年間アーカイブ 2021

NLPとAI – 患者フィードバック解析についてのシステマティックレビュー

構造化されていないフリーテキストとして提出される患者フィードバックには、臨床的にも有用な情報が豊富に含まれている可能性がある。一方で、これを解析するには人的リソースが過分に必要となるため、自然言語処理(NLP)と機械学習による解析処理の自動化が模索されている。 英インペリアルカレッジロンドンの研究チームは、「フリーテキストの患者フィードバック解析にNLPを用いた先行研究群」をまとめたシステマティックレビューを明らかにしている。研究論文はBMJ Health & Care Informaticsから、このほど公開された。チームは、2000年から2019年までの20年間においてこの種の先行研究を調査したところ、論文の選択基準を満たしたのは19報で、その大部分(80%)がソーシャルメディアサイトからの患者フィードバック解析であったという。また、ソーシャルメディアから抽出されたコメントの解析には教師なしアプローチが用いられ、構造化調査におけるフリーテキストコメントについては教師ありアプローチが用いられていた。また、最もパフォーマンスの高い分類器としては、サポートベクターマシンとナイーブベイズが同定されている。 研究チームは「教師あり・教師なしのいずれものアプローチが、データソースに応じた役割を持つこと、NLPとAIの組み合わせは、非構造化テキストデータの効率的な解析を通して実臨床を支援し得る」ことに言及している。 関連記事: 健康の社会的決定要因を抽出する自然言語処理アルゴリズム 電子カルテの自然言語処理で患者の社会的孤立を検出する取り組み 交通外傷の「防ぎえた死亡」の分析を補助するAI – 米国外科医学会臨床会議 2020 校内暴力のリスクを検出するAI – 米シンシナティ小児病院

SNSが健康の信念に与える感染力はCOVID-19よりも強い?

新型コロナウイルスとの戦いがワクチン接種という次の段階を迎え、SNS上では反ワクチン運動への規制が強化されている。Twitter社が、非科学的な偽のワクチン情報tweetを繰り返すアカウントに対し、永久凍結する方針を表明したことも最近話題となった。不正確で有害な情報拡散の問題として「インフォデミック: infodemic(過去記事参照)」がある。その背景を解明するため、「SNS上でCOVID-19に関連する『健康への信念(health beliefs)』がどのような影響を受けているかAI/機械学習アプローチで解析を行った研究」が米ノースウェスタン大学のグループから学術誌 Journal of Medical Internet Researchに発表されている。 ノースウェスタン大のニュースリリースでは、同研究について紹介している。その方法として、Twitter上で約897万人のユーザーと約9269万件のtweetに対して、健康に関する信念を定量化する4つの指標からなるhealth belief model(HBM)に従って機械学習手法で解析した。その結果、health beliefsに関する投稿を行うユーザー数は基本再生産数R0が7.62と算出された。このR0は感染症疫学でなぞらえると激しい感染力をもっており、インフォデミックが激化する一因と考察される。また、学術発表のような科学的イベントと、政治的演説のような非科学的イベントとでは、SNS上でhealth beliefsの傾向に与える影響力が同等であることも観察された。 同研究は、SNSがCOVID-19そのものより「ある意味での感染力が強い」と主張したユニークな研究である。同論文の著者のひとりでノースウェスタン大の主任AI研究員であるYuan Luo氏は「科学者が科学について人々に伝えることに注力しなければ、無責任な発言をする人たちによって簡単に意見を相殺されてしまう。そして一般ユーザーはTwitterで自身が目にしたものが自分の態度を形成していることに無自覚で、情報の偏りを無視し、事実関係確認・ファクトチェックせずに拡散していることに気付く必要がある」と語っている。   関連記事:新型コロナウイルスの Infodemic: インフォデミックと戦うIT企業たち

Vuno – 韓国における医療AIトップリーダーの現在地点

韓国における医薬品体系の規制当局であるMFDSは、医療AI領域で初めてVunoに承認を与えて話題を呼んだ。韓国における医療AIマーケットは黎明期と言えるが、Vunoの国内トップリーダーとしての地位は揺るぎないものとなっている。 VunoはCTやMRIなどをはじめとする医用画像の解析AIに高い技術力を持ち、8つの医療AIソリューションについてMFDS承認を取得している。韓国電子カルテ市場における主要プレイヤーであるUBcareとパートナーシップを締結するなど、多くの製薬企業・医療機器メーカーとの協調を進めている。また、近年はグローバル展開を加速させており、台湾の大規模ヘルスケアプロバイダー・CHC Healthcare Groupとの提携によって、Vunoのソリューションは台湾の50を超える医療機関群への独占的供給が行われている(過去記事)。日本国内ではエムスリーとの提携でも衆目を集めた(過去記事)。 Vunoは先週、韓国市場において新規株式公開(IPO)を行った(過去記事)。医療AI特化企業がIPOに至るのは世界的にも稀有な例で、今後の動向にも大きな注目が集まっている。

