年間アーカイブ 2021

韓国Vuno – 2月26日のIPOへ

韓国を代表する医療AIスタートアップであるVunoは、今月26日に新規株式公開(IPO)を行うことを8日、同社による記者会見の中で明らかにした。Vunoは上場に伴って180万の新株発行を予定しており、これによって351億ウォン(約33億円)の調達を見込んでいる。 The Korea Heraldが8日報じたところによると、新株発行による追加の資金調達は、同社が2020年第3四半期までに積み上げた営業赤字を十分に補填するものになるという。同社CEOのKim Hyun-joon氏は、世界におけるデジタルヘルスケア市場は2024年までに約12兆ウォンになることに言及するとともに、Vunoは2023年までに年間収益370億ウォンを見込むとする。新株発行は総株式の14.3%を占めるが、共同創業者3名の保有株式は計35.2%を維持する。 Vunoは、韓国における200を超える医療機関に8つのAIソフトウェアを展開している。急速な高齢化の進む韓国では医療需要の急増が懸念されており、AIが医療スタッフの作業負荷軽減に資することが強く期待されている。 Vuno関連記事: Vuno – 4つのAIソリューションを台湾に展開 韓国Vuno – 5つの医療AIソフトウェアでCEマーク認証を取得 韓国Vunoとエムスリー – 日本国内での胸部CT診断支援AIの販売へ

自傷・精神病型イベント・依存症の発症を予測するAIモデル

「behavioral health」という概念は、精神症状・自傷行為・依存症など精神科および心理学の健康管理を幅広く含むもので、米国を中心に近年提唱されるようになってきた。一部の問題行動を予測することは困難とされてきたが、AIモデルによって予測精度を高める機運がある。 米サウスダコタ州拠点の医療グループ Sanford Healthの8日付ニュースリリースによると、同グループで開発されたAIモデルは3つのbehavioral health領域における問題行動、すなわち「自傷行為・精神病型イベント・化学物質依存症」の発症を予測するものである。そのモデルは「Predicting Health Outcome in a Behavioral Health Outpatient Setting(PHOBOS)」と呼称されている。PHOBOSは医療記録にもとづき、3つの健康問題について患者が今後1年以内に1つ以上の状態に陥る可能性をパーセント表示し、医療者に通知できる。 開発者らはPHOBOSのようなAIツールがもたらす以下の利点を提唱している。①behavioral healthの専門医療サービスへ患者のアクセスを優先させる、②プライマリケア医への通知でメンタルヘルスに焦点を当てさせる、③ケアによる状態改善がスコア改善として反映される可能性、の3つだ。また、開発者らはCOVID-19が精神衛生上に与えた影響によって、2020年のデータがこのモデルに反映されたときどのようなものになるか興味深いとして、今後の開発について検討している。

がん免疫療法の弊害を受ける患者をAIで予見できるか?

免疫チェックポイント阻害薬はがんに対する薬物治療選択肢として普及が進む。その治療は従来の化学療法では治療が困難であった患者らに恩恵を与えている。しかし一方で、免疫療法の効果が乏しい人、さらには第3のカテゴリとして免疫療法によって病勢増悪や余命短縮などの弊害を受ける可能性のある「ハイパープログレッサー(hyper-progressors)」と呼ばれる患者群が注目されている。 ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームは以前から、非小細胞肺がん(NSCLC: non-small cell lung cancer)において、免疫チェックポイント阻害薬で「恩恵を受ける患者群」をAIによるCT画像解析から予測する研究を行っていた(過去記事2019/11/28)。同大学の4日付ニュースリリースによると、その研究グループから「免疫療法で病勢が過剰進行する患者群を予測するAI研究」が学術誌 Journal for ImmunoTherapy of Cancerに発表されている。同研究ではNSCLC患者109名のCT画像にもとづく機械学習アルゴリズムによって、治療の恩恵を受けられず病勢増悪してしまうハイパープログレッサーの患者群をAUC 0.96の精度で識別することができた。全生存期間についても、同手法で識別されたハイパープログレッサー群の患者はそれ以外の群よりも有意に短い生存期間を示した。 がん免疫療法による弊害が危惧される一部の患者を識別するバイオマーカーが確立されていない現状の課題に対して、同研究のような画像解析からの非侵襲的なAI手法によって「免疫療法を回避すべき潜在的な患者を把握できる可能性がある」と筆頭著者のPranjal Vaidya氏は述べている。同研究が前向き研究へ発展し、免疫チェックポイント阻害薬のより良い適応患者の解明が進み、治療による弊害を積極的に避けられるようになるかもしれない。

画像のみから脳出血の転帰を予測する機械学習アルゴリズム

ドイツ・ハンブルク大学の教育病院であるハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターの研究チームは、「画像のみから脳出血の転帰を予測可能である」との研究仮説に基づき、頭部単純CT画像から転帰予測を行う機械学習アルゴリズムを構築した。研究成果はTranslational Stroke Researchから6日、査読つき論文として公表された。 チームの研究論文によると、多施設後向きコホート研究としてデザインされた本研究では、520に及ぶ単純CT画像と脳出血患者の臨床データからこのアルゴリズムを導いたという。退院時の臨床転帰はmodified Rankin Scale(mRS)を用い、良好・不良の2水準に分けた。画像単独でもAUC 0.8前後、最良のモデルに既存のスコアを統合したモデルにおいてはAUC 0.84とさらに高い識別精度を示しており、頭部初期評価としての単純CT画像から脳出血患者の転帰を予測できる可能性を強く示唆していた。 著者らは「画像単独による機械学習ベースの評価手法は、多次元臨床スコアリングシステムと同等の予測力を提供する」とし、AIアプローチの有効性を指摘するとともに、さらなる研究の拡大を見据えている。「初期診断画像から予後を評価するAIモデル」は各領域で比較的容易な実現可能性の検証ができ、今後も類似研究の加速することが見込まれる。

