー企業・患者団体から賛同者が集まり、AI開発における信頼性確立を目指している。そのなかでEdisonプラットフォームは、GEが展開するAI製品の基盤として心臓病対策への中心的役割を担う。
今回のパートナーシップでは、循環器疾患領域で最重要視されている「ケア・パスウェイ(早期発見~治療~自宅でのフォローアップ)」に取り組む予定である。GEは心臓病ケア・パスウェイ形成のため、AIとデジタル技術の専門知識を提供し、リスク予測と臨床意思決定を支援する。特に心房細動の管理を重点課題として、冠動脈疾患・弁膜症・心不全にまでケア・パスウェイの形成を拡大していく。プレシジョン・ヘルス(精密医療)達成のための業界の大きな動きがまたひとつ生まれようとしている。
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GE – 胸部レントゲン写真から異常を検出するAIシステム
GE – ウィズコロナに最適化する「AI搭載ポイントオブケア超音波」(POCUS)
GE –...
「電子の鼻」で卵巣がんと膵臓がんを血液から検知
卵巣がんや膵臓がんはスクリーニング検査の確立が不十分で、早期診断に有効となる非侵襲的な検査法が待望されている。ペンシルベニア大学の研究グループは、血液サンプルより発せられる蒸気(VOC: 揮発性有機化合物)からがん細胞を嗅ぎ分ける「e-nose(電子の鼻)」を開発した。
ペンシルベニア大学医学大学院のニュースリリースによると、この研究成果は6月4日に開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される(抄録参照)。電子嗅覚システムは、すべての細胞から発せられるVOCの組成を検出するナノセンサーを備えており、AIアルゴリズムによって卵巣がんのVOCを精度95%で識別し、膵臓がんのVOCを精度90%で識別できた。
研究グループののひとりA. T. Charlie Johnson博士は「初期の研究だが、非常に有望な結果となった。毎年の健康診断で行われるような標準的な血液検査からがんのスクリーニングができるようになるかもしれない」と述べている。
同研究でペンシルベニア大学と協力している「VOC Health社」は、電子嗅覚システム技術においてCOVID-19患者特有のVOCを検出するモバイル機器開発も行っており、国立衛生研究所から2年間で200万ドルの助成金を獲得するなど、こちらの開発成果も期待されている。
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ニューヨーク大学 – 在宅脳刺激による精神神経疾患の遠隔治療プログラム
米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターは、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)による在宅治療プログラムを開始した。対象となるのはうつ病や多発性硬化症といった精神神経疾患群で、領域の疾患特性やCOVID-19の感染拡大によって、そもそも外出することが難しい患者などに大きな助けとなることが期待されている。
同センターによるプレスリリースによると、提供される遠隔tDCSは現在、米国全州において利用可能としている。tDCSは極めて微弱な直流電流によって脳内の特定部位を刺激し、効果発現を期待するもの。患者らは専用のヘッドセットを装着した状態で、医療者の指示に従った種々のセッションをこなす。患者ごとにパーソナライズされたケアプランには、座位でのエクササイズや認知トレーニングゲームなど、種々のアクティビティが含まれている。現在は保険対象外で、機器レンタル代を含め、1セッションあたり30ドルの費用がかかる。
ニューヨーク大学ランゴーン医療センターでは、治療抵抗性うつ病におけるtDCS効果を検証する臨床試験にも参加する(研究プロトコル)。また最近では、米ラッシュ大学医療センターが自宅での脳深部刺激療法(DBS)を可能とするプラットフォームを立ち上げるなど、精神神経疾患患者に対する在宅治療アプローチの拡充が急速化している。
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スマートスピーカーを利用した心拍モニタリングシステム
AIモデルは「ショートカット」に依存している?