犬の嗅覚を模倣した人工嗅覚システムで前立腺がん検出

訓練されたイヌの嗅覚が、がんを含む様々なヒトの病気を検出できることが研究で示されてきた。しかし、イヌを診断センサーとして十分な数に増員することは現実的ではない。「機械による嗅覚システムとイヌの嗅覚のもつ能力を統合して前立腺がんの検出を行う研究」がマサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究グループによって発表されている。 オープンアクセスの査読付き科学ジャーナル PLOS ONEに発表された同研究では、ガスクロマトグラフィー質量分析で揮発性有機化合物を分析する人工嗅覚システムによって、尿の匂いから前立腺がん患者を検出するシステムが構築された。前立腺がんの特徴を検出する人工ニューラルネットワークの訓練には、訓練を受けた2頭のイヌの嗅覚機能がデータとして用いられている。同研究で用いられた2頭のイヌはグリソンスコア9の前立腺がんを感度71%・特異度70-76%ほどの能力で検出できていた。それらの訓練データから構築されたシステムは結果として、グリソンスコア9の前立腺がんに対してAUC 0.935の識別能力を達成することができた。 MIT Newsでは、同論文の著者のひとりでMITの研究員Andreas Mershin氏のインタビューが掲載されている。同氏によると「小型化された人工嗅覚システムは実際にはイヌの200倍以上の感度をもっているが、その結果の解釈は『間抜け』です。今回の研究ではAI /機械学習によってイヌの嗅覚を模倣することでがんの検出能力をある程度再現できると証明しました」と語っている。 「AIで人間の嗅覚をモデル化」した研究に関しては過去記事を参照いただきたい。

Perimeter – 術中に病変微細構造を確認できるOCTシステムでFDA認証を取得

カナダ・トロントに本拠を置くPerimeter Medical Imaging AIは1日、同社の光干渉断層撮影(OCT)システムが米食品医薬品局(FDA)の510(k)認証をクリアしたことを明らかにした。FDA 510(k)は米国内で医療機器販売を行うために必要となる市販前認可で、同製品によって今後、外科医は術中の病変微細構造をリアルタイムに確認しながら手術プロセスを進められるようになる。 Perimeterが明らかにしたところによると、このOCTシステムは摘出された組織標本から微細構造を視覚化するとともに、AIによるレビューによって医師の臨床的意思決定を支援することができるという。悪性腫瘍は一定のマージンを取って摘出することが求められるが、外科医による目視での識別には限界がある一方、術中の迅速病理診断には多くのリソースを要する。OCTシステムによってマージン不足や遺残をリアルタイムで捉えることは、患者予後の改善とともに外科医療を巡る経済面の効率化への期待も大きい。 同社CEOのJeremy Sobotta氏は「臨床開発全体を通じて、我々はユーザーの声に耳を傾けてきた。今回の認可によって、現在の術中ワークフローへの合理化された統合が可能になる。我々の目標は医療システムのコストを削減しながら、患者一人一人の長期予後を向上させていくことだ」としている。

外科手術後の重篤な合併症を予測するウェブベースのAIツール

米ペンシルベニア州フィラデルフィアに本拠を置くトーマス・ジェファーソン大学の研究チームは、外科手術後の脳卒中や腎不全といった重篤な合併症の発現を予測するAIモデルを開発した。各リスク予測モデルは現在、ウェブベースのツールとして無償公開されている。 トーマス・ジェファーソン大学が先週明らかにしたところによると、研究を率いたSang Woo准教授らは、220万人を超える外科患者の臨床データベースを分析し、重篤な合併症に至るリスク因子を検討した。ここから導いた8つの予測因子を用い、140万人を超える患者データから機械学習モデルのトレーニングを行い、どの患者が腎不全を発症し得るかを正確に予測することに成功したという。また、同様にして術後患者の脳卒中や心血管疾患、死亡といった深刻なイベントのリスク予測モデルも構築しており、脳卒中でAUC 0.87、死亡で0.92という高い識別精度を示していた。 これらモデルはウェブベースのツールとして提供されており、医師らによる術前評価の一種としてベッドサイド利用の進むことが期待されている。Woo准教授は「今回の成果によって深刻な合併症の発症を客観的、かつ正確に評価するツールを開発することができた。次はこれらリスクを効果的に低減するための方法を調査していきたい」としている。

うつ病と双極性障害を鑑別する機械学習アルゴリズム

精神疾患である気分障害は、うつ病(大うつ病性障害)と双極性障害を2つの主要な類型としており、世界人口の約3.9%が影響を受けているとの推計がある。双極性障害は躁病とうつ病を繰り返すが、うつ病エピソードの間に医療の助けを求める可能性が高いため、躁病の状態が未診断となり、疾患の区別がつけられず診断の遅れと治療の方向性を誤り得ることが問題であった。 「問診と血液バイオマーカーから機械学習アルゴリズムによってうつ病と双極性障害の2つの疾患を鑑別する研究」がケンブリッジ神経精神医学研究センターで実施され、学術誌 Translational Psychiatryに発表されている。同研究にはうつ病と診断されたことがある双極性障害患者126名と、うつ病患者187名から、オンライン問診表(WHO WMH-CIDI または CIDI)と血中バイオマーカー(タンパク質120種からのペプチド203種)が解析された。それらのデータから機械学習手法のエクストリーム勾配ブースティング(XGBoost: Extreme Gradient Boosting)によって診断アルゴリズムが構築され、2つの疾患群を鑑別する精度はAUC 0.92となった。さらに気分障害と診断されたことのない被験者による追加検証では、うつ病と双極性障害の鑑別はAUC 0.89を達成した。 2つの疾患の鑑別に重要な役割を果たした予測因子の上位30項目には、26項目がオンライン問診表、4項目が血中バイオマーカーであった。問診による症状とバイオマーカーを組み合わせた診断アルゴリズムの実証として同研究は大変ユニークである。研究グループによると、この概念実証研究がより一般化され、双極性障害患者がうつ病と誤解されず迅速で正確な診断につながるよう、臨床現場での応用が進むことを期待している。

