医療とAIのニュース 2021
年間アーカイブ 2021
Autoscriber – 次世代型診察支援システム
オランダ・アイントホーフェンに本拠を置くAutoscriberは、医師と患者の会話を記録し要約するAI駆動の音声認識ソフトウェアを提供している。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、医師の燃え尽きが世界的に深刻な問題となるなか、「医療者の負担を軽減しワークフローを効率化するシステム」への期待は大きい。
Autoscriberは、ライデン大学メディカルセンターのClinical Artificial Intelligence and Research Lab(CAIRELab)と共同開発されたAIソフトウェアで、患者と医療者のためのシームレスな臨床対話を可能とすることを目指す。Autoscriberは、診察中の臨床的概念を抽出・記録し、サマリーを自動生成するとともに、結果を患者の電子カルテに統合することで診断と個別ケアのリアルタイムなサポートを実現する。
LUMO Labsは7日付けプレスリリースのなかで、Autoscriberへのプレシード投資を公表しており、同社技術の将来性に言及する。また、AutoscriberはGoogleとの提携も進めており、コンピューティングと開発リソースへのアクセス、資金、マーケティング戦略等に関する支援を受けている。
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皮膚科医全員の診断精度を上回る「メラノーマ識別AI」
皮膚科領域の最重要疾患のひとつである悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラニン色素を作るメラノサイトが癌化して発生する皮膚がんで、その高い死亡率が問題となる。早期発見と切除が治療成功の鍵となる一方、良性の色素性母斑(ほくろ)との区別は容易ではない。
ベトナム・ハノイ工科大学の研究チームは、1.7万枚を超えるメラノーマおよび母斑の画像群をトレーニングデータセットとし、ダーモスコピー画像からメラノーマを識別する強力な深層学習モデルを構築した。研究成果はこのほど、Scientific Reports誌から公開されている。チームの研究論文では、適切なCNNアーキテクチャと最適化されたアルゴリズムによって、不均衡データ (Imbalanced data) における高精度メラノーマ識別手法を提案している。構築されたモデルは、ドイツ国内12の大学病院に勤務する157名の皮膚科医と比較されており、提唱モデルはAUC 0.944、感度85.0%、特異度95.0%を達成し、研究参加した皮膚科医全員の診断精度を上回っていた。
一瞥診断(スナップ・ダイアグノーシス)が基本となる皮膚科領域は、元来画像解析AIとの親和性が高い。特に一般内科外来など、皮膚科を専門としない医師にとって「ほくろの良悪性判断」は極めて難しく、ダーモスコピーの解釈も困難であるため、このような診断補助AIの臨床導入は医療の質的向上に資する可能性が高い。研究チームは、今後の研究促進と再現性確保のため、全てのソースコードを含む研究データを公開している。
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乳がんスクリーニングAIは読影医を置き換えられるか?
乳がん検診における乳房X線検査(マンモグラフィ)では、AIによるスクリーニングへの期待が高まっている。では、検診において「人間の読影をAIに置き換えるのに足る十分なエビデンス」があるか。英国政府の検診検討委員会(UK National Screening Committee)がウォーリック大学に委託したレビューの結果がこのほど、学術誌 BMJから発表された。
同研究の結論から言うと、乳がん検診におけるAIは「現時点で、臨床現場への導入に必要な質は全く担保されていない」というものだ。レビューには、2010年以降に発表された12件の研究、計131,822人のスクリーニング検査が含まれる。その中で評価された36件のAIシステムのうち、34件は放射線科読影医1人よりも精度が低く、36件全てが読影医2名によるダブルチェックよりも精度が低かった。小規模な研究で有望とされた結果でも、大規模な検証では再現されていないという結論が示されている。
アルゴリズムには常に改良が加えられるため、過去に報告されたAIシステムは研究発表の時点で既に古くなっている可能性もある、と著者らは考察する。しかし、今回のレビューには厳格な研究の組み入れ基準を用い、質を体系的に評価していることから、「AIが乳がんスクリーニングで読影医のダブルチェックを置き換えるだけのエビデンスは現状不十分」という結論は強固なものと主張している。その上で「AIが読影医と競合するのではなく、読影医を補完することでスクリーニングのあり方を再設計する」ことが将来的に有望であるとする。
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新研究 – 医療画像において医師とAIに診断精度の違いはない。ただし・・・
AIによる褥瘡予測
「床ずれ」や「褥瘡」と呼ばれる圧迫傷害(pressure injuries)は、患者に多大な苦痛を強いるだけではなく、併存疾患の誘発と転帰の悪化、医療費の増大を招く。米ミシガン大学看護学部のチームは、電子カルテデータから褥瘡リスクを評価するためのAIアルゴリズム構築に取り組んでいる。
このほどBMC Medical Informatics and Decision Makingから公開されたチームの研究論文によると、ベッドの不動性やポジショニング、感覚障害、入院期間といった既知のリスク因子に加え、電子カルテに含まれる種々の変数から「褥瘡発症確率」を推定することを試みた。2.3万名に及ぶ電子カルテ情報に基づき、チームはモデルベースの統計的手法だけでなく、モデルフリーのAI手法も同時に構築・評価した。AIの学習には、不整合で不完全、不均質、時間変動のあるデータを用いている。結果、線形回帰モデルやニューラルネットワークと比較して、ランダムフォレストは一貫して最適な予測能を示していた。興味深いことに、既存の評価指標(Bradenスケール)の利用有無に関わらず、その精度を維持していたという。
