医療とAIのニュース 2021
年間アーカイブ 2021
人種バイアスは除去できるか? – 網膜血管から人種を識別するAI
眼底写真の網膜血管マップ(RVM: Retinal Vessel Map)を「グレースケール」として色素情報を除くことで、理論的には人種を識別する特徴は残らないと考えられる。しかし、「人種バイアスを取り除こうと試みても、黒人/白人で網膜静脈の人種差をAIが識別できてしまう」という研究成果が発表された。
arXivで公開されている本研究では、未熟児網膜症のスクリーニングを受けた乳児のグレースケールRVMから人種固有の特徴を識別できるか評価している。その結果、構築された畳み込みニューラルネットワークは黒人/白人の乳児をほぼ完全に識別することができた。網膜血管のパターンが黒人と白人で生理学的に異なること、あるいは構築したAIアルゴリズムが「除去した情報と異なる方法で色素情報をセグメント化」していること、などが要因として考察されている。
著者らはどちらの要因にしても、AIモデルは肉眼レベルでは認識できない人種間差を捉え、バイアスの発生リスクは伴い続けると述べている。医療における人種差を「平準化」する難しさは、AIの活用を考える上で最大の課題のひとつとして残り続ける。
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子どもの精神疾患発症を予測するネットワーク分析
22番染色体の微小な欠失は約4,000人に1人の頻度で存在し、思春期以降に統合失調症などの精神疾患発症につながる可能性が指摘されている。しかし、実際に精神疾患の罹患に至るのはその3分の1程度と試算され、潜在的な高リスク者の識別は容易ではなかった。このような子ども達における「将来的な精神疾患発症リスク」を検出するため、ジュネーブ大学(UNIGE)のチームはAIツールを用いた研究を行っている。
UNIGEの29日付プレスリリースでは、オープンアクセス誌 eLifeに発表された同AI研究を紹介している。対象要因間の接続関係を視覚化するネットワーク分析を用い、22番染色体の微小欠失を持つ70名の子どもを対象に、小児期から大人になるまでの観察で得られた40の変数を考慮してアルゴリズムを構築した。変数には、幻覚・気分・罪悪感・ストレス管理法のほか、両親からのアンケート調査記録などの要素が含まれている。その結果、評価時点から3年後の心理的問題の発生を予測する重要な変数をネットワーク分析によって明らかにした。本研究成果により、「不安を抱えた子どもが、思春期になってストレスに対処できなくなると精神疾患を発症する」という典型例が浮き彫りとなった。
精神疾患の発症は染色体のような神経生物学的なものだけではなく、環境要因を含む多くの因子に依存するため、関連性の高い素因をどう見極め、リスクの高い子どもに適切な早期介入をどう実現するかがポイントとなる。精神疾患発症を予測することのみならず「それぞれの子どもに特有となる発達の軌跡を解析するAI手法のユニークさ」を研究チームは強調している。
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患者が抱く「医療AIへの6つの想い」
ヘルスケアにおけるAI利用が急速に拡大する一方、テクノロジーの安全性や信頼性に不安を抱く人々もいる。米メイヨークリニックの研究チームは、患者集団で構成される複数のフォーカスグループによって得られた成果をまとめ、このほどnpj Digital Medicineから公開した。
本研究論文では、ミネソタ州とウィスコンシン州のメイヨー・プライマリーケアの患者名簿から募集した男性44名および女性43名を対象として、15のフォーカスグループを形成、その議論の結果をまとめている。これによると、医療AIに関する患者意見のほとんどが「6つの明確なテーマ」に分類できるとのこと。1. 医療AIへの期待と安全保証の要求 2. 「医師がAIの安全性を確保すること」への期待 3. 選択と自律性の保持 4. 医療費・保険に関する不安 5. データの整合性確保 6. テクノロジー依存への危機意識 となっている。
特に5. データの整合性については興味深い視点で、つまり自身のカルテに「不正確な表記や明確な矛盾」が含まれていることを認識しており、これをAIに「事実」として伝えることで誤った治療選択など、健康上の不利益を被ることを恐れているという。これは、人間の医師であればコミュニケーションによってある程度不都合を回避できる曖昧さや不正確が、AIでは許容されない可能性を認識していることも意味する。真に有益で信頼性の高い医療AIシステム構築に向け、種々の示唆を与えてくれる研究成果と言える。
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COVID-19の感染力増大を予測するAIツール
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が進化を続けるにつれ、宿主への感染能力が高まり、宿主が保有する免疫システムを効果的に回避する新たな亜種の発生が予想される。SARS-CoV-2は、ウイルスのスパイクタンパクがヒト細胞上のACE2受容体に結合することで、感染の第一歩を踏み出す。米ペンシルベニア州立大学の研究者らは、ウイルスのスパイクタンパクがヒト細胞との結合性を向上し、感染力を高める可能性のあるアミノ酸変化を、合理的な精度で予測できる新しいAIフレームワークを開発した。
米国科学アカデミー紀要(PNAS)に収載された本研究論文によると、研究チームは、ニューラルネットワークを含む2段階の計算手順により、SARS-CoV-2のスパイクタンパクにおける受容体結合ドメイン(RBD)にどのようなアミノ酸変化が起こり、それがヒトや他の動物細胞のACE2受容体に結合する能力に影響を与えるかを予測するモデルを作成した。その結果、あるアミノ酸変化が結合親和性を向上させるか悪化させるかを、80%以上の精度で予測できたとする。
このモデルでは、アルファ・ベータ・ガンマ・デルタの各バリアントなど、既に観察されている種々のSARS-CoV-2におけるアミノ酸変化の結合強度を予測することに成功しており、未知あるいは新規の変異体における感染力予測への有効な計算手段となる可能性がある。ゲノムサーベイランスで得られた膨大なウイルス配列データを理解することに役立つ本ツールは、新型コロナウイルス感染症の感染管理施策に資する貴重な科学的示唆を与えてくれる。
