年間アーカイブ 2021

どのCOVID患者をICUに入れるべきか – 一貫した判断を支えるAIシステム

カナダ・ウォータールー大学の研究者らが設立したスタートアップ「DarwinAI」は、バイタルサイン・血液検査結果・病歴など200以上の臨床変数に基づき、「集中治療室(ICU)入室の必要性」を予測するAIシステムを開発している。これは、ICUでの治療が必要な患者を効果的かつ効率的に特定することで、COVID-19パンデミック時において限られたリソースを最大限活用するための、医師による医学的判断に資する臨床支援システムとして期待を集めている。 同大学が6日明らかにしたところによると、このAIシステムの根幹となるニューラルネットワークは、ブラジル・サンパウロに所在するシリオ・リバネス病院において「COVID患者がICUに入室すべきかどうか」を医師が判断した400の事例データを用いて学習したという。既知の臨床変数から95%以上の精度での予測を実現する本システムは、特に説明力の高い変数を個別に提示することで、医師による医学的判断をより強固にすることができる。 チームは「本技術が医師に取って代わるものではなく、医師が迅速に、かつ多様なデータに基づいた適切な意思決定を行うことを支援する」点を強調しており、医療資源の活用を最適化し、治療を個別化するため、臨床医の専門知識を技術的に強化することを狙い続けるという。現在、この技術はCOVID-Netと呼ばれるオープンソースプロジェクトに取り込まれ、大規模な臨床意思決定支援システムの一翼を担っている。 関連記事: 小児入院患者に「ICUケアが必要となるか」を予測するAIモデル Mona – ICUケアのDXを目指すAIデバイス AI退院プログラムが空床調整を最適化 新型コロナとAI:医療AIで新型コロナウイルスに立ち向かう最新テクノロジーまとめ

RSNA 2021 – 放射線科におけるAI導入の現状と課題

第107回北米放射線学会(RSNA 2021)は、11月28日から12月2日までの5日間に渡って開催された。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い完全オンラインにて行われたが、本年はイリノイ州シカゴでの現地開催となり、業界を先駆ける新技術や最新研究成果の公表に大きく沸いた。このRSNA 2021のパネルセッションから「放射線科におけるAI導入の現状と課題」についてを取り上げ、ここで紹介したい。 アカデミアおよび産業界のオピニオンリーダー5名が、放射線科におけるAI導入の現状と課題、今後の採用戦略についてを議論した。ここで、シカゴ大学の放射線科教授であるPaul J. Chang氏は、AI導入の現状を「幻滅の谷」と表現している。Chang教授はGartner社のハイプ・サイクルの図を使って解説したが、これは「ハイプがエスカレートした後に幻滅が訪れる」というもの。企業やベンチャーキャピタルの資金は放射線科のAI技術に多量に注がれているが、実際のユーザーとなる医療機関での採用状況は最適とは言えない。Chang教授は「現状我々は、数百万ドルが投じられる様子を日々目の当たりにするが、これらAIシステムの大規模な採用はあまり進んでいない。人々はまだ、水に足を浸しているようなもので、あちこちで幾つかのアルゴリズムをテストしているだけだ」とし、AI導入を加速させるためには、放射線科のリーダーやその他の医療関係者が、「この技術が経済的にも意味のあるものであることを病院幹部に納得させる必要がある」ことを指摘する。 実際、Radiology Partners社の放射線科医でAssociate Chief Medical OfficerのNina Kottler氏は、自身のグループが開発した臨床ワークフローの改善アルゴリズムが、十分に大きな投資収益率(ROI)をもたらしたことを同セッション内で説明している。また、放射線科AIの導入について示唆的であったのは、エモリー大学の放射線科医で、AI研究者でもあるHarvi Trivedi氏のコメントだ。氏は主要な医療機関の意思決定者に対するインタビュー調査によって、明確に「組織がより多くの患者を獲得できるAIアプリケーション」が好まれており、これは「放射線科スタッフの業務効率を改善するアプリケーション」よりも魅力的な投資である、と捉えられていることを明らかにしている。このことは、例えば患者の多くにフォローアップイメージングを促すようなAIアプリケーションは臨床導入が加速し得ることを示唆する。さらに、AI技術の向上に伴い、現場は単一ソリューションを魅力的と感じなくなっていることにも言及し、今後さらなる統合システムの構築を検討する必要があるとしている。 放射線科は他科に先駆けてAI開発の進んだ領域として認知されるが、2021年現在でも有効なシステムの開発と普及には複数の壁があり、プロバイダーと規制当局、現場の模索は続いている。 関連記事: AIの存在は「医学生が放射線科医を志す」ことを妨げる AIによる放射線治療計画は臨床に受け入れられるか? 米国放射線科医の約30%がAIを使用 – 2020年ACR調査

シンガポールNUHS – AIシステムの臨床実装を急進

シンガポールにおける3つのナショナルヘルスクラスターの1つ、National University Health System(NUHS)はこのほど、政府が支援するNational Supercomputing Centre Singaporeと協力協定を締結し、2022年半ばまでに公的医療機関におけるAIプログラムを支援する「スーパーコンピューティング・インフラストラクチャ」を構築することを明らかにした。 NUHSが3日明らかにしたところによると、PRESCIENCEと呼ばれるスーパーコンピューティング・インフラストラクチャは、患者個々の病状変化を予測し、深刻な変化が起こり得る可能性を事前に医療者にアラートするAIモデルを構成する。NUHSの最高技術責任者であるNgiam Kee Yuan博士は「ビッグデータを使ってAIモデルを訓練するには通常数日かかるが、この新しいスーパーコンピュータを使えば、トレーニング時間を数時間に短縮できるとともに、医療スタッフやパラメディカルスタッフによる患者管理を最適化することで、本質的なケアの質を向上させることができる」と述べる。 NUHSは通信大手のSingtel社とも提携を公表しており、同機関内の手術室や病棟にマルチアクセスのエッジ・コンピューティング機能を備えた5G屋内ネットワークを展開するなど、AIを核とした医療のデジタルイノベーションを急速に推し進める。アジアにおける先進事例のひとつとして、今後の成果にも期待が大きい。 関連記事: 英NHSへのAIソリューション大規模実装に向けて 米マウントサイナイ医大 – AIヘルス学部を新たに創設 AIの存在は「医学生が放射線科医を志す」ことを妨げる 「da Vinci Research Kit」が工学研究にもたらした恩恵と今後への期待