著者らは「この褥瘡予測モデルは、発症リスクの事前スクリーニングに向けた第一世代のAIガイダンスとなる」としており、褥瘡という深刻な医療ニーズに対応する新しい介入策の設計・実施・評価への基盤を提供するものとして、成果の重要性を強調している。
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fMRI画像から軽度認知障害を超高精度に分類
脳活動を画像化するfMRIをAI手法で解析することで、アルツハイマー病および軽度認知障害(MCI)を診断する試みがある。その中でブレイクスルーとも言えるほど極めて高い精度を達成したディープラーニングモデルが、リトアニア・カウナス大学の研究グループによって発表された。
カウナス大学のリリースでは、学術誌 Diagnosticsに発表された同研究を紹介している。18層の畳み込みニューラルネットワーク「ResNet-18」は、61,502の画像データによってトレーニングされており、論文中の検証では、138名のfMRI画像を複数の認知カテゴリー(健常・MCI・早期MCI・後期MCI・アルツハイマー病、等)に分類した。結果、早期MCIとアルツハイマー病、後期MCIとアルツハイマー病、等の識別タスクにおいていずれも99%を超える超高精度を達成した。
研究チームのひとりであるMaskeliūnas教授は「類似のデータで軽度認知障害を診断する試みは初めてのものではない。しかし今回の最大の成果は、そのアルゴリズムの精度にある」と語る。この結果は必ずしも現実世界での性能を示すものではなく、臨床家がアルゴリズムに「完全に」頼るべきという結論にはならない。だが、今回の獲得知見とその技術は、アルツハイマー病およびMCIの診断支援において大いなる可能性を示したものとなる。
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新しい心臓画像診断「VNE」 – 造影剤不要の心筋評価へ
米バージニア大学の研究グループは、Virtual Native Enhancement(VNE)と呼ばれる新しい心臓画像診断技術を開発した。肥大型心筋症などの心筋モニタリングにおいて、MRIの遅延造影(Late Gadolinium Enhancement)はその有効性が確立されているが、コストとリスク、および検査時間の観点から造影剤不要の新手法が模索されていた。
Circulationから公表されたチームの研究論文によると、畳込みニューラルネットワークにおける複数のストリームを用いて、MRIのシネ画像とT1 mappingの各種信号を組み合わせたという。敵対的生成ネットワークによってトレーニングされたVNEジェネレータは、従来の造影心臓MRIと変わらない画像を出力することに成功している。研究を率いたChristopher Kramer医師はプレスリリースの中で、「心臓MRIにおいて造影剤の使用を避け、画質を向上させることは、患者と医師の双方にとって有益なことだ」と述べる。
研究内で主要な評価対象として扱われた肥大型心筋症は、若年アスリートに発生する心臓突然死の主因としても知られる。未検出の肥大型心筋症を減らすとともに、低コスト・低侵襲な心筋フォローアップ法としての貢献が期待される同技術は、他の心疾患への適用も想定した検証が複数予定されている。
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子どもの顔写真から遺伝性疾患をスクリーニングするAI研究
染色体や遺伝子に変化を伴い出生する疾患群(ダウン症候群・ウィリアムズ症候群・ヌーナン症候群など)は顔の外観に特徴が現れる。遺伝学的スクリーニングへのアクセスが限られている低・中所得国でもそれらの診断が可能となるよう、小児の顔写真から機械学習ツールで疾患群をスクリーニングする研究が発表されている。
米Children's National Hospitalを中心に行われた同研究は、学術誌 The Lancetに掲載されている。対象とした28カ国2,800人の小児には、128種の遺伝性疾患をもつ1,400人(ウィリアムズ症候群17%・ダウン症候群16%など)が含まれている。子どもたちの顔写真から深層学習モデルが構築され、結果として遺伝性疾患の検出精度は88%、感度90%、特異度86%が達成された。
遺伝子検査には多額のコストがかかるほか、低所得で医療資源が限られ孤立したコミュニティでは、早い段階で遺伝性疾患を発見するための専門家も不足する。研究グループは「各種遺伝性疾患の生存率には人種的・民族的な格差が存在しており、今回公表した技術によって遺伝学的スクリーニングという医療資源の民主化に向けた一歩としたい」とする。Children's National Hospitalは医療機器メーカーMGeneRx社と同技術についてライセンス契約し、技術の強化を進めていく。
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クローン病の治療反応性を予測する機械学習モデル
クローン病は炎症性腸疾患のひとつで、消化管の様々な部位に炎症や潰瘍を生じ、病変部と正常部が繰り返す「非連続性病変」を特徴とする。本邦においても指定難病に定められ、登録患者数は増加の一途を辿っている。近年の研究から、クローン病治療薬であるウステキヌマブの反応が患者によって異なることが報告されているが、その原因は明らかにされていなかった。