思春期早発症リスクを識別する機械学習アルゴリズム

通常よりも早期からみられる性的成熟を思春期早発症と呼ぶ。なかでも中枢性思春期早発症(CPP)は女児に高頻度にみられ、下垂体からのゴナドトロピン放出が早期に行われることで引き起こされる。CPPは一過性に身長の急激な伸びを認めるが、正常児に比べて最終的には低身長となりやすいことも知られている。下垂体や視床下部に発生する腫瘍を原因とすることもあり、早期の発見と適切な原因検索、治療が欠かせない。 中国・広州医科大学の研究チームは、CPPリスクの高い女児を識別するため、機械学習アプローチを用いた研究に取り組んでいる。JAMIA Openに掲載されたチームの研究論文によると、8歳より前に第二次性徴があり、GnRHテストを受けた女性患者の血液検査結果・画像データを含む臨床データからこのアルゴリズムを導いたという。機械学習モデルにはXGBoost分類器が用いられ、患者をCPPまたは非CPPと識別するできるようトレーニングを行った。マルチソースデータに基づくこのアルゴリズムはAUC 0.88を達成しており、GnRHテストを行う前に一般的な臨床データからCPPリスクを推定できる可能性を示唆していた。 当該アルゴリズムは児童を対象とした健康診断システム等に組み込むことにより、専門検査を行うことなく、効果的なCPPスクリーニングを実現する可能性がある。深刻なケースでは知的発達の遅れをきたすこともある本疾患への、有望な技術的アプローチとして期待が大きい。

機械学習で自閉スペクトラム症の血中バイオマーカーを特定

行動・興味関心・社会的コミュニケーションなどに障害をともなう「自閉スペクトラム症(ASD: Autism Spectrum Disorder)」の診断は、米国で少なくとも59人に1人の割合、診断時の平均年齢は4歳といわれる。ASDを抱える児童の早期診断のために、血液中のバイオマーカーを特定する研究が展開されており、テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター(UTSW)の研究者らは「機械学習アプローチでASD診断と強く相関する9種のタンパク質を特定した」ことを発表している。 オープンアクセスの査読付き科学ジャーナルであるPLOS Oneに発表された論文によると、154名の男児(ASD群76名・定型発達群78名)の血液から1,125種のタンパク質がバイオマーカーの候補として検証された。機械学習手法のランダムフォレストによって解析した結果、5種のコアとなるタンパク質(MAPK14・IgD・ DERM・ EPHB2・suPAR)と、それに追加することで予測精度をさらに向上させる4種のタンパク質(ROR1・GI24・elF-4H・ARSB)が特定された。また、それらタンパク質の発現レベルはASDの重症度とも相関していた。 同研究は男児のみの登録で性差の検証には至っていないという限界があり、特定されたバイオマーカーパネルの価値について大規模な検証研究が待たれる。UTSWのニュースリリースによると、同論文の著者のひとりで精神医学教授であるDwight German博士は「血中バイオマーカーを用いてASD児の発症リスクを早期に判定することができれば、子どもがコミュニケーションや学習を最適化するスキルを前もって身に付けられるよう、介入できるようになるでしょう」と語っている。以前紹介したAIによる自閉スペクトラム症のサブタイプ特定についても参照いただきたい(過去記事)。

AI支援が変形性膝関節症の治療意思決定をより良いものにする

変形性関節症(OA: Osteoarthritis)は高齢化と相まって有病率が増加し医療費の増加要因とされている。膝のOAに関しては、治療選択肢が手術療法の他に減量・理学療法・関節内注射など多岐にわたるため、医療者と患者がエビデンス知識を共有して治療方針を決定するSDM: shared decision-makingが重視される。膝OAで人工膝関節置換術(TKR)を受ける患者の意思決定に「AIデータ解析で支援を受けることの有用性」についての研究がJAMA Network Openに発表されている。 米テキサス大学オースティン校の研究者らは、膝の痛みを訴える129名の患者において無作為化比較試験を行った。ここでは、AIによる分析を統合して治療意思を決定した69名の介入群と、通常の患者教育資料を用いて治療意思を決定した60名の対照群に割り付けた上で、TKRの手術療法に進んでいる。意思決定の質を評価する指標としてKnee OA Decision Quality Instrument(K-DQI)が用いられ、介入群の方が平均で20%良好な結果であった。SDMのレベルや満足度についても介入群が有意に上回り、診察時間やTKR実施率に影響を与えることはなかった。 膝OAの患者ごとに「パーソナライズされたAIデータ解析を治療意思決定の支援に用いることの有用性」が同研究では示されている。患者特有の身体的・感情的・社会的な側面まで網羅した治療意思決定は今後ますます重要なものとされ、AIによる支援の場はさらに増えていくだろう。

COVID-19検査の偽陰性率を評価する分析モデル

ワクチンが十分な割合で国民に届くまでの間、世界各国では「あらゆる公共スペースにおける安全開放の是非はCOVID-19検査に依存する」と信じられている。ただし、例えば米国においては、昨年6月段階で85を超えるテストキットやアッセイに緊急使用承認を与えているものの、それぞれの臨床感度は曖昧なままとなっている。 米ベスイスラエル・ディーコネスメディカルセンターの研究チームは、各検査ごとの臨床感度をモデル化する分析ツールを開発し、Clinical Infectious Diseasesから論文を公表している。クラス最高のアッセイでは、「輸送媒体1mlあたり100コピー」というウイルスRNAの検出限界(LoD)を持つ。一方で、現在承認されている検査はそれぞれで、LoDが1万倍以上異なることがあり、LoDが高いアッセイでは感染した患者を容易に見逃してしまう事実がある。 研究チームは、このLoDをプロキシとして特定のアッセイの臨床感度を推定できることを明らかにした。仮に1mlあたり1,000コピーのものでは、COVID-19患者の75%しか検出されず、4人に1人が偽陰性となる。実際、緊急使用承認の得られている検査の1つにおいては、真の陽性症例の最大60%を見逃す可能性がある点にも言及する。チームは、市場に流通する検査キットの結果を鵜呑みにすることの危険性、および検査法間の相互比較を可能にするため、LoDを標準ベンチマークとして用いることの必要性を指摘している。