ラジオミクスとAI – 大腸がん保存的治療への反応性

米国では2000年代の大腸内視鏡検査の普及に伴い、大腸がんによる死亡率は有意な減少をみた。一方で死亡者数の実数としては、未だ男女ともに高頻度ながん腫として知られている。米国がん協会の公表によると2021年には直腸がんの新規症例が4万5千件、結腸がんはその2倍以上になるとする。有効なスクリーニング手法・診断手法が確立される一方で、現在の主要な問題点は「どの大腸がん患者が化学療法や放射線療法に良好な反応を示すか」を明らかにする信頼性の高い手法が無いことにある。 保存的治療への反応性を高精度に予測できないことは、外科的手術を中心とする侵襲的治療を選択する可能性を高めるため、常に過剰治療のリスクを内包することとなる。米ケースウェスタンリザーブ大学の研究チームは「MRIスキャン画像から化学療法単独での治療反応性を評価するAIアルゴリズム」の構築を進めている。3日、同大が明らかにしたところによると、米国国防総省の「Congressionally Directed Medical Research Programs」から3年間で75万5,000ドル(約8500万円)の助成を受け、本技術の実用化を目指すという。研究チームは、同大学関連病院のほか、クリーブランドクリニック等の支援を受け、数千枚のデジタル画像から有効なモデルの構築と臨床評価を行う。 研究を率いる生物医工学のSatish Viswanath教授は「あまりに多くの症例で過剰治療が行われている」とした上で、不要な外科的手術は侵襲性の問題だけでなく、経済的負担や術後QOLの低下、感染症リスク、精神疾患リスクなど、多面的な悪影響を来す可能性を指摘する。AI技術の進展はラジオミクスの高度化を推し進め、多様な疾患群において価値ある成果を導いているが、近年では画像データに基づいて治療反応性を評するAIシステムについての研究成果が相次ぎ、精密医療の観点からも注目が大きい。 関連記事: MRIxAIによる「非侵襲的がん治療反応性評価」 がん細胞から治療反応を予測 クローン病の治療反応性を予測する機械学習モデル 肺がん免疫療法への治療反応性を予測するAIモデル 進行性メラノーマに対する免疫療法での治療反応を予測するAI研究

遺伝子情報から胸部大動脈瘤リスクを評価

胸部大動脈の肥大や動脈瘤は、動脈壁の膜がはがれる「大動脈解離」を引き起こし、突然死につながるリスクがある。大動脈の破綻前には患者自身に自覚症状のないことも多く、これまでは画像検査で計測される「大動脈の直径」によるリスク評価が試みられてきた。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究チームは「AI手法で大動脈径と関連する遺伝子変異情報を解析し、大動脈瘤リスクを推定する研究成果」を発表した。 MGHのプレスリリースでは、学術誌 Nature Geneticsに発表された研究成果を紹介している。本研究では、英国の長期大規模バイオバンク研究である「UK Biobank」から、約4万人に及ぶ対象者データを利用し、460万枚の胸部MRI画像から上行および下行大動脈の直径を評価するAIモデルの学習を行った。UK Biobankには大動脈径の測定値が提供されておらず、収集した全ての画像の大動脈径を読み取る大規模な処理としてディープラーニング手法を用いた。その後、対象者の遺伝子情報の解析により、上行大動脈の直径に関連する82の遺伝子領域と、下行大動脈の直径に関連する47の遺伝子領域を特定した。これらの結果から遺伝子変異を集約した「polygenic score(多遺伝子スコア)」を作成したところ、「スコアが高いほど大動脈瘤診断の可能性が高い」という有意な関連がみられた。 研究成果はリスクのある個人を特定するのみに留まらず、新たな予防法や治療法のターゲットとなる可能性がある。筆頭著者のJames Pirruccello氏は「特定した遺伝子変異は、大動脈瘤の新たな創薬標的をみつける出発点になるだろう」と語っている。ディープラーニングやその他の機械学習手法が、複雑な画像検査結果の科学的分析を加速させる裏付けとしても、本研究の価値は極めて高い。 関連記事: Deep Learningで脳動脈瘤の発見を手伝う – 米スタンフォード大 「HeadXNet」 経カテーテル大動脈弁置換術後のペースメーカー植込みを予測する機械学習アルゴリズム AIにより「遺伝子変異の病原性」を定量 3D画像処理のSimpleware – 心臓のセグメンテーション機能を実装

MRIxAIによる「非侵襲的がん治療反応性評価」

米マサチューセッツ総合病院の研究チームは、新規がん治療による「腫瘍細胞死の初期徴候」をMRIスキャンから捉える全く新しいAI手法を開発した。研究成果は、Nature Biomedical Engineering誌からこのほど公開されている。 チームの研究論文によると、これは脳腫瘍ウイルス療法の治療効果判定を狙ったものという。近年実用化された治療用ウイルスは、正常組織を残しながらがん細胞を選択的に死滅させることができ、悪性脳腫瘍の治療において大きな注目を集めている。一方、ウイルスを用いた治療法の最適化には、治療反応の高頻度な経時的モニタリングが必要となる。研究チームは、ディープラーニングによってMRI画像を定量することで複数の組織特性を明らかにし、ウイルス療法開始後48時間からモニタリング可能な、pHマップおよび分子マップの作成に成功した。新手法は非侵襲的検査としての優位性を持つほか、既存手法よりも早期の治療反応モニタリングを実現している。 著者らは「この非侵襲的モデルを用いてがん治療効果を評価することで、患者の転帰を大幅に改善するとともに、精密医療を加速させることができる」とした上で、同様の手法が脳卒中や肝疾患など、他疾患へも容易に拡張可能であることにも言及する。今回の研究ではマウスの脳腫瘍モデルを用いた検証を行っているが、研究チームは今後、実際の脳腫瘍および脳卒中患者を対象としたモデルの機能拡張を進めるとしている。 関連記事: がん細胞から治療反応を予測 唾液タンパク質データベースが個別化医療を変革する クローン病の治療反応性を予測する機械学習モデル がん治療を変革する「ネオアンチゲンの免疫反応予測AI」 neuroQWERTY – パーキンソン病をキーボードタイピングでモニタリング

韓国HoneyNaps社 – 不眠症デジタル治療プラットフォームを開始

韓国のヘルスケアスタートアップ「HoneyNaps」が開発した、詳細な睡眠ステータスを解析するポリソムノグラフィ用AI「SOMNUM」を以前に紹介した(過去記事)。同社は不眠症の解析・診断に加え、デジタル治療事業の開始を発表している。デジタル治療はソフトウェア医療機器(SaMD)によって、薬物療法など従来の治療法を代替あるいは補完することが期待される手法で、近年市場の成長が著しい。 HoneyNapsの1日付リリースによると、同社が開始したデジタル治療プラットフォームは、睡眠疾患診断AI「SOMNUM」、非接触型睡眠分析・コーチング「My SOMNUM」、不眠症デジタル治療薬「SOMNUM Medella」で構成されている。不眠症のデジタル治療は、認知行動療法をベースとして、薬物療法のみに依存しない不眠症治療を目指している。個人の睡眠データを正確に解析し、個別化された継続的なデジタル管理で行動変容を促すことで、睡眠障害からの回復効果を高めるという。 HoneyNapsの担当者によると、デジタル治療薬SOMNUM Medellaは、現在米国FDA承認による審査中であり、大手製薬会社とのライセンス契約や国際展開に向けた交渉を行っているとのこと。テクノロジーによる睡眠改善を狙う主要なプレイヤーとして、今後の動向には業界からの注目が集まっている。 関連記事: 韓国HoneyNaps社 – 睡眠ポリソムノグラフィ解析AI「SOMNUM」を発売 睡眠障害をAIで評価する時代へ Sweetch – AIによるデジタルコーチングプラットフォーム ヘルスケアのあり方を変革する「デジタル治療」とその課題 アクションゲームがADHD向けデジタル治療としてFDA認証を取得