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米FDA – AI医療機器リストを公開
米国の医療機器規制当局である米食品医薬品局(FDA)は、情報の透明性とアクセスを高めることを目的として、「米国内で合法的に市販されているAI医療機器リスト」を公開している。
同リストは、2022年9月22日付の情報を最新として(日本時間9月30日10時現在)、一般に入手可能な公開資料に基づき、FDA自らまとめたものとなる。現時点で、最新版のデータベースには343件の承認済みAI医療機器が登録されている一方、AI医療機器を「網羅および包括した資料ではない」点についてFDAから注釈が加えられている。最も古いエントリーは1997年に発表された「Compumedics Sleep Monitoring System」という、睡眠障害の診断を補助するモニタリングシステムである。
これまでにも有志によるデータベースが様々な形で公開されていたが、FDAのリストはひとつの業界基準になると考えられる。FDAによるとリストは今後定期的に更新予定であり、AI医療機器開発に関心のある研究者や、同分野への参入を目指す企業の役に立つことが期待されている。
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ギリシャの対COVID-19国境管理AIシステム「Eva」
COVID-19をきっかけに大規模な国境封鎖措置をとった各国は、渡航再開にあたってどのように入国者の感染をチェックするか検討を求められた。多くの国々ではリソースの限界などを理由として、全ての入国者、特に無症候の者を即時検査するという選択肢を取ることができなかった。このようななか、ギリシャはAIを活用した入国者監視を行っており、その成果が学術誌 Natureに発表された。
Nature誌によると、ギリシャ当局は2020年8月から11月にかけて機械学習アルゴリズムを用いて、COVID-19の検査を行うべき入国者を決定するシステム「Eva」を立ち上げた。搭乗者情報を参照することで、渡航歴だけではなく、年齢や性別を含む属性データ等に基づき構築された機械学習アルゴリズムは、従来のランダム検査と比較して1.85倍、出身国などに基づくリスク指標と比較して1.25~1.45倍の無症候感染者を特定することができた。また観光シーズンのピークには、ランダム検査と比較して2~4倍の感染者を検出できた。この結果は「従来型の国境管理政策の有効性について重大な懸念を抱かせる」と著者らは述べている。
この政策決定は、米南カリフォルニア大学でデータサイエンスを専攻するギリシャ出身の研究者 Drakopoulos氏が、Mitsotakis首相とタスクフォース責任者に向けて、アドバイスが必要かどうかメールで問い合わせた数時間後に、首相から直接返信を受けたことを発端とする。政策立案者の熱意に後押しされ、Drakopoulos氏の意見を取り入れながら開発されたEvaシステムは、AIとリアルタイムデータが水際対策への有効性を示した事例として、各国にとって重要な示唆があるだろう。
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スマートEHR – 医師の思考プロセスに基づく情報抽出を実現
AIおよびヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の専門家が共同し、臨床医が診療にあたって「最も必要とする情報のみ」を表示することのできるEHR(電子健康記録)が設計された。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のニュースリリースでは、同大学とベス・イスラエル・ディーコネス医療センターが開発したこのシステムについて、従来型EHRとの対比で詳細を説明している。EHRは一般的に、過去情報を異なるページに保存し、処方歴や検査記録をアルファベット順または時系列で記載するため、臨床医は必要な情報を見つけるためにデータの検索を余儀なくされる。一方、このスマートEHRでは、医師の情報検索・思考パターンに近付け、診療に直接資する情報抽出の自動化を実現するというもの。具体的には、医師は現在の症状を評価する際、内服薬による影響を考え、現在の処方薬を意識的(あるいは無意識的)にレビューするが、同システムではこのような症状を引き起こし得る内服薬を自動的に抽出表示するなどができる。
研究の中心となっているMITの大学院生Luke Murray氏は「医師の思考プロセスに基づく情報抽出を自動化することで、病因の特定と治療計画の立案など、複雑で重要なプロセスに時間を割くことができるようにしたい」と述べる。なお、本研究成果は、来月オンライン開催されるAssociation for Computing Machinery's Symposium on User Interface Software and Technologyにて公表される。
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世界最大級の「超音波検査による乳がんスクリーニングAI研究」
乳房超音波検査は、乳がん検出で乳房X線検査(マンモグラフィ)を補完する臨床的有効性が示されているが、偽陽性率の高さが問題となる。超音波画像による乳がん検出において読影医をAIがサポートし、感度を維持しながら、偽陽性率と生検数を減少させる研究が米ニューヨーク大学ランゴーン医療センター(NYU Langone Health)のグループによって行われている。
NYU Langone Healthの24日付プレスリリースでは、学術誌 nature communicationsに発表された研究成果を紹介している。本研究は、2012年から2018年の間に同センターを受診した143,203名の女性を対象としており、288,767件の乳房超音波検査に基づくAI研究は世界的に最大規模となる。構築されたAIシステムは、読影医と組み合わせることで偽陽性率を37.3%減少し、生検数を27.8%減少させることができた。