COVID-19患者の重症化を予測するマルチモーダルアプローチ

仏パリサクレー大学などの研究チームは、胸部CT画像と5つの臨床情報のみから、COVID-19患者の重症化を高精度に予測するAIツールを開発した。ツールは重症化リスクを5段階で評価することができ、スコアの算出には2-3分しか要さない。現在はCTのスキャンレポートと同時に医師に結果を返すシステムが構築されている。 Nature Communicationsから公開されたチームの研究論文によると、フランス国内の2つの病院において1,000名を超えるCOVID-19患者データからこのツールを開発したという。胸部CT画像のほか、年齢や性別、酸素化状況、血小板数、尿素窒素など5つの臨床情報を抱き合わせたマルチモーダルアプローチによって、患者の重症化を予測する高精度なAIアルゴリズムを導いた。 同ツールは、フランス国内のがん治療専門病院であるグスタフ・ルッシーがん研究所で臨床実装されており、実際の臨床ワークフローに取り込まれた運用が既に始まっている。研究チームは、このツールによって「初期の診断時点で重篤化リスクを把握し、ICUや呼吸器管理の必要性を予測することができる」として、その臨床的有用性に自信を示している。

プロアスリート仕様の医療グレード小型ウェアラブル心拍センサー – Sports Data Labs社

プロアスリートの競技パフォーマンスと密接に結びつく、心拍数などの生体情報を取得するウェアラブルセンサーは各所で実用化されている。しかしセンサーの質はプロユースに値する学術的な担保があるとは限らない。Sports Data Labs社から「実戦でのエリートアスリートからリアルタイムデジタルバイオマーカーを収集可能な医療グレードのセンサー」について学術誌 Digital Biomarkersに査読付き論文として発表されている。 Business Wireに掲載された4日付プレスリリースによると、プロスカッシュ協会の協力のもと、2019-2020年の実際の試合で14名のプロスカッシュ選手が研究参加し、Sports Data Labs社のウェアラブルセンサー「BioStamp」と独自解析システムの能力が検証された。BioStampは胸部に貼り付ける小型のセンサーであり(論文内Fig.1参照)、既に臨床的な精度が検証済みの胸部に巻くストラップ型心拍計(Polar社)と比較検証され、強い相関(スピアマンの順位相関係数 rs=0.986)が示された。 同研究は、極端な運動性能や骨格特性を示すプロアスリートの実戦という厳しい環境下での検証結果である。「Sports Data Labsの独自技術によって、医療用ウェアラブル機器における普及の壁を打ち破る可能性がある」と同社のチーフメディカルオフィサー(CMO)であるGiulio Bognolo医師は述べている。アスリートにまつわる研究として先日紹介した「マイクロ波ドップラーでアスリートの動きを評価するAI」も併せて参照いただきたい(過去記事2021/02/03)。

MIT「Mirai」 – 多様な人種背景で同等に機能する乳がん発症予測AI

乳がんへの早期介入は患者予後の改善のために欠かせない。早期診断や発症リスク予測に向けたAIツールが種々提唱されているが、多くは対象集団の拡張に伴ってそのパフォーマンスを低下させてきた。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは「人種的マイノリティへの怠慢」を是正し、多様な人種背景で同等に機能する乳がん発症予測AIを構築している。 このほどMITが明らかにしたところによると、「Mirai」と名付けられたこのAIアルゴリズムは、マサチューセッツ総合病院(MGH)における20万を超えるマンモグラフィデータからのトレーニングを行った上で、MGHの他、スウェーデンのカロリンスカ研究所や台湾のチャンガン記念病院でも検証試験を実施したという。Miraiは3つのデータセット全てで適切に乳がん発症リスクを予測しており、人種的サブグループにおける検証でも性能の低下を認めなかった。また、従前のリスク予測指標であるTyrer-Cuzickモデルと比較して、約2倍のパフォーマンスを示すとしている。 Miraiは単にマンモグラフィ画像からのリスク評価を行うだけでなく、年齢や家族歴といった臨床的リスク因子が入力情報として利用可能な場合は、これらを考慮することでより高い予測精度を導くことができる。また、マンモグラフィ装置の差異など、臨床環境における現実的な変動によって影響されないアルゴリズム設計を特徴としており、世界標準的な乳がん予測ツールの実現に向けた歩みを着々と進めている。

ICU患者の循環動態不安定予測AIにFDA承認 – CLEW Medical社「CLEWICU」

集中治療室(ICU)での患者の重篤化を予測するAIシステムは、COVID-19重症患者管理への需要で開発がさらに加速された側面がある。イスラエル拠点のCLEW Medical社のAIモデル「CLEWICU」の呼吸状態悪化予測に対し、2020年6月にFDAから緊急使用許可(EUA: Emergency Use Authorization)が与えられたことは以前に紹介した(過去記事2020/05/29)。 CLEW Medicalの3日付プレスリリースによると、前年のEUAに引き続き、CLEWICUの「成人患者における循環動態不安定を予測する機能」に対してFDA 510(k)クリアランスが与えられたことを発表している。システムは臨床症状の悪化を8時間前までに通知し、ICUの患者管理を最適化する。 同システムは、ICU患者への早期介入は当然のこと、これまで臨床現場の課題と繰り返し伝えられてきたアラーム疲労(過去記事2019/08/16)(過去記事2020/02/14)に対する軽減効果も期待されている。