AIバーチャルアシスタントによる地域ケア向上プログラム

テルアビブとニューヨークに本拠を置くヘルステック企業「MyndYou」について以前に紹介した(過去記事)。同社はAI搭載バーチャルケアアシスタント「MyEleanor」によって、患者の健康状態の変化を検知し、医療チームに問題を報告、受診予約を立てるなどの機能を独自プラットフォーム上で提供している。 MyndYouのリリースでは、同社とニューヨーク=ブロンクス拠点の医療機関 Essen Health Careとの提携による、「MyEleanor利用で患者とのつながりを強化するプログラム」を紹介している。Essenの救急医療センターを直近で受診した患者や、慢性疾患患者に対し、MyEleanorが電話連絡で情報収集を行うものである。Essenのスタッフのみでは困難な、時間当たり数百件、一日当たり数千件レベルの電話問い合わせのなかで、MyEleanorは患者の会話内容の変化を分析し、服薬不履行や転倒リスクといった健康問題の可能性を捕捉し、ケアチームに警告を発する。プログラム開始から数ヶ月の結果として、MyEleanorからのコールの12%が臨床的処置につながり、20%が診察予約に結びつき、5%が退院後プログラムに紹介され、12%が医療機器・消耗品の配送調整に至ったという。 Essen Health Careが展開するブロンクス地域では、患者の多くが経済的に恵まれない状況にあり、多数はスペイン語しか話せないなど、地域固有の背景もある。MyEleanorは英語とスペイン語の両方で通話を行うことができ、翻訳者の必要性も軽減したという。プログラムは「患者と医療従事者のコミュニケーションチャンネルをオープンにすること」を目標とし、コミュニティにおける効率的なケアを達成しようとしている。 関連記事: 高齢者サポートAIの「MyndYou」400万ドルの追加資金を調達 Hyro – バーチャルアシスタントによる「COVID-19ワクチンに関する問い合わせ対応」 Care Angel – 音声対応のバーチャル看護アシスタント HandsFree Health – バーチャルヘルスアシスタント「WellBe」を全米展開へ WHOにとって最初のバーチャルワーカー「Florence」

COVID-19のリアルタイムリスク評価アプリ

米ヒューストン大学の研究チームは、個人に対して「COVID-19の感染リスクを最小限とした行動」を促すための、リアルタイムな感染リスク評価システムを開発し、スマートフォンアプリとしての提供を開始した。 同大学が明らかにしたところによるとこのアプリは、目的地・移動手段・移動時間帯などの入力値に対して、COVID-19の感染リスクを最小とした上での移動経路等を提案することができる。システムは公共交通機関や食料品店、レストランなどの混雑状況などだけでなく、予防接種率や文化的要因(例えば、あるエリアでのフェイスカバー率、つまりマスクをしてもよいと思っている人の割合など)を考慮し、ユーザの希望に沿った最も安全な移動経路を提供するというもの。 これまでも、スマートフォンを利用したCOVID-19の追跡・接近情報の提供アプリは多数存在しているが、これらは大多数の住民がアプリを利用し、かつそのほとんどが必要な情報を提供した場合のみに効果を発するという限界があった。本アプリは既存システムの限界を排するのみならず、利用拡大はCOVID-19のさらなるパンデミック抑止に資する可能性があるとして、アプリの利用促進を求めている。 関連記事: 呼気から新型コロナウイルス感染を高精度識別 標準血液検査項目から驚異的精度でCOVID-19を識別 インフルエンザとの類似性からCOVID-19の広がりを予測 COVID-19の感染力増大を予測するAIツール WhatsAppのAIチャットボットによるドバイのコロナワクチン予約

疾患発症に伴う細胞変化を捉えるAI技術

米ジョージア医科大学の研究チームは、疾患発症によって「細胞がどのように変化するか」を迅速かつ客観的に把握できる新手法を開発した。研究成果はPatternsからこのほど公開され、新しい画像解析パイプラインの有効性について多大な期待が集まっている。 チームの研究論文によると、TDAExploreと呼ばれるAI駆動の画像解析手法では、顕微撮影された画像にトポロジーの概念を取り入れることで、疾患発症に伴う細胞内変化とその発現部位を正確に捉えることができるという。ここでは「特定タンパクの移動や密度変化」の捕捉を、「パッチ」と呼ばれる断片に分解して学習する「画像トポロジーデータ解析」によって実現している。また、著者らは「システムの有効性はその学習過程にある」とし、識別・分類などのタスクに対して必要となる学習データが従来の10分の1以下程度にも抑えられる可能性に言及する。 米国立衛生研究所(NIH)の支援を受けて行われた本研究は、論文上で独自アプローチの仔細が解説され、科学者らによる追試と適用拡大を促している。 論文: TDAExplore: Quantitative analysis of fluorescence microscopy images through topology-based machine learning 関連記事: 組織画像への仮想染色 fMRI画像から軽度認知障害を超高精度に分類 医療画像から人種を読み取るAI 新しい心臓画像診断「VNE」 – 造影剤不要の心筋評価へ 心臓画像評価を革新する「多視点三次元融合心エコーシステム」

「NVIDIA FLARE」オープンソース化 – フェデレーテッドラーニングの推進へ

NVIDIA社が積極推進する「Federated Learning(分散協働学習)」は、匿名性を維持しながら、分散した複数機関からのAI学習データの共有と単一モデルのトレーニングを行う手法として、本メディアでも複数回に渡って紹介してきた(過去記事)。 NVIDIAの29日付リリースでは、同社のフェデレーテッドラーニング用ソフトウェア開発キット「NVIDIA FLARE(Federated Learning Application Runtime Environment)」のオープンソース化を紹介している。NVIDIA FLAREは分散協働学習の基盤エンジンで、医療画像・遺伝子解析・がん・COVID-19研究などに関連したAIアプリケーションに使用されている。オープンソース化により、研究者・開発者らはツールの選択肢が増え、先端AI開発がさらに推進されることが期待される。また、オープンソース医用画像処理フレームワークMONAIなど、既存のAIプラットフォームとの統合も継続される。 ハーバード・メディカル・スクールの放射線科准教授Jayashree Kalapathy氏は「NVIDIA FLAREのオープンソース化は、患者プライバシーへの配慮からデータ共有が制限されてきたヘルスケア分野において重要な役割を果たすだろう。医用画像研究のフロンティアが押し広げられていくことに興奮を覚える」と語る。リリースに合わせNVIDIAは、11月28日から12月2日まで開催の北米放射線学会(RSNA 2021)で、同社のヘルスケアへの取り組みについて特別講演を行っている。 関連記事: NVIDIA Clara Federated Learning – 分散協働学習が生む新たな可能性 COVID-19の転機を予測するフェデレーテッドラーニング研究 NVIDIA A100がAWSに登場 – アクセラレーテッドコンピューティングの新たな10年へ NVIDIAとGSKのパートナーシップ –...