AIモデルは人間と同様、診断に結びつく近道(ショートカット)を探す傾向があるが、これが誤診や誤った関連の抽出につながる可能性があるという。米ワシントン大学の研究チームはこの知見を論文としてまとめ、今週、Nature Machine Learningから公開した。
本研究論文によるとこの研究チームは、胸部レントゲン画像からCOVID-19を識別するために近年提唱された複数のAIモデルを検証している。対象モデルは、医学的機序に基づく病理学的特性を学びCOVID-19を識別しようとするのではなく、眼前のデータから効率的に識別するためショートカット学習に依存し、医学的には無関係な要因との関連を抽出していることを明らかにした。モデルは臨床的に重要な指標を無視し、各データセットに固有のテキストマーカーや患者位置などの特性さえ優先していたとのこと。
ショートカット学習は医学・病理学的判断に比して堅牢ではないため、別データセットにおいて十分には一般化されない可能性が高い(汎化性能が低い)。同大学の公式ニュースリリースにおいて、筆頭著者であるAlex DeGrave氏は「臨床医は一般的に『AIモデルは疾患特異的な画像パターンからCOVID-19を識別しているはずだ』と考えている。しかし、ショートカットに依存して学習したシステムでは、例えば高齢者の方がより罹患リスクがあるので疾患群だろう、といったように短絡的な根拠に基づく明らかな誤診を導いている可能性がある」とする。
ショートカット学習自体は誤りではなく、完全に除外することは機械学習の利点を奪うことにもなる。ただし、医学領域においてはショートカット学習が示す関連性は「医学的に予期し得ないもの」である可能性があり、透明性の欠如による不適切な診断は大きなリスクを内包していると言える。
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Lucida Medical – 前立腺がんMRI診断AI「Pi」でCEマーク取得
前立腺がんの診断に針生検は重要だが、MRIによる事前の画像診断が「生検の必要性」を判断する基準となっている。英ケンブリッジ大学からのスピンアウト「Lucida Medical」は、MRIから前立腺がんを検出するAIソフトウェア「Pi」を製品化しており、同領域のトップランナーの1つである。
Lucida Medicalの1日付プレスリリースによると、前立腺がん検出ソフトウェア「Pi」が欧州医療機器規制のCEマークを取得したことを発表している。同社の技術は、MRI画像中のがん病変部マーキングを自動化し、読影医の負担を軽減することができる。また、同システムは高リスクがんの見逃しを減らすとともに、低リスクがんに対する過剰な生検を回避することにも貢献する。2021年3月の欧州放射線学会(ECR)では、先行研究でMRIから高リスク前立腺がんの見逃しが12%であったものを同社のAIが7%に低減し、低リスク前立腺がんの55%にみられた過剰な生検を24%に低減したという研究成果が発表されていた。
COVID-19によってがん検診全体に遅延が生まれており、多くの待機者を抱えているという社会問題がある。Lucida Medicalは今回のCEマーク取得で、欧州内の医療機関との提携が広がり、臨床導入が進むことを期待している。同社のCEOで共同創立者であるAntony Rix氏は「前立腺がん患者の予後を改善し、NHSのような医療システムのコストを削減する点において、私たちの技術は大きな可能性を持つ」と語っている。
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メンタルヘルスケアにAIを用いるスタートアップ5選
医療AIの急速な利用拡大は、精神科領域も例外ではない。当メディアでも多数のメンタルAIテックを取り扱ってきた。Analytics Insightはこのほど、「メンタルヘルスケアにAIを用いるトップスタートアップ5選」を明らかにしている。
30日同社が公開したところによると、米国から3つ、ドイツおよびトルコから1つずつの計5社が選定されている。明確な選出基準は示されておらず、あくまで取り組み事例として参照するのが望ましい。
- Sntio Solutions(カリフォルニア州サンフランシスコ): ウェアラブルデバイスを利用したバイオマーカーモニタリングと、得られた生体情報に基づくデジタル治療の提供。認知行動療法を根幹とし、不安・うつ・双極性障害などに向けた新しい治療アプローチにAIを導入している。
- Clarigent Health(オハイオ州メイソン):自殺リスクを含む種々のメンタルヘルス評価に「音声バイオマーカー」を用いるスタートアップ。当メディアでも本年1月に取り扱った(過去記事「Clairity – 音声から自殺リスクを推定するAIアプリ」)
- 7Cups(カリフォルニア州パロアルト):専門カウンセラーやコーチによる瞑想およびブレスワークの提供。ユーザーは24時間いつでもオンラインセッションを匿名で受けることができる。1対1のチャット接続にAI技術を適用し、最適な人選を実現するとしている。