中国・四川大学の研究チームは、遺伝子転写プロファイリングに基づき、ウステキヌマブへの反応性を予測する機械学習モデルを開発した。Immunity, Inflammation and Diseaseから1日公開されたチームの研究論文によると、86のクローン病サンプルと26の正常サンプルを含むGSE112366データセットを解析し、この成果を得たという。まず発現変動遺伝子(DEGs)を同定し、Gene Ontology (GO) とKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) によるパスウェイ解析を行ったのち、ラッソ回帰によってウステキヌマブ反応予測モデルを構築した。研究では計122個のDEGsが同定され、クローン病患者では免疫応答経路が有意に濃縮されていることが明らかになった。ウステキヌマブ反応予測のための4つの遺伝子(HSD3B1、MUC4、CF1、CCL11)からなる回帰式は、トレーニングセットとテストセットにおけるAUCとして、それぞれ0.746と0.734を示していた。
著者らは「クローン病患者のウステキヌマブ反応に関する遺伝子発現予測モデルを初めて構築した。後続研究への貴重なデータソースとなる」として研究および獲得知見の重要性を強調する。クローン病は未だ発症原因の解明に至らず、根本治療法も得られていない。有効な治療・管理戦略策定を強力に支援する本研究成果は、患者および医療者の切なる願いを後押しする。
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PPE着脱を見守るAIアプリ
COVID-19との戦いが続く中、医療現場におけるPPE(個人用防護具)着用は、患者接触に伴う感染の防御において「最も確実な唯一の方法」と言える。今回のパンデミックを経て、PPEの正しい着脱がいかに重要か浮き彫りとなった。PPE着脱に必要な手順の間違い・見落としを防ぐためのAIアプリが、豪マッコーリー大学で開発されている。
マッコーリー大学のリリースによると、同アプリは画像認識によってユーザーを識別し、PPE着脱の手順を誘導できる。間違いの可能性がある場合には「先に進む前に20秒間手を洗いましょう」「次はゴーグルを装着してください」といったリアルタイムでのフィードバックを提供する。アプリはエボラ出血熱のためにCDCが作成したPPE着脱ガイドラインに沿って作られ、Surgical XR社の医療用トレーニングAIプラットフォームに適合させている。人による指導では、毎回微妙な差異によって手順の理解を難しくする場合があるが、アプリの指示は標準化され一貫性があることも利点となる。
ソフトウェアはデータ収集につれて精度が向上する設計であるが、データ保存前にビデオの各フレームから顔の識別情報を削り、プライバシーに配慮した記録が可能となる。将来的には、着脱の際に集積された問題をユーザーにメッセージ送信する機能の実装、およびスマートフォン端末で利用可能なサブスクリプション形式のアプリを開発する予定とのこと。マッコーリー大学のMichael Wilson教授によると「PPEはホテルの検疫スタッフや高齢者向け施設の従業員にも必須の装備となってきた。これら2つの職場では英語を話さない人々の割合も高く、PPEの正しい着脱に十分なトレーニングを受けていない可能性がある。感染リスクのある全ての人たちにとって、真に実用的で役立つアプリを開発した」と語る。
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β遮断薬治療に反応する心不全患者を特定するAI研究
左室駆出率が低下した心不全患者の予後は、治療法の進歩により大幅に改善されてきた。しかし、その死亡率は多くのがんよりも高く、今なお受け入れ難い。英バーミンガム大学の研究グループは、AIアプローチにより「β遮断薬による治療が有効な心不全患者を特定する新手法」を開発した。
学術誌 The Lancetに掲載された同研究では、機械学習によるクラスター分析で、心不全患者15,669人のβ遮断薬治療に対する反応を深く掘り下げた。その結果、洞調律の患者でβ遮断薬の効果が低い群(高齢、軽症状、平均より低い心拍数)が特定され、一方で心房細動を有する患者ではβ遮断薬によって死亡率が15%→9%と大幅に減少した群(若年、左室駆出率が心房細動患者の平均と同程度)が特定された。これらの重要な結果が、有効な治療戦略および医療政策の策定に役立てられることを研究グループは期待している。
駆出率低下のある心不全患者における心房細動はしばしば観察され、その有病率は今後数十年で2倍になるとの試算もある。この予測は医療サービスにとって持続困難な負担となる可能性があり、治療効果が期待できる患者群をより正確に特定することが欠かせない。また、治療効果が期待できないケースには追加の管理戦略を検討し、より個別化されたアプローチを取る必要がある。著者らは「研究に用いた一連の手法は、心不全という枠を越え、他の心血管疾患などにも明らかな可能性を秘めている」と語っている。
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救急部での臨床判断を支える「新しい機械学習トリアージツール」
救急部でのトリアージは、患者の生存可能性、医療資源の利用可能性、地域の慣習など、不文律を含む複雑な臨床判断に基づいている。リスク層別化にはスコアリングツールが有効であるが、現在利用できるものには限界がある。シンガポールの主要なメディカルスクールであるDuke-NUSの研究者らは、汎用の機械学習スコアリングフレームワークを用い、新たなリスク予測スコアを開発した。
JAMA Network Openからこのほど公開されたチームの研究論文によると、SERP(Score for Emergency Risk Prediction)と名付けられた本スコアリングツールは、2009年1月1日から2016年12月31日までに救急部を受診し、その後シンガポール国内の三次病院に入院した全ての患者データから構築された。変数には救急外来で入手可能なものを簡潔に選び、ツールの解釈可能性を高めた。結果、2日後の死亡予測でAUC 0.821、7日後で0.826、30日後で0.823と高い予測精度を示し、これは従来のツール(Patient Acuity Category Scale、Modified Early Warning Score、National Early Warning Score、Cardiac Arrest Risk Triage、Rapid Acute Physiology Score、Rapid Emergency...