乳房超音波検査に機械学習を適用しトリアージツールとする取り組みが成功すれば、マンモグラフィが苦手とする「乳腺組織の密度が高い状況での乳がん検出」に効果的となり、マンモグラフィを一部代替できる可能性もある。研究グループでは、AIソフトウェアのさらなる改良を目指し、乳がん家族歴や遺伝子変異などの追加的リスクを含めた患者情報の拡充を計画している。
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画像解析AIの性能向上に読影報告書を活用
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループは、放射線科領域で取り扱われる画像解析AIの性能向上を目指し、医療画像に付随する膨大な「読影報告書」に注目している。画像情報とテキスト情報を同時に解析し、相互情報として運用することで強力な性能を達成できるか、新たなアプローチに関心が集まっている。
MITが27日明らかにしたところによるとこの手法では、まずニューラルネットワークに、肺のX線画像から特定疾患の重症度を判断できるようにし、数字情報として表現させる。またさらに別のニューラルネットワークを用意し、今度は読影報告書内のテキスト情報を別の数字の集まりとして表現させる。そして、3番目のニューラルネットワークが、これら画像とテキストの情報を統合し、2つのデータセットの相互情報を最大化するように調整する。MITのPolina Golland教授は「画像とテキストの相互情報量が多いということは、画像はテキストを、テキストは画像を高度に予測しているということだ」と話す。
本アプローチは画像や読影報告書全体を取り扱うのではなく、報告書を個々の文章に分け、その各単一文章が「画像を関連箇所に分解する」ことで成立する。これにより、1. 画像全体やレポート全体を見るよりも、より正確に疾患重症度を推定することができ、また、2. モデルはより小さなデータを対象とするので学習が容易で、学習サンプル数も多くなる、としている。画像およびテキストを対象としたこの新しい手法は、医療内外での活用が検討されている。なお、本研究成果は、今秋開催される医用画像コンピューティングに関する国際会議「MICCAI 2021」で発表される。
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スマートフォンによる大麻中毒の検出
米スティーブンス工科大学やラトガーズ大学などの共同研究チームは、スマートフォンのセンサーデータを利用し、実世界環境での大麻中毒エピソードを特定する機械学習モデルを構築した。研究成果は短報としてDrug and Alcohol Depedence誌に収載され、中毒患者の検出と管理に新たな可能性を示している。
チームの研究論文によると、週に2回以上の大麻使用があるペンシルベニア州ピッツバーグの若年成人(18-25歳)を対象として、最大30日間に渡るデータ収集を行ったという。これには1日3回の電話による聞き取り調査、自己申告によると大麻使用報告(使用時刻や主観的な大麻酔いの程度等)、スマートフォンセンサーによる連続データ取得などが含まれていた。チームはこれらに基づき、大麻酔いの程度を3段階(酔っていない/わずかに/中等度)に識別する複数の機械学習モデルを検証した。結果、大麻中毒者の日常を反映する可能性のある「時間」を特徴量に組み込むことで、90%の識別精度を達成した。また、主観的な大麻中毒を検出するためのスマートフォン上の重要な指標として、「移動」(GPS)と「動き」(加速度センサー)が同定された。
本研究は「実世界環境における主観的な大麻中毒を、スマートフォンのセンサーを用いて検出することが可能」であることを明らかにした。今後、大麻の使用頻度がそもそも低い群や他の年齢層を含め、多面的なモデルパフォーマンスの評価へと進む必要がある。一方、スマートフォンの普及率と世界的な中毒者数を考えれば社会実装による直接的インパクトが大きく、期待の大きい研究テーマと言える。
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がん治療を変革する「ネオアンチゲンの免疫反応予測AI」
ネオアンチゲン(Neoantigen)というがん細胞表面に産生されるペプチドは、抗原として免疫応答を起こす。T細胞がそのネオアンチゲンを認識できるとがん細胞を攻撃できるが、ネオアンチゲンを認識できないとがんの成長を許してしまう。T細胞に認識されるネオアンチゲンを特定できれば、免疫チェックポイント阻害薬などに代表される「がん免疫療法」の開発や治療反応の予測に役立つ。しかし、何万種類ものネオアンチゲンから、T細胞が反応を起こすものを予測することは、時間・技術・コストの観点から容易ではなかった。
米UT Southwestern Medical Centerでは「AI手法によってどのネオアンチゲンがT細胞に認識されるか特定する研究」を行っており、その成果が学術誌 Nature Machine Intelligenceに発表された。pMTnetと名付けられた深層学習ベースのアルゴリズムは、ネオアンチゲン・主要組織適合遺伝子複合体(MHC)・T細胞という3つの構成要素が結合するかしないかの組み合わせデータを学習し、免疫反応を予測することができる。どのような患者が免疫チェックポイント阻害薬への治療反応が良く、全生存率が高いかも予測できる。なお、pMTnetはGitHub上で公開されている。
研究グループは「ネオアンチゲンとT細胞受容体の結合を予測することはこれまで非常に困難とされていたが、我々は機械学習によって前進している。この知識はがんと闘うために利用できるかもしれない」とする。がん免疫療法が直面している大きな課題を解決できるか、pMTnet研究の進展が期待される。
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英Sensyne Health – グローバルデータ分析プラットフォームの衝撃
Sensyne Healthは英オックスフォードに所在する医療AIスタートアップで、シリアルアントレプレナーでありながら英議会議員も務めるPaul Drayson男爵が率いる異色の組織だ。英国民保健サービス(NHS)が保有する大規模データを活用すること、設立後わずか1年でのIPOを達成したことなど、これまで際立った成果を示し続けてきた。同社はこのほど、ヘルスケア・ライフサイエンス分野向けに、AIを活用したグローバルなデータ分析プラットフォーム「SENSIGHT」の提供を開始したことを明らかにした。