Subtle Medical – 医療画像AIについてバイエルとの提携を公表

AIによる医療画像検査の革新を狙う米Subtle Medicalはこのほど、同社のディープラーニング技術と関連研究について、ライフサイエンスのリーディングカンパニーであるバイエルとの提携を公表した。 Subtle Medicalが明らかにしたところによると両社は、Subtle MedicalのAIアルゴリズムであるSubtleGAD™について、造影MRI検査への適用で画質を向上させる可能性を共同して調査し、造影検査の新しい可能性を探るとしている。Subtle MedicalのAI技術は、造影検査における被曝の低減、検査時間の短縮、および取得画像の高品質化への貢献が期待されている。バイエルの放射線医学研究開発部門長であるOlaf Weber教授は、「バイエルでは医学知識の更新によって、医師や患者に最良の診断法・治療法を提供するための努力を続けている。最適な診断手段を医師に提供することを究極の目標とし、AIの力を活用するためにSubtle Medicalと協力できることを嬉しく思う」と述べる。 Subtle Medicalは、SubtlePET™やSubtleMR™など、医療用画像診断の質と効率を向上させる一連の深層学習ソリューションを提供している。これらは世界中のトップレベル医療機関に多数導入され、高い評価を受けてきた。また同社は、2020年の「CB Insights Top AI 100」および「Digital Health 150」に選出されるとともに、Nvidia Inception Awardの受賞企業としても知られる。 関連記事: AI技術でMRI検査のガドリニウム造影剤を10分の1に – Subtle Medical 新しい心臓画像診断「VNE」 – 造影剤不要の心筋評価へ GE...

仏Therapixel社「MammoScreen」 – 乳房トモシンセシスのAI画像診断に挑む

乳がん検出において、高濃度乳房(いわゆるデンスブレスト)ではマンモグラフィ検査の感度と特異度が低下することが課題となっている。デンスブレスト対して、複数方向からのX線撮影で3次元検索を行う「乳房トモシンセシス(3Dマンモグラフィ)」によって乳がん診断を補助する可能性が模索されている。 フランスのAIソフトウェア企業「Therapixel」の28日付リリースでは、同社の乳がん検診支援AI「MammoScreen」が、2021年初頭に得たマンモグラフィへのFDA承認に引き続き、トモシンセシス画像への適応で2度目のFDA 510(k)認可を受けたことを発表している。MammoScreenは、マンモグラフィやトモシンセシス画像中から「乳がんを疑う軟部組織病変や石灰化」を高精度に自動検出する。病変の悪性度は、独自スコアであるMammoScreen Scoreとして1〜10段階のスケールで評価される。 トモシンセシスはマンモグラフィよりも多数の画像を確認する必要性から、現場の読影医にとって時間と手間のかかる画像検査のひとつと言える。トモシンセシスが検診の効果として乳がんの死亡率低減に寄与するか、科学的エビデンスの集積が進む現在、AIソフトウェアによるワークフローの効率化もまた大きく期待されている。 関連記事: AidocがマンモAIを獲得へ マンモグラフィAI導入による成果 マンモグラフィ読影で放射線科医を超える市販AIシステムは存在するのか? 「MRI乳がん検診の偽陽性」を減らす予測モデル アジアの乳がん診断を革新できるか? – 韓国Lunit社のAI診断ソフト「INSIGHT MMG」

「臨床試験への参加が乏しい集団が存在すること」について

AIを含むデータサイエンス関連技術の向上は、多面的な医学の発展に大きく寄与していることは疑いの余地が無い。一方で、あらゆる新知見の根幹となる学習データに、「特定集団が系統的に含まれていない事実」は、度々研究コミュニティからの指摘と警告がなされてきた。 このほどCancer誌から公開された、カリフォルニア大学サンディエゴ校からの研究報告では、米国国立がん研究所(NCI)が主導する臨床試験データベースであるNCI Clinical Data Update Systemを用い、臨床試験の参加者属性を仔細に分析している。NCIは臨床試験における多様性向上のため、種々の取り組みを行っていることを明らかにしているが、2015-2019年における実際の参加状況では、黒人およびヒスパニック系の患者は乳がんの臨床試験に参加する割合が高い一方、大腸がん・肺がん・前立腺がんの臨床試験では「著しく」参加者が少なかったとする。また、65歳以上の患者は乳がん・大腸がん・肺がんの臨床試験に参加していない傾向を認め、女性は大腸がんと肺がんの臨床試験に取り込まれにくい事実も併せて明らかにしている。 研究チームは、過去との比較において「臨床試験参加におけるマジョリティとマイノリティの格差は縮小した」ことに言及する一方、「依然として十分な登録のみられない属性が領域ごとに存在しており、さらなる努力が必要」である点を強調する。学習データにおける特定集団データの取りこぼしは一般化可能性を制限するとともに、当該属性における結果の不安定性を惹起することが危惧され、常に学習データの妥当性は適切なモニタリングを受け続ける必要がある。 関連記事: AI意思決定の誤りを説明する研究 – 米テキサス大学アーリントン校 バイアスを含むAIが人類の希望となる可能性 人種バイアスは除去できるか? – 網膜血管から人種を識別するAI 医療画像から人種を読み取るAI

敗血症予測の適時性と精度を大幅に向上させるAI研究

敗血症は、感染症に伴う致命的な身体反応として、世界で年間3000万人の患者に対して600万人の死亡が報告されている。治療が1時間遅れる毎に死亡率は4〜8%上昇することから、敗血症のタイムリーで正確な予測は重要で、電子カルテデータからの予測分析が様々な形で臨床現場に導入されてきた。 カナダ・マックマスター大学のリリースでは、同大の研究者が参加した国際研究チームによる「敗血症予測の適時性と精度を大幅に向上させるAIアルゴリズム」が紹介されている。研究成果はScientific Reports誌に発表された。本研究で扱った「BiLSTM(Bidirectional Long Short-Term Memory)」と呼ばれるアルゴリズムには、4つの主要な変数、1.管理項目(ICU滞在時間や、入院からICU入室までの時間など)、2.バイタルサイン(心拍・酸素飽和度など)、3.個人属性(年齢・性別など)、4.検査データ(グルコース・クレアチニン・血小板など)といった項目が反映されている。BiLSTMが従来型の6つの機械学習アルゴリズムと比較して優れた精度を達成したことを確認したうえで、本研究がユニークなのは、できるだけ多くの過去のデータポイントを含むのではなく、直近のデータポイントに重点を多くことで、予測精度が有意に向上される可能性が示唆された点にある。 共著者でマックマスター大学の医療政策・経営学の助教Manaf Zargoush氏は「臨床医とデータサイエンティストにとって重要な問題は、AIアルゴリズムが正確な予測を行うために『どれだけ過去』のデータを必要とし、『どれだけ先』まで正確に敗血症を予測できるかということである」と語っている。「臨床医ができるだけ過去の多くのデータポイントを反映させたいのは十分理解できる」と前置きした上で、「敗血症の予測を正確かつタイムリーにするためには、『少ないながらもより最新』の患者データにもっと頼るべき」と考察している。 関連記事: AIは院内の敗血症を防ぐことができるか? SOFAスコアのAI自動抽出が臨床医の決断を助ける – AMI社「EMscribe」 造血幹細胞移植のレシピエントにおける「敗血症発生」を予測する機械学習モデル 著名な敗血症予測ツールの「精度が低いこと」を研究者らが指摘