組織画像への仮想染色
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、生検した組織サンプルに対して「仮想的な再染色を行うAIツール」を開発した。現時点でこのツールは、人間が行う特殊染色と同等の精度を実現しているという。
特殊染色は組織サンプルを化学反応に基づいて染色する手法を指し、特定の染色液によって組織・細胞の構造観察を容易とする。ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色が標準的だが、臨床例では病理医が理解しやすい明確な診断像を得られるよう、異なる組織成分のコントラストと色を強調するため、このような特殊染色が追加的に必要となる。一方、準備に時間がかかること、モニタリングの回数が増えること、コストが高くなること、などのデメリットがあった。Nature Communicationsから公表されたUCLAの研究報告によると、このプロセスを高速化するため開発された新しいツールでは、H&Eで染色された組織画像を「深層学習によって特殊染色を加えた新しい画像に変換」できるという。
研究チームはプレスリリースの中で、「我々は組織工学の専門家が行う特殊染色を不要にする、深層学習ベースの新しい技術を開発した。速度と精度の向上は、臓器移植における拒絶例のように、一刻を争う病状診断にとって特に重要であり、迅速かつ正確な診断によって臨床転帰が大きく改善される可能性がある」としている。本ツールは複数機関においてその有効性が既に検証されており、H&E染色画像のみを使用した場合と比較して、仮想的に生成された特殊染色画像では「診断結果が有意に向上する」ことも明らかにされている。
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スペイン語圏でのメンタルヘルスケアAIチャットボットの有効性検証
AIチャットボットとの会話が、不安や抑うつ症状の軽減に役立つという報告がある。しかしこれら研究の多くは英語圏で行われていた。スペイン語圏であるアルゼンチンの大学生を対象としたメンタルヘルス向けチャットボット研究が、米パロ・アルト大学のグループから発表されている。
JMIR Formative Researchに掲載された研究では、18~33歳までのアルゼンチンの大学生181名を対象として、メンタルヘルス・チャットボット「Tess」が使用され、不安障害と抑うつ症状が追跡された。8週間の追跡期間を通して、学生とチャットボットTessとの間では平均472通のメッセージが交換され、平均116通がユーザーからTessに送られていた。結果として、Tessと交換したメッセージの数が多いほど、8週目に学生から肯定的なフィードバックが得られた(「私を理解してくれている」「話してくれてありがとう」「不安が減って自信を持って外に出られる」)。不安と抑うつについて、介入群と対照群で有意差は認められなかった一方、介入群の群内では不安症状の有意な減少が認められたが、対照群ではそのような傾向は確認されなかった。
群間で有意差が認められなかった理由のひとつに、英語圏からスペイン語圏へのローカライズで、本来のアプリが持っている介入の質が低下してしまった可能性が挙げられている。しかし、ラテンアメリカでのメンタルヘルスチャットボット研究は前例が乏しく、今回の研究成果はアルゼンチンにおけるTessの使いやすさと受け入れを示す十分な証拠となったと、研究グループでは考察している。AIチャットボットがメンタルヘルスケアに有効というエビデンスは、研究のさらなる進展により、言語圏の壁を越えて強固なものになっていく可能性が高い。
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運転データから高齢ドライバーの認知症を予測するAI研究
高齢ドライバーの軽度認知機能障害(MCI)や認知症が運転に与える影響、運転免許制度との関係について議論が続いている(過去記事)。米コロンビア大学のグループは「車載記録装置からの運転データに基づき、機械学習モデルで高齢ドライバーのMCI/認知症を検出する研究」を行っている。
コロンビア大学のリリースでは、学術誌 Geriatricsに発表されている研究成果を紹介している。本研究は、65~79歳の現役ドライバーが参加した2,977名の調査プロジェクト「LongROAD(Longitudinal Research on Aging Drivers)」において、運転データから機械学習モデル(ランダムフォレスト)を構築したというもの。参加者のうちMCIの診断を持つ者が33名、認知症の診断を持つ者が31名含まれていた。年齢・性別・人種/民族・教育レベルなど基本的な属性データに運転データを含めると、MCI/認知症を予測するモデルの精度はF1スコア88%を達成している。また、属性データのみの場合で精度29%、運転データのみで精度66%となっていた。
単一変数として最も高い予測力を示したものは年齢であり、次いで、自宅から15マイル以内の運転割合、人種/民族、1回あたりの運転時間、減速度0.35G以上の強いブレーキの回数、であった。著者のひとりであるGuohua Li教授は「アルゴリズムの検証が進めば、高齢ドライバーのMCI/認知症の早期発見と管理のための、目立ち過ぎない新たなスクリーニングツールとなるだろう」と語っている。
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米政府 – 小児向け遠隔医療拡充に向けた投資へ
米国保健福祉省(HHS)はこのほど、小児医療に遠隔医療サービスを統合するため、American Rescue Planから1070万ドル(約11.8億円)を拠出することを明らかにした。主に小児精神医療へのアクセス向上を狙うものとなる。
米国疾病予防管理センターの推計によると、米国居住小児の20%もがメンタルヘルスの不調に陥ると指摘されている。一方で、専門医療機関でのケアを受けているのは5分の1に過ぎず、特に有色人種の子どもたちは適切なサービスに届いていない現状がある。HHSが明らかにした今回の資金拠出は、このようなギャップの解消を目的として、米保健資源事業局がイニシアチブを取る「Pediatric Mental Healthcare Access Program(小児メンタルヘルスケアアクセスプログラム)」の活動範囲を拡大するために使用される。
2018年に開始されたこのプログラムは、精神疾患や物質使用障害(病的行動パターンを伴う物質関連障害)のある小児の診断・治療・紹介を行うプロバイダーに対して、遠隔相談やトレーニング、技術導入、ケアコーディネーションを支援してきた。今回の拡張により、小児メンタルヘルスケアアクセスプログラムの対象地域は40州に加え、コロンビア特別区、米領ヴァージン諸島、パラオ共和国にまで広がる。
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適切なワクチン配分へ – 意思決定分析モデルによる最適割付