- MindDoc(ドイツ):気分のトラッキングサービス。日々行われるAIからの問いかけに答えさせることで、うつ症状を含むメンタルヘルス不調を早期に捉える。医療者との連携を強化しており、モニタリング結果は定期的なドキュメントとして自動生成・共有される。
- Meditopia(トルコ):パーソナライズされた瞑想セッションによって、ストレスの軽減、および睡眠の改善を狙う。同社はこれまで11の言語で、1800万人を超えるユーザーをサポートした実績を持つ。
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WhatsAppのAIチャットボットによるドバイのコロナワクチン予約
日本国内ではコロナワクチンの予約をめぐる混乱が取り沙汰されている。アラブ首長国連邦のドバイでは、メッセージアプリの「WhatsApp」を利用したコロナワクチンのAI予約システムが利用されている。
UAEのメディア Khaleej Timesによると、ドバイの住民はWhatsAppの自動チャットボットでワクチン接種センターを選択すると、AIシステムがそのセンターの最も早い予約枠を選択してくれる。このチャットボットはもともとCOVID-19に関する情報提供や、ドバイ保健局のサービス情報を提供するために開発された。24時間365日対応の無料サービスであり、これまでに15万件以上のCOVID-19に関する問い合わせがWhatsAppを通じて処理されてきた。
COVID-19のパンデミック以来、WhatsAppは150以上の国と地域で20億人のユーザー向けにCOVID-19ヘルプラインを提供し、1年間で30億件のメッセージがヘルプラインを通じて送信された。メッセージアプリによるワクチン接種予約について、日本国内ではLINEが主流であるが、接種年齢の範囲拡大による利用状況の推移に注目していきたい。
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世界禁煙デー2021 – WHOの禁煙支援デジタルツール提供
5月31日は「World No Tabacco Day(世界禁煙デー) 2021」であり、禁煙キャンペーンがWHO主導で行われている。喫煙者はCOVID-19による重症化や死亡リスクが40~50%高くなるとして、その弊害がさらに注目された。
WHOのリリースによると、同機関の支援する禁煙キャンペーン「Commit to Quit」では禁煙デジタルツールが無償配布されている。キャンペーンは29の重点対象国(リリース内の下部記載参照、日本は含まれず)を対象とし、Viber、WhatsApp、FB Messenger、WeChat、AI企業でSoul Machinesといった企業との提携で、禁煙支援サービスを提供している。Quit Challengeという機能ではチャットボットとAIデジタルヘルスワーカーの「Florence(過去記事)」によって、禁煙を維持するためのヒントや励ましを最大6ヶ月間、毎日通知する。
WHOによると、世界全体では男性で約39%、女性で約9%が喫煙者と推計されている。最も喫煙率の高い地域であるヨーロッパ(26%)では、政府の早急な対策がなければ2025年までに2%しか減少しないと予測されている。日本国内では「CureApp」によるニコチン依存症治療アプリが保険承認されて耳目を集めた。今後も禁煙をめぐる次世代のデジタルツールが全世界で展開されていくだろう。
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痛みを数理モデルで解釈する
原因と症状パターン、緩和と増悪など、疼痛を巡る一連の現象を一元的に説明し得る理論は未だ得られていない。多くの研究が疼痛管理を目的とした標的分子を追っているが、数理モデルを用いた疼痛の病因探索や作用メカニズムの探求は非常に限られている。スウェーデンのチャルマース工科大学とヨーテボリ大学などの研究チームは、疼痛への数理モデルアプローチについての系統的レビューを公開した。
Pain Medicineから29日公開されたチームの研究論文によると、調査対象となったのはScience DirectとPubMedの両論文データベースで、2020年以前の560報が関連論文としてピックアップされた。このうち、31報については「痛みを直接数理モデルで解釈」しようとする論文としてレビュー対象となっている。結果、ほとんどの対象論文が既存の機械学習アルゴリズムを用いることで「疼痛の有無」を識別しようとすることに焦点を当てたもので、診断や治療を念頭に置いた疼痛の性質分析や量的評価に寄ったものはほぼ確認されていないとする。
数理モデルの利用は、疼痛の発生機序となる仮説的メカニズムに対して実データによる実証試験も可能とすることから、疼痛の現象理解を強化・促進する可能性が高い。疼痛の診断・治療・予防におけるブレイクスルーに資するアプローチとして、今後の各方面からの取り組みが期待される。
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唾液タンパク質データベースが個別化医療を変革する
