医療とAIのニュース 2021
年間アーカイブ 2021
エルピクセル – CT画像から頭蓋内の高輝度領域を抽出するAIソフトウェア
エルピクセル株式会社はこのほど、医用画像解析ソフトウェア「EIRL Brain Segmentation」について指定管理医療機器の製造販売認証を取得し、販売を開始したことを明らかにした。
エルピクセルの25日付プレスリリースによると、本ソフトウェアは頭部CT画像から「頭蓋内の高輝度領域を自動抽出」し、医師に該当領域を明示することができるというもの。脳出血では頭部CT検査によって出血部位や出血量を評価するが、病変部は周囲に比して白く映る(高輝度領域)。この自動化システムは、救急医療の支えとしての利用拡大が見込まれている。
日本の現医療体制において救急科医師も人数の充足をみておらず、2次救急であっても約7割の病院が医師1名での対応を余儀なくされるケースがある(参照資料)。本ソフトウェアの利用が見落としリスクの低減、医師の負担軽減に資することが期待される。
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Googleアシスタントは薬品名をより正確に理解する
一般的に普及しているバーチャルアシスタント3種について(Amazon Alexa, Google アシスタント, Apple Siri)、薬品名の理解を比較した研究成果がこのほど、Frontiers in Digital Healthから公表された。本研究は2019年調査のフォローアップとなる。
研究論文によると、米国で最も調剤される医薬品上位50種について、その一般名と商品名の識別をバーチャルアシスタント間で比較したという。2019年時に用いた録音音声を再利用したもので、46人の参加者によって英語での調査を行った。Google アシスタントは商品名(86.0%)と一般名(84.3%)の両方で最高精度を達成し、続いてApple Siri(それぞれ78.4%, 75.0%)、Amazon Alexa(64.2%, 66.7%)となった。
これらの調査結果は2019年時点のもとのほぼ同じ傾向を示しているが、2年間にAmazon AlexaとApple Siriのパフォーマンスが10~24%と大幅に改善していることも特徴である。さらに全体として、外国人による訛りが精度に影響を与えづらくなっていることも報告されている。著者らは「AIアルゴリズムの改善は遠隔医療やデジタルヘルスケアサービスへの重要な影響を与える」として技術向上を歓迎する姿勢をみせる。
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英Sensyne Health – 米病院ネットワークとの戦略的研究契約を締結
Sensyne Healthは英国民保健サービス(NHS)が保有するビッグデータを活用する医療AIスタートアップで、設立後わずか1年でのIPOで話題となった。CEOであるPaul Drayson男爵はシリアルアントレプレナーでありながら、英議会議員の顔も持つ。このほど、このSensyne Healthは米病院ネットワークとの戦略的研究契約の締結を明らかにした。
同社が21日明らかにしたところによると、今回の合意は「医学研究のための国際的リソースプラットフォーム」を構築するための重要な一歩になるという。締結先となるSt. Luke’s University Health Networkは12の病院と300を超える外来診療所からなり、250万人の患者データを保有する。研究目的に提供されるこれらの臨床データは、事前にSt. Luke'sによって匿名化され、最高水準の情報ガバナンスとデータセキュリティに準拠するとしている。
1872年に設立されたSt. Luke’s University Health Networkは、大規模非営利ネットワークとして知られ、年間売上高25億ドルのサービスエリアにはペンシルベニア州とニュージャージー州の11の郡が含まれている。Sensyne Healthはグローバルデータセット構築に向け、まさに大きな一歩を踏み出した形となる。
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MaskFit AR – 睡眠時無呼吸のCPAP/BiPAPに最適なマスクを選ぶスマホアプリ
睡眠時無呼吸(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、生活習慣病との合併や、寿命との関連が指摘されている。自宅で可能な治療法として、専用マスクと送気装置によって睡眠中の気道と呼吸を確保する「CPAP」や「BiPAP」と呼ばれる治療法がある。しかし、その専用マスクのフィッティングがうまくいかないことは、着用の不快感のみならず治療の効果を妨げる。
カナダ拠点のスタートアップ「AR Medical Technologies」の24日付プレスリリースによると、同社はCPAP/BiPAPマスクの正しい選択をサポートするアプリ「MaskFit AR」の発売を発表した。スマートフォンカメラのAR技術で患者個人の顔面計測を行い、世界最大規模のCPAPマスクデータベースと統合して、ニューラルネットワークアルゴリズムの補助のもと最適なマスクを選択する。iPhone/iPad搭載で3D画像キャプチャを行うTrueDepth技術、あるいは高解像度のカメラによる2D画像でもアプリの利用が可能である。
アプリのダウンロードと会員登録は日本国内からも可能だが、関連する医療機器メーカーや医療機関との連携は確立されていない。MaskFit ARは2013年から研究開発を進め、現在も米Mayo Clinicと共同で技術プラットフォームの検証作業を続けている。同社が目標に掲げる、臨床効果の改善や在庫管理効率の向上、マスク廃棄物の削減効果が果たされるか、その検証の進捗に注目していきたい。
顔の3D画像から睡眠時無呼吸症候群を識別するAIアルゴリズム
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睡眠障害をAIで評価する時代へ