新型コロナウイルスワクチンにおける配分戦略は各国において大きく異なるが、戦略間においてCOVID-19罹患率や死亡率、時間経過に伴う人種・民族別分布との関連などを仔細に検証した研究成果はこれまでなかった。米三大健康保険システムの一つであるカイザーパーマネンテはこのほど、ワクチン配分シミュレートによって「最も効率的なワクチン配分戦略」を特定する研究結果を公表した。
JAMA Health Forumから発表された同研究によると、2021年1月3日から6月1日までに収集された米成人健康保険加入者データを利用したという。無作為に分割した訓練データセットと検証データセットを用い、COVID-19感染リスクモデルと入院リスクモデルを開発し、内部での検証を実施した。仮想的なワクチン配分戦略としては、1. ランダム配分 2. 米国疾病管理予防センター(CDC)の策定した配分 3. 年齢ベースの配分 4. 感染リスクベースの配分 の4つで、2020年5月1日から2020年12月31日までのCOVID-19関連の入院を対象とし、250回のシミュレーションで月ごとにランダムに順列化し、人種・民族と近隣窮乏化指数によってワクチン配分を経時的に評価した。
結果、CDC戦略や年齢ベースの戦略と比較して、リスクベースの戦略がCOVID-19による入院や死亡、家庭内感染における最大の推定削減量と関連していたほか、ヒスパニック系および黒人の患者がプロセスの早い段階で接種される割合が高いことが推定された。このシミュレーションモデリング研究は「高い感染リスクを持つ集団から順に接種させることの有効性」を明らかにしており、今後の配分戦略策定への強力なエビデンスとして注目を集めている。
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ウェアラブルデバイスで慢性呼吸器疾患をモニタリング
慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息など慢性呼吸器疾患を抱える患者は、症状悪化によって救急搬送・入院といった重大イベントに至る。特にCOPDについては、退院後30日以内の再入院率が22.6%という報告もある。状態の安定を確認したり、受診の必要性を早期に判断するため、各種の遠隔モニタリングツールが開発されている。
カナダ・アルバータ大学のニュースリリースでは、「ウェアラブルデバイスとAIで慢性呼吸器疾患の症状をモニタリングする」同大学の臨床試験を紹介している。研究では米Health Care Originals社が開発した「ADAMM-RSM」という小型デバイスが採用された。ADAMM-RSMは手のひらサイズ未満で、胸や背中に貼りつけることができる。ここから、呼吸数・心拍数・体温・咳・喘鳴・身体活動レベルについて1日8時間以上に渡るデータ収集を行い、慢性呼吸器疾患患者が救急外来に搬送されるような症状悪化に至る前に、異常を検出することを狙いの一つとする。
アルバータ大学のパイロットプロジェクトは当初40人の患者を対象とし、より多くの参加者での試験へと順次拡大していく。その先では、入院や救急搬送といった重大イベントを予測するAIアルゴリズムの構築にも取り組む予定という。同大学の位置するエドモントンには医療機器の研究開発に適した、臨床・技術・AIの専門家が集まっているとされ、活発な起業環境から革新が生まれることが期待されている。学術誌 JMIR mHealth and uHealthには、ADAMM-RSMを含む各種モニタリングツールを比較したレビューが発表されているので参照のこと。
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医療費未払いを防ぐAIアプリケーション
米医療サービス団体であるGeisingerはこのほど、フィンテックスタートアップであるPayZenと共同し、医療費未払いを防ぐためのAIアプリケーションの提供を開始した。JAMAに掲載された最新の報告では、米国における未払い医療費は2020年に1400億ドルにも達するなど、深刻な社会問題となっている。
Geisingerが明らかにしたところによると、このアプリは自己負担額が250ドルを超える患者が利用できる「支払いスケジューリングシステム」であるという。アプリ利用者は、自身の経済状況と診療内容に応じた支払いオプションを選択可能で、一括払いの他、月ごとの分割払いにも対応する。また、長期の支払いを選択しても、手数料や金利の上乗せは無い。現在、同団体では月数百人程度での新規登録が進み、月ごとの平均支払額は52ドルとなっている。
GeisingerのCRO(chief revenue officer)を務めるRobert Dewar氏は「医療費の支払いを容易とすることに加えて、親しみやすいカスタマイズ可能な無金利プランを提供している。経済状況は人それぞれだが、患者が経済的理由によって、必要な治療を避けたり先延ばししたりしないようにすることが我々の義務だ」と述べている。
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持続的呼吸機能モニタリングによる経済効果の検討
心電図モニタに匹敵する「非接触型新生児バイタルサイン検出システム」
心拍や呼吸数といったバイタルサインを「非接触で」測定する技術は、臨床現場での有用性が検討されてきた。皮膚が敏感で脆弱な乳幼児、特に新生児集中治療室(NICU)に収容されるような早産児にとって、皮膚接触のないセンサーで、不安定なバイタルサインを常時監視できることには価値がある。
南オーストラリア大学のニュースリリースでは、同大の研究者らによって開発された非接触型バイタルサインモニタリングシステムを紹介している。これは、コンピュータビジョン技術に基づき、デジタルカメラで新生児の顔を自動検出し、接触型の心電図計と同等の精度でバイタルサインを監視するもの。NICUに収容された新生児のビデオデータセットから構築された畳み込みニューラルネットワークは、心拍数と呼吸数について接触型の心電図モニター値と強い相関を示し、誤差が少ないことが示された。研究成果はJournal of Imaging誌に発表されている。
NICU内の新生児は、チューブ類など医療機器で顔や身体が見えにくく、新生児黄疸に対する光線治療のため明るい青色光の下にいるケースも多いなど、コンピュータが映像を認識しにくい環境にある。そういったなかでも、同システムは顔や肌を確実に検出することができた。同研究チームは昨年、COVID-19スクリーニングのため、成人バイタルサインの非接触測定システムを開発しており、米Draganfly社の製品に技術が採用されている。チームのひとりで新生児集中治療の専門家であるKim Gibson氏は「障害物が多く照度も変化するNICU環境下で、私たちのバイタルサイン検出モデルは期待以上の性能を発揮してくれた」と述べ、AIとコンピュータビジョンによる画期的な成果を強調した。
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胸部CTへのAI適用でサルコペニアを評価する時代が到来するか?