マイクロ波ドップラーでNCAAアスリートの動きを評価するAIアルゴリズム

筋骨格損傷のリスクを客観的かつ高精度に予測する費用対効果の高い技術は、アスリートにおける慢性疼痛および傷害予防の観点から長く求められてきた。米ペンシルベニア大学の研究チームは、マクロ波ドップラーレーダーを利用し、「人間の眼では識別不可能なより微細な運動パターン」を検出できるAIアルゴリズムの開発に取り組んでいる。 Gait & Posture誌からオンライン公開されたチームの研究論文によると、全米大学体育協会(NCAA)の協力のもとにこの研究は行われたという。アスリートに裸足でのジャンプ、靴を履いてのジャンプ、およびヒールリフト付きの靴でのジャンプを行ってもらい、マイクロ波ドップラーレーダーによって捉えた信号パターンから、それぞれを識別するAIアルゴリズムを導くというもの。結果、測定条件に関わらず80-100%の高精度な識別精度を示し、マイクロ波ドップラーレーダーとAIの組み合わせによって、微細な運動変化を捕捉できる可能性が示唆された。 研究チームは、傷害予防を前提とした運動パターンの特定に至るためにはさらなる研究が必要としながらも、マイクロ波ドップラーの利用が従来のモーシャンキャプチャでは容易に測定できない差を捉えられる点を強調している。

AliveCor社「KardiaMobile」- AI利用スマホ対応モバイル心電図が異常検出の適応拡大

スマートフォンに対応するAI利用のモバイル心電図は、Apple Watchの台頭によって身近なものになった。特に不整脈の一種である心房細動の検出は技術的に十分確立されてきたと言え、その他にも多彩な心疾患をモバイル心電図で検出しようとして各所で適応拡大に向けた開発がすすむ。 個人用モバイル心電図をリードする企業 AliveCorは1日付のプレスリリースで、同社のデバイスKardiaMobileシリーズが心電図判定機能を拡張したことを発表している。2020年11月の段階でFDA承認をクリアしていたそれら拡張機能は、SVEおよびPVCといった期外収縮、そしてQRS間隔の拡大を検知する。KardiaMobileはもともと心房細動・徐脈・頻脈の検出機能で承認を得て製品を展開していた。また学術誌 CirculationにはKardiaMobile 6Lを用いたメイヨークリニック主導の研究が併せて発表されており、そこでは同デバイスがQT延長の検出において従来の12誘導心電図と比較しても十分な能力を示した結果が示されている。臨床的にひとつの指標とされる500ms以上のQT延長の検出では、AUC 0.97・感度 80.0%・特異度 94.4%であった。 QT延長は、遺伝的・先天的なもの、FDA承認の薬剤100種以上で起きる可能性のある薬剤性のもの、COVID-19も含む多くの全身性疾患によるもの、などで検出される比較的身近な心電図異常である。AliveCorではモバイルデバイスの購入に加え、サブスクリプションのメンバーシップ制度を用意している。90日ごとの循環器専門医による心電図評価、介護者との心電図自動共有、30日間のデータをまとめたレポート、リマインダーやタスクリストといった専用機能を提供し、自宅でのリモートケアへの移行が進む時流をとらえようとしている。

ウシの結核を生乳サンプルからAIで識別

結核がヒトに蔓延したのは、太古の歴史上でウシを家畜化し、ウシの結核(bovine tuberculosis)から人獣共通感染を起こしたものがヒトの結核菌に変化したと推定されている。現在のウシ型結核菌は、感染したウシの低温殺菌されていない牛乳あるいはチーズなど加工食品からヒトに感染することもあるが、衛生技術の進歩した国では極めてまれである。 ウシの結核はウシ同士での感染力は高く、病期が後期に進行するまで感染兆候は発見しにくく、現在標準の定期的なウシ用のツベルクリン検査は手間のわりに50-80%程度の識別率で、ウシの結核に対する畜産業界での管理コストは課題とされてきた。 Open Access Governmentが報じたところによると、エジンバラ拠点のスコットランドルーラルカレッジ(SRUC)ではNVIDIAのGPUを用いて、定期的な生乳サンプルの画像データから畳み込みニューラルネットワークで感染牛を識別するモデルを開発した。画像データ収集には中間赤外線分析(MIR:Mid-infrared spectroscopy) という手法が用いられている。同モデルはツベルクリン検査で不合格となるウシを精度95%・感度96%・特異度94%で識別できた。 日常的に採取した生乳サンプルからの結核感染牛の特定は、モニタリング方法として時間とコストの大幅な削減を可能とし、さらには非侵襲的でもある。このようなAIツールによって、英国および諸外国におけるウシの結核の根絶に貢献する可能性が期待されている。