脳卒中後の運動機能を予測する機械学習アルゴリズム
脳卒中患者における後遺障害として四肢運動障害は重要であるが、複雑な病因と多様な症状発現のために個別化された適切な予後予測は容易ではなかった。韓国・嶺南大学校の研究チームは、入院時データから「脳卒中後の運動機能予後」を予測する機械学習アルゴリズムを構築した。研究成果はこのほど、Journal of Stroke & Cerebrovascular Diseasesから公開されている。
本研究論文によると、1,056の脳卒中患者データを利用し、14のシンプルな臨床変数から発症後6ヶ月時点での運動機能を予測する機械学習アルゴリズムを導いた。用いた機械学習モデルは深層ニューラルネットワーク(DNN)・ロジスティック回帰・ランダムフォレストの3つで、運動機能評価にはBrunnstrom stageと歩行自立度の指標としてFunctional Ambulation Categoryを選んでいる。上肢機能および下肢機能のいずれの予測に関しても、DNNモデルが最も優れたパフォーマンスを示し、AUCでそれぞれ0.906および0.822であった。
著者らは「機械学習アルゴリズム、特にDNNが脳卒中後の四肢における運動機能予測に役立つ可能性がある」としており、リハビリテーションを含む治療計画策定への重要な示唆を与えるものとして、当該領域におけるAIの活用機会増にも言及している。
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進化を続けるスマートトイレのAI研究
日々の排泄物を解析して健康状態を把握する「スマートトイレ」という構想が実用化に近づいている(過去記事)。5月21日から23日まで開催された国際会議「DDW 2021(Digestive Disease Week 米国消化器病週間)」では、既存トイレの配管に後付けする方法で、パイプ内を通過する便の性状や血液混入の有無を解析できるAIツールが発表された。
EurekAlertでは、DDW 2021で発表された米デューク大学ダーラム校のグループによる同研究の概要を紹介している。3,328枚の便画像から畳み込みニューラルネットワークで構築されたAIアルゴリズムは、トイレのパイプ内を通過する便の画像から、便の形態を分類するブリストル・スケールに従って85.1%の精度で分類できた。また便中の肉眼的な血液の混入を76.3%の精度で検出できたという。
同研究の主任研究員でデューク大学のスマートトイレラボの創設者であるSonia Grego博士は「トイレの配管に後付けして、水を流す以外に何もする必要のない技術のため、患者が使用意欲をもってくれると期待しています。炎症性腸疾患(IBD)の再燃や治療反応をモニタリングしたり、状態を自分で報告できない長期療養施設の患者などに特に有効でしょう」とインタビューに答えている。研究チームはこの技術に便の生化学マーカー分析機能の追加も検討中とのことで、さらなる続報が待たれる。
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心電図AI解析が生理的年齢と長生きを予測する
単なる時間経過を示す実年齢と異なり、個人差のある老化や基礎疾患を反映した健康状態の指標となる「生理的年齢」という考え方がある。米メイヨークリニックの研究グループが心電図から生理的年齢をAIアルゴリズムで評価するプロジェクトを以前に紹介した(過去記事)。
メイヨークリニックのニュースリリースによると、その研究をさらに進めた最新の成果が学術誌 European Heart Journal - Digital Healthに発表されている。25,000人以上の被験者で12誘導心電図データをAIモデルで解析したところ、「心電図年齢」はほとんどの被験者の実年齢との誤差(Age-Gap)で平均 0.88歳と正確に予測できていた。一方で、Age-Gapが1SD以上実年齢よりプラスに乖離していた患者は、全死亡率と心血管疾患死亡率が有意に高かった。
この結果は、「AIによる心電図解析が個別の加齢を検出する」という従来の研究グループの見解をさらに拡張させたものとなった。AI解析手法の隆盛によって、心電図に含まれる豊富で貴重な情報の利用はさらに進んでいく。
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英Exscientia – BMSとの12億ドルに及ぶAI創薬契約に署名
AI創薬のトップリーダーに数えられる英Exscientiaはこのほど、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)との12億ドル(約1300億円)を超えるAI創薬契約を締結した。このコラボレーションにより、腫瘍学・免疫学等の領域における小分子治療薬候補の発見を加速させる。
Exscientiaが19日明らかにしたところによると、同社はプロジェクトに要するAI設計と実験作業を担当することになり、候補分子はExscientiaが誇るAI駆動創薬プラットフォームを活用して設計される。同社CEOのAndrew Hopkins氏は「BMSのような経験豊富な組織と協調し、患者に最適な医薬品を開発できることを嬉しく思う」と述べている。
Exscientiaは17日、大日本住友製薬との共同研究によって開発した「DSP-0038」(アルツハイマー病に伴う精神症状の改善を狙うもの)が、米国において第1相臨床試験に入ることを公表するなど、AI創薬の担い手としての立場を揺るぎないものにしている。同社は現在、自社または共同によって12を超える新薬の開発に取り組んでいる。
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小児静脈血栓塞栓症のリアルタイムリスク予測モデル
医療機関内における静脈血栓塞栓症(VTE)について、小児の罹患率増加が問題となっているが、高リスク者の特定は依然として容易ではない。米ヴァンダービルト大学モンローカレルジュニア小児病院の研究チームは、大規模な後ろ向きコホートを利用し、小児VTEのリアルタイムリスク予測モデルを開発し、その有効性を検証した。