「サルコペニア(sarcopenia)」は筋肉量と筋力の著しい低下を示した状態で、健康寿命と密接に関わる。そのため近年、国際的にサルコペニア予防に向けた取り組みが注目されている。「CT検査にディープラーニングモデルを適用し、胸部CTの範囲内でもサルコペニアを有効に評価できる」とする研究成果が、米ウィスコンシン大学マディソン校の研究チームから公開された。
American Journal of Roentgenology誌に掲載された同研究では、大腸がん検診のためにCT検査を受けた無症状の成人9,000人以上を対象として、腰椎L1およびL3レベルの筋肉に対して、ディープラーニングモデルを学習させた。その結果、従来のサルコペニア評価でスタンダードとされてきたL3レベルと比較して、L1の高さであっても同等に評価できることが示された。
著者らは「L1椎体レベルでサルコペニア評価を代替できるようになれば、撮像機会の多い胸部CTでも潜在的なサルコペニアをスクリーニングできる」として、同研究の価値を強調する。現在では肺がん検診に低線量CTが有用であることが明らかにされており、国際的に胸部CTの撮像機会が増加している。これら検診で、サルコペニアに由来する将来的な大腿骨骨折や死亡リスクも併せて評価することが、本研究をきっかけとしてスタンダードとなっていくかもしれない。
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VUNO – 心停止予測AIで規制当局の承認を取得
VUNOは医用画像解析に高い技術力を持つAIスタートアップで、韓国における医薬品体系の規制当局であるMFDSが「医療AI領域では同国で初めて承認を与えたこと」でも知られている。このほど同社は、心停止予測のためのAI医療機器について、新たにMFDSの承認を取得したことを明らかにした。
VUNOが24日公表したところによると、「VUNO Med®-DeepCARS™」は4つの主要なバイタルサインから「心停止の潜在的リスク」を分析するAI駆動医療機器で、韓国・ソウルに所在するAsan Medical Centerにおける臨床試験を経たという。成果はResuscitation、Journal of the American Heart Association(JAHA)、Critical Care Medicine(CCM)といった救急医学関連のトップジャーナルに掲載がある。VUNO Med®-DeepCARS™は臨床現場において、患者EMRから自動収集したバイタルサインを用いて心停止を予測し、より迅速で効果的な院内心停止への対応が可能となる。
集中治療室に比べて一般病棟では、常時の患者モニタリングが困難なため、急速に悪化する患者への対応能力に限界があることが指摘されてきた。院内心停止は死亡率が75%と高く(参照論文)、米国だけでも毎年29万人以上の入院患者が死亡しているとの推計がある(参照論文)。VUNOの Lee Yeha会長は、「VUNO Med®-DeepCARS™の導入を促すことで、人命救助に貢献したい」と述べた上で、「本プロダクトの規制当局による承認により、有望なバイオシグナルベースのAI技術について幅広い応用が始まるだろう」としている。
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医療画像から人種を読み取るAI
エモリー大学やMIT、国立清華大学などの国際共同研究チームはこのほど、「単純レントゲンやCTを始めとする医療画像から患者の人種的アイデンティティを特定するのは容易」とする研究成果を公表した。AIの学習過程において、期せずして人種間バイアスを取り込んでしまう可能性を示唆するもので、AIの一般的利用に際する懸念を明示する。
arXivからプレプリント論文として公開された本研究によると、公開データおよび非公開データに基づき構築した「人種検出AI」は、複数モダリティにおいて高い性能で学習することができたという。仔細な分析により、この検出が「特定基礎疾患の分布など、人種を代理する共変量によるものではない」ことも明らかにしている。また、この検出性能はすべての解剖学的領域と画像の周波数スペクトルによって維持されており、現時点で緩和策の策定は困難で、さらなる研究が必要であることを強調する。
研究チームは「人種を予測するモデルの性能自体は重要な問題ではない。仮に、AIモデルが人種識別能を獲得し、黒人患者に対して特定の誤った分類を行った場合、臨床医がこれを見分けることは非常に困難だ」とする。研究において唯一人種識別能を低下させることができたのは、画質を極端に低下させた場合であったが、これはAIのタスクパフォーマンスも著しく低下させる可能性があるため現実的ではない。現時点では開発者・規制当局・ユーザーが、細心の注意を払ってAIモデルと向き合うしかないが、「AIモデルが意図せず内包し得る人種間バイアス」を検出する仕組みは、医療AI構築における重要な論点となっていくはずだ。
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睡眠時の歯ぎしりを解析するAI研究
睡眠時に歯をすり合わせたり噛みしめたりする無意識の運動は、ブラキシズム(Bruxism)と呼ばれる。いわゆる「歯ぎしり」として認識されることが多いが、睡眠時無呼吸や不眠症などの患者にも頻繁にみられる。睡眠中の下顎運動を連続的なデータとして収集し、AIで解析することで、睡眠時ブラキシズムを正確に特定して定量化する研究が行われている。
学術誌 Nature and Science of Sleepに発表された同研究は、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学の研究者らを中心に行われた。ここでは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が疑われる患者67名に対して、顎に貼り付ける小型のハードウェア(sunrise社製)による解析を行った。睡眠時ブラキシズム患者に特有となる下顎運動を同定し、リズミカルな咀嚼筋活動を自動識別するExtreme Gradient Boosting(XGB)マルチクラス分類器を学習させた。その結果、睡眠時ブラキシズムを筋電図から手作業でスコアリングする従来手法と比較して、デバイスを用いた下顎運動からの自動評価は良好な一致がみられていた。