Sensyne Healthによるプレスリリースによると、このデータ分析プラットフォームは匿名化されたリアルワールドデータに産業規模でアクセスすることさえ可能にし、複数の治療分野にまたがる知見抽出を実現するというもの。専門知識を要さず容易に使用できるAIアルゴリズムなどの分析ツールを備えており、患者データおよび疾患領域の急速な拡大によって、2024年までに1億人の患者データを取り扱うことを予定している。ポイントとなるのは、SENSIGHTは「データそのものは提供しない」点で、Sensyne社が保有する多種多様なデータセットを迅速に照会し、「インテリジェントな分析とデータに基づく洞察」を提供する。本プラットフォームを利用可能となる登録者は、利益相反を含む事前審査が行われる。
また興味深いことに、研究者は当該プラットフォーム上で互いにコミュニケーションを取ることができ、仮想的な共同研究を行うことができる。これは、ヘルスケアおよびライフサイエンス領域の専門家をつなぐ新しい形としての「科学研究ネットワークの形成」を意味しており、これまで専門家を集めることが困難であった特定の研究分野や、少数患者において満たされていない医療ニーズのある領域など、マイナーであっても共通の関心を持つグローバルなコミュニティが形成されることが想定される。Sensyne Healthの新しい取り組みが、今まさに研究のあり方さえも変革しようとしている。
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乳がん再発リスク予測AIモデル – 欧州臨床腫瘍学会 ESMO 2021より
乳がんの長期予後は良好となってきており、患者全体で5年生存率87%程度との推計がある。初期治療後に再発する10%前後の高リスク患者を特定するため、また一方で化学療法の必要性が少ない低リスク患者の生活・仕事に影響を及ぼす「不必要な治療」を回避するため、再発リスクの正確な分類が課題となっている。
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2021年次総会において、フランスのAIスタートアップOwkin社とがん研究機関Gustave Roussyが共同で「病理スライド画像と臨床データにディープラーニングを適用した乳がん診断ツール」を発表している。早期乳がんでエストロゲン受容体陽性(ER+)、HER2陰性(HER2-)の患者1,437名を対象とした研究プロジェクト「RACE AI」から、再発リスクを予測するAIモデルを構築し、5年遠隔再発の予測でAUC 81%を達成した。
Gustave RoussyのGarberis博士は「このモデルは早期乳がん患者の再発リスクを予測し、低コストで治療方針を決定する有望なツールになるだろう」と語る。共同研究に参加しているOwkin社は、CB Insightsが毎年公表する「世界の有望AIスタートアップ」(過去記事参照)の2021年版にも選出されており、ESMOには「肝臓がんの進行予測AIモデル」も発表するなど業界における存在感を強めている。
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ARアプリでクモ恐怖症を解消
クモ恐怖症は、特定の動物に対する恐怖症(phobia)として日常生活に不便をともなう。治療を目的として恐怖の対象に曝露することが有効となるが、治療法それ自体への強い抵抗感から実際の治療に行き着く例は少ない。スマートフォン用の拡張現実(AR)アプリで、クモ恐怖症を解消する研究がスイス・バーゼル大学のグループから発表されている。
バーゼル大学のリリースでは、恐怖症改善ARアプリ「Phobys」が紹介されている。学術誌 Journal of Anxiety Disordersに発表された研究成果によると、現実世界に投影される3Dクモモデルによる30分程度のトレーニングを2週間に6回受けることで、治療後に本物のクモへの恐怖心が有意に低下し許容範囲に近づくという結果が得られた。研究グループのひとりAnja Zimmer氏は「クモ恐怖症の人にとって、本物のクモよりも仮想のクモの方が向き合いやすい」と、同等の治療効果が得られる仮想クモの利点を説明する。
アプリはバーゼル大学からのスピンオフ企業GeneGuide AGの事業部「MindGuide」により改良を重ねられている。アプリは軽度のクモ恐怖症であれば自己の判断で利用可能で、深刻な恐怖症の場合は専門家の指導のもとでの使用が推奨されている。ARクモに恐怖を感じるか無料で試すことができ、恐怖心軽減のトレーニングプログラムはアプリ内で有料購入となっている。
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米サンフランシスコに本拠を置くAI Health社は、AIとIoTに基づくシンプルで費用対効果の高いヘルスケアソリューションの提供を行っている。同社はこのほど、糖尿病治療と管理に向けたAIシステム構築を目指し、グアム島における大規模な研究計画の開始を明らかにした。
AI Health社による21日付けプレスリリースによると、グアム在住の患者、現地病院やクリニック、検査機関、保険会社と連携し、あらゆるヘルスデータをAIプラットフォームに集約するという。これにより慢性疾患、特に糖尿病発症に関わるリスク因子の特定と治療における新しい洞察を得ることを主要な目的とする。研究を主導するのは関連領域の著名医師・研究者らで、糖尿病テクノロジーのパイオニアであるDavid C. Klonoff氏や、糖尿病の最適化治療で知られるFrancisco J. Pasquel氏らが含まれる。
米疾病予防管理センター(CDC)の推計によると、グアムにおける糖尿病有病率は米国のほとんどの地域よりも高く、チャモロ人の血を引く成人では18.9%と6人に1人が糖尿病に罹患する。Klonoff氏は「グアムは、非常に大きな代表サンプルを提供してくれるだけでなく、民族の多様性、ほとんどの慢性疾患の存在、そして洗練された医療コミュニティがある。また、島が小さいので、管理された効率的な研究を行うことができ、医療エコシステムにおける主要なステークホルダーの多くに直接関与することができる」と地の利を生かした研究計画に期待感を示している。