USCとAmazon – プライバシー保護を念頭に置いた新しいAIセンターを設立

米南カリフォルニア大学(USC)とAmazonは、プライバシーとセキュリティに焦点を当てた新しい共同研究センターの設立を公表した。南カリフォルニア大学内に設置される「The Center for Secure and Trusted Machine Learning」では、プライバシー保護を担保した機械学習ソリューションとそのアプローチ開発に関して、USCとAmazonの研究者たちを強力にサポートする。 このほどUSCが明らかにしたところによると、同センターでは機械学習領域におけるプライバシーとセキュリティに関する種々の基礎研究が進められるという。また、当該領域で研究する博士課程学生向けにフェローシップを提供するが、これは単に経済的なメリットがあるだけでなく、「Amazon ML Fellows」を名乗ることで学生は「業界とソリューション主導型研究についての多大な理解」を外的にも示すことができるようになる。 AmazonのPrem Natarajan氏は「Amazonでの私たちの使命は、地球上で最もお客様を大事にする企業となることだ。そんな我々にとって、顧客の信頼は欠かせない。AmazonとUSCの優秀な人材が共同し、プライバシーとセキュリティを保護する機械学習の画期的な進歩を推進することを嬉しく思う」と話す。

COVID-19を巡る臨床的意思決定を支援するAI

SARS-CoV-2ウイルスへの感染によって引き起こされるCOVID-19は現在、世界各国で猛威を振るい続けている。米カリフォルニア州立大学(CSU)ロサンゼルス校の研究チームは、大規模な患者データセットを利用し、COVID-19による死亡を予測する機械学習モデルを開発した。 Smart Healthから電子版が公開されたチームの研究論文によると、146カ国、260万を超える患者データセットからこの予測モデルを導いたという。用いた機械学習モデルはサポートベクターマシンや人工ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、決定木、k近傍法、ロジスティック回帰などで、最も優れたモデルでは精度89.98%での死亡率予測を実現していた。 患者基本属性や症状、既往歴、検査結果等から死亡率を予測するこの機械学習モデルは、特に医療システムが逼迫した際の「データドリブンな意思決定」を支援するものと期待される。なお、処理後のデータセットおよびコードは、研究コミュニティによる利用を想定し無償で公開されている。

聴性脳幹反応を自動分類する機械学習手法

聴性脳幹反応(ABR)は、聴覚神経系の刺激によって得られる電位を頭皮上で記録するもので、意識状態や睡眠状態などの影響を受けにくい他覚的検査として重要視されている。一方で、その解釈には相当の経験とトレーニングが必要となり、またヒューマンエラーに基づく不適切な解釈が謝った判断に繋がる可能性から、ABR評価の自動化は長く求められてきた。 カナダ・オンタリオ州ロンドン市に本拠を置くウェスタン大学の研究チームは、ABRを自動解析する機械学習アプローチの開発に取り組み、このほど、この研究成果をComputer Methods and Programs in Biomedicineに公表している。公開されたチームの研究論文によると、サポートベクターマシンやランダムフォレスト、勾配ブースティングなど6つの機械学習モデルによって、ABRに存在する神経学的異常を正確に特定できる手法を探索した。なかでも、複数の決定木を組み合わせて学習するXGBoostを利用してトレーニングされたモデルは、臨床的に重要な信号特徴を92%と最も優れた精度で識別することを明らかにしている。 本研究成果はABR波形の分析プロセスを自動化するための有用な知見を提供しており、将来的には耳鼻科専門医や言語聴覚士によって利用される評価ツールの導出に至ることが見込まれる。現時点で、聴覚障害を持つ子供たちをスクリーニングするための機械学習ベースのアプリケーションは実現されておらず、本研究成果を元に同領域において利用可能なツール開発が加速すること、そして願わくば本メディアの読者からも積極的な取り組みのあることを期待したい。

てんかん発作は脳波データ「以外」から検出できるか?

てんかん発作はニューロンの過剰な放電に基づく、「脳の電気的嵐」によって引き起こされる痙攣発作で、日本においても100万人近い患者の存在が指摘される。その発生機序から脳波データに基づく識別が主要な診断アプローチであったが、米ダートマス大学の研究チームは「脳波データ以外からてんかん発作を検出する手法」を探索している。 Computers in Biology and Medicineにオンライン公開されているチームの研究論文によると、脳以外の時系列データからてんかん発作を検出する手法を導くため、15名の患者から網羅的な客観データの収集を行っている。取得されたのは標準的な脳波記録のほか、心電図や皮膚電気活動、筋電図、加速度計、音声記録などで、線形判別分析(LDA)を用いた解析によって発作データを非発作データから分離できる可能性を検討した。結果ではAUC 0.9682と高精度な識別を実現しており、発作の検出に最も大きく寄与する非脳因子は患者ごとに異なる事実も明らかにした。 研究チームは、種々のセンサー導入によるマルチモーダルアプローチが、感度・特異度を保った上での発作検出に有用であると結論付けている。また、「てんかん発作の識別に寄与する各センサーと機能を定量評価する手段を示すもの」としても本研究の重要性を強調している。

長寿医療におけるAI

老化研究から健康寿命延伸に取り組むAIスタートアップ「Deep Longevity」については、AIによる心理的老化マーカー研究に関してを以前に紹介した(過去記事)。同社から学術誌 Nature Agingに直近で寄稿されたコメンタリー論文では、最新のAI研究が長寿医療分野にどうつながっているか概説されている。 学術誌 Nature Agingには、Deep Longevityの創設者であるAlex Zhavoronkov氏らが「Artificial intelligence in longevity medicine」と題したコメンタリーを寄せている。そこでは、単一の疾患や臓器を対象とした従来の医療アプローチではこれからの時代の健康寿命延伸に小さな影響しか与えられない前提から、加齢や老化というすべての生物に共通する普遍的特徴に対してAI・ディープラーニングを応用することで、画期的な進歩が起きる可能性について論じている。 著者らは、AIをベースとした実験的な長寿医療を、今こそ一般臨床現場へ転換・加速させる時と主張し、そのための学会・規制当局・ベンチャー各社らを包括した基本的枠組みや、学際的な共同作業の必要性についても述べている。「公衆衛生を公衆の健康長寿へと転換させる」という結語が印象的であり、Deep Longevityの今後の展開にもますます注目していきたい。