非侵襲的なデバイスとAIによる技術革新によって、睡眠中における下顎運動の正確なデータ収集とその活用が可能となった。ブラキシズムをフォローアップすることで、睡眠時無呼吸や各種不眠症との関連をより正確に把握できるようになる可能性がある。睡眠時ブラキシズムを診断するユニークなAI手法によって疾患理解が深まり、治療最適化の進むことが期待される。
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露通信大手VEON – 医学的診断AIに進出
ロシア通信大手のVEONは、携帯電話事業の「Beeline」ブランドで知られるが、このほど新たに医学的診断AI領域に進出することを明らかにした。背景となるのはBeelineが培ってきた画像解析AI技術で、行方不明者をドローン画像から特定するための「Lisa Alert' project」に基づくもの。
VEONが23日明らかにしたところによると、医学的診断AIへの本格進出に先立ち、ロシアのモスクワ国立第一医科大学(セチェノフ医科大学)とのパートナーシップを締結したという。両者は今後、ニューラルネットワークのパターンマッチングアルゴリズムを用い、MRI画像分析と病理診断において、臨床的有効性の高いAIシステムの構築を目指す。具体的な対象疾患分野として股関節と腎などを挙げており、組織学的アプローチをコアとした「臨床医向け自動診断AI」の提供を計画する。
Beeline CEOであるAleksandr Torbakhov氏は「我々が携帯電話事業者として開発してきた技術は、今や接続性の議論を遥かに超え、個人がより長く、より健康的な生活を送るためのアプリケーションを包含している」と述べた上で、「BeelineのAI技術を医学的診断に活用することは、携帯電話事業者がこの重要な分野においても貢献できることを示すものであり、セチェノフ医科大学との取り組みに参加できることを誇りに思う」とする。
医療AIの萌芽とヘルスケア市場の巨大性を踏まえ、異業種事業者による領域参入も加速している。市民が技術の恩恵を享受する観点からは、新たなビジネス創出が進むことは好ましい。日本国内においても通信事業者や化粧品製造販売業者、旅行代理店業者などの参入が観察されており、今後の展開にも大きな期待を持って見守りたい。
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韓国Speclipse社 – レーザー分光とAIによる皮膚がん診断デバイス
疑わしい皮膚病変がみられた際、スコープによる観察を経て組織の生検が検討される。医師の主観に依存しやすい生検実施の判断を助けるため、韓国のSpeclipse社は、レーザー誘起プラズマ分光法(LIPS: Laser-Induced Plasma Spectroscopy)にAI解析を組み合わせた「皮膚がん診断のためのポータブルデバイス」を開発している。
19日付プレスリリースでは、Speclipse社が770万ドルの追加資金を調達し、累計の調達額が1300万ドルとなったことを発表している。同社の皮膚がん診断装置「Spectra-Scope」はレーザー分光技術からリアルタイムで非侵襲的ながん診断が可能で、感度95%・特異度87%を謳い、患者の利便性向上と不要な生検を減らすことに貢献する。
米国では皮膚生検だけでも「年間1兆円超規模の市場」との試算もある。Spectra-Scopeは2020年に欧州諸国、オーストラリア、ブラジルで海外医療機器認証を取得し、20カ国以上に販売網を構築してきた。Speclipseの解析技術は皮膚がんの他、血液バイオマーカーへとその対象領域を拡大し、リキッドバイオプシー分野のパラダイムを変革することも期待されている。
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「MRI乳がん検診の偽陽性」を減らす予測モデル
高濃度乳房(デンスブレスト)は乳腺組織の豊富な乳房を指すが、一般的な乳房に比べると乳がん発症率が高いことも知られている。一方、デンスブレストはマンモグラフィ写真において全域が白く写るため、病変の識別が容易でない。
デンスブレストにおけるマンモグラフィを代替し得るスクリーニングツールとして、MRIを用いた検診がある。現代の医療水準では、これが乳がん診断において最も感度の高い画像技術となるが、高感度故に「他のスクリーニング手法では見過ごされていた良性病変」が容易に検出され、追加の精密検査を要することとなる。結果的に患者予後の改善に寄与しない部分において、患者負担および医療費の増大を引き起こすという問題点があった。オランダ・ユトレヒト大学医療センターの研究チームは、MRI乳がん検診において「真陽性と偽陽性を区別するための新しい予測モデル」を構築した。
Radiologyからこのほど公開されたチームの研究論文によると、MRIで得られた画像所見と臨床所見から、多変量ロジスティック回帰でこの予測モデルを構築したという。454名のMRI陽性者に対して前向き試験を行ったところ、実際に乳がんであった真陽性は79名で、375名が偽陽性であった。この集団に予測モデルを適用したところ、実に偽陽性の45.5%、不要な生検の21.3%を回避できる推計となった。
著者らは「我々の予測モデルは、第1ラウンドのMRIスクリーニングの後に、かなりの数の偽陽性を特定する。がんを見逃すことなく、良性に対する生検を減らすことを実現できるかもしれない」と述べ、乳房MRIを現実的な乳がんスクリーニング手法とするための、有用なツールとなる可能性を指摘する。
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独ドレスデン工科大学 – 生体移植可能なAIシステム開発
AIの臨床応用が進む中で、システム自体を生体内へ埋め込むには技術的な課題が残されている。独ドレスデン工科大学の研究チームは、生体適合性のある埋め込み型AIプラットフォームの開発に成功している。