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AIによるポルノ誘導が健康被害を招く可能性
英国の教育慈善団体であるReward Foundationの研究者らは、「ポルノを頻繁に利用する個人の精神的・身体的な健康被害の割合は加速しており、AIはポルノ中毒だけでなく、より暴力的な素材へのエスカレーションを促進する上で重要な役割を果たしている」との報告書を公開した。同団体はRoyal College of General Practitionersに認定され、ポルノの過剰使用によるリスクについて医療従事者への教育・啓蒙を行っている。
Current Addiction Reports誌からこのほど公開された報告書によると、Reward FoundationでCEOを務める英ケンブリッジ大学のMary Sharpe氏と、同団体理事長のDarryl Mead氏は、ポルノが公衆衛生上の深刻な問題に発展した原因として、AIが果たした2つの主要な役割を挙げている。商業用ウェブサイトで使用されているAIアルゴリズムは「消費者を操作して、より強い興奮を与える形態のポルノを見るようにエスカレートさせる」が、消費者はこれに弱いとした上で、1. 「エスカレーションを促すアルゴリズムによって、ポルノユーザーは時間の経過とともに嗜好が変化」する。さらに、2. AIアルゴリズムは消費者を「2つの方向」(暴力的なコンテンツおよび若者を搾取するコンテンツ)に誘導することができると主張する。
著者らはまた、「問題のあるポルノ使用(PPU:Problematic Pornography Use)をしている人は、より刺激的でリスクの高い素材への欲求が高まり、その使用を抑制する能力が低下する方向に脳の変化が生じている」点を指摘する。一方、事態の改善策としては、巨大なポルノ産業を相手に集団訴訟を起こすことではなく、年齢認証や教育プログラム、公衆衛生キャンペーン、健康警告等による予防的戦略が有効とする。同時に、政府や政策立案者は市民を保護する観点から、ポルノ企業に自社製品・サービスの害について責任を負わせる余地がある点にも言及している。
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COVID-19の転機を予測するフェデレーテッドラーニング研究
フェデレーテッド・ラーニング(FL: Federated Learning)は、複数機関からのデータを用い、匿名性を維持しながらAIモデルを学習する手法である。データ共有に関する多くの障壁を回避できるとして、NVIDIA社を中心に応用が進んできた(参照: NVIDIA社の紹介動画)。英ケンブリッジ大学では「FLによってCOVID-19患者の人工呼吸治療と死亡を予測するAI研究」が行われている。
ケンブリッジ大学のリリースでは、学術誌 Nature Medicineに発表された同研究「EXAM: EMR CXR AI Model」が紹介されている。EXAMはこれまでで最大級かつ最も多様な臨床データが用いられたFL関連研究として、北米・南米・欧州・アジアから約10,000名のCOVID-19患者データ(電子カルテおよび胸部X線画像)を解析した。その結果、COVID-19患者における外来到着24時間以内の「人工呼吸治療の導入または死亡」の予測について、AIモデルは感度95%と特異度88%を達成している。
2020年3月〜4月にかけて約2週間あまりの学習データで、五大陸にまたがる汎用的で高品質のAIモデルを構築できたことは、FLによる画期的な成果として新たな基準となり得る。ケンブリッジ大学のFiona Gilbert教授は「最高の放射線科医のパフォーマンスに匹敵するソフトウェアを開発することは容易でないが、これは真の変革をもたらす希望となる。フェデレーテッド・ラーニングによって多様なデータを安全に統合できれば、学術界はより早くに変革を実現できるだろう」と語っている。
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大人と子どもは「観察の仕方」が異なる
米ニューヨーク大学の研究チームは、大人と子どもにおける「他者の観察方法」について、明らかな差異があることをアイトラッキングと深層学習を用いた研究によって明らかにした。成果はこのほどScientific Reports誌から公開されている。
チームの研究論文によると、未就学児と成人のそれぞれ22名に「ハンマーでペグを打ち込む人の動画」を視聴させたという。動画内では効率的に道具を用いている様子のみではなく、非効率な使い方も併せて示すことで、視聴時の注視点の違いなどを検討した。アイトラッキングによる検証の結果、大人は「道具の握り方」の観察に最も多くの時間を割いていたのに対し、子どもは全体観察によって握り方への注意が乏しい事実が明らかにされた。また、視線に対する深層学習分析でも「大人は効率的な把持と非効率な把持を区別している」一方、子どもはこれらを区別しておらず、瞳孔径や神経活動のモニタリングでも同等の結果を示していたとのこと。
著者らは「大人は他者の行動効率を知覚できるのに対し、子どもはできない」点について、「行動知覚の運動共鳴理論から予測されるように、観察者自身の運動プログラムの活性化は、観察者の運動経験から構築されるため、運動共鳴によって成人にのみ差動反応が生じることを示唆している」とする。これらの事実は、子どもが複数ステップを必要とする処理が苦手である理由について、神経プロセスからの解明を補助する科学的エビデンスとして注目を集めている。
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自閉スペクトラム症を持つ人々が見る世界 – ディープラーニングが解き明かす「視点の違い」
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頭の動きで自閉スペクトラム症を識別
関節リウマチへのAI研究 – 腸内細菌叢から治療法を変革
関節リウマチは、関節の炎症と痛みを特徴とする慢性疾患で、骨の破壊と変形に伴う機能障害を引き起こす。関節リウマチの活動性や進行を予測するバイオマーカーとして、腸内細菌叢「マイクロバイオーム」が有効という仮説のもとに、遺伝子解析とAI技術を用いた研究が米メイヨークリニックで行われている。