このほどPediatricsから公開されたチームの研究論文によると、同院に入院した11万症例を超える入院データを利用し、潜在的な危険因子と院内でのVTE発症との関連を推定した。予測モデルにはシンプルなロジスティック回帰が用いられ、11個の臨床変数から入院中のVTE発症を予測したところ、導出コホートからC統計量 0.908と高い識別精度を示していた。また、4.4万症例以上からなる検証コホートにおいても、C統計量 0.904とその精度は保たれていた。なお、VTE発症に強く関連する因子としては、血栓症の病歴や心疾患の存在が明らかにされている。
研究チームは「高リスク者の早期発見によって予防的介入が増加し、小児の院内VTEを低下させることができる」ことを強調する。また、本研究は2年目となるヴァンダービルト人工知能研究所(AVAIL)の助けによって実現されている点も特色である。
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Qure.aiと富士フイルムインド現地法人がX線画像AI診断で提携
インド・ムンバイを拠点とする医療AIスタートアップ「Qure.ai」は、X線画像解析AI「qXR」によって同国を中心とした結核診断などに取り組んできた(過去記事)。
Qure.aiの19日付プレスリリースによると、同社は富士フイルムのインド現地法人と提携し、富士フイルムのポータブルX線撮影装置「FDR Xair」にqXRを搭載したシステムを発表している。この提携から富士フイルムのX線装置のユーザーは、選択制パッケージによってCOVID-19診断・肺結節病変検出・結核診断・カテーテルやチューブの位置確認といった各種AI画像診断機能を利用可能となる。
今回の提携により、インドをはじめとした医療サービスへのアクセスが限られている地域において、都市部から離れた地域でもポータブルX線装置と組み合わせたAI画像診断技術の恩恵が広くもたらされることが期待される。Qure.aiのCEOであるPrashant Warier氏は「富士フイルムとの提携により、トリアージ・診断・治療の迅速化で医療の質を向上できることを喜ばしく思う」と述べている。
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Google – スマートフォンカメラから皮膚疾患を識別するAIアプリケーション
Google I/Oは米カリフォルニア州で行われる年次開発者向け会議だが、2021年は5月18日から20日にかけてオンラインで開催されている。この中で18日、Googleは「スマートフォンカメラをかざすことで、皮膚・髪・爪の異常を識別するアプリケーション」についての情報を公開した。
世界20億人が皮膚トラブルを自覚するとされるが、専門家の数は限られ、医療へのアクセスは一定ではない。現代における多くの人々が最初のアプローチとしてGoogle検索を頼ることになるが、言葉だけで適切な説明情報を抽出することは容易ではない。Googleが明らかにしたところによると、このアプリケーションはウェブベースで提供され、異なる角度から3枚の病変画像を撮影した上で、症状についてのいくつかの質問に答えることで、AIアルゴリズムは「皮膚科医のレビューを受けた確からしい情報」を一致する画像とともに提示することができる。ツールはあくまで「信頼できる情報へのアクセス」をサポートするもので、診断や医学的アドバイスを目的とはしていないという。
Googleは昨年から今年にかけ、皮膚疾患識別AIについて複数の価値ある論文を公表してきており(Nature Medicine, JAMA Network Open)、同社AIによる識別精度が専門医と同等であることも示した。GoogleはAIモデル開発にあたり、年齢・性別・人種・肌色などを考慮し、65,000に及ぶ多様な診断済み画像データ、および数百万の疑い画像などを用いている。また、同AIモデルはEUにおいてクラスI医療機器としてCEマーク認証も受けた。これらの技術を一般向けに転用する形でアプリ開発を進め、本年後半の公開が予定されている。Googleの高パフォーマンスAIが、皮膚トラブル解決の支えとしてまさに一般化しようとしている。
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処方ミスを防ぐAIモデルが台湾と米国の国境を越える
台湾は世界でも有数の、中央集権的で構造化された電子カルテ(EHR)システムを持つ国である。そのため、電子カルテデータをもとにした医療AIの開発で競争力を発揮している。台湾と米国を拠点とするAIスタートアップ「Aesop Technology」は、連合学習(FL: Federated Learning)によって処方ミスを防ぐAIモデルを開発している。
Aesopの17日付プレスリリースによると、同社と台北医学大学およびハーバード大学医学大学院の共同研究から、「一般内科診療所での処方ミスを検出する機械学習モデルについて、連合学習による国際的な移転可能性を評価する」成果が学術誌 Journal of Medical Internet Research - Medical Informaticsに発表された。同研究では処方箋が診断名に適合しているか識別するモデルを構築する際に、台湾のローカルデータベースの処方箋13.4億件によるオリジナルモデル(O)、米国の処方箋データベース66万件によるローカルモデル(L)をそれぞれ構築し、国際間での連合学習によるハイブリッドモデル(H)の精度と比較した。その結果、Oモデルの精度75-78%、Lモデルの精度76-78%という良好な国際間の移転性を示し、Hモデルでは精度79-85%というさらなる精度向上を達成できた。
膨大かつ多様な医療データを必要とするデータ駆動型医療にとって、患者の安全性とプライバシーを損なわないことが課題となる。連合学習はデータそのものを交換することなく共同でアルゴリズムをトレーニングすることで、その課題の解決を目指す。台湾と米国で国境を越えたAIモデル構築研究は、連合学習の大きな可能性を示している。