ëlarm – COVID-19発症前の感染疑いを警告するウェアラブルAIアプリ

臨床症状が現れる前の無症候COVID-19感染パターンを特定するウェアラブルデバイスの例を以前に紹介した(過去記事Empatica社)。特定のデバイスにとらわれない「device agnostic」を謳い、Fitbit・Apple Watch・Galaxy Watchなど各種スマートデバイスから生体情報を収集し「発症3日前のウイルス感染を警告」することを目標としたAIアプリ「ëlarm」がニュージーランド拠点のAI企業Datamineからリリースされている。 Datamine社からPR Newswireに掲載されたニュースリリースによると、ëlarmは個人のベースラインとなる心拍数など生体データの変化をとらえ、AIによる解析でCOVID-19感染パターンを発症前に警告するシステムである。そのアラートは検査機器としての扱いではなく、医学的アドバイスを提供するものではないと注釈しながら、ユーザーの検査受診や行動自粛・自主隔離などを想定している。同システムの学術的背景の概要はwebページ上に掲載されている。 同アプリは2020年6月からニュージーランドでの稼働を開始し、現在世界各地でApp StoreおよびGoogle Playからアプリが入手可能となっている。7日間のフリートライアルを含み、1ヶ月あたり4.5 USドルのサブスクリプション方式で利用プランが提供されている。日本でもインストール可能であり、The Medical AI Times編集部でもApple Watch Series 5とiPhoneで実際のアプリ稼働を確認した(現在のところhealth levelはNormalと表示されている)。日本語へのローカライズはされておらず対応状況は個別に注意いただきたい。

ロケーションベースのCOVID-19曝露リスクを算出するAIアプリ

米Parkland Center for Clinical Innovation(PCCI)は、テキサス州ダラスの住民に向け、リアルタイムのロケーションデータから「COVID-19曝露リスク」を示すAIアプリケーションをリリースした。 PCCIが27日明らかにしたところによると、MyPCIと呼ばれるこのアプリでは、ジオマッピングとホットスポットテクノロジーに基づき、COVID-19症例の発生状況と特定地域における人口密度からロケーション単位でのCOVID-19曝露リスクを算出できる。特徴となるのは、このアプリが個人の健康情報等を求めず、位置情報についても当人のリスク評価を生成する目的にのみ利用され、利用者からの情報収集を一切行わない点にある。PCCIのCEOであるSteve Miff博士は「パンデミックのコントロールと感染防御の観点から、引き続き近接性は重要な要素となる。MyPCIは使いやすいアプリで、COVID-19曝露リスクを理解した上でのソーシャルディスタンス・マスク・手洗いなどの必要性を促すことができる」とする。 50万人を超える患者データ分析により、近接性が一定値を超えることで感染リスクが7倍以上となる基礎分析に基づき、MyPCIは開発され、このほどの一般公開へと至っている。MyPCIはダラス住民を対象として無料配布されており、新しいデジタルツールアプローチがローカルなパンデミック抑止に効果を示すか、大きな関心が集まっている。

Vuno – 4つのAIソリューションを台湾に展開

韓国を本拠として医療AIソフトウェア開発を手がけるVunoは今週、同社の誇る4つのAIソリューションについて、台湾での大規模展開を始める計画を明らかにした。現地ヘルスケアプロバイダーであるCHC Healthcare Groupとの提携によって、Vunoのソリューションは台湾の50を超える病院群へ同グループによる独占的供給が行われる。 Korea Biomedical Reviewが26日報じたところによると、今回供給が開始されるのはVUNO Med-BoneAge、VUNO Med-Chest X-Ray、VUNO Med-Fundus AI、VUNO Med-LungCT AIの4つであるという。CHC Healthcare Groupは台湾で圧倒的なシェアを誇るヘルスケアプロバイダーで、1977年の設立以降、医療機器の製造・販売にも積極的に取り組むとともに、アジア太平洋地域における数多くの医療機関を運営する大規模グループとなっている。 CHC Healthcare GroupのPeter Tien Ying Lee副会長は「世界をリードする医療ソリューションを持つVunoの製品を台湾に導入できることを嬉しく思う」と述べ、Vunoの事業がアジア太平洋地域に拡大することに期待することを声明で明らかにしている。 Vunoに関する過去記事は以下の通り。 1. 韓国Vuno – 5つの医療AIソフトウェアでCEマーク認証を取得 2. 韓国Vunoとエムスリー –...