散乱光で「隠れた物体を可視化」するホログラフィックカメラ

米イリノイ州に所在するノースウェスタン大学の研究チームは、合成波長ホログラフィ(SWH)と呼ばれる新技術を開発し、障害物のある領域であっても46マイクロ秒以下で対象空間を描写することを実現した。これは6x6cmのプローブを用い、「散乱光の戻り」をモニターするという仕組みを持つ。 Nature Communications誌にこのほど掲載されたチームの研究論文によると、この小さなプロービングエリア故に、内視鏡やキーホールによるイメージングに応用できるとしている。実際、新技術の持つ高い空間分解能によって、頭蓋骨を介した血管の非侵襲的イメージングの実現にまで言及している。また、経時的処理が容易であることから、胸部からの不整脈検出など、通常体表外から観察のできない臓器の「動き」を描写し、新しい疾患スクリーニングと評価を実現する可能性もある。 現時点でチームは可視光または赤外線を利用しているが、原理自体は非常に汎用性が高く、他の波長に拡張することも難しくない。したがって、同種の方法を電波に適用することでは、宇宙探査や水中音響イメージングに応用することもできると考えられ、活用範囲は医学を超えて広範なものとなることが期待されている。 関連記事: X線データから3D画像を再構築する深層学習技術 Nature論文 – 脳内手書きを高速にテキスト変換するBCI技術 米FDA – AI医療機器リストを公開 米英加による共同声明「医療AI使用における10の原則」 WHOの新指針 – 医療AIの倫理およびガバナンス

「AI OS」 – Aidoc社が提案する画像診断AI用オペレーティングシステム

医療画像AIをリードするAidoc社は、自社プラットフォーム上に複数の画像診断AIを組み込むことで、対応する領域を拡大してきた(過去記事1参照)。そのような技術統合の流れの一環として、同社は24日付リリースで「AI OS」と呼ばれるオペレーティングシステムを発表した。AI OSでは、統合された単一のシステム上で多数の画像診断AIアプリケーションが利用可能となり、システムを導入する各医療機関の利便性拡大を謳う。 米国における2020年の調査(過去記事2参照)では、調査対象医療機関のうち90%が何らかのAI利用戦略を開始しており、2019年調査の53%から大幅に上昇していることが示されていた。しかし実際のAI導入は全体の34%に留まり、導入の障壁として「新しいツールを取り入れるたびにITインフラを一新する必要性」を懸念する声が少なくなかった。 Aidocが提案するOSは、インフラを更新することなく継続的にAI機能を拡張していくことができ、これをプラットフォームの真の価値とする。今回のOSには、5つのサードパーティ企業(Imbio、Riverain、Icometrix、Subtle Medical、ScreenPoint Medical)からAIアプリが提供・統合されている。「iOS上におけるApp Store」のような強力な価値を提供できるか、今後の動向に注目していきたい。 関連記事: AidocがマンモAIを獲得へ 米主要病院の90%がAIソリューションを採用 Aidoc – 医療画像AIの導き手はイスラエルから

Fast Company – ヘルスケア・イノベーション企業トップ10

米国の月刊ビジネス誌「Fast Company」はこのほど、2021年を代表するテック企業として65社を選出した。このうち、ヘルスケア企業は10社が選定されており、その顔ぶれは興味深いものであった。 選考はFast Company誌のライター及びエディター14名で、取り扱う製品・サービスが既に市販化されているかに関わらず、「未来への可能性を重視した」としている。選出は以下の10社。 - Biospectal:スマートフォンカメラにより、指先から血圧を測定。 - Brightseed:植物に含まれる化合物から、医療応用の可能性を見出すAIプラットフォーム。 - Caption Health:AIガイド下超音波検査システム。(過去記事) - ClosedLoop AI:患者の健康状態を予測し、再入院を防ぐケアプランの作成を支援。 - MicrosoftおよびAdaptive Biotech:COVID-19に対する免疫反応のオープンソース・データベースである「ImmuneCODE」を構築し、既感染を検出するT細胞検査を開発。 - Outset Medical:自宅でも利用可能なコンパクト透析装置。 - Sherlock Biosciences:約1時間で結果が得られる、CRISPRベースのCOVID-19テスト。 - Synchron:脳波を利用した、コンピュータへの低侵襲な情報送信インターフェース。 - Tivic Health:三叉神経を刺激する携帯端末により、副鼻腔の痛みや圧迫感、鼻づまりを軽減。(過去記事) - TruTag:薬に印刷できる食用のマイクロバーコードを開発。スマートフォンアプリにより偽薬を識別できる。 関連記事: ヘルスケアを革新する5つのヘルステックスタートアップ メンタルヘルスケアにAIを用いるスタートアップ5選 Forbes AI 50...

小細胞肺がんの化学療法反応性をCTスキャンから予測

肺がんの種類を大きく二分する「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」において、AI研究は多数派の非小細胞肺がんに焦点が当たっている場合が多い。肺がん全体の約13%を占める小細胞がんは、より進行が速く転移しやすい傾向にあり、治療成績を改善するためにAI研究の拡充が期待されている。 米ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームで開発中の「治療の恩恵を受ける肺がん患者をCTスキャンから予測するAIモデル」について以前に紹介した(過去記事参照)。同チームは「小細胞肺がんにおける化学療法への反応と全生存率を予測するAIモデル」へと研究を進展させている。 本研究成果はFrontiers in Oncology誌に発表された。研究チームは、CTスキャンから化学療法に反応する小細胞肺がん患者の画像パターンを特定するAIモデルを構築し、その長期的な転帰との関連性についても調べた。小細胞肺がんの化学療法でスタンダードとされているプラチナ(白金)製剤ベースの治療に良く反応する患者では、腫瘍とその周辺領域における「テクスチャパターン」が異なることを本研究では明らかにしている。さらにAIモデルは、化学療法が効かず生存率が低い患者のスキャン画像にみられる「不均一性」についても示した。 小細胞肺がんでは、今後も化学療法が全身治療の骨幹となる状況が続くと考えられ、研究チームでは研究成果の価値を強調する。臨床的に有効な予測バイオマーカー確立のため、得られた成果を土台として、前向きの臨床試験が引き続き行われていく。 関連記事: がん免疫療法で恩恵を受ける患者をAIが予測 – 肺がんのテクスチャ変化をとらえるモデル 病理AIで非小細胞肺がんのネオアジュバント療法を評価 肺がん免疫療法への治療反応性を予測するAIモデル がん免疫療法の弊害を受ける患者をAIで予見できるか?