握力低下に苦しむ人々を手助けするAIグローブ

手の筋力低下に苦しむ患者は、加齢・多発性硬化症・脳卒中・関節リウマチ・手根管症候群など多岐にわたり、英国内では250万人程度との試算がある。それら握力低下を支援するため、AIベースのロボットグローブを開発するスコットランドのスタートアップ「BioLiberty」がある。現在BioLibertyはエジンバラにあるヘリオットワット大学を拠点とし、エジンバラビジネススクールのインキュベーター支援を受けて開発をすすめている。 ヘリオット大学のニュースリリースでは、BioLibertyのAIロボットグローブについて紹介している。その軽量グローブはユーザーの筋電図を測定し、握ろうとする意図を検出するアルゴリズムによって、ユーザーに必要な握力を与えることができる。瓶を開ける・運転する・お茶を注ぐといった日常の幅広い作業に対応しており、一部の特定動作の握力にのみ対応していた市場の従来製品と差別化されている。 BioLibertyの共同創業者であるRoss O’Hanlon氏は、自身のおばが多発性硬化症と診断されて動作困難となったことを会社立ち上げのきっかけとしており、「おばのような人々が自立性を維持するためにテクノロジーを用いた課題解決に取り組むことを決めました」と語る。同氏は「BioLbertyが支援を受けているようなインキュベータープログラムが、他の起業家にも次のステップを踏み出すきっかけとなることを願っている」とする。

グリオーマ患者へのAIベース言語マッピング

神経膠腫(グリオーマ)は神経膠細胞から発生する悪性脳腫瘍で、浸潤性発育を特徴とする。腫瘍細胞が浸み広がるこの浸潤性発育により、グリオーマはしばしば機能的再構成を誘発するが、言語影響の仔細には未知の部分が多かった。中国科学技術大学(USTC)などの研究チームは、病変トポグラフィーデータからの言語マッピングに取り組んでいる。 Brain Imaging and Behaviorから22日公開されたチームの研究論文によると、左脳言語ネットワーク領域のグリオーマ137症例(うち81例は低悪性度、56例は高悪性度)に対し、術前トポグラフィーから機械学習手法による病変言語マッピング分析を行ったという。背側と腹側、両方の言語経路に影響を与える左後部中側頭回に位置する腫瘍では、自発的発話と命名に欠損が確認された。また、低悪性度グリオーマでは有意な結果は認められていないという。 研究チームはこれらの発見について、グリオーマ患者における「脳と行動の関係を調節するマクロ構造の可塑性メカニズム」がグリオーマのグレードに依存することを示唆するとして、研究成果の重要性を強調している。

Google – ミネソタ州の新拠点でメイヨークリニックとの連携を強化

Googleはこのほど、ミネソタ州ロチェスターに新拠点をオープンし、メイヨークリニックとの連携を強化することを公表した。Googleとメイヨークリニックは2019年、10年に及ぶ長期戦略的パートナーシップを締結しており、両者はAI技術を軸とする「医療におけるデジタルトランスフォーメーションの推進」を目指す。 Googleによるニュースリリースでは、新しい拠点の稼働開始を明らかにしている。メイヨークリニックとのパートナーシップにおける最初の1年半では、同クリニックが保有する医療データをクラウド上に移行するのを支援した。また、医師による放射線治療計画の策定を効果的に支援するAIシステムなど、新規研究プロジェクト(過去記事)も立ち上げ、積極的なコラボレーションのあり方を示してきた。 メイヨークリニック本部は同じくロチェスターに所在しており、新しい拠点には同クリニックの医師・情報技術スタッフ・データサイエンティストらが出入りし、Googleのエンジニアとの協調によって物理的な連携の強化が見込まれている。また、ミネソタ州のTim Walz知事も本件に言及しており、新規拠点を通して「Googleが同州全体に与える経済的メリット」への期待も明らかにしている。

COVID-19迅速抗原検査をAIで識別 – Laipac Technology社「LooK SPOT」

アフターコロナの経済活動において、過去のインフルエンザと同様に迅速キットによる抗原検査は一定の地位を占めると予想される。迅速検査キットに付き物の手作業とヒューマンエラーを排除するため、人間の目に識別困難な色信号をAIが識別して低レベルの陽性結果でも拾い上げるシステム「LooK SPOT」 を提供しているのが、カナダ拠点のLaipac Technology社である。 同社が21日報じたところによると、Laipac Technologyはアラブ首長国連邦のYAS Pharmaceuticals社およびPure Health社との提携を発表し、AI迅速抗原検査システム「LooK SPOT」を国際的に展開していくという。同検査システムは2月21日〜25日にアブダビで開催の国防産業技術展「IDEX(International Defence Exhibition & Conference)2021」で展示発表されている。鼻腔内からスワブで採取されたSARS-CoV-2由来のタンパクを定性検出する検査キットは、AIによる陽性識別によって感度97.4%・特異度98.3%・5-8分以内の検査結果取得を謳っている。イギリスと南アフリカで確認された変異ウイルスも検出可能という。 LooK SPOTのシステムはApple・Googleストアからダウンロードするアプリ「LooK PASS」によってスマートフォンで検査結果を受け取ることができる。検査結果が陰性の場合、アプリ上にQRコードが生成され、施設・イベント・集会・交通機関などにおける入場パスとしての利用が想定されており、様々なアプリとのリアルタイムでの連携が可能となる。COVID-19 LooK SPOTの日本語解説動画はYouTube上の Laipac Technology公式チャンネル内で視聴可能である。