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Nature論文 – 脳内手書きを高速にテキスト変換するBCI技術
米スタンフォード大学の研究者らは、brain-computer interface(BCI)とAIの技術適用により、「脳内で想像した手書き意図を神経信号から読み取ることで、高速にテキスト変換する技術」を開発したことを明らかにした。脊髄損傷に伴う麻痺患者など、コミュニケーションの制限を受ける患者らに巨大な恩恵をもたらす画期的技術と言える。
このほどNatureから公表されたチームの研究論文によると、書字動作を企図した際の運動皮質における神経活動を解析することで、高速なテキストタイプを実現するAIシステムを開発したという。脊髄損傷により四肢に麻痺のある患者において、毎分90字を94.1%の精度でタイプすることができ、汎用のオートコレクトを用いることでその精度は99%を超える。これは一般的なスマートフォンでの入力速度(115字/分)に匹敵しており、脊髄損傷や脳血管疾患後のコミュニケーション機能を支える基礎技術となる可能性がある。
著者らは「コンピュータカーソルの移動・到達・把持といった、粗大なポイントツーポイントの動きよりも、書字動作という複雑な動きの方がデコードしやすい可能性」にも言及しており、近傍のBCI技術開発における重要な示唆を与えている。なお、スタンフォード大学の技術ライセンス局は本技術を卓越した知的財産として捉えており、既に特許の申請を行っている。
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One Drop – 8時間血糖値予測AIエンジンでCEマーク取得
米ニューヨーク拠点のスタートアップ「One Drop」は、糖尿病を抱える人々に、血糖測定から健康管理まで垂直統合したデジタル管理ツールを提供している。糖尿病をはじめとした慢性疾患に対して、同社はこれまでに膨大なデータを収集し、会員の健康管理と行動変容にアプローチしてきた。
One Dropの14日付プレスリリースによると、同社はAIを活用した最大8時間前の血糖値予測分析エンジンで、欧州医療機器規制のCEマークを取得したことを発表している。One Dropの会員は、同社が提供するプラットフォーム上に測定した血糖値を記録していくが、そこに血糖値予測を組み合わせることで、予測値にあわせた食事や運動を推奨し、血糖測定自体の必要性を減らすことを可能にするという。One DropアプリはApple HealthKitやApple Watch、GoogleFit、Fitbitなどと機能を統合し、現在まで195カ国・数百万人のユーザーから75種のバイオマーカーを含む250億件の健康データを取得し、独自アルゴリズムを強化してきた。
One Dropのデータサイエンス担当であるDan Goldner氏は「AIソリューションを成功させるために創業時からデータ収集に投資してきた。現在競合他社の多くは当社のデータ資産の1%にも達していないだろう」と語り、その先行性に強気をのぞかせる。同社はメンバー1人ひとりから毎日何千というデータポイントを測定するために独自の経皮センサーを開発しており、今後も膨大で多様な健康データの収集を進め、糖尿病をはじめとした慢性疾患における疾患管理と長期予後予測に取り組んでいく。
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救急科AI – COVID-19の増悪を予測するマルチモーダルAIシステム
迅速かつ正確な患者評価とトリアージは、救急科における臨床的意思決定で重要な因子となる。米ニューヨーク大学の研究チームは、画像および臨床情報を複合した多面的なデータ群に基づき、COVID-19患者の急速な病状悪化を予測するマルチモーダルAIシステムを開発している。
npj Digital Medicineから12日公開された研究論文によると、チームは3,661人の患者データから増悪予測のためのアルゴリズムを構築したという。このAIシステムは、胸部単純レントゲン画像から学習した深層ニューラルネットワーク、および日常的な臨床変数から学習した勾配ブースティングモデルの2つを複合しており、96時間以内の病状悪化をAUC 0.786で予測することができる。
研究チームは、データドリブンなAIシステムが「救命救急の現場を支える可能性」を強調している。同システムはニューヨーク大学ランゴーン医療センターに実装され、AIによるリアルタイム予測が臨床的有効性を示すか、継続した評価が続けられている。
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炎症性腸疾患の分類を糞便のみで行うAI研究
炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory bowel disease)は、慢性的な下痢・腹痛・血便などの症状を起こす疾患群で、クローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)を代表的な疾患として含む。IBDには正確な診断による分類が重要となるが、苦痛を伴う大腸内視鏡検査や生検といった従来手法を置き換えるような、非侵襲的で高精度の診断法が期待されてきた。
学術誌 Journal of Inflammation Researchには、中国の福建医科大学の研究者らによる「糞便マルチオミクス解析からIBDを非侵襲的に診断するAIモデル」が発表されている。このマルチオミクス解析では、糞便中の遺伝子や代謝物の特徴を統合的に解析することで、苦痛のない非侵襲的な診断法の開発を目指した研究が進められている。同研究のAIアルゴリズムではまず、非IBD・CD・UCの3群へ分類する。その際に消化器症状に基づく患者の自己評価(「very well とても良い」「slightly below par やや不良」)によってそれぞれ別のモデルを適用し、分類精度を向上させていることが特徴で、自己評価「とても良い」の患者層でAUC 0.85、「やや不良」の患者層でAUC 0.84を達成した。