前立腺がん骨転移を予測するAI研究

前立腺がんは、骨に転移しやすいがん種のひとつで、最初の診断時から既に骨転移を来して発見される症例が後を絶たない。総体として予後が良好ながん種でありながら、転移症例のうち2割弱を占める骨転移患者では5年生存率が著しく低下し、疼痛や病的骨折によって生活の質が大きく損なわれる。それら臨床的背景から、骨転移は前立腺がんで重要な意味を持ち、そのリスクを高精度に予測することが、昨今のAI/機械学習領域に求められている。 中国・南昌大学の研究チームは、「前立腺がんの骨転移を予測する機械学習モデル」を開発し、Cancer Management and Research誌に成果を発表した。本研究では、米国国立がん研究所(NCI)のデータベース・Surveillance Epidemiology and End Results(SEER)から前立腺がん患者20万人以上を抽出し、代表的な6種の機械学習アルゴリズムで予測モデルを構築した。南昌大学第一附属医院の前立腺がん患者644名で各モデルは外部検証され、「XGB: eXtreme gradient boosting」が最も高い予測性能(AUC: 0.962、感度: 0.906、特異度: 0.879)を達成した。検証からは骨転移の主要な危険因子として、グリソンスコア・PSA値・T期・N期・年齢、が挙げられている。 前立腺がん骨転移を検出するスキャン検査は、疼痛など「骨関連の有害事象(SRE: skeletal-related events)」が起きた後に提案されるケースも実際の現場では珍しくない。どのような患者が積極的に骨スキャンを受けるべきか、そして、転移から症状出現まで数ヶ月という典型的なサイクルにどのように早期介入できるか、リスク判断の予測ツールは検査機会の適正化における拠り所となり得る。研究チームは機械学習モデルに基づき、医師や患者が容易に操作できるWebベースの予測ツールを開発することを目標にしている。 関連記事: 英NHSで検証が進む「前立腺がんMRI診断AI」 前立腺がん患者の精神的苦痛をソーシャルメディアから拾い上げるAI研究 米マウントサイナイ病院 – 前立腺がん手術後の再発予測にAIを活用 がん組織標本からリンパ節転移を予測するAI 「転移リスクの高いがん細胞特性」を視覚化するAI研究

AIによって血液疾患診断を改善

独ヘルムホルツ・ミュンヘンを中心とする研究グループは、AIによって顕微鏡下での骨髄細胞分析を自動化し、血液疾患の診断を改善することを目指している。研究グループは、骨髄細胞の顕微鏡画像に関する世界最大規模のオープンソース・データベースを構築しており、これを活用した「臨床実装を前提としたAIモデル開発」を進めている。 世界中の病理学者は日々、光学顕微鏡を用いた骨髄細胞サンプルの分析を繰り返し、人力による分類を続けている。主要な血液疾患の診断方法は150年以上前に確立されたものだが、非常に複雑で難解であるとともに、視野中に稀にしか存在しない「診断に重要な細胞」を見落とさず同定することは容易ではなかった。同社が明らかにしたところによると、17万枚以上に及ぶ単一の細胞画像から構成されるデータベースを用い、高精度な細胞分類を実現するディープニューラルネットワークを導出したとしている。 研究チームは最新論文の中で「我々の深層学習モデルはこれまでのアプローチを凌駕し、単一の骨髄細胞の分類問題に関する概念実証を達成した」とし、血液疾患診断の自動化に向けた第一歩となることを強調している。 関連記事: 大腸ポリープ病理評価AIシステムのパフォーマンス研究 前立腺がん病理診断支援AIの実用化に向けた研究 病理AIの飛躍へ – PathAIが大規模検査会社を買収 AI病理診断の雄「Ibex」 – 乳がん診断で欧州CEマーク取得 病理画像から腎臓の線維化を評価するAI研究

大腸ポリープ病理評価AIシステムのパフォーマンス研究

大腸がんは米国で年間53,000人以上の死亡者があり、がん死亡の第2位に記録される。しかし、大腸がんの死亡率は着実に低下してきており、その一因にはがん検診プログラムによって前がん病変のひとつ「大腸ポリープ」を検出し切除することが寄与してきたと考えられている。切除された大腸ポリープは、病理組織スライドでチェックされ、経過観察計画のため組織学的に分類される。大腸ポリープの評価においても、病理医間の診断のばらつきを低減し精度を向上させるため、AI拡張デジタルシステムが実用に近づいている。 米ダートマス大学ノリス・コットンがんセンターのリリースでは、同施設を中心に行われた研究「AI拡張デジタルシステムによる大腸ポリープの組織学的分類」を紹介している。JAMA Network Open誌に掲載された本研究は、15名の病理医による大腸ポリープ評価で、「顕微鏡評価」によるパフォーマンスと「AI拡張デジタルシステム使用」によるパフォーマンスが比較された。その結果、各病理医が100枚のスライドを評価する際に、大腸ポリープの分類精度が、顕微鏡単独評価の73.9%に対してAIシステム使用で80.8%に有意に向上していた。スライド1枚あたりの評価時間は、システムに不慣れなことから当初はAIシステム21.7秒、顕微鏡で13.0秒という差が生じたが、その差は経験を積むにつれて減少し、最後のスライド20枚で4.8秒の差にまで短縮した。 研究チームは「病理医が診断する際の精度・効率・一貫性を向上させるAIアプリケーション開発」を目指し、さらなる臨床試験に取り組んでいる。ツールの臨床現場への適用で、大腸ポリープ切除後の管理計画が適正化し、内視鏡検査の過剰と過小が是正され、患者の転帰改善と医療コスト削減へとつながっていく将来像が期待されている。 関連記事: 病理学におけるAI/機械学習の展望 病理AIの飛躍へ – PathAIが大規模検査会社を買収 Ibexの新たな資金調達 – 病理学AIの雄へ NEC – 大腸内視鏡画像から腫瘍性病変を識別するAIシステム HOYAグループ PENTAX Medical – ポリープ検出のリアルタイムAI支援内視鏡システム「DISCOVERY」