ドレスデン工科大学のニュースリリースでは、学術誌 Science Advancesに掲載された同研究の成果を紹介している。チームはポリマー繊維を用い、人間の脳神経系に似た構造のネットワークを構築することで「ニューロモルフィックAI」の原理を実現した。ネットワークはペースメーカよりも省エネルギーで、生体からのわずかな信号変化も増幅可能という。その試験では、健康な心拍と3種の不整脈を88%の精度で識別することができた。
これまで成功していた生体適合部品は、個々のシナプスやセンサーなど単純な部品に限られていた。同研究は「複雑な分類タスクをリアルタイムに生体内で行う可能性」を示している。埋め込み型AIシステムの潜在的な需要は多岐にわたり、当該研究にみられた不整脈のほか、手術後の合併症をモニターし、スマートフォンを通じて医師・患者の双方に報告することなどが想定されている。
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MayaMD – AIヘルスアシスタントが「臨床医を超える正確なトリアージ」
MayaMDはヘルスアシスタントとして機能するAIアプリケーションで、言語ベースの症例情報から、重症度判定と受診先選定などに強力なトリアージ性能を持つ。このほど米UCLAの研究チームが公開した研究論文では、このMayaMDによるトリアージが「一般的な臨床医と同等かそれ以上」の精度である可能性を示し、話題を呼んでいる。
The Cureus Journal of Medical Scienceから公開された研究論文によると、文章化された症例エピソード(例:25歳男性。数時間前から強い息切れを自覚している。症状は彼が運転していた車での事故後から継続。同時に胸の痛みも訴えている)から、その緊急度を4段階で判定する試験を行い、一般臨床医およびMayaMDで比較検証したという。専門医によるコンセンサスとして得た回答とどれだけ一致したかを調査したところ、一般臨床医らが80%であったのに対し、MayaMDは88%とより高い判定精度を示していた。
MayaMDはベイジアン統計とパターン認識に基づくコアアルゴリズムの上に、教師ありおよび教師なしの機械学習を重ねることで、各種データの「変化」に柔軟な対応をみせる。MayaMDのライブラリとコアアルゴリズムは、7,000以上の診断、8,500の臨床所見(症状・理学所見・検査結果)、40,000の推論、2,200の薬と相互作用、といった数多の臨床知識体系によって構築されている。著者らは「医療トリアージの適切性と安全性を向上させ得るAIベースアプリケーションを活用することで、患者転帰や医療の効率性を改善できるかもしれない」とし、患者・医療者・保険者が広範な恩恵を受ける可能性を指摘している。
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心臓画像評価を革新する「多視点三次元融合心エコーシステム」
心臓エコー検査の技術進歩により、近年では立体画像としての撮影・描写が可能となってきたが、長時間の息止めが必要など明確な弱点がある。カナダ・アルバータ大学のチームは、短時間の息止めを複数回行っている間に異なる角度から画像を撮影することで、独自アルゴリズムによる画像の位置合わせと融合を経て、正確な3D超音波画像を作成する研究を行っている。
アルバータ大学のニュースリリースでは、Ultrasound in Medicine & Biologyに発表された最新研究を紹介している。ペースメーカー装着済みの心不全患者を対象に検証された「多視点三次元融合心エコーシステム」では、息止めが困難な患者群でも適切に融合された3D画像を得た。これにより、心内膜の境界線を定義するプロセスが改善され、結果として造影剤を使用するコントラスト心エコーと比較しても同等以上の左室機能評価ができたという。
新システムの利点には、従来の心エコーと比べて1回の検査に要する時間が約30%短縮された点も挙げられている。研究グループのBecher教授は「私たちの目的は、患者の待ち時間を短縮し、正確で信頼性の高い画像検査へのアクセスを改善することにある。この技術は今後、心臓MRIや心臓CTの必要性を減らせると確信している」と語る。グループは5年以内に広く臨床利用されることを目標として、同システムの改良を進めている。
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Alphabet傘下Verily – 臨床試験管理システムのSignalPath社を買収
Alphabet傘下でGoogleの姉妹企業にあたるVerilyはこのほど、臨床試験管理システムを提供するSignalPath社を買収することを明らかにした。SignalPathは2014年に医師主導で設立されたスタートアップで、臨床試験管理が直面する多くの課題をデジタル化によって解決してきた実績を持つ。
17日、Verilyが公表したところによると、「臨床研究実施を容易にし、質・効率を向上させる臨床試験管理システム(CTMS)であるSignalPathプラットフォーム」を開発したSignalPath社の買収契約を締結したという。Verilyの既存臨床試験システム「Baseline」には、臨床研究への参加に関心のある50万人以上が登録しており、各人のプロフィールに適する研究機会をマッチングする。今回の買収により、Verilyの臨床試験システムおよびエビデンス生成プラットフォームの強化・拡大が期待されており、より迅速で優れた臨床試験の実施、データ集計・分析の改善、分散型試験やハイブリッド試験向けに設計された柔軟な試験オプション、新しいセンサーやバイオマーカーから生成されるリアルワールドデータを取り込む機能等、を実現する。
VerilyでClinical Studies Platforms Presidentを務めるAmy Abernethy医師は「患者・研究者・スポンサーのために、臨床試験の実施方法を近代化することが我々の目標だ。我々はSignalPathと共に、現在の臨床試験パラダイムにおける簡便性・迅速性・質・効率を向上させるデジタルソリューションを推進していく」と述べている。
VerilyのStudy Watch – 不整脈を検出する腕時計型ウェアラブルデバイス
Forbes AI 50 – 2021年注目すべきAI企業トップ50
ヘルスケアを革新する5つのヘルステックスタートアップ
2021年最新「世界の有望AIスタートアップ Top 100」