The AI Podcast – Qure.aiが描くヘルスケアの未来

NVIDIAはAIをテーマとした音声配信、「The AI Podcast」を2016年から展開している。関連領域で先端研究を行う研究者や業界をリードする経営者・起業家など、多様なバックグラウンドを持つゲストスピーカーの「声」には、The Medical AI Timesの読者も大きな刺激を受けられることと思う。ぜひお勧めしたい。 このThe AI Podcastに18日登場したゲストスピーカーが、2016年にインド・ムンバイを拠点として設立された医療AIスタートアップ・Qure.aiのPooja Rao氏だ。Rao氏は医師・データサイエンティスト・起業家として、Qure.aiの創設メンバーの1人にあたる。現在は同社の研究開発責任者を務め、医用画像解析AIの開発を率いている。 このエピソードでは、Qure.aiの画像解析AIがこのほどFDAの承認を取得したこと、またこの技術が「特に医療専門職が不足するエリアにおいて結核診断に資する技術」としてWHOから公式の認証を受けていること、限られたリソースからAIを構築するために「最高品質でない画像」からの学習システムを構築していること、グローバルツールとするために多集団データによるトレーニングを行っている点などに言及している。 本エピソードを通して、Qure.aiの思想と共に、彼らが描くヘルスケアの未来を感じ取ることができるだろう。

Caption Health – AIガイド超音波診断の「FDA承認エビデンス論文」をJAMA Cardiologyに発表

Caption Healthは、心臓超音波検査への習熟が無い者でも「診断利用可能な高水準のエコー検査結果」を得られるAIガイドシステムを提供しており、本メディアでも度々取り扱ってきた(過去記事2020/07/17)。特に2020年2月の米FDA承認は、同種のソフトウェアで初めての認可取得として業界をリードしている(過去記事2020/02/10)。 Caption Healthの18日付プレスリリースでは、その2020年2月におけるFDA承認の根拠となった研究成果が学術誌 JAMA Cardiologyに発表されたことを伝えている。研究では超音波検査の経験がない8名の看護師が、それぞれ30名の患者(総数240件)でAIガイド下の心エコー検査を行った。その結果、「左室容積と機能」「右室容積と機能」「心嚢液貯留の有無」において、それぞれ98.8%・92.5%・98.8%という割合で診断に値する質のエコー検査結果が得られた。また、経験豊富な心臓超音波の診断技師によるスキャン結果との比較では、92.5%以上の一致が確認された。 Caption Healthは「ヘルスケアと高品質な医療画像へのアクセスを民主化する」使命を掲げ、医療従事者へのトレーニングは最小限としながら、患者へのタイムリーな診断・治療機会の拡充を目指している。COVID-19によって検査機会による感染リスクが注目されており、同社システムのように「人と場所を選ばない検査手法」へのニーズはこれからも続くとみられている。

Truveta – 米国における巨大データプラットフォームを構築

米国における14の主要なヘルスケアプロバイダーが提携し、ビッグデータ分析を通したケアの強化を狙う新しい企業、Truvetaの設立を公表した。参加プロバイダー群は、40の州で数千の医療施設を運営し、数千万人にケアを提供している。同社が保有することとなる巨大匿名化データセットは、Truvetaの大きな価値を形作る主因となる。 今日の各医療機関には指数関数的に増加するデータセットが存在しているが、多くの組織において、この情報から臨床的に意味のある洞察を抽出するためのツール、および適切な人材が備わっていない。また、個別的に形成されるデータセットは研究目的に共有することさえも容易ではない。このほどTruvetaによって行われたニュースリリースによると、同社はプライバシーとセキュリティを保護しながら、同社の保有データの構造化・匿名化・分析を一貫して推進するデータプラットフォームの構築を目指すという。主要な分析アプローチに機械学習を採用し、組織間での共同学習によって安全かつ効率的な知見の創出を狙う。 参画するヘルスケアプロバイダーのひとつ、Trinity HealthでCEOを務めるMichael Slubowski氏は「ヘルスケアの歴史上で初めて、イノベーションを劇的に推進するだけのデータを持った」と述べており、倫理面への最大限の配慮を維持しながら、データ量としての強みを活かした研究開発を加速させることを強調する。 なお、14の参画ヘルスケアプロバイダーは下記の通り。 AdventHealth、Advocate Aurora Health、Baptist Health of Northeast Florida、Bon Secours Mercy Health、CommonSpirit Health、Hawaii Pacific Health、Henry Ford Health System、Memorial Hermann Health System、Northwell Health、Novant Health、Providence health...

豪PainChek – 表情分析AIアプリで認知症高齢者の痛みを代弁

WHOの推計では認知症の罹患者数は世界で約5,000万人とされ、老人ホームのような高齢者施設における入居者の80%が慢性的な疼痛を抱えているとの試算もある。しかし認知症患者には自分の痛みを正確に伝えられない傾向があり、痛みが見過ごされたり誤解されるといった問題がある。 オーストラリア拠点のスタートアップ「PainChek」は、介護が必要な高齢者向けに設計された「AIによる表情分析で痛みのレベルを評価しスコア化するアプリ」を開発してきた。CNNでは同社について紹介している。介助者は対象者の顔を短時間の動画に記録し、その行動や発話に関する質問に回答すると、アプリ上のAIが痛みに関連するとされる顔の筋肉の動きを認識し、介助者の観察結果と組み合わせ、総合的な痛みのスコアを算出する。同社によるとアプリでの痛みの検出精度は90%以上を謳う。同社が2012年の開発開始から重ねてきた臨床研究の成果については、論文の一覧が公開されている(PainChek社Clinical Studies)。 オーストラリア政府は、国内の高齢者ケアホームがPainChekを採用する試験のため、2019年から2年間で最大500万豪ドルの資金を配分してきた。英国など欧州各国にもアプリは進出し、6.6万人から18万件の痛みの評価を行ってきたという。痛みをうまく伝えられない人の声を代弁するため、PainChekは表情分析AIアプリを世界中に届けようとしている。