自己評価「poor 悪い」「very poor とても悪い」「terrible ひどい」のサンプル数が少ないため、これらの層をカバーできていないことが同研究の現時点での限界でもある。一方で「モデルは全患者の90.97%を含むことができている」とする。便を採取するだけで高精度かつ非侵襲的にIBDを分類する研究は、検査の度重なる苦痛にさらされている患者にとって大きな福音であり、AI手法の将来性を感じさせる。
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自閉スペクトラム症(ASD)は人種・民族・社会的背景に関係なく、54人に1人程度の一定割合でみられる発達障害のひとつである。ASDの早期診断と介入は行動改善につながるが、そのプロセスは専門家がどれだけ長時間子どもたちに関われるかという現場の高負荷に依存している。
米テキサス大学サンアントニオ校(UTSA)の13日付ニュースリリースによると、ASD児の学習をサポートするためのパーソナルAIを構築する研究室「ABAiラボ」の設立を発表している。同ラボではMicrosoft社のヘッドギア・ビデオカメラ・各種ウエアラブルデバイスからASD児の四肢の動き、音声のトーン、心拍数などのデータを取得する。それらからASD児に特徴的な4つの次元の行動パターン「反復行動」「言語の遅れと混乱」「社会的相互作用の障害」「興味の範囲の制限」に沿って解析を行う。
UTSAの研究者らは、今夏までにまずはASD児の睡眠パターンと、それらが日中の行動をどう予測するかに焦点を当ててAIのテストを行う。同校の准教授Leslie Neely氏は「人間の観察者が子どもに同席しながら収集できるデータには限界があり、専門家らに大きな負荷となっています。AIがこの負荷を軽減してくれるでしょう。データ収集と評価から人を離脱させるのではなく、より重要な場面で人を使うことに注力させるのです」と語っている。ラボでの研究成果は、ASD児に介入するAR/VRやゲームといったデジタルプラットフォームへの利用も想定されている。
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歯科領域へのAI利用 – インプラント周囲炎治療後の転帰を予測
インプラント周囲の組織や骨に感染が波及するインプラント周囲炎は、歯科インプラント患者の4人に1人を悩ませる合併症で、歯槽骨の破壊にまで至ることがあるためその重要度は高い。一方、どの患者がインプラント周囲炎を発症しやすいか、またどのような治療に反応するか、などを予測するための信頼できる確立された手法はまだ得られていない。
米ミシガン大学歯学部の研究チームは、インプラント周囲炎の外科的治療後の転帰を予測する機械学習アルゴリズムの開発に取り組んでいる。Theranosticsからこのほど公開されたチームの研究論文によると、組織の免疫プロファイル、微生物コロニー形成のダイナミクスなどから教師なしクラスタリングを行ったところ、有意なリスクの層別を達成したという。研究成果は「従来の単一バイオマーカーと比較して、免疫状態の複合評価によってインプラント周囲炎の治療後転帰を強力に予測する」ことを強調している。
研究チームは「特定の治療に反応する患者を同定するためのアプローチも提供できる」とし、インプラント治療を巡る深刻な合併症への、革新的ソリューションとして期待を大きくしている。医学領域での急速な普及に比して、歯科領域におけるAI活用は目立っておらず、今後の発展の契機となるかにも注目が集まる。
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AI医師が自分を覚えていてくれると特別感がある?
医師が名前や病歴を覚えていてくれると、患者は自身が特別な存在であると感じ、個別化されたケアを受けていると思うかもしれない。しかしそれがAIの医師であった場合はどうなるか。
ペンシルベニア州立大学とカリフォルニア大学サンタバーバラ校のチームによって、「AI医師による患者の個別化がユーザーエクスペリエンスに与える効果」が研究されている。同研究は5月8日~13日まで横浜を主催地として開催されたオンライン学会「CHI(Computer-Human Interaction)2021」で発表された。研究の概要として、ヘルスケアチャットボットが患者を個別化した場合、患者はそのAIを押しつけがましいと考える傾向が強くなり、医療アドバイスを聞き入れる可能性が低くなることが示唆された。一方で、個人情報を覚えてくれていない人間の医師に対しては、他の患者と区別することを期待しており、アドバイスに従う可能性が低くなった。その他ユニークな結果として、チャットに人間の医師が登場する実験条件では、参加者の大部分(約78%)がAI医師と対話していると錯覚してしまった。
今回の研究成果は、「AI医師に患者の個別性を認識させることで、患者がAIを良く受け入れるのではないか」という戦略が裏目に出てしまう可能性を示している。そこには、患者がAIを医師として受け入れることに潜在的な抵抗を感じているひとつの裏付けがあり、AIが患者との良い関係を築くためのシステムおよびユーザーエクスペリエンスの設計の難しさとも言える。
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英Huma – 1.3億ドルを調達しデジタルヘルスプラットフォームを拡張へ
英Humaは、アプリ・ウェアラブルデバイスを用いた遠隔患者モニタリングと、これに基づく臨床および研究向けのデジタルヘルスプラットフォームを提供するスタートアップだ。Humaは昨年、Medopadからリブランドするとともに、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に公表した「COVID-19トラッカー」が同社の強力な業績を後押しし、急激な成長を続けている。