米国立歯科・頭蓋顔面研究所(NIDCR)によって資金提供された「Human Salivary Proteome Wiki」は、唾液タンパク質についての公開データプラットフォームとして2019年にリリースされた。そこでは、唾液プロテオーム、ゲノム、トランスクリプトーム、およびグライコーム等に関する情報が幅広く集積・公開されている。
25日にJournal of Dental Researchに掲載された研究論文では、ニューヨーク州立大学バッファロー校などのチームによって、唾液ウィキの仔細が解説されている。多数の独立した研究から科学的エビデンスを集めるこのウィキでは、検索および分析ツールを研究者・臨床医に提供することで「唾液の動的で複雑な性質を探求するのに役立つ」としている。
バッファロー大学によるニュースリリースでは、当該プロジェクトを率いるStefan Ruhl教授の言葉として「このデータベースは、口腔および全身疾患の診断・リスク予測・治療のために、唾液プロテオームの可能性を最大化することができるものだ」とのコメントを報じ、唾液タンパク質データベースが個別化医療の強化において果たす役割を強調している。
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妊娠高血圧腎症のAI診断で命を救う – ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン発のプロジェクト
妊娠高血圧腎症(子癇前症)は世界中で毎年5万人の妊婦と50万人の出生児の死亡を招き、500万人の未熟児出産に影響しているという試算がある。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリンでは、妊婦の血中バイオマーカー検査と機械学習によるリスク評価を組み合わせ、妊娠高血圧腎症の正確な早期診断と、患者の転機を予測する「AI_PREMie」という次世代の検査法が開発されている。
The Irish Timesでは、研究グループへのインタビューでプロジェクトを紹介している。リーダーのPatricia Maguire教授は、妊娠高血圧腎症の妊婦の診察経験から「血中バイオマーカーが早期警告システムとして機能する可能性」を検討し始め、健康な妊婦との間で血小板数に差がある点から着想を得たという。チームのアイディアはアイルランド科学財団の「AI for Spcietal Good Challenge」に採択され、研究が次の段階へと進んだ。AI_PREMieはアイルランドの3大産科病院で臨床試験が開始され、アイルランドの全出産の50%までを試験範囲としてカバーする。
Maguire教授は「AIは人工知能ではなく拡張知能を意味するべき」として、強力なツールが臨床医の知性を増強してより良い判断ができるようになって欲しいと考える。同氏はインタビューに対し「この子を生むべきか、緊急帝王切開するべきか、といった臨床医の重要な判断をAI_PREMieが助けることを想像すると鳥肌が立つ。研究に協力してくれた妊娠高血圧腎症の妊婦には、子どもを失ったにも関わらず、それが他の誰かに起きて欲しくないという想いで関わってくれた人たちがいる。世界中でこの検査を必要とする全ての人に届けるのが大きな夢だ」と語った。
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AI病理診断の雄「Ibex」 – 乳がん診断で欧州CEマーク取得
病理診断AIを展開するイスラエル発のスタートアップ Ibex Medical Analyticsは、前立腺がんの病理診断AI「Galen Prostate」で業界をリードしてきた(過去記事)。Galenシリーズは次なる展開として、乳がん病理診断AIに取り組んでいる。
Ibexの26日付プレスリリースにでは、同社の乳がん病理診断AI「Galen Breast」が欧州医療機器規制 CEマークを取得したことを発表している。今回のCEマーク取得は、仏キュリー研究所およびイスラエルの大規模保険医療サービス機構 Maccabi Healthcare Servicesで行われていた多施設共同臨床試験の良好な結果を受けたものである。Galen Breastは、乳がん病理標本から「浸潤がんや非浸潤性上皮内がんといった深達度別の検出」、「浸潤がんの中でも小葉がんや乳管がんといった組織型別の検出」でAIによる病理診断の支援を行う。
Ibexによると、Galen Breastは欧州の主要な医療機関から複数の発注を既に受けており、今回のCEマーク取得によって欧州内でのシェア拡大の加速が期待されている。乳がんは世界中で年間約200万人が新規に罹患し、近年の患者数増加や個別化医療によるがん診断の複雑化と相まって、人員が減少傾向にある病理医の負担増につながっている。前立腺がん病理診断AIと同様の恩恵をもたらすことができるか、その展開が期待される。
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米大手ヘルスケアプロバイダーとGoogle Cloudの提携