C-Score – 10年以内の死亡リスクを推定する新しい健康指標

英国インペリアルカレッジロンドンやエクセター大学、オックスフォード大学などの研究チームは、個人の行動やライフスタイル因子から特定時点での健康を定量化し、死亡リスクを推定するための新しい指標を開発した。 16日、JMIR mHealth and uHealthから公表されたチームの研究論文によると、C-Scoreと呼ばれるこの健康指標は、あらゆる原因による死亡リスクを捉える包括的な指標として機能することを目指してデザインされたという。多次元的な情報に基づきながら、広く容易な利用を可能とするため、スマートフォンベースのアプリとして用意されている。古典的な統計モデル、および機械学習モデルによって構築されたC-Scoreは、UKバイオバンクに登録された42万人を超える研究コホートでの検証研究が併せて行われた。ここでは、ある時点後10年以内での全死亡リスクを有意に予測しており、C-Scoreの10%減少に伴って、死亡リスクが相対的に31%増加することなどが確認されている。 研究チームは「スマートフォンで適宜C-Scoreを確認できることは、個別の健康リスク予測に資する可能性がある」ことを指摘する。今後、個人健康要因のうち「何が大きく包括的な健康度を押し下げる原因となっているか」「何をどの程度改善することが必要か」までをリアルタイムに明示することができるようになれば、日常的な健康管理の拠り所として活用されていく可能性も十分にあるだろう。

イタリア PatchAiとロシュ – がん患者健康管理AIプラットフォーム

イタリアの医学腫瘍学会(AIOM)によるとCOVID-19パンデミックの影響で、同国における診断目的の初診は30%減少し、定期診察を含む受診全体では36%減少したと報告されている。がん患者の健康管理をサポートするため、イタリア拠点のスタートアップであるPatchAi社はAIベースの健康管理プラットフォームを展開している。 MobiHealthNewsが16日付で報じたところによると、PatchAiは製薬大手のRoche Italiaと提携し、がん患者のためのバーチャルプラットフォームPatchAi for Smart Health Companion(SHC)を立ち上げている。SHCにはAI/機械学習を用いた患者に共感的な会話を行う仮想アシスタントが埋め込まれている。また、患者の日記の追跡と共有、服薬などのアドヒアランス管理、リアルタイムのビデオ相談といった各種機能を通じて、がん患者へのケアをサポートする。PatchAiによる予備研究では、同プラットフォームによって治療プロトコールの遵守率は95%に達しており、紙ベースの方法と比較して最大9倍の改善を示したという。 PatchAiは2021年初頭に170万ユーロの資金調達ラウンドを完了し、創業以来2年で256万ユーロを調達したこととなる(PatchAI社プレスリリース参照)。イタリアのヘルステックスタートアップのトップ5社では、他4社の調達金額の合計が520万ユーロであることを考慮すると、PatchAiに対する注目度の高さがうかがえる。PatchAiとロシュのパートナーシップが、イタリアにおける医療のDXを推進し「patient centricity(患者中心主義)」への道を拓いていくことが期待されている。

EU – 欧州最大の病理画像データベース構築へ

EU Innovative Medicines Initiative(IMI)の新しいコンソーシアムは、医療AI開発の加速を目的として、欧州最大の病理画像データベースを構築する。欧州の主要な研究拠点や医療機関、製薬企業群を数多く抱き込んだ巨大プロジェクトは、6年間で7000万ユーロが投資される予定で、まさに病理学の新時代を告げるものとして期待されている。 病理学は悪性腫瘍をはじめとして多くの疾患の診断・治療・予後評価に寄与するが、その作業の大部分が「専門医による顕微鏡下での組織サンプル検査」という定性解釈に依存している。近年ではデジタル化の波が病理分野にも及び、病理スライドの電子化が急速に進んだ。このことによってAIの適用可能性が格段に向上し、現在では病理診断の自動化・定量評価を目指したAIベースの研究開発が世界規模で多面的に進んでいる。 オランダ・アイントホーフェン工科大学が15日明らかにしたところによると、「BIGPICTURE」と呼ばれるこのプロジェクトでは、AI開発を目的とした大規模な病理画像リポジトリの構築を目指すという。関連するインフラの整備と、患者プライバシーを保護する法的・倫理的な環境の構築から始め、初期セットのデジタルスライドには人間と実験動物から300万枚を収集する予定とする。また、実臨床や研究、AI開発の支援を行う機能をシステムに実装するため、独自の研究も開始する。病理AIが高い精度を持ち、極めて一般的に活用される世界となるのはもう遠くはないはずだ。