Humaは12日、新たな調達ラウンドにおいて1.3億ドル(約143億円)の資金調達を行ったことを明らかにした。後日行使できる7000万ドルのコミットメントラインも設定され、今回の資金調達額の合計は2億ドル以上にのぼるとみられる。新たな資金は米・中におけるデジタルプラットフォームの拡張にあてられ、現在英国・ウェールズ・ドイツ・アラブ首長国連邦の4政府から「イノベーションパートナー」として指定される同社のポートフォリオを拡充させる狙いがある。
HumaのDan Vahdat CEOは「我々は変化のペースを加速し、世界中でより良いケアと研究を進めるための革新を続けていきたい」とする。なお、今回のラウンドには日立製作所のCVCファンドにあたる「Hitachi Ventures」の参画も認めている。
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AIによる動画解析でパーキンソン病を診断
BreastPathQ Challenge – 乳がん画像分析で病理医を上回る識別精度を達成
BreastPathQ Challengeは乳房組織の顕微画像を分析し、腫瘍細胞の形態特徴から悪性度や治療効果などを識別する自動化アプローチを開発するもの。世界12カ国から39チームを集めたこのグランドチャレンジにおいて、合計100のアルゴリズムが開発および検証された。
術前薬物療法を意味するネオアジュバント療法は、乳房全摘術の適応となるような大きな腫瘍の縮小によって乳房部分切除を可能にするほか、抗がん剤の効果を確認する、転移性がんの病状コントロールを行う、などの重要な利用用途を持つ。現状、専門医はネオアジュバント療法の効果を医用画像から手動で予測し、その導入の有無を判断している。AIの導入は比較的主観的とされるこのプロセスの効率と信頼性を高める可能性があり、自動化への期待が大きかった。
BreastPathQ Challengeでは、参加チームのほとんどは単一のAIアーキテクチャに絞ることなく、複数のアルゴリズムをアンサンブルして使用していたことが大きな特徴であった。なかでも最高のパフォーマンスを示したアルゴリズムにおいては、病理学者のスコアを有意に上回ったことが確認されている。全体傾向として、アルゴリズムは人間にとっても識別の容易な画像ではより高精度に機能し、識別の困難な画像ではその精度がやや低下している事実を認めた。
このグランドチャレンジの結果は「乳がんの治療方針策定にAIが統合される未来は遠くない」という結論を妥当に支持している。本成果はJournal of Medical Imagingから8日、オープンアクセスの研究論文として公開されているので、関心のある読者は参照のこと。
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小さな舟状骨の隠れた骨折をX線画像から識別するAI研究
転倒の際に手首に起きやすい骨折のひとつとして舟状骨骨折がある。X線による骨折の診断が一般的だが、舟状骨のように小さな骨は骨折線が認識しにくく、初期のX線で診断できない例が20%程度あるとされる。X線で診断できない例にはMRIをはじめとした精密検査を要したり、診断の遅れが痛み・関節炎による生活への悪影響、また骨の癒合不良による偽関節などを引き起こす。
JAMA Network Openに発表された研究では、ミシガン大学と台湾のAI医療センターのグループが、「舟状骨骨折をX線で診断する深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN)」を開発している。そのアルゴリズムは2段階のDCNNによって構成されるが、1段階目では舟状骨骨折の有無を感度87.1%・特異度92.1%・AUROC 0.955で識別できた。1段階目で骨折が否定的であった症例に対しては2段階目のDCNNで識別するが、こちらは感度79.0%・特異度71.6%・AUROC 0.810であった。テストデータセットには識別できていなかった22例の隠れた舟状骨骨折が含まれており、2段階のモデルは20例(90.9%)を正しく骨折と識別できた。
同研究のニューラルネットワークによって人間では識別が難しい隠れた骨折を検出できる可能性が示された。X線のみでの骨折の診断能力を向上させることは、金銭的なコスト問題の解決にもつながり、高度な検査機器を有しない一般診療所における診断・治療の質の向上につながることが期待できる。
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医療現場を邪魔しないロボット用AIナビゲーション
医療従事者の負担軽減のため、資材搬送や物資補充の業務など医療現場で働く自律移動型ロボットの利用ケースが増えている。しかし、救急の治療室など人の流れが過密な場所や、一時的であれ患者が廊下に配置されるような環境では、ロボットが治療の妨げにならないように配慮するナビゲーションシステムが必要となる。
5月30日~6月5日まで、中国西安で開催予定の学会 International Conference on Robotics and Automation(ICRA 2021)では、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のチームによる研究成果「救急部におけるモバイルロボットのソーシャルナビゲーション」が発表される。同研究では、「Safety Critical Deep Q-Network(SafeDQN)」というAIシステムによって、空間内の人の集まり、人がどれだけ速く・急に動いているかをアルゴリズムが判定し、その邪魔にならない移動経路をロボットへ指示する。アルゴリズムは、「Trauma: Life in the ER」や「Boston EMS」といったYouTubeにアップされている医療系のドキュメンタリー番組など、約700本のビデオセットから訓練された。