統合失調症患者の1親等以内の発症リスクを予測する機械学習モデル

統合失調症は、妄想・幻覚・思考障害といった多彩な症状を示す精神疾患であり、全人口の約1%という有病率は世界的に共通する。カナダのアルバータ大学を中心とした研究チームが「脳スキャンfMRIから統合失調症を87%の精度で診断する機械学習アルゴリズム」を構築したことは以前に紹介した(過去記事)。 アルバータ大学の26日付ニュースリリースでは、同グループが統合失調症患者の1親等以内で最大19%といわれる有意な発症リスクの差に着目し、「家族性の高リスク群での統合失調症発症初期を予測する機械学習ツール」として研究内容を発展させ、学術誌npj schizophreniaに収載された研究を紹介している。EMPaSchiz(Ensemble algorithm with Multiple Parcellations for Schizophrenia prediction)と名付けられている同ツールは、統合失調症患者の1親等以内の親族で、かつ統合失調症ではないと診断されている57名を対象とし、統合失調症の診断手法のひとつ「Schizotypal Personality Questionnaire」のスコアが最も高い上位14名を、画像解析から同定することができた。 このことは、統合失調症における臨床診断の完全な基準を満たしていない場合でも、発症に対する脆弱性を早期に予測できる機械学習診断モデルの可能性を示している。グループは研究の次のステップとして、家族性の高リスク群以外でもツールの精度を確認し、そこで評価された個人が後に統合失調症を発症するか追跡するという前向き研究へ進むことを想定している。

Infermedica – 注目を集めるAIトリアージシステムとそのビジネスモデル

ポーランド最大の民間ヘルスケアプロバイダーの1つ、PZU Zdrowieは、医療AIスタートアップであるInfermedicaの提供するAIトリアージプラットフォームを活用している。患者初期対応の自動化・合理化に貢献するこのシステムにより、2019年では実に240万件の患者問い合わせを処理した実績を持つ。 Infermedicaはポーランドに本拠を置くスタートアップで、AIを活用した予備診断とトリアージのためのプラットフォームを提供しており、これまで1500万ドルの資金を調達して研究開発を進めてきた。同領域にはAda HealthやBabylon、Healthilyといった多数の強力な競合が立ち並ぶが、保険会社や遠隔診療のプロバイダー、各種医療システムと協調した堅実な展開を示す。またInfermedicaは「APIファースト」を謳い、同社の高精度なAIトリアージコンポーネントは他のチャットボットや患者ポータル、電子カルテシステムなど種々の既存プラットフォームと容易に統合することができる。 Infermedicaは、そのテクノロジーをB2Bクライアントにライセンス供与することで収益を上げるビジネスモデルを取っており、SaaSではAPIが呼び出された回数に基づく課金が行われる。COVID-19の拡大下においてさらに需要の高まる同社システムは、不要な対面診療を回避させることで、医療の効率化・適正化に資することが強く期待されている。

COVID-19高リスク患者予測モデルの国際研究 – 理研・BC Platforms・フィンランド国立健康福祉研究所

新型コロナウイルスに対する感受性と耐性は、BCGなどの過去のワクチン接種、他のコロナウイルスの既感染、腸内細菌叢などの影響を受け、複数の因子に依存しているという仮説がある。また、COVID-19の急速な重症化には、高血圧・糖尿病・肥満・心血管疾患との間に相関が観察され、理解が進む途上にある。日本の理化学研究所(理研)では情報幾何学とAIを用い、COVID-19による死亡と重症化リスクが高い人を特定する疾患層別化アルゴリズムを開発しており、国際共同研究へつなげる動きがある。 医療AI関連の統合データプラットフォームを提供する企業BC Platformsの26日付プレスリリースによると、同社は理研およびフィンランド国立健康福祉研究所(THL)と共同し、COVID-19高リスク患者予測モデルの国際研究に取り組んでいることを発表した。THLはCOVID-19患者の転機に影響を与える遺伝的特徴を含む個人要因を特定するプロジェクト「COVIDprog」を主導している。BC Platformsは、理研のアルゴリズムで、フィンランドのCOVIDprog対象者のデータを統合し解析するため、同社の独自プラットフォーム「BC | INSIGHT」を提供する。 他のコロナウイルス研究からは、ウイルス感染に直接関与するとされるいくつかの遺伝子が特定されている。この国際共同研究から遺伝子とその表現型の関連性を解明し、COVID-19が一部の患者の重症化と死亡につながる具体的な理由、およびそのメカニズムが理解されることが期待されている。

富士フイルム – がん検診のための健診センターをインドに開設

富士フイルムはアジア・中東・アフリカにおける新興国への健康診断サービス事業を開始する。その第一弾はインドで、来月2日よりバンガロールにおいてがん検診を中心とした健診センター「NURA」を開設することを明らかにした。 富士フイルムによる25日付のニュースリリースによると、NURAでは高精細な診断画像を提供する同社の医療機器、およびAI技術を活用したITシステムなどで医師の診断をサポートするという。同施設ではがん検診をはじめとして、生活習慣病検査に係る種々のサービスも提供する。また当該健診センターは、現地法人である「FUJIFILM Middle East FZE」と、インドや中東で医療機関を展開するDr. Kutty's Healthcareの合併企業「FUJIFILM DKH LLP」による運営となる。 新興国におけるがん罹患者の生存率は低く、特にインドはがん罹患者の5年生存率が3割との報告もある。生存率向上のためには、定期検診による早期発見・早期治療が欠かせず、同施設がインドにおいて果たす役割には大きな期待がかかっている。 なお、NURAの公式HPはこちらから参照できる。