小児脳腫瘍をMRIから分類するAI研究 – 英ウォーリック大学

小児がんで最大の死亡原因となるのが脳腫瘍である。小児の脳腫瘍は約半数が後頭蓋窩の領域に発生し、外科的切除が可能であってもその後の再発リスクも高い。必要な切除範囲など手術計画の助けとなる術前診断のため、MRIスキャンは標準的な画像検査であるが、小児脳腫瘍で主要な3つのタイプ(上衣腫・髄芽腫・毛様細胞性星細胞腫)は診断上の特徴が重複し識別が困難な面があった。 英ウォーリック大学の15日付プレスリリースによると、同大学を含む多施設共同研究から「小児脳腫瘍のMRI・拡散強調画像に機械学習を組み合わせることで腫瘍のタイプをより高精度に識別する」研究成果が学術誌 Scientific reportsに発表された。見かけ上の拡散係数(ADC: apparent diffusion coefficient)マップの解析から、単純ベイズ分類器で精度85%、ランダムフォレスト分類器で精度84%をもって、主要3タイプを含む腫瘍の種類をMRI画像から分類することができた。 同研究に対して英バーミンガム大学の臨床小児腫瘍学教授であるAndrew Peet氏は「脳腫瘍を患う小児とその家族にとって初期の画像検査は非常に困難な時間であり、できるだけ早い答えが求められます。AIを組み合わせた画像スキャンで高い診断精度を提供することにより、私たちは何らかの答えを与え始められるでしょう」と語る。脳腫瘍の画像診断で侵襲的な生検を回避しようとするAI研究は、日本では京大iCeMs(過去記事2020/06/10)、米テキサス大学(過去記事2020/04/23)などの事例を参照いただきたい。

Seed Health – 便を評価するAI企業「auggi」を買収

便の性状や硬さを7つのカテゴリに分類する「ブリストルスケール」は主観的であり、一貫性のある評価が難しい課題があった。画像認識AIの隆盛で、ブリストルスケールの自動識別機能を有するスマートトイレ構想がスタンフォード大を中心としたグループから発表され話題となった(過去記事2020/04/13)。 微生物学を専門とする米 Seed Health社からPR Newswireに掲載された8日付ニュースリリースによると、同社は便の画像をAIで解析する企業 auggi社の買収を発表した。auggiは世界最大級の便の画像バンクを有し、ブリストルスケールについてはディープニューラルネットワークで94.07%の識別精度を謳う(一般人の自己申告では75%の精度)。Seed Healthは主幹製品として、健康に好影響を与えるとされる微生物、いわゆるプロバイオティクス製剤の「DS-01」を展開している。そのDS-01が過敏性腸症候群(IBS)や便秘、あるいは抗菌薬使用後の腸内細菌叢に与える影響を評価する米国内第II相臨床試験でも、auggi社の便評価技術が導入されている。 Seed HealthのCEOであるAra Katz氏は「便は消化管の健康状態を示す最も貴重なバイオマーカーでありながら、汚名を着せられてきた」と語る。Seed Healthは今回の買収によってauggiのビジョンと技術資産を取り込み、2021年中にはAIと便データベースを活用した一般消費者向けデジタル製品を発売する予定とのことである。

機械学習モデルが示すCOVID-19症例数と陽性報告数の乖離

COVID-19のパンデミック以降、研究者たちは実験室的に確認されるPCR陽性者数(報告数)と、実感染者数の差に注目してきた。米テキサス大学などの研究チームは、機械学習アルゴリズムによってこの実感染者数を推定することにより、報告数は実態に比して著しく過小である点を指摘している。 オープンアクセスの査読付き科学ジャーナルであるPLOS ONEから公表されたチームの研究論文によると、パンデミック以降、米国での実累積感染者数は報告数の3倍程度と推定されるという。チームのモデルでは今月4日の時点で米国では7100万人が感染したとしており、これは陽性報告数の2670万件を大幅に上回る。推定された7100万人のうち、現在罹患中の者は700万人と推定される。また、特に被害が大きかった米国以外の25カ国における実際の累積症例数は、報告数の5-20倍にもなるとしている。 チームの機械学習モデルは公開済みの疫学的パラメータと症例報告数から日々最適化を続けている。著者らは「報告数のみに依存することなく、実症例数を正確に推定することが有効な公衆衛生政策の策定に欠かせない」とし、同フレームワークの強化と拡張を目指している。

電子カルテとAI – 新型コロナウイルス感染後の死亡リスクを高める46の危険因子を特定

米マサチューセッツ総合病院(MGH)などの研究チームは、COVID-19患者の電子カルテ情報から、感染後の死亡リスクを高める46の臨床的危険因子を特定した。研究成果は、英Natureの関連誌であるnpj Digital Medicineからこのほど公開されている。 チームの研究論文によると、1.6万人を超えるCOVID-19患者の縦断的医療記録を活用し、AIアプローチによって様々な年齢層における死亡への危険因子の探索、および死亡予測モデルの構築を行ったという。研究成果から、COVID-19患者の死亡予測を行う上で最も説明力を持つ因子は「年齢」であることを示し、また同時に「肺炎の既往」があることも大きな影響を持つことを明らかにした。45歳から65歳までの年齢層では、「合併症を伴う糖尿病」や「悪性腫瘍」、特に乳がん・前立腺がんがリスクとなるとしている。さらに65歳から85歳までの年齢層では、間質性肺炎、COPD、肺がん、喫煙歴など、「呼吸器系への多大な影響を及ぼすもの」が転帰不良の強力な予測因子となっていた。 研究チームは「電子カルテ記録のみに基づいて正確な個人リスクスコアを算出できることは、医療リソースの効率的な割り当てに資する」としており、急増する医療需要に伴う医療崩壊の回避に向けた、現実的な施策立案に活用できることを強調している。