研究チームによると、SafeDQNは従来のナビゲーション手法3種と比較し、救急部を模擬した環境で、最も安全かつ迅速な移動経路を生成できた。人間が中心となる環境で動作する「ソーシャルロボット」にとって、安全性は最も重視される要素である。同システムの発展によって、複雑な病院環境とそこで働く人々の活動を理解して動くことのできるロボットが、患者の生命予後改善に貢献する将来像が期待される。
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主要心血管イベントへのAIリスク予測
主要心血管イベント(MACE)は心血管系臨床試験で広く用いられている複合エンドポイントで、心血管死・非致死性心筋梗塞・脳卒中などが含まれる(編集部注:内包する疾患群についての詳細な定義が緩やかに異なることはMACEの問題点で、試験結果の比較可能性を低めている)。MACEリスクのある患者を早期に特定し、適切な介入による予防を目指すAI研究が、オーストリア・グラーツ医科大学などの研究チームによって進められている。
Studies in Health Technology and Informaticsから7日公開されたチームの研究論文によると、MACE患者29,262人を含む128,000人以上の電子カルテ記録から機械学習アルゴリズムを導いたという。フィルタ法および組み込み法による特徴量選択により、モデリングに用いる826の特徴量を得た上で、ある時点から5年間のMACE発生を予測する複数の機械学習モデルをトレーニングした。ランダムフォレストモデルはAUC 0.88で、最高のキャリブレーションと識別性能を達成した。
研究チームはテストデータでの優れたパフォーマンスを強調しながら、「真の臨床的有効性を決定するには前向き研究の実施が不可欠」として、研究継続の意向を明らかにしている。なお、本研究に類似する先行研究として、本年1月にThe Lancetから公開されたこちらの論文が非常に示唆的である。関心のある読者は参照のこと。
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全身麻酔の深度を予測するAI研究の発展
全身麻酔時、麻酔科医は臨床経験に基づき、患者の心拍・呼吸・動作などからその意識状態を推測している。MITのグループから発表された「プロポフォールによる麻酔深度を管理するディープラーニング手法」を以前に紹介した(過去記事)。当時、仮想環境で施行されていた研究を発展させ、「実際の手術患者で麻酔薬の種類に応じて意識状態を評価するアルゴリズム」として公表された。
MITの研究所 The Picower Instituteからのニュースリリースでは、PLOS ONEに掲載された「脳波の機械学習によるGABA作動性麻酔時の無意識状態の分類」という同グループの成果を紹介している。研究チームは健康なボランティア7名にプロポフォール麻酔を導入し、リアルタイムに脳波から意識状態を分類するAIアルゴリズムを構築した。これを別の3名で交差検証したところ、AUC 0.99という優れた性能を示していた。さらに「背景の全く異なる27名」を実際の手術患者から抽出してモデルをテストしたところ、AUC 0.95-0.98を達成し、高い汎化性能が確認された。また、プロポフォール同様、GABA受容体への神経メカニズムで作用する麻酔薬セボフルランを投与された17名の患者においても、意識分類におけるモデルパフォーマンスとしてAUC 0.88-0.92が得られている。
同モデルにより、脳波からの無意識状態の予測が、同じ作用機序をもつ複数の麻酔薬で汎用できる可能性が示された。そして、20代の若者を中心とした学習データから構築されたアルゴリズムが、背景のばらついた平均年齢の高い手術患者でもうまく適用されている。著者のひとりBrown氏は「さらに数百のケースに臨床試験を拡大してアルゴリズムの性能を確認し、より幅広い違いが現れるか見極めたい」とする。この研究アプローチは、適切な麻酔深度を自動制御する輸液ポンプのような装置開発へつながることも期待されている。
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EARN – 転移性乳がんのドライバー遺伝子を予測する機械学習アルゴリズム
原発性乳がんの診断と予後に関連するマーカーは種々同定されているが、がんの攻撃性に影響を与えるドライバー遺伝子はその理解が限定的である。イラン・パヤメヌール大学の研究チームは、アンサンブル学習により、転移性乳がんのドライバー遺伝子を評価する機械学習アルゴリズムを構築し、新たな意思決定戦略を提唱している。
BMC Medical Genomicsから7日公開されたチームの研究論文によると、450の転移性乳がんサンプルからなる体細胞変異データを利用し、このアンサンブル分類器を導いたという。EARNと名付けられたこのアルゴリズムは、人工ニューラルネットワーク・ランダムフォレスト・非線形ベクターマシンのアンサンブルであり、転移性乳がんにおけるドライバー遺伝子候補を明らかにする。研究チームはこのうち、上位100の遺伝子に対して経路濃縮分析を用いることで、転移性乳がんの新しい遺伝子セットパネルを提案している。
転位性乳がんの結果を、浸潤性乳管がんの原発腫瘍サンプルにおける出力と比較したところ、ROC-AUCは99.79%にも達していた。また、これらの結果は個別の分類器を活用する場合よりも有意に優れたパフォーマンスを示した。著者らは「アンサンブルアプローチを利用したこの研究成果は、全ゲノム・エクソームシーケンスの必要性を排除するような、コンパクトなターゲットパネルの設計に役立つ」としている。
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ドイツ国内初となるAidocの採用 – Unfallkrankenhaus Berlin
イスラエルの医療画像AIスタートアップ「Aidoc」は、2016年の設立以降、医療画像AIのトップランナーとしての地位を確立してきた。米FDA認証7種の他、ヨーロッパ規制当局からのCEマーク9種を得て、世界各国で順調なシェア拡大を続けている。