COVID-19患者を見守る彗星「CoMET」

COVID-19の入院患者の健康状態を監視する方法として、大多数の病院ではアラームを使用している。ひっきりなしに鳴る古典的なアラームの9割は何もする必要がないという研究結果があり、いわゆる「アラーム疲労」問題は以前にも取り上げた(過去記事2020/02/14)(過去記事2019/08/16)。バージニア大学(UVA)の病院機関UVA Healthでは「CoMET」という12時間以内の重症化リスクを視覚的に把握できるソフトウェアを導入して、COVID-19患者のケアに挑戦している。 UVA Healthの25日付けニュースリリースでは「CoMET」を紹介している。ニュースのトップ画像のように、ディスプレイ内では循環器と呼吸器のリスクがX-Y軸として示され、安定している患者の小さな「彗星(comets)」状の輝点は軸のゼロ点近くに寄り添っている。しかし、リスクレベルが上昇した患者の彗星は大きさを増し、鮮やかなオレンジや深紅色に変化し、太い流れ星のように画面上を這い回ることで状態の不安定さを明示する。2秒ごとのパラメータ変化と15分ごとのモデル更新で、AIによる精密なリスク予測がカラフルなグラフィックで示される。この「CoMET」モニタリングシステムは、4時間や8時間間隔でリスクを報告するような旧来のシステムや、ほとんどが対応不要で鳴りっぱなしの古典的アラームとは異なる独自のアプローチとなっている。大胆なビジュアル表示は、臨床医のリスク評価と介入を強化し、看護師の自律した積極的なケア提供に寄与するという。 CoMETの生みの親であるUVAの循環器専門医Randall Moorman医師は、予測分析のパイオニアとして長く活躍してきた。20年前に彼のチームは、未熟児の敗血症を数時間前に警告するCoMETに似た視覚的リスク表示システム「HeRO」を開発していた。3,000人の低出生体重児を対象とした大規模無作為試験では「HeRO」によって死亡率を20%減少したことが明らかにされた。「CoMET」も今後2年間で、無作為にシステムが割り当てられた実験群と、システムを利用しない対照群との比較試験により、臨床的有効性が判断されるという。CoMETがCOVID-19との戦いにおいて、臨床のあり方を従来の反応的なものから積極的なものへ変えることを研究チームは期待している。

AIが疼痛評価の社会的不平等を是正? – Nature Medicine 論文

十分な医療サービスを受けられない社会的弱者は、従来の専門的評価で測りきれない高レベルの痛みを経験していたかもしれない。そのような可能性が学術誌 Nature Medicine掲載の最新AI研究によって示された。不適切なAI応用が患者間の格差を広げる論調も根強い一方で、新研究では「適切なディープラーニングアプローチが、原因不明とされてしまう『痛み』の人種差や社会経済的格差を是正する」研究成果を示している。 「An algorithmic approach to reducing unexplained pain disparities in underserved populations」と題された同研究では、膝の痛みの原因で代表的な「変形性膝関節症」をテーマとする。「放射線科医の膝X線画像による重症度評価から痛みを予測した場合」と「ディープラーニングアプローチによる重症度評価から痛みを予測した場合」を比較したところ、後者によって痛みの人種間における差を是正することができた、というのが研究の論旨である。このAIによる格差是正はいわゆる低所得や低学歴の患者においても同様の結果が得られた。十分な医療を受けられないような社会的不平等を抱える患者群において、従来の標準的とされる重症度判定では反映できていない痛みの要因がいまだ多いと研究グループは指摘している。 同研究を主導したカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)の准教授Ziad Obermeyer氏は以前にも同大のニュースリリースで、人種間の健康格差にデータを活用する際の落とし穴を論じている。そのインタビューでObermeyer氏は例として「COVID-19の検査データから医療資源を配分するアルゴリズムを考えた際、黒人やラテン系のような疎外されがちな地域社会では、利用可能な検査が限定的であるがゆえに不健康さが過小評価され、真のニーズを捉えきれない事態が生じる」という主旨を述べていた。客観的データを至上として扱う人々が医療AIについて考える上で、今回のNature Medicene 収載論文は示唆に富む。自身の専門性を誇る医療者が、社会的弱者の痛みに「客観性がない」と切り捨てる危険に対して警鐘を鳴らすきっかけとなるAI研究かもしれない。

胸部CT画像のAI定量評価で患者転機を予測

COVID-19の治療計画策定において、患者個々の重症度スコアリングは重要なステップである。ただし、手動の定量分析は時間がかかり、定性評価は高速だが主観的となる問題点があった。米レンセラー工科大学やハーバード大学などの研究チームは、胸部CT画像を定量評価することでCOVID-19患者の転機を予測するAIシステムの開発に取り組んでいる。 International Journal of Computer Assisted Radiology and Surgeryから23日オンライン公開された研究論文によると、チームは肺葉と肺の混濁を効率的にセグメント化する深層学習フレームワークを開発しており、肺混濁の占める体積割合から重症度スコアを算出するという。イランのフィロズガー病院、米国のマサチューセッツ総合病院の患者データで評価したところ、AIベースの重症度スコアは放射線科医による評価と強く関連していた(スピアマンの順位相関係数で0.837)。また、ICU入室でAUC 0.813、死亡でAUC 0.741と、いずれも十分に高い予測パフォーマンスを示し、転機予測においては放射線科医を上回る可能性が示唆された。 研究チームは、今回得られた技術が他の肺疾患にも拡張できる可能性にも言及しており、医療画像を単に疾患診断や経過評価に用いるだけでなく、AIの利用によって直接的な予後予測と個別化された治療・管理計画の策定に活用できる余地が広がる事実を強調している。