サノフィ – がん領域のAI開発に1億8000万ドルを投資

フランス・パリを本拠とする製薬企業であるサノフィはこのほど、がん治療領域におけるAI開発の促進を目指し、Owkinに対して総額1億8000万ドル(約205.5億円)のエクイティ投資を行うことを公表した。Owkinは厳格なプライバシー保護のもと、分散したデータセットを安全に接続し単一のAIモデルをトレーニングすることを可能とする、「フェデレーテッド・ラーニング」を採用したグローバルな研究ネットワークを構築している。 サノフィが明らかにしたところによると、新しい戦略的共同研究計画では、がん領域における4種類の開発プログラムで構成されているという。今後3年間のサノフィによる支払い額は9000万ドルとなり、これに研究マイルストーンに基づいた追加の支払いが予定される。OwkinはAIと精密医療を担う代表的な医療AIスタートアップで、クラス最高の予測モデルと堅牢なデータセットの構築によって領域をリードしてきた。 サノフィでバイスプレジデントを務めるArnaud Robert氏は「Owkinのアプローチはユニークで革新的なものだ。我々は精密医療を次のレベルに進め、患者にとって最大の利益をもたらす治療法を導くために努力する」と述べる。サノフィは今後、Owkinが提供する包括的なプラットフォームを活用し、マルチモーダルな患者データから新規バイオマーカーの探索、治療ターゲットの同定、予測モデル構築、治療反応性予測などを行う予定とのこと。 関連記事: デジタルリサーチプラットフォームのOwkin – 新たに1800万ドルの資金調達 乳がん再発リスク予測AIモデル – 欧州臨床腫瘍学会 ESMO 2021より 2021年最新「世界の有望AIスタートアップ Top 100」

インテル IoT プラネット – Healthcare Week

インテルによるバーチャル・イベント・スペースである「インテル IoT プラネット」内において、期間限定イベント「Healthcare Week」が開催される。「インテル IoT プラネット」は、広範に展開されるデジタルトランスフォーメーションを体感できるもので、エッジからクラウドまで最新IoT、AIソリューションがエリアごとに紹介され、業種に特化したリアルタイム・イベントも随時開催されている。 今回の「Healthcare Week」では基調講演として、デジタル庁・国民向けサービスグループ次長で内閣審議官の内山博之氏による「デジタル庁と医療健康情報」の他、特別講演に理化学研究所でデータサイエンティストを務める種石慶氏、株式会社シード・プランニングの主任研究員である荒川信行氏、和歌山県立医科大学附属病院・医療情報部で部長を務める西川彰則氏などを迎える。 開催期間は2021年11月19日(金)~11月26日(金)、オンラインセミナーは24日(水)および25日(木)となる。参加費は無料で、下記への事前登録によってイベントへの参加が可能となる。 事前登録(インテル IoT プラネット)   アジェンダ

DeepMReye – MRIで目の動きを読み取る新たなAI診断ツール

人が周辺環境を探索する際、連続した速い眼球運動で風景を読み込み、詳細な情報が必要な場面では一時的に目の動きを停止して特定の要素を確認する。それら目の動かし方と視線の固定という一連の行為は「viewing behaviour(視認行動)」としてまとめられる。パーキンソン病やアルツハイマー病などほぼ全ての認知障害・神経障害は、視認行動に影響を及ぼす。「目の動きと視線をMRIスキャンでアイトラッキングするツール」がノルウェー科学技術大学のシステム神経科学研究所(NTNU)で開発され、新たな診断手法の可能性を拓こうとしている。 NTNUのニュースリリースでは、nature neuroscience誌に報告された同ツール「DeepMReye」の研究成果を紹介している。DeepMReyeは長年に渡って集積されたMRIデータセットから構築されたAIモデルであり、被験者の視認行動に着目し、その共通パターンを認識することができる。MRIで眼球運動を解析することで、従来のカメラによるアイトラッキングでは対応不可能であった患者群、例えば目を閉じた睡眠中の状態、あるいは先天的に目が見えない人々などにも応用できる。 アイトラッキングという手法が認知機能障害や神経疾患を調べる重要な手段であることは、科学者・臨床医の間でも一定の合意を得ているが、実際的な普及には至ってない。DeepMReyeの研究チームのひとりMatthias Nau氏はその理由として「既存のカメラを用いたアイトラッキング手法は、非常に高価で、扱いが難しく、時間がかかりすぎる」としている。MRIという十分に普及した検査手法によってアイトラッキングする本研究のモデルには、追加のコストや特別なトレーニングを受けた人員を必要しないなど、多くのメリットが強調されている。誰もが簡単に使える「プラグアンドプレイ」を目指して、研究グループではツールをオープンソースとして利用可能にしており、使用する際の推奨事項やFAQを掲載したWEBサイトも公開しているため、参照いただきたい。 関連記事: 眼球運動の様子から理解力を予測する機械学習モデル fMRI画像から軽度認知障害を超高精度に分類 眼の動きから学習障害を識別するAIアルゴリズム

標準血液検査項目から驚異的精度でCOVID-19を識別

Biomedical Signal Processing and Control誌からオンライン公開された研究論文によると、深層学習モデルの学習によって、臨床ルーチンとして取られる標準的血液検査項目から「十分に臨床利用可能な水準での」COVID-19診断が実現された。 イラン・ウルミア大学コンピュータ工学部のSamin Babaei Rikan氏が率いた本研究では、7つの機械学習モデルと4つの深層学習モデルを用い、血液検査によるCOVID-19の診断を試みたという。結果、ディープニューラルネットワーク(DNN)モデルが最も安定した成果を上げており、3種類のデータセットにおけるDNNの精度はそれぞれ、92.11%、93.16%、93.33%といずれも高水準を維持していた。また、同モデルは感度(96.14%、93.27%、77.05%)と特異度(84.56%、93.02%、95.27%)も、3つの異なるデータセットに対して優れた成果を達成している。 著者らは「COVID-19の診断には現在、PCR検査・胸部X線・胸部CT等が用いられているが、いずれも理想的とはいえないだけの欠点を持つ」とした上で、「得られた結果から、本研究で提案したDNNモデルはこれまでに文献で紹介されたモデルの中で、最も正確で高速なモデルの1つであると言える。臨床医がCOVID-19を診断する際に役立つ自動化ツールとしての確立を目指す」と述べている。 関連記事: オックスフォード大学 – 一般血液検査とバイタルサインからCOVID-19を識別するAI 一般血液検査でCOVID-19感染の可能性を除外 – Biocogniv社「AI-COVID」 一般的な血液検査項目からCOVID-19陽性者を識別する機械学習モデル 新型コロナとAI:医療AIで新型コロナウイルスに立ち向かう最新テクノロジーまとめ