慢性腎臓病(CKD)のスクリーニングは自宅のスマホで – 英NHSX

慢性腎臓病(CKD: chronic kidney disease)は、腎機能の低下や異常が持続する状態を示す疾患群である。腎機能は加齢で低下して、高血圧や糖尿病の影響と相まって異常を示す。CKDは脳や心血管疾患のリスクとしても知られ、英国では国民の10人に1人がCKDの影響を受けていると試算されている。英国国民保健サービス(NHS)のテクノロジー部門を担うNHSXは、今後3年間で50万人へAIベースの在宅検査キットを提供してCKD初期患者のスクリーニングを支援する。 Med-Tech Innovation Newsの報道では、NHSXが在宅患者へ提供する検査キットはイスラエル拠点のHealthy.io社のものであり、すでに3,500人以上の患者が検査キットを受け取っているという。検査キットには尿に浸す検査スティックおよびHealthy.ioが特許取得済みのカラーボードが含まれ、ボード上に置いた検査スティックをスマートフォンのカメラでスキャンしてユーザーを検査へと導く。色調解析にAIを組み合わせることで検査ラボと同等の結果を得て、家庭医(GP)と結果が共有されることで異常な検査結果はフォローアップされる。 CKDが社会に与える影響に比し、その危険性を認識できている国民は少ないとされ、世界各国では疾患の啓蒙と早期発見への取り組みが続く。試算によると、Healthy.ioの技術を英国内に展開することで今後5年間で1.1万人の生命を救い、NHSにとって6.6億ポンド以上の予算削減に寄与する可能性があるという。特にCKDの進行で至る透析治療を回避することは大きなコスト削減効果が期待される。Healthy.ioは、2020年に米CB Insightsが選んだ世界の有望AIスタートアップ100としても注目が続いている(過去記事2020/03/06)。

心エコー解析AIがその後1年間の死亡率を予測

Geisingerは米ペンシルベニア州およびニュージャージー州において多数の医療機関を提供する、一大ヘルスケアプロバイダーだ。同団体の研究チームはこのほど、心エコービデオのピクセルデータでトレーニングされた深層学習アルゴリズムが、1年間の全死因での死亡率を有意に予測するとの研究成果を公表した。なお、本研究成果は2019年の米国心臓協会(AHA)年次会議で学会公表されたものを発展させ、論文として取りまとめたもの(過去記事)。 8日、Nature Biomedical Engineeringから公表された研究論文によると、チームは34,362名から80万を超える心エコービデオを取得し、畳み込みニューラルネットワークのトレーニングを行ったという。得られたモデルによる死亡予測は、既存の評価指標のほか、心エコー図の特性58項目と100を超える臨床変数から構築された機械学習モデルによる精度も大きく上回っていた。 また、AIモデルの支援を受けたを心臓専門医は、予測の特異性を維持しながら、予測感度を13%と大幅に改善していることも明らかになっている。研究チームは「深層学習によって種々の臨床予測モデルを質的に改善できる可能性」を指摘しており、さらなる研究計画の推進を予定している。 Geisingerの関連記事: Siemens – 米大規模ヘルスケアプロバイダーと10年間に渡るパートナーシップを締結  

米Nuanceが医療用文書作成自動化AIのSaykaraを買収

医療用文書を書き起こすAI技術の開発競争が進む中、展開を加速し存在感をみせる企業が米Nuance Communicationsである(過去記事)。Nuanceは志を同じくする新興企業Saykaraの買収を発表し、AI技術と才能あるエンジニアチームを補完する動きをみせた。 Nuanceの8日付ニュースリリースによると、買収したSaykaraもNuanceと同様、臨床文書の作成自動化のためのモバイルAIアシスタントを開発しており、Saykaraの技術と開発チームを迎え入れることでNuanceの技術ポートフォリオと成長戦略の強化を図る。Saykaraの基幹技術はKaraと名付けられたAIアシスタントであり、医師と患者の会話からコンテンツの必要性と重要性を解釈して変換し、構造化データと非構造化データの両方を電子カルテへの記載・オーダー・紹介状への自動入力までを実現する。Saykaraによると、文書作成時間が平均70%短縮し、勤務時間外(パジャマタイム)の文書作成が完全に排除され、記載の品質と完全性は25%向上することを謳っている。 買収の背景には、Saykaraを2015年に設立したHarjinder Sandhu博士が、設立前にNuanceのR&D部門で幹部を務めていた経緯がある。Sandhu氏と彼が率いる開発チームが、今回の買収で再びNuanceに加わることとなる。NuanceのCTOであるJoe Petro氏は「今回の買収によって、最も優秀な人材で構成された研究チームに、身近で尊敬されるテクノロジーリーダーを迎え入れることになります。共通のビジョンを持ってイノベーションと成長に積極的に取り組み、臨床医が日々直面している切実な問題を解決していきます」と語った。

臨床ルーチンデータからPTSD発症リスクを推定する機械学習モデル

心的外傷後ストレス障害(PTSD)を予防するためには、誘引となるイベント後の「初期フェーズ」で早期介入を行うことが重要となる。米コロンビア大学やニューヨーク大学などの共同研究チームは、外傷後48時間以内の臨床データからPTSD発症リスクを推定する機械学習モデルを構築した。 Neurobiology of Stressに収載されたチームの研究論文によると、2所の大学病院レベル外傷センターで治療を受けた417名の患者データから、この予測モデルを導いたという。外傷後48時間以内のバイタルサインや薬物治療状況、患者属性、外傷の程度などから、その後12ヶ月でのPTSD発症を予測するため、アンサンブル学習のひとつであるXGBoostを用いたモデル構築を行った。最良のモデルはAUC 0.89でPTSD発症を識別しており、長期のPTSDリスクが外傷後48時間以内の臨床ルーチンデータから高精度に予測できることが示唆された。 研究チームは、この研究成果がPTSD発症予防に向けたターゲット因子の明確化につながること、およびPTSDの複雑な病因解明への洞察を提供する点を強調している。精神科疾患領域へのAI活用は、データアプローチによるメンタルの定量評価を実現する可能性があり、近年大きな注目を集めている。

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