Nature論文 – 求人サイト上での雇用差別を監視する機械学習アプローチ

性別や人種、民族背景など、種々の属性情報に伴う労働市場における不平等が是正されていない。種々の社会疫学的研究より、職の安定度や給与額といった要素が疾病罹患、さらには個人の生命予後にまで影響することも明らかにされており、医学的観点からも不当な雇用差別は看過されるべきではない。スイス・チューリッヒ工科大学などの研究チームは、オンライン採用プラットフォームにおける「雇用差別を監視する機械学習アプローチ」の開発に取り組んでいる。 これまでのアプローチでは、ある項目(例えば黒人・白人などを想起させる名前)以外ほぼ同一の履歴書を送付し、雇用傾向を調査する手法などが取られてきたが、この場合限定的な状況において差別される「ごく少数の特性」のみしか抽出できないことが限界でもあった。権威ある学術誌・Natureから20日オンライン公開されたチームの研究論文によると、求人サイト上での採用担当者の検索行動のトラッキング、および採用担当者に可視化される求職者特性をコントロールする教師あり機械学習モデルを抱き合わせ、この雇用差別の新しいモニタリング手法を構築したという。 チームがこれを、スイスの公的雇用サービスにおけるオンラインプラットフォームに適用したところ、移民やマイノリティに当たる民族グループに属する個人は、採用担当者による接触が4-19%低下すること、男性または女性が支配する職業において他方の性別は、7%程度のペナルティを経験している事実などが明らかにされた。研究チームは「このアプローチは、政策立案者や研究者が雇用差別を継続的に監視し、差別の要因を特定した上で対策案を講じるために活用できる」ことに言及し、その広い適用範囲と高い費用対効果についても強調している。

オランダ最大級の病理検査機関Pathan – 病理診断AI開発でAiforiaと提携

病理検査におけるクラウド化とAI画像解析は大きな世界的潮流となってきた。高齢化と疾病発生数の上昇が、病理診断の作業効率を圧迫して病理医の負担増をまねいている側面があり、高度なデジタル化は最重要課題のひとつとされている。 PR Newswire掲載の21日付リリースによると、オランダ最大級の病理検査機関「Pathan」は、フィンランド=ヘルシンキ大学からのスピンオフとして知られる医療AIソフトウェア企業「Aiforia」と提携し、病理検査用AIモデルの構築を進めることで検査機関のワークフローを強化することを発表している。Pathanだけでも年間11万件の検査依頼を処理しており、開発されるAIによって診断の精度とスピード向上が期待される。まずは比較的容易とされるAIモデルの例として、胃潰瘍や胃がんの原因となるピロリ菌、結核などの原因である抗酸菌といった対象を検出するスクリーニングAIから取り掛かる。その後に順次、腫瘍の悪性度・免疫染色の定量評価・脈管浸潤といったものの診断支援アルゴリズムの開発に進むという。 今回の提携で構築されるAIモデルは欧州の体外診断用医療機器認証(CE-IVD)取得を目指している。PathanのディレクターであるArlinke Bokhorst氏は「今後20年間でがん患者数が大幅に増加するという予測をふまえ、病理診断プロセスの将来的な組織化においてAIが提供できる機会をよく理解していきたい」と語っている。

バイタルサインからCOVID-19と季節性インフルエンザを識別するAIアルゴリズム

季節性インフルエンザ感染症およびCOVID-19は、臨床経過と転機が互いに異なる一方で、理学所見や一般検査から適切に診断し分けることは容易ではない。米ウェストバージニア大学とカーネギーメロン大学などの研究チームは、バイタルサインから両者を識別する機械学習アルゴリズムを開発した。 ヘルスサイエンス領域のプレプリントサーバーであるmedRxivで公開された研究論文によると、季節性インフルエンザ感染症またはCOVID-19の確定診断を受けた者を含む入院患者、3,833名のデータからこのアルゴリズムを導いたという。バイタルサインと患者基本属性、両疾患の有無のみでトレーニングした多クラス分類モデルは、検証データにおいてもAUC 0.92を示すなど、高精度とともに高い汎化性能を示していた。 研究チームはコードを公開しており、医療従事者による患者トリアージをサポートするための「最前線の診断ツール」として役立つ可能性に言及する。ただし、本研究成果は現時点で査読を経ていないプレプリント論文であることには留意する必要がある。

MobileODT – 子宮頸がんコルポスコープAI診断のフェムテック

子宮頸がんは20-40歳台を中心とした若年世代女性での罹患を特徴とする。ワクチンによる予防が可能ながんとして、WHOはその罹患と死亡を大きく削減することを目標としてきた。子宮頸がんの検診として子宮頸部を観察するコルポスコピーの感度は50-70%程度といわれ、精度向上にAIを活用する動きがある。 イスラエルのテルアビブを拠点とするMobileODTの20日付けプレスリリースによると、同社が商業化した子宮頸がんに対するAI/機械学習での診断ツール「EVA VisualCheck」の有効性を検証する大規模臨床試験のため、米国国立がん研究所(NCI)から230万ドルの助成金を獲得したことを発表した。ポータブルのスマートコルポスコープによる60秒以内の子宮頸がんAI診断を行う同製品は、2021年に約1万人の被験者を対象として従来の標準的な目視検査法などと比較される。 MobileODTはフェムテック企業としてAI技術で女性の健康管理に革新を起こすことを目指す。同社CEOであるLeon Boston氏は「権威ある助成金を受けとることを光栄に思っており、私たちの技術が女性の健康にもたらす価値が認められたと考えます。今回の試験は子宮頸がんの撲滅を加速させるWHOの世界的戦略に照らしても重要なものになるでしょう」と語っている。

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