Cardiologs – Apple Watch心電図アルゴリズムを上回る心房性不整脈検出

不整脈検出は、最新のスマートウォッチ/ウェアラブルデバイスにとって標準機能となりつつある。AIとクラウド技術で心疾患診断に取り組む「Cardiologs社」は、脳卒中リスクに関連する心房性不整脈(AA: atrial arrhythmias)の検出において、同社のディープラーニングアルゴリズムがApple Watchの心電図アルゴリズムを上回る性能を示した、という臨床試験結果を公表した。 11月13日から15日にかけて開催されたアメリカ心臓協会(AHA)のScientific Sessions 2021で同研究成果は発表されている。フランス・パリの医療機関Institut Cardiovasculaire Paris-Sud(ICPS)の協力のもと、Cardiologsのディープニューラルネットワーク(DNN)を用いたAAの検出性能が、Apple Watchのオリジナル心電図アプリケーション(ECG 1.0 App)と比較評価された。その結果、CardiologsのDNNは、特異度を維持したまま感度を34%向上させ、分類不能な測定値を25%から1%に減らしたという。 スマートウォッチの記録からAAを検出するパフォーマンスが大幅に向上することで、従来の重要な懸念点であった「スマートウォッチ心電図の結果が決定的診断ではない」という課題が解消に向かう。研究を担当したICPSの心臓電気生理学者Laurent Fiorina氏は「結論の出ない結果に対し、医師が検討する時間を短縮する」と、より改良されたアルゴリズムの価値を述べた。Cardiologsの技術進歩はまさに、次世代のウェアラブルヘルス技術を切り拓こうとしている。 関連記事: Apple Heart Study と今後の課題 – The New England Journal of Medicine へ論文発表 ...

心電図と臨床スコアから心房細動リスクを捉えるAIシステム

米マサチューセッツ総合病院、マサチューセッツ工科大学ブロード研究所、ハーバード大学などの研究チームは、心電図画像および臨床的リスクスコアから「心房細動の発症リスクが高い患者」を高精度に特定するAIシステムを開発した。研究成果はCirculation誌からこのほど公開されており、予防的施策への多大な貢献が期待されている。 心房細動は不整脈の一種だが、血栓形成とそれに伴う脳卒中リスクのため、積極的な治療が必要となる循環器領域の重要疾患だ。本研究論文によると研究チームは、マサチューセッツ総合病院に受診歴のある45,770人の患者における12誘導心電図データをもとに、今後5年間の心房細動発症リスクを予測する畳み込みニューラルネットワークをトレーニングした。これを83,000人以上に及ぶテストセットで検証したところ、AI単独ではAUC 0.823、さらに臨床的リスクスコアであるCohorts for Heart and Aging in Genomic Epidemiology AF(CHARGE-AF)と組み合わせたところ、0.838までの向上を確認している。 研究チームは「AIを用いた12誘導心電図の解析は、心房細動の発生に対する臨床的リスク因子モデルと同様の予測有用性を有し、両アプローチは互いに補完的である」と結論付けており、本システムが将来の心房細動リスクを効率的に定量化できる可能性があるとして、研究の発展と臨床実装への期待を示している。 関連記事: 心電図から「心房細動と心原性脳梗塞の発症」を予測 凪いだ海から昨日の嵐を見分ける目 – 隠れた心房細動を識別するAI技術 「循環器AIは善か悪か」- 欧州心臓病学会での議論 WHOの新指針 – 医療AIの倫理およびガバナンス

イスラエル国内の尿路感染症治療精度を大きく向上させたAI

尿路感染症は女性が最も高頻度に経験する細菌感染症で、女性全体の約3割が一生に一度以上かかり、全体の1割が再発を経験するとされる。各国・各地域では、尿路感染症の治療ガイドラインに従って抗菌薬による治療が行われる。しかし、耐性菌の存在によって治療計画の変更が余儀なくされることも少なくない。テクニオン-イスラエル工科大学は、医療機関KSMと協力し「患者ごとに個別化された抗菌薬選定を行うAI」を開発し、尿路感染症の治療精度を高めようとしている。(同研究の2019年時点での成果は過去記事参照) テクニオン-イスラエル工科大学の15日付リリースでは、抗菌薬選定アルゴリズム導入以降、イスラエル国民健康保険における4大グループのひとつ、マッカビヘルスケアサービスにおける延べ数万件の尿路感染症治療で「耐性菌による抗菌薬切り替え事案が約35%減少した」ことを公表している。すなわちこれは、AIアルゴリズムによって「尿路感染症に対する抗菌薬選定の精度が大きく向上した」ことを意味する。このシステムは臨床ガイドラインのほか、患者の年齢・性別・妊娠歴・高齢者施設生活歴・尿路結石既往・抗菌薬投与歴などに基づいて、患者個々に最適の抗菌薬を提案する。 マッカビヘルスケアサービスで医療情報ディレクターを務めるShira Greenfield氏は「個別化された抗菌薬治療の意義は、耐性菌発現リスクを低下させることにある。これは全世界すべての医療機関が解決に向けて取り組んでいる問題だ」と語る。マッカビでは、尿路感染症での成功を受け、他感染症にも対応したさらなるシステム開発に着手しているとのこと。イスラエルにおける本事例は、個別化医療に関する重要なマイルストーンとしてヘルスケアの総体にとっても大きな意義を持つ。 関連記事: 抗菌薬の正しい使い方を教えてくれるAI – 尿路感染症治療は個別化の時代へ 耐性菌の迅速検査に向けたセンサー開発 抗菌薬は魔法の薬ではない – アフリカでの抗菌薬濫用を防ぐAIツール 「AI x バイオ」で医療を変革 – ネクスジェン株式会社代表インタビュー

メンタルヘルスへのチャットボット – 自殺リスク発言を遺書から学習

オーストラリアは国際的にも自殺率の高い国とされ、人口10万人当たり12〜13という死亡率で推移している。オーストラリアのe-Health Research Centreという研究機関では、自殺リスクのある発言を会話エージェント(チャットボット)がどのように扱うか、システムデザインに関する研究を行っている。日常のあらゆる場面にチャットボットが組み込まれていくなか、その開発者は人間のデリケートで複雑な発言を扱う課題に直面している。 Healthier Lives, Digitally Enabled誌に掲載された、同研究機関からの成果報告では、100通以上の遺書を解析し、自殺念慮を持つ人の文章にみられる4つの言語パターンを抽出した。1.抑圧的思考(「どちらか一方」「常に」「決して」「永遠に」「何もない」「完全に」「すべて」「唯一」)、2.論理的誤謬(非論理的で病的な推論、「すべてに失敗してきた。このようにすれば、私は成功できるだろう」)、3.言語イディオム(自殺を暗示するが婉曲的でチャットボットが正しく解釈できないフレーズ「私の魂に神の御慈悲がありますように」)4.否定的感情(「ただ、この重く、圧倒的な絶望」)、という4つに類型している。 自然言語処理技術の進歩によって、これらの自殺を連想する発言を正確に検出できれば、チャットボットはより繊細で配慮のある対応ができるようになる、と研究グループでは推察する。「言葉が現実世界の複雑なシナリオと関連していること」をどのように機械に理解させていくか、その研究領域には発展余地が大きい。 関連記事: Clairity – 音声から自殺リスクを推定するAIアプリ スマートスピーカーとの会話で自殺予防 メンタルヘルスへのAI活用 – 自殺予防ゲートキーパーを見つけるアルゴリズム 自殺リスクのリアルタイム予測モデルは臨床現場で性能を発揮するか?

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