メイヨークリニックのニュースリリースでは、学術誌 Genome Medicineに発表された同研究が紹介されている。研究チームでは、関節リウマチ患者32名の便を採取し、腸内細菌叢のプロファイルを解析した。その結果、臨床的に症状が改善した患者とそうでない患者との間で、腸内細菌叢の特徴が有意に異なることが観察された。また、関節リウマチが臨床的な改善を達成できるかどうか、深層学習モデルによって90%の精度で予測することができた。
関節リウマチに限らず、炎症性疾患や自己免疫疾患の多くに腸内細菌叢が関与していると考えられてきた。しかし、マイクロバイオームには食事を含む環境因子や遺伝因子など、多因子が複雑に影響するため、その関連抽出には、計算生物学の専門家と臨床医が強力なパートナーシップを築くことが欠かせない。メイヨークリニックの計算生物学者であるJaeyun Sung博士は「今回の研究成果から、腸内細菌叢を変化させることで関節リウマチの治療効果を高め得ることが考えられ、治療法を大きく変革する可能性が示された」と語っている。
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医療×コンピュータビジョン – 旧式の医療機器からウェブカメラでデータ抽出
リアルタイムでのデータ管理と記録は、あらゆる疾患治療に重要となる。一方で、適切な形式でのデジタル出力に対応しない「旧式の医療機器」が、実際の臨床現場で多く使われている現実がある。カナダ・マニトバ大学の研究チームは、一般的なウェブカメラとコンピュータビジョンによる光学式文字認識を用い、旧式の薬注ポンプ(薬液を正確に定量送液するための点滴用機材)からデータ抽出を行うことができるという研究成果を公表した。
Frontiers in Big Dataからこのほど公開されたチームの研究論文によると、一般的なウェブカメラと無償利用可能なソフトウェアを利用することで、薬注ポンプのリアルタイム画像からデジタルテキストを生成するスクリプトを作成したという。取得した薬理データは、他の生理学的データと一塊にして患者モニタリングソフトウェアに転送することで、従来技術的限界のために個別チェックが必要であった旧式機器を効果的に臨床ワークフローに取り込むことに成功している。
著者らは「この種の技術利用で、ベッドサイドチャートでの人為的ミスを排除できること、旧式医療機器であっても現代テクノロジーへの適応を可能にすること」等に言及し、独創的研究の成果に自信を示す。なお、本研究で構築されたプロトシステムは、関心のあるエンドユーザーが利用できるようにするため、関連するソースコードは全て一般公開されている。
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英NHSで検証が進む「前立腺がんMRI診断AI」
Lucida Medical社の前立腺がんMRI診断AI「PI」が欧州CEマークを取得したことは以前に紹介した(過去記事)。同社は英国NHSが運用するハンプシャー病院(HHNFT)主導のもと、臨床試験「PAIR-1: Prostate AI Research-1」の開始を発表している。
Lucida Medical社によると、同研究では最大2,100人の前立腺がん患者記録から、AIソフトウェアの調整と性能検証を行う。「前立腺がんの見逃しと過剰な生検を低減する」という予備調査の結果に対し、今回の後ろ向きコホート研究によってさらなるエビデンス構築が進むか、NHS病院が保有する高品質なデータに基づく成果が期待される。
英国では毎年4.7万人の男性が前立腺がんと診断され、1.1万人が亡くなっているという推計がある。前立腺MRI検査に必要とされる医療資源の大きさや診断精度のばらつきは、NHSにとって前立腺がん検診にMRIを導入する障壁となっている。AIによる診断プロセス改善の可能性は、領域を問わず今後ますます注目されていくだろう。
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全身3Dイメージでメラノーマを探索する世界最大級プロジェクト
オーストラリアは皮膚がん、特にメラノーマ(悪性黒色種)の発症率が世界で最も高く、年間約28,000人が新たに診断されるとの推計がある。そのため同国は、皮膚がん診断に関する先端技術への研究開発が盛んな土地柄として知られる。
クイーンズランド大学は、3Dイメージングシステムで全身のほくろやシミを追跡し、メラノーマの早期発見を行う世界最大規模のプロジェクト「ACEMID: Australian Centre of Excellence in Melanoma Imaging and Diagnosis」を主導している。同臨床試験では、米Canfield Scientific社の装置「VECTRA WB360」を用い、全身の皮膚を3D画像化しAIによる解析を加えて、メラノーマのスクリーニングを行っている。
ACEMIDでは、皮膚がん研究でオーストラリアを代表する3つの大学、クイーンズランド大学・シドニー大学・モナシュ大学が連携し、遠隔医療ネットワークによる全国データベースが構築され、研究者は撮影された10万枚規模の患者画像にアクセスできる。ACEMIDの概要はクイーンズランド大学医学部のYouTubeチャンネルでも公開されており、こちらも併せて視聴いただきたい。
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認知症患者の介護者向け支援アプリが不足
NPJ Digital Medicine誌からこのほど公開されたレビュー論文によると、アルツハイマー病患者の一般介護者(非専門家介護者)を支援するためのmHealthアプリケーションは現状、全く需要を満たしておらず、領域は常にイノベーターを必要としているという。
米カリフォルニア州ポモナに所在するWestern University of Health Sciencesの研究チームは、その論文の中で「アルツハイマー病の介護者を支援するアプリケーションがほとんど存在しない」ことを指摘している。また、米国立老化研究所(National Institute on Aging)は現在、アルツハイマー病介護者を支援する84件の研究に資金を提供しているが、代表的なmHealth研究には利用可能な技術として包括的な介護者支援が含まれていないという。特に、アルツハイマー病の早期診断とともに、介護者を「患者のケアマネジメントに組み込むための機能」が決定的に不足することに言及する。