米国有数のヘルスケアプロバイダーとして知られるHCA Healthcareは、テネシー州ナッシュビルに本拠を置き、米20州および英国に186の病院と手術センター、ER、救命救急センター、診療所などを多数展開する。1968年の設立以来、患者ケアに焦点を当て積極的に新しい病院モデルを模索し続けてきた。このHCA Healthcareはこのほど、Google Cloudとの新規パートナーシップを締結した。
HCA Healthcareが26日明らかにしたところによると、このパートナーシップはHCAの安全で動的なデータ分析プラットフォームの作成をサポートし、医療の質的向上を前提とした臨床ワークフローの最適化、およびデータドリブンで効果的な意思決定支援の実現と強化を目指す。HCAは既に9万台に及ぶモバイルデバイスを実臨床導入しているが、Google Cloudとの提携によって医師・看護師などの医療者は「ワークフローツール・アラート・分析」といった各機能をこれらデバイスを通して利用可能となり、患者の状態変化にも迅速な対応が可能となる見込み。
HCAのCEOであるSam Hazen氏は「我々はGoogle Cloudとイノベーションへの情熱を共有しており、このパートナーシップを我々の今後の取り組みの基盤と考えている」とする。Google CouldでCEOを務めるThomas Kurian氏は「データの相互運用性を推進する上で、クラウドは医療の革新を促進し得る」として、臨床ケア向上の前線に立つ意気込みを明らかにした。
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IVF Life Group – 欧州で初めて「AIによる胚選択」を臨床導入
スペイン・イギリス・ドイツでケアを提供するIVF Life Groupはこのほど、欧州で初めて「AIによる胚選択」を臨床導入することを明らかにした。Presagenによって開発されたこのAIプロダクトは、胚画像からその質を識別することができるもので、胚選択の支援を通した体外受精(IVF)結果の改善を狙っている。
Presagenが25日行ったプレスリリースによると、今回導入されるのは同社のLife Whisperer Geneticsで、今月欧州におけるCEマークも取得している。米国で行われたLife Whisperer Geneticsの妥当性研究では、91,500の胚に対して82%の精度で遺伝的に正常な胚を識別することができるなど、そのパフォーマンスは既に実用レベルにあるとされる。先行するLife Whisperer Viabilityは胚画像から妊娠成功可能性を識別するものだが、着実に世界各国のIVFクリニックでの実臨床導入が進んでいる。
PresagenのCEOであるMichelle Perugini氏は「IVF Life Groupと協力し、欧州の患者が最新のAIテクノロジーにアクセスできるようにすることで、健康な妊娠の可能性を高めること、治療費を削減することなどに貢献できる」と述べる。また、Life Whispererはイギリス・カナダ・オーストラリア・日本・インド・タイ・ニュージーランド・香港・シンガポール・マレーシアでの販売が既に承認されているという。
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病理画像から腎臓の線維化を評価するAI研究
慢性腎臓病(CKD)において、腎臓の温存率など予後を予測する指標として、腎生検標本から「間質線維化と尿細管萎縮(IFTA: interstitial fibrosis and tubular atrophy)」の評価が行われている。しかし、IFTAの評価は病理医によるばらつきがあるため、より客観的で定量的な評価手法が模索されている。
ボストン大学メディカルスクールのニュースリリースによると、同大のグループは「ディープラーニングで腎生検病理標本画像からIFTAの定量化」を可能とするAIツールを開発している。研究成果は学術誌 American Journal of Pathologyに収載された(全文はmedRxivのプレプリント版を参照)。オハイオ州立大学が有する腎病理画像データセットを利用し、5人の腎臓病理学者によるIFTAスコアからディープラーニングモデルが設計された。モデルの性能はKPMPという別プロジェクトの画像データで検証されている。結果としてIFTAグレードの予測精度は前者データセットで71.8%、KPMPで65.0%であった。
ディープラーニングによる評価アプローチは、腎障害の定量化を通して病理学的診断の補助を可能にする。論文著者のKolachalama博士は「AIモデルによる自動スコアリングは、臨床現場でのセカンドオピニオンツールとして役立つ。このアルゴリズムは他の臓器でも線維化の評価に焦点を当てた研究も可能にするかもしれない」と語っている。
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