Aidocのプレスリリースでは、ドイツの医療センターUnfallkrankenhaus Berlin(ukb)が、同国内で初めてAidocのAIソリューションを導入したことを報じている。ukbは救急医療に重点を置く公立病院BGグループの一員で、昼夜を問わない患者受け入れ状況から負担が大きく、AIによる医療の効率化が待望されていた。また同医療センターは、20の地域病院に遠隔放射線診断サービスを提供しており、地域全体の患者が最新の医療画像AIの恩恵を受けられるようになる。
ukbで神経・放射線医学研究所所長を務めるMutzw教授は「AidocのAI実用化は、一刻を争う放射線診断をより安全なものにする大きな一歩です。これは私たちのチームにとってAIを使う初めての経験ともなります」と述べている。世界有数の医療水準を誇るドイツ国内で、Aidocによるサービスの価値が認識されていくか、今後の動向にも注目したい。
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Shift Technology – シリーズDラウンドで2.2億ドルを調達
保険業界向けの自動化・最適化AIソリューションを提供するShift Technologyは6日、同社のシリーズDラウンドとして、新たに2.2億ドル(約240億円)の資金調達を行ったことを明らかにした。これによってこれまでの調達額は3.2億ドルにおよび、時価評価額は10億ドルを超えることとなる。
Shift Technologyによるニュースリリースによると、Advent Internationalが主導したシリーズDラウンドには、Avenir、Accel、Bessemer Venture Partners、General Catalyst、Iris Capitalなどが名を連ねた。新たな調達資金は「AIおよびデータサイエンスを主要保険プロセスに適用することで、顧客体験に革命を起こす」という同社ビジョンの推進に活用される。
Shift Technologyは現在、25カ国100を超える保険会社にサービスを提供しており、これまで延べ20億件もの保険金請求を分析した実績を持つ。同社CEOのJeremy Jawish氏は「AIシステムは保険契約を巡るあらゆるプロセスを自動化・最適化するが、我々はまだ実現可能性のある領域のほんの一部を達成したに過ぎない」としており、さらなる飛躍を目指すことを明らかにしている。
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難聴の社会的背景からうつ病を予測するAI研究
難聴がもたらす影響として、社会的な孤立やうつ病のリスクなどが指摘されてきた。米国の眼科・耳鼻科専門病院として著名なMassachusetts Eye and Earのグループは、「難聴データに対する機械学習モデルからうつ病発症を予測」するAI研究を行っている。
学術誌 The Hearing Journalに収載された同研究では、米国国立衛生統計センター(NCHS)が実施している公衆衛生調査プログラム NHANES: National Health and Nutrition Examination Surveyのデータを用いて機械学習モデルを構築し、主観および客観的な聴力データからうつ病スケールのスコアを正確に予測できるか検証した。その結果として、うつ病スケールが高得点となることへの最も影響力のある予測因子は、閾値や単語認識スコアのような客観的な聴力検査の変数ではなく、より機能的な次元の因子、すなわち難聴の社会的背景が上位を占めていた。
難聴が社会的孤立につながるという結果は、コミュニケーション能力の低下などを考えれば直感的に理解できる。一方で同研究の結果から著者らは「従来の補聴器を利用した難聴治療によって社会的孤立やうつの状態が改善できるという単純なものではない」と考察している。つまり、「単なる音の増幅で客観的な聴力検査データを改善しても、難聴による社会的問題の改善は容易ではない」という仮説を支持する結果であった。今回のAI研究によって「従来考えられていた以上に、難聴の社会的側面がうつ病の発症に影響している可能性を聴覚ケア専門家は認識すべき」と著者らは強調している。そのうえで、社会的ダイナミズムを最適化する聴覚リハビリテーション戦略の必要性を提起している。
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スタンフォード研究 – 手術後の長期オピオイド使用を予測する機械学習アルゴリズム
麻薬性鎮痛薬であるオピオイド系鎮痛薬はその離脱困難や乱用が問題となる。特に米国において深刻な社会問題となっているが、このほどスタンフォード大学の研究チームは、青年期の外科手術後患者において「オピオイド使用が長期化するリスクを予測」する機械学習アルゴリズムを構築した。
研究チームが3日、Anesthesia & Analgesia誌からオンライン公開した研究論文によると、2011年から2017年まで7年間における保険請求データベースに基づく手術症例データからこのアルゴリズムを導いたという。対象となったのは12~21歳の青年期にある患者群で、ランダムフォレストや勾配ブースティング決定木、XGBoost、ラッソロジスティック回帰など複数の機械学習モデルを利用し、患者情報・臨床データから「術後3~6ヶ月後にオピオイドの処方あり」を予測するアルゴリズムをトレーニングした。
186,493の症例に対して8,410(4.51%)にオピオイド長期使用が認められたが、最高の識別パフォーマンスを示したアルゴリズムではAUC 0.711となり、特定の手術ではさらに高精度な予測力を示していた(脊椎固定術で0.823、歯科手術で0.812など)。また、オピオイド長期使用と最も関連する変数は「術前1年間でのオピオイド使用歴」であった。研究チームは「この機械学習アルゴリズムが中等度から高度の予測力を有し、オピオイド長期使用における患者リスクの評価および予防措置の実施に貢献する可能性がある」ことを指摘している。
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