介護者のメンタルサポートは広くその重要性が叫ばれているが、病院受診が遅れがちな介護者にとって、日常的介入を実現し得るmHealthアプリは大きな可能性を内包している。著者らは、産官学にわたるmHealth技術の開発者・研究者に注意を喚起しており、「このギャップをチャンスと考える」よう呼びかけている。
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貧困地域における「子宮頸がん撲滅予測モデル」
米ハーバード大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校などの研究チームは、米国における子宮頸がんの撲滅予測モデルを構築した。このなかで、貧困率の低い地域では2030年までに子宮頸がんをほぼ完全に撲滅できるとしたのに対し、貧困率の高い地域では2044年までは撲滅できないことを明らかにし、貧困率が主要な阻害因子となって差を生み出すことを指摘している。
米国では毎年、約14,000件の子宮頸がんの診断があり、年間約4,000人が死亡している。子宮頸がんの90%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされる。2006年に欧米で生まれたHPVワクチンは現在、がんリスクを高めることが知られているものを含め、9種のHPVを予防することができる。米国では9歳から15歳までには2回、15歳から26歳までには3回の接種が推奨されている。
Cancer Epidemiology Biomarkers & Preventionからこのほど公開されたチームの研究論文によると、性感染症で用いられている予測モデルを元に、HPV感染と進行をモデリングしたという。このモデルでは、ワクチンを接種した人としていない人の間でHPVが感染するリスク、HPVが子宮頸がんに進行する確率、子宮頸がん検診の受診率、効果的ながん治療の可能性などを考慮している。貧困率が最も低い地域と最も高い地域を想定した2種類のモデルを作成し、2070年までの子宮頸がん罹患率をシミュレートしたところ、低貧困地域では2030年までに子宮頸がんの撲滅に向けた閾値に到達するのに対し、高貧困地域では2044年まで閾値に到達しないことが明らかとなった。この結果から、高貧困地域では今後50年間に「子宮頸がんの過剰発生が21,604件に上る」と推定されている。
研究チームは「このような健康格差はワクチン接種率の違いによるものだけではない」とする。実際、高貧困地域と低貧困地域で子宮頸がん検診の受診率に差があることが確認されたほか、高貧困地域では、がんを引き起こすものの「ワクチンのターゲットとなっていないHPV型」の発生率が高いことも示されている。これらを踏まえ、研究チームは次なる研究目標として「将来的な格差を解消するためには、どのような政策を取るべきかを明らかにすること」を掲げている。
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AIが肺がん診断を1年早める可能性
肺がんを早期に発見するためにCTスキャンの撮影機会が増える一方、実際に画像をチェックする読影医・放射線科医のリソースには限りがある。その解決策として、多種多様な形でAIによる肺がん検出の試みが発表されてきた。
欧州呼吸器学会(ERS)の国際会議では、フランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)のグループから「深層学習システムによって肺がん診断の1年前に肺結節を検出する研究」が発表されている(抄録番号OA4317)。同研究では、3年間の肺がんスクリーニング試験に参加した1,179名のCT画像からアルゴリズムを構築した。その結果、最終的に肺がんの病理診断に至った177名のうち、実に172名(97%)の悪性腫瘍が画像のみから検出可能であった。また、がん診断の1年前のスキャン画像においては、後にがんが検出される病変部位を152 件で特定することができた。
研究グループは、現状のプログラムでは「がんではない部位を陽性であるとして特定」する“偽陽性”が多く、不要な生検につながらないよう、臨床応用に向けた大幅な改善が必要と考察する。同グループのBenoît Audelan氏は「研究の目的は放射線科医に取って代わることではなく、放射線科医を支援すること」と語り、どの患者をさらに精査すべきか特定できる新システムの開発を計画している。
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呼気から新型コロナウイルス感染を高精度識別
フェイスシールド内に貼り付けたスライドガラスに向かい、「あー」と言うだけで新型コロナウイルス感染が識別できるようになる。米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームは、呼気検体を利用したSARS-CoV-2の新しい高精度識別手法を提案している。
Light: Science & Applications(光学領域の基礎研究/応用研究を取り扱う査読付きオープンアクセスジャーナル)からこのほど公開されたチームの研究論文によると、細胞観察に利用される空間光干渉顕微鏡(SLIM)を用い、ウイルス種の識別を可能とするAIシステムの構築に成功したという。蛍光染色したSARS-CoV-2粒子画像およびSLIM画像からアルゴリズムをトレーニングすることで、ラベルのないSLIM画像からウイルスを高精度に識別できるようになった。AIは、SARS-CoV-2と、H1N1(インフルエンザA)、HAdV(アデノウイルス)、ZIKV(ジカウイルス)などの他ウイルス性病原体とを識別することを学習しており、前臨床試験では、SARS-CoV-2の検出・分類の成功率が96%と極めて有望な成果を上げている。
新型コロナウイルス感染症の診断およびスクリーニングには、迅速かつ正確で、単回施行あたりのコストが低い検査手法が求められてきた。現時点でPCR検査に匹敵、あるいは凌駕する一般検査は得られていないが、本研究成果は全く新しい画像検査手法として実用化される可能性を示しており、業界は大きな期待をもって成り行きを見守っている。
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AIによる緑内障の高感度スクリーニング
緑内障は視力低下や失明の主要な原因疾患であり、社会の高齢化に伴い、世界での有病者は2020年の7600万人から2040年には1億1180万人まで増加するとの推計もある。網膜画像を手作業でチェックする検査プロセスは、時間がかかるとともに専門家の主観的評価に依存するため、AI手法に対する期待が大きい領域でもある。
シンガポールの南洋理工大学(NTU: Nanyang Technological University)では、AIによる緑内障スクリーニングの新しい手法を開発している。学術誌 Methodsに発表された同AI手法では、「ステレオ眼底カメラ(複数の角度の2次元画像を組み合わせることで3次元画像を構成する検査機器)」をアルゴリズムで解析する。その結果、緑内障罹患の検出において精度97%、および感度95%を達成した。精度の安定性を維持しながら、特に感度については従来の深層学習ベースの手法で最高レベルであった89%を上回ったと、研究グループは成果を強調する。
今後、研究グループはソフトウェアを携帯電話のアプリケーションとして移植することを検討しているという。スマホ用のレンズアダプターと組み合わせることで、より身近で実用的なスクリーニングツールとなることが期待される。
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肺移植の拒絶反応を嗅ぎ分ける電子の鼻
肺移植患者では、約50%が移植5年以内に慢性的な拒絶反応や機能不全(CLAD: chronic lung allograft dysfunction)に至り、主要な死亡原因ともなる。また、免疫抑制剤の有効な調整、再移植の実施判断等には早期の機能不全予測と診断が重要となる。しかし現状でCLADの診断には、肺機能の低下を経時的に確認するため数ヶ月の観察期間を要することもあり、そのタイムラグはひとつの課題となっている。
欧州呼吸器学会(ERS)の国際会議において、オランダ・エラスムス大学医療センターのグループから「電子鼻(eNose)により肺移植患者のCLADを検出する研究」が発表されている(抄録番号OA2914)。同研究は91名の肺移植患者を対象として行われた。eNoseの基本原理は、呼気に1%ほど含まれる揮発性有機化合物(VOC)を検出するセンサーに基づき、VOCのパターンに対して機械学習アルゴリズムが肺疾患を特定するというもの。検証の結果、肺移植後の安定した患者とCLAD患者を87%の精度で識別することができた。
この研究成果は「肺移植におけるリアルタイムな拒絶反応検出に、eNoseとAI技術が有望」であることを示している。研究グループでは今後、拒絶反応の中でも病態が異なる閉塞性細気管支炎と拘束型移植片症候群を区別したいとする。さらには、急性拒絶反応や感染症など、他の肺移植合併症にも応用できるか調査範囲の拡大に取り組んでいる。
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COVID-19 – 人工呼吸器の必要性を予測するAIツール
ワクチン接種率の高まりに従って、米国ではCOVID-19による入院率低下と人工呼吸器の必要性減少が観察されていたが、デルタ株は再び一部地域で人工呼吸器の深刻な不足を引き起こしている。各医療機関において人工呼吸器の数には限りがある一方、COVID-19患者のうち、どの患者に人工呼吸器が必要になるかを早期に判断するための一貫した信頼できる方法はなかった。
米ケースウェスタンリザーブ大学の研究チームは、COVID-19患者が人工呼吸器による呼吸補助を必要とするかどうかを予測するAIツールを開発した。2020年にCOVID-19と診断された約900名の胸部CTスキャンデータからAIモデルはトレーニングされており、患者が人工呼吸器を必要とするかどうかを84%の精度で予測できるとする。研究成果は、IEEE Journal of Biomedical and Health Informaticsから公開されている。
研究チームは今回の成果に基づき、同大学病院およびLouis Stokes Cleveland VA Medical Centerにおいて、実際のCOVID-19患者を対象とした臨床評価を検討している。医療スタッフが胸部スキャンのデジタル画像をクラウドベース・アプリケーションにアップロードすることで、人工呼吸器の必要性を予測し結果を戻すAIシステムの構築に取り組んでいる。
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10分の動画で自閉スペクトラム症をスクリーニング
自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションなどに困難を伴う先天的な発達障害である。早期の療育プログラムが良好な結果をもたらすが、近年の報告では「70%以上のASD児が生後51ヶ月までの診断に至っていない」という。信頼できるバイオマーカーは確立されておらず、ASDの診断は行動症状を特定することに依存している。
スイス・ジュネーブ大学(UNIGE)の研究チームは、子どもが大人と遊んでいる様子を撮影したビデオから、5歳未満のASDを80.9%の精度で判別するAI解析手法を開発した。研究成果は学術誌 Scientific Reportsに発表されている。同研究では、人体の骨格を検出できるAIシステム「OpenPose」を利用し、ASD児に特徴的な非言語的行動(指差しや周囲への関心の持ち方など)を識別できるアルゴリズムを訓練した。遊びのシナリオは設定されておらず、10分程度の動画内容があればASDの初期評価を自動で行うことができる。
この自動ビデオ解析では、個人を識別可能な外観的特徴が取り除かれ、空間・時間・骨格に関連する情報のみを残すため、完全な匿名性が確保されることも大きな利点として挙げられている。また、接触型センサーはASD児の心の動きを乱す可能性があり、非接触かつ専門家の同席を必要としない本アプローチは診断上のメリットともなる。ASDの可能性を親が最初に心配してから診察を受けるまでに平均1年以上かかっているという調査結果もあり、場所・人を選ばないスマホ用AIアプリの開発をチームは目標としている。
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